ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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 ライザー好きな人は注意です。人によってはアンチととられるかもしれません。


Life.25 約束、守ります!

 三色に彩られた、異質な世界。

 

 一つは赤、一つは金、一つは黒。

 

 灼熱に揺らしながら、長年の戦友は口を開く。

 

『朗報だ。バオウは相棒が気に入ったらしい。封印に使っている力の一部を返すそうだ』

 

 まじか……それって、どれくらいだ?

 

『具体的な分はわからんが、今のお前からすればかなりの力だ。これさえあれば、不死鳥如きには引けをとらないはずだ』

 

 そういえば、ゲーム中にも力を貸してくれたよな。どういう風の吹き回しだ。

 

『汝 我 異 極 至』

 

 金色に輝く雷を吐き出しながら、相変わらず不思議なしゃべり方をした。

 ……俺にお前とは異なる形で極みを目指せってことか?

 

『是』

『相棒。「白い奴」がいつ現れてもいいように、もっとこいつらの力を扱えるようになれよ。――なあ、おい。雷龍帝(ヴェロシティ・ドラゴン)はその気になってくれたが、お前はどうだ? 重龍皇(グレイブ・ドラゴン)

『……』

 

 水を向けられた『重龍皇』は、自身を覆う闇に沈むように姿を消した。 

 

『陰気な奴だ。まあ、実際それなりに話し合ったバオウとは違い、相棒の言葉にもほとんど耳を貸してこなかったからな。致し方ないかもしれん』

 

 お前も最初は結構俺に厳しかったじゃないか。ええ、赤い龍の帝王(ウェルシュ・ドラゴン)

 

『ふ、歴代最弱のお前に取り付けば、あんな態度もとりたくなる。だが今は、割と楽しんでいるさ』

『望 全 超 力』

 

 ああ、わかってるさ。お前の望みはかなえてやる。

 だから力を貸せ。誰にも負けない、部長を笑顔にできるだけの力を。

 

『否』

 

 なに?

 

『汝 我 同』

 

 ……ああ、そうか。そうだったな。じゃあこう言おう。

 

 ―――いくぜ。

 

『解』

『いいぜ。相棒。あいつらに見せてやろう。ドラゴンの力をな』

 

 

 

 

 

 目を開けると、見慣れた天井が見える。

 

 ……俺の部屋だ。布団から出て立ち上がると、僅かな発光を伴って、グレイフィアさんが姿を現した。

 

「目覚めたみたいですね」

「グレイフィアさん! 勝負は? 部長はどうなったんですか!?」

「ゲームはライザー様の勝利です。リアス様は投了(リザイン)なさいました。アレ以上続行していれば、仮にライザー様を倒せたとしても、貴方に甚大な後遺症が残るか、死んだとしてもおかしくはないというご判断の上です」

 

 ――ッ。

 

 何もいえなかった。俺は……また部長に救われたのか。

 

 アレだけ大見得切っといて、挙句の結果がコレか。

 

 ――情けねぇ。

 

 未だかつて、これほど自分を不甲斐ないと思ったことはない。

  

 グレイフィアさんの前だってのに、涙が溢れて止まらない。が、泣きながらも頭によぎったことをそのまま口に出していた。

 

「他の皆は!?」

「アーシア様だけは、リアス様の願いで貴方の看病を。他の皆様は、お嬢様の付き添いで、冥界に」

「付き添い?」

「……ライザー様とリアス様の、婚約パーティーです」

 

 ……部長。

 

『イッセー、最強の兵士を目指しなさい。あなたならできるわ。だって、私のかわいい下僕なんだもの』

 

 生き返らせてもらって、アレだけの期待をかけてもらったのに……。

 

『私は、せめて添い遂げる相手くらいは、私をリアス・グレモリーではなく、ただのリアスとして愛してくれる人と一緒になりたいの』

 

 大事な願いまで聞いたのに……。

 

『もう、いい……もういいの……だから、お願い。もうやめて……』

 

 ほとんど意識がなかった状態でも覚えていた、部長の懇願。俺のせいで負けさせちまって、泣かせちまった。

 

