ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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 いつの間にやら、UAが十万を超えておりました! 感謝いたします!


Life.43 行け、オカルト研究部!

「――同士達は、僕に復讐を願ってなんかいなかった。願ってなかったんだ。だけど、僕は目の前の邪悪を打ち倒さなければならない。バルパー・ガリレイ」

 

 手元に剣を生み出しながら呼んだその名前には、既に憎悪の色は無く、代わりに強烈なまでの覚悟が込められている。木場の奴、完全に吹っ切れたな。

 

「貴方を滅ぼさなければ、第二、第三の僕たちが生を無視される」

「ぐぅッ!? フリードォォ!!」

「はいなぁ!!」

 

 切っ先を向けられて大声で護衛を呼び出し、エクスカリバーを構えたフリードが前に立った途端にニヤケだすバルパー。なんか急に小物臭くなったな。研究の絡まない性分じゃあ、所詮は単なる小悪党って事か。ジェリーさん位に突き抜けることもできやしない。

 

「ふん、素直に廃棄されていれば良いものを! 研究に犠牲は付き物だ。ただそれだけのことを!」

「……そうだな」

 

 思わず割って入った俺の台詞がそこまで意外だったのか。校庭にいる誰もが俺に視線を巡らせる。

 

「どんな綺麗事や倫理観を振りかざしても、所詮効率の上では邪魔でしかない。闘争がどれだけ技術を発展させてきたのかを考えれば、それは明らかだ。何かを得るためには、必ず相応の代価が必要になる。

 ――けどな。だからってその代価を他から奪うことでしか用意出来ないのは三流以下のやる事だ。本物なら、手前なりの何かを搾り出して見せろ」

 

 嫌味な笑顔を消して、呆然とするバルパーを見据えて続ける。

 

「エクスカリバーを扱いたかったんなら、適性が無くても諦めずに他の方法を探せばよかったじゃねえか。因子を人様から奪い取って、それで他人に聖剣を扱わせたから何だ? 挙句の果てに何一つ対価も払わず、一方的に人から奪い取った成果で、研究を飛躍的に発展させたって?

 笑わせんじゃねえよ、ド三流。研究に犠牲は付き物だからこそ、研究者はその犠牲を背負わなきゃならないんだ。その覚悟も無しに、安易な手段を選んだだけのロートルが偉そうに吼えてんじゃねえ!」

 

 拳を振り上げ、言いたいだけの事を言った後、今度は木場へエールを送る。

 

「木場ぁぁぁ! フリードの野郎と、エクスカリバーをぶったぎれ!! あいつらの想いと魂の力を、三流ジジイに見せつけてやれ!!」

「やりなさい、裕斗! 私の騎士は、エクスカリバー如きに負けはしないわ!」

「木場さん!」

「裕斗君! 信じてますわよ!」

「……ファイトです!」

 

 オカ研全員分の声援を受けて、木場が構えを取る。一方のフリードはふざけ調子ながらも不快そうに顔を顰めている。

 

「あ~あ~、何感動シーンな空気作っちゃってんスか? 大っ嫌いな歌を幽霊とクソ悪魔の合唱で聴かされるとか、お肌がガサついちゃっても~う限界っ!! あー、とっととてめえら全員切り刻んで、気分爽快になりやしょうかねえ!」

 

 聖剣共々ギラついたオーラを撒き散らすフリードに、木場はあくまでも静の姿勢を崩さない。ゆっくりと剣を頭上に構え、祈るように呟き始める。

 

「――僕は剣になる。一緒に超えよう。あの時果たせなかった想いを、願いを、今こそッ! 部長、そして仲間たちの剣になる! 魔剣創造(ソード・バース)!!」

 

 木場の剣から凄まじい光と闇の渦が巻き起こり、それは互いを尊重するように交じり合い、一つに纏まっていく。やがて現れたのは、神々しい輝きと禍々しいオーラを放つ一本の剣。さしずめ、聖魔剣っつったところか!

 

「――『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。聖と魔を有する剣の威力、その身で受けるといい!!」

「……聖魔剣だと!? ありえない! 反発する二つの要素が交じり合う事など、あるはずが無い!」

 

 木場と相対的にフリードから離れつつ、バルパーが定説の崩壊を目の当たりにした研究者としては極自然な反応を見せる。だけど、その無茶をやらかすのが神器であり、禁手だ。そして何より、目の前に実際に物がある以上、受け入れられないのはただの狭量でしかないぜ。

 

 なんて事を考えているうちに、ゼノヴィアが木場と隣り合って歩き出した。

 

「リアス・グレモリーの『騎士(ナイト)』。共同戦線が生きているのならば、あのエクスカリバーを共に破壊しようじゃないか」

「いいのかい?」

「最悪、私は核となっている欠片さえ回収できればいい。あれは最早、聖剣であって聖剣ではない、異形の剣だ」

 

 木場が頷くなり、ゼノヴィアは破壊の聖剣を校庭に突きたて、もう一方の手を空へと伸ばす。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。わが声に耳を傾けてくれ」

 

 解放の言霊に応じて、宙に浮き出た魔方陣から一本の剣が出てくる。過剰にも思えるほどに鎖を巻きつけられたそれの柄をゼノヴィアが握り、最後のキーワードを唱える。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する! ――聖剣デュランダル!!」

 

 無造作に鎖を引きちぎり、構えられた聖剣に誰もが目を奪われる。

 まあ、エクスカリバー、天叢雲剣と並ぶ最強クラスの聖剣だし、それも当然か。

 

