ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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 今回、ついに色々とはっちゃけます。


Life.50 俺は、弱い。

 ブゥゥン。

 

 光が止み、視界が晴れていくと、最初に眼に入ったのは上下だけが存在する廊下。が、よく目を凝らせば、横には透明なだけでキチンと壁が存在する事が分かる。白い空が地平線の向こうまでも広がる景色はいっそ幻想的とも思えるが、視線を下に下げた瞬間、誰もが言葉を失った。

 

「……なんなんですか、これ」

 

 小猫ちゃんの驚く声に、誰も反応できずに固まっている。

 

 ビル数階分はあるだろう高さの下は、眼下一面を埋め尽くす多様な機械。今は停止してるようだが、数キロ先までも広がる鋼鉄の樹海に圧倒されたのか、誰ともなく唾を飲み込む音が聞こえる。

 

 俺はざっと周囲を見渡して、思ったままの事を口に出した。

 

「徹底された自動化だな……動力と資材さえあれば、後はスイッチ入れるだけでほぼ永続的に生産活動が可能ってレベルだ」

「人手が足りない少数派の組織ならそう珍しいことじゃないけど、ここまでの規模を……ていうか、それ以前に……気色悪いね」

 

 吐き捨てるライリの気持ちがよく分かる。

 

 ……ここに存在する機械は、余りに虚無的だ。

 

 例え使い捨ての量産品だろうが、ジャンクフードだろうが、どんな形であれ作られる過程で人の手が加わっている以上、そこにはなんらかの臭いないし色が見えるものだ。

 

 しかし、ここに広がる機械群はそれらが何一つ無い。どう作ったとかいう問題ではなく、これが『誰かに作られた』物だとはとても思えない。まだ幻覚とでも言われたほうが安心できるほど、この機械からは何も感じられない。まるで空っぽだ。

 

 ……一体、どんな神経してたらここまで何も籠めずに物を作れるんだ?

 

 正常とも異常ともつかない違和感は増すばかりで、皆も気味が悪そうに周囲を見渡していた。

 

「イッセーさん……」

 

 アーシアに至っては、怯えて俺の袖を掴んで来る。震えるアーシアの頭を撫でてやりつつ、ライリに視線を送ると、こくんと頷いて指示を飛ばしてきた。

 

「先頭と最後尾は私とオルトで行く。イッセーは私の後ろ、サイラオーグはオルトの前について」

「ああ」

「了解だ」

 

 ライリの指示通りの隊列で並び、ゆっくりと廊下を進んでいくが、五分以上歩いても風景は代わり映えしない。

 

 どこまでも続く機械の群れに緊迫感だけが増していく中、再び思ったままに口を動かす。

 

「……何かしらの兵器工場みたいだけど、確実にまともじゃないってのは伝わってくるな……」

「邪龍と関わってる時点で、イカレてるってのは分かりきってるよ。しかもさっき確認してみたら、時間操作系の結界まで張られてるみたいだ。これほどの規模の空間を作るのに、十月十日じゃ収まらないのは確かだね。けど、一番おっかないのは……」

「こんな空間を今まで誰にも悟らせなかったって事、だな」

 

 次元の狭間の観測は、どこの勢力や集団でも大なり小なり行っている事だ。無論、俺たちも例外じゃない。

 そんな中、発見されれば確実に波風立つであろうこんな空間を噂でも聞いたことが無かったというのは、どう考えても普通じゃない。

 

「下手をすると、クロウ・クルワッハ並の厄介者がもう一人くらい居ると思った方がいいかもな」

 

 自分で言ってて背筋が寒くなる予想を、サイラオーグさんが割りとマジなトーンで投げ返す。

 

「どうだろう……イッセーの引きは良くも悪くも最高級だからな。一人と言わず一ダースは居るかもしれん」

 

 更に、ライリが笑いながらその意見を拾い上げる。

 

「アハハ、止めてよ。口に出すとマジでそんくらい出てきそうじゃん。他の奴ならともかく、イッセーじゃ洒落にならないって。だってイッセーだもん」

「そうだな。敵は一人の筈が、実は三十人居たという位にはなりそうだな。イッセーならば」

「いや、更に一ダースずつで合計三百六十ぐらいいくかもね。イッセーだし」

「確かに、イッセーだしな」

 

 ……微かな間にめっちゃインフレしたな、おい。

 てか流石に酷くね!? 

