ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

32 / 96
毎度お待たせいたしております。

アニメが始まるまで待とうか迷いましたけど、結局はオリジナルをはさむ路線で行くことにしました。


Life.32 食材、いただきます!!

 俺以外の二人が無事に使い魔との契約を終えて、帰りの魔方陣を会長が展開している最中、俺はふと気になっていたことをザトゥージに聞いてみた。

 

「そういえばザトゥージさん。さっき、森を荒らす妙な生き物がいるって聞きましたけど、それってなんなんですか?」

「ん? いや、俺も話に聞いただけなんだが、黒くてでかい牛みたいな生き物が森の食料や動物を手当たり次第に食い漁ってるらしいんだぜぃ。一度、中級悪魔がそいつを使い魔にしにいったんだが、死に掛けて戻ってきた」

 

 中級悪魔を殺しかける、黒くてでかい牛……なんか引っかかるものがあるな。

 

 ……!

 

 『それ』の気配を感じた瞬間、神器を出して走り出し肉体強化の呪文を唱える。

 

「ラウザルク!」

『Ride!』

 

 加速は一段階だけ。0.1秒にしかならないが、時間が無い。これで行く!

 

Acceleration(アクセラレーション)!!』

 

 ドンッ!

 

 超加速の世界で地を蹴り、会長を抱きかかえてその場を飛びのくと、すぐさま時間の流れが元に戻る。

 

Start(スタート)

 

 あっ! ドサクサに紛れておっぱい触っちゃった! 大きさでは部長が遥かに上だけど、感触という点では会長も負けてない!

 

 ドゴォォォン!

 

 桃色。いや、乳色の思考で一杯になっていた俺の背後で轟音が響き、黒い巨体が地面にめり込んだ頭部を持ち上げる。

 

 バオォォォォッ!

 

 この鳴き声。黒い体毛に覆われた巨体。そして旨そうな匂い。間違いない!

 

「バロバイソン!」

 

 名前を呼ばれたことが分かったかのように、大きく裂けた口から唸り声とともに牙を晒してこっちを振り向く。

 姿形は俺の記憶にあるバロバイソンとほぼ同じだけど、段違いにでけぇ!! 俺の知ってる奴より二周りはでかいぞ!

 

 強烈な視線はそれだけで押しつぶされそうな圧力を感じ、息をするにも不自由する。ただでかいってだけじゃない。ガララワニは恐竜みたいなもんだったけど、こいつに至ってはもう恐竜どころか怪獣と呼んでもいいくらいだ。

 

「会長。皆のところへ行って、少し離れるように言ってください」

「ひょ、兵藤君……一人で戦うつもりですか?」

「いいから早く。それと、手出し無用とも伝えてください」

 

 名残惜しいけど会長のおっぱい、もとい身体から手を離してバロバイソンに向かい合う。

 会長が離れたのを確認して、赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)を解放する。

 

Maximum(マキシマム) Drive(ドライブ)!』

「ラウザルク!」

 

 同時に肉体強化をかけて、正面から突撃する! 顔面を殴り飛ばし、後方に飛んでいこうとする牛の尻尾を捕まえ、思い切り地面へ振り下ろし、巨岩のような巨躯を横から叩きつけた。

 

 ドゴォォォン!

 

 止めを刺そうとするが、奴はたたきつけられた反動を利用して、俺目掛けて大口を開けて跳ね上がってきた。横に飛んで回避すると、再びバイソンは頭から地面にめり込んだ。

 

「バオウ・クロウ・ディスグルク!!」

 

 呪文を唱えると、俺の身体から放たれた雷によって、掌に雷の紋章が記されたバオウの腕が具現化される。右腕をバイソンの方へ向けて振り下ろすと、それにリンクして胴体目掛けて龍の腕が振り下ろされる。バロバイソンはめり込んだ頭を前へ振る要領で飛び上がり、爪の一撃を回避する。

 

 でかい図体に似合わず俊敏さは並のバロバイソン以上か。さっき殴った時の感触からして、耐久力も半端ない。二つのクレーターを見る限りパワーも滅茶苦茶だ。

 

 だけど……それ以上に気になるのは、こいつの『味』だ。ただでさえ『グルメ界の人間界』では有数の旨さをもったバロバイソン。その肉の味は、思い出すだけで涎が止まらない程。巨大な身体から香る芳醇な香りに、俺の食欲は刺激されまくってる。

 

『Ride!』

 

 ギャリン! ギュイン!

 

 加速を始めてから、両手を上げて手刀の形にしてから胸の前で二回こすり合わせ、合掌して呟く。

 

「この世の全ての食材に感謝を込めて――いただきます」

 

 バオオオオオ!!

