音声と同時に、胸甲から展開する黒い装甲がイッセー君の全身を覆ってゆき、遂には左腕の
そこから放たれる殺気はアスカムラインさんや日青さんすら超えて、最早僕らには未知としか評せないほどの絶大なものと化している。
その身から放たれる重圧もまた別格。僕の師匠や、時折出会うことのあるサーゼクス様の眷属の方々――最上級悪魔と肩を並べる域だ。
更に、この場にいる全員の身体から力が奪われ、黒い光となってイッセー君へと注がれていく。これが、重龍皇の禁手化……今のところは少し吸収量が増しただけに思えるけど、禁手となった能力は確実にこんなものではない。そんな僕を尻目に、イッセー君はマスク越しに天井を仰ぎ、再び叫び声を上げた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
爆弾のような咆哮が空間そのものを震わせ、床や天井に建物のあちこちに亀裂が走る。その風圧と衝撃にふっとばされた僕らを、オルトさんが一人残らず抱えて、一箇所へと集めてくれた。
やがて、叫び声を止めたイッセー君が左腕を振ると、宝玉が呆気無く放り出された。
すかさず動き出したGTロボがそれをキャッチし、ダンテと名乗った女性の傍まで移動すると、自らの手の中で淡く光る宝玉をじっと見つめた。
「素晴らしい。これこそ、本当の意味で賢者の石を名乗るに相応しい物質だ。こんなものを幾つも生み出せるというのに、才能が無いと言うのは逆に恐ろしいよ。……諸君、目的の一つは果たした。次のステージで待つとしよう」
「ええ、それじゃあ行きましょう」
ダンテが右手を上げ、魔方陣を展開すると、彼ら二人と、サイラオーグ氏と争う四罪が光に包まれだした。
「やれやれ、やっとかい」
「血を見るだけでこんなに待たされるだなんて、嫌な時代になったものね。まあ、その分期待も大きくなったと考えようかしら」
「……」
「みーっなごっろしー♪ みなごろしー♪ うっれしいなったらうっれしいなー♪ きゃは!」
四者それぞれ、独特の反応をみせるが、その顔は背筋が凍る程恐ろしい期待に染まっていた。彼らは……これから起こるであろう惨劇を、心の底から待ち望んでいる!
イッセー君……君は、こんな存在を従えるような怪物を封印したっていうのか。
戦慄する僕らの前に、サイラオーグ氏が舞い戻る。その顔は普段の気さくさを微塵も感じさせない程に引き締められ、紫色の瞳に強い憤怒を湛えていた。
「貴様……イッセーに何をした!?」
「厄介事を押し付けた、とでも言っておこうか。しかし、あれらをあっさりと制御したのにも驚かされたが、更に原因不明の暴走とは、つくづく想像を絶するね、兵藤一誠とは。あらゆる強者が彼を気に入るのも理解できる」
原因不明? イッセー君は、彼らに何かをされてああなったわけじゃないのか?
でも、確かに……さっき、イッセー君は一時的に、あの凄まじい力の奔流を抑えてみせた。そしてその直後に、更に絶大な力を発揮して……
僕は同志達との一時の再会、彼らから与えられた力と想いを糧にあの領域へ至った。それと同じかは分からないけれど、僕にとってのそれに等しい何かが、あの時のイッセー君には起こったんだ。だからこその、あの姿……。
光すら飲み込むような漆黒の鎧は、以前見た赤龍帝の鎧とは見た目的にも違いが大きい。全体的に厳つく、重厚かつ鋭角的なそのシルエットは、悪魔とも天使とも堕天使とも龍とも取れそうな不可思議な印象を与えてくるが、いずれにしても威厳と迫力に満ち満ちている。
その外見にまったく違わない威圧感は、視界にいれるだけでも圧し潰されそうだ。薄っすらと漂う殺気は重力と混ざり合って、自然とこちらの膝を折ろうと働きかけてくる。
――もしもだ。もし仮に、あれがイッセー君であると知らなければ、僕は発作的にあれに斬りかかっていただろう。
それは断じて容易く見るからじゃあない。これは一種の忌避感であり、危機感。野球の観戦客が、ネットがあるのに自分の方へ飛んできたファールボールを避けようと動いてしまうのに近い。理性を超えた反射。
暴力的に増大した防衛本能が、殺される前に殺せと必死で警報を鳴らしている。
詰まる所……僕は、『アレ』が怖くて仕方ない。最早、逃走など意味が無いと直感的に思い知らされる。通常、遥かに力量が上の敵に対して自分から仕掛けるなど自殺以外の何でもないというのに、それが最も生存確率が高い道だと思えてしまう。
いっその事、狂ってしまえばどれほど楽になれる事か。
無作為にばら撒かれる殺気ですらこれだ。もし僕一人に向けて、あの殺気が集中した時には……本当に狂ってしまうかもしれない。
想像だけで内蔵全てが握りつぶされそうなプレッシャーの中、GTロボ達を包む転移魔法陣が一層輝きを増す。
『ああ、それと君らにとっては朗報だが……そろそろ援軍が来るようだよ。では、また後で』
それだけを言い残して……六人の影が、跡形も無く消え去った。
残されたのは、サイラオーグ氏とオルトさん。そして……イッセー君を含めた、僕らグレモリー眷属。
だけど、イッセー君はまったく正気を取り戻す気配さえない。ただ、獣の様に唸り声を上げながら、殺気を段々と増すだけだ。
一体、どうすれば……。
「イッセー……」
部長が、悲しげな声をもらした、その時だった。
唸り声を止めたイッセー君が部長の方を向き、絞りだすような声でつぶやいた。
「ぶ……ちょ…………お……?」
もしかすると……部長の声で、自分を取り戻したのか?