 

「おいこらそこの吸血鬼と悪魔! 人を何だと思ってやがる!」

「今はお前も悪魔だろう。大体、グルメ界ではお前のその引きで何度も死にそうになった俺やデュリオと刃狗は、それくらい言わせてもらっても(バチ)は当たらないと思うぞ」

「悪魔が罰に当たるのビビってどうすんですか。確かに否定できませんけど、悪い事ばっかりでも無かったでしょう。その御蔭で皆のフルコースも幾つか埋まったんだから」

「まあ、それもそうだがな。……しかし、懐かしいものだ。もう二年以上は四人揃ったこと等無いからな」

 

 そういえば……全員実力がつくに従って、個別行動も増えたせいかな。

 昔は四人全員で死に物狂いで生き残ってたのに、今じゃ多少の災害じゃ何ともないもんな。俺の場合はそれも一年前までになるけれど。

 

 思えば三人とも、丁度それくらいから顔を合わせてないな。

 

「あれから俺も色々あった。辛く苦しい道のりではあったが、だからこそ師匠やお前達と得たものは大きかったと自覚している。出来る事ならお前を眷属にしたいと考えた時もあったが、それがリアスの眷属として再会するとは、相変わらず予想の斜め上を行ってくれるな」

「……やっぱり、サイラオーグもそう思っていたのね」

 

 部長の呟きは、これ以下はないと言う程に沈みきっていた。……俺を転生させた事に、まだ思う所があるみたいだ。サイラオーグさんも部長の様子に気づいたらしく、すかさず話の方向を戻す。

 

「とにかく、今回の一件に絡んでいる連中はかなりの相手だという事は確かだ。具体的な目的も分からん以上、気を引き締めていこう」

 

 サイラオーグさんの言い分に、部長や皆が身を引き締める。

 

 ――そう。結局のところ、その辺りが何一つ見えてこない。

 

 クロウ・クルワッハはいい。あいつが無軌道なのは俺が誰よりもよく分かっているし、俺の様子を見に来ただけ、という明の予想は概ね間違っていないだろう。

 

 問題なのは、あいつにデータを持ちださせた黒幕の目的。

 

 データを持ち出す為に直接乗り込んできたのはいいとしよう。この際ソウルエッジとソウルキャリバーを持ち込んだのがどちらなのかは置いておく。

 

 重要なのは二本を俺と引き合わせる事を餌に協力させている事。いくら黄昏の聖槍並の出力とはいっても、クロウ・クルワッハ程の実力者であれば力づくで従わせることも可能にも関わらず、だ。

 

 これは実際に奴と戦い、ソウルキャリバーを体内に収めている身から断言できる。

 

 俺を殺す事を目的としているのであれば、尚更難しい事は無い。研究所に侵入した時の様に、空間を切り裂いて俺の側まで来れば、後は一瞬。そのあとでソウルエッジもソウルキャリバーも破壊するなり封印するなりすればそれで終わる。

 

 となると……俺にこの剣を与える事自体が目的だとでも?

 だとしても、なんでそんな真似をする必要が?

 

 仮に二本を介して俺を操ろうと言うには、こいつらは凶悪過ぎる。もし俺の意思が乗っ取れた時には、この身体を使って殺戮の限りを尽くし際限無く力を増大させるだろう。そうなればコントロールなんか論外だ。

 

 ……駄目だ。情報不足の上に不可解な事だらけで予想もつかない。ただ一つだけはっきりしている事は、相手がなんであれ絶対に放っては置けないってことだけか。

 

 必死で振り絞られる無い頭に、既に戦意が滾り始めて熱を帯びたライリの声が入り込んできた。

 

「……どうやら、ようやくお出ましみたいだよ」

 

 目を凝らせば、少し先にかなり大きめの入り口が見える。そこをくぐり抜けると、ざっとドーム球場位の空間が広がっていた。

 

 その中心部に立ち尽くす異形の人影。鳥人間とでも形容できる外見から、合成音声とも付かない奇妙な音をドーム内に響かせた。

 

『ようこそ、赤龍帝にライリ・アスミカムライン。そしてグレモリー眷属とサイラオーグ・バアル。GTロボ越しで失礼ながら、工場見学は楽しんで貰えたかな?』

 

 ニトロタイプのGTロボ……しかも、かなり使い込んでるな。だいぶ前から、俺達の研究所に何度もハッキング仕掛けてきてたってわけだ。こいつが黒幕で間違い無いみたいだな。

 ライリが鼻を鳴らしながら言う。

 

「楽しませる気が少しでもあるんなら、せめて動かしといてくんない? そうすれば射的の的にして遊ぶくらいは出来たんだけど」

『それは失礼した。しかし、残念な事にこの工場はもう動かす予定が無いのだよ。つい先程、急ぎながらも全工程を終えたばかりでね。製品の映像位はあるので、せめてそれだけでも見ていってくれ』

 

 ブゥゥン。

 

 瞬間、ドームの宙にホログラム映像が浮かぶ。

 

 ―――。

 

 そこに映しだされた物を見て、俺は一瞬自分の正気を疑った。

 

 だが、映しだされた物は見せつけるかのごとく、骨ばった全身を晒しながらギラギラと赤い目を輝かせている。

 

「恐竜のロボット……ですか?」

「……なんて禍々しい」

 

