ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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 今回、オリキャラが出ます。ちなみに全員揃ってめっちゃ強いです。


Life.46 研究所、紹介します!

 バシュ。

 

 転送ルームからロビールームへ出るなり、アーシアとゼノヴィアが目を丸くして後ろを振り向いている。今更転送装置に驚いたのか。

 

「す、すごい……まるでSFみたいなドアです」

「確かに、昨日やっていたSF映画にもこんなのがあったな」

 

 そこかよ!

 

「いや、それただの自動ドアだからね」

 

 つうかSFならむしろ転送装置に反応してよ!

 

 スッ……。

 

 ――突如、背後に慣れ親しんだ気配が現れると同時に視界が塞がれる。

 背中に温かく柔らかい感触を押し付けながら、透き通った声に茶目っ気をきかせてお決まりの台詞を告げてくる。

 

「だーれだ?」

「……悪戯はやめろって、明。客の前だぞ」

「すまないね。久しぶりのお客さんに少しでも楽しんで欲しくて、つい」

 

 視界が明るさを取り戻すと、それぞれ予想通りの驚きっぷりを披露していた皆を尻目に、後ろを振り向いた。

 

 こっちも予想通り、相変わらずの余裕を含んだ笑みを見せ付ける、久しぶりの魔法使いの姿が眼に映る。

 

 白いドレスシャツと黒のスラックスを着こなすスレンダーな長身の美女が、黒いストレートの長髪を揺らしながら優雅に笑う。中性的な美貌を持ちながらも、女としての仄かな色気を感じる絶妙なバランスと、漂う『フェロモン』は凄まじい魅力を醸し出しているが、俺には慣れた物だ。けどおっぱいの感触は素敵でした。

 

「ざっと半年振りくらいになるけど、元気だったか」

「丁度ぴったり半年振りだよ、イッセー。ライリも私も元気だったさ」

 

 さらっと再会の挨拶が終わったところで、次は部長たちへの紹介……なんだけど、皆は明に見惚れつつも、固まったまんまだ。ていうか、赤らんだ小猫ちゃんはまだしも木場のあんな惚けた表情とか初めて見たぞ。

 女性は敬う者と割り切っているかの如く女性に接する騎士(ナイト)を完全に見惚れさせるとは流石のたらしっぷりだ。

 

 明は部長の前に近づくと、左手を腹の前、右手は腰の後ろに当てて、恭しく礼をとった。

 

「始めまして。私は日青(ひしょう)(あきら)。しがない魔法使いに過ぎない身ですが、どうぞお見知りおきを。リアス・グレモリー様と、その眷属の方々」

「……私達の事を知っているの?」

 

 硬直が解けた部長の問いに、明は笑みを浮かべて答えた。

 

「ええ、勿論。大事なパートナーの主ですからね。今後、何かとお付き合いの機会も多いでしょうし、名前だけでも調べておきませんと」

 

 裏などまるで無いという態で、歯が煌きそうな感じの笑顔を見せつける明に対して、部長は頬を赤くしながらも警戒心を隠せない。流石に部長はこういった手合いに慣れているらしい。それでも強い嫌悪を抱かれないから明は凄い。

 

 実際、明のこの手の技術は圧巻の一言だ。

 

 愚直なまでの正直さを感じさせたり、逆に酷く胡乱げな雰囲気を漂わせたりと、他人の信頼を得やすいよう、自分の纏う空気をころころと変えてみせる。

 

 下手をすれば詐欺染みてるとさえ言われそうなやり方なんだが、そういったものを偽り過ぎない程度に抑える匙加減がまた上手い。素の自分をベースに超えない一線を設けておくのがコツ、とは本人の弁。

 

 更に明はグルメ細胞の特性として、生物が体内で生成、放出し、他の個体の行動や生理状態に影響を与える分泌物質、『フェロモン』を自在に操れる。

 人間がフェロモンを感知するのは脳の視床下部である鼻の鋤鼻器官。そこへ入り込む無味無臭のフェロモンは、直接本能に訴えかける効果がある。その『フェロモン』を数百種類に渡って自在に操り、更に抜群の対人スキルを誇る明に篭絡できない相手など、ほぼ存在しないと言ってもいい。