「ぶちょ…お……部長……」
良かった。そう、誰もが安堵した瞬間だっただろう。
だけどその一瞬後、僕らはあまりにも楽観的だったことを、他ならぬイッセー君によって思い知らされた。
「部長……リアスッ――リアス・グレモリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」
濃密かつ明白な殺気と、燃えるような怒りを含んで放射された音が再びドームを破壊する最中、イッセー君の腕から放たれたフォークが、一直線に部長へと迫る。誰も間に合わないと思ったその瞬間、その前に立ったオルトさんがフォークを手刀で弾く。主が無事だった事に安堵する事さえ出来ず、僕らは予想もつかなかった現実に打ちのめされていた。
――イッセー君が、部長を殺そうとした。
ありえる筈が無いと否定しても、目の前で起こった事実は変えられない。それを肯定するかのように……イッセーくんは烈火の如き怒りと殺意を、部長に対して刃の如く向けている。その事に誰よりもショックを受けているのは、他ならぬ部長だろう。
あらゆる感情が抜け落ちた無表情で、リアス部長は腰を抜かして座り込んでいる。
息つく間も無く、イッセー君は全身に凶悪なまでのオーラを纏い、同時に鎧の宝玉から音声が響いた。
『LordLordLordLordLordLordLordLordLordLordLordLordLordLord!』
ゴギュオオオオオオオオオ!!
途端、全身の力が猛烈な勢いで失われ、崩れかけた膝をギリギリで踏ん張らせる。その間にも力はどんどん奪われ、アーシアさんに至っては既に顔が青白い。
ここまで一気に吸収力を跳ね上げるだなんて……このままじゃ生命力まで奪われるのにそう時間はかからない!
「させません!」
そう言ったオルトさんが全員の中心となれる位置へと移動し、両手を前にかざすと、青い光の壁が球状となって全員を覆った。すると、さっきまでの脱力感が消え、どうにか身体が動かせるようになった。
「このバリアは、神器の能力を遮断できます。この中なら、力を奪われる事は無い筈です」
神器を……それも神滅具級の能力を遮断するだなんて。やはり彼女もまた、僕らが到底及ばない次元の存在なのか。
感傷に浸る間もなく、サイラオーグ氏がイッセー君の方へと向き直し、ゆっくりと歩を進めた。
「オルト……ライリ殿も言っていたが、皆を頼むぞ」
「わかっています。サイラオーグ様もご武運を」
「ふっ、心配はいらん。イッセーに何度も殺されかけたのは伊達じゃあない。……絶対に死にはしないさ。俺も、あいつもな」
そう言って、バリアの外へ出たサイラオーグ氏は、イッセー君に負けない程のオーラを纏って、構えをとった。これは……イッセー君と同じ覇気? だけど、僅かばかりの違いが感じられる。しかも、さっきより勢いは減ったとは言え、イッセー君に力を奪われてもまったく消耗した様子はない。僕らとは比較にならない体力だ。
魔力を得意としない身ながらも、若手悪魔の中でも最強とうたわれるサイラオーグ・バアル。やはり、その実力は計り知れないか。
「ヴヴヴゥッ……」
「イッセー……お前と殴りあうのは、実に久々だな。こんな形だが、血が滾って仕方ないのは武術家の性というやつかな。……行くぞ、兄弟子!!」
唸るイッセー君に、感無量と言った風体で相対する。そして、二人の姿が一瞬視界から消し飛び……。
ドゴォッッ!
