ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

39 / 96
Life.38 聖剣、来ました!

 家に帰ってから、改めて部長に木場の過去を聞くと、驚くべきことが告げられる。

 

「聖剣計画。裕斗はその、唯一の生き残りなのよ」

 

 聖剣計画。神さんが手当たりしだいに集めた資料を整理したときに、それと思われるものを見た記憶がある。

 

 聖剣は悪魔にとっては最悪の武器の一種。並みの悪魔なら触れただけでダメージを受けるし、斬られれば即座に消滅してしまうだろう。だからこそ、悪魔を不倶戴天の敵とする教会にとっては、逆に究極の武器と言える存在だ。

 

 特に有名なのはエクスカリバーだが、聖剣に限らず、この手の特別な武器は扱える者を選ぶ。朧流を習得した者のような例外を除けば、選ばれる存在なんて数十年に一人いるかいないかだ。

 だから、教会はエクスカリバーを初めとする聖剣を扱える人間を、人工的に育成することを考えた。それが聖剣計画。アーシアはまるで知らないと言ったが、それも当然だろう。

 

 聖剣を扱える者を生み出すといえば聞こえはいいが、実際の内容は過酷かつ非人道的なものだった。故に地下深くで行われていたこの事を知っていたのは、上層部の一部と計画に関わった数十人の研究者のみで、その顛末から教会関係者はこの計画を徹底的に封殺したからな。

 

 結論から言えば、被験者は誰も聖剣に適合できなかった。その為、責任者は彼らを『不良品』として処分を決定。全員の抹殺を図り、そして何らかの要因で木場は生き残っていたんだ。

 

「……主に仕える者が、そのような事をしていいはずはありません」

 

 話を聞いたアーシアは、ショックのあまり涙を滲ませている。自分の件と合わせ、こんな事を聞けば泣きたくもなるだろう。

 

「私が裕斗を転生させた時、あの子は瀕死の中でも強烈な復讐を誓っていたわ。生まれたときから聖剣に狂わされた才能だからこそ、悪魔としての生で有意義に使ってもらいたかった」

 

 部長は、聖剣に全てを滅茶苦茶にされた木場を少しでも救いたかったんだろう。けど、あいつは忘れられないからこそ、神父を嫌悪し、教会を恨み、聖剣を憎む。自分の人生を好き勝手にされた挙句、共にいた者達を殺されたんじゃ、怨恨を抱いて当然だ。俺も……

 

『ゴメンね。あなたが私達にとって危険因子だったから、早めに始末させてもらったわ。恨むなら、その身に神器(セイクリッド・ギア)を宿させた神様を恨んでちょうだいね』

 

 ………。

 

「……そういえば、木場はこの写真を見てから、様子がおかしかったんですけど」

 

 木場が見ていた、昔の幼馴染と撮った写真。部長は、奥の剣を確認して眉を顰める。

 

「確かに、これは聖剣だわ。エクスカリバーほどではないにしろ、本物ね。前任の悪魔が消滅させられたと聞いてはいたけれど、これなら説明はつくわ」

「そういえば俺、この子の家族に誘われて、何度か教会に行ったことがあります」

 

 そういえばこの頃って、神さんと会う少し前だったっけ。俺が死地へと足を踏み入れる直前に、この町で聖剣と悪魔の死闘が繰り広げられていたと思うと、少し感じ入るものがあるな。この町って何かに呪われてるのか? だとすれば、多分原因は神さんだろうけど。

 

「もう寝ましょう。裕斗のことは、時間が解決してくれるのを待つしかないわ」

 

 ですね。俺たちがあれこれ悩んだからって、あいつの心が晴れるんなら世話は無いよな。できるだけ早く、元のあいつに戻ってくれるのを祈るしかないか。サーゼクス様とかソードさんに。

 

 そして、椅子から立ち上がった部長はおもむろに……服を脱ぎ始めた!?

 

「ぶ、部長! なんでこんなところで!?」

 

 叫んだ俺に、部長は不思議そうに首をかしげながらも服を脱ぎ続ける。もうほぼ下着姿じゃないですか!!

