ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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 祝、ハイスクールD×D16巻発売日決定!

 では、どうぞ!


Life.42 決戦、駒王学園!

 ようやく学園前まで来たけど、先んじて俺の精神は疲労の極みに立っていた。けどその甲斐もあってか、自分でも要領を得ていない事に対する拙い説明でも、取り合えず納得はしてもらえた。……何に対しての納得なのかはおいといて。

 

 突然滅茶苦茶な真似をしたことで部長とアーシアには厳重に叱られて、ついさっきまで両腕をガッチリ組んで固められましたけどね。特に左側に立ったアーシアは、無い左目へと聖母の微笑みによる治療を続けていた。欠損部位を再生させるわけじゃないけど、治癒の光は確かな温もりで俺の心を癒してくれた。

 

 それに部長。毎度、素敵なおっぱい様の感触をありがとうございます。

 もう、聖剣でも堕天使でもかかって来い!!

 

 とか息巻いてる間に、会長とシトリー眷属が学園を覆う結界を張り出した。

 

「これで、余程のことがない限り、学園の外に被害が及ぶことは無いはずです。現状が維持されていれば、ですがね」

 

 けれど、それでも安心は出来ない。相手は堕天使の幹部。その気になれば、この地方都市を纏めて消し飛ばすぐらいはやってのけるだろう。現にさっきから、コカビエルの力が高まっていくのが感じられる。

 

 ここであいつに勝てなければ、俺の生まれ育った街だけでもなく、家族も友達も一緒に消える。

 

 怒りが滾り、表情が歪みそうになるが、感情任せで動いて皆を煩わせた手前、今はただおとなしくしている。そんな俺の横を、戻ってきた副会長が通り過ぎた。

 

「副会長、イリナは?」

「命に別状はありません。アルジェントさんの治癒のお陰です」

 

 副会長の返答を聞いて、アーシアも安堵する。部室であんなことを言われてから日も浅いって言うのに、やっぱりアーシアは優しくて強い。

 

 ……そういえば、イリナといえばゼノヴィアと木場はどうした? 逃げ延びたという話だけど、あいつらどこにいるんだ。とは言え、今は探している暇なんてない。

 

 もう決戦なんだぜ? 見せ場が欲しけりゃとっとと来い。

 

「出来れるだけ結界の維持に努めますが、学園の崩壊は免れないかもしれないですね。耐え難いことですが……」

「そんな事はさせないわ」

 

 力強い部長の言葉にも、会長は不安を隠せない。

 

「今からでも、遅くはありません。貴方のお兄様に連絡を……」

 

 しかし、部長は首を横に振った。

 

「貴方だって、お姉さまを呼ばなかったじゃない」

 

 お姉さま? ……そういえば、コカビエルはサーゼクスの妹と、レヴィアタンの妹と言っていた。サーゼクス様の妹は部長なら、レヴィアタンの妹は……。

 

「私のところは……。あなたのお兄様は、あなたを愛している。サーゼクス様なら必ず動いてくれます。だから……」

「既にサーゼクス様には、私のほうから打診しましたわ」

 

 二人の会話に割って入った朱乃さんの言葉に、部長が非難の声を上げる。

 

「朱乃! 貴方、何を勝手に……」

「リアス。貴方がサーゼクス様にご迷惑をお掛けしたくないのは分かるわ。けれど相手は堕天使の幹部。貴方個人で解決できるレベルを超えているわ。――魔王様の力を借りましょう」

 

 怒気を含んだ口調で詰め寄る朱乃さんに、部長はため息をついて頷いた。やっぱりプライベートじゃタメ口で名前も呼び捨てなんだな。

 

「ご承諾ありがとうございます。サーゼクス様の軍勢は、およそ一時間後だそうです」

「あなたには敵わないわ。……一時間ね」

 

 それまでに片付ける、と言外に宣告するように、部長は挑戦的な表情で歩を進める。

 

 いざとなったら、俺も全力を出す。なあ、ドライグ?

 

『神と魔王と戦い、生き残って見せた古の兵。相手にとって不足はない』

 

 見せてやろうぜ、神や魔王に喧嘩売ったドラゴンの力をよ。

 

 

 

 

 

「イッセー。今回あなたは、サポートに徹してもらうわ」

 

 先頭を歩きながら、部長が言ってきた。にしても校舎に足を踏み入れた途端、周りの風景が赤く染まって見えるのは何なんだろう。あいつは色に何か拘りでもあるのか?

