ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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Life.20 修行、終わりました。

 あの地獄の特訓から、早一週間。既に期日も一日までに迫っていた。

 

 ゲームでの連携、攻防バリエーションなども練習し、大体の準備は済んでいた。

 赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)は使用を禁止されてるから素の力でやるんだけど、前よりもずっと皆についていけてる感じがする。

 何度も蘇生させられたのは伊達じゃなかったって事か。

 

 夜中に目が覚めて、台所で軽い夜食を作って出てくると、ちょうどリビングで、上から降りてきた部長と鉢合わせた。何故かメガネをかけている。

 

「あら? 起きたの?」

「ええ、少し小腹がすいて」

「ふふ、本当に凄い食欲ね。小猫より食べる人なんて、初めてみたわ」

 

 手元の料理を見て、部長が微笑む。

 まあ、何もしないで一日寝てるだけでも十万カロリー以上は消費しますから。動くんだからもっと食わないと死ぬんです。

 

「部長って、目が悪かったんですか?」

「ああ、これ? 気分的なものよ。コレをかけていると、考え事のときに頭が回るの」

「そうなんですか。それで、部長こそどうしたんですか?」

「……ちょうど良いわ。少し、話しましょうか」

 

 

 

 庭のガゼボ(公園の屋根のあるベンチみたいなもの)で、部長は柱に背中を預けて、本を読んでいる。

 

「作戦ですか?」

「ええ。と言っても、こんなマニュアル本では、気休めにしかならないけどね」

「そんなことありませんって。部長がこんな夜遅くまで、がんばってるんですから」

「……今度の相手は、フェニックス。不死鳥と呼ばれる聖獣よ。流す涙はいかなる傷をも治し、血を飲めば不老不死が得られると人間界に伝説を残しているわ」

 

 そういえば、神さんの回復薬の中にフェニックスの涙があったっけ。あんなもんどこで手に入れたんだか。

 フェニックスを直で締め上げて泣かせたとか? ありそうで怖い……。

 

「人間たちは聖獣フェニックスと区別する為に、悪魔の公爵家であるフェニックスを『フェネクス』と呼んでいるけれど、聖獣と称されるフェニックスと、ライザーの一族の能力は同じ。――不死身よ」

 

 ……なるほど、部長がレーティングゲームの話を出されたとき、憤慨していた理由がよく分かった。

 

「ほとんど反則みたいなものね。攻撃しても、すぐに再生してしまう。ライザーの戦績は、八勝二敗。ただし、この二敗は懇意にしている家系への配慮で、わざと負けただけ。実質的には無敗。フェニックス家は、レーティングゲームが流行ってから台頭してきた、成り上がりみたいなものなの。ゲームが行われるまで、悪魔同士で戦うなんてほとんどなかったから、悪魔たちはそこで初めて知ったのよ。不死身のフェニックスが、いかに恐ろしいか」

 

 不死身。確かにおっかないことだ。だけど、手がないわけじゃない。

 

「勝つ為には、再生能力を超えるだけの一撃を加えるか、再生できなくなるまで何度も倒すか、ですか」

「そうね。でも、前者には神クラスの力が必要。後者は相手の精神が尽きるまで、こちらのスタミナが持つか。一撃で相手の体力も精神も奪い去る力があれば、話は早いんだけどね。お父様はこうなることを見越していたんでしょうね。だから、ライザーを婚約相手に選んだ。不死身のフェニックスが相手なら、ゲームになったとしても勝てるはずがないと踏んだんだわ。チェスで言うところのハメ手。スウィンドルね」

 

 ため息をつく部長に、大丈夫ですというのはあまりにも無責任だろう。

 返す返すも無力が恨めしい。せめて、一年前程の力があれば……

 

 ……にしても、どうしても腑に落ちないことがある。いい機会だから訪ねてみようか。

 

「部長」

「なに?」

「部長は、どうして今回の縁談を断ろうとしてるんですか?」

 