 

 俺達の研究と運営の莫大な資金をたった一人で稼ぎ出す辣腕商売人にして、超が三十個はつく特級の魔法使い。それが日青明だ。

 

「それはどうも。にしても、いきなり人を驚かせるように現れるというのは些か趣味が悪いのではなくて?」

 

 部長の視線を意にも介さず、明はさっき以上に畏まって、わざとらしく謝罪を告げる。

 

「それは失敬。私としましては非才浅学な身ながらも、上級悪魔たるグレモリー様にお付き合い願えるに相応の価値のある能力を持っていると示したいが為の愚行。しかし、気に障られたのであれば申し訳ございません。謝罪の証と致しましては、当研究所における可能な限りのお持て成しを持って、どうかご容赦いただきたく存じ上げます」

 

 立て板に水とばかりに捲くし立てる明に皆が気圧されているが、それも当然だ。

 

 言いえぬ凄みを纏いながら吐き出される言葉の一つ一つが、部長に対する濃密な敵意で練り上げられているのがあからさまに理解できる。正直、俺でも嫌な汗が滲んでくる位だ。

 

 つうかちょっと待て、なんでこんなあからさまに部長を敵視してるんだ!?

 そもそも、初対面でストレートに感情をぶつけるだなんてお前らしくないぞ!

 

「……謝罪の前に、まずはその畏まり過ぎた口ぶりを止めていただけるかしら? 少なくともあれ程の空間転移を容易に為せる魔法使いに、そこまでの敬語を使われる程の身ではないのでね」

 

 精一杯の意地で毅然と向き合う部長を前に、ようやく明は丁寧過ぎる雰囲気を脱いで、素顔の空気を露にした。……それでも、若干の敵愾心を感じられるが。

 

「あはははは。すみません、少しからかってみたくなりまして。何にせよ、よろしくお願いします。それじゃあ、私はこの辺で。じゃあまた後でね、イッセー」

 

 明はそう言い残して、俺へと手を振りながら消えた。

 

 途端、ため息をつく部長に、慌ててフォローを入れる。

 

「すみません! 何か知らないけれど、明の奴、気が立ってたみたいで。俺からも謝りますんで、許してください」

「別に構わないわ。……ねえ、イッセー。あの人とは長いの?」

 

 少し沈んだ声で、部長が聞いてきた。

 

「まあ、一応。具体的には……俺が小五の頃に出会ってからずっとですね。ちなみに、今言ってたライリは科学者で、そっちは小三の頃からの付き合いです」

 

 付き合いの古さで言えば、小一から一緒にいる神さん、氷美神にジェリーさんの次になる。

 

「そう。なら、尚更私にどうこういう資格は無いわ」

 

 よくわからないが、部長は明に対して怒ってはいないらしい。どころか、更に落ち込んでしまったように見受けられる。

 

 皆も黙ってしまい、ロビーを重苦しい空気が覆う。

 

「と、とりあえず俺の研究室まで行きましょう!!」

 

 暗い空気を掃うように叫んで、ロビーから続く通路を歩いている最中、部長が聞いてきた。

 

「……ここは、普段は誰が管理しているの? 貴方の師匠? それとも、さっきの明という魔法使い?」

「神さんは神さんで、グルメ研究所を運営していますよ。この研究所の管理は人工知能と、明とライリ――俺の研究協力者がやってます」

「研究協力者?」

「ええ。魔法使いの明が商業担当で、科学者のライリが研究所や施設の改築。で、俺が錬金術師で、研究所と研究素材の提供ってわけです」

 

 相互扶助という形になるんだろうが、ぶっちゃけ三人の中じゃ俺がぶっちぎりで役立たずな自覚がある。二人とも、なんで俺なんかに協力してくれてんだろうってくらいの凄さだから。