 率直な朱乃さんと小猫ちゃんの感想につづいて、俺は頭に浮かんだ呼称を口にする。

 

「……ゾイド?」

 

 異世界から時折飛来する、獣の姿を持った金属生命体の総称だが、今目の前に映しだされた映像は、俺の知識の中のゾイドとはあまりにもかけ離れていた。

 

 宙に浮かぶそこに次々と映しだされるのは、ラプトル、トリケラトプス、プテラノドン、ケントロサウルス、スピノサウルスと、様々な恐竜の姿。いずれも骨格に生物染みた肉の様な流体金属を貼り付けた格好で、まるでゾンビのような印象を受ける。

 しかし、そんな姿形ながらも、そこに宿るのは紛れも無い命の躍動感だが……同時に強烈な違和感を感じて止まない。

 

 まるで人形に電池を入れた様な不自然さ。そこに思考が至った瞬間、俺は見えてしまった。

 

 一体のゾイドの目。赤く鮮烈な、魂の輝きを。

 

「てめぇ……まさか!!」

『フフッ……お察しの通りだよ。赤龍帝』

 

 色めき立つ俺の様子から、頭に浮かんだ回答を理解したGTロボは褒めるように認めると、嬉々として先を話始めた。

 

『あれはゾイドの一種。バイオゾイドと呼ばれる代物だ。通常のゾイドとは違い、コアからボディまで全て工場で生産が可能だが、便利な分欠点も多い。特に最たる点が、乗る人間に極めて希少な適正を求めるという所でね。それを解決する為に……賢者の石を用いたのだよ。君たちが赤い魂(レッドソウル)と呼んでいる物でね!』

 

 ……ッ!!!!

 

「賢者の石!? イッセー、どういう事?」

 

 後ろから問いかける部長の声に、俺は弾けそうな激情を沈める様、自分にも再確認させるように淡々と説明する。

 

「……賢者の石は、錬金術の研究における到達点の一つ。解釈や目指すものの違いで、同じ賢者の石でも、材料や性質が異なることも珍しくはないんです。そして赤い魂(レッドソウル)は――複数の人間の魂を凝縮させた高エネルギー体」

「に、人間のッ!?」

『そう。そしてそれを直接バイオゾイドに注入すれば、後は人工知能と電子プログラムで十分戦力としての運用が可能となる。とはいえ、これだけの数を揃えるのは流石に時間がかかったよ』

 

 ロボが宣言するように叫ぶと、映像が再び切り替わり……大量のバイオゾイドを写しだした!

 

 なんて数だ。ざっと一万体は下らねえ! 俺が把握しているゾイドの数を遥かに上回ってやがる!!

 

 この全てに赤い魂をッ!?

 

 動揺する俺を余所に、木場はバルパーの一件を思い出し、憤怒で固まった表情を無機質なロボットへ向けた。

 

「貴方は……貴方はこれを作る為に、一体どれだけの人間を……!」

『いいや、別に人間だけじゃない。天使も堕天使も悪魔も妖怪も、それ以外の異種族も大勢賢者の石にして試してみた。結果、バイオゾイドを運用する分にはどれでもあまり差が無い事が判明してね。一番手に入れ易い人間が多いのは確かだが、それ以外の種族も大勢いるとも。とりあえず試してみる研究者の性、という奴かな』

「ふざけるなッ!!」

 

 皆が戦慄する中、ゼノヴィアが全力で怒声を上げる。

 

「……主よ。どうか、彼の者達に安らぎを……慈悲をお与え下さい」

 

 それに触発されたように、アーシアは大粒の涙を流しながら、ダメージを無視してまで祈りを捧げる。既に存在しない神へと、それしかできない無力な自分を罰するように。

 

「胸糞悪いね。だけど研究者としては大したもんだ。だからこそ解せない。……なんでこれだけバイオゾイドが完成していたのに、私達の研究を盗んだ? 幾ら時間操作の結界を張ってたって、あれだけの時間じゃ一から全部作るなんて不可能なはず。兵器や魔法にしたって、私達以外じゃ九割方技術不足で役には立たない筈だ。何が欲しかったのさ」

 

 猛烈な殺気を発しながらも的確な質問を飛ばすライリに、未だ嬉しそうな声色を隠そうともしないGTロボが返答する。

 

『一から作るのは無理でも、錬金術による装甲の強化だけならそう時間はかからない。兵藤一誠の耐術式ミスリル合金、通称AM(アーマード・ミスリル)合金を用いてね』

 

 AM合金!? バカ抜かせ!! いくらデータがあるからって、あれを錬成出来る錬金術士が俺と神さん以外にいたってのかよ!!

