ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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 祝!! ハイスクールD×D17巻発売!!

 作者様の健康を願いつつ、続きを切望する次第です。


Life.49 友達、来てました。

 ビチャ。

 

 ……覚めた目に飛び込んできたのは、一面に広がる赤黒い海。

 

 赤血球のヘモグロビンからくる鉄臭さとは別に、ミネラル、乳酸塩、尿素、更にアルブミンやグロブリン、リゾチームなどのタンパク質やリン酸塩の臭いもする。つまりは血と汗と涙の海って所か。

 はは……どこのスポ根だっての。

 

 下らない事を考えながらも、自然と足は当所も無く進んでいく。

 

 ビチャ。

 ビチャ。

 ビチャ。

 

 歩くたびに跳ねる液体が俺の身体に染み込んでいく度に、微かな飛沫が溶け込んだ身体は一層堅固に、強さを増していく。そして、どれ位歩いたんだろうか。

 

 ドボォォォン!

 

 突然深い場所に足を踏み入れ、そのままどんどん赤黒い闇へと沈んでいく。四肢に力を入れる気も起きないまま、ひたすら下へ、下へ。

 

 ズズズ……。

 

 息苦しさはおろか、浮遊感もない中、唐突に赤い海が自分の中に入り込んでくる感覚に襲われる。あっという間に赤い景色は消えうせて、残ったのは白い世界。

 

 既視感を覚えて辺りを見回せば……ある意味、思ったとおりの奴がいた。

 

 龍を基調とした紋様が刻まれた、巨大な門の様な物体。その前に白くぼんやりとした人影が、黒いもやを輪郭として存在し、座り込んでいた。

 

『よう。久しぶりじゃねえか』

「……なんでここへ来たんだよ」

『さあね。原因があるとすれば、それはそいつさ』

 

 そう言って、指で示されたままに後ろを振り向けば、クロウ・クルワッハの持っていた長剣がふわふわと浮いていた。……なんでまた、こいつまで。

 

『どうやら錬金術の要領でお前の肉体と融合しやがったみたいだな。その余波でここへ飛ばされたってわけだ。えらく気に入られたみたいじゃないか』

 

 シュイン!

 

 肯定の意を示すように、長剣は刀の形状となって、俺の身体に溶けるように入り込んだ。

 

 ――ドグン!!

 

 ……即座に人の意識を乗っ取ろうとしてくるとは、こうまで厚かましいと逆に感心したくなるぜ。この剣――ソウルキャリバーは力の質こそ聖剣に近しいが、在り方としては寧ろ魔剣や妖刀の類だ。

 

 黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)級の出力で、朧流があるとはいえ悪魔の俺に何の影響もなく融合するだなんて、その手の武器としては紛れも無く頂点クラスの存在と言っていいだろう。

 

 まあ、乗っ取らせる気は更々ないけどな。

 

「にしても、なんだってわざわざ俺を……」

 

 ずっと俺に目をつけていて、クロウ・クルワッハに協力する見返りとして俺に近づけさせただって? そこまでして俺なんかに憑りついてどうすんだよ……性能は凄い癖に、見る目無いにも程があるだろ。

 

『なあ』

「……あっ?」

 

 そういえばいたな、こいつ。……ていうか、こいつとは出来れば話したくなんかない。嫌味で遠慮しねえし、なにより偉そうでムカつく。これが自分でもあるって思うと情けなくなってくる。

 

『それ、いい加減やめとけば?』

「……何がだよ」

『ガオウにも言われたじゃねえか。何かお前は勝手に忘れてたみたいだけど』

 

 重龍皇の闇瞳(ヴォイド・ローディング)の時か。確かにあれはほとんど曖昧だったけど、それとこれが何の関係があるってんだ。

 

 ――そんな疑問も、次の瞬間に吹き飛んだ。

 

『楽でいたい、面倒は御免。別にそれが悪いってわけじゃねえけどさ。――お前のはいい加減見苦しいんだよ』

「……何の話だ(ダマレ)

 

 伝えようとしている言葉と、実際に口に出した言葉がまるで一致しない。これは……そうだ。あの時も。

 

『いつまでもガキみてえな駄々こねてんじゃねえよ。あの時言っただろ? 一方的に対価を払っておいて受け取らないっていうのは、殴っておいて殴られるのが嫌だっていうのも同じだってな』

一々変な言い回しをしてんじゃねえよ(ヤメロシャベルナ)! もっと分かりやすく言いやがれ(チガウチガウチガウ)!!」

『ああ、いいとも。じゃあこれもあの時言ったことだけど……』

 

 バラバラになりそうな心と頭を引っ付けて、必死で意識を保つ俺に、『真理(オレ)』はのっぺらぼうの顔にニンマリと口を浮かべて笑いかけて……

 

『――払った分は受け取れよ。等価交換だろ? 『錬金術師』?」

 

 ――――――――――ガシャアアアン!!

