人里の朝は、だいたい煙の匂いがする。
炊事の煙、焼き魚の煙、団子屋の甘い煙。
それらが混ざって、まだ冷たい朝の空気に溶けていく。
我は通りの端に立ち、その匂いを静かに吸い込んだ。
「いい匂いだね」
隣で神子様が言う。
「ええ。実に」
我も頷く。
人里の朝は、いつ来ても賑やかだ。
市場にはすでに人が集まり、野菜を並べる農家、桶を担ぐ男、走り回る子供の姿がある。
「人が多いですね」
我が言うと、
「里だからね」
神子様は軽くそう返し、そのまま歩き出した。
「今日は特に賑やかだな」
「市の日でしょうか」
「たぶん」
我も神子様の隣を歩く。
通りには屋台が並び、干物や野菜、草履や陶器が売られている。
どの店も声を張り上げ、客を呼び込んでいた。
「神子様」
我は少し声を潜めて言う。
「何?」
「見られております」
神子様は苦笑した。
「まあ、そりゃね」
神子様の服装は目立つ。
我の装束も、里の者たちから見れば相当珍しいものだろう。
子供が二人、こちらを指さしている。
「あれ、仙人?」
「違うよ、神様だよ」
「どっちでもいい」
神子様は笑った。
「失礼なガキだな」
「はは」
我も思わず笑う。
そのとき。
「おーい!」
通りの向こうから声がした。
団子屋の主人が手を振っている。
「神子さん!」
神子様は手を振り返した。
「お、久しぶり」
我と神子様はその屋台へ向かう。
屋台の前には湯気が立っている。
串に刺さった団子が、炭火の上でゆっくり焼かれていた。
「今日は早いね」
店主が言う。
「散歩」
神子様は気軽に答える。
「朝の里って好きなんだよ」
「へえ」
店主は団子をひっくり返した。
「じゃあ一本どうだい」
「もちろん」
神子様は即答した。
我は少しだけ身を乗り出す。
「我も……よろしいでしょうか」
「二本だな」
店主は笑った。
甘い味噌だれの香りがふわりと広がる。
神子様は団子を受け取ると、すぐに一口かじった。
「うん」
満足そうに頷く。
「やっぱこれだね」
我も団子を口にする。
「……美味でございます」
香ばしく、甘い。
素朴だが、実に良い味だ。
通りでは子供たちが走り回っている。
犬が吠え、行商人が値段を叫ぶ。
里の音は、途切れることがない。
神子様はその様子を眺めながら言った。
「さ」
「今日は何する?」
我は少し考えた。
人の里にはいろいろなものがある。
だが、以前から気になっていた場所が一つあった。
「そうですね……」
我は言う。
「寺子屋を見学してみたいです」
「寺子屋?」
「はい」
我は頷く。
「人の学びの場というもの、興味がございます」
神子様は少し笑った。
「いいね」
「じゃあ行こうか」
そのとき。
さっきの子供たちが、またこちらへ近づいてきた。
「ねえ!」
一人が言う。
「その帽子すごいね!」
神子様は帽子を押さえた。
「だろ?」
「触っていい?」
「ダメ」
子供たちは笑う。
我は少しかがみ、子供たちに言った。
「お前たち、学校には行くのか?」
「いくよー」
「先生こわいけど」
「字いっぱい書かされる」
神子様が笑う。
「大変だな」
「うん」
子供の一人が言った。
「でもさ」
「友だちいるから楽しいよ」
神子様は少しだけ目を細めた。
「……そっか」
我も静かに言う。
「それは良いことだな」
子供たちはまた笑いながら走っていった。
神子様は団子を食べ終え、串を返す。
「よし」
「寺子屋行こう」
我も頷く。
「はい、神子様」
我と神子様は通りを歩き出した。
朝の人里は、ますます賑やかになっていく。
笑い声、呼び声、鍋の音。
その中を、我らはのんびり歩いていった。
どうも、居酒屋の枝豆です。
いややっぱり、情景描写書いてる時が一番心が安らぎますね。
僕は田舎大好きなので、幻想郷ののどかな風景とか想像するのはめっちゃ好きです。
好きってだけで、うまいとは言ってないので。ね。
もしよければ、感想とか…ね、できればいいんで。してくれると嬉しいなあって。うん。
では、またどこかで。