 

 雄叫びを上げながら、バロバイソンが突撃してくる。牛の分際でバオウみてえな鳴きかたしてんじゃねえ!!

 

 自分の数倍の大きさを持った牛が弾丸のような勢いと速度で突っ込んでくる。並みの生物なら成否を度外視してでも回避を優先するべき状況だが、可能な限りの平静を保ってその動きに呼吸を合わせる。

 

Acceleration(アクセラレーション)

 

 雷龍帝の迅雷(ライディング・ギア・アクセル)を発動させ、すかさずバロバイソンの顎の下へ左手を全力で突き込む。

 

 ズドォッ!!

 

「ぬあああああああ!!」

 

 顎に突き刺さった左腕でバロバイソンの巨体を持ち上げて、右手の手刀を首目掛けて振り下ろす!

 

 ズバン!!

 

 血の滴る左手を引き抜き、再び両手をこすり合わせて合掌する。

 

 ギュイン! ギャリン!

 

「ごちそうさまでした」

Start(スタート)

 

 ドオオオオオン!!

 

 胴と頭の離れたバロバイソンが背後で落下する。俺は肉への期待から思わず笑顔になって、皆のほうへ振り向いた。

 

「さあ、食おうぜ!」

 

 緊張の糸が切れて身体の力が抜けたのか、誰かの腹の虫が鳴り響いた。

 

『ギャオオオオオン!』

 

 あ、俺のだ。

 

 

 

 

 

 丸焼きにしたバロバイソンを皆で囲いながらの食事。数トンは下らない肉をほぼ平らげた辺りで、今度は俺の携帯が鳴る。この着メロは神さんか。

 

「はい、もしもし。理想の使い魔を電気トカゲに焼き払われたイッセーです」

『どうせスライムとか触手辺りだろ。焦げ目が意外と旨いんだよな。あいつら』

 

 一瞬で察してくれる貴方に安心します、師匠。

 うぅぅ、スラ太郎、触手丸……。そのうちお前らの同属も俺の胃に収めるからな。

 

『使い魔ってことは、いま使い魔の森にいるのか。ならちょうどいい』

「丁度いいって、何のようですか?」

『……バロバイソンと象熊が、その森にいるらしい』

 

 ――――

 

「バロバイソンに、ぞ、象熊……ですか?」

 

 バロバイソンはさっきしとめたけど、象熊までいるだなんて。下手すりゃこの森が地図から消えるぞ。

 

『目撃証言やその他諸々の情報を鑑みるに、そうと考えて間違いない。グルメ界から迷い出てきたんだろう。誰か行かせようと思ってたけど、いるんなら丁度いい。お前がやれ』

「いきなりですか!? バロバイソンはともかく、象熊は……」

『デュリオはつかまんないし、サイラオーグと刃狗(スラッシュドッグ)は別件で仕事してる。他の面子も出払ってて、現状動けるのはお前だけなんだよ。二匹とも骨とかのサンプルさえ取れば食っちまっていいから、任せたぞ』

 

 話が終わるなり即座に通話が途絶え、ツーツー音を放つ携帯から耳を離してため息を吐く。

 

 ああ、畜生。こうなったらやるしかない。

 

「皆、ちょっと聞いてください」

 

 立ち上がって声をかけた俺に、全員が食事の手を止めて視線を集中させてくる。バロバイソン以上に危険な生物がこの森にいて、これからそれを退治しにいくことを伝えると、ナプキンで口を拭った部長が口を開く。

 

「そう。ならお肉もほぼ無くなったことだし、出発しましょう」

「え……みんなついて来る気ですか!?」

「ええ、もちろん」

「あれ以上の化け物を一人でだなんて、流石にイッセー君でも少々危険ですわ」

 

 当然といった感じで頷く部長に、朱乃さんが同調する。心配してもらえるのは嬉しいですけど……。

 

「グルメ界の猛獣は魔力や魔法に耐性を持ってて、象熊くらいになると部長の破滅の魔力でも通用するか怪しいくらいなんですよ?」

 

 俺の呪文は、心の力でドライグの炎やバオウの雷を具現化しているものだから、グルメ界の生物にも効くだろう。けれど、普通の魔力や魔法じゃあ、相当な出力をひねり出すか、よほど上手く扱わないと有効打にはなりにくい。

 だからグルメ界の猛獣に対しては、部長や朱乃さんより木場や小猫ちゃんのほうが太刀打ちできるだろう。とはいえ、物理的な攻撃力でいえば俺が一番強い筈だ。

 

