ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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Life.12 アーシア、救えました。

 レイナーレが消し飛んだ後、緑色の光が宙に浮かび、ゆっくりと部長の手元に落ちてきた。部長はそれを俺に手渡すと、緑色の光が指輪を形どる。

 

 部長を見ると、部長は小さくこくりと頷いてくれた。

 

 俺は壊滅しきった教会の、奇跡的に無事な一角の長椅子の上に横たわる、アーシアの元へ寄ると、冷たくなったその手をとって、指輪をはめた。

 

「部長、すみません……あんだけ言っておきながら……俺は……」

 

 アーシアを、救えなかった。

 

 守ると誓ったのに。

 

 救うと決めたのに。

 

 友達になったのに……。

 

 不甲斐ない自分に、また涙がこぼれる。眷属になってから、我ながらよく泣く。

 

「泣くことはないわ。あなたは、悪魔としての経験が足りなかっただけ。誰もあなたを咎めたりはしないわ」

「でもっ……でも、オレぇ……」

 

 誰が許しても、俺が許せない。どんなに無様でも、頬を伝う涙は途切れない。

 アーシアを救うという目的を果たせなかった。その事実が、どうしようもなくのしかかる。

 

「イッセー、これは何だと思う?」

 

 その部長の声に振り向くと、部長が手に何かを持っていた。涙でぼやける視界を袖でぬぐって、よく目を凝らす。

 

「チェスの、駒?」

 

 部長の髪と同じ色合いの、紅いチェスの駒だ。

 

「正しくは、僧侶(ビショップ)の駒よ。僧侶の特性は、眷属の悪魔をフォローすること。この子の回復能力は、僧侶として使えるわ」

「部長……まさか」

「前代未聞だけど、このシスターを悪魔へ転生させてみる」

 

 

 

 床へ横たえたアーシアの体の下に、魔方陣が展開される。そこへ部長が、魔力を注ぎ、呪文を唱える。

 

「我、リアス・グレモリーの名において命ず。汝、アーシア・アルジェントよ。いま再びこの地に魂を帰還せしめ、我が下僕悪魔と成れ。汝、我が僧侶として、新たな生に歓喜せよ!」

 

 詠唱が終わり、魔方陣が消えると、僧侶の駒がアーシアの中へ溶け込むように入っていった。そして、アーシアにつけた指輪が緑色の光になって、駒と同じようにアーシアの中へ入っていった。

 

 ピクリ。

 

 僅かに体が動いた。次に目蓋がゆっくりと持ち上がり、あの綺麗な、翡翠色の瞳が現れた。

 

「――――んぅ……アレ?」

 

 アーシアが、ゆっくりと起き上がる。

 

「アーシア……部長!」

 

 俺が言わんとすることを、聞く気はないと言わんばかりに、部長は背を向けた。

 

「私は悪魔をも回復させる、その力がほしかったから転生させただけ……後はあなたが守ってあげなさい。先輩悪魔なんだから」

 

 部長の言葉に、俺はまた涙を溢れさせた。でも、さっきの後悔と自責の涙とは違う。これは感謝と、喚起の涙だ。

 

 ああ、俺は……この人の眷属になってよかった。

 

「……イッセーさん?」

 

 事情をうまく飲み込めていない様子のアーシアが、俺の名前を呼ぶ。

 俺の名前を、呼んでくれているんだ。

 

 俺は、思いっきりアーシアを抱きしめた。

 暖かい。鼓動がはっきりと伝わってくる。間違いなく、彼女は生きている。

 

「……帰ろう、アーシア」

 

 

 

『オキナイト ダメダゼ キアイヲイレロ!』

 

 ……今日はボーイッシュ少女ボイスか。毎度毎度、どういう選出なんだ。

 神さんからもらったこの目覚まし。異様なほどすっきり起きれるんだけど、今まで聞いてきた感じ、少なくとも五百種類は超えてるんだよな……。まさか知らない間に増えてるんじゃ……。

 

 って、そんなことよりも、今日は早めに部室に行かないと!