 あの焼き鳥野郎が相手じゃ嫌がるのも尤もだとは思うけど、部長が家の意向に逆らってまでことを起こすのは、何か別な意図を感じてならない。性格に難はあっても、相手は血統的にも実績的にも相応の相手なんだから。

 

「……私は、『グレモリー』家の娘。どこまで言っても、その名前が付き纏うわ」

「嫌なんですか?」

 

 部長は立ち上がって、寂しげな横顔で月を見上げた。

 

「誇りに感じてはいるけれど、誰もが私を、グレモリーのリアスと見るわ。私は、せめて添い遂げる相手くらいは、私をリアス・グレモリーではなく、ただのリアスとして愛してくれる人と一緒になりたいの」

 

 ……俺は俺だ。父さんと母さんの息子の兵藤一誠で、それ以上でもそれ以下でもない。それは悪魔になっても変わらない。

 

 そんな俺に、部長の気持ちは一生理解できないのかもしれない。

 グレモリー家の看板を背負って生きていく部長の重圧も、その背にのしかかる期待も、俺には想像することしか出来ない。

 

 それでも。そんな俺でも、このくらいは言える。

 

「俺は部長のこと、部長として好きですよ」

 

 思わず口から出てしまった言葉に、部長は俺を見ながら目を丸くしている。ぐうぅ、こうなりゃ自棄だ。言えるだけ言っちまおう!

 

「グレモリー家のこととか、悪魔の社会とかよくわからないし、うまくはいえませんけど……俺にとっては、目の前にいるリアス部長が全てで、一番です!」

 

 ……勢いだけで言いたい放題言っちまったけど、大丈夫かな。

 

 なんか部長が頬を赤く染めて呆然としてる。やっぱりまずかったかな?

 

「ぶ、部長? 俺、なにか変なこと言いましたか?」

「な、なんでもないわ!」

 

 そういって、頭を振る。なんなんだろうか。まあ、なんでもないんなら気にしないでおこう。

 

「しかし、天才の部長の初陣の相手が不死だなんて、前途多難ですね」

 

 不死鳥ってどのくらいまで不死身なんだろう。不死身と不死鳥つながりで妹紅さんが思い浮かぶけど、まさか蓬莱人級までじゃないだろう……。髪の毛一本からでも再生可能じゃお手上げどころの話じゃないぞ。冗談抜きの殺し合いであの人たちに勝てるのなんて、何人いるんだか……。

 

「違うわ」

 

 突然の否定の声に驚く俺を、部長は正面に見ながら続けた。

 

「天才という言葉はすきじゃないの。それはまるで天から授けられた才能……神に与えられたように感じるもの。私の才能は、グレモリー家が代々培ってきたものの結晶。それを私は悪魔として受け継いだ。私の力は、グレモリー家と私のものよ。だから私は負けない。戦う以上は勝つわ。勝つしか、ないのよ」

 

 力強い言葉の裏に見えたのは、自分と家に対する自信と信念。その姿は、今まで見てきたかわいらしさや美しさとはまた違って……なんていうか、かっこいい、と思った。

 

「部長は、やっぱり凄いです」

 

 それに引き換え、俺は……

 

 ―――いや、俺は、俺にしか出来ないことをやるべきだ。

 

「イッセー?」

「ここにきて、嫌って程再確認しました。剣の修行をすれば、木場の凄さを見て。魔力の修行をすれば、朱乃さんの偉大さがわかって、アーシアの才能を思い知って。格闘技の訓練をすれば、小猫ちゃんのセンスを感じて。でもって今、部長の凄さを目の当たりにして、よく分かりました。俺が……皆の中で一番役立たずなんだってことが」

 

 今まで何人もの人に、才能がないと言われた。誰かと一緒に修行するたびにそいつのセンスや才能を比較して、絶望したこともある。それでも、俺にだって出来ることがある。

 