「それでも、人数は多いに越したことはないわ」

「だけど……」

 

 本来、バロバイソンの捕獲レベルは19だけど、さっき戦ったやつは50は下らなかった。それに対して、象熊の捕獲レベルは55。これがバロバイソンのように平均以上の強さなら……皆を気にかけている余裕はない。

 

 そのことを告げようとした俺の手をとって、部長はまっすぐなまなざしで俺の目を見つめてきた。

 

「あの牛でさえ、イッセーを除いた私達全員では分が悪いでしょうね。そんな私達が、あれ以上に強い相手と戦う貴方についていくのが無茶だとも理解しているわ。それでも、絶対に足手まといにはならない。だからお願い、せめて戦う貴方を見守らせて」

 

 完全に覚悟を決めた目をしている。他のみんなも、ライザーとのゲームの時に勝るとも劣らない覚悟を感じられる。とても俺如きが説得できるとは思えない。

 

「……わかりました。けれど、止むを得ない場合を除いて皆は攻撃しないでください。象熊はそれだけ危険なんです」

「ええ、わかったわ」

 

 バロバイソンの角をへし折ってサンプルを取った後、遺骨を纏めて埋める等の後始末が終わると、シトリー眷属が帰還用の魔方陣を展開しはじめた。魔方陣を背に、会長がすっとお辞儀する。

 

「見学したいとも思いましたけれど、あれ以上の強敵となると私達では蚊帳の外でも身を守れるかわかりませんからね。リアス、グレモリー眷属の皆さん。ではまた、学校で」

「ええ、また」

 

 優雅に挨拶を交わすと、会長は今度は俺のほうへ顔を向けて、にっこりと、雪解けみたいな笑顔を見せてくれた。

 

「兵藤君、今日は色々と勉強させてもらいました。お肉もとてもおいしかったです。ごちそうさまでした」

 

 それだけ言って、会長は生徒会メンバーと魔方陣へ入っていく。匙の視線が滅茶苦茶恨めしげだったのが、やたら頭に残っている。

 

 その後、森の奥へと入っていくんだけど、部長とアーシアがなぜかふくれつつも俺の左右の腕をとってくっついて来た。他の三人は、笑いながら俺の後をついて来る。

 

 ちなみにザトゥージにはメシを食ったらさっさと帰って貰った。

 

 

 

 

 

「そういえば、イッセー。あの技に名前はないの?」

 

 しばらくして、俺の右腕に腕を絡ませながら部長が聞いてきた。

 

「あの技?」

「……これです」

 

 小猫ちゃんの両手をこすり合わせる仕草で合点が行く。ああ、あの手刀か。

 

「別に名付けるほどでもないでしょう」

「けど、今までも覇皇連衝拳! とか、轟覇機神拳! とか叫んでたじゃないか」

 

 ガッツリ覚えてんのか。叫ぶ姿がいちいち様になってるんだよ、このイケメンめ。

 

「アレは覇気を解放する掛け声みたいなもんで、大技のときくらいしかやらねえよ。要は気合の掛け声さ」

「なら、あの技にも何かしらの名前をつければ強くなるんじゃないんですか?」

 

 部長と反対の腕を抱きしめるアーシアが、部長と俺へそう言った。まあ、かもしれないけど。

 

「そうね。けれどモーションの小さい技だから、できるだけ短いほうがいいわね」

「う~ん。それもそうですけれど、技の前のあの仕草、何かを思い出しそうな……イッセー君、ちょっとやってもらってもよろしいですか?」

「ええ、わかりました」

 

 腕にしがみつく二人に離れてもらい、両手をこすり合わせる。

 

 ギャイン! ギュイン!

 

 金属をこすり合わせたような音を響かせ、合掌する。

 

「この世の全ての食材に感謝を込めて、いただきます」

 

 すると、小猫ちゃんがポンッと掌を拳で叩いた。なんだ、ナニをひらめいたの?

 

「……ナイフとフォーク」

 

 呟かれた単語に俺はきょとんとするが、周りの皆は一斉に湧いた。

 え? まさかそれって、俺の技の名前? 

 

「そう! それよ! これ以上無くふさわしいわ!」

「はい! とってもお似合いです!」

「古いアニメとかで食事前にナイフとフォークをこすり合わせるというのがありましたけれど、まさにそれですわ」

「うん、そう思うと他に考えられないな。いただきますとごちそうさまも言ってるし」

「……短くて、テンポがよくて、語感もぴったり」

 

 皆がみんな納得する中、俺だけ置いてけぼりにされている。ていうか俺の技の名前だよ!? 本人の納得を置き去りにするってどうよ!?

