お楽しみいただければ幸いです。
Life.1 俺、死にました
Life.1 俺、死にました。
ドガアァァァァァーーーーーーン!!
ゴオォォォォォォーーーーーーン!!
『バオォォォォォォーーーーーー!!!』
『ガオォォォォォォーーーーーー!!!』
天を裂くは金色の雷。地を蹂躙するは黒き波動。宇宙の終焉と評されても不自然さを感じない、凄まじい光景を眺める男は、圧倒的な存在を目の前に恐れも無くただただ面倒臭そうに嘆息する。
「いよいよだ。準備はいいか」
「……覚悟は出来てます」
後ろで迷いなく言い放つ少年に振り向き、その強い意志の籠った瞳を見据える。
「すまないな。せっかく鍛えた力も、これでおじゃんだ」
「そう言わないでください。どうせ、
「ああ、身体能力は確実に、そして格段に落ちる。鍛えなおす事は出来るだろうが、それでも十年以上はかかる。
「構いませんよ。いつかは戻れるんだ。それに、それで手に入る新しい力もあるんでしょう?」
「ああ、それにも修行は必要だがな。それじゃ、いくぞ」
「はい!」
『あれから、もう一年か。早いもんだな、相棒』
俺の頭にそんな声が響く。
俺は、兵藤一誠。両親、学校の奴らからはイッセーと呼ばれている。青春を謳歌する高校二年生だ。自分に正直に生きてきた結果、学校ではエロくて有名な生徒で、友人の松田、元浜と並んでエロ三人組で通っている。
そんなエッチな事に情熱を注いでいる俺にも、遂にわが世の春が来た。
「付き合って下さい」
美少女からそんな事を言われた時には、もう天にも昇らんばかりの思いだった。
名前は天野夕麻ちゃん。黒髪がツヤツヤでスレンダーな女の子。そんな美少女に「兵藤君! 好きです! 付き合って下さい」なんて言われて、彼女いない歴=年齢の男子高校生が断れる筈がない!
練りに練ったデートプランを元に、今日は思いっきり楽しんで、今は二人で手を繋いで歩いている所だ。夕麻ちゃんを待っている最中に「貴方の願いを叶えます」なんて書かれた怪しいビラを受け取ったけど、そんなのは些細なことだ。
『少し黙っててくれよ、ドライグ。いま一番いい所なんだから!』
俺の中から響くこの声の名前はドライグ。俺の中にいる
俺が黙るように言うと、ドライグは呆れたように溜息をついた。
『わかったわかった。もう何も言わん。それにしても、いい所というと、もしかしてもう本番まで済ませてしまうつもりか? 流石に手が速いな』
『ば、おま…そんな事するわけないだろう! そういうことはだな、もっと段階をちゃんと踏んで、時間をかけてお互いの関係を深めてからするべきなんだよ! 今日は初めてのデートだから、そこまでするわけないだろ!』
『はあ…好きにしろ』
ようやくドライグが静かになると、町はずれの公園に到着した。既に空は夕焼けでオレンジ色に染まり、夕日に照らされた公園はとてもドラマチックな雰囲気に包まれている。
「今日は楽しかったね。…ねえ、イッセーくん」
「なんだい、夕麻ちゃん」
「私達の記念すべき初デートってことで、一つ私のお願いを聞いてくれない?」
この流れ! これはアレか? アレ以外にはありえないよな!?
「な、何かな、お、お願いって」
ヤバイ、興奮して声が上ずってる。これじゃ馬鹿な妄想してるのがダダ漏れだ!
しかし夕麻ちゃんは俺に微笑みながら、はっきりと俺に言った。
「死んでくれないかな」
…………。
……は?
「……え? それって、ごめん。お、俺の聞き間違いかな。もう一回言ってくれるかい?」
嫌な予感はどんどん膨らんでいた。それでも信じたい。しかし、彼女は
「死んでくれないかな」
もう一度、はっきりと告げてきた。そして、夕麻ちゃんの背中から一対の黒い翼が生えて、バサバサッと羽ばたきする。目の前の現実に、頭が付いていけない。受け入れる事を心が拒否している。
でも、俺が受け入れ難いのは夕麻ちゃんの背中の翼に対してじゃない。
彼女のかわいらしい目から一転した、あの冷たい目だ。
「楽しかったわ。貴方と過ごしたわずかな日々。初々しい子供のままごとに付き合えた感じだった」
夕麻ちゃんの声はとても冷たい。大人っぽい妖艶な声音と共に、口には冷笑を浮かべている。
ブゥン。
機械の起動音よりも重い音が空気を揺らす。耳鳴りに等しい音と共に、彼女の手には光で出来た槍が握られていた。光る凶器と、さっきの彼女の言葉、そして、久々に感じる本気の殺気。
どんなに拒否しても繋がってしまう一本線を頭が理解した時、俺は反射的に両手をうちならし、そのまま地面に手を当てて、彼女と自分の間に一枚の壁を造り出す。
ヒュッ
風きり音が鳴ったのは、その直後。
ドガ!
