そしてまたまた残虐シーンです。最近多くてすいません。
つい数ヶ月前までの私は、今から考えてみれば余りに空虚でした。
私は、親の顔も知りません。友達だって、普通の孤児だった頃はともかく、聖女と祭り上げられてからはまったくいませんでした。食べ物が美味しいと思ったこともほとんどありませんでしたし、趣味らしい趣味も全然です。
魔女と呼ばれて教会を追放されて、私の神器を狙って近づいてきた堕天使にあっさりついていったのも、信徒以外の生き方が分からなかったからです。そのままであれば、私は唯一自分に残された力を抜き取られて、既に存在しない主への感謝と敬意を抱いたまま死ぬ筈でした。
そんな私の運命を、イッセーさんは打開してくれました。
二回程会っただけの私のために、傷だらけになって堕天使を打ち倒し、部長さんが私を生き返らせるきっかけになってくれました。
学校にも通えて、友達も出来ました。食べることの喜びと有り難さを教えてもらいました。他にも、色んな物を私はイッセーさんからもらいました。
なのに――どうしてあの人は、私に何一つ言ってくれないんでしょうか。
どんなに痛くて辛くても、全てを一人で飲み込んで、背負い込んで、ただ私達には笑ってほしいと笑顔を向ける。
その度に私は、何も出来ない自分が悔しくて、何も話してもらえないことが情けない。
きっと、それを告げたらイッセーさんはまた笑顔で、何も心配することなんかない、と言うでしょう。ただ笑ってくれとだけ言うでしょう。
……イッセーさんは、私を凄いと言ってくれます。勉強や料理が出来て、魔力が上手く扱えて、
けど、イッセーさんは自分を凄いとは一度も言ったことはありません。
誰よりも美味しい料理が作れるのに、部長さんや私の方が上手いと言っています。
皆よりも強いのに、自分は皆の中で一番弱いと言っています。
それが事実だと、本当に思い切っています。
才能がない、頑張ることしか出来ない、努力しか取り柄がない、やらなきゃ出来ない。それがイッセーさんの口癖で、私が出来ない事を出来ても、いつも教えてくれた人のお陰だと言っています。少し自慢気な態度を取る時も、心の底からは言っていないとはっきり感じ取れました。
最初は、ただ謙遜が過ぎるだけだと思っていました。でも、一緒にいるうちに余りに不自然だと感じ始めました。
イッセーさんは本当になんでも出来ます。掃除も洗濯もお手の物で、料理は本当に誰よりも美味しいですし、裁縫だって得意です。スポーツも上手ですし、山で合宿していた時も、不意にいなくなっては珍しい木の実や薬草を取ってきたりして、私にも何が食べられて何が食べられないのかを丁寧にわかりやすく教えてくれました。
それをイッセーさんは、教えてもらったから、努力したからで済ませてしまいます。言われなくても出来る人は大勢いると、まったく誇ろうとしませんでした。何だかそれは……酷く、ずるいように思えました。
なんでそう思ったのかはよく分かりません。けれど確かに、私にはイッセーさんがずるいと思えてしまったんです。
イッセーさんの抱えるものを全く知らない私が口出しをするのは、とてもおこがましいのかもしれません。だからといって、これ以上あの人を見ているだけなんて、私には出来ないんです。
あの人の役に立ちたい。力不足でも頼って欲しい。そう思うのは、私だけではないはずです。だって、部長さんも……イッセーさんの事を……。
『イッセー……愛してる』
響いたのは、とても清らかな声。純粋な愛というものを音にすれば、こうなるんでしょうか。それはとても美しくて、魅力的で、儚くて……まるで、舞い散る花びらのようでした。
一拍置いて、次に聞こえてきたのは……。
『あ、あぁッ……う、ぁぁ…………ーーーーッッ、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!』
凄絶な慟哭。
果てしない怒りと底知れない悲しみ。そして強固な絶望。それら全てが恐ろしいまでのエネルギーで溶かされ、混ぜ合い、固められて生まれた感情の爆弾。
怪物の様な叫び声を聞いて、私は……まるで、助けを呼んでいるように思えました。
「うっ……」
ゆっくりと身を起こして、何が起こったのかを錯乱しそうな頭を落ち着かせて思い返します。
イッセーさんが怒って……サイラオーグさんも、榊さんも、キンブリーさんも負けてしまって……皆でイッセーさんを止めようとしましたけれど、結局駄目で……そうだ、部長さんは!?