 

「なんでって、私が寝るとき裸じゃないと寝られないって、イッセーも知っているでしょう?」

「いやいやいやいや! それはそうですけど、なんでここで脱ぐんですか!?」

 

 騒ぎつつも、部長のお身体を眼に焼き付けておく俺。何度見ても新鮮な気持ちで対峙できる、素晴らしい光景です!

 

「貴方と一緒に寝るからに決まっているでしょう」

 

 当然のように告げられる衝撃の一言。

 

 一緒に寝る? え? 裸の部長と?

 

 ブッ!

 

 勢いよく飛び出る鼻血が、俺の思考を若干冷ます。だけどまだ熱は篭ってるぜ! ていうか女の子からそんなこと言われんの、中学一年以来だよ!

 

「なら、私も寝ます! イッセーさんと一緒に寝ますぅ!!」

 

 更にアーシアまで脱ぎだした! おパンツ拝見!

 

「アーシア。今夜は私に譲りなさい」

「嫌です! ……私だって、イッセーさんに甘える権利はあると思います! 私だって、イッセーさんと一緒に寝たいです!」

 

 涙目のアーシアが、迫る部長に必死で対抗する。嬉しいけどちょっと複雑だよ、アーシア!

 

 両者のにらみ合いは火花を散らし、ドライグの炎にも匹敵するレベルの熱度を感じる! 心なしか、空気が薄いような……低酸素に対応した呼吸をしなければ。

 

「では、イッセーに決めてもらいましょうか」

「イッセーさん、私と寝てくれますよね?」

 

 迫力ある視線の部長と、うるうると瞳を潤ませるアーシア。選ばなかったほうから凄まじい怨恨が発せられるのは火を見るより明らかだ。

 

 究極を越えた絶対無比の選択肢に、俺は頭を抱えるしかなかった。

 

 

 

 

 

『グッドモーニン! スプラッシュ! な~んちゃってぇ!』

 

 ……新パターンの音声で目覚めるのって、必ず何かある予兆なんだよな。ここんとこずっとそうだからもう麻痺気味なんだけど。

 

 ん? なんか妙に両腕が重い……ていうかなにか乗っかってる?

 

 右を見れば、部長が俺の右腕を枕に。左を見れば、アーシアが俺の左腕を枕に寝ていた。……全裸で。

 

 口から飛び出そうな叫びを飲み込むと同時に、身体をゆすった為か部長とアーシアが起きてくる。

 

「うぅん……おはよう、イッセー」

「おはようございます、イッセーさん」

「あぁ、おはようございます。それで、なんでこんな事に?」

 

 俺の質問に、アーシアが少し頬を膨らませて答える。

 

「夕べ、イッセーさんが勝手にお休みになっちゃったので……」

「それで公平に、片方の腕ずつを枕にしたのよね」

「はい!」

 

 未だに衝撃を覚える俺を余所に、二人ともとても楽しそうに語り合ってらっしゃる。

 

「あ! 部長さん、そろそろ朝ごはんの仕度をしませんと……」

「いけない! もうこんな時間!」

 

 そう言ってベッドから立ち上がると、部長は毛布を身に纏い、アーシアは自分の寝巻きを着なおした。

 

「じゃあイッセー。また後でね」

「お邪魔しました、イッセーさん」

 

 二人が退室した直後、俺はベッドに突っ伏して、盛大にため息をついた。

 

「はあぁぁぁッ……なんだか部長の影響で、アーシアまでエロくなってる気がする」

 

 まあ、それはそれでいいけど……いやいや! 俺はアーシアを守るんだぞ! 守るべき存在がエロくなるだなんて……それよくね!?

 

 かといって部長に手をだせば、アーシアが怒りそうだし。チクショウ! これじゃ生殺しじゃないか!

 

 確かに、部長のおっぱいは見たさ。触れたさ。けど、そこから先が隠しボス級の難易度なんだよぉぉぉぉ!

 

 クソ! 大人の階段を六段飛ばしで昇りてぇぇぇぇぇ!

 

 これはあまりにモテない俺に神々が与えた、唯一のチャンスではないだろうか!? ならば今の内にこそ、やるべき事をやっておくのも……。そもそもハーレムを作る気ならば、複数の女の子を相手にする甲斐性なんざ必要最低限のはずだ。

 

 俺にハーレム王の素質があるならば、今頃二人を快楽の海におぼれさせて、虜にしているはずじゃないか!? こんなところまで才能無いなんて知りたくなかった!

