師匠に連れられて、更に山奥へ進むこと十分ほど。ある程度開けた場所に出ると、師匠は周りをキョロキョロと見回して、手をかざす。
手のひらから出現した魔法陣が空へ飛んでいくと、上空で大きく展開し、強い光を放つ。
眩しさに目を覆い、次に開いたそこは……
傍目には何も変わってなかった。でも、それで問題ない。
今、神さんがやったのは『
現実の空間を写真のように魔法陣に記録させ、そっくり同じ空間を次元の狭間に展開させるというものだ。
……中々にとんでもないことのはずなんだけど、このくらいで驚いてたら心臓がいくつあっても足りないので、もう慣れた。
「さて、イッセー。準備も出来たし、まず最初に……」
お、来るか。
「この『世界の巨乳のスキマ』を渡しておこう」
って、いきなりそれですか!? まあ、ありがたく戴きますがね!
「ありがとうございます!」
「ダメもとで香霖堂行ったらあったんだよ、それが。霖之助は拾った覚えもないし、興味もないしでタダでいいから誰かに見つかって面倒になる前に持っていってくれって言われた」
香霖堂、相変わらず予測不可能な品揃えだな……霖之助さんのほうも相変わらずみたいだし。こんなお宝本に無反応どころか、厄介事の種としかみないだなんて! まあ、らしいっちゃそうだけど。
幻想郷か……もう大分行ってないよな。力が落ちてからだから、一年ちょいか。悪魔になったっていったら、こぁとかどんな反応するかな。博麗神社とか、命蓮寺とかに入れるのかな。でも、妖怪や吸血鬼が出入りしてるんだし、幻想郷なら大丈夫なのか?
まあ、まだ当分はいけないだろうけどな。
「じゃあ、本題に入るぞ。イッセー」
「はい」
神さんが真面目な表情になった。
紫色のポニーテール。長身ながらもがっしりとした体型。全身からうっすらと放たれるオーラ。男にしろ女にしろ、絶世の美形とたたえられる程整った顔。外見だけでも十分に風格があるのに、これで中身もしっかりと入ってるんだから、凄いよな。俺の師匠。
「あ、その前に『世界の巨乳のスキマ』は預かっておこう。これから結構激しい修行をするしな。俺も見たいし」
なんか最後に本音がでましたよ!?
そう、中身はしっかりしてるといったけど、この人は変な部分まで徹底的にしっかりしているのだ。
俺にエロを芽生えさせてくれたのが紙芝居屋のおっちゃんなら、神さんは俺のエロを育て、磨き上げてくれた人だ。俺たちはありとあらゆる面で師弟なのさ!
本を手渡すと、神さんはそれを丁寧にしまってから二本の指を立てて、チョキを作った。
「まず、残り八日間という短期間でお前を強くする方法は二つある。一つは、悪魔になった点を活かすために新たな技を体得すること。もう一つは……いや、やはりこれはやめておこう。得られるものが少ないうえに、取り返しのつかない代償を払うことになりかねん」
いきなり物騒な話になった。いつものことだけど。けど、神さんが躊躇するほどのことって、いったいなんだろう?
「とにかく、そうなると残ったもう一つを選択せざるを得ない。とはいえ、俺としてはこっちの方法のほうがいいとは思っているけどな。じゃあ、準備を始めるぞ。俺の言ったとおりに魔法陣を描け」
「はい」
それから、神さんの指示通り、魔法陣を描く作業に没頭する。
屈んで複雑な文字を描いていると、神さんが横に来て、手を止めずに顔をこっちに向けてきた。
本当に、何気なく凄い人だ。あんな不思議文字、どうして手元も見ないでかけるんだ。
「で、イッセー。悪魔になってからの生活はどうだ?」
「最高ですよ。学園のマドンナである先輩お二人と、アイドル的人気の後輩。でもって、三人に勝るとも劣らない金髪美少女に囲まれて、もうテンション振り切ってますとも! ……良いやつ過ぎて、いけ好かないのももいますけどね」
無論、誰とは言わないが。
「そうかそうか。思った以上に楽しんでるようだな。安心した」
「心配してくれてたんですか?」
「そりゃそうだとも。可愛い弟子が、人間から悪魔になったんだ。ショックのあまり、思わず魔王のところに殴りこんだぐらいだぞ」
「殴りこんだんですか!?」
なんてことしてくれるんだ、師匠! 上級悪魔になってハーレム築くっていう俺の夢に何かあったらどうしてくれんだ!!