気がついた瞬間には、イッセー君の飛び膝蹴りがサイラオーグ氏の顔面を捉え、同時に後頭部に両肘を叩きつけていた。イッセー君が離れた直後、サイラオーグ氏は口から血の混じった唾を吐くと、ニッと笑って見せる。
「相変わらず、容赦がないな。だが、それでこそだ!!」
そう言って正面から渾身の右ストレートを放つが、顔面を捉えたかに思えた一撃はそのまま兜をすり抜けた。
残像!? あんなはっきりと見える上に、気配まで……最早分身じゃないか! しかも、なんて早さ……僕どころか、瞬発的な速度ならあの時の白龍皇に迫るものがある!
本物のイッセー君はその拳を右手で掴みながら、突きの勢いに乗る形で身体を飛び上がらせ、左足で氏の側頭部に蹴りを叩き込んだ。更に左手で空を掴むと、そのまま左手を起点に自分の身体を上へ持ち上げ、鉄棒の前転の様な動きで踵をサイラオーグ氏の頭上へと叩き落とすが、ギリギリで氏は身体を後ろへひいてかわした。あれは、覇気による足場を作る能力の応用?
それ以降も、サイラオーグ氏は果敢に攻め続けるが、イッセー君はその尽くをいなし、躱しながら所々で強烈な一撃を叩き込んでいく。僕であれば既に数回は死んでいるだろう攻防を、彼は完全に制しきっていた。
……達人。本来の意味合いはともかく、武人の間では武術家としての階級の一つと認識されている。弟子、妙手の二つの上に位置する、おおまかな階級での最上級だ。
武に非凡な才覚を持った者が無限とも思える努力の果てに到達する域であり、その中でも僕のお師匠様は、特A級と呼ばれる頂点に近い剣の達人。並みの達人が幾らかかっても敵う者ではない。
自惚れる訳ではないけれど、僕はその師匠に達人になれる可能性が高いと言われた身であり、師匠について多くの達人を見てきた。ゆえに、サイラオーグ氏の力量が達人の域に届いているということも理解できる。
……自分の眼力が絶対かと言われれば、即座にうんとは頷けない。だけど、僕も武を見る力は相応に養ってきたつもりだ。
だからこそ、今は信じられない気持ちでいっぱいになっている。
これは……今、目の前でサイラオーグ氏を圧倒しているイッセー君は……。
――純粋な武の力量においては、確実にお師匠様を超えている!! それどころか、今まで見てきたあらゆる達人をも!
一つ一つの動作が極めてスムーズで無駄がなく、筋一本、どころか細胞の一片まで完全に制御下においていると言われても頷ける。
必要な所で必要な力だけを込めたつつ、臨機応変に扱われる技は完璧の一言で全てを表し、その豪腕で並み居る上級悪魔をなぎ倒す氏の力を難なく抑えている。
こと攻撃においては、最早理想の極地。最大限の威力を発揮する様に繰り出される一撃一撃が、確実に相手を仕留めるという強い覚悟と決意が籠められている。
何より、あんな激しい怒りに支配され、正気を失った状態だというのに、動きにも技にも一切のブレが見られない。意識がなくとも戦い続けるというのは武術家では割とよくあることだけれど、一体どれほどの鍛錬を積めば、あそこまで本能に武を刻み込むことが出来るというのか。
もし目の前に立ったのが僕であれば、恐らく一瞬で殺されている。いや、死んだことにさえ気づかない間にやられるかもしれない。心技体、その全てを限界以上に高め、武における一つの究極とすら言える姿は、正真正銘真の達人としか表せない。
しかも……僕が分かる限り、イッセー君が普段から使っていた機神拳、覇皇拳と除けば、空手に柔術それに中国拳法。さっきの肘と膝を使った技はムエタイだろうか。それ以外にも十以上の武術が混在しつつも結集し、活かされている!