 

 いいや、諦めない! いつか絶対、部長とアーシアのおっぱいを!

 

『相棒、悩んでいるところ悪いが、少しいいか」

 

 脳内で騒いでいると、不意にドライグが心の中で話しかけてきた。

 

 何かあったのか、ドライグ。

 

『何か、というほどのことじゃないさ。ガオウの神器だが、少し気をつけておくように言っておこうと思ってな』

 

 気をつける? 今更何言ってんだよ。これ以上何があったって驚きゃしないさ。全てを受け入れる覚悟はとっくにできてる。

 

『それは結構な心意気だが、なんにしてもこれだけは告げておかなければならん。あいつの力とお前の親和性が異常に高い。恐らく、近日中にもガオウの神器はその力を発揮するはずだ。下手をすれば、すぐにでも禁手化(バランスブレイク)に至るやもしれん』

 

 マ、マジか!? それは流石にヤバいかも……。

 

『正直俺も驚いている。確実なだけでも俺の炎やバオウの雷のように、ガオウの重力を呪文として振るうことができるんだ。更に神器が覚醒すれば、バオウと同じくガオウも封印された力の一部を返すと言っている。それに神器としての力が加われば、少なくともマキシマムドライブ無しでも眷属の内では最強になれる筈だ』

 

 マキシマムドライブ無しで!? それはさすがに言いすぎじゃないのかドライグ。

 

『俺の目を疑うのか? 相棒自身は勿論、お前の身近にいる者の実力を計り違えたりはしないさ』

 

 そ、それはそうだろうけど……。でも、正直想像がつかないんだよ。俺が皆より上だなんて。……いや、マジ。冗談抜きで。

 

 部長も朱乃さんも木場も小猫ちゃんもアーシアも、豊かな才能とそれに溺れず努力できる強い心を持っている。天龍の神器以外に取り得のない俺じゃ、どうしたって食い下がってくのが精々にしか思えないんだ。

 

 この間のフェニックス戦だって、中途半端な力しか持たない俺が好き勝手に暴れて、皆の経験を奪う形になったんじゃないかとさえ考えてしまう。

 

『相変わらず清々しいくらいに卑屈だな。何度も言っている事だが、相棒は確かに才能は歴代最低だが、今までで最も異例の進化を遂げている。赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)の機能拡張に、特訓による強化の維持力の向上。挙句の果てにはあんな手段での覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の運用と応用だ。比べるほうが難しいぞ』

 

 それも、結局はいろんな人達の協力と指導あってのことだからな。俺一人じゃ何もできやしないさ。

 

『できた事が既に凄まじいんだが。それに、龍に憑かれた者は様々な力を引き寄せる。師や好敵手、環境に恵まれる事も、一種の才能だ』

 

 そう言ってもらえると、少しは気も和らぐよ。

 

『俺は事実しか言ってない。とにかく、重龍皇には気をつけろ。伊達にあの男が『夢幻』と名付けたわけじゃあない』

 

 その忠告もしっかり刻んでおくよ。なんにしても、もらえるものはもらっておく。

 

 そしていつかは上級悪魔に昇格し、美女美少女を眷属下僕にして、俺だけのハーレムを作る!!

 

『そんな夢を持った宿主も初めてだよ。なにせ今まで男で宿主になった奴らは、自然と異性に囲まれていたからな』

 

 その話を聞くたびに、つくづく俺にそんな天恵が訪れるとは思えない。何度か美人に囲まれたけど、誰も俺に興味ないんだもん! 所詮冴えない変態学生なんてこんなもんですよ!