 

「つまり、譲渡ですか?」

「ええ。貴方が前に出て戦うのは最後の手段よ」

 

 部長の胸中は察するに余りある。懸念しているのは俺の暴走、というより重龍皇の神器だろう。勝手に発動する挙句、敵味方関係なく力を吸収するだなんて、ヤバいという次元を超えている。もし戦闘中にそんな事が起きたら、間違いなく全滅一直線だ。

 

「確か、七、八割の配分で同時に二つの強化も出来るのよね。それで、譲渡はどれぐらい使えそうなの?」

「限界まで高めても、ざっと三十回はいけます。当然、時間がかかりますけどね」

「そこは当然、私達でフォローしますわ。……そういえば、マキシマムドライブからの譲渡は行えないのですか?」

 

 朱乃さんの一言で、はた忘れていた事を思い出す。そういえばそこは説明してなかったっけ。

 

「あれは赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)の全機能を強化だけに費やすんで、その間は譲渡もバーストも出来ません」

 

 そもそもバーストも長時間戦えるように開発したもんだし……考えてみると俺って、つくづく一人で戦う前提で赤龍帝の篭手を扱ってたんだな。部長の眷属になってから、譲渡も一、二回しか使ってないし。数年もすればゲームにも参戦するんだし、もっと皆で戦うことを意識していかないと……。

 

「イッセー」

「は、はい」

「当てにしてるわよ」

「……はい!!」

「私の可愛い下僕たち! ライザーのゲームとは違い、これは死戦。けれど、決して死ぬことは許さないわ! 生きて、またこの学園に通いましょう!!」

「「「「はい、部長!」」」」

 

 皆と一緒に返事をかえしつつ、女王へプロモーション。朱乃さんの足元にも及ばなくても、やれることはやっておくべきだ。今やれることを全力でやり抜く。それが俺の、たった一つの必勝法だ!

 

 覚悟を決めて、校庭に足を踏み入れた瞬間、いの一番に右目に入ってきたのは……黄金の光を放つ、巨大な魔方陣。いや、あれはまさか錬成陣? あの術式、そして陣の中心にいるバルパーと、奴の周囲に浮かんでいるエクスカリバー。何をしようとしているかは一目瞭然だ。

 

「エクスカリバーの統合、か。三本も足りねえくせによくやるぜ」

「同感だ。せめて自分でレプリカでも作ればいいものを」

 

 声を聞いて空を見れば、そこには宙に浮いた椅子に悠々と腰掛けるコカビエルが、こっちを見下ろしていた。待っていやがれ、今その余裕面をそこから引き摺り下ろしてやる。

 

 息巻く俺の耳に、今度はバルパーの声が聞こえてくる。

 

「無茶を言ってくれる。欠片とは言えエクスカリバー程の聖剣の複製など、そう易々と行えるものではない。そんな馬鹿げた真似を平然と行える者など、私の知る限りは『閃創(せんそう)』と『戦鋼(せんこう)』の二人しかいない」

 

 バルパーが今口にした名前は、俺も耳にした事がある。多分、錬金術に少しでも関わったことのある奴なら誰でも聞いたことはある名前だ。

 

 森羅万象を解し、門式錬金術をこの世にもたらした錬金術の頂点、『閃創の錬金術師』。俺の師匠、榊神の二つ名だ。

 

 もう一人は、機械技術にも精通し、ありとあらゆる金属を生み出す。伝説級の武具すら容易に作り出してしまう無機物の支配者、『戦鋼の錬金術師』。詳しい正体は知らないけれど、なんでも阿保らしいくらい強いという噂だ。何せ研究材料の調達はほとんど自分でやってるとかいうんだから。俺もそういう口だけどさ。

 

「ふっ、まあいい。今の内に長年の夢を叶えておけ。それで、サーゼクスが来るのか? それともセラフォルーか?」

「お兄様とレヴィアタン様の代わりに、私達が――」

 

 ヒュッ!

 

 ドオオオオオオオオォォォォォン!!

 

 風きり音の後、爆音と爆風が学園全体に広がっていく。その発生源である体育館があったほうをみれば、クレーターの中心に光の柱がつきたてられていた。

 

「つまらん。まあ、余興くらいにはなるか」

 

 やかましい! 八つ当たりで学校壊すとか、いまどき子供でもやんねえぞ!