「ば、馬鹿な……私の研究では、デュランダルを扱える域まで達してはいないぞ!?」

「当然だ。私はイリナやそいつとは違い、数少ない天然物だ」

「なっ……完全な適性者。真の聖剣使いだというのか!?」

「デュランダルは触れたものは何でも切り裂く暴君でね。私の言うことも碌に聞かない。普段は異空間に閉じ込めておかないと、危険極まりないんだ」

 

 ああ、やっぱ扱いきれてないんだな。そりゃそうか。何せパワー馬鹿にあんな威力抜群の刃物じゃあ、相乗効果で余計威力が高まるだろうしな。

 

「そんなのアリですかぁぁぁぁぁ! ココへ来ての超展開! そんな設定いらねえんだよぉ!!」

 

 叫びつつもフリードが聖剣を操り、無数に枝分かれさせた上に透明にした刀身をゼノヴィアへと向かわせる。だが、その全てをゼノヴィアは軽い一薙ぎで粉砕して見せた。しかもその一撃の余波で、校庭が大きく抉れている! 流石は最強の一角! 

 

「――所詮は折れた聖剣か。このデュランダルの相手にもならない」

 

 詰まらなそうに嘆息するゼノヴィアに対し、フリードは一人、ひたすら盛り上がる。

 

「マジ、か。マジ、で。マジ、だ!? 本気(マジ)スかぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 伝説のエクスカリバーちゃんが木っ端微塵の四散霧散かよっ!」

 

 騒ぎ立てつつも、ゼノヴィアの追撃を高速移動でかわす。そこへ更に、木場が騎士特有の速度で一気に詰め寄り、激しく火花を散らしながら、エクスカリバーのオーラをかき消していく。

 

「それが真の聖剣なら勝てなかっただろう。だけどそんな刃に、僕らの想いは断てはしない!」

 

 押してやがるぜ、あいつ! エクスカリバーに勝ってる!

 そして数度の剣戟の果てに、フリードが聖魔剣を受け止めようとした時――

 

 バギィィィン!!

 

 景気の良い金属音とともに、エクスカリバーが粉々に砕け散る。

 

「……見ていてくれたかい。僕らの力は、エクスカリバーを超えたよ」

 

 正に感無量の木場とは正反対に、ギリギリで負傷を避けたフリードは砕け散った金属片を忌々しそうに睨むが、すぐに気を取り直したように姿を消し、金属片とゼノヴィアが突き立てていた破壊の聖剣を手にしてバルパーの元へ戻る。バルパーもバルパーで、地面に新たな錬成陣を書き込んでいた。

 

 諦めが悪すぎんぞ、お前ら!

 

「まだだ、まだ終わらん!! 若造めが。私の味わった苦悩も絶望も知らずに、人を三流呼ばわりだと!? そっちこそ好きに吠えるがいいわ! 私は私の研究を貫き通すまでだ。足りないのならば、幾らでも継ぎ足してやる!」

 

 そう叫んで、バルパーが懐から瓶に入った赤い結晶を取り出し、金属片と破壊の聖剣と共に陣の中へと放り投げる。

 

 アレは!? なんであんな物を!

 

「クサレジジイッ!! てめぇ……それが何なのかをわかってんのか!?」

「勿論だとも! この『賢者の石』を得る為に、一体どれだけの物を費やしたと思う!? 本来は全てのエクスカリバーが揃ってから試したかったが、こうなっては止むを得まい!」

 

 パン!

 

 バルパーが両手を打った直後、赤い錬成反応の光が校庭を埋め尽くす。影の一辺もかき消す様な苛烈な輝きが止んだ後、陣の中心には血の様に赤いオーラに包まれたエクスカリバーが存在した。

 

 神さんのレプリカにも迫る、この力……いや、それ以上に――なんて醜いんだ。外見はさっきと大して変わっちゃいないのに、オーラの質が聖剣とは思えないほどにおぞましい。老人の妄執の塊と成り果てた聖剣を手に取ったフリードは静まる周囲とは場違いな程にはしゃぎまわる。

 

「この聖剣すごいよ! 流石はエ~クスカァ~リバ~! それじゃあ今度こそ、首チョンパいってみましょうか!!」

「ふざけるな!」

 

 再びデュランダルを振り上げ、ゼノヴィアが斬りかかるが……

 

 ガギィィィン!

 

 空気を揺らすほどの力のぶつかり合いにも関わらず、エクスカリバーの刀身はさっきとは違い、傷一つ入っていなかった。それどころか、鍔迫り合いの状態でフリードが剣に力を込めると、徐々にだがゼノヴィア、そしてデュランダルが圧され始める。

 

「馬鹿な! 如何に破壊の聖剣が加わったとは言え、これほどの力が……。まさか、アレは本物の賢者の石だとでも言うのか!?」

 

 錬金術に関わっていない物でも、その名前は誰もが知っているだろう。あらゆる錬金術師の到達点であり、様々な奇跡を発揮する完全なる物質とも言われている。その意味では、あれは確かに賢者の石と呼べる。

 僅かな代価で莫大な錬成を成し、それ自体が高エネルギーの固まりでもある。しかし、その正体は……。

 

「つくづく他人の力を利用するのが好きなジジイだ。そんなものまで持ってきやがって……一体どこでそれを手に入れた。まさか自分で作ったもんじゃないだろう」

 