周りをキョロキョロと見回す私の眼に最初に映ったのは、イッセーさんと、緑のチャイナドレスを着た知らない女の人でした。
二人は物凄い速さで戦っていて、戦いどころか運動も碌にできない私の目には、正直何がどうなっているのかよくわかりません。けれど、イッセーさんが圧されている事くらいはわかります。
魔力の扱いを覚えてから、私も少しは強さについての判断がつくようになりました。だからわかります。イッセーさんは私達よりずっと強くて、あの人はそれよりもっと強い。
私では想像も出来ない力の領域。きっとそれが……イッセーさんの見ていた世界なんですね。
そんな世界で、上から三番目に位置するというのがどれくらいの重圧なのかはわかりません。でもきっと、私が負っていた聖女としての責務よりもずっとずっと重いはずです。たった一人でそれを背負う事がとても辛い事も、簡単に想像できます。
なのに、どうして貴方は誰も頼ろうとしないんですか。どうして辛いことを一人で済ませようとするんですか。
「イッセーさん……」
切なさに思わず名前を呟いた途端、浮遊感を感じました。誰かに持ち上げられたと認識した時には、もう既に運び終わっていたようで、下ろされると同時に地面に両手を付いてへたり込んでしまいます。
目の前には、イッセーさんと私を除いたメンバーが、皆寝転んでいます。榊さんやキンブリーさん、そして部長さんも。そこでようやく、私は知らない男の人が部長さんを前に座り込んでいることに気が付きました。
黒い外套を身に纏ったその人は、全体的にクセの強い黒い長髪と、冷酷さを感じさせるほど整った顔立ちをしています。そしてその瞳は……イッセーさんと同じ、3つの勾玉を宿した写輪眼。
その眼に気を取られている間に、男性は部長さんに注射を打った後、穴が開いた胸へ包丁を奔らせ始めました。思わず部長さんへ駆け寄ろうとした私を、その人は視線を部長さんに固定したまま制します。
「心配するな、これはあくまで治療だ。蘇生包丁……と言ってもなんのことかは分からんだろうが、とにかくこの娘は俺が助ける。完全に心臓が破壊されている以上、お前の神器では無理だ」
有無を言わせない物言いと威圧感に、私は立ち上がろうとした姿勢のまま止まってしまいました。そんな私を見かねたように、男性は手を動かしながら言葉を続けます。
「だが、周りの連中はそうでも無いだろう。お前らグレモリー眷属とオルトはほぼ無傷で寝かされたようが、それ以外の三人は重傷だぞ。今はとにかく、やれることをやれ」
叩かれた様な衝撃を覚えた私は、まず一番怪我の度合いが酷い榊さんを治し始めます。緑色の光に照らされた彼女の身体は……どこを見ても絶句するしか無い状態でした。
破れた衣服から覗ける白い肌は何箇所も裂けていて、露出する筋肉もズタズタに断裂しています。骨もほとんど折れているのが見て取れて、特に左腕は皮膚のほとんどが剥がれ落ちて筋肉がほぼ剥き出しになっている上に、何度も潰された様にグシャグシャになっていました。
「……ッ」
あまりの痛々しさに涙が零れそうになるのを堪え、治療を続けながら考えます。
イッセーさんが榊さんにまったく攻撃を仕掛けなかった以上、この怪我は恐らく、あの最後の一撃が原因としか考えられません。自分の限界を大きく超えた、渾身の一撃の代償……この人は、こんな状態になる事を覚悟してまでイッセーさんに何かを伝えようとしたんですね。
私と榊さんの想いに、どれだけの違いがあるのかは想像することしか出来ません。けれど、それをイッセーさんに理解してほしいことだけは一緒の筈です。幼馴染である彼女は、私よりもずっと長くそう思ってた筈です。
視線をずらして見ると、イッセーさんはかなり追い詰められながらも、未だにあの女性と戦い続けています。そこにはさっきまでの怒りと殺意は無く、かわりに方向性すら出鱈目な激情が宿っていました。
