ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

28 / 96
 祝! 十四巻発売日決定!!

 待ちに待った最新刊。今から年越しが楽しみです!!


Life.28 悪魔、仕事します。

「ただいま到着しましたー」

 

 翌日の放課後。俺はアーシアと一緒に、挨拶と共に部室へ入った。

 

「あらあら、イッセーくんにアーシアさん、早いですね。お茶いかがです?」

「はい、もらいます」

 

 出迎えてくれた朱乃さんにそう告げつつ、部室の中を見てみると、俺たち以外はもう揃っているみたいだ。

 ソファーに近づき、そこへ腰掛ける小猫ちゃんへ挨拶する。

 

「や、小猫ちゃん」

「……どうも」

 

 なんか、心なしかこの間のフェニックス戦以来、小猫ちゃんからの視線にあまり棘を感じなくなった気がする。一緒に戦って、仲間意識が芽生えたのかな?

 

「やあ」

「おう」

 

 手を上げた木場に、俺も同じく手を上げる。コイツともこの間から、少しだけ仲良くやれそうな気がする。……イケメンは嫌いだけどな。

 

「全員揃ったわね。それじゃ、お話でも始めましょうか」

 

 お茶を飲んでいた部長がそう告げると、俺たちはテーブルを囲うようにソファーに腰掛けた。

 

 

 

「私が監督役として、イッセーに付き添うわ」

 

 日が完全に落ちきった頃、会議の議題が俺のことになった途端、部長がそう宣言した。

 

 俺、未だに契約を結べてないからな……。基本的に変人奇人に呼ばれて、へんなことして終わるパターンばっかりだ。それでも依頼人と仲良くはやれてるんだけど……肝心の契約に失敗してちゃ意味がないよな。

 

 こんなことじゃ、爵位をもらえるのなんていつになるやら……増してやハーレムなんて……いやいや! 落ちこぼれだからこそ、より一層頑張らなきゃいけないんだろうが!

 

 手柄を立てて、上級悪魔になって、美女美少女をてんこ盛りに集め、俺だけのハーレムを作る!

 

 あああ、早く女の子を侍らせて、酒池肉林を完成させてぇぇぇぇぇっ!!

 

「……下品な妄想禁止」

 

 ぐさっ。小猫ちゃんに内心を見抜かれた。心に鋭い言葉の爪が立てられる。

 

「ふふふ、いやらしい笑顔をしてたよ」

 

 ブチン! 感情を司る部分が勢いよくハジケ飛び、ブーステッドギアが左手に現れた。

 

 恋愛最強種に、この切ない男心を爽やかに笑い飛ばされたくないわ!!

 

「うるせぇぞ木場ぁぁぁぁっ!! その気になれば学園中とラブコメできるお前と違って、俺にできるのは妄想だけなんだよ! 想像でしかエロいことできないんだよ! 俺だってかっこよく生まれたかったさ! もてる野郎は全員いなくなればいいんだ! いや、むしろ俺が一人残らず燃やす!! 手始めはあの種まき焼き鳥からだぁぁ!! 不死ごと灰も残さず焼き尽くしてやらぁぁぁッ!!!」

 

 ゴオォッ!

 

 号泣しながら吐き出される怒りに呼応した篭手から炎が噴出し、部室を俺の心の如く熱くさせる。

 

「あらあら、凄い炎ですわね。特訓では小さな魔力球が精々だったのに、素晴らしい進歩です」

「いや、コレは俺の魔力じゃなくて、俺の心の力を使ってドライグの炎を引き出してるだけですから。要は慣れと勢いです。そしてイケメンと、地上の生きとしいける全てのモテる存在への怒りが、俺に無尽蔵の心の力を……!」

「それだけでそこまでできるって言うのも、ある意味凄いわね。でも、部室が火事になるからよしなさい。ほら、泣かないの」

 

 ため息をつきながらも、部長がナデナデと俺の頭をなでてくれた。

 

 ううう……ズタボロに傷ついた心が癒えていくようです……。炎も篭手とともに消えたし。

 

 カッ!