 おまけにそれぞれから多大に教えを被ってもいるんだけど、それなりに身についた機械いじりはともかく、魔法の方はほとんど芽がでなくて申し訳ないくらいだ。

 

「……とにかく、兵藤一誠は凄いという事でいいのか?」

 

 一夜漬けで四教科は詰め込んだような顔色のゼノヴィアが変な言葉をひねり出すが、俺は苦笑して返す。

 

「俺じゃなくて、周りが凄いんだよ。それはともかく、ここが俺の研究室です」

 

 丁度辿りついた扉を前に、皆がなんともいえないような表情をする。

 

 バシュ。

 

 ――ブォーン。

 

「グォォォォォ……」

 

 扉を開いた先からは掃除機らしき機械音と共に、騒音レベルのいびきが轟いてくる。

 

 ……どうして俺の部屋で寝るときだけこんないびきかくんだろうな、あの馬鹿。

 

「ちょっと待っててください」

 

 皆を待たせつつリビングルームに入ると、一層阿保らしいくらいの声量が鼓膜を揺らす。掃除機をかけるメイド服姿の少女と眼が合うが、気にせずテレビの前のソファーへと近づくと――パジャマ姿で腹を晒しながら、大また開きで右手にゲーム機。左手にスパナ。

 

 病的なまでに白さと白金のような輝かしさを併せ持った肌に、少しハネ気味な短髪の金髪美女が寝転がっている。……如何に美人といえども、こんな状態でエロスを見出してしまう俺はちょっと凄いと思う。

 

「ゴガアアアアア……」

 

 怪獣の雄たけびにも似た大いびきを発する口に、こうなるだろうと思って持ってきたニンニクを詰め込んでやる。するとカッ! と眼が開かれて飛び上がり、見事な身の捻りで着地して見せ……

 

 ジャリ、ジャリ、ゴクン!

 

 口に突っ込まれた大蒜を生のままで咀嚼し、飲み下すと、若干の眠気を漂わせた口調で呟いた。

 

「あ~。ニンニクうめぇ~」

「……もう大丈夫なんで、入ってきてください」

 

 声をかけると、皆がぞろぞろと中へ入ってきた。そして、当然ニンニク臭い目の前の美女に注目する。

 

「え~っと……イッセーくん。その方が、もしかして?」

 

 朱乃さんが問いただしてきたので、仕方無しに肯定する。

 

「ええ。こいつが……ライリ・アスカムライン。俺の研究協力者で、科学者です」

「……あれ? イッセーじゃん。おひさー」

 

 超軽い再会の挨拶にも懐かしさを覚えるが、どうしても気になっていることがある。

 

「ゲーム機はともかく、なんでスパナ持ってんだよ」

「え? ああ、これ。ゲームしながら小型反物質生成装置組んでたんだけどさ。唐突に眠くなったんで、イッセーの部屋で寝てたの。そんだけ」

「……色々ツッコミたいけれど、一言だけ――馬鹿過ぎる!」

 

 片手間でゲームしながら扱っていいもんじゃないだろうが! しかも毎度毎度、なんで態々俺の部屋まできて寝るんだ!

 

「酷いなぁ。でも転送装置もネオドライブも対消滅エンジンもこれで組み立てたんだよ? 今までなんともないんだから、別にいいじゃん」

 

 何気に驚愕の事実をかますな!! 