 

「ちょ、待ってくださいって!! 俺の意見は!?」

「あらあら、それじゃあイッセー君はどんなのが思いつきますか? 仕草にあっていて、イメージがぴったりで、短く語感のいい名前で」

 

 うお! 朱乃さんがSだ! 目が興奮気味でちょっと怖いけど赤くなった表情と色っぽい視線がたまんねえ!

 

 いやいや、冷静になれ、俺よ。ここで引けば、俺は向こう一万年近くをナイフ、フォークと叫んで手刀を振らないといけないんだぞ。冷静になって考えれば……。

 

 ………………。

 

 だめだああああ!! 完全にハマっちまってる! むしろ、なんで今までそう呼んでなかったのか自分で不思議なくらいだ! 絶対神さんとか裏でそう呼んでたに違いない、あの人そういうの好きだもん!

 

「納得していただけたようですわ」

「それじゃあ、一応多数決で決めましょうか。こういう事はちゃんとしないとね」

 

 うわああああん。部長までSになってるぅぅぅ!? 小猫ちゃんとアーシアもニコニコしてるし、可愛いなもう! だが木場ぁぁぁぁ!! テメェまで笑ってんじゃねえ、燃やすぞ畜生!

 

「イッセーのあの技の名前は、今後はナイフとフォークがいいと思う人ー」

 

 全員が迷い無く手を上げる中、俺も数秒遅れておずおずと手を上げる。

 

「満場一致ね」

 

 楽しそうに笑う部長。そんな嬉しそうな笑顔じゃ、何も言えないじゃないですか!

 

 でもまあ、時間の問題だったんだよな。そういうことにしよう。これは断じて負け惜しみなんかじゃないぞ!

 

 無言で歩き出した俺に、慌ててそばによってきた部長とアーシアが再び腕を絡めてくる。二人のおっぱいの感触に絆されつつ歩き続けていると、今度はアーシアが口を開いた。

 

「イッセーさん。さっきから言っていた、グルメ界ってなんなんですか?」

 

 ああ、そういえばそれに関してはなんの説明もしてなかったっけ。

 

「冥界や天界と同じ、異世界の一つだよ。師匠が次元の狭間でそこへの道を見つけて最初にたどり着いたって言ってたんだけど、放っておいたら不意にどこと繋がるか分からないから、冥界の一つと空間をつなげたらしいんだ」

「ふぅん。お兄様から聞いていたけれど、本当に人間離れしているわね、貴方の師匠。それで、そこは一体どんな世界なの?」

「まあ、簡単に言えば名前の通り、食の世界ですね」

「食の世界?」

「ええ。酒の海に米の砂漠。タラバガニの身肉が実る木に、ブランデーが湧き出る泉。お菓子の家どころか、プリンでできた山。これ以外にも数え切れないほどの食材が存在する、まさに天地全てが食で出来た世界。さっき食ったバロバイソンも、そんなグルメ界の食材をたらふく食ってたからこそ、あの旨みがあるんです」

 

 俺の語るグルメ界にバロバイソンの肉の味を思い出したのか、皆揃って唾を飲み込む。小猫ちゃんに至っては、かつて無いほど俺に羨望のまなざしを向けている……。その内何か持ってきてあげるか。

 

「すごいですわ。まさに楽園のような世界……」

「それがそうでもないんですよ」

「え?」

 

 夢心地で呟いた朱乃さんの楽園という言葉を、きっぱりと否定する。あそこはそんな、単純な世界じゃない。

 

「グルメ界は確かに旨い食材で溢れています。けれど、さっきのバロバイソンのような強靭かつ凶暴な猛獣や、常時変化する異常な気象、環境。そこは百分の一秒の油断も無く、限界まで集中力を高めた状態を基本とする弱肉強食の世界。今の俺なら一瞬で死ねます」

 

 天国と地獄がごちゃ混ぜになっている。神さんはグルメ界をそんな風に言っていたけれど、まさにその通りだ。

 

「で、そんなグルメ界の中で、比較的人が住めそうな環境の土地を人間界と呼んでいて、神さんはそこを拠点にグルメ界の食材を研究しながら、食材を捕獲する『美食屋』を育成しているんです」

 

 俺もその一人だけど、今はまだ休業中みたいなもんだからなぁ。

 

「その美食屋は、ざっとどれくらいいるの?」

「少数精鋭ですから百人は超えませんけど、みんな腕利きですよ。と言っても、さすがにグルメ界に入れる奴は限られてて、今はサイラオーグさんとデュリオ、それから刃狗(スラッシュドッグ)の三人ですかね」

 