「ああ、サーゼクスの胸元掴んで揺らしてやったら、あいつ青い顔して『キミの弟子は妹の眷属になっているから、様子は逐一報告する。不自由を感じているようなら便宜を図る』っていうから、その場は引いてやった。……しかし、悪魔になったことを楽しんでいるんなら、ついでにお前も出世させろとでも言って置けばよかったか。今から言いにいくか?」
「いいえ、結構です!!」
出世くらいは自分の力で掴み取って見せますよ! ていうか魔王相手に何してんですか!?
……あれ、部長が妹? で、サーゼクス? んでもって魔王?
「あの、神さん。一ついいですか」
「なんだ?」
「サーゼクスって言う人は、魔王ですよね」
「ああ。サーゼクス・ルシファー。四大魔王の纏め役で、悪魔の王だ。ついでに、俺の友達でもある」
「で、俺のご主人様、リアス・グレモリー様のお兄さんですよね」
「うん」
「部長、魔王がお兄さんだったんだ……」
思い起してみれば、気づけそうな部分がいくつもあった。もっと早く気づけよ、俺。
「そんなことはどうでもいい。今重要なのはサーゼクスじゃなくて、お前の主人の婚約破棄の為に、フェニックスをぶっ飛ばすことだろう」
「そりゃそうですけど……」
「なら、つまらないことで悩んでないで強くなることだけ考えてろ。知識なんておいおい覚えていけばいい」
相変わらず権力なんてどこ吹く風なスタイルだな。俺には真似できないわ。そんな度胸ないし。
「さあ、これで魔法陣の準備は出来た。イッセー。一旦外へ出ろ」
「あ、はい」
神さんと一緒に陣の外へ出ると、神さんは陣に手をかざしたまま、こっちを向いた。
「で、イッセー。悪魔になって魔力を得ただろうが……ただでさえ才能がないお前の場合、元々の魔力がたいした事ないであろう上に、恐らく魔力を具現化させることに大苦戦していると思う」
的確な指摘、ありがとうございますね。どうせ俺は才能の欠片も無いバカですとも、チクショォォォォーーーーッ!!
「そこで、だ。今からお前に最適な魔力の運用方法を教えられる男を呼ぶ。これはそのための魔法陣だよ」
そういって、神さんは魔法陣に片手を向けると、魔法陣が発光する。宙に黒く丸い穴が開いたかと思うと、そこから黒い長髪の大柄な男が現れた。
凄い威圧感だ。顔は整ってるけど、全体的にワイルドな印象から、イケメンって言うよりハンサムって感じだな。ていうか、この感覚と、あの背中の翼……。
「あの……師匠。あの人って……」
聞かずにいられなくて聞いてみると、代わりにハンサムが魔法陣から歩いて出てきて、目の前まで来た。
「人じゃねぇ。悪魔だ」
やっぱりですか。
「俺の友達で、別世界の魔王、ソードだ」
「また大物呼びましたね。しかも友達ですか。顔広すぎですよ」
道理で天竜並みの力を感じるわけだ。平素でコレだから、下手するとドライグより強いかも……。
『その可能性も否めんな。この男も俺に気づいているだろうが、警戒どころか驚いてすらいない。かなりの実力者であることは確かだ』
幾ら強いやつを見ても、上には上がいる。おっかないことだ。
「神。コイツがいつか言ってた、お前の弟子か?」
「ああ、名前は兵藤一誠。最近なりたての弱小悪魔だ。昔はもっと強かったんだけどな……」
ソードさんの指摘に、師匠はため息つきながら肯定する。弱くなったものはしょうがないでしょ。