 

「たくっ。この天才は……」

 

 出来る限りの嫌味を籠めた厳然たる事実に、ライリはただ嬉しそうに笑うだけだ。

 

 普段はゲーム、漫画、アニメが大好きな典型的オタク趣味で、態度も行動も極めて物臭な残念美女。だが、反物質に次元操作といった完全にSFな研究内容を当たり前に理論付けてしまえる超次元級の頭脳は本物で、科学者として、技術者としてのこいつには超が幾つ付いても足りやしない。

 

 この研究施設の大半の機械を含む、超科学の支配者。それが天才科学者ライリ・アスカムラインだ。

 

「お褒めの言葉ありがとう。それで、そっちの人たちは……」

「ああ、紹介す……」

「いや、いいよ。察しはついたし、素性も調べ尽くしてあるから。王のリアス・グレモリー、女王の姫島朱乃、戦車の塔城小猫、騎士の木場裕斗とゼノヴィア、僧侶のアーシア・アルジェントでしょ?」

 

 有無を言わさず捲くし立てるライリに、誰もが口を噤んでしまった。思い沈黙が圧し掛かる中、ライリは部長に敵意……いや、殺気を籠めた視線を送り始めた。

 

 だからちょっと待てって! 普段ならゲームや漫画の趣味でも聞くか、発明品でも見せびらかす所だろ!? 明といいお前といい、どうしたってんだ!

 

「そう……貴方が――例の、棚ボタお姫様だよね」

 

 ヴンッ――。

 

 電子音にも似た音を立てて、鮮血よりも赤く、夜よりも昏く、空よりも鮮やかに、ライリの両目が輝きだす。口からは急激に伸びた二本の牙が覗け、いつの間にか衣服はパジャマから黒いマントを羽織った赤いタキシードに変わっていた。

 

 最上位の堕天使――コカビエルすら優に超えた絶大な威圧感を撒き散らすその姿に、部長が思わず、見たままの感想を漏らす。

 

「……吸血鬼」

「ご名答。ちなみに、カーミラだとかツェペシュなんてのとは当の昔に縁は切ってあるよ。一応自負としては、この世のどんな吸血鬼よりも強いっていう気ではいる。一般的な吸血鬼の弱点なんて、私には何の意味も為さないしね」

「なっ! 弱点の無い吸血鬼だっていうの!?」

「うん。日向ぼっこは好きだし、河でも泳げるし、銀も十字架も平気。大蒜なんて大好物だよ。だからさ……ここで私が襲い掛かったら、君たちに対抗手段は無いって分かるよね?」

 

 ゆっくりと迫る吸血鬼に、部長や皆は身構えることすら出来ず、震えている。俺は写輪眼を発動させて、臨戦態勢でその間に立つ。

 

「ライリ、それまでだ」

 

 実際、本気で何かするつもりじゃないだろう。それくらいの腹は読めるだけの付き合いだ。現に少し睨みあってから、あっさりと殺気を消して、おどけてみせる。

 

「……はいはい、ごめんって。私はただ、彼女に教えておきたいだけだよ。――自分が抱え込んだ存在の重み、ていうのをね」

「どういう意味だよ」

「そ・の・ま・ん・ま」

 

 パチン。

 

 指を鳴らすと、再びライリの格好が変わる。白衣を背負ったパンツルックに身を包んだライリは、ひらひらと手を振りながら部屋を出て行く。

 

「明が歓迎のご飯を作ってると思うから様子見てくる。出来たら呼ぶから、ここで武器でも見せてれば? またね、イッセー。グレモリー眷属の皆さんもごゆっくり~」

 

 さっきの悪意全開の雰囲気とは心臓に悪いレベルの落差でゆるく姿を消す吸血鬼。途端、皆が全身の力を一気に抜いてどっと汗を噴出した。全員をソファーに座らせてから、平然と掃除機をかけ続けている水色の長髪と瞳を供えたメイド服の少女に声をかける。

 

「大丈夫ですか、皆。オルト、人数分のタオルと水を」

「畏まりました」

 

 言われるなり、眼にも止まらぬ速度でタオルと水を用意したオルトを皆に紹介する。

 

「こいつはオルト。研究所の雑用をやってくれてるアンドロイドです」

「オルトと申します。グレモリー眷属の皆様のデータは頂いておりますので、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 ロングスカートの両端を摘んで会釈するオルトに皆が目を向けるが、そのままぐったりとソファーに身体を預けた。手渡された水で喉を潤した後、部長が軽くため息をつく。