 本当は後二人いるんだけど、今はあっていないし、どこにいるのかも分からないからな。

 

「サ、サイラオーグ!? 彼も美食屋なの!?」

「部長、サイラオーグさんを知ってるんですか?」

 

 まあ、上級悪魔同士だから面識があってもおかしくはないか。

 

「知ってるも何も、彼は私のいとこよ」

「え!!」

 

 そ、そういえば一度、そんなことを本人と話したことがあるような……。

 

「ちなみに、この間の婚約会場にも来ていたわよ」

 

 マジですか!? いくらライザーをぶっ飛ばすことと部長のことしか頭に無かったとはいえサイラオーグさんに気づかないだなんて。まあ、あの豪放磊落を地で行く人なら、きっと笑ってただろうけど。

 部長に続いて、アーシアが恐る恐るといった感じに言った。

 

「あの、デュリオってもしかして、デュリオ・ジェズアルドさんですか?」

「あー、確かフルネームはそんな名前だったよ」

「えええ! あ、あの最強のエクソシストと名高いあの方が!?」

 

 そういえばそうなんだっけ。本人自覚が薄いとか笑ってたけど。あんな暢気で食い気が大きいやつとあのフリードが同じエクソシストだなんて、未だに信じられないな。

 更に、木場も何かが引っかかった様子で聞いて来る

 

「刃狗って、確か堕天使陣営の人だよね?」

「ああ、堕天使の神滅具保有者の一人だ」

 

 その割には妙に影が薄いんだよな、あいつ。未だに本名も教えないし。後、同僚で嫌いな奴がいるって愚痴りまくってたっけ。

 

「……エクソシストや堕天使側の人間と、よく一緒にいられますね」

 

 皮肉気にため息をつく小猫ちゃん。相変わらずキツイなぁ。日々貢いでいるお菓子の効果はないんだろうか。

 

「といわれても、悪魔になってからは会ってないからなぁ……それに美食屋の目的は美味いものを探すことだからさ。いがみ合うよりも和気藹々と食卓を囲んだほうが、メシは旨いだろう?」

「うふふ。それはそうですわね」

「……まあ、確かに」

 

 にこやかに笑って頷く朱乃さんにほだされたのか、小猫ちゃんも同意してくれる。それを見て、他の皆も柔らかく微笑む。

 

 けど、そんな空気が一変したのは、ほんの一瞬後だった。

 

 突然開けた場所に出たのかとも思ったけど、それは違う。枯れ木どころか、雑草すら見当たらない荒野が延々と広がっている。まるで噛まれた煎餅のように、森がそっくり消えていた。

 

「……これは?」

 

 誰かが何とか搾り出した疑問に、俺が答える。

 

「象熊だ」

 

 その単語で、皆が息を呑む。真偽を問われる前に、俺はその証拠を指し示す。

 

「あの爪跡、あれは象熊が縄張りを示すマーキングです。つまり、象熊はもう活動している」

「それって、どういうことなんだい?」

「象熊は一生の大半を巣で過ごし、数年に一度、数日だけ外に出る。その数日で数年分の栄養を蓄える程の食材を食べて、再び巣に戻るのが象熊の生態だ。だけど普通の食い物とグルメ界の食材じゃあ、グルメ界のほうが栄養は段違いに高い上に、そもそも量が違う。そして、象熊は食えないものなんて無いと言っていいくらいの雑食性だ。森の食い物や動植物で飢えを凌ぎきれず、木や草まで平らげたんだろう。もっとも……」

 

 ズゥン。

 ズゥン。

 ズゥン。

 

「それでも全然足りなかったみたいだけどな。エサを見つけたら即座に出てきた辺り、相当飢えてるみたいじゃないか。なあ、象熊よ」

 

 振り向いた俺の目の前にいたのは、サイズを除けば確かに象熊に違いなかった。白い体毛に覆われ、ケンタウロスのような四足の象の下半身と、熊のような鋭い爪を備えたたくましい上半身、牙と長い鼻を持った生き物。だけど、そのサイズがとんでもなさすぎる。バロバイソン以上に、元々の大きさからかけ離れている。

 

 ビルとでも見まがうような巨体から放たれる殺気に、震えるどころか身じろぎ一つできないほどに固まっている部長たちに、俺は震えながら声をかける。

 

「みんな。さっきみたいに安全な場所へ下がっててください」

「イッセー……これは無理よ。逃げましょう、今すぐに。アナタが幾ら強くても、これは手に負えないわ」

 