アクロバティックな激しい動きで相手を翻弄したかと思えば、質実剛健を絵に描いたような真っ直ぐな戦いを仕掛ける。まるでスイッチが切り替わるかの如く、あらゆる動きが目まぐるしく行われ、確実に相手を追い詰めていく。全ての武術を完全に修めているからこその芸当だろう。
彼の師匠が封印を施し、能力を封じた理由がよくわかった。こんなものを常人の肉体で反射的に行えば、どういう結果になるのかは火を見るより明らかだ。
……正直に白状すると、僕はイッセー君の事を、内心侮っていた。見下していたと言っても過言じゃない。
無論、彼の精神力が特筆に値するものだという事は理解しているし、覇気や暗黒魔闘術を始めとした戦闘技術を物にする努力は素晴らしいと考えていた。
……だけど、僕はイッセー君が技術において自分を上回ることはないだろうと決めつけていた。何故なら、彼に武術の才能はない。それどころか、凡そ戦いに関する才能には断じて恵まれているとはいえなかった。だから努力で補うというのはわかるが、それでも限界はあるだろうと思っていた。
赤龍帝の篭手を使いこなす事でパワーを高め、そのまま突き進むのだろう……テクニックにおいては、どうあろうが自分が絶対に勝ると自負していたんだ。
けれど、そんな自信と才能に任せた妄想を粉々にぶち壊す現実が、目の前に叩きつけられている。
今の僕のテクニックでは一蹴されるであろう、パワータイプの極致とも言えるサイラオーグ氏が、イッセー君には手も足も出ずに圧されている。それでも何度かクリーンヒットを当てている点では流石……とは言えない。
なぜなら、それらは全てイッセー君が覚悟を持って受けにいった攻撃であり、鎧とオーラに阻まれた一撃の威力が、同時に受けるカウンターのダメージに釣り合うとはとても思えない。いいや、そもそも僕の見当違いでなければ、両者の間にはそんな真似をせずとも勝てるだけの実力差がある。
今持ちこたえられているのは、並外れた頑強さを誇るサイラオーグ氏だという点と……。
ギンッ!!
――ッ!
熱風のごとくこちらへ吹きかけられる、この強烈な殺意のおかげだろう。
イッセー君は例え無理に決着を急いででも、部長を殺したがっている。その隙を付く形で、何とか対抗できているんだ。
――イッセー君。これが、君が溜め込んできた
いずれにせよ、格闘技術そのものでは勝ち目がない。氏もそれは重々承知しているだろう。イッセー君の前蹴りを利用する形で後ろへ退くと、全身のオーラを爆発的に増した。
「グアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「八門遁甲、第六景門……開!!」
更に二人がオーラを増大させる中、オルトさんのバリアが床を離れて宙に飛び上がったと同時に、僕らは無重力空間の様に浮きだす。
そして、イッセー君とサイラオーグ氏は、鏡合わせのように同じ技を繰り出した。
「「
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
目にも止まらない程の速度で、何度と無く突き出される拳が無数の衝撃波と炎を生じさせるその光景は、まさに孔雀の羽。常識を遥かに超えた体術が同時にぶつかり合う事で発生した衝撃は、元々限界だったドームを跡形もなく消し飛ばすには十分すぎた。
ドオオオオオオオオオオオオオン!!
拮抗する二人だが、やがてイッセー君の炎が小さくなっていく。
……いや、違う! あれは放射状に広がっていた連打を、一点に集中させているんだ!
そうしてサイラオーグ氏の目の前に出来上がった炎の固まりがやがて火の鳥となり、そこへイッセー君が拳と共に突撃する。火の鳥と一つになったイッセー君は、孔雀の羽を引きながら一直線にサイラオーグ氏へと迫り……その拳を鳩尾に突き刺した。
「――
ドゴオオオオオオオオオンッ!!!
吹っ飛ばされた氏が、工場の機械を巻き込みながら地面に激突する最中、イッセー君は即座に狙いをこちらへと移し、右手を向けた。
「……ラディス」
バァァァァァァン!
聞いたことのない呪文が唱えられたが、僕らの目には何も映らない。しかし、確かに何かの力がバリアにぶつかり、一瞬の衝撃が内部を襲う。……この感覚、どこか部長の破滅の魔力に近しいものを感じる。
「破滅じゃない……もっと恐ろしくて、容赦のない……消滅の力」
呟くような部長の分析に考えを巡らせる間もなく、今一度イッセー君が呪文を放つ。
「スプリフォ」
ボッ!
次の呪文に一瞬だけバリアがかき消されそうになり、即座にオルトさんがバリアを貼り直す。
これは……物質を消す呪文と、力を消す呪文の二通りの消滅の力!? 僕はイッセーくんをみるが、未だに彼は部長へ怒りと殺意を向け続けている。あれはまさか、さっきのソウル・エッジと同時に入れられた力……その力を確かめたと言うのか!?
数ヶ月一緒にいて、僕もイッセー君が基本を何より重視するのはわかっていた。だからこそ、自分の能力を把握しようとするのも理解出来る。だけど、それをあんな状態でも行うだなんて……一体、彼の精神構造はどうなっているんだ!?