 

『……お前の今の最大の問題点はそこだな。まあ、あの男の言葉を信じて機会を待ってみるか。それに、俺はそんなお前だからこそ期待している。歴代の宿主とは違う道を歩んでいるお前だからこそな』

 

 ああ、それもずっと聞かされたことだ。

 

『どいつもこいつも、大まかな道筋は同じだ。天龍の力に溺れるか、恐れをなすかのどちらかで、すぐさま禁手化(バランスブレイク)に至り、圧倒的な力で暴れまわる。その果てには、自分も周りも不幸にして死んでいった。……後は、相棒ほど俺と話すヤツもいなかったな』

 

 一緒に戦うんだから、分かり合うのは当然だろ? お前結構お喋りで、話してて楽しいし。

 

『神器に封じ込められたドラゴン相手に、そういう発想になる方が稀なんだよ。……前々から思っていたが、そもそもお前が物騒な世界に首を突っ込む破目になったのは俺の所為だ。この神器さえなければ、お前は普通の一生を送れただろう。恨み言の一つもあるんじゃないのか?』

 

 恨む? なんでだよ。なっちまったもんはしょうがないだろ。

 

 大体お前と赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)がなきゃ、俺なんか今でも女っ気の無いエロ学生しかやってないんだぞ。友達も松田と元浜くらいで、さぞ寂しい青春送ってただろうさ。それがこんな賑やかで、色んな人達と縁のある生き方してるんだ。感謝してるぜ、相棒。

 

『フッ……フハハハハハ!! 感謝、感謝か! 感謝と来たか!! すまんな相棒! 俺はどうやら、お前の馬鹿さ加減を見誤っていたようだ!』

 

 それ、褒めてんのかよ。

 

『ああ、思いっきり褒めている。お前はやはり最高だ。歴代最低の才能なんぞ気にする必要は無い。そのまま強くなっていけ』

 

 そりゃあ有難いお言葉だ。じゃあ、とりあえずの目標は二つ! 一つは打倒『白龍皇(バニシング・ドラゴン)』!! もう一つは、部長のおっぱいを……

 

『揉むのか?』

「いや、吸う!!」

『……』

 

 ドライグが思いっきり黙った。なんだよ、最高って言ってくれたばっかじゃん。

 

 あの部長のおっぱいの感触! できれば一日中俺だけのものとしたい! 今までの機会は何度も奪われまくったけど、いつか絶対に成してみせる! その時こそ、新たに一歩先のステージへと進み、部長のおっぱいを吸い上げる! そのために協力たのむぜ、赤龍帝様!

 

『ハァ……女の乳を吸うためのサポートか。俺も落ちぶれたもんだ。しかし、今までよりはずっと楽しい。これからも頼むぜ、相棒』

「こっちこそ、相棒」

 

 

 

 

 

 ドライグとの語らいからしばらくして。一時間目が終わった途端、松田と元浜に話があると廊下に連れ出された

 

「カラオケ?」

「ああ、久しぶりに行かないか?」

「駅前なら、挿入歌はおろかキャラソンまでフォローしているぞ」

 

 カラオケねぇ。最近はオカ研ばっかりでこいつらとも付き合い悪かったし、偶にはいいかも。

 

 そう考えていると、元浜の背後から誰かが声をかけてくる。

 

「挿入が何だって?」

「「「桐生!?」」」

 

 また横槍入れてきやがったな、匠め! エロあるところに影ありとでもいいたいのか!

 

「やだやだ、朝からまたエロトーク? 本当にお盛んね」

「カラオケ行こうって話してただけだ!」

 

 松田の反論に、桐生は一拍おいて目を輝かせた。

 

「カラオケェ~!? いいじゃん、あたしも行こうかなぁ。ねえ、アーシア?」

「お前勝手に! って、え?」

 

 突然勝手なことを言い出す桐生に一言言ってやろうと思ったら、桐生の後ろからしずしずと出てきたアーシアが……。

 

「はい、行きたいです!」

「「なにぃぃぃぃぃーーーーっ!!」

 

 鼻息を荒くしながらアーシアに迫ろうとする馬鹿二人を、とりあえず後頭部にアイアンクローをかましてで正気に戻す。結局、アーシアと一緒に桐生も来ることが決定してしまった。賑やかなほうが楽しいし、まあいいかな。

 

 

 

 

 

 放課後、いつも通り旧校舎へアーシアと一緒に向かい、掃除の終わった校舎内を見て二人で驚いた。

 

「ふわぁ、ピッカピカですねぇ……」

 

 アーシアの言うとおり、天井も床も窓も、スミでさえ塵一つ残さず綺麗になっていた。まさに清掃って感じだ。

 

「う、うん! ピッカピカは最高だよなぁ!!」

 

 主にエロい意味で! アーシアは今日も純白だ!

