ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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 重龍皇の喋り方を、少し変更しました。それでも見づらいですが、仕様ということでご勘弁ください。


Life.36 『天龍』、動きました!

 次の日の昼休み。弁当を食べ進める俺に、松田と元浜が近づいてきた。

 

「今日も部活か?」

 

 松田がカレーパンを食いながら訊いてくる。

 

「ああ、球技大会に向けて練習中ですよ、俺等」

「はー、オカルト研究部でボールかよ。でも、お前んとこの部って、全員身体のスペック高いよな」

「まあね」

「それはそれとして、イッセー。お前、最近変な噂が流れているから気をつけろよ」

 

 突如、クイっとメガネをあげながら元浜が切り出す。

 

「な、なんだよ、噂って」

「野獣兵藤一誠が、美少女をとっかえひっかえにし、悪行三昧!」

「はあ!?」

 

 怪しげにメガネを光らせる元浜に呼応するように、松田が続きを語る。

 

「リアス先輩と姫島先輩の秘密を握り、裏で鬼畜三昧のエロプレイ! 学園二大お姉さまの肢体を思うが侭に、その姿を罵っては乱行につぐ乱行」

「なな、なんだそりゃぁぁぁぁぁぁ!」

 

 叫ぶ俺を無視して、さらに元浜が続ける。

 

「更にその毒牙は学園のマスコット、塔城小猫ちゃんにまで向けられ、切ない声も野獣の耳には届かず、未成熟な身体を貪り……」

「その貪欲なまでの性衝動は、転校したての一人の天使、アーシアちゃんにまでむけられ、黄昏の時間で天使を堕落させていく……。ついには自分の家にまで囲い、狭い世界で終わらない調教が始まる。鬼畜イッセーの美少女食いは止まらない――」

「……マジか? 周囲は俺をそんな風にみているのか!?」

 

 そっと周りを見渡してみると、男女共に軽蔑と敵意の色が見える。ち、ちくしょう! 誰がそんな噂を!

 

「まあ、俺たちが流してるんだがな」

「うんうん、ついでに木場とのホモ疑惑も流しておいた」

「多感なイッセーの性欲は同性のイケメンにまで!」

「一部の女子に大変人気です。きゃー、受け攻めどっちぃ?」

 

 悪びれもせずに堂々と暴露する悪友共。信じられるか? 友達なんだぜ、こいつら。とりあえず、無言でシバく。

 

 ゴッ! ドゴッ!

 

「痛いぞ、鬼畜」

「俺たちに当たるな、野獣」

「ざけんじゃねえ! いっぺん死んで見るかゴラァ!!」

「ふん! このくらいしないと、嫉妬で頭がイカレてしまうわ!」

「いや、既にイカレているかもな!」

 

 最悪だ、この野郎ども。友達でなきゃボコボコにしてるぞ。

 

「なあに? 三馬鹿トリオが性欲に任せてエロトーク?」

 

 突如割って入った声に振り向いてみると、声の主はアーシアを伴ってすぐ近くに立っていた。

 

「桐生」

「藍華」

 

 名前を呼ばれた張本人は、隣に立っているアーシアに苦言を呈する。

 

「アーシア。他にもいい男がいるんだから、わざわざこんなの彼氏にしなくたって」

「か、かかかかかかかか、彼氏ぃ!?」

 

 桐生の言葉にアーシアがかつて無いほど慌てふためく。そりゃあいきなりそんなこといわれりゃ当然だよな。

 

「おいおい、いきなり何言い出すんだ。単にアーシアは日本に来て日も浅いから、面倒見てるだけだって。別に彼氏とかじゃないっての」

「あれ? 違うの? でもいつもべったりくっ付いて、傍から見てるとあんたたち、毎晩合体してるカップルにしか見えないわよ?」

「「合体!?」」

 

 松田、元浜が顔と声を合わせて叫ぶ。お前ら全員少し黙れ!