 さっきの口ぶりからして、バルパーはあの賢者の石を自力で練成出来ない。やれるなら、こいつの腐れっぷりからして幾らでも作り出すだろう。

 

「そんな事はどうでもいい! 見ろ、これぞ私の長年の研究が結実した物! 更に残りのエクスカリバーを集め加えれば、真のエクスカリバーさえ超えた究極の聖剣が誕生するのだ!」

 

 自分の成果を目の当たりにして、狂喜しているバルパーに、俺は失笑を覚えざるを得なかった。その程度で究極だと? どこまで俺を笑わせてくれんだよ、ド三流。

 

「なら、今度は俺が見せてやるよ。俺の『聖剣』をな!」

 

 左腕を思い切り上へ振り上げ、宝玉から飛び出た二本の剣が落下し、目の前に突き刺さると同時に両手を打つと、バルパーは木場の聖魔剣を見た時以上に目をむいた。

 

「そ、それは……エクスカリバーに、天叢雲剣!? ば、馬鹿な……そんな筈が……」

 

 バルパーの呼んだ名前に、コカビエルも含めた全員が驚きを見せるが、無理は無い。エクスカリバーは勿論の事、天叢雲剣も失われて久しいと有名だからな。

 

「別におかしくはないっての。これは単なるレプリカ、偽物さ。ただし、出来は本物以上だけどな」

 

 神さんからもらった天叢雲剣と、朧流の修行の後、同じく神さんから譲られたエクスカリバー。本物を圧し折った――正確には斬った天叢雲剣は勿論の事、エクスカリバーも七つの特殊能力を削った分、全出力を威力のみに注がれている。

 

 どちらも世界最高峰の剣と言っていい逸品。それを今、俺なりの手を加えさせてもらう。

 

「バルパー・ガリレイ。錬金術は所詮、無から有を生み出す事も、存在しない物を作る事もできやしない。ただ、既に存在する物の形や性質を変えるだけだ。――こんな風にな!!」

 

 両手で柄を握り締め、二本の刀身をぶつけ、練成する。

 

 バゴォオオオオォォォォォォッッ!!

 

 雷鳴の如く音が響き渡り、青い光の中で二本の聖剣が一つになっていく。

 

 理解。

 分解。

 そして再構築。

 

 三つの工程を経て、俺の手に一本の聖剣が誕生した

 

 大太刀に大剣を足したような形状は、造形美と機能美を絶妙なバランスで両立させた、我ながら大した出来だ。即興だってのにここまで出来るとは、特殊な武器を融合させる研究の甲斐があったってことだな。

 

「馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な!! 錬成陣も無しに、あれだけの聖剣を一瞬で統合させるだと!? そんな真似が出来るわけがない! さっさとその見苦しい鈍を粉々にしてしまえ、フリード! どうせ聖なる気もほとんど感じない、二本の力を効率的に活かす事もできない欠陥品だ! 破片を回収して、私の研究に利用してくれる!」

「イエス、ジジイ! イーッセーくーん! あっそびーましょぉぉ!」

 

 好き勝手のたまうバルパーに急かされたフリードが、ゼノヴィアを弾き飛ばして俺の方へと向かってくる。俺は剣を後ろに構え、ちょうど居合い抜きのような格好を作る。ただし鞘はないので、柄を両手で握る。

 そしてフリードが剣を俺に振り下ろした瞬間――聖剣の力を全開にし、全身のバネを使って逆袈裟に切り裂いた。

 

 ――スパッ。

 

 数瞬遅れて、ともすれば間抜けにも聞こえる音を立てて、エクスカリバーは中程から真っ二つになった。宙を舞う刀身の切り口に目を凝らせば、鏡面状になった断面が見える。

 

 更に俺の向かった先、校舎の一部がゆっくりとずれていき、自重に従って地面に崩れ落ちた。

 

「……本気(マジ)ですか?」

 

 そんな間の抜けた声を上げて、聖剣を取り落としたフリードは胴体を斜めに奔る己の傷口を手で押さえる。両断しててもおかしくなかったってのに、あの刹那に聖剣の力を全開にして防御しやがったか。本当にどこまでもしぶといな。

 

「やっぱり聖剣の能力自体はほとんど変わってなかった。ただ賢者の石を混ぜ込んだ分、出力が上がっただけじゃそれこそ欠陥品だ。バルパー・ガリレイ。これが、お前の到達点か?」

 

 みれば、バルパーは茫然自失の面持ちで、腰をぬかしてへたり込んでいた。情けないジジイだ。

 

「要はバランスだ。力の配分を――」

「……バランス? そうか。そう言うことか!!」

 

 何かに思考が至ったのか、バルパーはエクスカリバーの統合を果たした時以上の狂喜を見せて、自論を吐き出し始めた。

 

「聖と魔、それらの司る存在のバランスが大きく崩れているのならば説明が付く! つまり、魔王だけでなく、神も――」

 

 ズンッ!