 

 ゴワァ!

 

 驚く間もなく扉の中に引っ張り込まれ、闇の中へと投げ出される。

 

 そして目の前に現れた鏡に映し出されたのは……凝縮された『闇』を鎧として纏う、『(バケモノ)』。

 

 ガシ!!

 

 鏡の中の『(バケモノ)』が手を伸ばすと、装甲に包まれた腕は平面から立体へと変化する。

 

 ズルゥゥッ。

 

 俺の首を掴み、そのまま鏡から全身を引っ張り出した『(バケモノ)』は、兜のマスクを展開させる。

 

 覗けた顔は――傲慢。

 

 その極致とも言える笑みを貼り付けて、『(バケモノ)』は俺に、俺と同じ顔を見せ付けた。

 

『――ようやくだ! 身の程知らずの馬鹿野郎!!』

 

 

 

 

 

 

 

「うおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 ガバァッ!!

 

 どこからこんな声が出せるのか不思議になる位の大声を発しながら跳ね起きた途端、驚いて仰け反るオカ研メンバーの姿が横目で見えた。

 

 ここは……医務室か。

 

 が、冷静でいられたのもそこまで。確かな意識を取り戻した途端、おぞましい不快感が頭と胸に去来し、毛布を握り締めて項垂れる。

 

「イッセー!?」

 

 部長を皮切りに、すぐさま心配そうに覗き込んでくる皆に対して、精一杯の笑みを浮かべようとする。

 

「だ、大丈ッ夫です……。少しッ、調子が悪いだけ、で……」

 

 虚勢を張ろうにも不自然な表情にしかならない。安心させようとしたのが却って不安そうな顔をさせてしまって、申し訳なさが募るばかりだ。

 

「はいはい。やせ我慢はいいから。説明の前に、まずは深呼吸でもしなよ」

 

 そんな俺を見かねて割って入る明の言う通り、大きく息を吸って吐いてを数回繰り返し、何とか平静を取り戻そうとする。ある程度落ち着いたところで、明が口を開いた。

 

「それじゃあまずはイッセーの状態だけど……あの長剣は魂の段階でイッセーと融合していて、しかもイッセーを思い通りに操ろうとずっと働きかけている事が分かった」

 

 明の宣言で、皆が目を丸くする。この不快感はやっぱりあいつのせいか。

 

「が、元々規格外の精神力の上に、特殊な武器を扱う武術である朧流を体得したイッセーが対象では、思うようにはいかないらしい。イッセー、今の所はどうだい?」

「まあキツイっちゃキツイが、当面は大丈夫そうだ」

「そうか。しかし幾らクロウ・クルワッハが使い手とはいえ、この研究所の何重もの防衛網に引っかからない形で空間を斬ったばかりか、データ上のセキュリティまで切り裂くとはね。またとんでもない物に気に入られたじゃないか、イッセー」

 

 明はやれやれと言った体で腰に手を当ててため息をつく。

 

 俺は胸に手を当てて、自分の心臓の鼓動、それと同時に脈動する霊剣の力と意志の波動を感じ取った。

 

「この剣……ソウルキャリバーには造作も無い事だろうさ。何せクロウ・クルワッハの持っていたもう一本の剣、ソウルエッジとは宿主を互いに変えては力を高め、数千年は下らない期間を戦い抜いてるらしからな」

 

 ざっと頭に叩き込まれた断片だけでも、それぐらいの期間はあるだろう。その間にこいつの持ち主に選ばれた人々も、かなりこの霊剣に振り回されたらしい。

 

「アレか……あの剣も、そのソウルキャリバーに匹敵するって事かい?」

「ああ。間違いない」

 

 俺の返答を聞くなり、明は顎に手をやって考え込む。

 

「ふむ……。察するに、イッセーへの融合を餌に協力しているみたいだけど……使えるのが一回だけでも、厄介極まりない代物だね。しかも、だ。クロウ・クルワッハが何の目的でデータを持ち去ったのかは分からないけれど、まず黒幕がいると見て間違いない」

 