 

「親公認で同居してんでしょ? 若い男女が一つ屋根の下で夜にすることといったら、そりゃねえ。むふふふ。ちなみに『裸の付き合い』を教えたのも私さ! どう? 堪能した?」

 

 なんてエロいんだ、この娘! 伊達にクラスメイトから『匠』と呼ばれちゃいないってか!

 

「あれはやっぱりお前か! ていうか合体って! 巨大ロボじゃあるまいしそんな簡単に行くか! アーシアにそんなエロい事できるわけねえだろ!」

 

 そうだ、アーシアは俺が守らないといけないんだ。え、エロい真似なんてできるか!

 

「へぇ。でもおかしいなぁ。アーシアって、いつもアンタのこと――むがっ!」

「あーあーあーあーあーっ! 桐生さぁぁぁぁん、やめてくださぁぁぁい!」

 

 かつて無いほど顔が紅潮したアーシアが、懸命に桐生の口を両手でふさいでいる。しかも涙目だ。

 な、なんだかただならぬ勢いだな。でも、女の子同士の問題に、男の俺が気軽に首を突っ込むべきじゃないだろう。

 

「と、とにかくだ。俺は――っ!」

 

 ドグン!!

 

 桐生を指差そうと振り上げた左腕が、酷く脈打つ。

 

「あ、お、俺、ちょっと用事思い出した!」

 

 いまどきテレビでもないような言い訳を吐き出して、血液が突如マグマでも変化したかのように熱くなる左腕を抱えて立ち上がり、アーシアへそっと耳打ちする。

 

「ごめん。朱乃さんのところへ行ってくる」

「じ、じゃあ、また左腕が!?」

「そう言うこと。ごめん」

 

 鱗が突き出そうな左腕を必死に抑え、俺は携帯から朱乃さんへ電話をかけた。

 すぐに電話に出た朱乃さんに、旧校舎へ行って、自分もすぐに行くから身を清めて待っていてほしいというなんとも誤解を招きそうなお言葉を頂き、俺は足早に旧校舎を目指した。

 

 

 

 

 

 シャワーを浴びた後、俺がいるのは旧校舎の二階。朱乃さんが使用している部屋だ。畳が敷かれたりして、ほとんど和室と化している部屋には、あちこちに術式の紋様が印されていて、呪術グッズのようなものまで設置されている。

 

 そんな部屋で、俺はタオルを腰に巻いただけの状態で、魔方陣の上で朱乃さんを待つ。一応儀式的に意味のあるものなんだけど、なんかそういうお店で女の人を待ってるみたいな……いやいや、今から行うのはとても真面目な儀式なんだ!

 

 ドラゴンと化した俺の左腕は、ただ魔力で形を変化させただけではすぐに元に戻ってしまう。だから、必要なのはドラゴンの力を散らすことらしい。それは高位の悪魔にその力を吸い取ってもらって、無効化してもらうこと。一番簡単で確実な方法が直接本人の身体から吸い取ることらしい。

 

 俺のしてもらっている方法は、エロ学生にとって恐ろしい程刺激的なもの。しかも俺の周囲で行えるのが部長と朱乃さんだけらしくって、二人で代わる代わるやってもらっている。

 

 定期的に吸い取ってもらっているはずなんだけど、何故か最近は今日みたいに急に力が増大することもあるから、こんな風に緊急でお願いすることが増えている。申し訳ない限りだけど……少し嬉しくもある。むふふ……。

 

「お待たせしましたわ……」

 

 そう言ってすっと入ってきたのは、白装束に身を包み、普段はポニーテールの長髪を下ろした朱乃さん。しかも相変わらず全身が濡れていて、透ける肌も張り付く黒髪も、とても扇情的かつ妖艶極まりない!

 

「す、すみません。最近いつも、突然お呼びしてしまって……」

「うふふ、イッセー君のせいじゃありませんわ」

 

 そう言って微笑むと、俺の前に回って、対面する形で膝を下ろす。そうすると朱乃さんのお姿がモロに目の前に来るわけで、そうされると、当然……。

 

 ……うおおおおおお! や、やっぱり透けてる! ぴ、ピンク色が……ていうか何でいつもノーブラなんですか!?

