ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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Life.40 聖剣、現れました!

「兵藤」

 

 駅前のカフェ。オレンジジュースを飲みつつ気長に待つつもりだった相手は、思いのほか早く来た。

 

「よう、匙。悪いな、呼び出しちまって」

 

 腰に手を当ててかっこつける匙は、そのまま手を横に振る。正直少しサムいものがある。

 

 さっき松田、元浜と、アーシアや桐生とカラオケの件で騒ぐ中、突如乱入してアーシアの手を取ったこいつを見て、ちょうどいい道連れ(アホ)だと思った。腐っても会長の兵士四つ消費の素質の持ち主だし、電磁波もそこそこのものを感じるこいつなら、多少は役に立つだろう。

 

「気にするな。で、話ってなんだよ」

 

 とりあえず咄嗟の逃走を防ぐ為に席に着かせてから、一気に本題に入る。

 

「聖剣の破壊に協力して欲しい」

「……」

 

 突如押し黙る匙。自分の頬を抓り、夢かどうかを確かめている。

 

「お待たせしましたー。ご注文のコーラフロートでーす」

 

 可愛らしいウェイトレスが持ってきたコーラフロートを一気飲みして、ようやく出てきた一言が……

 

「マジですか?」

 

 これだったので、

 

本気(マジ)ですとも」

 

 と返してやった。

 

「正気かお前!!」

「なあ、頼む。この通り」

「ふざけんな!!」

 

 怒鳴って席を立つが、周りの視線が集中すると再び座りなおす生徒会書記。案外気が小さいのな。

 

「聖剣なんて関わっただけで会長にどんなお仕置きされるかも分からないのに、破壊しようだなんてそれこそ殺されるわ!」

「安心しろ、殺されたら俺が生き返らせてやる」

 

 死後五分くらいなら楽勝でいける。ちなみに俺自身の最長記録は三時間。閻魔様に判決を言い渡されかけるところまでいきました。

 

「ふざけんな! お前んところのリアス先輩は厳しいながらも優しいんだろうが、うちの会長は厳しくて厳しいんだぞ!!」

 

 そうか、やっぱり会長は厳しいのか。今度とも頑張っていけ。

 

「絶対に断る!」

 

 今度こそ席を立って立ち去ろうとする匙だが、突如動きながらも歩みが止まった。ふと気づいて植物の仕切りの向こうを覗いてみると、パフェを前にした小猫ちゃんが、スプーンと匙の服の裾をそれぞれ両手に摘んでいた。

 

「奇遇……でもないよな」

 

 多分、つけてきたってのは匂いで気づいてたし。

 

「……やはりそんな事を考えていたんですね」

 

 改めて三人で座ってからも、匙は会長からのお仕置きを想像してかブルブル震えて涙まで浮かべている。

 

「やっぱり帰る!」

 

 なんて泣き言を言っては、小猫ちゃんに捕まるの繰り返しだ。巻き込んだ俺が言うのもなんだけど、いい加減腹を括ったらいいのに。

 

「紫藤イリナとゼノヴィア。あの二人から、聖剣の破壊を許可してもらうと思ってる」

「……あの二人に?」

 

 小猫ちゃんは少し怪訝そうな様子だ。まあ、この間の調子じゃ無理もないだろうけどさ。

 

「あいつら、聖剣を利用されるくらいなら消滅させるって言ってただろう? つまり、破壊してでも回収したいってことだ。三本中一本くらいなら、任せてもらえるかもしれない」

 

 昨日の応対から見た感じ、二人の覚悟は確かだったが、分が悪いという現実は理解できていた。なら、十分に勝算はある。

 

「木場は聖剣に打ち勝って、自分と仲間たちの復讐を果たしたい。あいつらは破壊してでも聖剣を奪還したい。目的は違っても結果は同じだ」

「……そうして、裕斗先輩の想いを果たしてほしい、と」

 

 俺は笑顔で頷く。

 

「木場とまた一緒に悪魔稼業をする為なら、思いつく限りはなんでもやってやる。俺が出せるカードを全部出してでも、あいつをはぐれなんかにはさせない!」

「……部長たちに内緒で動くのは心が痛みますが、ね」

 