 

『Boost』

 

 神器を発動させ、いつでも動けるように身構えておく。

 

「折角来たんだ。俺のペットと遊んでいけ」

 

 コカビエルが眼下の校庭へ光を放つ。そこに発生した魔方陣から穴が開き、巨大な火柱と共に十メートルほどの巨体がのっそりと這い上がってくる。外見は犬に酷似しているが、爪や牙は狼もかくやというほどに鋭く、二匹合わせて六つの頭から辺り一帯を振るわせるほどの咆哮を同時に放って見せた。

 

「ケルベロス!? 地獄の番犬を人間界に持ち込むだなんて!!」

 

 しかも、ペットにしちゃあ躾がなっていないようで……。

 

「朱乃、小猫!」

 

 部長の呼びかけで二人が動き、部長も翼をはためかせて宙へと踊りだす。

 

 一つの頭から吐き出された火炎を朱乃さんが凍らせ、その間に部長が破滅の魔力を放つ。そこへ別の頭が放った炎が応戦し、もう一つの頭が更に火炎を吐こうとするが、小猫ちゃんの踵落としで怯んだ隙に、破滅の魔力が炎を押し切って直撃する。倒れこむケルベロスだが、すぐさま起き上がって振るわれる爪を部長が回避する。

 

 苦戦する相方を助けるためか、前に出てきたもう一匹を朱乃さんの雷が撃つ。だが、こちらも目立ったダメージは無く、すぐに朱乃さんや小猫ちゃんへと飛び掛り、一転して混戦状態に陥る。

 

『Boost』

 

 まだ駄目だ。これじゃあアイツらは倒せない! クソ! 俺がもっと強ければすぐに皆へ譲渡ができるのに! どこまで足手纏いやってんだ、俺ってやつは!!

 

 ――ところで、不意打ちならもう少し手早くやれよ。臭うぜ犬っころ!

 

「フライングフォーク!」

 

 ドズン!!

 

 ギャオオオオオオ!!

 

 咄嗟に後ろへフォークを飛ばしてみれば、悲鳴じみた鳴き声が響き渡った。振り向くと、三頭目のケルベロスが目の一つから血を流して悶えている。

 

「一匹隠しておくとかやる事がセコいぞ!」

 

 アーシアを抱えて出来るだけ距離をとりつつ文句を飛ばすと、コカビエルは律儀に返事を返してくる。

 

「誰も二匹で全部とは言っていないさ」

 

 この野郎と内心で呟きながら、アーシアを下ろす。ケルベロスに走りよって、頭を踏ん付けてから飛び越すと、予想通り俺のほうを向いて唸りだしたケルベロスへ身構える。

 俺の役目は強化を溜めて、皆へ譲渡すること。仕留められるんなら仕留めるに越した事はないが、強化中の牽制レベルの攻撃でくたばるほどヤワじゃないだろ。今は避けることに専念するべきだ。……俺はな。

 

 ズバッ!

 

 こっちを睨むケルベロスの頭の一つが切り落とされ、返す刀で胴体を割られたケルベロスが炎と共に塵芥となって消滅する。こっちへ向きなおして笑みを浮かべるゼノヴィアに、俺も笑みを返した。

 

「少し遅れたが、加勢に来たぞ」

「いいや、ナイスタイミングだ!」

 

 流石は魔物にも無類のダメージを与える聖剣。その中でも破壊力重視の聖剣と、それに選ばれたパワー馬鹿の脳筋だけはあるぜ!

 

 駆け出したゼノヴィアは、部長たちと争うケルベロスの片方に正面から突っ込んでいく。三つの首から同時に吐き出された炎をあっさりと切り払い、そのまま頭から真っ二つにする。

 凄えな。破壊の聖剣だからって、あんなのありか。

 

「悔しいけれど、来てくれたのはありがたいわ。それにしても、前に比べて剣の力があがっている?」

「ああ、私自身も驚いているよ。兵藤一誠が手直ししてから大分調子が良かったが、これほどとはね」

 

 直すついでに少し整備したくらいだったんだけど。最強クラスの聖剣にはあれでも十分だったってことか? おっかない。

 

『Boost!』

 

 篭手の宝玉が点滅する。よし、これでいける!