戦い方こそ、まるで揺らぎが見えません。むしろ、更に磨きがかかったようにも思えます。だけど……迷いが感じられなかった部長さんの時とは違って、今のイッセーさんは、駄々を捏ねながら八つ当たりをする子供の様に映ります。
自分が間違ってるとわかってるのに、既に手遅れだとばかりに止まれない。その原因は……。
部長さんの方へ眼を向けると、既に傷口は塞がりかけていて、若干顔も血色が良くなったように思えます。男性は治療を続けながらも、私と同じようにイッセーさんの方を気にしています。
「やはり万華鏡写輪眼を開眼したのか……しかも神の予測通り、俺の細胞の力を取り込んで永遠の万華鏡を得ているな。相変わらずのイカレ具合だが、あの瞳術はなんだ? チャクラの変化が異常に速い上に整いすぎている。しかも、その力を十全には使っていない。まさか、美鈴を相手に意図的に手を抜いているとでも言うのか?」
ブツブツと呟く男性の顔は険しく、内容がよく分からない私にもイッセーさんに更なる変化が起きている事は容易に察せられます。
……けど、それが分かっても今の私がイッセーさんに出来る事はありません。無力を悔やむよりも先に、まずはやるべきことをやります。
一層治療に力を入れて、ほぼ全ての傷が完治した所で、次に重傷のキンブリーさんの元へと向かいます。
……まるで夢を見ているようで、実質悪夢そのものだった。頭は止まらなきゃいけないと分かっているのに、心は止まることを放棄している。しかし、相対する中国拳法の師は責める雰囲気など欠片も見せず、ただ自分を止めることに腐心している。
美鈴さんは分身と共に地を転げ、両側から回転の勢いのままに下段と中段に攻撃を加える。その両方を跳んで回避すると、背後から本物の美鈴さんが組み付いて、一気に頸動脈を締めあげてきた。
グッッ!
首にかかる強烈な圧迫感にも構わず、全身の力を脱ぎ捨て、涅槃寂静の隙も無く正拳突きの型と共に筋肉を締めあげた。
ゴッ!!
炸裂する筋力に弾き飛ばされた美鈴さんは、着地と同時に拳を両腰に控えた仁王立ちとも思える姿勢で、凄まじい気当たりを放ってくる。並の達人ならそれだけで卒倒しそうな圧力に、こちらも引き上げられるように気が増してしまう。互いの気がぶつかり合う空間は陽炎のように揺らめいて見え、万華鏡に目覚めた写輪眼を幻惑する。
と、ふと美鈴さんが、気当たりを弱めて肩の力を抜いた。それでも臨戦態勢を崩さない俺に対して、美鈴さんは感心と呆れが入り混じった複雑な目を向けてくる。
「……封印の効果もあるんでしょうが、とても一年程戦いから遠ざかっていたとは思えない拳でした。身体能力こそ格段に落ち込みましたが、新たな神器に写輪眼まで得た上で、それによる慢心や油断、齟齬が一切生じない辺りは流石です。しかしイッセー。貴方は今、何と戦っているんですか?」
続いて顔に現れたのは、悲しみと憤りだった。
「これが主を殺してしまった激情によって、正気を失くした大暴れなら、即座に殴り倒して終わりにしています。しかし、私の目は誤魔化せません。貴方を今動かしているその感情は……怒りでも悲しみでもない、単なる逃避だ。とっくに分かっているはずでしょう?」
更に出てきたのは、人当たりの柔らかい彼女が滅多なことでは見せない、厳格さと非情さ。
「昔、言った事を覚えていますか。世界は確かに、悪いことも嫌なことも溢れている。だからと言って、それらだけで世界を語るのは止めろ、と。アレは何も価値観だけを言ったわけじゃありません。陰があるなら陽もある。影が出来るのなら光も然り。-が生じれば+も生じる」
一端切った美鈴さんは、裂帛の気迫で吠えた。
「――見苦しいぞ兵藤一誠!!! 才能がない事など、最早何の免罪符にはなりはしない!! いい加減に強者の自覚を持て! 弱さを受け入れたのなら、強さもまた受け止めろ! 何の為に心技体を鍛え上げ、師や誰よりも強くなった!? 力を得た!? 天龍を超えた!? 答えてみせろ、この馬鹿弟子がッッッ!!!」
ドォォォォォォンッッ!