 

「非常識なまでに凄腕の魔法使いに、出鱈目な吸血鬼の天才科学者。そして今度はほとんど人間にしかみえないロボット。……もう宇宙人が出てきても納得できそうだわ」

 

 ある意味ORT(こいつ)がそうとも言えなくもないんだけれど、これ以上畳み掛けるのは本気で皆の寿命が縮みそうだし、それは機会を見てってことでいいか。

 

「ねえ、イッセー君。ライリ……さんが武器を見せてればって言ってたけれど……それって、前に言ってた?」

 

 木場がタオルで額を拭いながら聞いてきた。そう言えばこいつ、前に見たいとかなんとか言ってたっけ。

 

「ああ。研究の一環として作ったやつだよ。……皆、見たいですか?」

 

 そう聞くなり、全員が疲れも吹き飛ぶと言わんばかりの笑みで答える。

 

「ええ、勿論」

「うふふ……右に同じですわ」

「剣士としては、かなり興味がある」

「うむ。同感だ」

「……私も割と」

「イッセーさんのお仕事に関することでしたら、是非!」

 

 満場一致で即決とは、嬉しいやら恥ずかしいやら。こうまで期待されたら、潔く見せるしかないじゃないか。

 もしガッカリさせた時の埋め合わせは、後で考えるとして、今はとにかく、俺の事を少しでも皆に晒しとこう!

 

「じゃあ、こっちへ来てください」

 

 お辞儀をして部屋を出て行くオルトを尻目に、部屋の奥、不釣合いなまでの重厚さを醸し出す扉の前に皆を集めてから、扉の前のレリーフに、赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)で触れる。

 

 キュイン。ガシャァン!

 ギイイイイィィィィィ。

 

 篭手の宝玉が淡く光り、ロックが解除された扉が音を立てて開く。

 

 今までで最大のブランクを空けて足を踏み入れた、リビングとは比べ物にならない程広い空間。剣を初めとする様々な武器や防具、アクセサリーが博物館のように飾られた作品部屋だ。

 

「見る分には大丈夫ですけど、触りたい時は一声かけてください」

 

 聞くや否や、すぐさま思い思いに散っていく皆を見届けてから、すぐ隣の部屋、武具の作成や手入れの他、アクセサリーの彫金等を行う作業部屋へ足を踏み入れる。

 

 当たり前だけど、代わり映えしない懐かしい部屋の空気を吸い込みながら、炉を覗いたり、机を拭いたり、槌等の道具を磨いたりする。この手の仕事を習い始めた頃からずっと続けている、習性みたいなものだ。

 明が研究室全体に仕掛けた時間固定と保護の術式のお陰で、手入れはおろか掃除の必要さえないんだけど、それでもやっぱり心構えというものがある。

 

 ……まあ、技術も才能も無いから、せめて心だけでもしっかりしておかないといけなかったってのはあるんだけれど。凡骨の意地ってとこですよ。

 

「い、イッセー君!! ちょっと来てもらっていいかい!?」

 

 なんて一人卑屈に浸っていると、珍しく木場の慌てた声が聞こえてきた。部屋を出て駆け寄っていくと、木場は刀剣類の場所で軽く震えていた。いつもの笑顔はどうした、イケメンよ。

 

「はいよ」

「この剣なんだけどさ」

 

 木場が指差したのは、聖剣でも魔剣でもなく、特に変わったところの無い普通の両手剣だ。

 

「これと、他にも幾つかの武器は……オリハルコンで出来ているよね?」

「ああ、それがどうかしたか?」

『!?』

 

 オリハルコンという単語に、皆が息を呑むのが空気の震えで伝わってくる。

 日本では緋緋色金とも呼ばれ、圧倒的な強度と靭性を併せ持つ、武具においてこれ以上ない素材となる最上級の金属。あらゆる面で欲する者は多く、希少性と相まってその価値は計り知れないものになっている。オリハルコンの錬成に成功した錬金術師は、金銭で困ることは一生無くなると言われている程だ。