 

「部長、朱乃さん! 強化が溜まりました!」

 

 空中へ飛び上がり、二人の肩に触れて譲渡を行う。

 

Transfer(トランスファー)!』

 

 刹那、二人の身体を極大のオーラが包み込み、部長が不敵な笑みを浮かべる。

 

「……いけるわ! 朱乃!」

「天雷よ! 鳴り響け!」

 

 朱乃さんが天に指を翳し、照準をケルベロスへ向ける。意図を察したのか、その場から逃げようとしたケルベロスの腹部を複数の刃が貫き、その場へ縫いつけた。

 

 ――ったく。冷や冷やさせんじゃねえよ、騎士(ナイト)さんよ!

 

「遅えぞイケメン王子!!」

 

 俺の野次に、当人は戦意を漲らせた笑みで返す。

 そして身動きが取れなくなったケルベロスへ、朱乃さんの雷が降り注いだ。フェニックス戦の時とは比べ物にならない大きさだ!

 

 ドオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!

 

「――ッ!」

 

 断末魔すらかき消す雷鳴を轟かせ、雷が地獄の番犬を吹き飛ばした。

 

 圧倒的な威力だけど、その分消耗も激しい。部長や朱乃さんといえど、連発は厳しいだろう。

 

 全てのケルベロスが消えた瞬間、間髪いれず部長が破滅の魔力を放つ。

 

「コカビエル!」

 

 ドウウゥゥゥゥォォォォォオオオオオッ!!

 

 デカい! いつもの部長の十倍以上はある大きさ!

 

 それに対し、コカビエルは相変わらずの余裕を漂わせながら、すっと片手を魔力の塊へ向け、命中の瞬間に横へ払った。

 

 ドオオオオォォォン!

 

 それだけの動作で行く先を変えられた破滅の魔力が、校庭を抉る。巨大なクレーターを残すほどの一撃を難なく防いだ堕天使は、掌から立ち上る煙を見て楽しそうに笑っている。

 

「なるほど、赤龍帝の力があれば、ここまで力が引きあがるのか。面白い、実に面白いぞ」

 

 哄笑を上げるコカビエルに戦慄を覚える俺たちの耳に、狂喜に満ちた声が届く。

 

「――完成だ」

 

 四本のエクスカリバーが陣の中心へと移動し、重なると同時に神々しい光で学園中が照らし出される。光の柱が空へと聳え立ち、それが収束すると同時に一本の剣が中心に現れた。あれが統合されたエクスカリバー……まだ出力は神さんのレプリカに及ばないけれど、それでも十分驚異的なオーラだ。

 

 更に、術式がコカビエルへと膨大な力を注ぎ込み、再びコカビエルから魔方陣へと力が逆流すると、吸い込まれるように魔方陣が消える。今のは……!?

 

「大地崩壊の術式!?」

 

 部長の叫びに、コカビエルが楽しそうに頷く。

 

「エクスカリバーが統合されるときに発生する力を利用したものだ。あと二十分もしないうちに、この街は崩壊する」

 

 な、んだって……。

 

「解除するには、俺を倒すしかないぞ、どうする!?」

 

 己が座っていた座を消して、十枚の黒い翼を広げるコカビエル。

 

 ふざけんな……ざけんじゃねえぞ、この野郎!

 

 湧き上がる感情を必死で抑えながら、コカビエルを睨みつける。バオウ、ガオウ! まだなのか!? このままじゃ街が!

 

『静 絶 合』

『後数分ダ。ソレマデ待ッテイロ』

 

 畜生! あそこでガオウの言うとおり、全力で暴れていればよかったのか!? でも、俺は……俺は――。

 

 ドゴォッ!

 

 暗い思考に染まりかけた頭に、突如衝撃が走る。左手、正確には篭手に宿るドライグが、俺の本能を利用してぶん殴ってきたと理解した瞬間、宝玉からドライグの叱責が飛んでくる。

 

『相棒!! この中で奴に太刀打ちできる可能性があるとすれば、それはお前だけだ! 余計なことを考えず、今は大人しく力を溜めろ! でなければ、例え制御が利いてもガオウの神器など扱えんぞ!』

 

 ……そうだな。すまねえ、ドライグ。

 

 そんな中、校庭で佇むバルパーへ誰かが近づいていく。……木場だ。

 

 憎悪を噛み締めるように、恨みを思い起すようにゆっくりと歩を進めながら、心中を吐露する。

 

「バルパー・ガリレイ。僕は聖剣計画の生き残り……いや、正確には貴方に殺された身だ。悪魔に転生したことで、こうして生きながらえている。僕は死ぬわけにはいかなかったからね。死んでいった、同士達の仇を討つために!!」

 

 怒りに吼えて突貫する木場へ、上空からコカビエルが光の槍を投げつける。校庭に着弾するなり、部長の魔力に匹敵する爆発が校庭を抉る。

 

ドゴォォォォォン!