 

『魔力や魔法、光の力、そして妖術と言った異能力に対し、強い耐久性を備えたこの合金を、バイオゾイドの流体金属装甲ヘル・アーマーと融合させた。おかげでそういった能力頼みであれば上級クラスの天使や悪魔も十分に相手をできる程に強化出来たよ。――これならば、冥界に攻め込む戦力としては十分だろう』

 

 なっ……。

 

「冥界に……悪魔や堕天使に戦争を仕掛ける気!? なぜそんな真似を!」

『何故だって? ……うーむ、そうだなぁ。細かい理由は色々とあるが、単刀直入に言うなら……』

 

 部長が声を荒らげても、GTロボはあくまで余裕ぶった態度を崩さず、顎を抱える様にとぼけた態度をとる。そして、趣味でも語る様に気楽に告げた。

 

『――楽しみたいからさ』

Maximum(マキシマム) Drive(ドライブ)!』

 

 ドギャァァァンッ!

 

 ドォン!

 

 瞬間、我慢が弾けた俺は、神器を出してGTロボを全力で殴り飛ばした。壁に激突しつつも平然と着地したGTロボは、やれやれと肩をすくめる。

 

 臭い、殴った感触、電磁波等の情報から判断して、オリハル貝とミスリル、そしてチタン配合の特殊合金に、対錬金術の魔法まで施されてやがる。更にこいつにもAM合金を加えてる上に、今の攻撃に咄嗟に受け身をとる辺り、オペレーターはかなりの実力者だ。正直、部長達の手には余る。

 

 だが、肉弾派の俺やサイラオーグさんならそう危険な相手でもない。ここは俺が片付けるか。

 

 そう思い、一歩踏み出した瞬間、正面からの強烈な殺気に反射的に写輪眼を発動させるが……その視界に映ったのは、想像だに出来ない女の顔だった。

 

 牙の様な歯を剥きだしにした狂気の笑みでさえ蠱惑的な魅力を醸し出す端整な顔、その瞳の奥では喜怒哀楽が縦横無尽に入り乱れ、青黒い長髪を振り乱しながら堰を切ったように俺の名前を叫んだ。

 

「イッセェェェェェェェェッ♥!!!」

 

 ドズン!!

 

「か……ハッ!?」

 

 巨大な刃と化した尾が反応できない速度で突き入れられ、腹に熱が生じる。痛みを知覚するよりも早く、ライリが刃へ蹴りを入れると同時に俺を後ろへ投げ飛ばし、木場と子猫ちゃんに受け止められる。

 

 二人に左右からそれぞれ肩を貸して貰いながら座り込むと、駆け寄ったアーシアに聖母の微笑みで治療を施される。緑色の光が傷口を癒す最中、俺はライリと超高速の殺し合いを始めた女悪魔へ視線を移す。

 

 悪魔は尾だけでなく翼や爪も刃と化し、ライリは手刀や拳でそれらを打ち払う。ほんの十数秒の中で数十手の攻防を繰り広げ、ライリの蹴りと女の尾の一撃がまともにぶつかり合い、同時に大きく吹っ飛ばされる。

 

 既に赤いタキシード姿となったライリが俺たちを庇うように前に戻り、構えを取ると、黒いコートを身に纏ったあの女は狂ったように奇声を上げ始めた。

 

「グぅおアアアアアアァァァァァ、ァ、アハハハハハハハハハハハ……アハ♪ ギャハハハハハハハハハハ!! イッセーだぁ! イッセーイッセーイッセーイッセーイッセぇ!! 本当によくも――あの時はよくもやってくれやがったな、ぇえ!? お陰で俺達ぁこんな有様なんスよぉ? ……いつまでこんな事やってんだか。もぉタルいったらないんだよぉ? いい加減休ませてはくれんかのぉ。本当、アンタ等の都合に引きずられる身にもなってみなさいよ。しつっこいわね。―――。何言ってやがんだ! こいつをズタズタに引き裂くまで、地獄になんざ堕ちてられっかっての!! さあイッセー! 今度こそ! 全力で! 私を殺し(愛し)尽くして!!」

 

 複数の口調、声色、感情を矢継ぎ早に表に出しながらも、最終的には間違いなくあいつ自身の言葉を向けてきた。

 

 ……何がどうなったのか大体の想像はつくが、こいつだけは死んでなかったんだな。あの場で唯一『残骸』が見つからなかったから、もしかしたらとは思ってたが。

 

 傷がふさがった俺は、ゆっくりと立ち上がりながら視線の先で狂う女の名前を呼んだ。

 

「やっぱり生きてたんだな……マラコーダ」

 

 一瞬の沈黙の後、部長が口を開いた。

 

「そんな……彼女が……あの、マレブランケのマラコーダ?」

「間違いない。かつてグルメ界で他の十一人を引き連れて、イッセーと俺、そしてデュリオと刃狗に襲いかかってきた、マレブランケのリーダーだ」

 

 サイラオーグさんの暴露に、皆が言葉もなく慄いている。

 