 明のきっぱりとした物言いに、部長の顔が恐怖と驚きに染まる。

 

「あ、あれほどの怪物を従わせる者がいるっていうの!?」

「いや、従っているというより、大方単に利用しあってるだけだろうさ。あれは我欲が満たされれば何がどうなろうと気にも留めない、自分勝手の究極形だよ。ある意味非常にドラゴンらしいともいえるね。

 それがあんな面倒臭そうに他人の研究データなんてものを持ち出した理由は一つ。誰かに頼まれたとしか考えられないというわけさ。あいつ自身はただ今現在のイッセーの様子を見にきただけで、データを奪ったのはあくまでついでだろうね」

 

 表面上は涼しい顔だが、内心では臍を噛む想いだというのが、付き合いの長さから察せられる。飄々としていても根っこの方では真面目な明にとって、真摯に励んだ研究成果を『ついで』で奪われるのは酷く屈辱だろう。

 

 けれど、それが決して判断に影響を及ぼすことが無いからこその明なんだ。

 

「とにかく、奴もあの剣も放っては置けない。……イッセー、わかるかい?」

「ああ、ソウルキャリバーがソウルエッジの在り処を叫び続けてる。今もクロウ・クルワッハが持っているかどうかまでは分からないけどな……」

 

 クロウ・クルワッハ以外にこんなヤバイ剣を扱えるような怪物がゴロゴロしてるとも思えないが、あいつと利用関係にある誰かがそうでないとも限らない。

 あいつと直接戦った身としては、あの邪龍に頼みごとを聞かせるってだけでも危険視するには十分すぎる。

 

「やはり片方だけ置いていったのはその為、か。どう考えても罠でしかないけれど、ソウルエッジは勿論、相手の情報を得る可能性が欠片でもあるのなら追いかけるしかない」

「なら私とイッセーとオルトで行くから、明は留守番してて」

 

 そう言いながら部屋に入ってきたライリの意見に、明が頷く。

 

「ああ。全員で行って、またあんな手段で入り込まれたらたまらないからね。私が警戒に徹すれば、今度こそ容易には入らせないさ」

「OK。セキュリティも張り直したし、盗まれたデータの内容も把握した。後は盗人共を叩き潰すだけ……てな!!」

 

 バシン!

 

 逸る血気のままにライリが勢いよく掌に拳を叩きつけたのを合図に、部長がライリに詰め寄る。

 

「ちょっ、ちょっと待って頂戴! 私達は……」

「当然、ここで留守番に決まってるでしょ。下手すると今度こそクロウ・クルワッハとガチでやりあう事に成りかねないのに、ぞろぞろと足手纏いなんか連れて行けないっての」

 

 ちょ、おま……幾らなんでももう少し言い様ってのがあるだろ! 明もうんうん頷くな!

 二人が遠慮ないのはいつもの事だけど、心なしか部長に対しては一段とキツい。俺を悪魔にした事まだ気にしてんのか!?

 

 あまりの言い草に部長がたじろぐが、言っていること自体は正しいせいで二の句が告げない。

 

 相手は天龍に匹敵する桁違いの邪龍。そこに加えてどんな強敵がいるかも分からないのでは、ライリとオルトでも俺に加えてオカ研メンバー全員を守るのは厳しすぎるだろう。

 

 俺としてはこういう経験を皆に積ませるのは悪いことじゃないと思うんだけど、危険に過ぎるのも確かな事実。

 

 後一人、最低でも上級悪魔以上の実力者がいるならともかく……。

 

 と、そんななんとも言いがたい空気をぶち破るように、快活な声が部屋に響き渡る。

 

「話は聞かせてもらった。俺も行こう!」

 

 唐突に割って入った大声の主を視認した瞬間、全身を言いえもしない感覚が電流の様に駆け巡る。

 

 黒い短髪を備えた野性的な容姿に、以前にも増して筋骨逞しい肉体を備えた、俺の戦友とも言える男。

 

 俺は、脊髄反射でその人の名前を叫んでいた。

 

「サ……サイラオーグさん!?」

「久しいな、イッセー! それにリアスもな」

「いや、ちょっ、何でここに!?」

 

 どうしてこういつも登場が唐突かなぁ、この人!!