 

「さあ、始めますわよ」

「は、はい……」

 

 チラチラと胸元を覗く俺の視線に感づいた朱乃さんは、怒るどころか更に艶美さを増した笑みで胸元をそっと撫でる。ていうか、もしかして下も……うわ、穿いてないかも! けれど恥ずかしがる様子もなく、むしろ俺の反応を楽しんでいるかのようだ。ど、ドSだ!!

 

「今日は急でしたので、身体を拭く時間が無かっただけですわ。ごめんなさいね、こんな格好で」

「い、いえ……俺のほうこそ」

 

 むしろ眼福でありがとうございます!!

 

 左腕を差し出すと、朱乃さんがそっと俺の指を口に含む。

 

 ちゅぷ。

 

 うあっ、いつもながらに卑猥な水音が……。な、なんとも言いがたい感触が指を伝って脳に行き渡り、興奮を煽る。本当に女の子の口の中って……なんかあったかくて、ぬるっとしてて、唇も柔らかくて……猛獣の口の中とはまるで違う。いや、比べるのは失礼か。

 

 しかも指先をチューチュー吸われて、その吸引がヤバイ!

 き、気持ちいい……頭の中がピンク一色になる。素晴らしい、素晴らしすぎる!

 

 ちゅぴ、ちゅぱ、ちゅる。

 

 そんな俺の反応を楽しむがごとく、いや、むしろ指そのものの味を確かめるかのように、朱乃さんがわざとらしくいやらしい音を立てて吸いたてる。

 俺はといえば、ひたすら朱乃さんにされるがまま、吸引の快楽に身を任せている。脳内永久保存!

 

 龍の腕になってよかった。ドラゴン万歳! 二天龍最高! ドライグありがとう! 

 

 こんなエロエロなシチュエーションだが、俺の中の龍の気ともいうべきものが、俺の左腕から取り出されていく。

 同時に、左腕に感じていた熱さ、重さも軽くなっていく。それに伴って、龍の意志とでも言うべきものが薄くなっていくのを感じる。

 

 ぬちゃっ。

 

「うひっ」

 

 思わず声が出た。だって急に朱乃さんが指の腹を舐めて来るんだもん! そのまま更に指紋をなぞる様に舌を動かし、唇から指を出すと、ツーッと唾液の糸が繋がっている。うわ、エロ過ぎる!

 

「あらあら、そんなにウブな反応を見せられると、こちらとしてもサービスしたくなってしまいますわ」

「サ、サービス?」

「ええ、可愛い後輩を可愛がっても、バチは当たらないと思いますわ」

 

 朱乃さんは再び俺の指を口に含み、身体を近づけてくる。

 

 え、えぇぇぇぇぇ! ちょ、何事ですか!?

 

 困惑する俺を余所に、朱乃さんは更に距離をつめて、身体と身体を密着させる。要は抱きついてきた!

 

 あ、朱乃さんの身体全体からかぐわしい、男の熱い何かを揺さぶるような女の子特有のいい匂いが!

 

 おまけに俺は上半身裸で、朱乃さんも薄い濡れた装束一枚だから、肌の感触がほぼそのまま伝わる! 濡れた服は冷たいけれど、朱乃さんの体温が温かくて、温度差までエロく感じる!

 

 柔らかい身体だけでなく、あ、朱乃さんのお、お、おっぱいの感触まで……

 

 ブバッ!!