目の前の壁を貫いて、俺の額ギリギリの所で槍が止まる。手を地面に当てる為に屈んでいたので、立ったままなら恐らくは腹のあたりだっただろう。すぐに槍は消えて、ポッカリと空いた穴から驚く夕麻ちゃんの顔が見える。
「な! 魔法ですって!? 貴方はただの人間の筈じゃ…」
夕麻ちゃんがなにか言っているが、狩人が焦っているというのは獲物にとってはこの上ない好機。再び両手を打ち、地面に手を当てると、地面を分解して大量の砂埃を巻き上げる。そして、すぐに後ろへ走りだして携帯を取り出し、しかるべき所へ電話をかける。
『逃げるのか、相棒!? あいつは堕天使だ、しかも相棒の事はかなり知られてる! この場で始末しなければ面倒な事に……』
ドライグが言う事も最もだが、俺は……。
「それは分かってる。でも、そこら辺に仲間がいるかも知れない。それに、相手の強さがどれくらいかも分からない状況で、無茶をする必要がないんなら確実性を取るべきだ。まずは神さんと連絡をとる、それが第一だ!」
確かに合理的な判断だが、逃げる事を最優先で選んだ理由は別にある。
さっきまで、本気で好きだった女の子に殺意を向けられた。その事実に耐えられなくて。彼女の顔を正面から見る事が出来なくて、俺は逃げたんだ。
土埃の中、必死で足を動かし、公園の出口へと向かう。だが、何かを直観で感じ取り、咄嗟に後ろへ飛び退く。
ヒュッ、ドンドンドン!!
三本の光の槍が目の前に突き刺さり、その衝撃で俺の周りの土煙が晴れる。
後ろを振り向けば……
ぞっとするような笑みを浮かべて、槍を投げつける夕麻ちゃんが居た。
そして、鈍い音がする。
ドン!
衝撃を感じて体を見下ろすと、俺の腹を光の槍が、さっきの壁の様に貫いていた。
槍はすぐに消えて、残されたのはポッカリと空いた俺の腹。栓を無くし、ダラダラと噴き出す血。
頭がクラクラし、視界がボヤける。踏ん張ろうにも力が入らず、そのまま倒れてしまった。携帯を握りしめるが、それを耳元まで動かす事も出来ない。
ツカツカと倒れた俺に近づく足音。
耳に届く微かな声。間違いなく夕麻ちゃんだ。
「ゴメンね。あなたが私達にとって危険因子だったから、早めに始末させてもらったわ。恨むなら、その身に
……神器。そうか。それが狙いだったのか。その為に……それを持つ俺を殺す為に…その為だけに…俺と付き合ったのか? 夕麻ちゃん。
問いただそうにも、口からは声の代わりに血反吐が溢れ、その間に彼女の足音が遠ざかる。
ポッカリと穴が開いた腹から血が出ていく度に、比例して俺の意識も遠のいていく。
『相棒……相………しっか…………………』
ドライグの声も、まともに聞こえなくなってきた。
ヤバい、本気でヤバい。このまま襲ってくる睡魔に身をゆだねてしまいたいが、そうすれば確実に永眠してしまう。
ちくしょう……。高校二年生で死ぬのかよ。まだ人生の半分も生きてねえよ!
こんないきなり襲われて死ぬとか、情けないにも程があるぞ! 色々仕込んでくれた神さんに顔向けできねぇ!
くっ……そんな事を考えている間にも意識はどんどん薄れていく。
うおぉぉ、無念だ。―――童貞のまま死ぬとは!
俺、何のために生まれてきたんだ……。
……死ぬ直前に考える事がそれか、俺よ。もっとあるだろ! 友達の事とか、家族の事とか! って、自分で自分に突っ込んでどうするんだ。もうかなり訳が分からなくなってる。
手は……何とかまだ動く。いつの間にか繋がっていた携帯に耳を近づけると、神さんの声がした。
「お……………っぱ……………い………すき……か…」
実際にはちゃんと喋ってるんだろうけど、意識と共に耳も遠くなっている今の俺には、これだけしか聞こえない。
「はい………おっぱいは…大好きです…」
そこで、電池切れを起こした。ああ、充電ちゃんとしなきゃ……。
もう片方の手で腹をさすり、目の前まで動かすと、紅い。手のひら全体に、紅い俺の血がべっとりだった。
そのとき、俺は思い出した。
今際のきわ、俺が想い浮かべていたのは一人の女の子だった。
紅い髪をしたあの美人。学校で見かけるたびにあの紅い髪が鮮烈に目に焼きついた。
……どうせ死ぬなら、あんな美少女の腕の中で死にたいと思ってしまう、そんな美しさをもった人。
浮気性だな、俺。だから夕麻ちゃんにも殺されんのかな。
ああ、夕麻ちゃんのおっぱいぐらい揉んで死にたかったなぁ……。
ははっ、こんな時でもエロが最優先か……。ある意味凄いな。
神さん、ゴメン。また強くしてくれるって言ってくれたのに、こんなあっさり、間抜けに死んで……。
ドライグ、次はもっと強い宿主に憑けよ。歴代最弱ですまなかった。
俺の中にいる『二体』。俺が弱いばっかりに、道連れにしてゴメンな。
いよいよ視界がボヤけてきた。
神さんのおかげで、色々学べて、それなりに面白い人生だった。もっと、楽しみたかったな……。
「あなたね、私を呼んだのは」
突然、俺の視界に誰かが映り込み、声をかけてくる。
目がボヤけてしまっているせいで、誰かは分からない。
「死にそうね。傷は……へぇ、面白いことになっているじゃないの。そう、あなたがねぇ……。本当に面白いわ」
クスクスと心の底から愉快そうな含み笑いが聞こえてくる。
「どうせ死ぬなら、私が拾ってあげるわ。あなたの命。私の為に生きなさい」
意識が途絶える寸前、俺の視界に、鮮やかな紅い髪が映り込んだ。
いかがでしょうか?
今後ともお付き合いいただければ幸いです。