――衝撃を伴った説教が、現実が叩きつけた。
全盛期の俺が覇龍を使って届く次元の存在は、俺の一切の逃げ場を粉砕した。いいや、そんなものは最初から存在してなかったんだ。ただ無理やり、俺がこじつけて、逃げ場だと思い込んだものがそうではないと判明しただけだ。
もう、誤魔化せない。
言い訳も無い。
師はいずれも世界最高の存在であり、それを超えた俺という存在が、どれ程の存在なのか。
神々すら正面からねじ伏せる俺の力が、どれ程のものなのか。
オーフィス、グレートレッド、シヴァに並び称された『例外』というのが、どれ程の意味なのか。
何もかもが、目の前にさらされた。
ああ、なんて……馬鹿らしい現実だ。
いいや、馬鹿は俺だ。
なんでこうなったんだか。
ただ……生きたかっただけだってのに。
横に視線をずらせば、ガレキの山の上で、回復を遂げた皆がゆっくりと起き上がっていた。
その内の一人、リアス部長は俺を見て……ただ、悲しそうな顔をしていた。
「美鈴さん。すいませんでした」
「……?」
怪訝な顔を作る彼女は、既に普段の優しげな雰囲気を纏っていた。やっぱり、この人の本質はどこまで行っても、優しいお人好しだ。
「神さんにも、マダラさんにも、他の師匠たちにも、氷美神にも……部長にも、伝えておいて下さい。――最期まで、馬鹿ですいませんでしたって。俺は……所詮失敗でしかなかった」
ドッ。
突きこまれた掌が、黒い胸甲を砕き、胸筋を引き裂き、胸骨をへし折り……心臓を掴んで、抉り出した。
ズシャ!
痙攣しながらも血を吹き出す筋肉の固まりを掴んだ右手を胸の前に……最期の呪文を口にした。
「……テオラディス」
ボッ。
透明な消滅の力は俺の胴体に丸い穴を開けて……俺の生命活動に、深刻なトドメを刺した。
力を失い、崩れ落ちた直後……誰かの悲鳴を、最期に聞いた。
「―――いやあああああああぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!???????」
……何が起こったのか、正確に把握している人が何人いるでしょうか。
私の主観では、気がつけばイッセーさんは胸に大きな穴を開けて……誰がどう見ても、死体同然の状態で横たわっていました。すぐさま、美鈴と呼ばれた女の人がイッセーさんを担ぎ上げ、ほぼ一瞬でこちらの方へと運んできました。
手早く、そっと下ろされたイッセーさんの状態は酷いの一言で、身体の上と下は僅かにつながっているだけの状態でした。
男性が包丁を傷口へと振るいますが、部長さんの時とは違い、何の変化も現れません。腰のポーチから取り出した液体を一気に振りかけますが、やはり、何も変わりませんでした。
「蘇生包丁だけでなく、癒水まで効果が無いだと? ありえん!」
「まさか……イッセーが自分で回復を拒んでるとでも?」
それを聞いて、私は思うよりも早く、両手をイッセーさんの傷口へと向けました。だって、イッセーさんは言ったんです。
『教会や天使が来ようが、堕天使が来ようが、俺が守ってあげるからな。アーシアが怖いと思うものは全部、俺が追い払ってやる』
そう、言ったんです。確かに言いました。絶対の絶対です。
フェニックスの時だって、部長さんと一緒に帰ってきてくれました。だから、今回だってきっと……きっとそうですよ。
イッセーさんが、私を置いて死ぬ訳ありません。
……万が一、いえ、億に一つの想像で涙が零れますけれど、全然平気です。誰かが肩に手を置きますけれど、治療を続けます。
死なないです。
死なせません。
死んじゃ、嫌です。
けれど、現実は何も変わらなくて……イッセーさんは、どんどん冷たくなっていきます。
涙すら枯れ果てそうになった、その時です。
ドゴォォォォォォォォン!!