 西洋地獄の第八圏、マーレボルジェにおいて、死者を罰すると言い伝えられる十二人の悪魔、マレブランケ。旧魔王に並ぶ原初の悪魔、聖書の始まりからこの世にある者。中でもあいつは(わざわ)いの尾と呼ばれたマレブランケのリーダーだ。

 

 サイラオーグさんは俺達の前に立ちつつ、背中越しに言った。

 

「殿を務めて俺達を逃したイッセーが平然と戻ってきたので、全員滅したとばかり思っていたが、生き残りがいたのか」

「みたいです……。俺も確信は持てなかったですけど、まさか本当に生きてるとは」

「あぁん? なんだよテメェ。何いい子ちゃんぶって人の皮かぶってんだ。とっとと本性だせよ? 

マレブランケ(俺達)をたった一人で塵みてえに蹴散らした、あの時のテメェをよぉ!?」

 

 このしゃべり方はバルバリッチャか? それともルビカンテか、スカルミリオーネ? まあ今更どうでもいいが、間借りしてる分際で何を偉そうにぬかしてやがる。

 

「そっちこそ、未練がましくマラコーダの身体に収まってないで、とっとと成仏したらどうだ。番外の悪魔(エキストラ・デーモン)ともあろう者が、亡霊の真似なんざしてて情けなくないのか」

「まったくじゃ。もう諦めてよぉ。マラコーダの好きにさせればいいじゃない。うるせえってんだ!! マラコーダがどうだろうが、どうせ契約には逆らえねえんだ。マレブランケ(俺達)の内で最後まで生き残った奴が他の連中を身体に収めて、基本は自由。気に入らねえ事は多数決で決める! だから、俺らはマレブランケとしてコイツをぶっ殺す!! このマラコーダの身体と、俺ら十二人分の魔力でなぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 そう言い放った途端、マラコーダの身体からドス黒いオーラが立ち上る!

 なんて魔力だ……俺が今まで出会ってきた悪魔の中でも間違いなく最強だ!! 最上級悪魔のセラどころか、下手すりゃサーゼクス様さえも上回ってる!

 

 ……他の十一人が死んだ時点で、魂と魔力を自動的に最後の一人へ集結させる契約、か。何とも面倒な真似しやがる。

 

「確かに、少し厄介だね。しょうがない……出来れば、イッセーの前で本気は出したくないんだけどなぁ」

 

 莫大な魔力を身にまとうマラコーダに対し、ライリは若干の余裕すら滲ませた態度でそう宣った。

 

 ……ライリの全力か。俺と出会ってからも何度か出したって話は聞いたけど、ライリは何故か俺にそれを見られるのを酷く嫌っている。まさか弱みを握られるとでも思ってるんだろうか?

 

「四の五の言ってんじゃあねえぞ、吸血鬼!! たかがでかい蚊が俺達に傷ひとつでも付けられるってんならやってみろ!」

「……やれやれ。挑発にしてももうちょっと何とかできないかなぁ。せめて大物っぽい奴との戦いで晒したいんだけど」

 

 そう言って、ライリの瞳が更に輝きを増し、赤から紅へと変色していく。紅い輝きが周囲を照らしだすに連れて、ライリの力がどんどん引き上がっていくのがよく理解できる。

 

 殺気だけで、首を直接掴まれていると錯覚しそうな程の息苦しさが感じられ、ライリを中心に空気が渦を巻くのが見える。

 

 ――なんだ、この電磁波!? 真っ白な神々しさと、真っ黒な禍々しさが入り乱れ混じり合った紅は、見てるだけで死を予感させられるほどの威圧感を与えてくる。

 冗談抜きで神クラスじゃねえか!! これがライリの本気だってのか?

 

「――全ての欲を満たした果てに、自らをも滅ぼした鬼神(おにがみ)の力、冥土の土産に拝んでいけ」

 

 そう言って、ライリの紅い眼が真の輝きを放つ……その時だった。

 

 ライリの周囲を身の毛もよだつ邪気を帯びた火、水、土、風が悍ましい不和を生みつつ輪となり、そこへマラコーダが再び両手と尾を刃と化して飛び込み、ライリがそれを受け止める。すると邪気は更に蠢き、東洋系の術式を描きながら二人をドーム状に包み込んでいく。

 

「ライリ!!」

 

 咄嗟に飛び出ようとした俺を、オルトの背中が遮る。

 

「何してんだオルト! 早くライリを……」

「先ほどスキャンした所、この空間には大量の火器や魔法トラップが配備されています! グレモリー眷属の皆さんではうかつに動くのは危険です! 同時に私がここを離れて、皆さんを危険に晒すわけには参りません!!」

 

 オルトの説明を受けつつ、ライリを包む術式に目を凝らす。あれは転送の術! ライリと俺達を引き離すつもりか!?