 搾り出すような小さな声だったけど、言葉がだせるだけ、完全に固まりきってる他のみんなよりはマシだ。けれど、無理も無い。耐性もなしにこんな化け物を前にすれば当たり前だ。むしろ部長が精神的に強すぎるというべきだろう。

 

「早く。あいつはどうも俺を狙ってるみたいですから、みんなが離れるまで位の時間は稼いで見せます」

「なにを……アナタだって、震えているじゃない」

 

 今更過ぎる指摘をしつつ、部長もようやくといった感じに身体が震えだした。けれど、それと同時に俺の口からは涎があふれ出る。

 

「ええ、怖いですよ、震えるほど。死にたくなくて、今すぐ逃げ出したいくらいです。けれど……」

 

 ゆっくりと象熊のほうへ歩きながら、みんなから離れる。間違いなく狂気染みた眼をしていると確信しつつ、よだれを拭いながら偽らざる本音を叫ぶ。

 

「世界一美味い熊、通称マンモスベアー、象熊。――味への好奇心が、死の恐怖を凌駕する!!」

 

 バロアアアアアアアアアア!!!

Maximum(マキシマム) Drive(ドライブ)! DriveⅡ(ドライブツー)!! DriveⅢ(ドライブスリー)!!!』

『Ride!』

 

 爆弾のような象熊の咆哮と神器の強化と加速の音声。ほぼ同時に鳴ったそれが、なによりふさわしい合図だった。

 

 振り下ろされる腕を飛んで回避すると、すぐさまもう一方の腕が飛んでくるが、それを寸前でいなし、予想通り向かってきた鼻の一撃を受ける直前、覇気の足場を蹴って後ろへ飛び、衝撃を殺しつつ離れ、電撃を放つ。

 

「テオザケル!」

 

 ドガラアアアッ!!

 

 だが、直撃する電撃を気にする様子も見せず、即座に象熊が突っ込んでくる。中級の呪文ったって、上級悪魔にも効いたくらいの電撃だぞ! やっぱりこいつもバロバイソンと同じ、並みのやつより遥かに強い!

 

 巨体から繰り出される体当たりを上に飛んでかわすが、象熊が俺へ向けて口をあけた次の瞬間、予想だにしない衝撃を受ける。

 

 バロアアアアアアアアアアア!!

 

 ドアアァァ!!

 

「ぐあああああああ!?」

Reset(リセット)

 

 なんだ!? やつが叫んだ途端、物凄い衝撃で叩き落された。まるで爆弾を投げつけられたみたいな……。しかも加速がリセットされちまった。

 

 考える暇もなく、象熊が吼えるたびに凄まじい衝撃が襲ってくる。まさかこれは……音!? あいつ、声を衝撃としてぶつけてきてるのか!?

 グルメ界のブレスドラゴンは鼻腔から、圧縮した空気を砲弾のように飛ばしてくるけど、声を飛ばす生き物なんか聞いたことないぞ! 超音波で無差別に周囲を破壊するならともかく、音の爆弾を飛ばすだなんて、滅茶苦茶すぎるだろ!

 

「舐めんなこの野郎ォ! フライングフォーク!!」

 

 さっき名付けてもらったフォーク。遠距離に飛ばすからフライングフォークだ! それを連射する!

 

 ズアッ!

 

 ほとんど命中したが、まるでダメージになってない!! 遠距離でアレじゃあ、近づいてのナイフとフォークも効くかわかんねえぞ! 今はかわすしかないけど、このままだと間違いなく消耗したところをトドメを刺される! 加速がたまるのを待って一気に仕留めるとしても、この攻撃の激しさじゃ、近づくどころかいつまでも持ちこたえられない!

 

「イッセー!!」

 

 ドォンッ!!

 

 見かねた部長が全力の消滅波を象熊へ叩き込むが、気にもせずに俺への攻撃を続ける。予想以上だ……部長の消滅の魔力でもまるで効かないとなると、俺以外のみんなの攻撃じゃ到底歯が立たない。

 

 もう一度、今度は部長だけでなく、朱乃さんの最大級の雷、木場も可能な限り最強の放出系の魔剣を作り出し、一斉に象熊へ放つ。それでもやはり象熊は揺るがなかったが、うっとおしさを覚えたのか、声を一発みんなのほうへ撃ちだした。

 

 ドォォォン!

 

 前にでた小猫ちゃんが部長と一緒に防御壁を張るが、あっさりと破られて皆が吹っ飛ばされる。だけど、目立ったダメージは無いようだ。象熊も既にこっちへの攻撃を再開してるし、これなら

 

 ……うおあ! じょ、女性陣の服が奇跡的な破れ方をしているぅぅぅ!! 何故主に下半身!? まさかあの象熊の趣味か!? 部長のふとももが! 朱乃さんのおしりが! アーシアのか細い足首が! 小猫ちゃんの健康的な脚線美がぁぁぁぁぁぁ!! 木場の姿には特記事項なし。生きててよかったなイケメン。

 

 ……ん? 足? ――足!? 