 ああ、勿論。立場のある部長や、懐刀の朱乃さんの耳には絶対に入れられない。

 

 アーシアにも内密だ。元々嘘が得意じゃないし、俺以上にそういうの顔に出るタイプだから。

 

「そういうわけだから、ヤバくなったら二人とも逃げていい。最悪俺が伝手とコネを活用しまくって何とか収める」

 

 あんまりやりたくは無いけれど、背に腹は変えられない。

 

「今逃げさせろぉぉ! このままじゃ絶対に拷問だぁぁぁぁ!」

「交渉が上手くいったときに協力して欲しいんだよ。それと、世界に存在する大体の拷問と災害と苦痛を経験した俺が断言する。どんな苦しみも慣れれば慣れるもんだ」

「勝手な言い分だぁぁ! そんなの慣れたくねえよぉぉぉぉぉ!!」

 

 俺だって慣れたくて慣れたわけじゃねえよ。でなきゃ死んでたから慣れただけだ。

 

「私は逃げません。仲間の為ですから」

 

 小猫ちゃんがはっきりと、強い意志を込めた瞳で宣言する。なんだかんだと言っても熱いところのあるこの子らしい反応だ。

 

 そうしてカフェをでて町を出歩く最中も、匙はうじうじとぼやき続けていた。それでも本気で逃走を図らないあたり、付き合いがいい。流されやすいとも言うけどな。

 

「なあ、俺いらなくねえ? 無敵の戦車(ルーク)が参加してくれたんだしさ」

「戦力は多いほうがいいんだよ。あっちだな」

「……イッセー先輩、あの二人の居場所が分かるんですか?」

 

 迷うことなく突き進む俺に、小猫ちゃんが小首をかしげながら聞いてくる。

 

「昨日会ったときに、あいつらの臭いは覚えてるからね」

「……それじゃあ、私達や部長達も?」

「一度会った相手の臭いなら、大抵は覚えてるよ。つい最近になってからだけど、今の俺の鼻は警察犬より利くのさ」

「マジかよ……」

 

 驚く匙を余所に、小猫ちゃんは少しだけ気に入らなさそうな表情になる。え? 俺何かしたっけ?

 

 困惑しつつも、臭いを頼りにたどり着いた通りで、ついに目当ての二人を……見つけてしまった。

 

「え~、迷える子羊にお恵みを~」

「天の父に代わって、哀れな私達にお慈悲を~」

 

 お鉢を手に、『愛の手を』と書かれた紙を横に置いて、そんな事を街頭でのたまう白いローブの二人組み。覗ける毛髪も、臭いも、電磁波も、聖剣の気配も、間違いなく昨日の聖剣使いだった。残念なことに。

 

 路上で言い争いを始める信徒を前に、俺は深くため息を付いてから歩み寄った。

 

 

 

 

 

「美味い!! イリナ、この国の食事は美味いな!」

「これよこれ! ファミレスのセットメニューこそ私のソウルフード!!」

 

 俺達を見つけるなりひもじそうな視線を投げかけてきたこの二人は、「食事に行くけど、一緒に行くか?」の一言であっという間につれた。適当に入ったファミレスで、次々と運ばれてくる食事を物凄い速度で胃に収めていくゼノヴィアとイリナ。それに触発されて、俺も適当に注文した料理を食い漁っていく。

 

 大した食べっぷりだけど、女の子なんだからもう少し淑やかに食べろ。

 

「ていうか、なんでお前まで食ってんだよ……てかどんだけ食うんだよ!」

「大丈夫。懐には余裕がある」

「……そういう事じゃないです」

 

 なんてやり取りも交えつつ、食事が済んだ途端、ゼノヴィアとイリナのテンションががた落ちする。

 

「なんということだ……信仰の為とはいえ、悪魔に救われるなど世も末だ」

「私達は悪魔に魂を売ってしまったのよ……」

 

 奢ってもらっておいてその態度か、とも思ったが、こいつらの機嫌を損ねるわけにはいかない必要上、黙っておく。

 

「ああ、主よ。この心優しき悪魔たちにお慈悲を……」

 