 

 台詞の途中で、バルパーの身体を光の槍が貫く。すぐさま槍と共に体は消失し、生きていた痕跡となるものは、折れた聖剣しかない。皆殺しの大司教も、あっけないもんだ。

 

「バルパー。お前は優秀だったよ。そこに思考が至ったのも、優れていたが故だろうな」

「……一体全体何の真似だ、コカビエル」

 

 聖剣の切っ先を向けながらそう問うと、コカビエルはゆっくりと高度を下げながら答えた。

 

「俺は別に最初から一人でよかったんだよ。もう余興にも飽きた。――赤龍帝。限界まで力を上げて、全力で俺を攻撃して見せろ。下手に譲渡などするよりも、そっちの方が面白そうだ」

「私達にチャンスを与えるというの? ふざけないで!」

 

 激昂する部長に対する奴の返事は、哄笑だった。

 

「ハハハハハ。ふざけているのはお前らだ。……この俺を倒せると思っているのか?」

 

 のしかかるプレッシャーに、思わず身震いがする。それは相手が遥か格上だという、本能からの警告だろう。突き刺さる殺気に総毛立ちながら、俺は聖剣を篭手の宝玉に突っ込んだ後、ゼノヴィアへ視線を向ける。

 

「ゼノヴィア。デュランダルを貸してくれ」

 

 絶望的な状況だからか、すぐにデュランダルを渡してくれる。それもまた宝玉へ入れると、爆発的な聖なる気が左腕から立ち上る。他の聖剣の力を高めるデュランダルの能力が、俺の聖剣を更に強力にした結果だ。だが、これでさえもコカビエルに致命傷を与えられるとは思えない。

 

 だから強化する。倍加、倍加、更に倍加。

 

Boost(ブースト)!』

Boost(ブースト)!』

Boost(ブースト)!』

 

 繰り返される強化。やがて、宝玉が点滅する。

 

『完』

 

 ……こっちも終わった。雷龍帝の脚甲(ライディング・ギア)を出し、そこから伝えられる情報にほくそ笑む。なるほど、それなら扱えそうだ。

 

 意識を集中させ、胸の辺りに力を込める。やがて闇が集まり、漆黒を青が彩る、中央に黄色い宝玉がはめ込まれた胸当てが形成される。

 

「ほう、新しいオモチャか。さっきと同じ力を感じるが、大分弱まっているぞ」

「扱いやすさを優先した結果だよ。さしずめ、『重龍皇の胸甲(ローディング・ギア)』ってところだ。……部長、すいません」

 

 謝罪を口にしてから部長へ視線をやって、再びコカビエルへ向きなおす。何故、部長なのかは、仮に吸収してもこの中で一番余裕があるだろうからだ。

 

『Lord!』

 

 そして吸収したのは、コカビエルの力だけだった。量自体はさっきの時よりは少し減っていたけどな。

 

「その程度で俺を吸い尽くすには、幾ら時間があっても足らんぞ? さっさとしなければ、こちらからいくぞ」

「もう少しだ。精々首を洗って待ってやがれ」

 

 コカビエルを睨み、全身に魔力と覇気をめぐらせる。心の力を溜め、呼び水となる呪文を唱える。

 

「チャーゼル・ドライグ!」

 

 赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)の宝玉が更に輝きを増し、ドライグの紋章が浮かび上がる。

 

「チャーゼル・バオウ!」

 

 同じく雷龍帝の脚甲の宝玉が、金色のバオウの紋章と共に輝く。

 

「チャーゼル・ガオウ!」

 

 最後は重龍皇の胸甲。宝玉にガオウの紋章が黒く、暗く浮かび上がる。

 

 事前に呪文を唱え、天龍の力、三種類の最強呪文を纏めてぶちかます大技。使うのは最初に試した時以来だし、あの時はドライグとバオウだけだったから、そこにガオウが加わって、一体どれほどの威力になるのかは見当もつかない。それでさえも倒しきれるのか分からない強敵が、自分の目の前にいる。

 

 その事実に、心のどこかが熱くなっている自分がいる事を感じる。どんなに取り繕っても、俺も所詮戦闘狂ってことか。

 

 構えを取り、全ての力を込めて――拳を前に突き出した。

 

Burst(バースト)!!』

「チャーゼル・ドラグドン!!!」

 

 解き放たれた力は炎、雷、重力の龍となって、コカビエルへ襲い掛かる。

 

『ギャオオオオオォォォォォォッ!!』

『バオオオオオオォォォォォォッ!!』

『ガオオオオオオォォォォォォッ!!』

 

 強大な力の権化が迫っているにも関わらず、コカビエルはあくまで愉快そうに笑い、光力を高めて正面から三体のドラゴンを受け止めて見せた。

 

 ゴォォオオォォォォォオオオオオオォォォォォォォォォォォォッ!!

 

「ははははは! 最上級悪魔を凌駕するこの力の波動! 破壊力だけならば、紛れも無く魔王クラスだぞ! やれば出来るじゃないか!!」

 

 狂喜に彩られた表情でそう評した途端、顔を戦意で塗り固め、常軌を逸した鬼気を感じさせる。

 

「ぐぅぅぅぅぅうううううううううううううううッ!」

 

 圧倒的な破壊力を持ったドラゴンの化身が、コカビエルの光の前に徐々に勢いを殺されている。いや、正確には削られている。

 一部とは言え、天龍の力と渡り合うだけの出力を出しながら、微細なコントロールで三体の力を殺いでいるんだ。これが伝説と呼ばれる堕天使の、力量と技術。だけどな、俺も負けらんねえんだよ!!

