ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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 ハイスクールD×D十六巻買いました。最高に盛り上がっていて、今後も楽しみな限りです。


Life.44 過去、見えました。

「やあ、赤龍帝」

 

 入ってくるなり挨拶してきた奴の顔を見て、呷る缶コーヒーをぶちまけそうになったが、どうにか飲み込んで疑問を投げつける。

 

「なんでお前がここに!?」

 

 コカビエルとの戦いから数日が経って、とっくに聖剣を持って教会に帰った筈だろ。

 

「来たわね。イッセー、彼女は新しいグレモリー眷属の騎士(ナイト)、ゼノヴィアよ」

「仲良くしてあげてくださいね」

 

 け、眷属ってことは……。

 

 バッ!

 

 返答代わりに、お約束どおりの黒い翼が!

 

「部長、いいんですか!?」

「デュランダル使いが眷属にいるのは頼もしいわ。これで裕斗と二人で、騎士の二翼が誕生したわね」

 

 嬉しそうに語る部長。確かに、今後のレーティングゲームの事を考えると、聖剣使いは非常に猛威を奮ってくれるだろうけど、一体全体なんでまた?

 

「神がいないことを知ってしまったんでね。破れかぶれで頼み込んだ。デュランダルが凄いだけで、私はそこまで凄いわけではないから、騎士の駒一つで済んだみたいだぞ。今日からこの学園の二年に編入させてもらった。同級生で、同じオカルト研究部員というわけだな。よろしくね、イッセー君♪」

「真顔で可愛い声をだすな!!」

「イリナの真似をしたのだが、上手くいかないものだ」

「つうか、本当にいいのか、お前?」

 

 幾らなんでも急すぎるだろ。デュランダル使いの神の信徒からデュランダル使いの転生悪魔とか。

 

「神がいない以上、私の人生は破綻したに等しいからな。……だが、敵だった悪魔に降るというのはどうなんだ? 幾ら相手が魔王の妹だからと言って……私の判断に間違いは無かったのか? お教えください、主よ! っつぅ!!」

 

 突然悩みだしたかと思いきや、アーシアみたいに祈ってダメージ受けてるし。この子も大概変な子だな。勢いで転生とか思い切り良すぎだろ。

 

「そういえば、イリナは?」

 

 と聞くと、ゼノヴィアは立ち上がって真顔を作り、夕焼けが照らす窓の外へ顔を向けた。

 

「エクスカリバーの破片を持って、本部へ帰ったよ。……私より信仰が深い彼女が神の不在を知れば、心の均衡がどうなるか。そのお陰で、別れ際もなんとも言えないものになってしまったよ」

 

 ゼノヴィアの暗い表情を見れば、恐らくイリナも似たような心境だったんだろうと察せられてしまう。付き合いは短かったけど、二人が信頼し会っていたのは感じられたからな……。

 

「デュランダルは?」

「今も持っているよ。何せ私が所有者になるまで、封印していた教会でも扱いに困っていた危険物だ。それでも少しは執着があったようだが……神の不在を知ったことを述べたら、何も言わなくなった。私は期せずして、もっとも知ってはならないことを知った、異端の徒になったというわけだ」

 

 世界最高峰の聖剣とその使い手すらも切り捨てる。何故、教会はそこまで異端の排除に徹底的なんだろうか。もしかすると……いいや、今は俺が考えても仕方が無いことだな。

 

「アーシア・アルジェント。君に謝らなければならない。神がいないのであれば、救いも愛もなかったわけだからね。すまなかった。君の気が済むのならば、殴ってくれても構わない」

 

 日本式に頭を下げて謝るゼノヴィアに、アーシアは困惑する。

 

「そ、そんな……」

「尊敬されるべき聖剣使いから、禁忌を犯した異端の徒。私を見る目が変わった、彼らの態度が忘れられないよ。君も同じ気持ちで、私もあちら側だったのかと思うと……」

「ゼノヴィアさん」

 

 アーシアに声をかけられて、ゼノヴィアが顔を上げる。

 