 

「テメェ、まさか!!」

「グアアアアア、ギャハハハハハハ! 引っかかったっすねぇ! たかが死や拷問程度で、俺らの怨みが晴れるわけがねえだろうが! あの化け物野郎にはとびっきりの絶望を味あわせてやる!! その為にこんな面倒くさい連中と手を組んだんだ! それまで俺達が精々遊んでやるぜ!! 」

「クソがァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 怒りの咆哮を上げ、ライリは吸血鬼の圧倒的な再生力を盾にマラコーダの猛攻すら無視して術式を壊そうと暴れ尽くす。そんなライリをあざ笑うかの如く、完成したドーム状の術式が禍々しい輝きを放ちながら発動されようとする。

 

 するとライリは意識を術式からマラコーダへと移し、激烈な攻防を繰り広げながら大声で叫ぶ。

 

「オルト!! 私が戻るまでそいつらを守れ!! いいな!?」

「了解しました!」

「それとイッセー! 絶対死ぬな! むしろ……ぶっ殺せ!!」

「おう!!」

 

 ヴォン!!

 

 術式が発動し、二人の姿が消える。途端、再び邪気を纏った火、水、岩石、風が降り注ぎ、今度は弾丸となって俺達を襲う。

 

「ぬん!」

 

 ボッ!

 

 すかさずサイラオーグさんが前に出て、闘気を纏った一撃でその全てを薙ぎ払う。久しぶりに目の当たりにする親友の力を賞賛する間もなく、四つの影が天井から手早く、しかし落ち着き払った様子で降りてくる。

 

 いずれも中華風の服装に身をつつんだ、男女二人ずつの妖怪だ。

 

 男の方は青い翼と烏天狗に似た姿、もう一人は三メートル程の巨体の全身を筋肉の鎧で覆われている。女は朱色の鱗に覆われた蛇の下半身と同じ色合いの長髪を備えた美女に、袖なし服の脇の下から紫色の翼を生やした一見無邪気な美少女。

 

 こいつらは、まさか……

 

 最初に声を上げたのは、烏天狗風の男だった。

 

「一応初めまして、と。俺は驩兜(かんとう)。面倒臭いんでとっとと死んでくれるとありがたいねえ」

「何を馬鹿言ってるの、驩兜。あ、私は共工(きょうこう)。趣味は嬲り殺しなの。だからできるだけ抵抗して、苦しみぬいてから死んでちょうだいね」

「……(こん)。死ね」

「きゃはは!! 三苗(さんびょう)だよぉー! ねえねえ、挨拶済んだんだから早く始めようよ。さっさと悪魔の悲鳴聞きたーい。皆も泣き喚いて死んでねー」

 

 ……出会い頭に死ね死ね好き勝手言ってくれるじゃねえか。このクソ妖怪共が。

 

「四罪……四凶の使いっ走りが、今更俺になんの用だ」

「そりゃあもちろん、闘戦勝仏と一緒になってお歴々を封印してくれたお前さんへのお礼参りさ」

 

 やっぱりそれか……。初代が四凶の配下を探してた筈だってのに、それを掻い潜ったのか? 流石に歴史のある妖怪は伊達じゃないってか。

 

「……四凶を封印? イッセー。どういう事なの?」

 

 強張りつつも質問を飛ばす部長の声に、俺は構えをとりつつ返答する。

 

「……皆も少しは耳にした事があると思いますけど、四凶は世界中の妖怪の中でも、神に匹敵する力とイカレきった性格から特に危険視されてる大妖怪です。そんな連中が一年と少し前、妖怪の軍勢を率いて気まぐれで人間界を滅ぼそうとしました」

「き、気まぐれで!?」

「ええ、あいつら自身がそう言ってました。それで俺は闘戦勝仏……初代孫悟空と組んで、四凶の元に集まった妖怪共を壊滅させて、連中を封印したんです」

 

 残党は念入りに潰しておくと言ってたけど、やっぱりそう簡単にもいかなかったみたいだな。

 

「闘戦勝仏の目を掻い潜るのは苦労したわ。特に、私達にみたいに少しは名の売れてる妖怪はね。そこをこのお人達に誘われて、あんたへの復讐がてらご協力ってわけさね」

「ついでに悪魔や堕天使も好き勝手殺せるしねー、きゃはっ!」

 

 共工が経緯を語り、三苗が血生臭い想像を楽しげに笑う。四凶に劣らず、ろくでもない連中だ。

 

 そこへ、GTロボがゆっくりと近づきながら、得意げな語りを再開した。

 

『私の協力者は概ねこんな所だが……兵藤一誠。君は、悪魔になってから疑問に思わなったかい? ――なぜ、君が堕天使に殺されたのか』

 

 !