 笑ってくださいって言ったのは、俺だったのに……。

 

「……弱ぇ。何で俺はこんなに弱ぇんだ……?」

「どう贔屓目に見ても、貴方はご立派に戦いました。そう卑下する必要はないと思われます。それでも、納得されてないようですね。リアス様は、御家の決定に従ったのですよ? それに、ゲームでの決着はご本人が望んだことです」

「わかってます! わかってはいるんです……ただ、俺は――部長が嫌がることを認められない! 家の決定に嫌々従う部長なんて見たくないんです! あんな野郎に、部長を渡したくない!!」

 

 解ってる。これは嫉妬だ。俺はあの焼き鳥にひどく嫉妬している。だからこそ、部長は渡せない! 渡したくない! 部長の為にも、なにより俺自身の為にも!!

 

「ふふふ」

 

 顔を上げると、グレイフィアさんが僅かに表情をほころばせて、小さく笑っていた。

 

「あなたは本当に面白い方ですね。長年、色々な悪魔を見てきましたが、あなたのように思ったことをそのまま顔に出したり、思うがままに駆け抜ける方は初めてです。サーゼクス様も、貴方を面白いとおっしゃっていたのですよ?」

 

 面白い、か。それって、少しぐらいは期待されてるって思って良いんですかね。

 グレイフィアさんは一枚の紙を取り出して、俺に手渡した。

 

「それを使えば、婚約パーティーの会場に転移することができます。『妹を助けたければ殴りこんできなさい』。サーゼクス様からのお言葉です。裏側の魔方陣は、お嬢様を奪還したときにお使いください」

 

 ……魔王推奨の殴りこみときたか。今までで一番気合の入る出入だな。

 

「一誠様が寝ておられる間、貴方から強大な力を感じました。神、悪魔、堕天使のいずれとも手を結ばなかった唯一の存在、ドラゴン。忌々しきその力で何を成すのか。私もサーゼクス様も、拝見させていただきます」

 

 そういい残して、グレイフィアさんは魔方陣で消えた。

 

 ……考える必要なんてない。

 

 俺がベッドから立ち上がるのと同時に、部屋のドアが開けられた。アーシアが、タオルの入った洗面器をもって入ってきた。

 

「――っ。イッセーさん!」

 

 俺の顔を見た途端、アーシアは洗面器を落として、涙ぐんで俺の胸に飛び込んできた。驚いた為に支えきれず、二人揃ってベッドに倒れこむ。

 

「よかった……本当によかったです。怪我を治療しても、二日間も眠ったままで……。もう目を覚ましてくれないんじゃないかって……イッセーさんっ」

「ああ……心配かけてごめんな、アーシア。

 

 胸に顔を埋めて泣くアーシアをなだめながら、頭をなでる。

 限界越えのマキシマムドライブのせいかな。それでも二日ですんでよかった。

 俺はアーシアを抱えて身体を起こすと、アーシアの肩に手を置いて、まっすぐ見つめながら言った

 

「アーシア。これから俺は、部長のところへ行く」

「っ! ……お祝いじゃ、ありませんよね」

「ああ、部長を取り戻しにいく」

「私もいきます!」

「駄目だ。アーシアはここに残れ」

「嫌です! 私もイッセーさんと一緒に戦います! 魔力だって使えるようになりました! もう、守られるだけなのは嫌なんです!」

 

 アーシアが、非力な少女とは思えないほど強い力で俺の手を握ってくる。

 

「大丈夫だ。ライザーの野郎を軽くぶん殴って、すぐに部長を連れ戻してくるからさ。それに、もうあんな鳥になんか負けな――」

「大丈夫なんかじゃありません!」

 

 声を張り上げ、涙をこぼしながらアーシアが詰め寄る。

 

「……また、血だらけで、ボロボロになって、ぐしゃぐしゃになって、いっぱいいたい思いをするんですか? ……私、もうそんなイッセーさんを、みたくありません」

 

 ……アーシアは、俺のためにここまで必死になっている。

 それがうれしく感じると同時に、ここまでこの少女に負担をかける自分が、改めて情けなく思えてきた。

 