「だから俺、命を賭けます! 才能も何にもない俺が出来ることっていったら、それぐらいです! 敵が不死身だって言うんなら、何度でも倒します! 死ぬ気で殴り倒して、拳が砕けたら蹴り倒して、脚が折れたら噛み倒して、顎が引き裂かれたなら睨み倒して、眼も潰されたなら呪い倒します!! 部長の為に、死んでもあの焼き鳥野郎をぶっ倒します!!」

 

 血反吐を吐く勢いで叫んだ俺を、部長は少しだけ悲しげで、慈しむような目で見てきた。

 

「頼もしいわねイッセー。でも、本当に死んでは駄目よ。生きて、その上で勝ちなさい。これは命令よ」

 

 そういってくれる部長。そんな貴方だからこそ、俺は命を賭けられるんです。

 

 

 

 

 

 最終日。俺は木刀を構える木場と相対しながら、ブーステッド・ギアを発動させた。

 

 部長に、神器を使った上で木場と戦うように言われて、その前に改めて神器の説明をしてほしいといわれたからだ。

 

「最初に、コイツの基本能力は皆も知ってる力の倍加と、もう一つ、その倍加した力を触れたものに譲渡する『赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』です。他人だけじゃなくて、物に譲渡したりすればその効力が強化されます」

「それは、中々面白いわね。うまくすれば、戦局を一気にひっくり返せるわ。単純に攻撃の為だけじゃなく、アーシアの回復能力を倍加したりしてもいいわね」

 

 聞いた傍から、部長は頭の中で譲渡の力を組み込んだ戦術などを考え出したみたいだ。とりあえず、説明を続けよう。

 

「次に、俺が編み出したオリジナルの機能。マキシマムドライブとバーストです。バーストは、その時点まで溜めた強化を、更に一段階倍加して一撃を放つ。強化段階も一発でリセットされますけど、その代わり負担はほぼありません。マキシマムドライブは、前にも言った……」

「イッセー君の、今現在の限界の一段階上までの瞬間強化。最大で三回まで重複可能で、発動中はどんな状態でも問答無用で動けるようになる。私たちが聞いたのは、こんなところですね」

「はい。で、ここからが本題なんですけど、前に言ったとおりコレにはかなりのリスクがあるんです。まず、怪我も毒も無視して行動できるって言いましたけど、それは『回復』するとかじゃなくて、文字通り『無視』できるだけなんです」

 

 要領を得ないのか、小猫ちゃんが小首をかしげながら聞いてくる。

 

「……というと?」

「手っ取り早く言うと、マキシマムドライブは『火事場のクソ力』に近いんだ。たとえば骨折した箇所を動かして痛みを感じても、頭がそれを痛いと感じなければたいしたことはない。もっと直接的に言えば、痛覚とかの危険信号を取っ払ってる状態なんだ。まさに無視してるだけ。要するに、腕が吹っ飛んだりしても生えてはこないし、大量に血を流せば出血多量で死ぬ。そして……」

「ま、まだあるんですか?」

 

 顔を青くし、目尻に涙まで浮かべたアーシアが心配そうに見てくる。ごめんな、泣かせちゃって。

 

「こいつのなにより怖いのは、限界を超えられるっていう特性だ。その『限界』には、マキシマムドライブそのものも含まれている。つまり、三回って言うのは制限時間を越えた時、俺が全てを使い果たして『倒れる程度』で済む回数であって、本当の限界そのものじゃない。そいつを使ったときに俺がどうなるか、見当もつかない。寿命が削れるくらいですめばいいけど、終わった途端に砕け散ったりとか……」

 

 あながち大袈裟でもないだろう。身を超えた力によってもたらされる代償は、恐ろしい程絶大だって言うことを、俺は身をもって知っている。

 

『――我、目覚めるは……』

 

 ……。

 

 ――あれ? なんか、皆が深刻そうな顔で見てくる。アーシアなんかもう卒倒寸前って感じだ!

 

 うわ、やばい。何とかフォローしないと……。

 

「ま、まあ、大丈夫ですって! 五段階までなら一週間寝続ける程度で終わったし、俺も死ぬのはごめんだから、早々無茶はしませんよ!」

 

 これで何とか収まった。

 

「……眷属になってから、先輩は無茶ばっかですよね」

 

 わけがありませんよね、はい!!