 イリナの祈りで、軽いダメージが入る。神の祝福は悪魔には毒だって。匙と小猫ちゃんも頭を抱えてうなっているぞ。俺? もう慣れた。

 

「あら、ごめんなさい」

 

 舌を出して可愛らしい笑みで謝るイリナとは別に、水を一杯飲み干したゼノヴィアは、途端に昨日のような鋭い目つきを取り戻す。

 

「それで、私達に接触してきた理由は?」

「エクスカリバーの破壊に協力したい」

 

 ズバっと切り出した俺たち二人に、他の三人が息を呑んで見つめている。

 

 こんな事を言い出した経緯、理由を、ある程度簡略化して説明し、ゼノヴィアの返答を待つ。そして、思いのほか早く、再度彼女の口が開かれた。

 

「話はわかった。一本ぐらいなら任せてもいい。ただし、そちらと繋がりがあることは上にも敵にも知られたくないので、正体は隠してくれ」

 

 予想通り、すんなり話が通ったな。脳筋ながらも冷静なこいつなら、早々無下には断らないだろうと思っていた。

 

「ちょっとゼノヴィア、いいの? 相手はイッセーくんとはいえ、悪魔なのよ」

「イリナ、相手は堕天使の幹部だ。我々だけでコカビエルと戦いながら聖剣三本の奪取は、正直キツい」

 

 事実を認めつつも、イリナは納得しかねる様子だ。

 

「それはわかるわ! けれど……」

「奥の手を使ったとしても、無事に帰れる確立は三割程度だ」

 

 言うに及ばず、ゼノヴィアが隠し持っているもう一本の聖剣だろう。教会が有していて、エクスカリバーを上回る聖剣となると話は限られてくるが、そこは今は重要じゃない。

 

「それでも高い確率だと、私達は覚悟を決めたはずよ!」

「そうだな。自己犠牲にも等しく、私達は上に送り出されてきた」

「それこそ信徒の本懐じゃない!」

「だが、だからこそ無事に生還を果たし、これからも主のために働く。それこそが本当の信仰だと信じているが、違うか?」

 

 ゼノヴィアの言葉に、初めてイリナの勢いが弱まる。

 

「……違わないわ。でも!」

「それに、私達が借りるのは悪魔じゃない。――ドラゴンの力だ」

 

 ゼノヴィアの視線が俺に向けられる。

 

 ……ドラゴン。つまり俺に宿る、赤龍帝、雷龍帝、重龍皇の力。神や魔王を超えて、なお果てが見えない正真正銘の力の権化だ。

 

「昨日の手合わせでさえ、君は全力を出してはいなかった。恐らく私の奥の手を使ったとしても、手傷を負わせられるのが精々だろう。しかも、伝説通りならその力を最大まで高めれば魔王にも匹敵するんだろう?」

「魔王クラスまで行くかはともかく、破壊力だけなら最上級悪魔位は何とか出せる」

 

 断言する俺に、ゼノヴィア以外の三人がまた言葉を失っている。対するゼノヴィアは、嬉々としてそれを受け入れた。

 

「イリナ。彼は君の古い馴染みだろう? 信じてみようじゃないか、ドラゴンの力を」

 

 言われたイリナは、黙って頷いた。よし、これで準備は整った。

 

「商談成立だ。俺はドラゴンの力を貸す、そっちはエクスカリバーの破壊を許すってことで、今回の俺のパートナーを呼ばせてもらうぜ」

 

 ケータイから電話をかけると、木場はすぐに出てくれた。

 

『……どうしたんだい、イッセーくん。悪いけれど、今は君と顔を合わせる気にはなれないんだ』

 

 木場の声には、微かだが俺への嫌悪感が滲み出ている。やはり、聖剣を扱ったことに対して受け入れがたいものがあるんだろう。

 

「お前の気持ちは察するけれど、とりあえず居場所を教えるか、さもなきゃこっちに来い。――エクスカリバーを壊す算段が付いたぞ」

 

 

 

 

 

 木場がいたのは、そう離れていない公園だった。そこの噴水前で佇んでいた木場に、事の次第を説明する。

 