 

 なんて、実際はそこまで上手くはいかないけどな。

 

「多分、そうだろうとは思うけれど……イッセー君はオリハルコンを作れる上に扱えるのかい?」

「ああ」

 

 木場の驚きも理解は出来る。優れた素材の常で、オリハルコンはその強度ゆえに加工できる職人も限られているわけで、その上錬成までこなせる様な存在がいるだなんて思いもよらないだろう

 

「鍛治は研究の一環と言ってたのは覚えていたけれど、まさか……」

「とはいえ、暴落とか悪用とかの心配で、ヘパイストス先生やウェイランド先生みたいな信頼できる筋としか取引はできないけどな」

「ヘパイストスに、ウェイランド!? ギリシャと北欧の、鍛治の神じゃないか! えっ、先生って……」

「言ったとおりだ。神さんの紹介で、二人に師事した事があるんだよ。一応、卒業認定までもらえた」

 

 それ位の大物の教えでも無い限り、俺みたいなのがオリハルコンなんて超金属扱えるわけねえだろ。

 

 グイッ。

 

 唖然とする木場をどうしようか悩んでいると、横から小猫ちゃんに袖を引っ張れた。

 

「……イッセー先輩。これ、何ですか?」

 

 小猫ちゃんが指差したのは、鋭角的なフォルムの黒いフルプレート・アーマー。ただでさえ威圧的な雰囲気にも関わらず、龍と狼を足して二で割った所へ地獄の鬼の憤怒を叩き込んだような凄まじい形相の兜は、鎧の禍々しさを知らしめるのに一役買っている。

 

「これは呪いの鎧でね。怒りや憎しみ、怨念と言った負の感情を激情に変えて増幅させる危険な品だ。装着者の痛覚を麻痺させて超人的な戦闘能力を発揮させるんだけど、当然肉体の限界も超えるから馬鹿みたいな負荷が掛かるし、おまけに骨折すると鎧の内側から棘が突き出て肉ごと骨を固定するから、最悪そのまま失血死する事もある。

 極めつけに鎧に意識を持っていかれると、理性がぶっ飛んで文字通りの狂戦士と化して、敵味方の見境なく戦い続ける。それこそ肉体か鎧が、物理的な限界を迎えるまでね」

 

 装着者に合わせてサイズも形状も自在に変わる能力もあるけれど、便利というよりそこまでして着させたい呪われた装備の執念を感じてしまう。

 

「…………これも、先輩が作ったレプリカですか?」

「うん。神さんがどっかから持ってきた本物を真似て作ったら、性能までオリジナルを踏襲しちまったっつー笑うしかないオチがついた。俺も特訓のついでに試しで着た事あるけれど、ほとんどの骨がイカレて全身至る所刺されまくった。そのせいで脱ぐのにも苦労したんだよなぁ。ハハハ」

 

 思わず笑ってしまったら、小猫ちゃんは正気を疑うような眼差しを向けながらわかりやすく引いていた。怒りや呆れの視線よりもグサッとくるのはなんでだろうか。

 

 心のダメージを抱えたまま他のメンバーを見てみると、ゼノヴィアは一人あちこちの武器防具を見て回って、部長と朱乃さんとアーシアは三人仲良くアクセサリーを見ていた。

 と、部長が俺を見て手招きしたので、そちらの方へ向かう。

 これは断じて小猫ちゃんから逃げるわけじゃない。一旦距離を置くだけだ。

 

「武器もそうだけど、ここにあるアクセサリー……どれもこれも超一級の品ばかりだわ。これも全てイッセーが?」

「はい。色々と師匠達に仕込まれましたから」

 

 毒を喰らわば皿まで、じゃないけど、神さんは凝りだすと止まらないからな。その辺は俺も少し似たからよく分かる。

 

「………………兵藤一誠」

 