轟音とともに土煙が周囲に蔓延して、美鈴さんが腕を薙ぎ払ってそれらを吹き飛ばすと……瓦礫の山に空いた大穴の上で、ライリさんと、あのマラコーダが対峙していました。
完全に紅く染まった両目をギラつかせながら、ライリさんは両手に持った刀に加えて、口にも柄を噛む形で刀を持って、マラコーダの爪や尾と鍔迫り合いを演じていました。マラコーダは身体のあちこちが切り裂かれていて、なんとなく押され気味だという事は私でもわかりました。
ギィィン!
マラコーダを弾き飛ばした直後、ライリさんは私達に……イッセーさんに気が付きました。
「イッセーッ!?」
「ああ? あの怪物、もうくたばったのか? そりゃあつま……ああああ、あッああ」
突如頭を抱えて苦しむマラコーダを一瞥もせず、ライリさんはこちらへ跳んできました。
「なにが……それより、マダラと美鈴がいて、どうして治さないんだよ!?」
「蘇生包丁も、癒水も効果が無いんだ! 恐らく、イッセーが自分の意志で細胞の再生を阻害している」
「自分の……そんな……いや、それより助けないと……ッ!!!」
刀を締まったライリさんは、牙を剥き出してイッセーさんの首筋へと顔を近づけ……躊躇なく、噛み付きました。
数瞬して、イッセーさんの身体が電気ショックを受けたように一瞬動き、さっきまでの有り様が嘘のように傷口が塞がりました。
これは……一体、何が?
誰に尋ねられるでも無く、イッセーさんから牙を外したライリさんは口を動かしました。
「イッセーを私の眷属に……吸血鬼に変えた。そして主として強制的にイッセーの身体へ命令したんだよ。傷を癒やせ……ってね」
イッセーさんの顔を見れば既に血色は戻り始め、ゆっくりと胸が呼吸で上下しています。
生きて、います。
「あっ、あああぁぁ……」
安心の余り涙を流す私を、同じように涙を流す部長さんが、笑顔で抱きしめます。他の皆もほとんどが涙を浮かべています。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
そんな中、場違いに思える程切実な叫び声が、私達の元へ飛び込んできます。
見れば、マラコーダが頭を抱えながらうずくまり、何事かをつぶやいています。
「イッセー……止せ……イッセー……けいや、く……イッセー……落ち着け……イッセー……ギャハ……イッセー……――……イッセー……こ、の……イッセー……ッ黙れぇぇ、マラコーダぁ!! イッセェェェェェェェェッ!!!!!」
ゴォォォォォォォォォォォォォォ!!!
吹き上がる魔力が突風のように周囲を揺らしますが、すぐにその勢いは弱まり、マラコーダはよろめきながら魔法陣を展開させ、消え去りました。
「……どうやら、あいつもあいつで面倒くさいみたいだね。ともかく、一旦研究所へ戻ろう」
「そうだな」
「ええ。ほら、イッセー、説教するから帰ります……よ?」
横たわるイッセーさんの手を引いて起こそうとした瞬間、美鈴さんの表情が凍りつきました。
そして、脈を測り、胸に耳を当てた後、イッセーさんのお腹に手を当て、険しい表情になりました。
「……本当に、馬鹿弟子が」
「どう、したんですか?」
「イッセーは今、無意識化に自分の生命活動を極限にまで制限しています。ただ寝て、息をするだけの……仮死状態まで」
それを聞いて、私の胸に落ちたのは……多分、悲しみでした。
「会議中、少々邪魔をする。まず俺は
こんな事させといてなんですが、幾ら能力があっても、イッセーはまだまだ未熟です。ご了承下さい。