 

 床に描かれた魔方陣が紅く発光する。朱乃さんがそこへ近づき、手のひらをかざして数秒、何かを確認すると、俺と部長のほうへ朗らかな笑みを向けた。

 

「部長、イッセー君でも解決できそうな願いのようです」

「わかったわ。さて、イッセー行くわよ」

 

 報告を受けてうれしそうに笑うと、俺の手をとって魔方陣へ近づく部長。

 

「ぶ、部長! マジで俺と一緒に行くんですか!? ていうか、俺、ジャンプできるんですか!?」

 

 慌てふためく俺に、部長は俺の頬を手でさすりながら、ニッコリと微笑んだ。不覚にも、胸が思い切り弾む。

 

「そんなの、私の魔力で何とでもなるわよ。あなたは私の可愛い下僕なんだから、ちゃんと面倒を見てあげるわ。さあ、行きましょう」

「イッセーさん。がんばってください」

 

 部長の魅力的過ぎるお言葉に、ふらふらとついていくしかない俺の背に、アーシアの声援が飛んできた。

 

 ……ああ、これで奮い立たなきゃ男が廃る!

 

 今度こそ、キチンと契約を取ってかえるぞーッ!!

 

 

 

 

 

 眩い光が消え去り、視界が開けると……やけに古風な部屋だった。間取りからしてアパートなんだが、問題は部屋のテイストといおうか、インテリアと言おうか……。

 

 模造刀が鞘に納まった状態で壁に飾られ、部屋中に張られたポスターは日本各地の城のものばかり、掛け軸までかけてある。『風林火山』の四文字が非常に力強い。そして何より……あの屏風の前に座っている鎧、人の気配がするんだけど、もしかして……。

 

「あ、あの……悪魔の方ですか?」

 

 やっぱり動いちゃったよ。しかもこの声、女性の方ですか? 仮面のせいか、眼光が凄く鋭く思える。これで女性じゃなかったら、思わず手が出てしまいそうだ。

 

「は、はい。あのう……失礼ですが、どうしてそんな格好を……」

 

 銃弾でさえもはじき返せそうな見事な鎧。多分実用前提の品だと思う。

 

「あ、ごめんなさい……。深夜だとなにかと物騒なので、つい鎧で身を固めてしまうんです。私、スーザンって言います。日本の文化に憧れて来日した、留学生です」

 

 何か間違ってるといってしまおうか。というか、日本甲冑は着るにも脱ぐにも労力がいるんだけど、妙に着慣れてる感じがする。そんだけ日常的に鎧を身に着けて生活しているんだろうか。

 

「異文化交流の基本は、その国の特色と触れ合うこと。素敵だわ」

 

 うんうんと頷きながら、感心するように部長が呟く。ああ、そういえば部長も、こんな『ちょっと勘違いした外人さん』的な部分があったっけ。

 

「でも、やさしそうな悪魔さんでよかったです。もし怖い悪魔さんだったら、この『鬼神丸国重』を抜かざるを! 抜かざるを得ないかとッ!」

 

 シュパ

 

 いやいやいや、抜いてる! 抜いてるって!! 抜き方から構えまで堂に入ってるけど!? しかも刀も真剣で、かなりの業物! ちゃんと許可とってるんでしょうね!?

 

 ひとまず落ち着いてもらおうと、台所を借りて俺が淹れたお茶で一息つく。

 

「はあああ……こんなに美味しい日本茶は初めてです……。うちのお茶葉で、こんなに美味しいお茶が淹れられるなんて」

「本当に、朱乃にも劣らないほどよ。素晴らしいわ、イッセー」

「いやいや、朱乃さんの淹れるお茶のほうが、数段上ですって。手間を惜しまなきゃ、誰だってこのくらいはできますよ。それで、スーザンさん。貴方の願いって……」

 

 そう問いかけると、スーザンさんはクスンクスンと鎧姿で泣き出してしまった。正直怖いです。

 

「私が通ってる留学先の大学まで、一緒にノートを取りに行ってください……」

「え、それだけ?」

 

 そんな理由で……と口に出しかけたところで、スーザンさんはがばっと顔を上げて涙声で言い放った。

 

「深夜の大学って怖いんですよぉぉぉぉーーーっ!!」

 

 うっうっ、とすすり泣く鎧武者。ここに至って、ようやく俺は自分の思いを口に出せた。

 

「あんたが一番怖いわ……」

 

 

 

 ガシャンガシャン。

 

 金属が擦れ合う音が、眠る町に響き渡る。

 