 いやいやいや、そこはスルーしてよ、小猫ちゃん!

 

「……イッセー。マキシマムドライブで戦いなさい。ただし、第二段階まででね」

「は、はい」

 

 部長が怖い眼で釘を刺してきた。

 と、とりあえず、今は目の前のことに集中しよう!

 

「行くぜ、木場ぁぁぁぁーーーーーッ!」

Maximum(マキシマム) Drive(ドライブ)! DriveⅡ(ドライブツー)!!』

 

 増大した力を身に纏いながら、構えを取る。

 木場が目に見えて気を引き締めるのが、場の空気を通して分かった。

 

 フッ。

 

 木場が動いた。騎士の特性であるスピードを活かし、正面から木刀を振りおろしてくる。それを拳で迎え撃つと、木場は一瞬驚いた様子で動きを止めた。その隙に蹴りを放ったが、木刀でしっかり防がれてしまう。

 

 追撃の一撃を繰り出すが、木場はまたしても姿を消す。気配を感じて上を向くと、木場が木刀を振ってきた。頭を狙ったそれを掴んで、すばやく上に投げ返す。そして空中で動きが止まった木場へ向けて、俺もジャンプするが、同時に放った両拳の連打を容易くいなされて、背中に生えた翼で上に逃げられる。

 

 俺が空を飛べないと思っての行動か。甘い。給食のカレー並みに甘いぞ、木場!

 

 俺は脚元に覇気で足場を作り、それを蹴って木場へ跳ねた!

 

「なっ!?」

 

 驚きのあまり身動きできない木場の上を取って、両手で一撃をお見舞いする。

 が、とっさに防がれた。伊達に速さが売りじゃねえな!

 

 地面に落ちながらも受身を取る木場へ、再び跳んで追撃しようとするが、俺の拳は地面を砕くだけだった。

 

「イッセー! 魔力の塊を撃ちなさい!」

 

 部長の指示を受けて、手のひらに魔力を集中させるけど、出来上がったのは先日の特訓と大差ない米粒大の魔力。それを、俺は向かってくる木場目掛けて、殴りつけるような形で放った。

 

「このぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 俺が放ったそれは、大きくなりながらビームのように伸びて、木場へ向かっていく。

 

「!!」

 

 速度もそれなりのものだったが、木場は一瞬驚いた表情を見せつつ、あっさりとかわして見せた。

 

 標的を外した光線は、そのまま隣の山まで伸びていって……

 

 ドゴォォォォォォォォォォォォン!!

 

 ……爆音と爆風を起こして、山を消し飛ばした。

 

 …………は?

 

「山が……」

「なくなってしまいました……」

 

 小猫ちゃんとアーシアがつぶやくと同時に、マキシマムドライブを解除する。

 

「まだ余裕があるみたいね。裕斗、彼はどうだった?」

「……正直、殺されるかと思いました。一撃一撃が、朱乃さんや部長の攻撃に匹敵する威力。魔力で木刀を限界まで強化しても、この有様です」

 

 木場が木刀を手放すと、木刀は粉々になって砕け散った。よく見れば、木場はひどい汗をかいていた。

 

「それにしてもイッセー君も人が悪いな。空中は飛べないとばかり思っていたのに」

「アレは飛んでるわけじゃないさ。覇気で足場を作って、そこに脚をついただけだからな」

「それって、下手すると飛べるより凄くない?」

 

 そうは言うけど、戦闘じゃあ便利かも知れないけど、移動する分には結構不便なんだぜ?

 

「イッセー、貴方はゲームの要よ。赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)を使った貴方の攻撃力は、ゲームを大きく左右する。私たちを……そして自分を信じなさい!」

「皆を……信じる」

 

 力強く宣言する部長に、俺はまたしても魅了された。そして……

 

 こんな凄い人の眷属なんだと、自分に自信が持てる気がした。

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