 急いで跳ね起きて、ババッと着替えて制服に袖を通して、部屋を飛び出した。

 

 

 

「おはようございま~す」

 

 挨拶しながら部室の扉を開けると、部長がソファーに腰掛けながら、優雅に紅茶を飲んでいた。

 

「あら、おはよう。ちゃんときたのね。傷の具合はどう?」

「はい、アーシアのおかげで完治しました」

「そう、さっそく僧侶として活躍してくれたみたいね。あの子の回復能力は、やっぱり凄いわ。堕天使が上に黙ってまでほしがったのも頷けるくらい」

 

 今日は朝から集まりがあるといわれていたんで、まだ学校が始まる前に来た。

 それはそれとして、別に聞きたいことがあったんで、部長の向かいに座る。

 

「部長、あの……悪魔の駒(イーヴィル・ピース)って、実際のチェスの駒と同じ数だけあるんですよね?」

「ええ」

「じゃあ、俺と同じ兵士(ポーン)が、今後あと七人は増えるんですよね?」

 

 ただでさえ、木場やら小猫ちゃんやら朱乃さんやら、とんでもない実力者ぞろいの面々。そこに回復のスペシャリストのアーシアまで加わって、これ以上強いやつが増えると、俺の立場がなくなるよな……。

 

 おいていかれないよう、必死で追いつかないとな。

 なんて考えていると、部長はカップを置いてから、一言。

 

「私の兵士はイッセーだけよ」

 

 ……え?

 あ、あの……それって、どういう……。

 ま、まさか告h……いやいや! それはないって!

 

 慌てふためく俺を尻目に、部長は立ち上がって俺の後ろへ歩いてきて、そっと俺の胸の前に両腕を回して、腕を組んだ。無論、豊かなお胸様の感触もばっちり……、

 

 うああぁぁ……こ、これはもしかしてもしかするのか!?

 

「人間を悪魔へ転生させるとき、転生者の能力次第で消費する駒の数が変わるのよ」

 

 ……いや、どうやらそういう感じじゃない。まあ、わかってたけどさ。

 

 それに、部長の胸の感触は健在だから、ほとんど悔しくなんてない! むしろうれしい! って、駒の消費?

 

「あの公園の時点で、私の駒は騎士(ナイト)戦車(ルーク)僧侶(ビショップ)がひとつずつと、兵士が八つだったわ。その中で、イッセーと一番相性がよかったのが兵士の駒。しかも、それを八つ消費しないと、あなたを転生させられなかったの」

「お、俺一人で、駒八つ!?」

 

 凄え……赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)には、そこまでの価値があるのか。流石は神滅具(ロンギヌス)ってところか。

 俺だけだったら、一つ分の価値もあるか怪しいってのに……。

 

「それがわかったとき、絶対にあなたを眷属にしようと思ったの。そして、あなたは最高だったわ」

 

 白魚のような美しい指が、俺の頬を優しく撫でる。

 

「『紅髪(べにがみ)滅殺姫(ルイン・プリンセス)』と、『赤龍帝の篭手』。紅と赤で、相性バッチリね。イッセー、最強の兵士を目指しなさい。あなたならできるわ。だって、私のかわいい下僕なんだもの」

 

 ――最強。男なら、誰であれ心惹かれるフレーズ。

 

 最強の兵士……いい響きだ!

 

 などと考えていると、部長の顔が近くにあった。

 次の瞬間、額にやわらかい感触が……。

 

「これはお呪い。強くおなりなさい」

 

 もしかしなくても、額にキス。

 

 ―――……う、うう、うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!

 

 

 キス! Kiss! 接吻! 口付けだよ!

 

 あああああ! 凄い感触だった! 柔らかい弾力が肌に触れて、それで……。

 

 頬でも唇でもなかったけど、女の子のほうからなに言わずに初めて、キスして貰えた!!

 

 部長! 俺がんばります! どんなに弱くたって、強くなって見せます!!

 

「と、あなたを可愛がるのはここまでにしないとね。新人の子に嫉妬されてしまうかもしれないわ」

 

 嫉妬? 新人って……。

 

「イ、イッセーさん……」

 

 少し低めの声に、立ち上がりながら振り向けば、アーシアが笑みを引きつらせていた。

 

「ア、アーシア?」

 

 なんだこの感じ? なんで怒ってるの? エッチなのはよろしくないんでしょうか?