 鋼の具足、威厳漂う仮面に身を包み、見事な打刀を携え、ただならぬ気配を纏って深夜の街を歩む鎧武者。傍から見れば、亡霊以外の何者でもない。

しかしその実、中身はちょっと勘違いした感じの臆病な留学女子なのだ。その証拠に、兜からはみ出た金髪ロールが俺の目の前で跳ねている。

 

 最初は俺がひとっ走り行ってノートを取って来るといったのだが、スーザンが「悪魔さんだけ行かせられません。私も行きます」と言って譲らなかったので、結局三人で大学へ行くことになった。その結果が、どこぞの庭師も裸足で逃げ出す怪談のような光景というわけである。

 

 ちくしょう! やっぱり俺を呼び出す人たちって、こんな変なのばっかりか! いや、部長が同行したから、この程度で済んだ可能性も否定できない……。犬の遠吠えをききながら、心の中で愚痴を呟いていると……。

 

「うあぁぁーッ! うあぁ! うああぁぁーーッ!!」

 

 ビュンビュンビュン!!

 

「うわッ、ちょっ、なんスか!!」

 

 刀を引き抜き、またぞろ見事な太刀筋で空を斬るスーザン。怨霊でも見えたのか!?

 

「す、すみません……夜の街が怖くて……」

「だから怖いのはあんただって!!」

 

 彼女は極端な臆病で、少し恐怖を感じるとすぐにさっきのように日本刀を振り回す。なまじ腕がいいだけに余計始末が悪い。前に立ってたせいで、最初斬られそうになったし。

 

 明日必要なノートを大学に忘れてきてしまったので、思わずチラシを使って悪魔を呼び出したそうな。

 

 たいした願いでもないので、代価も部屋に飾ってあった城の模型で既にもらっている。あれで作成前なら作って楽しめるんだけどな……。

 

「ほら、ビクビクしないで、もっと胸を張りなさい。私達がついているんだから」

「うぅ、ありがとうございますぅ」

 

 怯えて猫背になっていたスーザンを、部長が励ます。さっきから、なんかスーザンに興味を示してるんだよな。人間にしておくのが惜しいとか言ってたし。

 

「そういえば、やけに鎧を着慣れてるみたいですけど、訓練でもしてるんですか?」

 

 さすがに文句言ってばかりじゃ心証も悪いだろうから、一応まともなことも聞いてみる……比較的だけどな。

 

「はい。ヒマさえあれば、鎧を着こんで室内で運動したりなど。昔の武将は鎧を着こんで戦場を走り回ったんです。私にもそれぐらいのことができないと……」

 

 この平和な現代に彼女はなにを求めているんだろうか。

 

 などと会話しているうちに、目的地の大学が見えてきた。

 

「ここが私の通う大学です。……ね? 雰囲気出てて怖いでしょう」

「いや、それでもあんたのほうが怖いって……」

 

 深夜の大学前に鎧武者。夏の霊番組にでも出てきそうなシチュエーションだ。

 

「さあ、入りましょう。あぁ、怖い……」

 

 大学内で誰とも鉢合わせないことを祈ろう。下手するとトラウマになる。無論相手の。

 

 

 

「ありがとうございました」

 

 ノートを手にいれ、スーザンの部屋へと帰ることのできた俺たち。

 

 部長は既に魔方陣を展開させて、戻る準備をしている。

 

「じゃあ、俺たちはこれで」

 

 そう、これで……部長との約束は果たした。つまり!

 

 部長のオッパイが揉める!

 

 うおおおっ、今から興奮冷めやらない! まずは右のおっぱいを円を描くように。次に左のおっぱいを重さをたしかめるようにタプタプと……!

 

「あ、あの……」

「うおぁ! な、なんすか!?」

 

 いやらしい妄想に浸っている最中に声をかけられて、ドギマギする俺。部長も、魔方陣を消してスーザンに向き合った。

 

「あのぅ……ぶしつけなことかもしれませんが……できれば、もう一つ叶えて欲しいお願いがあるんですけど……」

 

 てことは、もうひとつ契約をしたいってことだよな?