「私は、今の生活に満足しています。今は悪魔ですけれど、大切な人に――大切な人たちに出会えて、この環境で本当に幸せなんです」

 

 気丈とも言える言葉に、ゼノヴィアは驚いたように固まっている。

 

 アーシアも神の不在を知って、一度はゼノヴィアがイリナに危惧したように精神の均衡が危うくなったが、俺と部長が接してなんとか元に戻ってくれた。その上でこんな事がいえるんだから、アーシアは本当に芯が強い。

 

「……そうか。それと、君に頼みがあるんだ。今度、私に学園を案内してもらえるかい?」

「はい!」

 

 アーシアの返事を聞いてから、今度は木場へ向きなおす。

 

「我がデュランダルに賭けて、そちらの聖魔剣使いとも、また手合わせしたいものだ」

「望むところだね。今度は負けない」

 

 天然気味で脳筋だけど、悪い奴じゃなさそうだ。

 

 木場も先日の禁手化以降、更に力強い電磁波を感じるようになった。一連の出来事が木場にもたらしたものは、とてつもなく多かったようだ。

 

 ガタ。

 

 椅子を立って、部長が宣言する。

 

「新入部員も入ったことだし、オカルト研究部、活動再開よ!」

『はい、部長!!』

 

 全員が返事を返し、久方ぶりに俺たちは部室で談笑した。

 

 

 

 

 

「よー、待っだぁぁ!?」

「遅え!」

 

 そうして迎えた休日。木場を加えた面子で遊びに行くところ、遅れてきた分際でへらへらとやって来た松田(ハゲ)をぶん殴る。百歩譲って遅れるのはともかく、せめて申し訳なさそうな空気くらい出せ!

 

「松田ぁぁぁ! 折角楽しみにしていたアーシアちゃんがご機嫌を損ねて、万が一帰ってしまったらどうするつもりだ! 残るのはいつもの三人と眼鏡とイケメンだぞ!?」

「あたしの扱いが若干アレだけど、アーシアについては賛成してやるわ。ちょっとはデリカシーってもんを考えなさい!」

 

 憤る二人を、桐生プロデュースのゴスロリ姿のアーシアが宥めようとする。ああ、やっぱりアーシアはいい子だなぁ。

 

「あ、あの……私は別に」

「スマン! 俺も昨夜は可能な限り早めに寝ようと思ったんだが、今日を思うと興奮して……紳士の円盤の力を借りて、ようやく眠りにつけたんだ!」

 

 もう一発殴ろうかとも思ったが、気持ちはわかるので許す。俺だって、好きに発散したいわ……。

 

「いいじゃないか。特に急いでるわけじゃないんだし、待ちぼうけるのも楽しみの一つってことでさ」

 

 笑顔でフォローを入れる木場に、松田が若干の敗北感を漂わせ、複雑そうな顔を見せる。

 で、小猫ちゃんは我関せずで、ひたすらお菓子を咀嚼している。

 

 ちなみに匙も誘ったところ、会長から異性交遊を禁止されているとの理由で涙ながらに断られた。俺、部長の眷属でよかったとつくづく思うよ。

 

「まあ、全員揃った事だし、まずはボウリングいくぞ!」

 

 

 

 

 

『めっちゃつかもうぜ~♪ ドラグ・ソボールを~♪』

「よっ! ドラグ・ソボール馬鹿!」

「アーシアちゃんとデュエットでもしやがれ、鬼畜が!」

 

 ボウリングで4ゲームもやってから飛び込んだカラオケ。アニソンを熱唱する俺に、松田と元浜が野次をとばす。

 

 アーシアは歌っていないが、とても楽しそうでなによりだ。小猫ちゃんはひたすらピザやらアイスをもりもり食ってるけど、これはいつも通りなのでしょうがないとしておこう。心なしか、どこかこの雰囲気を楽しんでいるみたいに思えるし。桐生は選曲中。

 

 木場は優雅にコーヒーなんて飲んでいるけれど、少しは歌えよ。格好つけるのはいつものことだけどさ。ちなみにアーシアは……

 

「聖書なら暗唱できます」

 

 とかなりそうなんで、今回はいいか。普通の歌をたどたどしく歌うアーシアとか、猛烈に可愛いとおもうけどね!