 

「ついさっき食材の搬入で来たのさ。そうしたらこうなっていたんで、な。済まないが、少し立ち聞きしていた。それよりライリ殿。今言ったとおり、俺も行くぞ。それならグレモリー眷属を連れて行っても問題はあるまい?」

「……うん。確かにサイラオーグとイッセーがいるなら、お守り位は大丈夫かな。後であの二人も来ることだし」

 

 あの二人? ――それって、まさか……。

 

「で、そういう事なんだけど……」

 

 頭に浮かんだ名前を口に出そうとした矢先、ライリは部長に向き合い、自分より少し高い位置にある眼を覗き込む。そして挑発するように口の端を吊り上げながら、アーシア達の顔をざっと見回した。

 

 突然の従兄弟乱入にフリーズしかけた部長は、その視線に気がつくとすぐさま面持ちを正す。

 

「行く? それでも命の保障は無いけれど」

「勿論、覚悟の上よ。ここで退いたら悪魔の名折れですもの」

 

 アーシア達も首を縦に振って、部長に同意を示す。「若者は熱いねえ」と茶化しながらも、ライリは面白そうにニヤニヤしている。

 

 ところが、一拍置いて人懐っこい笑顔を消すと、端整な顔に真剣な表情を浮かべる。

 

 無機質染みた美貌に有機的な躍動感を兼ね備えた美貌は否応なしに皆を惹きつけ、どうあっても無視できない存在感を撒き散らしながら口を開いた。

 

「――言っておくけど、邪龍(クロウ・クルワッハ)に限らず、神や魔王、更にそれすら超えた化け物が出てきたってなんの不思議も無いんだ。今回だけでなくこれからもね。兵藤一誠の傍にいるっていうのは、そういう事なんだよ」

 

 赤い瞳を爛々と輝かせ、視線で皆を射抜きながら、続ける。

 

「君らは全員、粒よりの宝石と言ってもいい素質の持ち主だ。だけど今は、笑うしかないくらい弱い。今回は守るけど、さっさと強くならなきゃ死ぬよ?

 別に君らはどうなろうが知った事じゃないけど、最低限の覚悟は常に決めておく事だね」

 

 軽い口調に反して、ライリの言葉が皆に重く圧し掛かり、深く染み渡っていくのが分かる。

 

 俺の傍に居る限り、強者は次々と現れる。それがどれ程危険なものなのか、ここへ来て皆は嫌というほど理解しただろう。

 

 しかし、皆は緊張に身を強張らせながらも、決意を籠めた眼差しでライリに向き合った。それを見てライリは愉快気に口の端を歪めながら背を向けて、扉へと歩き出した。

 

「それじゃあ、付いてきて。明、留守番よろしく~」

「ああ、いってらっしゃい」

 

 ひらひらと手を振りながら出て行くライリの後を皆が追いかける。ベッドから立ち上がって、最後に部屋を出ようとする俺に、明はそっと近づいて肩に手を置いた。

 

「……イッセー、気をつけてな」

「はいよ。じゃあ行って来る」

 

 そう言って明から離れると、俺は皆の後を追った。

 

 

 

 ブゥゥン。

 

「……スキャン完了。データをロードしました」

「OK。あとは細かい座標を割り出すだけだ。ちょっと待っててね~」

 

 転送ルームにやって来た俺たちは、ここへやって来たものとは桁違いの大型転送装置の前で、クロウ・クルワッハの一派が居ると目される場所の特定作業を始めていた。

 

 まずは俺の体内にあるソウルキャリバーが示すソウルエッジの位置情報をオルトがスキャン。それをデータとして転送装置の端末に送り、細かい座標をライリが計算するわけだ。

 

 ……にしても、煩えなこいつ。力づくが無理と悟った途端、懐柔に走るとか調子良すぎるっての。なにがソウルエッジを討つべしだ。

 

 あの一瞬見た感じと伝わった情報から判断して、ソウルエッジが危険極まりないってのはわかるが、お前だって大概碌でもないだろ。

 

 こんな物騒な刃物が揃いも揃って俺に狙いつけてくるとか、勘弁してくれ……。ついに人や怪物だけでなく、物からも狙われるようになったってか?

 

 ……よく考えなくても洒落になってない。この考えは止めだ。

 

 他に気になる事といえば……あの時の、最後のアレ。

 

 あの鎧は、恐らく重龍皇の胸甲(ローディング・ギア)禁手(バランス・ブレイカー)だろう。重龍皇の鎧(ローディング・ギア・スケイルメイル)とでも呼んでおこうか。

 

 ……鏡から出てきたのは重龍皇の鎧を身に纏っただけの、ただの俺だ。

 

 それだけなんだ。

 

 ただ慢心を全身で表したような態度をとっただけの、兵藤一誠だ。

 

 なのに、どうして……あんなにも恐ろしく思えたんだ?