 

『ゴメンね。あなたが私達にとって危険因子だったから、早めに始末させてもらったわ』

 

 脳裏に再生される、夕麻ちゃんの声。それが合図となって、思考が撹拌されたように乱れていく。それでも、奴の話は終わらない。

 

『君は三大勢力と公的に関わった事こそないが、通なところではかなり知られている。君に手を出す事がまずいなど、上層部であれば当然の如く分かっている筈だ。ならば、レイナーレはどうして君を殺そうとなどしたのかね? そもそも、弱体化してからの君は師匠達に人知れず守られていたにも関わらず、何故あの公園で都合よくそれが無かったのか? それに……彼女の様な一介の中級堕天使が、どうやって教会から追放されたばかりの聖女の情報など、都合よく仕入れられたのだと思う?』

 

 ……なにが、言いたい。

 

 吐き出そうとする言葉を、胸の内の痛みが押さえつける。そんな俺を面白がるように、GTロボはタネ明かしをする。

 

『答えは、私の仕業さ。彼女にアーシア・アルジェントの神器の情報を提供するのと引き換えに、君を殺させたんだ。ああ、勘違いしないでほしいが、私はそれ以上の干渉はしていない。人間のふりをして君と付き合ったのは彼女の趣味だよ。

 私はただ、君が死んでから蘇生されるまでに一瞬の意識の空白をつくれればそれで良かったんだが、そこへリアス・グレモリーが来てしまったお陰で当初の目論見が頓挫してしまってね。こんな大掛かりな真似をする事になったという事さ』

 

 心が震える。痛みが刻まれる。それを餌にソウル・キャリバーが暴れようと蠢き、その柄を魂の手が握り、大人しくさせる。

 

『ははは、さすがだね。ソウルキャリバーだけではやはり駄目か。だからこそ、私もそれなりの手段を用意してある。――渡してもらおうか、君が持つ賢者の石を』

 

 そう言うと、GTロボは左手で右腕を抑えるように握ると、全身から底知れないオーラを放出し始めた。

 

 全身の装甲が黒く染め上がり、赤色に鈍くはっきりと光る目で俺を見定めながら、地の底から響くような声を上げる。

 

『――ハカイトサツリク。――スベテヲ――コワシテコロシテホロボシツクス!!』

 

 ドンッ!

 

 弾丸のように突っ込んでくるロボをサイラオーグさんが迎え撃とうとするが、すかさず四罪がサイラオーグさんへと襲いかかり、その動きを止めにかかる。

 

 思考を巡らせる間にも、敵は止まってなどくれない。間近に迫るロボに対し、透き通るような水色のオーラを纏ったオルトが俺達の前に立つ。そして……。

 

神砕く牙(クニュア・タリング・テュハン)!!」

 

 ズギャァァァン!!

 

 多分、部長達からすれば、何をしたのかさえ分からないであろう速度で全身を右に捻ったオルトは、全身のバネから生み出される壮絶な力を持って右拳を突き出し、GTロボを粉砕した。

 

 鍛え上げた全身のバネを用いていかなる体勢、状況でも全力の一撃を繰り出す、シラットの至高の一つ。かつて俺から学び取った秘伝の奥義は、あっけない程容易く超科学の産物をただの鉄くずへとたたき落とした。

 

 バラバラになったGTロボの目の光が消え、オルトが姿勢を正した次の瞬間。

 

 ドズ。

 

「イッセーさん!?」

 

 アーシアの悲鳴じみた叫びの直後、胸に走る痛みに下を見下ろせば、俺の血に彩られたGTロボの腕が背中から突き出されていた。よろけそうになる足に力を入れると、金属音とともに気配が背後から下がる。

 

 ガギン!

 

 振り向いてみれば、右腕を切り離したGTロボが悠然と佇んでいた。

 

 まさか……さっきのは囮の機体!? もう一機いたのか!? けど、オルトのセンサーでも気づけないだなんて……。

 

 GTロボを強く睨む俺の視界に、その背後から女が映り込んだ。おかっぱ頭の黒髪に、隆起に富んだ肢体を紫色のドレスで着飾った中々の美女だ。けど……こいつもイカレた電磁波してやがる。しかも、なんて臭い……。

 

 成分的ではなく、あくまで感覚的なもので、俺はこの女が酷く臭って仕方ない。まるで、魂だけが腐り果ててるような……。

 

 そんな俺の心情を知ってか知らずか、女は小馬鹿にするような笑みを浮かべている。

 

「挨拶が遅れたわね。私はダンテ。魔法使いの錬金術士よ。今のは、私の特技の隠蔽の魔法。つまらない小技だけど、やり方しだいではこうも状況をひっくり返せるの。覚えておいて損は無いわよ? 坊や」

「ああ、そうかい。勉強させてもらったよ、妖怪腐れババア」

 

 ……思い出してきた。この手の臭いをさせる輩は……大体、人の物をとって喜ぶんだったな!!