 

 ……もしかしたら、いい新技思いついたかもしれない。上手くすれば必殺技になる!! 

 

 かといって、今のままじゃ威力が足りるか分からない。こうなったら……

 

「ドライグ! 残ってる鎧の制限時間は!?」

『やるか、相棒! ざっと一分だ、速攻で決めろ!」

 

 よし! やるぜ!!

 

「この世の全ての食材に感謝を込めて……いただきます。――燃えろ! ブーステッド・ギアァァァァッ!!」

Welsh(ウェルシュ) Dragon(ドラゴン) over(オーバー) booster(ブースター)!!』

 

 全身を包む、赤い鎧。漲る力を実感しながら、ジェット噴射で一気に接近する!! 何発もの音の爆弾がぶつかるが、この鎧はそんなもんじゃビクともしねえ!

 

 真正面をとり、サッカーボールを蹴るように足を振りかぶる俺に危機感を覚えたのか、腕で叩き落そうとする象熊。その腕へ向かって、全力で足を振りぬいた。

 

「レッグナイフ!!」

 

 思いついたばかりの技。腕でできるなら、その三倍以上の力をもった足でもできるんじゃないかと思った必殺技は、確かに、だけど思った以上の威力を見せた。

 それだけで俺の体積の五倍はあるだろう象熊の腕を切り飛ばしただけでなく、地面まで地割れでも起きたかのように切り裂いた。それじゃあこいつはどうだ!?

 

「レッグフォーク!!」

 

 象熊の胴体へ叩き込まれたそれは、胴体に複数の穴を開けて、確実に深刻なダメージを与えた。だが……

 

 バロアアアアアアアアアアアアア!!

 

 天へと叫んだ象熊の口から、目に見えるほどの音の塊が飛び出す。それは空中でどんどん膨張していき、弾けて降り注いだ。爆弾の次は、音の落雷か!

 

 ズガアァァァァン!!

 

「う、ぅああぁぁあああああ!!」

 

 衝撃は鎧で多少防げるが……お、音そのもののストレスが半端じゃねえ。気でも失ったら即座に食われちまう、しっかりしろ!

 

 落雷が止み、俺もやつもボロボロの状態で相対する。

 

 象熊は見ての通り、腕も吹っ飛んで胴体も穴が開いている様。出血も相当だろう。

 対する俺は、鎧のおかげで外傷こそ少ないが、度重なる音の衝撃で体中がかなりガタついてる。頭も音の所為でガンガンする。

 

 そんな状態でも、俺達は迷いなく戦いの続行を選んでいる。戦意の源泉は、食欲から来る純粋な殺意。それは、殺伐としているにも関わらずどこか清清しささえ覚えるほど澄んだ感情。

 

「……俺が喰いてえか? 俺もお前が喰いてえ!」

 

 唸る象熊に、ありのままの気持ちを叩きつける。そして、先に動いたのは象熊だ!

 

 突き出される爪を受け止め、同時に振るわれる鼻を!

 

「ドライグ・アギオ・ディスグルク!!」

 

 炎によって俺から形作られたドライグの頭が、俺の動きと連動して象熊の鼻を食いちぎる。やっぱうめえな、お前は!!

 

 痛みにひるんだ象熊の懐へ飛び込み、全力の全力を振り絞って、両腕を構える。これもおもいつきだけどな!

 

「二十五と、二十五……あわせて……五十蓮!! 覇皇連衝拳!!!」

 

 ズドドドドドオオオオオン!!

 

 重なる衝撃で象熊が吹き飛ばされ、地面に激突する。そして、リミットを越えた俺の鎧も解除される。だが象熊は再び立ち上がり、緊張が走るが……

 

 ドゴォォォォォォン!