 

「あれ?」

 

 疑問の声を上げるアーシアに、一瞬バレたかと思ったが、アーシアは少し動くと、『KEEP OUT』と印された大量のバリケードテープで封鎖された奥の部屋を見て、俺に聞いてきた。

 

「あのお部屋は?」

「ああ、あそこはずっと閉まりっきりで、開かずの間って呼ばれてるんだ」

 

 まあ、主に俺がそう呼んでるんだけど。部長たちに聞いても、曖昧な返事しか返してもらえないんだよな。けど、改めてみると……扉から染み出る様に、異様過ぎる電磁波が見える。まるで、世界の認識に当てはまらない、例外中の例外の色を見ているような感じだ。

 

 ……やめよう。アレは部長が話す気になってくれるまで、触れちゃいけない代物だ。俺の直観がそういっている。

 

 少しもやもやしたものを抱えながら部室へ入ると、部長と小猫ちゃんが先に寛いでいる。

 

「ちわーす」

「おはようございます」

「二人も来たのね。校舎も綺麗になったし、心機一転ってところかしら」

 

 そう言った部長の笑顔にも、わずかな陰りが見える。やっぱり木場のことが気になって仕方がないみたいだ。ていうか、その張本人はどうした。そういえば朱乃さんもいないし。

 

「朱乃さんと木場は?」

「……朱乃さんは分かりませんが、裕斗先輩は朝からお休みしています」

 

 俺の問いに答えてくれた小猫ちゃんも、どこか不安げに見える。部長も若干浮かない顔だ。やっぱりみんな、木場が気になってるんだな。

 

 鬱屈とした雰囲気に包まれる室内に、扉が開く音と共に新鮮な空気が入ってくる。後ろを振り向いてみると、そこにいたのは朱乃さんだった。

 

「あらあら、皆さんお揃いで」

 

 非常に失礼だけど、初めて朱乃さんより木場の登場を望んじまった。

 

「朱乃、遅かったわね」

「お客様をお連れしたので……」

 

 言葉の通り、二人の女性が朱乃さんに続いて姿を現す。生徒会長と副会長だ。

 

「緊急の御用があると仰るので」

「ええ。リアス、今から私の家まで付き合っていただけません?」

 

 前に出て両手を広げる生徒会長の口ぶりは、僅かだが緊張を感じさせる。電磁波も僅かに乱れ、体臭からも動揺から来る臭い物質の分泌が認められる。焦っているというより、冷静に急いでいるって言ったところだな。

 

「あそこなら、誰にも干渉されることはありませんし」

「……相当込み入った話のようね」

 

 部長と朱乃さんが生徒会長たちについていき、その場ははなし崩しに解散になる。それでも、木場は影も形もみせなかった。

 

 

 

 

 

 久々にアーシアと二人だけで帰宅し、家の玄関まで来たところで強烈な悪寒が全身を総毛立たせる。アーシアも、繋いだ手を精一杯の力で握り締めている。これは……この間の修行で何度感じた、聖剣の気!?

 

 脳裏にフラッシュバックするのは、あのイカレエクソシストに惨殺された依頼人の姿。そして、家には母さんが……ッ。

 

「母さん!!」

 

 叫び声と共に玄関のドアを開けて、靴を脱ぎ散らかして家に上がると、母さんの談笑する声が聞こえてきた。……とりあえず、大丈夫なのか?

 

 明かりがついてるリビングからは、母さんの声と共に聖剣の気配が漂ってくる。

 

「でね、これがイッセーがプールで海パンが破けちゃったときの写真。破れたままプールの滑り台に行ってしまって大変だったわ」

「か、母さん?」

 

 そっと顔を出すと、母さんがこちらへ顔を向ける。

 

「あら、イッセーにアーシアちゃん。お帰りなさい。血相変えてどうしたの?」

「はぅぅぅ、よかったですぅ」

 

 安堵からアーシアが座り込みそうになるのを抑えて、こっち側から正面のソファーに腰掛ける、白いローブ姿の二人の女性に目をやる。両方とも俺達と同世代くらいか。

 

 青い髪に緑のメッシュが入った目つきの悪い女と、栗毛のツインテールの女。かなりの美少女だけど、それ以上に目を引かれるのは、それぞれが携える二本の聖剣。今のところは殺気は感じないけれど、どうして聖剣使いが家に?