 

 ゼノヴィアも誘ったんだけれど、転校して日が浅い為、色々と忙しいらしくて断られた。また今度、とは言ってきたけど。

 

 そして部長と朱乃さんは、二人でショッピングを楽しんでいるらしい。

 

「水着を物色中。イッセーが好きそうなのを選ぶわね」

 

 と、ハートマーク付きのメールが送られてきた。画像添付で、しかも試着室のだったんで、思わず鼻血噴出しそうになりましたけどね。

 

 ぐふふふふ。そういえば、最近暑くなってきたよなぁ。エッチな体つきのお二人が、最高にエロエロな水着姿で……うおおおおおおお! テンション振り切れそうだ!

 

「……イッセー先輩。鼻血出てます。エロエロな事を考えていましたね?」

 

 じと目で小猫ちゃんが鋭く指摘してきた。はい、その通りです。

 

「おや、股間の大きさが……」

 

 やめろ、桐生! 眼鏡を光らせるな!

 

「……部長さんの事を考えていたんですか?」

 

 最近どんどん直感が鋭くなっているアーシアが、不機嫌そうに言う。

 

「ハハハ! ちょ、ちょっとトイレ行ってくる!」

 

 情けないながらも、俺はその場を脱出する。

 

 

 

 トイレで鼻血を拭いて出てくると、すぐ傍の椅子に木場が腰掛けていた。こいつも抜け出したのか。

 

「どうした。疲れたのか?」

「うん、ちょっとね」

 

 最初っから飛ばし気味だったからな。主に俺だけど。

 

 ――不意に、木場が神妙な面持ちで切り出した。

 

「イッセーくん。君に一言だけお礼が言いたかった。――ありがとう」

 

 それを言う為にトイレの前で待ってたのかよ……ここは律儀と取っておこう。

 

「お前の同士は許してくれた。部長も皆も許してくれた。お前は救われた。でもって俺は、こうしてお前と遊べて満足している。四方丸く収まったかはともかく、俺たちだけで言えば万々歳だろ。それでいいんだよ」

「……イッセーくん」

 

 瞳を潤ませて俺の名前を呼ぶな。怖い。

 

「じゃあ、戻るか。俺はまだ二十四時間エンドレスで歌えるぜ」

「そ、それは覚悟が必要だね」

「いいじゃねえか。オカルト研究部。グレモリー眷属の『兵士(ポーン)』と『騎士(ナイト)』のデュエットといこうぜ」

「はいはい」

 

 そうして舞い戻るなり、二人でデュエットをかます俺たちに、皆目を白黒させつつ楽しんでいた。

 

 ――その時見せた子供のような笑顔が、本当の木場の笑顔なんだと確信した。

 

 後日、桐生の手によってその時の様子が写メとなって学校中を駆け巡り、俺と木場のホモ説が更に加熱したのだった。お願いですから勘弁してください。

 

 

 

 

 

 あれ? 

 

 起き抜けに、突如猛烈な違和感が俺を襲う。珍しく部長もアーシアもいないベッドの上で、首を回したり頭を掻いたりするけれど、どうにもしっくりこない。なんだ? なにがおかしい?

 

 あ、そうか。眼帯つけたまんま寝ちまってたからか。そう思って眼帯を取ると、代わり映えのしない俺の部屋が見える。

 

 ……ん?

 

 目を擦り、瞬きし、何度も何度も確認する。

 

 そうしてようやく、両目(・・)が見えていることに気がついた。

 

「……神さん?」

 

 ドゴォォォォォ!!

 

 一番疑わしい名前をそっと呟いた途端、何かがドアをぶち破った! 咄嗟に壁を壊しながら後ろへ跳んだけど、外は見慣れた町並みなどではなく、見慣れた修行用の荒野だった。

 

 なに!? 何がどうなってんの!? いや、誰の仕業なんてわかりきってるけどさ!