 

「オォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

Maximum(マキシマム) Drive(ドライブ)! DriveⅡ(ドライブツー)!! DriveⅢ(ドライブスリー)!!!』

 

 マキシマムドライブと同時に心の力を振り絞り、一気に押し切ろうとするが、コカビエルもまた更に出力をあげやがった。ならばこっちも……。

 

Reset(リセット)

 

 ガクッ。

 

 不意に、電源が切れたかのように身体から力が抜け、片膝を突く。その瞬間、呪文はコカビエルによって砕かれ、霧散した。

 

「イッセー!!」

 

 悲鳴のような声を上げて部長が駆け寄ってくるが、俺は地面に手を付いた格好のまま、相棒へ問いかける。

 

「……なんでリセットしたんだ、ドライグ!」

 

 ドライグは言い聞かせるように答えた。

 

『コカビエルにはまだ余力があった。心の力が底を尽きかけた状態で、あれ以上マキシマムドライブの段階をあげても無意味だったからだ。それが分からないお前でもないだろう』

「だからって……あいつを倒すチャンスは、もうあれしかないだろ」

 

 コカビエルを見れば、両腕から出血し服も所々が破けている。だけど、決して深刻なダメージは負っていない。……聖剣の力を加え、最大強化にバーストを重ねて、更にマキシマムドライブまでやってあれじゃあ、とてもじゃないが皆じゃ倒しきれない。

 

 おまけに……限界以上に絞り出した心の力は、易々とは回復できそうに無い。あと十分もないんじゃ、最大呪文を撃てるか怪しい。

 

 ――畜生、畜生、畜生!! こんなところで終わりかよ!? 俺の家族も、友達も、家も、学園も! 戦争の巻き餌になって消えるってのか!! いいや、させねえ! 例え全身がドラゴンになろうが、粉々に砕け散ろうが、あんなウォーモンガーの好きにさせっかよ!!

 

「雷よ!」

 

 憤る俺の耳に、それ以上の怒りを含ませた朱乃さんの叫び声が、雷鳴と共に届く。

 

 天から自身へ落ちてくる雷を指先に集中させ、コカビエルへと放つが、黒い翼によってあっさりと防がれる。

 

「俺の邪魔をするか、バラキエルの力を宿すものよ」

「……私を、あの者と一緒にするなぁ!!」

 

 激昂する朱乃さんに呼応して激しさを増す雷だが、コカビエルの羽ばたきによってあっけなくふきとばされてしまった。

 

 バラキエル。単純な戦闘力なら総督のアザゼルに匹敵するとも言われる、「雷光」の異名を持つ堕天使の幹部だ。……そいつと朱乃さんは、何か関係がある?

 

「悪魔に堕ちるとはな! ははは、まったく愉快な眷属を持っているな、リアス・グレモリー! 赤龍帝、聖剣計画の成れの果て、――そしてバラキエルの娘!!」

 

 !!!

 

 い、今なんて言いやがった、こいつ。

 

「朱乃さんが、堕天使の、娘?」

 

 上手く動かせない頭に、更にコカビエルの嘲笑が響く。

 

「お前も兄に、負けず劣らずの、ゲテモノ好きのようだな!」

「兄の――我らが魔王への暴言は許さない! 何よりも、私の下僕への侮辱は、万死に値するわ!!」

 

 威風堂々と宣告する部長に、地へと降り立つコカビエルが濃厚な殺気と共に言い放った。

 

「ならば滅ぼしてみろ! 魔王の妹! 『赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)』の飼い主! 紅髪の滅殺姫よっ!! お前らが対峙しているのは、貴様ら悪魔にとっての宿敵なのだぞ!? これを好機と見なければ、お前の程度が知れるというものだ!!」

 

 コカビエルの口ぶりに火がついた俺は、ガバッと立ち上がって言い返す。

 

「うるせえ、この戦争狂が! これ以上部長や朱乃さんにふざけた事ぬかしてみろ! そのニヤケ面をぶち砕くぞ!!」

「ふっ、先ほどあれだけの力を出し切って、まだそんな元気があるか。だが、己の全力を打ち砕かれたのを忘れたのか? あれだけ優れた錬金術の腕前を持っていながら、馬鹿にも程があるぞ」

「一回や二回失敗した程度で諦めちまうのが賢いってんなら、俺は一生馬鹿でいい!」

『Boost!』

『Ride!』

『Lord!』

 

 三つの神器がそれぞれの音声を上げ、俺の力が上がっていく。光の剣を作りだしたコカビエルに身構えていると、ゼノヴィアが寄ってきた。

 

「兵藤一誠。デュランダルを。それと、あの聖剣も貸してくれ」

 

 そう言ったゼノヴィアに、俺は篭手から引きずり出した二本の聖剣を手渡す。二刀流のように構えるゼノヴィアは、聖なるオーラを出しながらも顔を顰める。

 

「……やはり、先ほどの君の出力には及ばない、か。まったく情けない。それでも、時間稼ぎくらいはやってみせる!」

「イッセーくんは、気にせず回復を!」

 

 ゼノヴィアの後を追って木場が、更に小猫ちゃんが続く。皆……ありがとう!

 

「はあああ!」

 

 最初に木場が仕掛け、その反対側からゼノヴィアが二刀の聖剣で同時に斬りかかる。その同時攻撃を光の剣の二刀流で難なく受け止めたコカビエルの頭上から、小猫ちゃんが飛び掛る。

 

「甘いわ!」

 

 が、コカビエルは十枚の翼を生やし、それらを刃のように振るって、三人を纏めて吹き飛ばした。咄嗟に防御できた木場とゼノヴィアは着地するが、至近距離でくらった小猫ちゃんはボロボロの様相で仰向けに倒れこむ。そこへアーシアと一緒に駆け寄ると、コカビエルは光の剣を巨大化させ、強力な光の衝撃波を発生させる。

 

 木場とゼノヴィアは剣を盾に、部長と朱乃さんは魔法陣を展開して防ぐ中、俺は駒を戦車に変えて、アーシアと治療を受ける小猫ちゃんを背に、衝撃波へ手を翳した。

 ラシルドじゃ防ぎきれない。消耗はキツいが、上級呪文を使うしかない!