僕のそんな疑問をあざ笑うかのごとく、イッセー君は高速で接近すると、新たな呪文を唱える。
「ランズ・ラディス!」
ガギィィィィィン!
目に見える密度で固められた消滅の力が、巨大な白いランスとなって振るわれる。甲高い音を立ててバリアと激突した槍の穂先がせめぎ合うが、イッセー君は即座に槍を消して、更なる呪文を唱える。
「ギール・ランズ・ラディス!!」
ギィンギィンギィンギィン!!
新たに出したピッケルのような形の槍がイッセー君の腕の動きに連動して、連続でバリアに叩きつけられる。凄まじい衝撃が内部を襲うと共に、何度かヒビが入っては修復されるが、旗色が悪い事はオルトさんの顔色からも明らかだった。
「くっ!」
見て分かる程分厚くなったバリアを前に、イッセー君は一端距離を置くと、手のひらをこちらへ向けて……更に絶大な力を解き放った!
「ディオガ・ランズ・ラディス!!!」
ズアアアアアァァァァァッ!
渾身の怒りと憎しみを持って唱えられた呪文と共にロケットのような巨大な槍が発射され、バリアと激しく火花を散らす……直前だった。
「ギオウ・ギコルガ!!」
ギオオオオオオオオオオオォォォォォォォ!!
突如出現した巨大な氷のドラゴンが、横から槍に襲いかかる。しかし、衝突の最中も消滅のエネルギーに削られ、明らかに消耗が早い。そうして氷のドラゴンが消しきれられる前に、槍の前に飛び込んだ誰かが貫手と共に新たな呪文を唱えた。
「ゴライオウ・ディバウレン!!」
ガギャアアアアアアアアン!!
白い虎がドラゴンと槍を同時に粉砕し、消え去った後、バリアがゆっくりと地面へ下りて、先ほどの人影の目の前に着地する。そこへ丁寧ながらもからかいが混じった声が人影とともに飛んできた。どちらも女性だ。
「派手ですねぇ。幾ら久々にイッセーに会えて嬉しいとはいえ、最大呪文を二連発とは。我が主は流石の乙女ぶりで、いやはや」
「やかましいぞ、ジェリー。別に、俺は久々に顔を合わせるというのにタイミング悪く正気を失くしている馬鹿がムカツいただけだ」
「要は、いつもの様に笑顔が見れなくて寂しい、と。やっぱり乙女ですね」
「もう黙れ。そろそろふざけていられなくなるぞ」
……青い長髪。いや、ゼノヴィアよりも濃い色合いは、藍色といった方が正しい。部長の婚約パーティーに乗り込んだ時、イッセー君が来ていたコートとよく似た藍色のコートを身につけているが、背中には赤龍帝じゃない別の紋章が描かれ、その下に虎の漢字をアレンジしたと思わしきマークが入っている。
後から来た方は、黒髪を朱乃さんよりは短いポニーテールで纏めている。白いスーツ姿に白い帽子をかぶっていて、その手にはロボットアニメに出てきそうなデザインの、あまりに巨大過ぎる剣が握られていた。
そして……その身を包む、覇気と魔力。覇気の方はイッセー君やサイラオーグ氏よりは劣るけれど、僕らには十分過ぎる程の力強さが感じられるし、魔力だって部長や朱乃さん以上の量を誇っている。
一体、彼女達は……。
僕らの疑問に答えを呈したのは、ここまで僕らを守っていてくれたアンドロイドの女性だった。
「お元気そうで何よりです。助っ人にいらっしゃっていただき、深く感謝いたします。
!!!
氷美神に、ジェリー。どちらも、時々イッセー君が口走っていた名前だ。ということは、彼女たちが……。
イッセー君の、幼なじみ。
いつの間にか、地上に降りてきたイッセー君を見て、彼女は不遜に吐き捨てる。
「勘違いするな。俺はただ、このスケベを殴りに来ただけだ」
そこで一端切って、一言。
「――さあ、存分にその目に焼き付けろ。強くなった俺をな」
そう言って、彼女は赤龍帝の篭手に似た藍色の神器を右腕に装着し……。
『
強大な力が、再び具現化された。
ようやくだせました、幼馴染二人。
後、現時点では闘気も覇気もない、素のサイラオーグの達人としての位階はそう高くはありません。最下層よりは上だけど、中堅には及ばない、位と考えています。覇気や闘気、更に八門を使えば十分今でも原作以上なんですが、そのサイラオーグを翻弄できるイッセーがイカレてるだけです。