「……話は分かったよ。正直言うと、エクスカリバー使いに破壊を承認されるのは遺憾だけどね」

「随分な物言いだね。君はグレモリー眷属を離れたそうじゃないか? はぐれとみなして、ココで切り捨ててもいいんだぞ」

「……そういう考えもある、か」

 

 それぞれ、いつでも聖剣と魔剣を抜ける体勢になるゼノヴィアと木場。まったく、血の気が多いのもいいけど、少しは抑えろよ。

 

「これから共同戦線だってのに、喧嘩は止せって」

「……君が聖剣計画を憎む気持ちは、理解できるつもりだ」

 

 今までの言動からは想像できない発言だが、とても真剣味を帯びた面持ちで剣を下ろすゼノヴィアに、木場も魔剣を呼び出す魔方陣を消した。

 

「あの一件は、我々教会関係者の間でも最大級に嫌悪されている。ゆえに計画の責任者は異端の烙印を押され、追放された」

「バルパー・ガリレイ。『皆殺しの大司教』と呼ばれた男よ」

「バルパー……ガリレイ。その男が、僕の同士達を……。」

 

 イリナが告げた名前を、木場が反芻するように呟く。具体的な仇敵が分かっただけでも、木場にとっては大きな前進だろう。瞳に新たな決意のようなものが浮かんでいるのが分かる。

 

「聖剣を奪った堕天使は、手先にはぐれ神父を使っている。教会から追放された者が結託するのも珍しくは無い。今回の件に、バルパーが関わっている可能性は高い」

 

 聖剣関連の研究者なら、エクスカリバーは格好のサンプルだろうからな。しかし、聖剣計画の責任者が……やっぱり、俺の予想が当たってしまったみたいだ。けれど、少なくとも今はまだ木場に告げるわけにはいかない。最悪、こいつが折れてしまいかねない。

 

 とりあえず、いざという時の連絡先を交換し合っておこうとしたら、こっちの分は母さんが俺のケータイ番号を教えたので大丈夫だった。

 

「それじゃあ、食事の礼はいつか。赤龍帝の兵藤一誠」

「じゃあね!」

 

 白いローブを翻して去っていく二人を見送ると、匙が深いため息をつく。

 

「どうした? 疲れた顔して」

「どうしたじゃねぇぇぇ! 斬り殺されるどころか、悪魔と神側の争いに発展してもおかしかなかったんだぞ!?」

 

 だから、そうなりそうになったらどうにかして止めるって言ったのに。まあ、信じられなくても無理は無いけど。

 

「イッセーくん」

 

 騒ぐ匙をどう宥めようかと考えていると、木場が無表情を装った、申し訳なさそうな顔で話しかけてきた。

 

「君たちは手を引いてくれ。これは僕の私怨、復讐だ。君たちを……」

「巻き込むわけにはいかない、とか言ったらぶん殴るぞ。俺たちは仲間だ。なら無関係じゃない」

 

 困惑する木場の両肩に手を置いて、真正面から思いのたけをぶつけてやる。

 

「お前がはぐれなんかになったら、部長が悲しむぞ。いいのかそれで!?」

「……リアス部長。あの人と出会ったのは、聖剣計画が切っ掛けだった」

 

 木場の口から、当時の思いと記憶が語られる。それは、俺が見た聖剣計画の資料と符合する、けれど比べ物にならない生々しさを含んだ内容だった。

 

 剣に関する才能と、聖剣への適性を見出されて集められた子供たち。来る日も来る日も辛い実験の毎日で、自由はおろか人間としてさえ扱われない日々を、誰もが神に選ばれ、聖剣を使える特別な存在になれるという希望をもって耐えていた。何度も聖歌を歌い、仲間同士で励ましあい、過酷な実験に耐えていた。

 

 けれど、一人二人と子供たちは減っていき、計画の失敗を悟った責任者は、隠匿のために『処分』を実行した。

 血反吐を吐き、もがき苦しみながら、それでも救いを求める彼らを、神は助けはしなかった。それどころか、神に仕えるものが、彼らを殺していった。そんな中、同士達のささやかな抵抗で、木場だけは研究施設から逃げおおせることが出来た。