 けど、今、部屋を突き破ったのは……やけに覚えのある衝撃だったんだけど、思い出したくないというか……。

 

 違っていて欲しいという願いを込めて粉塵を睨むけれど、そこから抜け出てきた人の影は、見間違えようもないあの人だった。

 

 上は白のカッターシャツとその上から羽織ったチェック柄のベスト。下は同じくチェックが入った赤のロングスカート。首元には黄色いリボンに、神さんオーダーメイドの日傘。

 

 ……どう考えても最凶装備です。本当にありがとうございました。

 

「幽香さん……」

「あら、イッセーったら。久しぶりの再会だって言うのに、声が震えているわよ?」

 

 すいませんすいませんお許しください。この間の宴会でアリスから、グルメ界に長期の仕事に出かけてるって聞いたから、夏休みくらいまで大丈夫だろうって油断していただけなんです。

 

 弱きを助け強きを嬲る、幻想郷最恐の妖怪。最高峰の再生屋、風見幽香さん!!

 

「そんなに私と会いたかったのかしら? この間はごめんなさい。神から急ぎの仕事だって言われたものでね。宴会に間に合わせようと頑張ったんだけど、タッチの差で駄目だったわ。リーガルマンモスと牛豚鳥はともかく、アシュラサウルスは骨が折れたわ。復活した途端、襲い掛かってくるんだもの。流石に少し手こずったわ」

 

 多分、師匠が意図的にそうしてくれたというのは少し穿ちすぎだろうか。

 にしても、グルメ界でも屈指の強さを誇るアシュラサウルスの再生に成功して、しかも『少し手こずった』って……更に伝説が増えたな。

 

「まあ、それは置いておくとして、拷問(しゅぎょう)開始よ」

「いやいや、そういわずに、幽香さんの偉業を是非詳しく、存分に拝聴させてください! ていうか今、相当不吉なこと言いませんでした!?」

 

 修行という名の拷問って聞こえたよ、絶対! 長年の経験と勘がそれを否定させてくれない!

 

「違うわ。拷問という名の修行よ」

「言い換えただけじゃねえかぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 この間匙にあんな事は言ったけど、それはそれだ! 慣れたからって好き好んで拷問を受けたいわけじゃねえ!

 

「ああ、そうそう……最初にこれはしておかないとね」

 

 そう言って、幽香さんは傘を地面に突きたて、両手を翳す。十本の指全てに炎のようなものが灯り、一足飛びに近づいて、両掌を俺の腹に押し当てた。

 

「十方封印・解!」

 

 ガシャアアアン!

 

 叫び声と共に手が捻りあられ、俺の中の封印が音を立てて崩れ落ちた。途端、腹の奥から漏れ出てくる『チャクラ』を認識し、合掌の構えをとってその手綱を握る。

 

「神の見立て通り、一番浅い封印位のチャクラなら、もう制御できるくらいになったようね」

「みたいですけど……そろそろなにがどうなってるのか説明してもらえませんか? 神さん」

「電磁波も臭いも隠し切ってたはずなのに、よく気づいたな」

 

 幽香さんの隣から、バサっと白い布をどけて神さんが姿を現す。

 隠れ蓑の術で気配どころか電磁波や臭いまで隠すだなんて流石だけど、伊達に長年弟子やってませんよ。

 

「まあいい。まずはお前の眼なんだが、それは移植したものだ」

「やっぱりそうですか」

 

 流石に一日足らずで目玉は生えてこないよな。

 

「当然、ただの目なんかじゃない。それは写輪眼だ」

「写輪眼!?」

 

 それってマダラさんの眼じゃないですか!

 え? じゃあまさか!?