 

「木場ぁ!」

 

 巻き上げられた粉塵の中で木場が仰向けで倒れているのが見えるが、大事には至っていないようだ。

 

「直撃は避けたか。すばしっこいネズミめ。フリード!」

「はいな、ボス!」

 

 呼ばれるなりどこからともなく現れたクソ神父が、バルパーと聖剣に近づいていく。

 

「最後の余興だ。四本の力を得たエクスカリバーで、こいつらを始末してみせろ!」

 

 コカビエルの命令を受けて、フリードがわざとらしく恭しい動作でエクスカリバーを両手に取る。

 

「へへぇぇい! 超ステキな仕様になったエクスなカリバーちゃ~ん! 確かに、拝領しましたでございますぁ! ――さぁて、誰からやっちゃいましょうかね?」

 

 ふざけた調子は相変わらずだが、放たれる殺気はこの間とは段違いに濃い。身構える俺の視界の端で、起き上がろうとする木場の下へバルパーが歩み寄っていくのが見える。あのクサレジジイ、まさか!?

 

「被験者が、一人脱走したままだと聞いてはいたが、卑しくも悪魔に堕ちておったか。だが、長年の悲願達成の時に出会うとは縁を感じる。君らには感謝しているよ。お陰で計画は完成されたのだからな」

「……完成?」

 

 怪訝に聞き返す木場に、バルパーは狂気を前面に押し出しながら続きを語る。

 

「――私はね、聖剣が好きなのだよ。幼少の頃、エクスカリバーの伝記に心を躍らせ、それを振るう自分を夢にまで見た。だからこそ、自分に聖剣使いの適性がないと知ったときの絶望といったら……そして、使う者に憧れを抱き、人工的にそれを創りだす研究に没頭するようになった。君たち被験者には、聖剣を扱う因子こそあったものの、聖剣を扱えるほどの数値は示さなかった。そこで、一つの結論に至ったのだよ。被験者から因子を抜き出せばいい、とね!!」

 

 必要なものが無いなら、在るところから持ってくればいい。発想自体は一般的だが、実行するのは狂気の域だ。何せ元からあるものを何の処置も無く奪い取れば、取られた側が無事で済まない事くらいは容易に想像が及ぶ筈。だからこのジジイは……。

 

 懐から、青い宝石のようなものを取り出したバルパーは、更に話を進める。

 

「これは、あの時の因子を結晶化した物だ。三つほどフリード達に使用して、最後の一つになってしまったがね!」

「ヒャハハハハハ! 俺以外の奴らは、みーんな途中で身体が因子についていけなくって死んじまったんだぜぇい!? そう考えると、やっぱ俺ってつくづくスペシャル仕様ざんすねぇ!!」

 

 遊ぶように俺と小猫ちゃんに斬りかかるフリードは、心底愉快そうに笑う。上空のコカビエルも、因子を持つバルパーも、楽しそうにニタニタと笑っている。

 

 戦争狂に聖剣狂に戦闘狂!! 揃いも揃って狂ってやがる!

 

「聖剣使いが祝福を受けるとき、身体に入れられるアレは……因子の不足分を補っていたと言うわけか」

 

 ゼノヴィアの指摘に、バルパーが怒りながらも愉快そうに吐き捨てる。

 

「ふん、協会の偽善者めらが。研究を飛躍的に向上させた私を異端として排除しておきながら、厚かましく私の研究だけは利用しおって。まあ、あのミカエルの事だ。被験者から因子は抜き出しても、殺してはいないだろうがな。そこだけは私より人道的といえるか」

「……なら、僕らも殺す必要は無かったはずだ。どうして!」

「お前らは極秘実験の研究材料に過ぎん。用済みになれば、廃棄するしかなかろう?」

 

 あまりの言い草に、俺は回避を続けながら叫んだ。

 

「ぬかせ! その時点じゃあ、被験者に影響を及ぼさずには因子を抜き出す事は出来なかっただけだろう!? だから取れるだけのデータを取った後、計画失敗を表向きな理由に被験者を処分し、因子を奪い取った! 違うか!!」

 

 研究者としては、合理的で無駄のない判断と言える。だからこそ、吐き気がすんだよ!