 

「バベルガ・グラビドン!」

 

 範囲を可能な限り狭めて厚くした重力の壁が、地面を陥没させると共に衝撃波を粉砕する。クソ、折角少しは回復した心の力が、また空っぽに……。

 

「――聖魔剣よ!!」

 

 叫び声の方を見れば、コカビエルの周囲に浮かび上がった魔方陣から十本の聖魔剣が現れ、一斉にコカビエルへ切っ先を向けて飛んでいく。

 

 それは黒い翼に阻まれ、あっさり砕かれるが、その間に接近した木場が正面から突きを放つ。それを指二本で受け止められ、続いて逆の手から生み出した二刀目も同じように指二本で掴まれる。

 

 諦めず、更に口元に出した三本目の柄を歯で噛み締め、意表をつかれて隙をさらすコカビエルの顔へと振るった。

 

 聖魔剣を放し、後ろへ下がったコカビエルが顔から手をどけると、頬に横一文字の傷が奔っていた。けど、浅い。しかし、プライドを傷つけられた為か、コカビエルは身の丈程の光弾を体勢を崩した木場へ撃ち出す。着弾の間際、割って入ったゼノヴィアが光弾を切り払うと、コカビエルはやれやれと言うかのように苦笑する。

 

「しかし、仕えるべき主を無くしたというのに、よく戦うものだ」

 

 いきなり、わけのわからない事を口走るコカビエルに、ゼノヴィアが食って掛かる。

 

「コカビエル! 主を無くしたとはどういう意味だ!?」

「……フ」

 

 最初は噴出すように。次の瞬間、それは今まで以上の大笑いとなって、周囲に響き渡った。

 

「フハハハハハハハハハハハハハハハ!! そうか、そうだったな! お前たち下の方にまであれの真相は語られていなかったんだった! 戦争を起こそうというのに、今更隠す必要も無かったな! バルパーもこれ以上無い程、見事な無駄死にだ! まあ、あいつには相応しい終わり方か! ハハハハハハハハハハハ!!」

 

 まるで世界全体をあざ笑うように、コカビエルが笑い続ける。やがて愉快そうに告げられた事実は、全員を一気に凍りつかせた。

 

「ならば教えてやろう。先の三つ巴の戦争で、四大魔王だけじゃなく、神も死んだのさ!!」

 

 ――――

 

 ……はッ?

 

「う、嘘だっ」

 

 突然の暴露に、ゼノヴィアは狼狽し、全身をガクガクと震わせている。支えにしているデュランダルがなければ、今にも崩れ落ちてしまいそうだ。

 

「神が死んでいた? そんな話、聞いたこともないわ!」

 

 部長の反論に、コカビエルはまたしても面白そうに笑う。

 

「それはそうだろう。トップ共が必死で隠し続けていた、機密中の機密なのだからな。あの戦争で、悪魔は魔王全員と上級悪魔の大半を失い、天使も堕天使も幹部以外はほとんど死に絶えた。最早、純粋な天使は増えることすらできず、天使が堕ちる事で増える堕天使も同様だ。悪魔とて、純血種は希少だろう? どの勢力も、人間に頼らなければ種の存続すら出来ないほどに落ちぶれた。だから三大勢力のトップ共は、神を信じる人間を存続させる為にこの事実を封印したのさ」

 

 ……スキャンダルどころじゃねえ。驚天動地にも程があるぞ。

 

「――そんな」

「……嘘だ……嘘だッ!」

 

 アーシアはあまりのショックに口元を手で押さえ、ゼノヴィアは聖剣から手を離して愕然と地に項垂れていた。

 

「だが、そんな事はどうでもいい。俺が耐え難いのは、神と魔王が死んだ以上、戦争継続は無意味だと判断しやがった事だ!! ああ、耐え難い! 耐え難いんだよ!! 一度振り上げた拳を収めるだと!? あのまま戦争を続けていれば、俺たちが勝てた筈だ!! 挙句、アザゼルは『二度目の戦争はない』と宣言するしまつだ! 同じように泣きを見た天使も悪魔も、戦争を極力避けている! おかげで故意でもない限り、大きな戦争は起こりようもない状態になりやがった!! ふざけるな!!」

 

 そう叫ぶコカビエルは、周囲の空気を一気にざわめかせるほどの感情と戦意を爆発させる。

 

「……神がもういらっしゃらないのなら……では、私達に与えられる愛は……」

「ふっ、ミカエルはよくやっているよ。神の代わりに、天使と人間を上手く纏めているのだからな。神の使用していた『システム』さえ機能していれば、神への祈りも祝福も、悪魔祓いもある程度動作はするだろうしな。ただ神の時とは比べ、切られる信者の数は格段に増えたがな。聖と魔のバランスを司る神と魔王が滅んだ為に、そこの小僧の聖魔剣のような特異な現象も起こる。本来なら聖と魔が交じり合うことなど、ある筈もないからな」

 

 コカビエルの言葉を聞いて、倒れこむアーシアを小猫ちゃんが支え、近くの木まで運んで座らせてくれた。無理も無い。子供の頃からずっと信じていた存在が、とっくの昔に死んでたなんで聞かされれば……。

 

「俺は戦争を始める! お前らの首を手土産に、俺だけでも、あの時続きをしてやる! 堕天使こそが最強だと、サーゼクスにも、ミカエルにも思い知らせてやる!」

 

 ルシファー、ミカエル。聖書に名を刻む存在へ挑むとは、随分ご立派な目標で。なら、俺も俺の目標のために、手前の首をもらおうか!