 

 ……俺としては、さっさとかえって部長とめくるめくご褒美タイムといきたいところなんだが。

 

「ええ、かまわないわよ」

 

 が、露骨に嫌な顔を出す前に、進み出た部長が快諾していた。

 俺の感情云々を度外視しても、一回の召還で二回願いをかなえていいものかとも思うが、主である部長がそうおっしゃれば、僕たる俺は従うのみ。

 

 ……だけど、涙がでちゃう。だって男の子だもん。

 

 そんな俺を余所に、スーザンがモジモジしながら話を切り出す。

 

「そ、その……同じ大学に通う男性で、とても、気になっている人がいるんです。それで……今度その人に、思い切ってアタックしてみようかと……」

「それって、刀で? もしかして辻斬り?」

「ち、違います!」

 

 違うんだ。鎧で動き回る訓練をしていたり、見事な太刀筋をしてたりするから、てっきり。

 

「とても素敵な人なんです。それで、この想いを彼にぶつけたいと……」

 

 この鎧姿の女子が、いったいどんな異性を好むのだろうか。まっさきに思いついたのが、ひげもじゃでたくましい戦国武将タイプだが、昨今の戦国系の作品の風潮から鑑みて、意外と美形タイプの可能性も……。

 

「それで、その人にあなたを好きになるようにさせればいいの?」

 

 まあ、部長の魔力で、スーザンに魅了されるよう仕向ければ話は簡単だろう。もしくは俺がシチュエーション作ってもいいし。

 

「いえ、できれば、悪魔の力とかではなく、自分の力で好きになってほしいんですが……」

 

 その方法が分からない、と。

 

 ……言いたい事はわかるが、魅惑の峰を前に阻まれた俺としては、少し毒づきたくもなる。

 

「なら、俺たちに頼る必要ねーんじゃ……」

 

 ポカ。

 

 黙れといわんばかりに部長に小突かれた。頭は痛くないが胸が痛い。また涙が出てきちまうぜ……。

 

「直接想いを伝えたほうが早いのでしょうけれど」

「そ、そんなの、いきなりは無理です!」

 

 手のひらを前に、激しく横に振る鎧武者。ふと、思ったことが口から出た。

 

「なら、手紙は?」

「……手紙ですか?」

「そうね。ラブレターもいいと思うわ」

「LoveLetter……分かりました! 書いてみます!」

 

 超いい発音を披露した後、早速彼女は生き生きと手紙を書く準備を始めた。

 

 硯で墨をすり、書初め用紙を敷き、筆を取る。

 

 ……予想はしていたけど、やっぱり書道ですか。

 

 墨をする姿は最早自縛霊としか思えない。のんきな大食い幽霊お嬢様よりも、遥かに威厳と恐怖に満ち満ちていた。そして、口に出しながら文章を綴っていく。

 

「『然したる儀にてこれ無きの条、御心安かるべく候――』」

「待った待った! それじゃ怪文章だから」

 

 ここまで予想通りだと、いっそ笑うしかない。でも、契約である以上、きちんと仕事は果たすべきだ。

 

「え!? でも、日本語ですよ? 『特別な用事ではないのでご安心ください』って」

「それは一般的な日本語では決して無いんです。それじゃ日本の今時の若者には普通通じません。ていうか、ラブレターなのに特別な用事じゃないって、駄目でしょ。想いを伝えるべき文章なのに、それじゃ駄目だって」

 

 俺の指摘にショックを受けたのか、ガックリと崩れ落ちるスーザン。落ち武者かよ。

 

「そ、そんな……。私、これ以外の手紙をかけません……」

「いやいやいや、日本に留学してるんなら、普通の日本語もかけるようにしましょうよ! いっそ英語にすれば、相手も気になって翻訳してくれる筈だから」

「それじゃ日本に来た意味がありません! 日本男児は『侍』の子孫! 『侍』さんとは正しい礼儀を持って付き合いたいんです」

 

 ―――駄目だ、この人! 早くなんとかしないと!

 

 勘違いがねじれにねじくれて、最早メビウス状態じゃねえか。『なんちゃって日本かぶれ外国人』最強最悪版だ! 異文化交流を根本から履き違えてる!

 

「私もこの国にきてから、一度もサムライに出会ってないわね。街に一人くらいはいそうだと思っていたのだけれど」

 

 部長も同類だ! この人の勘違い度を舐めていた!