 

「別にアイツ自身の眼ってわけじゃあない。マダラの細胞から作り出した眼球を、少し調整してお前に移植しただけだ」

「だけって……」

 

 一々驚くのも疲れるんだけど、反応せずにはいられない。悪くはないんだけど、どうしてこう俺の人生って飽きがこないのかな。

 

「でも、確か写輪眼って、うちは一族以外が使うと負荷が大きいとか言ってませんでしたっけ?」

 

 俺の知っている『うちは一族』はあの人だけなんだけど、本人はそこらへんあんまり話したがらないんだよね。

 

「心配いらねえよ。既に眼球に合わせて、脳と視神経を初めとする部分は作り変えられてるだろうし、開眼すれば自主的にグルメ細胞が写輪眼に適応する。それがお前の特色だ」

 

 そういう事ですか。細胞にすら才能無いのが役に立つってのも、変な気分だなぁ。

 

「写輪眼が開眼するためには、細かい要素を省くととにかく精神的に強いショックが要る。今から幻術をかけてトラウマを引きずり出すが、覚悟はいいな」

 

 とか聞いてる間にもう印を済ませてるじゃないですか! こっちも腹は括りましたけどね!

 

 ……何がでるのか、大方の当たりも付いてるしな。

 

「夢幻・奈落堕としの術」

 

 グワッ!!

 

 景色が歪み、足元に巨大な穴が開く。瞬間的な浮遊感の後、意識がどこかへ持っていかれる。次の瞬間、立っていたのは公園。オレンジ色の夕焼けで染まるその場には、俺の他にもう一人、女の子が立っている。

 

 黒い長髪を風に揺らし、こっちを振り向いた彼女は、とても愛らしく、ステキな笑顔を向けてくれた。

 

「イッセーくん」

「……夕麻ちゃん」

 

 途端、その笑顔が恐ろしげに歪み、背中から生えた黒い翼の羽ばたきと共に――夕麻ちゃんとレイナーレの声が、交互に俺の耳に叩き込まれる。

 

「好きです! 付き合ってください!」

『なーんてね! あの時あなたの鼻ののばしようったら! アッハハ!』

「今日は楽しかったね」

『とても王道なデートだったわ。――おかげでとってもつまらなかったけどね』

「死んでくれないかな」

『あなたを夕暮れに殺そうと思ったから、その名前をつけたの。素敵でしょう?』

「だって、あなたを……愛してるの!」

『あなたなら、悪魔になんて負けないわ! 私を助けて、イッセー君!』

 

 ……けたたましいまでに流れ込む声色に、瘡蓋もはっていない心の傷が開かれていくのがわかる。

 ああ、俺は本当に馬鹿だ。

 

 あいつの本性も、アーシアへの仕打ちも見たって言うのに――まだ、夕麻ちゃんを捨て切れていない。最後の最後でようやく結びついた筈のレイナーレと天野夕麻を、いつの間にか切り離して……いや、切り離したがっていた。

 

 でも、それは無理なんだ。

 俺に嘘の告白をして殺したのも。

 アーシアの命と神器を奪って、それを出世と名誉のために使おうとしたのも。

 

 全部、夕麻ちゃんであり、レイナーレなんだ。

 

 ……理解したと同時に、胸の内はじくじくと痛みと空しさに疼いている。

 

 やがて、その感覚は頭のほうへと伝播し、両目がジンと熱くなる。

 

 すると、あれだけ喧しかった声も風景もいつの間にか消え去って……。

 

 

 

 ――暗い世界を再び落下し始めた。

 

 どういうことだ? これ以上、一体何が?

 

 そうしてたどり着いたのは、一面の白。全てが雪と氷に覆われた、真っ白な風景。

 

 絶対零度を下回る外気と、降り注ぐ不凍の雨、吹雪の嵐、巨石の雹が動くもの全てを否定する、グルメ界でも屈指の危険な土地。『活かさずの寒獄』だ。

 

 そんな土地で、空に動くものが二つ。一つは黒い長髪をツインテールに纏めた、魔法少女風の衣装に身を包んだ美少女。極寒という言葉すら凍らせるこの世界において、そんな薄着でも平然と動ける……どころか、己の属性に合った気候で限界以上の能力を発揮する辺りに、最上級悪魔だと名乗った彼女の実力が伺える。

 