 

「そ、そうですよね……リアスさんは……いえ、リアス部長はお綺麗ですから……それはイッセーさんも好きになってしまいますよね……いえ、ダメダメ! こんなことを思ってはいけません! ああ、主よ、私の罪深い心をどうかお許し、ああうッ!!」

 

 たった数秒間に物凄く可愛く動いたかと思えば、突然頭を抑えて蹲ったアーシア。いや、マジで可愛すぎだって。って、それどころじゃないか!

 

「アーシア、大丈夫か!? どうしたんだ!」

「急に、頭痛が……」

「当たり前よ、あなたは悪魔になったのよ? 悪魔が神に祈れば、ダメージくらい受けるわ」

 

 あきれたように部長が呟く。

 

「うぅ、そうでした。私、悪魔になっちゃったんでした」

 

 アーシアは頭を離して立ち上がると、複雑そうな表情でそう言う。

 

「後悔してる?」

 

 そう部長に訊かれると、アーシアは表情を一変させて、首を横に振る。

 

「いいえ、ありがとうございます。どんな形でも、イッセーさんと一緒にいられて、幸せです」

 

 ―――。

 な、なんと言えばいいのか……とりあえず、猛烈にうれしいのは確かなんだけど、それ以上にこっぱずかしいっつーか……ねえ?

 

「あ、あはは……そ、それより、その格好……」

 

 ここまできて、俺はようやくアーシアの服装に眼がいった。

 駒王学園の女子の制服。これを着てるってことは……。

 

「似合いますか?」

 

 これまた可愛くはにかむアーシアに軽く笑いかけて、部長を見ると、部長は立派なお胸様を張って、あっさり答えた。

 

「私の父が、この学園の経営にかかわっているのよ。これくらい、造作もないわ。イッセーが頼み込むまでもないわよ」

 

 知らなかった……この学園って、そこまで悪魔との関わりが深かったんだ。

 ていうか、やっぱり教会のアレ、聞かれてたんですね。

 

「アーシアはあなたと同い年らしいから、同じ二年生ね。クラスもあなたのところにしたわ。今日は転校初日ということになっているから、フォローよろしくね」

 

 部長……数々のご好意、重ね重ね感謝します!

 

「よろしくお願いします、イッセーさん」

 

 礼儀正しく、ぺこりと頭を下げるアーシア。

 

「ああ、よろしく。あとで、俺の友達二人も紹介するから」

 

 松田も元浜も、俺がアーシアを紹介したらどんな反応を見せるかは簡単に予想できる。悔しがるあいつらの顔を想像するだけで、しばらくは笑いとおせそうだ。

 

「おはよう、イッセー君」

「……おはようございます、イッセー先輩」

「ごきげんよう、イッセー君」

 

 ドアを開けて現れたのは、木場、小猫ちゃん、朱乃さんだ。

 二人に挨拶をしないところをみると、もう先に済ませたんだろう。俺がビリってわけか。

 

 朝にも多少は慣れてきたって言っても、悪魔の先輩のみんなに比べれば、まだまだだな。たかが朝の集会程度って思うけど、こういうのは下っ端こそ一番に来ないとだし。追いつけるようにがんばらないと。

 

 最強の兵士になるためにも、な!

 

「さて、全員そろったところで、そろそろ新人の歓迎パーティーを始めましょう」

 

 といって、部長が指をパチンとならすと、テーブルにケーキが出現した。魔力かぁ……そのうち俺も、こんなことができるようになるかな? ケーキ崩す心配をせずにすむから、結構真剣にいいかもしれない、コレ。

 

「イッセー」

「え?」

 

 ケーキに見とれている俺に、部長が微笑みかけて。

 

「あなたは最高だったわ」

 

 最高の、ほめ言葉をくれた。

 

「……ハイ!」

 

 強くなります。なって見せます。

 前よりも強く、誰よりも強く、あなたが誇れるくらいに強く。

 それが、俺の新しい目標です!

 

 

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