 

 断じて鎧のせいじゃ無い。ドライグやバオウやガオウとはまったく別なる質のものだった。超高密度の装甲でさえ抑えきれない、凄まじい『力』が感じられた。

 

 そんなものが、俺自身にあるわけがない。

 

 となるとまさか、グルメ細胞の『悪魔』? けれどアイツは、俺の『奥の手』で強引に引き出していたようなものだ。サイラオーグさんや氷美神じゃあるまいし、俺の細胞のレベルじゃ平常時ではどんな無茶をしても出てくるとは思えない。

 

 なら、あれは一体……。まさか、『賢者の石』か? そういえばそろそろ時期ではあるけれど……。

 

 篭手を出して宝玉を見つめてみると、ドライグと会話している時とはまた違う光がぼんやりと俺の顔を照らし出す。そこから放たれるエネルギーは力強くも無垢で、意志を試すような輝きを見せてくる。

 

 ――こいつは俺の研究の中でも一、二を争う危険性を持った物質だ。

 

 所持者の意志の強さを受けて無限にも思えるエネルギーを生み出す事に加えて、ほぼ無限大の情報集積回路にして、情報処理機能を備えている。早い話が永久機関兼スーパーコンピューターって所だ。

 

 しかしその性能に反して、これは扱う意志の善悪を問わない。触れたものにただ莫大な力を提供する『道具』でしかない。

 

 けれど、あの時の感覚とはやはり違う。あれはどちらかと言えば……強い忌避感を感じさせられる類のものだった。

 

 見たくないし、触れたくない。強くそう思わせられる何か。

 

 他に可能性が高いのは……歴代赤龍帝の残留思念?

 

 いや、それも違う。今まで覇龍の中で何度も触れた色濃い怨嗟と邪念とは、また別種のものだ。

 

 もっと純粋で、もっと悪辣で、もっと獰猛な何か。正体を探るように胸をさするが、それで分かるようなら苦労はしない。

 

 バン!

 

 突然の背中への衝撃にはっとすると、サイラオーグさんが横に立って爽やかな笑みを浮かべていた。

 

「どうした、イッセー。緊張しているのか」

「いや、そういうわけじゃないんですが……」

「俺はしているぞ。何せ、久々に赤龍拳帝(おまえ)と隣り合って戦えるかも知れないんだ。弟弟子としては、胸が高鳴って仕方が無い。師匠から随分厳重な封印を施されていると聞いていたが、この間のライザー・フェニックスの件で以前と変わらぬ気迫を持って闘うお前を見たときから、こうなる事を夢にも見たぞ」

 

 そう言って拳を握り締めるこの人に、俺は畏敬の念を禁じえなかった。

 

 ――サイラオーグ・バアル。大王バアル家の長子として生まれながらも、特色である滅びの魔力を持たず、通常の魔力でさえまるで有していない。それが悪魔にとってどれ程の意味なのかは、俺自身も悪魔になった今では痛い程理解できる。

 

 しかし、旧序列において一位の家柄のサイラオーグさんが受けてきた向かい風は、転生悪魔である俺などとは比べ物にもならない。

 

 父親には出来損ないと吐き捨てられ一部を除いた使用人にすら蔑まれる中、母親と共に辺境での暮らしを始めれば、魔力が無い事を理由に下級、中級の悪魔たちのいじめの対象にされていた。

 

 辛い境遇に毎日泣いて帰ってきたサイラオーグさんに、お母さんは魔力がなくとも他を鍛えればいいと励ましていたが、夜中に寝静まったサイラオーグさんに対して、滅びの魔力を持たせてあげられなくてごめん、と泣きながら謝っていたらしい。

 

 以来、サイラオーグさんは独学で滲む血も熱気で掻き消される様な修行を持って、己を鍛え上げた。それは師匠達に付きっ切りで鍛えてもらった俺と違い、厳しく辛いものだっただろう。

 

 そんな時だ。師匠と別行動で冥界の素材を採取していた俺と、この人は出会った。

 

 最初はなんとなく、たまたま休もうというタイミングが重なった時に出会っただけだったが、食事をしながらお互いの身の上を話すうちに、俺たちは意気投合した。そして、軽く手合わせをしてみようという話になって……ふと気づいた時には、お互い死力を尽くして戦っていた。

 