 

 理由を探る俺に、立ち上がったツインテールが無邪気に話しかけてくる。

 

「久しぶりだね、イッセーくん!」

 

 ……ひ、久しぶり? 天使やエクソシストはともかく、聖剣使いに知り合いなんていたっけ。

 

 記憶の引き出しをあれでもないこれでもないとひっくり返し、ツインテールの栗毛をみて、少しだけ思い当たる節がある。そうして引っ張り出した名前は……

 

「紫藤イリナ?」

「覚えててくれたんだ!? 嬉しい!」

 

 そうだ、思い出した。木場が見た写真の、あの聖剣があった家の子供。小さい頃、一緒に遊んでいたあの子だ。けど、あれって男の子じゃなかったっけ!?

 

「昔はあんなに男の子っぽかったのに、今じゃ立派な女の子になっていて見違えたわ」

 

 えええええええええええ!! ちょ、マジで女の子!? ずっと性別勘違いしてたぞ!

 

「驚いてるみたいだけど、仕方ないよね。あの頃はヤンチャだったから。お互い、色々あったみたいだね。本当、再会って何が起こるかわからないものだね!」

 

 明るく言い放つイリナだが、その言葉には明らかに含みがあった。隣のメッシュの子も、鋭い視線を向けてくる。

 

 アーシアに適当な用事を言い渡して、自室にやってから三十分。町に住んでいた当時を懐かしんで家に寄ったというイリナは、母さんとの談笑の末に帰っていったが、あれは完全にこっちの正体に感付いていた。

 

 

 

 

 

 そして、悪魔の仕事の時間。例のハンサムさんに呼ばれて、夜釣りに付き合う俺。帰宅した部長に伝えられた明日の件が、ぐるぐると頭の中を巡る。

 

『明日の放課後に、彼女たちは部室へ訪問してくる予定よ』

 

 信徒が悪魔と顔を合わせる事情。かなりの厄介ごとだというのは想像に難くない。おまけにそれが古い幼馴染なら、尚更不安が掻き立てられる。

 

「悩み事かい、悪魔君」

「あ、はい。ちょっと……」

「暗い顔は止せ。世の中ってのは、意外になんとかなるもんだ。先のことでウジウジ悩むだけ損ってもんだぜ」

 

 軽い調子にも関わらず、投げかけられる言葉には確かな重みが感じられた。本当に、何者なんだこの人。目下、最大の謎だな。

 

「お、悪魔君! 引いてる引いてる」

「っと!」

 

 声に反応して竿を持ち上げて、魚をバケツにトポンと落とす。うん、我ながらナイスフィッシング。

 

「器用なもんだな。結構、天才肌なのかい?」

「いえ、俺自身はドがつく程の凡人ですけど、師匠が超絶的なんで。俺みたいなのが凄く見えるのは、その人が凄いからですよ」

 

 サルにも犬にも教えられるってのはよくあるふれこみだけど、本当にやれるのはあの人くらいだから。

 

「謙遜通り越して、卑屈だねえ」

「よく言われますけれど、事実なんです。俺は昔っから、何でもかんでもがむしゃらに頑張る以外に取り得がないんですよ」

 

 情けないことこの上ないけど、それが現実だ。腐る暇もありゃしないんだから、精進あるのみだ。

 

「そうかい? 俺に言わせれば、どんな事にも必死で取り組めるってのは十分才能だと思うけどな。何かしらの天才って奴は探せば案外よくいるが、努力の天才ってのはその中でも一際希少で尊いと俺は思っている。何せできない事でも出来るまで諦めないんだ。ただ出来ることをやるだけの天才よりも、よっぽど凄えじゃねえか」

「……そんな風に言ってもらえると嬉しいです」

 