 なんかさっきより難しい顔をしたゼノヴィアが寄ってきた。ていうか、そろそろ言っておいたほうがいいよな。

 

「イッセーでいいよ。ゼノヴィアももう仲間なんだから」

「じゃあ、イッセー。とにかくイッセーは凄いんだな」

「いや、意味わからないから」

「……私も聖剣使いとして、特殊な剣や優れた名刀を幾つも見てきた身だ。だが、ここにある武器のほとんどは、それらを遥かに上回っている。正直、単純な武器としての性能はデュランダルにも引けをとらないレベルの代物ばかりだ」

 

 そりゃあまた、高く見てもらったもんだな。

 

「いいや、それだけじゃない。一々思っていたが、戦闘にしろそれ以外にしろ、イッセーはその年で身に付けられるとは思えない程のものを数多く身に着けている。君は一体どうやって、それ程の物を得たんだ?」

 

 どうやってって……。

 

「師匠と努力」

「なるほど。じゃあ、もう一つ聞かせてくれ。――なぜイッセーは、そこまで努力できるんだ」

 

 ……そこまで、か。

 だよな。傍から見れば、自分が異様だってのは分かってる。けど、どうしようもねえんだよ。これが俺なんだからな。

 

「……俺さ。小学校の頃に赤龍帝の篭手が目覚めてから、本当に色々な事に巻き込まれまくって、何度も何度も死にかけた」

 

 思えばあの頃、本気でヤバい所まで助けなかったのは神さんなりに思い知らせたかったんだろうな。強くならなきゃ生き残れない、それが俺の現実だって。

 

「毎回ボロボロで潜り抜けていたら、ある日師匠に言われたんだ。『生き延びたけりゃ強くなれ』ってさ。色々な技を教え込まれて、他にも色んな人から武術を習ったけど、口を揃えて才能が無いって言われてた。実際、一緒に修行してた連中の中でも、俺が誰より覚えが遅かったしな」

 

 その点、氷美神もジェリーさんも才能に満ち溢れてた。スポンジが水を吸う所じゃあなく、水が水に混ざるとでも言った位、二人の飲み込みは早かったもんなぁ。俺なんかじゃあ、劣等感に歯噛みする暇すら無い程に。

 

「だから努力した。地獄の訓練だろうが、悪夢の修行だろうが、死刑同然の特訓だろうが、とにかくやり遂げ続けた。それしか俺にはできなかったからな」

 

 無論、二人に置いていかれたくなかったって言うのもあるし、師匠達の指導に応えたかったって言うのもある。

 

 だけど何より――俺は生きたかった。

 

 基礎を覚えてからそれぞれにあった武術を選択した皆に比べて、あらゆる状況や敵に対応する為に全ての武術を習ったのもそれが一番の理由だ。

 才能の無い俺には尋常な努力じゃなかったし、それこそ何度も死にまくっては蘇生されてた。けどその甲斐もあって、多少は身になったという自負はある。勿論、師匠達の指導あってだけど。

 

「それが習い性になって、教えられた事は我武者羅にやりきるようになった訳だ。それだけの事だよ」

 

 神さんに一番最初に習った、コツを見つけるコツも活きてるんだろうな。でもそれ以上に、神さんを初めとする師や、修行を共にする仲間、そしていい競争相手に恵まれた事はどんな才能にも代えがたいと確信している。

 

「……そうか。うん、やっぱりイッセーは凄いんだな」

「はい! やっぱり凄いです!」

「うん、凄いね……」

「……初めて、素直に凄いって思いました」

「うふふ、凄いですわね」

「本当に、凄すぎるわ」

 

 いや、そんな矢継ぎ早に凄い凄い言われると、流石に少し気恥ずかしいんですけれど……。

 でも、皆が俺の研究室で笑ってくれているのはとてつもなく嬉しいです!!

 

「それじゃあ、とっておきでも見に行きますか?」

 

 そう言って指差した一番奥の厳重な扉に、皆一様に目を輝かせていた。

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