 

「ほう、察しがいいじゃないか。まあ、何にせよ死んでもらうのは最初から決まっていた事だ」

「僕たちは、主のためと信じて、ずっと耐えていた。それを……それを、実験材料? 廃棄?」

 

 呆然と呟く木場に同調して、皆が目に涙を湛えている。部長と朱乃さんの傍にいるアーシアは、滴とともにポロリと胸の内を漏らす。

 

「……酷い」

 

 悲哀や憤怒と言ったこの場に渦巻く感情を纏めて下らないと断じるように、バルパーは鼻で笑って結晶を、木場の同士達が唯一残した物を木場へ投げ寄越す。

 

「欲しければくれてやる。最早、更に完成度を高めたものを量産できる段階まで来ているかので、な」

「……皆」

 

 自分の足元に転がった同士達の成れの果てを拾い上げた木場の瞳は、これ以上無いほどの悲しみと慈しみで掌の結晶を映し、彼らのために祈るように両手で握り締めた。その姿に、俺は血が滲む程強く右手を握り締めている事に気づいた。

 

「ジジイ、てめえ――」

 

 その時だった。

 

「……バルパー・ガリレイ。あなたは自分の研究、欲望の為に、どれだけの命を弄んだ?」

 

 木場が握り締める結晶から淡い光が発せられ、木場を囲うように広がっていく。やがてハッキリとした形を持って、青白い輝きを放つ無数の少年少女の姿が現れた。

 

 あれは、木場が同士と呼んでいた、彼らの……。

 

「この場に渦巻く力が木場の思念に呼応して、因子から魂を解放したのか」

 

 皆、俺の口にした仮説に答えることなく、ただ木場と同士達を見つめている。木場は懺悔の様に彼らへ、長年の思いの丈をぶつけ始めた。

 

「皆! ……僕は……ずっと、ずっと思ってたんだ。僕が、僕だけが生きていていいのかって……。僕よりも夢を持った子がいた。僕よりも生きたかった子がいた。僕だけが、平和な暮らしを過ごしていていいのかって……」

 

 木場を本当に長年苦しめていたものの正体。それは聖剣や、教会への憎しみや復讐などでは決してなく……

 共に過ごした者達の犠牲によって生き延びた事、その上に感じられる幸福への罪悪感。それを木場は、復讐の念で蓋をしていたんだ。けれど、もうそんな必要はないというように清らかな歌声が木場を包み込み、校庭へ響き渡る。その音色を耳にしたアーシアは、さっきまでの悲痛な表情を弛緩させて呟いた。

 

「――聖歌」

 

 いつの間にか、木場も同士達と共に聖歌を口ずさんでいた。本来悪魔を退ける効果を発揮するはずのそれが、今は何ともない。むしろ心が温まるに思える。

 

 辛く苦しい人体実験の中で、彼らを支えていた希望と夢の象徴、生きる糧。それを謳う木場の表情からは、怒りも憎しみも悲しみも消えうせていた。

 

 すると、彼らの魂が人の形を崩し、再び光となって木場の周りを飛び交い始めた。木場へと語りかけ始める彼らの声が、俺にも聞こえてくる。

 

『僕らは一人では駄目だった』

『私達は聖剣を扱えなかった。でも……』

『みんなが集まれば、きっと大丈夫』

『聖剣を受け入れて』

『そして僕たちを』

『怖くなんて無い』

『例え神がいなくても』

『神が見ていなくたって』

『僕たちの心はいつだって』

 

 多くの光が集合し、木場の中へ入っていく。

 

「――ひとつだ」

 

 涙を晴らし、毅然と前を向く木場の姿には、今までに無い何かが感じられる。

 

 ……おい、ドライグ。

 

『ああ、相棒』

 

 間違いねえよな?

 

『お前の時とは似ても似つかないがな』

 

 うるせえ! なにはともあれ、木場は……

 

『ああ、あの騎士(ナイト)は至った』

 

 所有者の想いが、願いが、世界の流れに逆らうほど劇的な転じ方を見せたときに達する、領域。俺もかつてたどり着いた、神器(セイクリッド・ギア)の奥義とも言える境地。

 

『――禁手(バランス・ブレイカー)だ』

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