 

「テメェ……その身体は一体どうした?」

 

 俺の問いかけに一瞬、表情を弛緩させると、興味深そうに笑った。

 

「へぇぇ。気づいたの? 思ってたよりも鋭いのね。けど、心配はご無用よ。この身体の元の持ち主も、今では私と完全に一つになっているもの。むしろ……あなたこそ、それ、大丈夫なの?」

 

 ズゥゥゥゥ……。

 

 指摘された瞬間、俺の胸に突き刺さっていたGTロボの腕が、溶けこむように俺の身体と一つになり、傷口も残さず融合した。

 

 ドグンッッ!!! ドグンッッ!!! ドグンッッッ!!!!!

 

 途端、脳内に吹き荒れる邪気の嵐。それに反応してソウルキャリバーが目覚め、強烈な霊気を発して対抗する。

 

 この……ソウルエッジを、腕に、変形さ、せ……。

 

 しかも……それだけじゃない……。まだ、居る!

 

 ――なんだ、お前は。

 

『我は……消滅。力そのもの。我こそがお前。そして、全てを無に……』

『受け入れろ、この力を……』

『受け入れろ、この刃を……』

『さあ』

『さあ』

『さあ』

 

 ……ああ、もう。本当に……。

 

「………………ザッッッッッケンじゃあねえぞクソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

『!?』

 

 消滅の力!? 邪剣!? 霊剣!? だから何だ! 人の身体にゴキブリみてえに上がり込んできやがって、何様のつもりだ!! そっちの事情なんざ全部、総じて、一切合切、俺の知ったことじゃねえぇぇぇ!

 

 俺の身体は俺の物だ! 間借りすんなら礼儀を覚えろ! たかが居候の分際で、俺を好きに出来ると思うな!

 

『な、ぁ……』

『なんと……言う……』

『う、け……』

 

 うるせぇ! 相手なんざ後で幾らでもやってやらぁ!! 今は大人しく……寝てやがれ!

 

 ドンッ!!!

 

 ――握った拳をドラミングのように胸に叩きつけ、全ての衝動をねじ伏せる。

 

 そうして自分自身の色を保った目で睨みつけると、女はさっきまでの憮然とした様子を一変させて、戦慄していた。

 

「まさか……あのソウルキャリバーとソウルエッジ、それにあの消滅の力を、意志だけでねじ伏せたというの!? 一体どんな精神力を持っていれば、そんな非常識な真似が……!?」

「生憎……無茶と無謀には慣れちまっててな。これぐらいで一々どうにかなってたら、とうの昔にくたばってるのさ」

 

 そう言って、GTロボと女へと一歩踏みだそうとした、その時。

 

 トクン。

 

 ……それは、理解できないものだった。さっきまで騒ぎ立てていた3つに比べれば、取るに足らない様に思える、小さななにか。それが……一気に心をかき乱し、恐ろしい不協和音を奏で始めた。

 

(無視も無視、そんなに俺が怖いかよ)

 

 ――ア。

 

(無理もねえ、なんて言うつもりはねえぞ。甘ったれんのもいい加減にしろっての)

 

 ――ア、ア。

 

(責任って言葉を、一回辞書で引き直せよ。もうガキじゃねえんだ)

 

 ――アッアッアッ。

 

(……今更逃さねえぜ。なあ、俺よ)

 

 プ、ツッ。

 

「あ……」

「? イッセ……」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!???????????」

 

 ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロチガウチガウチガウチガウチガウチガウムリダムリダムリダムリダムリダダメダダメダダメダダメダダメダ!!!

 

『逃ゲルナ。向キ会エ。コレガ、闇ダ』

 

 ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ!!! ダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレ!!!

 

 オレハ、俺俺俺俺俺々俺々俺々俺俺俺ハ――。

 

『オマハハ――強イ』

 

 ―――――――――

 

「俺は……弱い。

 弱い弱い弱い弱い弱い弱い。

 弱いぃぃぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

 

 

 ここへ来てから、想像だにできない事がいくつも起こった。

 

 ゾイド。マレブランケ。四罪。四凶。

 

 その全てがイッセー君に関係していて、この一日もない期間で、僕らはいかに自分達がイッセー君に対して無知だったのかを幾度と無く思い知らされていた。けど、これは……なんだ?

 

 アレほどの力を当たり前のように収めてしまったイッセー君が、部長に声を掛けられた途端、突如錯乱したように叫びだし、そして……。

 

「俺は……弱い。

 弱い弱い弱い弱い弱い弱い。

 弱いぃぃぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!

 

 絶叫するイッセー君の胸部。重龍皇の胸甲(ローディング・ギア)の宝玉が、今までに無いほどまばゆく、けれど危うい輝きを放っている。そして……

 

Grave(グレイブ) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!!!!!』

 

 力が、解き放たれた。

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