 

 ていうか、何を持って侍とするべきかって話は、細かくつめるときりがないからな。つっこむのはやめておこう。

 

「これでは、コレも意味が無いかもしれませんね……」

 

 そういって立ち上がったスーザンは、弓の弦をビィィンと弾いた。

 

「矢文!?」

 

 そこまで行くとは……もはや頭からっぽだよ、俺。

 

 もう深く考えるのはよそう。こうなったら普通のラブレターの書き方を、一から教えるしかない。

 

 

 

 

 

 数日後。俺と部長はスーザンについてきて、とある公園の一角に陣取っていた……文字通り。

 

 丸い家紋らしきものが刺繍されたのぼりと陣幕が設置され、中央には鎧姿のスーザンが堂々と座っている。

 

 俺たちの苦労の甲斐あって、ラブレターは無事書きあがった。受け渡しのところは見ていないのがそこはかとなく不安だが、まああの様子なら大丈夫だろう。

 

 相手の男が今日、返事をしにこの公園に来るというので、俺たち二人にも見守って欲しいと頼まれたので、ここへ来たんだけど……。

 

 ここまで徹底していると、もうかける言葉なんて無い。わが道を行ってくれ。スーザン。

 

「お母さん、あれなーに?」

「こら、みちゃいけません!」

 

 子供が指差して母親に聞けば、母親はそそくさと立ち去る。非常に正しい判断だとおもう。

 

「いやはや、時代劇の収録かのぅ、ばあさんや」

 

 はたまたご老人夫妻は、時代劇のロケかなにかと勘違いしていた。そりゃそうだ。

 

 今更周りの感想なんて気にしていられない。それよりも今は、スーザンの意中の相手だ。

 

 豪快でたくましい戦国武将か、それともスマートなイケメンか。

 

 当のスーザンは座りながらも、小刻みに震えている。鎧がカタカタとなって、これまた軽く怖い。

 

 ガシャン。

 

 鉄がすれる音。だが、スーザンのほうじゃない。まったく別な方向から聞こえてきた音に、顔を向けると、人影がこちらへ歩いてくる。

 

「来たみたいね」

 

 部長も気づいたのか、俺と同じ方向へ視線を向ける。

 

 次第に近づいてくるその姿は――西洋の甲冑を身に纏った、誰かだった。

 

 体型からして、恐らく男性だろう。手には円錐形のランス。左手には盾を装備。肝心の顔はフルフェイスの兜によって隠され、確認できない。全身の装備品はかなりの一品で、例え銃弾飛び交う戦場でも使用に耐えうるような防御力を期待できるだろう。

 

 ……激しい既視感に見舞われた俺は、ゆっくりと隣の鎧武者に視線を移し、二人の姿をいったりきたりする。たっぷり十回以上は確認した後、頭を抱えてしゃがみこみ、部長に問いかける。

 

「……部長。俺、帰ってもいいですか?」

「ダメよ。ちゃんと見守りましょう。ああ、すごいわ。武者と騎士のコラボレーションね」

「こんなコラボ見たくなかったッス!!」

 

 なんなんだ、コレ。もう何も言えねえよ。どいつもこいつも我が道を行きすぎだろ。もっと世界に適応しろよ。

 

 っていうか、よくみたら騎士の兜に矢が突き刺さってる! 

 

「スーザン! 矢! 矢が突き刺さってるけど!?」

「はい。色々考えてみたんですが、私には矢文以外の渡し方ができませんでした」

「手渡せぇぇぇぇぇっ! 郵便でもいいじゃないか! なにをダイレクトにアタックしてるんだよ! 文字通り攻撃してんじゃねえか! 普通に傷害事件だぞ! だからランスと盾もってきたんじゃねえか!?」

「立派なランスです……」

 

 一歩間違えたら別な意味に聞こえそうなことを、鎧姿でモジモジしながら言うなぁぁぁぁぁ!

 

 ていうか騎士のほうも矢は抜けよ! なんで刺さったまんまなんだよ!

 

「畜生! 俺の依頼者はなんでこうも変態ばっかなんだぁぁぁぁぁ!?」

 

 俺が騒いでる間に、騎士はスーザンの眼前にまで近づいてきた。

 

 そっと距離をとる俺たち。向かい合う二人の間では、まるで嵐のように二人の覇気がぶつかっているように感じるほど異様な空気をかもし出している。

 

 これを見て、告白のシーンだなんて思う人が、この世に何人いるだろうか。絶対決闘としか思えないって。

 

 先に動いたのは、騎士の方だ。騎士は勢いよくランスを地面に突き刺すと、懐から手紙を取り出した。ていうか一連の動作が澱みない。あいつも結構できそうだ。

 

「……手紙、読ませてもらったよ。素敵な矢文だった。僕ともあろうものが、隙をみて射抜かれるなんて……たいした弓矢だね」

 

 なんだろう。凄くツッコミたいのにうまく言葉にできない。

 

「そ、そんな……私はただ夢中で射抜くことしか考えてませんでした。……堀井くん」

 

 普通にとったら殺意しか感じられないことを、こんなにも乙女チックに言うとは……ていうか、あの騎士、堀井って言うんだ。

 

「……頭がどうにかなりそうだ」

 

 額に手を当てて呻く俺に対して、部長の瞳は感動ドラマを見ているかのように少し潤んでいる。なに? これで混乱する俺がおかしいの?