 

 鼻血が大量に吹き出るが、そんなもんじゃ興奮はとても収まらない! そんな状態で、更に朱乃さんは息遣いまで感じられるほど俺の耳に口を近づけ、ゆっくりと呟き始める。

 

「私、これでもイッセーくんの事、気に入ってますわ」

「お、俺のことを、ですか?」

「ええ、最初は可愛い後輩でした。でも、最近は違うの。この間のフェニックスの一戦。全力を出した貴方の姿を、治療室のモニターで拝見してました」

 

 あぁ、そういえばあの一戦。朱乃さんはあのユーベルーナに敗れて、途中で退場したんだ。

 

「不死身のフェニックスを相手に圧倒的な力を振るい、全てが尽き果ててなお立ち向かう。そして、婚約パーティーに乗り込んで、更に凄まじい力で不死鳥を打ち倒し、部長を助け出した。あんな素敵な戦いを演じる殿方を見たら、私も感じてしまいますわ」

「か、感じてしまう……っ」

 

 正面から俺を直視して、うふっ、と笑う朱乃さん。

 

「時折、貴方のことを考えるとどうしようもなくなる時があります。これって、恋かしら」

 

 こ、恋!? まな板の上のあれとか、薄いの対義語とかじゃない、あれですか!?

 

「でも、貴方に手を出すと、リアスが怒りそう。あの人、あなたのこと……。うふふ、罪な男の子ですね、イッセーくんは」

 

 つ、罪ですか……どんな罰が下りましょうか。この状況だけで黒の判定を閻魔様に叩きつけられそうですけど。

 

 って、朱乃さんって、部長の事を『リアス』って呼ぶの? もしかして、二人のときは名前で呼び合うってことなのかな。眷族の中でも、一番付き合いが長そうだし。

 

 と、朱乃さんが俺の首に手を回してきた! し、しかも白装束をわざとはだけさせてる!? 右の先端が見えそうです! あ、太ももも大胆に出してる!

 

「浮気、私としてみる?」

「う、浮気!?」

 

 それは相手がいて、初めて適合する言葉では……でも、なんか燃える!

 

「私も一度体験してみたいの。年下の男の子に肉欲のまま貪られるのって。意外とMっ気もあるのよ、私。それにそろそろ一度くらい男性を受け入れてみてもいいと思っていますし」

 

 そ、そろそろ一度って、まさか……。

 

「うふふ。お察しの通り、私は処女ですわ。イッセーくんの方が経験豊富でしょうから、リードしてくれると嬉しいですわ」

「そ、そんな……俺だって、経験ないですよ……」

 

 男として情けない発言に、朱乃さんが意外そうな表情になる。

 

「え? それは驚きましたわ。てっきり部長ともう……」

「いやいや、してませんから! 初めての相手が俺とか、ないでしょう!」

「あらあら、部長ったら。では、アーシアちゃんとも?」

「それこそもっとありえません!」

 

 評判とはまるで裏腹に、学園でも指折りの美少女二人と同居していながら手を出せない俺。守るべき存在に手を出すなんて許されない、と俺が勝手に決めている。

 

「イッセーくんなら、部長から『すごい御褒美』を毎晩もらっていると思っていたのに……」

 

 『すごい御褒美』!? それはやっぱりチョメチョメなあれですか!

 

「イッセーくんはどちらともしたくないのですか?」

「したいっス! めっちゃしたいっス!! 押し倒したい獣性を必死で抑えています! でも、最後の一線っていうのに縁がなくて、毎回涙を呑んでいます!」

 

 ついに本音が出ちまった。でもしょうがないでしょう。絶世の美少女二人と一緒に暮らしていれば、若い男なら誰だって性欲をもてあましますよ!

 

「それはかわいそうに……。どちらも奥手なのですわね。その気になれば可能だというのに……けれど、これでは勝手にイッセーくんの貞操をいただくわけにはいかなくなりましたわ」

 

 そ、それはそれで残念なような……。

 

 突然、部屋の扉が乱暴に開かれる。そちらを見てみると――。

 

 目元を引きつらせ、紅い波動を全身に漲らせた部長のお姿が。

 

「朱乃、これはどういうことかしら?」

 

 怒気をはらんだ声で部長が近づいてくる。こ、怖い!