 もう一つは、赤い鎧で全身を覆った……昔の俺だ。全身から立ち上る覇気によって、雪や雨が鎧に当たる前に蒸発していく。マスクの呼吸部分からも、白い息すら出ていない。完全にこの場に適応している証拠だ。

 

 これは昔の風景。そうだ、あの時の……。

 

 雨霰の追加とばかりに叩き込まれる、氷の魔力。回避を試みるも、あまりの密度、巨大さ、速度を伴った魔力の弾幕は、確かに命中した。にも関わらず、鎧は表面を僅かに凍らされただけで、それもすぐに融解する。

 

 どんどん力を引き上げていく少女の力は、確実に神や魔王にも届く存在の筈。だけど、その少女のあらゆる攻撃が断じて意味を成さない。鎧は揺るがず、内部は言わずもがな。ただただ、回避と迎撃、防御を繰り返す。

 

 次第に恐怖に引きつる少女とは相対的に、俺は力を高めていく。やがて、少女の渾身の一撃が繰り出され――

 

零と雫の霧雪(セルシウス・クロス・トリガー)!!!』

 

 閃光の如く目の前に迫る魔力へと、拳を構え。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!』

 

 最大限に強化された一撃は、難なく魔力を消し飛ばし、余波だけで少女へと致命傷を与え、凍土へと叩き落した。

 

 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーッンンンン!!

 

 響く轟音。砕ける氷。吹き飛ぶ雪。

 

 そうして発生した巨大なクレーターの中心で、上下の胴が泣き別れした少女が虫の息で横たわっている。

 

 ……彼女は強い。最上級悪魔という肩書きになんら遜色無いどころか、足りないとさえ思える実力。それはこの活かさずの寒獄と相まって、更に高まっていた事だろう。

 

 なのに……なんで俺が勝った? どうして彼女が倒れている?

 

 明らかに瀕死。油断を誘う演技にも思えない。早く助けなければ確実に死ぬだろう。

 

 何故、何で、どうして。頭の中をグルグルと巡る問答に叩き付けられたのは――かつてガオウに告げられた一言。

 

『オマエハ―――強イ』

 

 ―――

 

 

 

 

 

「うおあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

「うるさい」

 

 メギャッ!

 

「ぎゃあッ」

 

 起き上がるなり、顔面にめり込む日傘。鼻血を垂らしながら立ち上がると、幽香さんが憮然と仁王立ちしていた。師匠はその後方で考え込むように腕を組んでいる。

 

「幻術を解いても暫く目を覚まさないから、何事かと思えばいきなり騒ぎ出して。一体何を見たって言うのよ」

「それは……あれ?」

 

 何でだか思い出せない。イメージ的には、そこにプロテクトがかかった感じで。

 ……一体、何を見たんだが。

 

「神。貴方ならイッセーが何を見たのか把握してないの?」

「……」

 

 神さんは答えず、ただただ考え込んでいた。……常に超然とした神さんがこんな態度をとるだなんて、相当だぞ。一体、俺は何がどうしたんだ?

 

「この話はおいておこう。その内全部分かる。それより今は、嬉しい誤算を喜んどこう」

 

 その内、か。本当に最近訳が分からないことばっかり起きるな。ていうか、嬉しい誤算?

 

 疑問に思う俺に、幽香さんが手鏡を突きつけてくると……本当に写輪眼が開眼している。これでマダラさんと同じ目か……。でも、あれ?

 

「最初は勾玉の模様って、一つじゃなかったですか? 何か二つあるんですけど」

「才能のある人なら最初から二つの場合もありうるっていうけれど、イッセーでそのケースはありえないものね」

 

 隙あらば弄ろうとするのは勘弁してください。

 

「それが嬉しい誤算なんだよ。まあ、今は棚からぼた餅程度に思っておいていい。これで修行の短縮ができそうだぞ、やったな。じゃあいつもどおりでいこう、ゆうかりん」

「ツーマンセルで、私が攻撃、神がイッセーの回復ね」

 

 や、やっぱいつもどおりのパターンですか! しかし幽香さん相手に……拷問にしかなりえない! でも、こっちには写輪眼があるんだ。これと神器があれば、多少は勝負に……。

 

「あ、そうそう。今回はひたすら避けに徹しろ。回避、迎撃以外での攻撃は禁止。それと、幽香の印をガッツリ見ておけ」

 

 希望が枯れて絶望が咲いたぁぁぁぁ!! 写輪眼で真似ろって事ですか!?