 

「ぼ、僕でよかったら、キミとお付き合いしたいな」

「ほ、堀井くん……うぅ、よかった。うぅ……」

「スーザン……」

 

 歓喜の涙を流していると思われるスーザンを、やさしく抱きしめる堀井くん。鉄と鉄がこすれる音が、まるでドラマのBGMのように公園に響く。

 

「ああ、素敵な鎧だね。ぜひ、手紙に書いてあった『五輪の書』について語り合おうよ」

「堀井君こそ、固くて立派な鎧だわ……宮元武蔵の二天一流をお話したかったんです……お二人とも、ありがとうございました!」

 

 そういい残して、二人は手に手を取り合って、どこかへ歩き出していった。

 部長は笑顔で、それを祝福していた。本当に尊敬します、部長。

 

 …………これも、カップル成立の一つにカウントしておくべきかな?

 

 

 

 

 

 後日、俺の元へ鎧武者姿のスーザンと、甲冑騎士姿の堀井くんの仲睦まじい写真が送られてきた。幸せそうで結構です。

 

 しかし、こないだテレビで『○○市に夜な夜な現れる鎧武者と甲冑騎士! 怨霊に包まれた恐怖の街!』なんていう怪奇特集がやってたけど……

 

 デートも結構だけど、普通なファッションで昼間にしようぜ、スーザン。

 

 で、カップル成立の代価は、堀井君のもっていた例のランス。現在は部室の隅に置かれていて、たまに木場がもって喜んでいる。騎士だからかな。

 

 まあ、何はともあれ、契約は無事完遂。今度こそ……今度こそ心置きなく……

 

 部 長 の オ ッ パ イ が 揉 め る ! !

 

 幸い、今は部室内に俺と部長の二人だけ!

 

 勇気を出せ! 俺!!

 意を決して部長に歩み寄ると、部長はいつもどおり優雅に微笑む。

 

「なあに、イッセー?」

 

 ……俺は生唾を飲み込み、例の件について言及する。

 

「ぶ、部長! 例の約束を……」

「例の約束?」

 

 部長は悪戯っぽくクスクスと笑う。うおおお、楽しんでらっしゃる! そんな様子がまた可愛い!

 

「お、おぉ、オッパイです!!」

「うふふ、わかってるわ。そんなに深刻そうな顔をしないの」

 

 部長は指先で魔方陣を展開させると、それを扉へ放ち、次に両腕を腕に上げて、艶めかしくポーズをとった。

 

「さあ、これで誰も入ってこないわ。今からこれは貴方の胸よ。思う存分、好きになさい」

 

 う……うおおおおおおおおおおお!!

 

 す、素晴らしい……なんなんだコレは……俺、生死の境をさまよって、幻覚を見てるんじゃないだろうか……。

 

 真っ赤に頬を染めた部長がこれまた悩ましく素敵だ!

 

 落ち着け……ゆっくりと、丁寧に、ソフトに……恐る恐る手を、美しきお胸様に伸ばし――

 

 !?

 

 突如感じた直観で、サマーソルトでその場を飛びのくと、さっきまでいた場所が『裂けた』。

 

 そこには、紫色の空間に無数の目と道路標識が漂う光景が見えた。

 

 その『スキマ』を操る存在を、俺は一人しか知らない。そして、それが次にどんな行動に出るかを瞬時に理解した俺は、更にその場を飛びのいて、空中に足場を作ってそこに跳びの――ろうとして、そこへ開かれたスキマに入り込みそうになったが、ギリギリで空間内に足場を作り、ジャンプして跳びで――ようとして、ベルトに何かが引っかかり、そのまま引きずり込まれた。

 

「うおおおおおおおお!! 部長のおっぱいがあぁぁぁぁぁ!!」

 

 無力な俺にできたのは、叫ぶことだけだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。