「悪魔に成り立て、ねぇ」
ソードさんは俺を上から目線でじろじろと見ると、右の拳を差し出してきた。俺はその拳に自分の拳を押し当てて、全力で押す。けれど、相手は微動だにしない。
「……へ。生意気に俺を押し出すつもりか。確かに弱いが、根性だけはあるみたいだな」
「そりゃどうも。ソードさん」
「くすぐってえ。ソードでいい。それで? 俺は何をどうしたらいい」
「こいつに暗黒魔闘術を教えてやってくれ」
あの、神さん。いきなり知らない単語を出すのはよしてもらえませんか。こんな感じで俺を置き去りにすることよくあるんだよな、この人って。
「何ですか、暗黒魔闘術って?」
「分かりやすく言えば、魔力を圧縮して身に纏う悪魔の格闘術だ。今までは覇気のほうがお前に合ってたし、魔力の扱いが不得手だったから教えようと思わなかったが、悪魔になって基本的な扱い方が分かったんならいけるだろう。頼むぞ、ソード」
「……OK。要は限界ギリギリまで追い込めばいいんだな」
「!?」
獰猛な笑みを浮かべながら、ソードは凄まじい魔力を身に纏った。ちょ、部長どころかグレイフィアさんすら超越してるんですけど、この人!!?
長年、師匠によって危険に晒された俺の直観が最大警報を鳴らしている。
やばい。超やばい。絶対やばい。
これからさせられるであろう、修行という名の地獄めぐりを想像して、神さんのほうを見ると、既に空中で足組しながら、『世界の巨乳のスキマ』を読んでいる。
「ああ、そうそう。一応アドバイスしておくと、覇気を纏うイメージで魔力を操れば、一応形は出来るはずだ。圧縮の仕方は、実際に圧縮された魔力を肌で感じながら覚えろ。次第に覇気と魔力を交えて圧縮させて、両方を身に纏えるはずだ。以上」
言いたい事だけ言うと、神さんは姿勢をそのままに空高く上っていった。
ソードのほうは、やる気満々だった。
「覚悟決めろ! いくぜ、イッセェェェェーーーーッ!」
「上等だ! こうなったらいつもどおりの破れかぶれだ! ソードォォォォーーーッ!!
『
ドオオオオオオォォォン!!
……朝日が、拝めた。
悪魔にとって大敵のはずの太陽が、無性に恋しく思える。ああ、俺生きてるよ……。
ソードとの地獄の特訓の果てに、ついに新技を体得した。
神さんが空間模型の時間をいじったから、現実では時間が流れない。一度長時間はいると、しばらくは時間操作は使えなくなるのが唯一の救いか……。どのくらい入ってたっけ。
何度、いっそ殺してくれと思ったことか。その度に神さんが「エリクサー」とか「かいふくのくすり」とか「ウルトラキノコ」とか「世界樹のしずく」とか、どこかで聞き覚えのあるアイテムで蘇生させまくって……。
暗黒魔闘術に関しては、ほぼ全てを覚えきった。魔力の圧縮法も感覚で覚えたし、覇気との融合もばっちりだ。なにより、とっておきの『奥の手』も手に入った。
神さんは特訓が終わった後、「ゲームは見に行く」と行ってまたどこかへ消えた。ソードも元の世界へ返っていった。
後は……。
「……皆にばれないように、この『世界の巨乳のスキマ』を部屋にもちかえらねば」
とか考えてたけど、あっさり木場に見つかって、「山で拾ったの?」とか言われた。思わず本気で殴りそうになっちまった。
イケメン死ね!!
オチが一辺倒ですいません。木馬君便利なんです。