 

 だが、毒ガスに汚染された木場の命は、もう長くはなかった。強烈な無念と復讐の念を抱えたまま生きあがこうとしていた木場を救ったのが、当時の部長だった。

 

「眷属として拾ってくれた部長には感謝している。でも、僕は同士達のお陰で、あそこから逃げ出せた。だから僕は、彼らの無念を魔剣に込めて、エクスカリバーに打ち勝つ。それが唯一生き残った僕に出来る贖罪であり、義務なんだ」

 

 ……木場の苦しみは、他人の俺には想像することしかできない。けれど、復讐の念を抱えたまま生きる事が辛いってことくらいは、俺にもわかる。だからさ、手助けくらいはさせてくれ。

 

「うおおおぉぉぉ……」

 

 沈痛な面持ちで俯く面々で、一際大きく悲しみを表す声があった。匙は大泣きしながら、横にいた俺の手をとった。

 

「イケメンな木場に、そんな辛い過去があっただなんて……。こうなったら、会長のお仕置きがなんだ! 兵藤、俺も全面的に協力させてもらうぜ!!」

「さ、サンキューな……」

 

 熱いやつだな。かっこつけるだけが能かと思ってたけれど、結構いい奴じゃん。

 

 俯く木場の服の裾を掴んで、小猫ちゃんが上目づかいで木場へ顔を向ける。

 

「……私も、お手伝いします。裕斗先輩がいなくなるのは……寂しいです」

 

 少しだけ寂しそうな表情になる小猫ちゃんの姿は、俺の心に深い衝撃を与えてきた。ふだん無表情な分、ギャップが凄いんだ。多分他の二人も同じだろう。

 

 木場も目を見開いて驚いた後、困惑しながら苦笑いする。

 

「あはは、まいったな。小猫ちゃんにまでそんなことを言われたら、僕一人で無茶なんて出来ないよ。……ありがとう、みんなの行為に甘えさせてもらうよ」

 

 こうして、エクスカリバー破壊のお膳立ては済んだ。後は実行あるのみだ。

 

 

 

 

 

 アーシアに緊急の召喚だといって家を抜け出し、町外れの教会まで足を伸ばした俺は、そこで皆と神父の格好に着替える事になった。多少の抵抗感はあるけれど、目的の為だ。

 

 俺達四人は東、ゼノヴィアとイリナは西を探し回ることになって、いざとなれば俺かイリナのケータイに連絡をいれるという手筈だ。

 

 神父を殺したという話から、向こうも追っ手を積極的に襲っているのはわかる。となれば、人気の無い場所まで行けば勝手に出てくる可能性は高い。ということで、俺はある場所へ行くことを提案し、皆も賛同してくれた。そうしてたどり着いた場所は……

 

「町外れの廃墟か……確かにうってつけだな」

 

 匙の感想に頷きつつ、建物に近づいていく。前にバイサーと戦ったここなら、人気もないし、なにより派手に暴れられる。

 

 そんな事を考えていると、感じ取った殺気から無意識に口が動いていた。

 

「上だ!」

 

 俺の叫びにいち早く反応した木場が、魔剣を作り前に出て、頭上から襲い掛かる何者かの一撃を防いだ。

 

「ガキィーンっとぉ!」

 

 奇襲が失敗するなり、宙返りしながら高所に降り立つそいつは、紛れもないあのクサレ神父、フリードだった。

 

「こないだはどーも! おんやぁぁ? そこにいらっしゃるのはイッセーくんじゃ、あーりませんかー!! ドラゴンパゥワーは順調に育ってますかい? それとチビ……あわわ! 小柄なお嬢さんまで!」

 

 イカれた調子の口ぶりながらも、小猫ちゃんの一睨みで慌ててチビを訂正する。ていうか少し思い浮かべただけの俺まで睨まれましたよ。この子はエスパーですか?

 

「今日も楽しく神父狩りっと思ってっつーのに、クソ悪魔どものコスプレかよ。ペローン!」

 

 口で効果音を出しながらエクスカリバーを舐める。イカレながらも阿保らしい動作だが、そんな下らないことをしていながらもまるで隙が無いのは流石だ。しかも、やっぱり!