「俺は死なない。絶対にだ。約束する。生きて、アーシアとこれからもずっと一緒にいるよ」

 

 アーシアは、涙を拭って小さく頷いた。

 

「……それなら、ひとつだけ約束してください」

「ああ、なにをだ?」

「必ず、部長さんと帰ってきてください」

 

 精一杯の笑みを見せてくれる彼女に、俺も笑顔で返事をする。

 

「ああ、もちろんだ」

 

 そう答えると、アーシアは綺麗に微笑んでくれた。

 

「……そういえば、アーシアに頼みがあるんだ。アーシアにしか、できないことが」

 

 俺の頼みを聞いたアーシアは、一旦部屋の外へ出る。俺はベッドから立ち上がって、クローゼットを開けると、奥にしまってある一式の服を取り出し、身に着けた。

 

 灰色のアンダーシャツ。黒いズボン。そして、背中に赤龍帝の紋章が刻まれた赤いフードつきのコート。今回はフードは必要ないので、取り外していく。

 神さんが俺の為に作ってくれた、特注品の戦闘服だ。太陽の熱にも耐えるし、絶対零度を超えた温度でも凍らないって話だけど、神さんがそういうんなら間違いないんだろう。

 最近はずっと袖を通していなかったコレを、こんなときに引っ張りだすとはな……。

 

 着替え終わった俺は、自分の左腕に眠っている相棒に話しかける。

 

「ドライグ。――取引してくれ」

『……ああ、わかった』

 

 

 

 

 

 グレイフィアさんにもらった魔方陣を使うと、拍子抜けするほど簡単に転移できた。また魔力不足云々ってなったら洒落にならないからな。 

 

 キョロキョロと周りを見回すと、端が見えないほどだだっ広い廊下に、壁には蝋燭らしきものが奥まで並んでいる。

 

 なんか赤い髪の男性の絵まで飾られている。部長の家族かな?

 

 って、こんなお宅訪問まがいのことをするために、久々に冥界くんだりまで来たわけじゃない。

 

 とりあえず、大量の気配のするほうへと脚を向けてみると、でかい門の前に二人の槍を持った悪魔が立っている。豪華な扉だな、おい。何かの魔獣らしきものまで彫られてるし。

 

「招待客の方ですか? でしたら、招待状をお見せください」

 

 と、警備兵の一人が俺に気づいて声をかけてきた。

 

 ……扉の近くに気配はなし。ついでに、招待状らしきものも俺にはなし。

 

 よし。開幕一発、派手にやりますか!

 

「お仕事お疲れ様。そんで――ごめんなさいってな。ザケル!!」

「「!?」」

 

 ライディング・ギアを出して、呪文をぶっ放す。二人の警備兵が電撃に撃たれ、破壊された門から中にとびこんだ後、俺も中に入っていく。

 

 中には、着飾った大勢の悪魔がいた。コレ皆上級悪魔?

 

 天井はとんでもなく高いし、でかいシャンデリアが校庭より広い室内を照らし出す。絢爛豪華を絵に描いたみたいなところだな。金持ちのやることっていつもでかいよな。俺もなってみたいもんだ。

 

 そんな情景を拝んでいると、俺の目に、白いドレスに映えた一つの紅が飛び込んできた。

 

「部長ォォォォォッ!」

 

 反射的に叫んでしまった。会場全体に届くような大声に、参列客が皆俺のほうを見る。

 と、部長の横にあのライザーを見つけた。あいつは俺を認めると、一気に表情を険しくする。

 

「何だ貴様! ここをどこだと――」

「イッセーッ!!」

 

 いらだつライザーをさえぎって、部長の声が俺の耳に届く。

 その声に触発されて、左手にブーステッド・ギアを顕在させて、構えを取りながら啖呵を切る。

 

「駒王学園、オカルト研究部! そして、榊神の一番弟子、兵藤一誠!! 部長――リアス・グレモリーさまの処女はおれのもんだーーーーッ!!!」

 