 

「余所見しないの。殺すわよ?」

 

 はい。申し訳ありません。

 

「折角の新技。実験台には申し分ないわ」

 

 そう言って、幽香さんが印を結んでいく。俺も神器を出すけれど……すげえ、ガオウの時以上に動体視力が向上している。程度で言えば大きくってわけじゃないけれど、元々凄い視力が更に向上したんだから、十分すぎるくらいだ。そういえばチャクラも見えるけれど……あ、これヤバい。

 

「木遁・樹界降誕!!」

 

 ズドドドドドド!!

 

 猛烈な勢いで地面から巨大な樹木が生えてくる! いや、もう森が生えている、といったほうが正しいか。血継限界の忍術とか、規格外どころじゃねえええ!! コピー不可じゃん!

 

 こっちが空へ跳びあがると、木々も巨木を形成して追って来た!

 

 必死で逃げ続けていると、樹木の動きが止まる。瞬間、目の前に移動してきた幽香さんが次の術の印を結びだした!

 

「木遁・花樹界降臨!」

 

 再び樹木が生えていき、今度は巨大な花を咲かせた。すると、花から花粉が噴出してきて……毒か!

 

 篭手から鞘に収まった聖剣を取り出して、居合い抜きの瞬間に呪文を発動させる!

 

「ディオウ・イグルガ・ソルドン!!」

 

 炎が刀身を包み込み、巨大に伸長して巨木を薙ぎ払う。切断面から燃焼を起こして燃えていく木々を背に、炎の中から幽香さんが現れた。

 

 笑顔が揺らめく炎に照らし出されて……似合いすぎて怖い! 木を燃やしたことで、明らかに怒ってる! こ、これは……USC発動か!?

 

「やあねえ。何をそんなに震えているの? 木の事ならしょうがないわ。これもまた自然の摂理。ただ……私は、貴方を、久しぶりに虐められるのが楽しいだけよ」

「さっき実験台とか言ってたじゃないですか!?」

「それはそれ、これはこれよ。どうせ殺るのなら、楽しまないと損でしょう?」

 

 どう見てもUltimate(アルティメット)Sadistic(サディスティック)Creature(クリーチャー)です。本当にありがとうございました!

 

 ブン! ズド!

 

「木遁・挿し木の術!」

 

 うお! いきなり杭が投げつけられた。ギリギリで回避するが、間髪いれず幽香さんが印を結ぶと、杭が枝分かれして襲ってくる! いやいや、これ刺さってたら最悪即死ですよ!?

 

「それじゃあ心ゆくまで続けましょうか……楽しい楽しい死亡遊戯(おゆうぎ)をね」

 

 ――ふと、懐かしい記憶が頭に浮かんだ。

 

 最初に幻想郷に遊びに行った時、性質の悪い妖怪に襲われた俺を助けてくれたのが、幽香さんだった。美味しいパンとお茶もご馳走してくれて、それからも散々遊んでくれた。

 

 俺は、幽香さんが大好きだった。それは今でも変わらないけれど……

 

「ほらほらぁ! さっさと逃げないと龍串になるわよ!?」

 

 心底楽しそうにバカスカ杭を投げつけてくるこの人を同一人物だと思いたくない!

 

 紫さん曰く、それは俺を子供ではないと認めた証拠っていうけれど……こんな認め方いらねえッス!

 

「はあぁ……楽しい!」

 

 最恐にサドい笑顔で恍惚としている幽香さんに、俺は戦慄して逃げ惑うことしかできなかった。




 今回遂にNARUTOまで引き込みました。マダラはマダラで次章に出てくる予定なので、お楽しみに。まだまだイッセーの成長は止まりません。
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