 ハンサムさんのお言葉を胸に刻みつつ、俺は五匹の魚を纏めて宙に躍らせた。

 

 

 

 

 

「会談を受けていただいて感謝する。私はゼノヴィア」

「紫藤イリナよ」

 

 昨日言った通り、夕焼けに照らされた部室を訪れ、ソファーに座る二人の聖剣使い。対面する部長の背後には、木場を除いた俺達眷属が揃って並んでいる。

 

「神の信徒が悪魔に交渉だなんて、どういう用件かしら?」

 

 部長の質問に、イリナが口を開く。

 

「エクスカリバーは行方不明の一本を除く六本を、教会の三つの派閥が二本ずつ保管していたんですが、先日それぞれの陣営から、各一本ずつが堕天使によって奪われました」

 

 奪われた!? しかも堕天使って……マジで厄介ごとだな。

 

「残った三本の内、私達が持つのは二本。私の破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)と……」

「この擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)の二本だけ」

 

 ゼノヴィアは布を巻かれた大剣を見せつけ、イリナは自分の腕のリボンを指差す。そこから感じられる聖なる気は確かにすごいが、正直この間の神さんのエクスカリバー・レプリカに比べると明らかに見劣りする。あの人の作品と比べるのも酷か……。

 

「それで、私達にどうして欲しいの?」

「何もしないで欲しい。今回の件は、教会と堕天使の問題だ。この町の悪魔に、要らぬ介入をされたくは無いのでな」

「随分な物言いね。まさか、悪魔が堕天使と手を組んで、聖剣をどうにかするとでも?」

 

 ヤバい、部長がかなりキテる! つーか、仮にも交渉なら穏便に言葉を選べよ! なんか考えて話してるようには見えないし、こいつ脳筋か!?

 

「悪魔にとっても、聖剣は忌むべきものだ。堕天使と手を組んででも破壊する価値はある筈。もしそうなら、我々は貴方を完全に消滅させる。仮に、魔王の妹でもね」

「……そこまで知っているのなら、私も言わせてもらうわ。グレモリー家の名において、魔王の顔に泥を塗るような真似は絶対にしない」

 

 部長の宣言に、ゼノヴィアは不敵に笑う。

 

「それが聞けただけで十分だ。今のは上の意向を伝えただけでね。魔王の妹が、そこまで馬鹿だとは思っていない」

 

 本当に強気だな。かなりの実力者なのはわかるけれど、聖剣があっても部長に勝てるほどとは思えない。エクスカリバーを過信しているのか、さもなきゃ更に上をいく隠し玉でも持っているのか?

 

「それはつまり、神側である貴方たちへの支援や協力もしない、ということでいいのね?」

「勿論。この町で起こる我々の争いに、一切の不介入を約束してくれればそれでいい」

「了解したわ」

「では、これで。時間をとらせたな」

 

 部長が頷くと、そう答えて立ち上がる。そのまま出て行くのかと思ったが、ゼノヴィアは足を止め、視線をアーシアへと送った。

 

「兵藤一誠の家で出会ったとき、もしやとは思ったが……アーシア・アルジェント。こんなところで魔女に出会うとはな」

 

 魔女。その辛い過去を思い出させる単語に、アーシアがビクッと震える。

 

「あ~あ。あなたが魔女になったって言う元聖女さん? 悪魔や堕天使をも癒す力を持っていた為に追放されたとは聞いていたけれど、悪魔になっていたとはねえ」

「……あ、あの……私は…………」

 

 悪意のないイリナの言葉が、だからこそ余計に惨く聞こえる。スカートを握り締めて俯くアーシアは、瞳に涙を浮かべた。

 

「聖女と呼ばれていたものが、悪魔にまで成り果てるとは。堕ちれば堕ちるものだ」

 

 更に涙ぐむアーシアの姿に、俺は湧き上がる衝動を押さえつけなければならなかった。ここでこいつらと悶着を起こしたら、部長に迷惑がかかる。今は耐えるんだ……。

 

「しかも、まだ我等が主を信じているのか」

「ゼノヴィア。彼女は悪魔になったのよ?」

 

 呆れた様子のイリナに、ゼノヴィアが言う。

 