 

「気をつけろ! あれもエクスカリバーだ!」

Boost(ブースト)!』

Ride(ライド)!』

 

 神父服を脱ぎ捨てて、神器を発動させる。他の二人も同様に制服姿に戻り、構えを取る。

 今回、俺はサポートに徹する。あくまでメインは木場だ。

 

「おやおや、四対一でボコる気ですか? 人気者は辛いっすね~」

「勘違いするな、僕一人が相手だ!!」

 

 そう言って、フリードへ切りかかっていく木場。だが、フリードはその一撃を易々とかわし、依然とは比べ物にならない速さで木場の背後を取って見せた。何とか防ぐが、フリードの攻撃は更に速さと苛烈さを増していき、木場も負けじと速度を上げるが、分が悪いのは目に見えて明らかだ。

 

「これが人呼んで、天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)! 俺呼んで、チョッパヤの剣!!」

 

 天閃の聖剣! 持ち主のスピードを底上げする高速の聖剣じゃねえか。スピードが売りの木場にとっちゃ、最悪の相性だ!

 

「待ってなよぉ! ギャラリーも纏めてぶっ殺してあげるからねぇ!」

 

 クソ! 余裕ぶっこきやがって! 雷龍帝の迅雷(ライディング・ギア・アクセル)なら奴を捉えられるだろうが、ここで俺があいつを仕留めたらそれこそ木場が止まらなくなる。せめて譲渡だけでもやってやりたいが……。

 

「なんとか、フリードの動きを止められれば……」

「兵藤、あの神父の足を止めればいいんだな? 任せろ! ラインよ、伸びろ!」

 

 匙がポーズをとると、左手に黒い蜥蜴の頭のようなものが装着される。掛け声に反応し、蜥蜴の口から光る舌のような紐が伸びていき、高速で動くフリードの足に絡みつき、難なく奴を捉えた! これも資料で見たことある!

 

黒い龍脈(アブソープション・ライン)!? お前もドラゴン系の神器(セイクリッド・ギア)持ちかよ!」

 

 ヴリトラの魂を宿した神器の一種を持ってるだなんて……流石はシトリー眷属の兵士ってわけか!

 

「へ、まあな」

 

 照れくさそうに返しながらも、フリードを拘束した紐を手繰り寄せる匙。フリードは聖剣で紐を断ち切ろうと何度も試みているが、文字通り歯が立たない。聖剣の扱いがなってねえな。

 

「クソ! うぜえんだよ、クソが!」

 

 今がチャンス! 飛び上がろうと身構えた途端、何故か浮遊感が……て、俺持ち上げられてる! 下を見れば、やっぱり我等が怪力少女が! ていうか最近力が戻ってきて、もう二百キロ超えてる俺を平然と持ち上げるとかこの子も何気にパワーアップしてますか!!

 

「……裕斗先輩を頼みます!」

 

 ブゥン!

 

 発破がけと共に、豪快に宙へ投げ出される俺! もうこうなれば勢い任せ! 宙を蹴って、木場へ急接近する!

 

「イッセーくん!?」

「木場ぁ! ドラゴンの力を受け取れぇぇぇぇ!!」

Transfer(トランスファー)!!』

 

 音声と共に、木場へ力が流れた!

 着地して木場を見れば、かなりのオーラがあいつの全身を迸っているのがよく分かる。

 

「受け取ってしまったものは使うしかないね。いくぞ!」

「チィィッ! このベロベロがぁ!」

 

 再び黒い龍脈を切り離そうと躍起になるフリードへ、木場が狙いを定め、魔剣を突き立てる。

 

魔剣創造(ソード・バース)!!」

 

 高所に生えていく無数の魔剣が、フリードを襲う。奴も天閃の魔剣を振るって魔剣を砕いていくが、このままいけば十分に押し切れる! やっちまえ、木場!