 大声で叫ぶ俺に、部長は顔を赤くして、ライザーは形容しがたい表情で目元を引きつらせる。

 

「取り押さえろ!!」

 

 ライザーの命令で、槍を持った警備兵が俺を取り囲むが、恐れるどころか焦りも湧いてこない。むしろ、職務を全うしなきゃいけない彼らに同情すらする余裕が合った。

 

「やめといたほうがいい。今の俺、かなりテンションがあがってるから、軽い怪我で抑えといてやれるか自信ないからさ」

「ふざけるな!」

 

 警備兵の一人が、叫びながら槍を前に突き出すが、それを軽々と指でつまむと、横に放り投げた。ぶつかって連中が驚いている隙に、前もって溜めておいたライディング・ギアを開放する。

 

Ignition(イグニション)!』

 

 駆け抜けるように全員の意識を絶つ。端から見れば、多分何をしているかわからなかっただろう。

 おれ自身、あまりの速度に驚いている。少し力を解放しただけでここまで変わるとは。

 

 横からの殺気に反応して右腕を上げると、例の仮面の戦車、イザベラの拳が突き出され、見事にガードに防がれた。主のパーティーのためなのか、以前のラフな格好とは違い、大分着飾っている。

 

 少し遅れて逆方向からチャイナドレスの雪蘭が仕掛けてきた蹴りを左手で止めると、イザベラは驚きながらも気丈に話しかけてきた。

 

「なにをしたのかはしらないが、大分力を上げたみたいじゃないか、赤龍帝。一体この短期間でなにをした?」

「少し、昔を思い出したってところかな」

「答えになってないわよっ」

「ふっ、まあいいさ。この間の屈辱に加え、更にそれだけの力を見て仕掛けないなど、私には無理な話だ。他も何人か一緒らしくてな。少し付き合ってくれ!」

 

 二人を押し出すように突き放してジャンプすると、さっきまでいた場所を根が突く。その上に乗って、軽くジャンプすると、両方からチェーンソーが飛んできた。それを両足を百八十度開脚して蹴って着地すると、今度は騎士の二人が剣を振ってきた。

 カーラマインの炎の剣を篭手で握り、シーリスの剣を歯でとめる。

 

「なに!?」

 

 驚く二人を余所に、顎に力をこめて大剣を噛み砕き、炎の剣を握りつぶして、二人が引いたところで手に掴んでいる分を口に含んで、一緒に、よく噛んで飲み込んだ。

 

 バキジャリゴキャメギャ! ゴックン。

 

「いい鉄使ってんじゃねえか」

 

 ニッ、と笑って見せる俺を信じられない目で見つめる二人。そんなやり取りの最中、上からの魔力弾を後ろに下がってよけると、宙に浮くユーベルーナへ向かって飛び上がり、至近距離からの爆発弾を回避して、更に飛び上がって参列客を背にフェニックス眷属と対峙する。

 

Explosion(エクスプロージョン)!』

 

 八段階からの強化。両腕に覇気と圧縮魔力を込め、拳を繰り出す!

 

 ドガガガガガガガガガガガッッ!!

 

 覇気で形成された拳をぶつける、圧倒的な速さ、射程距離の連続突きが八人を襲う。

 

 連続突きを止め、ユーベルーナにとび蹴りをかますと、ユーベルーナを中心に円形に集結させた全員に、覇気を込めた回転蹴りを浴びせた。

 

「機神、空円脚! でえええぇいッ!」

 

 吹っ飛んだ八人を、戦いに参加していなかった眷属が受け止める。自分に向かって飛んできたミラを、あのオカルト研究部のときと同じように受け止めたライザーは、使用人らしき人にミラを任せ、自分へ歩いてくる俺を睨んでいる。

 

「どういうことだ?」

「リアス様、一体?」

 

 周囲の関係者が困惑し始めるなか、奥から赤い髪の男性が歩いてきた。さっき廊下の絵画に描かれてた人だ。どことなく部長に似ている……。おまけに、隣にはグレイフィアさんがついている。じゃあ、もしかしてこの人が……。

 

「お兄様」

 