 

「うふふ、イッセーくんから連絡がありましたので、急でドラゴンの力を散らしていただけですわ」

 

 朱乃さんは淡々と答える。けれど、間近に迫った部長は到底冷めやらない。

 

「……そう。前回は私が担当したから、朱乃に連絡したのは妥当ね。でも、どう見てもそれ以上の、いえ、それ以外のことをしようとしていなかった?」

「あらあら、本番をするつもりはありませんわよ」

「本番じゃなくても限度があるわ。私だってまだ……」

「それは、そちらが動くのが遅いからではないでしょうか? 本を読むのもいいですけれど、マニュアルどおりではいけませんわ」

「…………」

 

 視線をぶつけ合う二大お姉さま。異様なまでの迫力に満ちている。

 

 うん、龍の気も散らしてもらったし、そろそろ昼休みも終わるし、なにより女の子同士の諍いには男が首を突っ込まないのが鉄則。そそくさと服を着て、お先に失敬……。

 

 が、逃げ出そうとする俺を部長がキッと睨みつけ、急接近して頬を抓り上げる。い、痛いです、部長!

 

「イッセー、随分お楽しみだったようね? 憧れの朱乃お姉さまとは仲を深め合ったのかしら?」

「ひょ、ひょんなぁ、お、俺は……」

 

 ある意味その通りだったので、何も言えない。

 

「勝手になさい!」

 

 そう言って手を離した部長は、踵を返して部屋を出て行った。

 

 ピシャ!

 

 扉を閉める音すら厳しい。部長も結構凄い事しているのに、何故あそこまで怒られるんだろうか。

 

「嫉妬だなんて、かわいいわ。うふふ、イッセーくん。関係は着実にステップアップしていますね」

 

 うーん。さっぱりわからん。なんにしても、アーシアのように頬を膨らませる部長は可愛いと思えた。

 

 

 

 

 

 そして放課後。いつもどおりの練習……のはずが、やたら部長が俺に手厳しい。今日はサッカーの練習だけど、他のみんなはパス回しをしている中、ボールを消し飛ばさんという勢いでけりまくる部長の猛烈なシュートを、俺がキーパーとしてひたすら止め続ける。

 

 結果、ボールのほうが持たず、途中から朱乃さんが魔力で補修、補強する係になった。ていうかどう考えても魔力込めてますよね!? 赤黒いオーラがボールを覆ってるし! 朱乃さんも雷加えてますか!? こっちも赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)で死ぬ気で止めてます!

 

 部長のシュートを捉えようと、目を凝らし続けている中、ふと不思議な起こった。

 

 風景が異常に鮮明に映り、その気になれば宇宙の果てまで見通せそうなほどに思える。ボールを前に足を振り上げる部長に目を向ければ、筋肉の動き、垂れる汗、魔力の流れ、何もかもがはっきりと分かる。その気になれば、毛細血管の赤血球。いや、細胞の一つ一つまで見えてしまいそうだ。

 

 こっちに向かってくるボール。動きばかりか、空気圧も、込められた魔力量も、全てが察せられてしまう。ボールを手に受け止めた瞬間、両目にあり得ないほどの圧力がかかる!

 

「ぐぅ……うぁぁぁああ!!」

 

 顔を両手で覆い必死で耐えるが、圧はどんどん増していき、潰れていないのがいっそ不思議なくらいだ。むしろ自分の手で眼球を抉り出したいと思ってしまうほどの感覚。その言い表せない地獄の中で、遠く聞こえる部長の声を最後に、俺の意識は沈んでいった。

 

 

 

 

 

『目覚メロ。私ハココダ』

「うっ……」

 

 骨身に響くほど重く、魂まで潰しそうなほど沈む声色。起き上がって目を開けば、そこはただ真っ暗な空間――いや、違う。

 

 暗闇そのもの。そうとしか表現できない存在が、目の前にいる。目をこらしてよく見れば……。

 

『認識デキタカ。ソレデヨイ』

「……ガオウ」

 

 俺の中に眠る、三体の天龍の一匹。その中でも、特に俺との接触が少なかった存在。こいつをはっきりと見るのは、封印のときが最後だった。

 

 重龍皇(グレイブ・ドラゴン)ガオウ。

 