 

「ふざけんなっつってんだ! お前の戦争好きの為に、俺の街を、仲間を、部長を、アーシアを! 消されてたまるかってんだ!! それに……それになぁ……ハーレム王に! 俺は! なるんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「……ハァ?」

 

 若干冷めたゼノヴィアの声が聞こえてきたが、そんな反応はとっくの昔に慣れてんだよ!

 

「手前なんかに、俺の計画を邪魔されちゃたまんねえんだよ!」

「くくく、ハーレム王? ハハハハハ! 赤龍帝はそれがお望みか。なら、俺と来るか? ハーレム王などすぐになれるぞ。行く先々で美女を見繕ってやる。好きなだけ抱けばいい」

「……………………………………」

 

 好きなだけ、抱けばいい。

 

 抱けば、いい。

 

 抱、け、ば、い、い。

 

 甘美な響きが幾度と無く俺の神経を揺さぶり、脳内に桃色の嵐が吹き荒れる。

 

「敵を打ち倒した興奮のままに女を貪るのは最高に気分がいいぞ。それを味わいたくはないか?」

「そ、そんな甘い言葉で、俺が釣られるもんかよ」

「イッセーくん、頼むからよだれを拭いてくれ……」

 

 木場がこれでもかってくらい落ち込みまくって言って来た。悪い悪い。

 

「イッセー!!!」

「はい!」

 

 部長のかつて無いレベルの怒声に、自然と背筋が伸びる。

 

「す、すいません! どうにもハーレムって言葉に弱くて……」

「そんなに女の子がいいなら、この場から生きて帰れたら、私が色々してあげるわよ!」

 

 色々してあげるわよ。いろいろしてあげるわよ。してあげるわよ。

 

「ま、マジですか? それじゃあ、お、オッパイを揉むだけでなく、す、吸ったりだとか?」

「ええ、それで勝てるのなら安いものだわ」

 

 ――――。

 

Dragon(ドラゴン) Lord(ロード) Second(セカンド) Liberation(リベレーション)!!』

 

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!

 

 俺の想いに応えて、赤が、金が、黒が。更なる力を解き放つ! 音声と共に姿を変えた重龍皇の胸甲の力を把握しつつ、目標を反芻する。

 

「吸う。遂に吸える。吸えるんだ。……今の俺は、神すらも一撃で砕けるぜ。あ、神様いないんだっけ。ハハハハ!」

Explosion(エクスプロージョン)!』

Ignition(イグニション)!』

Lord(ロード)!』

 

 奮える魂から湧き上がる心の力は凄まじく、既に普段の限界を大きく超えている。

 

「やられてもらうぜ、コカビエル! 部長の乳首を吸うために!!」

 

 加速されたスピードで懐に飛び込むと、コカビエルがタイミングを合わせて光の槍を振るってきた。限界まで高められた最高速度だってのに、あっさり捉えるとは流石だ。

 

 だが、俺は光の槍を上段回し蹴りで蹴り砕くと、回転の勢いそのままに、背中からコカビエルに体当たりを叩き込む。世界最強の達人直伝の鉄山靠だ!

 

覇皇烈靠撃(はおうれっこうげき)!!」

 

 強烈な一撃に、コカビエルは後ずさって血反吐を吐き出すと、俺に憎憎しげな目を向けてきた。

 

「……女の乳首を吸う想いだけで、これほどの力を解き放つだと? なんだお前は。どこの誰だ?」

「兵藤一誠。エロと熱血に生きる赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)の宿主で、そんでもって、今はリアス・グレモリー様の『兵士(ポーン)』だ!!」

 

 絶望がなんだ。実力差がどうした。そんなもんはもう腹いっぱいなんだよ。

 俺が欲しいのはおっぱいのみ! 戦争なんてかったるい真似はゴメンだね!

 

「はははははは。面白い、面白いぞ小僧ぉぉぉ!!」

 

 コカビエルは再び笑い出し、黒い翼を展開して身構える。いよいよこっからが本番! いざとなったら、どこを代価にしてでもぶっ殺す! 街を守るため、そして部長の乳首の為に!!

 

『ふふふ、同感だ。俺も非常に楽しみだね』

 

 突如割って入った声は、場違いな程に気楽な響きだった。

 

 次の瞬間。ガラスが割れるような音と共に、黒い夜空と、そこに浮かぶ白い満月が現れた。会長達の張っていた結界が破られたのか!?

 

 ゾッ!!!