「いや。背信行為をする輩でも、罪の意識を感じながら信仰を忘れられない者がいる。その子からはそれと同じものが感じられる」

「へぇ~、そうなの。ねえ、アーシアさんは悪魔になったその身でも主を信じているの?」

 

 興味深そうに尋ねるイリナに、震える声でアーシアが答える。

 

「……捨て切れない、だけです。ずっと、信じていたものなのですから……」

 

 それを聞いて、ゼノヴィアが布に包まれた聖剣の柄を握り、アーシアへと歩み寄る。

 

「ならば、今すぐ私達に斬られるといい。君がどれだけ罪深くとも、我らの神ならば救いの手を差し伸べてくださる筈だ。今なら神の名の下に断罪しよう」

「そこまでにしてもらえるかしら。私の眷属を、これ以上貶めないで」

 

 見かねた部長が口を出すが、それでもゼノヴィアは再び不敵な笑みを浮かべるだけだ。

 

「貶めてなどいない。これは信徒として当然の情けだ」

 

 ……その言葉に、我慢が弾けた俺はアーシアとゼノヴィアの間に立ち、目の前の聖剣使いを睨みつける。

 

「……お前、アーシアを魔女だといったな」

「少なくとも、今は魔女と呼ばれる存在だと思うが?」

 

 俺と視線で火花を散らしながら、ゼノヴィアは至極当たり前に言い放つ。お前らにとっちゃそうなんだろうけど、そんな事は俺には関係ねえ!

 

「ふざけんな! 手前らで聖女だと祀り上げといて、求めていた者と違ったから魔女だと? アーシアはなぁ……ずっと、一人だったんだぞ!」

「聖女は本来、神の愛だけで生きていける。他者に友情や愛情を求める時点で、元より聖女の資格はなかったんだろう。神は愛してくださっていた。救いが差し伸べられなかったとすれば、それは信仰が足りないか、偽りだったのだよ」

 

 熱くなる俺と対照的に、ゼノヴィアの眼はドンドン鋭く、冷たくなっていく。それはもう、人と話している感覚じゃあない。信徒の規範を音として連ねる、人の形をしたスピーカーのようだった。

 

「何が信仰だ! 神だ! 教会だ! アーシアの優しさも強さも理解できないような連中は、みんなただの馬鹿野郎だ! 寂しがってる女の子一人を放置して、一体何を救うんだよ!」

「……君は、アーシア・アルジェントのなんなんだい?」

 

 初めて、冷徹の仮面に皹が入ったかのように疑問の色を濃くするゼノヴィアに、腹の底から宣言する。

 

「家族だ、友達だ、仲間だ! お前らがアーシアに手を出すのなら、神だろうが天使だろうが聖剣だろうが、全て砕く!!」

 

 大事なものを守る。俺にとってはその為の力! その為の神滅具(ロンギヌス)だ!

 

「それは、我ら教会全てへの挑戦かい? 一介の悪魔に過ぎない者が、大口を叩くね」

「大口かどうか、確かめてみるか?」

 

 信徒のヴェールを完全に脱いだゼノヴィアは、鋭い殺気を漲らせ、聖剣の封へゆっくりと手を伸ばす。対する俺も、心身ともに臨戦態勢になる。水滴も口火となりかねない鉄火場じみた室内に、冷え切った声が投じられた。

 

「ちょうどいい。僕が相手になろう」

 

 このイケメンボイス。そんなに日は空いてない筈なのに、妙に久々に聞く気がする。

 

 入り口の扉に背中を預け、両腕を組んだ姿勢で、木場は強い視線をゼノヴィア――正確には彼女の持つエクスカリバーへと注ぐ。

 

「誰だい。君は」

「君らの先輩だよ――失敗作だったけどね」

 

 負の感情に満ちた笑みでそう告げる木場の声は、捜し求めていたものに出会えた歓喜と、仇を目の前にした憎悪が入り乱れていた。

 

「裕斗……」

 

 部長が名前を呟いても、少しも反応を見せない。今、ここにいるのは木場裕斗でも、グレモリー眷属の騎士(ナイト)でもない。復讐の憎悪に囚われた、聖剣計画の被験者だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。