 部長の発言で確信した。この人が『紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)』サーゼクス・ルシファーか! これが魔王様……。

 

「私が用意した余興だよ」

「サーゼクス様! 一体どういう……」

 

 ライザーが色めき立つが、サーゼクス様に一瞥され、言葉を詰まらせた。

 

「ライザー君、先日のレーティングゲーム。非常に興味深かったよ。しかしながら、妹のほうは戦力は半分、そもそもゲーム経験もなしで、フェニックス家の才児たるライザー君相手では、少々分が悪すぎたと思ってね」

「……あの戦いに、ご不満でも?」

「いやいや、私が口を挟めば、レーティングゲーム自体が存在意義を失う。それに事情が事情だ。旧家の顔も立たないだろう」

「っ」

 

 ……ライザーの様子がおかしい。魔王を前にした緊張とか、そんなものでは説明がつかない何かを感じる。どこかキナ臭い。こいつは何を恐れている?

 

「可愛い妹の婚約パーティーだ。派手にやりたいと思ってね。グレイフィアに少々段取りをお願いしたんだ。――兵藤一誠君。友人が自慢する君の腕っ節と、ドラゴンの力を私や上級悪魔の方々に見せてくれないかい?」

「それって……」

 

 頭で組みあがった答えを予想したのか、愉快そうに魔王は微笑む。

 

「ドラゴン対フェニックス。伝説の力を持つ存在同士の戦いで、会場を盛り上げる、というのはどうかね?」

「……さすがは魔王様。面白いこと考えますね」

「お褒めに預かり光栄だよ。『赤龍拳帝』くん」

 

 うわぁ……さすがは神さんの知り合いだ。昔の俺の通名まで知ってるとは。

 

「どうかな、ライザー君」

「……サーゼクス様の頼みなら断れない。このライザー、身を固める前の最後の炎をお見せしましょう!」

「さて、一誠君。君が勝った場合の対価は何がいい?」

「サーゼクス様!?」

「なんということを!? 下級悪魔如きに、そのような……」

 

 身内の何人かが非難の声を上げるが、サーゼクス様はそれを一瞥して黙らせた。

 

「上級だろうと下級だろうと、悪魔は悪魔。こちらから何かをさせるのですから、相応の対価は必要だ。それに、これ以上彼の機嫌を損ねたら、私が殺されかねない。さあ、何が欲しい? 爵位かい? それとも絶世の美女?」

 

 爵位に、絶世の美女。俺が悪魔になって欲したものが並べ立てられるが、俺の答えはひとつだけだ。

 

「部長を――リアス・グレモリー様を返してください!」

「わかった。君が勝ったら、リアスを連れて行けばいい」

 

 満足そうに笑う魔王様に、俺の緊張が解けた、その瞬間――

 

 ギャオオオオーーーーーーーーッ!!

 

『!?』

 

 怪獣かドラゴンの咆哮のような音に、会場内の人々があわただしくなる。敵襲!? だの、迷い龍!? だの、憶測が飛び交う。

 

 ああ、いや、今のはですね……

 

 バオオオオーーーーーーーーーーッ!!

 

 もう一度、咆哮が聞こえた辺りで、部長が俺に耳を寄せる。そして……

 

 ギャオオオオーーーーーーーーーーッ!!

 

 部長は目を丸くした。魔王様やグレイフィアさん。後、いつの間にか近づいてきたオカ研メンバーも気づいたらしい。

 

「すいません。これ、俺の腹の音です……」

 

 しょうがないじゃん。もう二日も飲まず食わずで寝てたのに、あんなふうに暴れたんだから。緊張の糸が切れれば、そりゃそうなるでしょ?