 

 地響きを鳴らして倒れこんだ象熊。警戒しつつ近づいた俺は、象熊の息の根が完全に止まっていることを確認してから、みんなのほうへ振り向いて

 

 笑いながら、気絶した。

 

 

 

 

 

 ガヤガヤとした騒ぎ声。まともに音が拾える辺り、聴覚は元に戻ったらしい。なんだかやけに後頭部が心地よい。おまけに物凄い美味そうな香りまでしてきた。

 恐る恐る、目を開けてみると……。

 

「お、起きたかイッセー」

 

 なんか師匠がいた。巨大な鉄板の上で、切り分けられた象熊を焼いてる真っ最中だ。

 

「イッセーさん!!」

 

 アーシアが、泣きながら俺の手を取って来る。

 

「よかったです……治療しても全然目を覚まさないから、もしかしたらって……」

「そうか。また随分と心配かけちゃってゴメンな」

「いえ、いいんです。イッセーさんがご無事なら、私はそれで……」

 

 まったく、フェニックスの時といい、俺はつくづくアーシアを泣かせてばっかりだな。もっと強くならないと。

 

「本当にとんでもない子ね。あんなのを相手に、恐怖よりも食欲が勝つだなんて」

 

 声に反応して上を向くと、部長が逆さに俺の顔を覗き込んでいる。あれ? もしかして、これって……

 

「ひ、ひ、ひ」

「? どうしたの? 火が怖いなんてわけじゃないでしょうに」

「あらあら、部長。イッセーくんは、どうして膝枕を? とおっしゃりたい様子ですよ」

 

 代弁ありがとうございます、朱乃さん。いや、滅茶苦茶心地いいですけどね!! ただ理由は伺いたいなと!

 

「ちょっとしたご褒美よ。それにお詫びの兼ねて、ね」

「お詫びって……」

「言われていたのに、手を出したことさ。僕らはどう考えても、イッセー君の足手まといでしかなかったからね」

 

 ああ、象熊への攻撃か。まあ、でも言った張本人が押されてたからな。結果オーライとはいえ、おかげで勝てた面もあるし。それに眼福でした。

 

「別に構いませんよ。それより、皆無事で済んでよかったです」

「……イッセー先輩が一番重傷だったんですけどね」

 

 まあ、だろうね。

 

「腕は筋肉がズタズタに断裂して、おまけに骨折。耳は鼓膜がやられてて、ついでに全身の骨の大半に罅が入ってると来た」

「いつもに比べれば軽いですね」

「全くだな」

 

 笑いあう俺と師匠についていけず、皆若干引いていた。そんなに変かな?

 

「それはそうと、神さん。こいつは何なんですか? バロバイソンもそうですけど、間違いなくまともじゃないでしょう」

「ああ、それについてはいまのところ簡単な検査だが……どうもなんらかの人為的な操作があったようだ」

 

 やっぱりか……。二匹とも、単なる突然変異にしても異常すぎた。特に象熊に至っては、本来持ち得ない能力まで備えていた。なんらかの介入がなければああはならないだろうからな。

 

「混合種程度ならともかく、個体のグルメ細胞そのものを強化するなんて方法はまともじゃない。増してや特殊能力の付与なんて真似、どんだけの技術が必要だか。そこらの木っ端魔法使いじゃ、到底不可能だ」

 

 確かに。組織だって動くか、相当な技術をもった個人でないと、あんな改造は無理だろう。それこそ……いや、あいつはそんなつまらない真似をするやつじゃない。第一あいつがもし実験体を逃がすようなことがあれば、誰よりも真っ先に片付けるだろう。責任感と誇りの強いあいつなら。

 

「実は……氷美神(ひみか)とジェリーから、研究資料が盗まれたという連絡が入った」

「ぬ、盗まれたって、あの二人が!?」

「ああ、だからお前も気をつけろ。二人の研究は、お前の研究とも密接に関係してるんだ。むしろ重要度だけで言えば、お前のほうが深刻とさえいえる」

 

 ……確かに、アレを持ち出されでもしたら、ろくなことにならないのは目に見えてる。一応暗号化はしてあるけれど、それも時間をかけられたら……。

 

「まあ細かいことはほっぽって、とりあえずメシだメシ!」

 

 神さんの叫びで、重苦しくなっていた雰囲気が一気に粉砕された。さすが半端ないです。

 

 でも……氷美神。悪魔になった俺とあったら、お前どんな顔をする?

 

 怒るかも知れないし、嗤うかもしれないし、蔑むかもしれない。ただ、泣いても哀れんでもくれないだろうな。お前はそういうやつだから。

 

 ジェリーさんは百%嗤うだろうけどな。

 

 

 

 

 

 遠く、イッセーたちを見つめる一人の女。女は掌に乗せたフラスコ、その中にいる黒い何かへ話しかける。

 

「せっかくのサンプル。食べられちゃったけどいいの?」

『構わないさ。目的は実験だ。データがとれればそれでいい』

「確かに、基本と言ってしまえばそれまでだけどね」

『なんにせよ我々の目的は変わらない。だろう?』

「ええ、私たちの欲する最初の目標。それは――」

『「賢者の石」』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。