「何度話しかけても無視し続けたお前が、今更なんのようだ」

『ソウ、邪険ニスルナ。私モオ前ニ力ヲヤロウト思ッタダケダ』

 

 ……どういう風の吹き回しだ。

 

『私ノ望ミモ、所詮ハバオウト同ジク、極ニ至ルコトノミ。ソレサエ果タセレバ、世界モナニモ、スベテハ些末事。ソレダケダ』

 

 本当に分かりやすいヤツらだな。その(きわみ)に至ってどうするってんだ。

 

『知ラヌ。ソレコソ、オ前ガソノ力デ何ヲシヨウトモ、ドウデモヨイ。私ハタダ、己ノ存在ヲ窮メル』

 

 そうか。なら、その力。ありがたく使わせてもらうぜ。

 

『良シ』

 

 ガオウの腕が、俺の頭上へ伸ばされる。そして……

 

『ガオオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーッッッ!!!』

 

 バオウと同じ咆哮。同等の圧力。そして力と痛み。

 

 だけど、決定的に違うのは二つ。一つは、それらが眼に注がれている事。そしてもう一つは……冷たい。

 

 温度的なものではなく、あくまで感情的なもの。広い宇宙に一人だけで浮かんでいる様な、とてつもない寂寥感と孤独。心の芯まで凍りつきそうな、おぞましい感覚が両目に注がれている。

 

 痛い。怖い。寒い。寂しい。

 

 支えも無く、寄り添うものも無く、ただ痛みと冷たい重さに耐える。どうすればいい。どうすればこの苦しみから解放される。誰か答えてくれ。

 

 時間の流れすら分からず、何も無く、何も分からなくなりそうな中で、それでも耐える。そうして耐えて耐えて耐えて、耐え続けた果てに、一枚の鏡が見えた。

 

 走っているのか、歩いているのか、這っているのかも曖昧に、その鏡へ近づき、覗き込むと……。

 

 青い瞳から炎のような黒い闇を滾らせる、俺の眼があった。

 

 

 

 

 

「うおあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 自分でもどこから出るのか分からないような叫びを上げながら、がばっと身を起こす。

 

 周りを見渡すと、そこは俺の部屋だった。叫び声が聞こえたのか、部長がドアを開けて入ってくる。

 

「あ、部ちょ……」

「イッセー!!」

 

 声をかける間もなく、涙を流しながら駆け寄る部長に抱きつかれる。部長の胸が押し当てられるが、それすら意識の外に飛ばされてしまうほど、部長は泣きじゃくっていた。

 

「よかった……突然倒れて、貴方の師匠を呼んで……なんでもないと言われたけれど、もしかしたらって、ずっと怖くて……」

 

 ボロボロと落ちる涙で肩や背中がびしょぬれになる。主である部長に、こんなになるまで心配かけるなんて……。俺はほんと駄目な悪魔だな。でも同時に、この人の眷属である事を誇らしく思う。

 いつかこの人に相応しい、最強の兵士(ポーン)になる。そう改めて胸に誓う。

 

「あんなケンカ別れのままで貴方を失っていたら、私は永遠に後悔するところだったわ。もっと、貴方を大事にするべきだった」

 

 情愛が深いと言われるグレモリー家。その跡継ぎである、部長の愛が伝わってくる。

 

 ……も、もしかしたら、今なら無茶な要求も通るかも? ちょ、挑戦の価値はある!

 

「部長、おっぱい」

「ええ、いいわよ。貴方は本当に甘えん坊ね」

 

 そう言って、上着を脱ごうとする部長。うおおお! 言ってみるもんだ!

 

「イッセーさ……ぶ、部長さん!? 何をしてるんですか!」

「あら、アーシア。イッセーがおっぱいを欲しがってるから、ね」

「おお、おっぱい!? なら私もぉ!!」

 

 未曾有の大混乱に陥る室内。その最中、俺は確かに視認していた。揉み合う中で揺れ動く、部長とアーシアのおっぱいを。

 

 ガオウ、ありがとう!!

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