 その戦いの中で俺がサイラオーグさんに抱いたのは、今と寸分違わない畏敬の念。

 

 師にも付かず、辛い境遇の中で研ぎ澄まされた拳は何よりも重く、痛烈なものだった。それでも、俺も必死でこの人に追いすがった。

 

 似たもの同士だからこそ負けられない。全力も出さずに倒れるような無様をこの男に晒したくない。その想いから心技体全てを出し切って……ギリギリで、俺が勝った。

 

 その後、気絶したサイラオーグさんを連れて死に体で師匠の所を戻ると、『どこで油売ってんだテメェ』とボロボロな姿をさらにズタボロにされつつもサイラオーグさんを紹介し、弟子にしてもらった。目を覚まして仔細を説明した時のサイラオーグさんの混乱っぷりったら無かったなぁ……。

 

 似たような境遇だからこそ放っておけなかったのか、単なる同情だったのかは、俺にもよく分からない。ただ、頭の中で神さんとサイラオーグさんが同時に思い浮かんだ瞬間、居てもたっても居られなくなったんだ。

 

 その事について、いつだったかサイラオーグさんはこう言った。

 

『余計なお節介、というには余りに乱暴だったな。何せ自分を倒した男の師だ。強くなりたければうってつけといわれてしまえば、負けた俺には何も言い返せんだろう。……だが、感謝している。俺一人で到達できる場所よりも、よほど高い所へ上がっているというのが実感できるんだ。この借りは、いつか必ず返そう。それとは別に、あの時の敗北もな』

 

 実際、サイラオーグさんならたった一人でも十分すぎるほど強くなれただろう。けど、今のこの人はそれ以上に強い。

 師匠仕込の覇皇拳に加え、マダラさんから教わった木ノ葉の秘伝もモノにした上に、それ以外にも様々な力を得た。

 

 その中でも最も大きな要素は、グルメ細胞だ。

 

 通常、グルメ細胞は覇気や闘気と言った生命力を根本とした力とは相性がいいが、魔力や魔法力、妖力のような力とは相性が悪い。ゆえに、魔力において多大な才能を持った部長や朱乃さんは、恐らくグルメ細胞との結合が成功する確率は低い。

 

 時間をかければ高い魔力を持っていても可能ではあるし、一握りの逸材は容易に適合する事ができるが、失敗する確立は当然ある。

 

 グルメ細胞の結合に失敗すれば、最悪死に至る可能性もある。だが、魔力に恵まれなかったサイラオーグさんは、だからこそグルメ細胞と非常に高い親和性を持っていた。

 

 それは細胞が壁を越えるごとに異常なまでの進化を見せ、短期間で上級悪魔相当の実力を身に着けたほどだった。

 

 思い返せば結構な期間会ってなかったけど、今はどれ位強くなってるんだろう。電磁波は増しているけれど、それだけで相手の全容を推し量れる程これには慣れてないし。

 

 ……だけど、これだけは確かに言える。

 

 いつかまた、絶対に追いついてみせる。

 かつてこの人と対等に殴りあったからこそ、この人に情けない自分を見せたくは無い。

 

 例えどんな苦境にあろうとも、足掻けば強くなれる事を最も体現してみせたサイラオーグ・バアル。そして、曲がりなりにもライバルと認められた俺なのだから。

 

 ひたすら精進あるのみだ。

 

 と、ツラツラと長ったらしい事を考えているうちに、いつの間にか転送装置の調整が完了したようだ。

 

 ポッドに入っていく皆の後を追いかけると、最後に起動キーを押したライリが中へと入り、装置が起動する。

 

 ゴウウゥン! ゴウウゥン! ゴウウウウウゥゥゥゥゥン!!!

 

 さぁて……鬼が出るか、蛇がでるか。

 

 

 

 

 

「……来るわね。しっかり頼むわよ」

「あいよ。まあ、やり過ぎない程度に遊ぼうかねえ」

「それじゃあ……あの御方々を封印せしめたクソガキに、眼にモノをみせてやろうかね」

「……」

「きゃはははは!! どーんな声で泣き叫んで死んでくれるのかな? 楽しみぃー!」

「久々のイッセーかぁ……あぁヤバ。考えるだけで逝きそう。――え? うーん、まあそうだね。でもダメダメ。後少しの我慢なんだから、ね?」

「――――」

「ん? ああ、落ち着きたまえ。そう焦らないでも、もうすぐ賢者の石は手に入るよ。その時こそが――我々の欲望(ゆめ)の始まりだ」




 
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