 

「そんなことだろうと思ったぜ。ほれ」

 

 と、目の前に差し出された皿の上には、豪華な鳥の丸焼き。においが鼻に入った瞬間。本能で齧りつきました。

 

 う、うおおおお! うめえ! まるでグルメ界の食い物みたい……て、あれ? みたいじゃなくて、まさにそうじゃないか? もう一齧りして、確信する。これはグルメ界の怪鳥、ゲロルトだ。

 

 食い終わってから皿を持つ手を伝っていくと、そこにはコック服に身を包んだ師匠の姿があった。

 

「神さん!」

「俺は俺で話があったんだが、それは後にするから、まずはそこらのテーブルにでも座って食事を済ませろ。じゃんじゃん作るから」

「はい!!」

 

 言われたとおりに、手近なテーブルに座ると、給仕係によって豪華な食事が置かれていく。

 

 両手で拍手を打ち、目を閉じながら、料理のにおいを鼻いっぱいにほう張る。

 

「――この世の全ての食材に感謝を込めて、いただきます」

 

 二日ぶりの食事に、俺は猛烈に齧り付いた。全身の細胞一つ一つが、飯を求めている。自分でもそうとしか思えないほど、必死に食事に没頭した。

 周りから下品だの下賤だの聞こえるが、そんなものは邪魔にすらならない。別に俺の食事風景を見せにきたわけじゃねえよ。

 

「げ、下品とか意地汚いを通り越して、最早凄いとしか言えませんわ」

 

 視界の端っこであのレイヴェル・フェニックスがそんなことを呟くのが伺えたが、特に興味は抱かない。俺の全神経は今、食事のみに向いている。

 卓に次々と置かれる料理を口にほう張りながら、時折持ってこられる酒を一気に呷る。木場辺りが小さく声を上げるが、この程度で酔ったりはしない。

 

 やがて、食卓が空になった皿だけ埋め尽くされ、厨房から神さんがコック帽を脱ぎながら出てきた。

 

「パーティーの食材も、俺の持ち込みも全部使い切ったぞ。どうだ。満足したか」

「……まあ、腹八分目ってところですか」

『八分目!?』

 

 ……なんか会場の心が一つになったように思える。気のせいだな。

 

「はっはっは! 今厨房が皿洗いで凄いことになってんだぞ。相変わらず作り甲斐のあるやつだ」

「そりゃどうも。で、話って?」

「お前は後でもよかったんだが、まあ良いだろう。とりあえず、食欲は完全に戻ったみたいだな。バオウからもいくらか力を取り戻せたみたいだが、どんな感じだ?」

「全然ですね。精々、全盛期の十分の一以下です」

 

 俺の返答に、仲間やフェニックス眷属が驚いた顔をした。

 

「そうか。まあ、それはおいおい取り戻せばいい。それはいいとして――ライザー・フェニックス」

 

 名指しで呼ばれたライザーが、ビクッと身体を震わせる。

 無理もない。神さんの今の声には、圧倒的な威圧感が込められていた。聞いただけで全身の内臓を握られるかのような威圧感は、不死身の上級悪魔でさえも怯えさせるに十分なものがある。

 

「これからイッセーと戦うんなら、フェニックスの涙を四つ持って戦え」

「な……」

「神。それは一体どういうことだ?」

「その前に、少しだけ人を遠ざけてくれるか。そのほうがフェニックス家のためだ」

 

 突然の神さんの提案に声を失うライザー。そこへ、サーゼクス様が割ってはいる。神さんの言葉通り、周りの上級悪魔がグレモリー・フェニックス眷属以外ほとんど遠ざけられた。神さんは手を少し動かして不可視の壁を作ると、椅子に腰をおろして、口を開く。

 あれって、音を遮断する為のやつ? そんなやばい話なのか?

 

「単純な話、証明したいからさ。あのゲームでイッセーが負けたのは、リアス・グレモリーの戦略ミスであって、イッセーの力不足じゃないってな」

「……それは、どういうことかしら」

 

 作戦を真正面から批判されて、部長が色めきだすが、神さんはあわてもせずに葉巻樹を咥え指パッチンで火をつけた。

 

「ふーーーッ。簡単だ。そいつがレーティングゲームのとき、フェニックスの涙を四つ使ってたってことさ」

『!?』

 

 この場のほとんどがライザーに注視すると、ライザーは顔中汗だらけになっていた。怪しすぎるっての!