 

 細胞が纏めて警戒に引き締まるような、とてつもない力の波動。その大元を目で探ると、そいつは満月を背に、見せ付けるように光の翼を広げていた。各所に青い宝玉が埋め込まれた、白い鎧。まさか、あいつが……。

 

「『白き龍(バニシング・ドラゴン)』……赤き龍に惹かれて来たか。邪魔立ては――」

 

 皆まで言う前に、白は動いた。重龍皇の力を受けた俺の眼で、ギリギリ捉えるという速度で背後に回り、コカビエルの翼を二枚引きちぎると、ゴミのように投げ捨てた。

 

「薄汚い、まるでカラスの羽だ。アザゼルはもっと薄暗く、常闇のようだったぞ?」

 

 上空へ舞い上がる白い龍を、コカビエルは怒りと困惑が入り混じった目で睨みつける。

 

「き、貴様! どういうつもりだ!?」

「地より下の世界へ堕ちた者に、羽なんて必要ないだろう?」

「!!!!」

 

 激昂したコカビエルは残った八枚の羽で宙へと踊りだし、巨大な光の槍を出すが……。

 

Divide(ディバイド)!』

 

 白龍皇から発せられた音声と共に、コカビエルの力が一気に減少した。最初に体育館を吹き飛ばした物よりも遥かに大きかった槍もどんどん小さくなっていき、やがて消滅する。

 

「我が名はアルビオン。我が神器、『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』の能力の一つ、触れたものの力を十秒ごとに半減させ、その力は俺の糧となる。急がなければ、人間にすら勝てなくなるぞ?」

 

 赤龍帝は力を倍化させ、誰かに譲渡する。白龍皇は力を半減させ、自分の力とする。まさに対極の能力だ。

 

「……どうやら、思った以上に赤龍帝に削られたようだな。もう少し楽しめると思ったんだが、終わらせるか」

 

 嘆息すると、一気に間合いを詰め、コカビエルの鳩尾に拳を叩き込んだ。再び血反吐を吐き出したコカビエルは、それでも一矢報いようとするが、既に何度と無く半減された奴の力はもうほとんど残っていなかった。

 

「あんたは少しばかり勝手が過ぎた。無理やりにでも連れ帰るよう、アザゼルに言われているんだ」

 

 にべも無く告げた瞬間、白龍皇は己の拳が突き刺さったコカビエルと共に閃光となって宙を駆け巡る。

 

「アザゼルゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーッ!!!」

 

 絶叫するコカビエルを伴った光は、やがて地面に激突し、凄まじい轟音を起こす。直後、校庭から再び魔方陣が浮かび上がり、空中へ上っていき、霧散した。これで、街は大丈夫なのか。

 

 落下地点へ近寄り、目を凝らすと、そこにはコカビエルを抱えた奴がいた。

 

「あっちのフリードも回収するか。まだ聞き出さなければならないことがある。始末はその後だな」

 

 穴から飛び上がり、フリードの元へ寄ると、そのまま襟首を掴んで無造作に抱える。俺なんて眼中にも無い、と言わんばかりの態度だ。

 

『無視か、白いの』

 

 ドライグが篭手越しに話しかけると、白龍皇の光翼も同じように明滅し、声を発する。

 

『生きていたか、赤いの』

 

 これが、ドライグの長年のライバル。赤龍帝と拮抗し、幾度と無く宿主を変えて討ち合った、最強のドラゴン。白龍皇(バニシング・ドラゴン)、アルビオンなのか。

 

『折角出会ったのに、この状況ではな』

『いいさ、いずれ戦う運命だ。こういう事もある。また会おう、ドライグ。そちらの同居人達にもよろしく言っておいてくれ』

『ああ、またな、アルビオン』

 

 話は終わったとばかりに飛び上がろうとする白龍皇に、俺は指を指して叫んだ。

 

「おい! どういうことだ!? お前は誰で、何をしてんだ! てか……お前、お前のせいで……部長のお乳を吸えなくなっちまったじゃねえかぁぁぁぁぁ!!」

 

 千載一遇の機会をよくも! どうしてこう俺はいいところで邪魔が入りやすいんだ!!

 

「全てを理解するには力が必要だ。早く元通り……いや、それ以上に強くなれよ。いずれ戦う俺の宿敵君」

 

 思わせぶりな台詞、そして閃光を残して、白龍皇は消えた。

 

 ……その後、木場が部長に尻叩きでお仕置きされたり、生徒会メンバーが学校を直したりしたけれど、俺の脳裏には、あの鮮烈な白い輝きが焼きついていた。

 

 あのプレッシャーは神器だけの問題じゃない。もっと根本的で、単純明快且つどうしようもない次元の話。

 

 白龍皇(アイツ)赤龍帝(おれ)よりずっと強い。それこそ、天地と言っていい程の差がある。

 

 あんなヤバイのが宿敵? 勘弁してくれよ……。どうしてこう毎度毎度俺より強い敵ばっかりと戦う破目になるんだ。

 

 けれど、そんな事実に、心のどこかが熱くなっている自分がいるのが酷く不可解でならなかった。

 

 

 

 

 

「また駄目だったわ。レベル2までが限界。イカレたセキュリティね」

『構わないとも。素材のデータだけでもあれば、後はこちらでなんとでもなる』

「生産ラインは整っているわけだしね。それで、それの使い勝手はどう?」

『上々だ。先だっては般若パンダを仕留められた』

「まあ凄い。それじゃあそろそろ行くのね?」

『ああ、勿論だ。気の長い彼でも、これ以上は待ってくれないだろうからね』

「じゃあ……」

『ああ。狙いは一つ。――赤龍帝の持つ、賢者の石だ』




 少し合間をはさんで、オリジナルの章に突入します。色々凄いことになるんで、お楽しみに。
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