 

「ほう、魔剣創造か。使い手の技量次第では無類の力を発揮する神器だな。にしてもフリード、まだ聖剣の扱いが十分ではないようだな」

 

 突如響く、第三者の声。居場所を探ると、廃墟の奥から初老の神父服の男が現れた。

 

「バルパーのじいさん!」

 

 そのフリードの呼んだ名に、誰よりも早く、そして激しく反応したのは木場だった。満身の憎しみを込めて、呪わしくその名を口に吐き出す。

 

「……バルパー・ガリレイッ!!!」

「いかにも」

 

 木場へと向けたその眼差しは、俺にも何度か見覚えがあるものだった。自分を含めた全ての存在を実験材料としか捉えていない、研究の狂気に取り付かれた人間の目。優しげな風貌が、一層その狂気を際立たせている。

 

「そうは言うがねえ、じいさん。この蜥蜴くんのベロベロが邪魔で邪魔で」

「お前に渡した『因子』をもっと有効活用すれば、その程度はなんでもない。身体に流れる因子を刀身に込めろ」

 

 バルパーの指示を受けたフリードが聖剣を両手で構えると、あいつの中の何かが聖剣に流れ込み始めた。すると聖剣は目に見えて輝き始め、オーラが増大していく。あれが聖剣の『因子』? あれは……じゃあ、やっぱりあいつらの言っている因子ってのは!!

 

「身体に流れる因子を刀身に、ねぇ。おほぉぉぉ! そりゃあ!」

 

 スパッ!

 

 聖剣によって、匙の神器が難なく切断される! 言われてすぐにできんのかよ、てめぇ! これだから天才って奴は!

 

「ふぅん……聖なる因子を有効活用すれば、更にパワーアップってか? ――それじゃあ」

 

 フリードが木場に向き直り、一足飛びに襲い掛かる!

 

「俺様の、剣の餌食になってもらいやしょうかねえ!」

 

 剣を地面から抜いて構える木場だが、あの聖剣のオーラからして、もうあの魔剣じゃ受け止めきれない! こうなったら、俺が天叢雲剣で……。だが、俺が飛び出そうとするよりも先に、木場の下へ飛ぶ影があった。

 

 ギィィン!

 

「ありぃぃ?」

 

 フリードの聖剣と火花を散らすのも、また聖剣だ。

 

「ゼノヴィア!」

「やっほ、イッセーくん! 連絡もらったから来たわよ!」

「……そういう手筈でしたので」

 

 ああ、そういえばさっき電話してたね! ナイスです、小猫ちゃん!

 

「フリード・セルゼン。バルパー・ガリレイ。神の名の下、断罪してくれる!」

「ハッ! 俺様の前で、その憎ったらしい名前を出すんじゃねえ、このビッチが!!」

「はあああぁぁ!!」

 

 ゼノヴィアの背後から斬りかかる木場の一撃をかわして、フリードはバルパーの元へ飛び降りる。

 

「聖剣使いが二人も現れては、少々分が悪い。ここは一旦退くぞ」

「はいはい、てなわけで――はい、チャラバ!!」

 

 フリードが懐から出した球体を地面に叩きつける。予想通り閃光が周囲を照らすが、生憎俺の目にはそんなもんは意味がねえ! 飛び降りて蹴りを見舞うが、二人の姿は一瞬で掻き消え、既にどこにも見当たらない。ただの閃光弾じゃなくて、魔法式の移動アイテムだったのか!?

 

「追うぞ、イリナ!」

「逃がすか、バルパー・ガリレイ!!」

 

 叫んで一気に駆け出した三人は、制止する間もなく姿を消した。

 

「ッたく!! どいつもこいつも勝手が過ぎんぞ!」

 

 毒づく俺に反応する者は誰もなく、小猫ちゃんも匙も戦闘態勢を解いている。

 

 とりあえず、臭いを頼りにあいつらを追わないと! 駆け出そうとした俺の背後に、あまりに知りすぎた臭いが現れる。普段なら嬉しい香りだが、この時ばかりは不安を覚えざるを得なかった。

 

「イッセー……これはどういうこと?」

「匙、説明してもらいますよ」

 

 部長と会長が、それぞれの女王を連れ添って立っておられた。表情は険しく、いつになく目つきも鋭い。

 そんな部長も魅力的だと思える俺は、最強に得な性分だと自負する次第です、はい。

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