 

 ……そうか。そういうことか。一回目、覇皇焔滅赤龍波を喰らったとき、コイツはレイヴェルに涙を呑まされた。

 そして二回目。ライジングメテオのとき、巻き起こった粉塵の中で飲んで、三回目はバオウ・ザケルガの閃光にまぎれて飲んで、バオウ・ザケルガを耐え切った。通りで消耗が見られなかったわけだ。回復してたんなら、それも当然だ。

 

 それに、よくよく考えてみればやっぱり変だ。人数不足の上に経験もない部長に、回復系の神器を持っているものがいるというだけで、フェニックス側がフェニックスの涙を渡さない理由にはならない。

 むしろ後々に文句をつけられたくないと思えば、渡してしかるべきはずだ。できる限り公正に勝負を行わなければ、傷になるのはむしろ不死身の特性に加え、戦力でも経験でも圧倒的優位な向こうなんだから。

 

「フェニックス公に確認したところ、公はグレモリー側に渡す為のフェニックスの涙を用意していたそうだが、それをライザー、お前が渡すと受け取ったと聞いた」

「!!」

 

 ライザーの顔色は見る見るうちに悪くなっていく。それでも、神さんは止まらない。

 

「それをお前、『どうせ勝つのはこっちなんだから、無意味に勝負を長引かせるのはむしろかわいそう』とか余裕ぶって、そのまま持ってたんだろ? そして、いざ蓋を開けてみれば眷属は妹を除いて全滅。お前自身もイッセーに追い詰められる始末。そこでイッセーに対する恐怖で、持ってはいても使う気はなかった涙をあけちまった。だから終盤でいきなりキレたんだろ? プライドを汚されたと逆ギレして」

「なっ……お、憶測だ! 証拠は……」

「実はあのゲームの最中、俺、許可をもらって飛行小型カメラを飛ばしていてな。その映像がここに」

 

 神さんは手の中の、マイクロSDをもてあそびながら、ライザーをにらみつける。

 

「この映像、解析してみようか? あのカメラはありえないほど高性能だから、きっと粉塵の中とかもよく写ってると思うぞ。ネットで流してみようかな? 再生数百万超えると良いなー」

「や、やめろ!」

「――ってことは、認めるんだな。涙をグレモリー眷属に渡さず、自分で使ったことを」

 

 有無を言わさぬ物言いに、肯定も否定もできずにライザーは立ち尽くす。その姿を、神さんは一笑に伏せた。 

 

「ふん。別に俺はどうでもいいんだが、これが広まったらフェニックスは痛いだろうな。幾ら金持ちで、トップランカーの長男がいるとはいえ、元々成り上がりといい目で見られてないって聞くぜ。そこにこのスキャンダルだ。初心者のお嬢様をいたぶった挙句、ゲームのルールを違反してまで魔王とパイプを持ちたがった卑しい成り上がり。煽り文句はこんなところか」

「そ、そんなつもりは……」

「お前の真意なんか知るか。世間はそうとしかとらないって話だ。お前はフェニックスの代表としてリアス・グレモリーとの婚約を進めたんだろ? じゃあ、それはフェニックスの総意ととられても致し方ないわけだ」

「………っ!!」

 

 反論の弁も立たず、ライザーは黙り込んだ。そんなライザーに、神さんは一声かけた。

 

「――だが、さっき言ったとおり俺にとってはどうでもいいことだ。お前が俺の言ったとおり、フェニックスの涙を四つ持つんなら、この映像をお前にくれてやる。さあ、どうする」

 

 ライザーは数秒間項垂れると、神さんからSDを受け取った。

 

 神さんがバッと手を払うと、結界が消え、もう一回手を振ろうとしたところで、サーゼクス様に声をかけた。

 

「サーゼクス。会場は外に作ったほうが良いよな?」

「ああ、頼む」

 

 愕然とするライザーとは対照的に、神さんの頭の中では既にさっきの件は完全にすんだことになっているようだ。

 ……師匠、恐るべし。




 ぶっちゃけ、原作でもライザーが懐に入れててもおかしくないと思うんですよね。

 最初はここまで攻め立てるつもりはなかったんだけどなw
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