ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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Life.55 俺、復活です。

 浮遊感はすぐに終わって、行き着いた先は……一面に広がる血の色の床と、そこの一角に作られた、巨大な檻。鉄格子の向こう側で、イッセー先輩は座禅を組んでいました。

 

 そんな先輩に対して、ちょうど、先輩の姿をそのまま影にしたような黒い人影が対面する形で座り込んで、私達に背を向けています。

 

『おい、お客さんだぜ。いい加減そこから出てこいよ』

「……うるせえ。黙ってろ」

『嫌だね。一度開放された以上、一つになるのは時間の問題だ。むしろ、ここまで分離されてたのが異常なんだ。俺がお前になっちまう前に、言いたい放題言わせてもらうさ。そこの連中に対する説明も兼ねてな』

「……」

 

 眉を顰めた先輩が、ゆっくりと眼を開けて……万華鏡写輪眼と呼ばれた、あの眼を晒すと……。

 

 ガシィ!

 

 血の海から出てきた赤い巨大な骨の腕が影を握りしめ、今にも潰さんばかりに力を込めています。

 

 メキメキと音を立てて強くなる腕の力と比例するように剣呑さを増していく先輩の目に、私は背筋が寒くなりました。

 

『おいおい、わかってるのか? 俺を殺すってことは、イコール俺がお前に戻るってことだぜ? 自分から早めてくれんなら、願ったり叶ったりだけどな』

「……」

 

 挑発的な影の言葉に心底不愉快な様子のイッセー先輩が目を閉じると、赤い腕が消えて影が開放される。途端、影はのっぺらぼうの様な顔を私達に向けて、気安く語り始めました。

 

『ようこそ、皆さん。こんな辛気臭い場所だけど、一応歓迎するぜ? つっても、出せるもんなんて俺の愚痴ぐらいしかないけどな』

「それで十分だ。いや、それより先に、こっちの聞きたい事に答えてくれるか」

 

 神さんが詰め寄ると、影は両手を広げて戯けて見せました。

 

『いいぜ? その方が、俺の不満も少しは分かってもらえそうだからな』

「じゃあ、単刀直入に聞くが……お前は、イッセーの何なんだ」

『あ? なんだ、そんなこともわかってないのかよ。……つーか神さんなら、おおまかな当たりはつけてるんだろう? 多分、それが正解だよ』

 

 見下す様な態度と、人を試す発言。どちらも私が知るイッセー先輩とはかけ離れたものであるのに、どこか、私は不思議と、この影がイッセー先輩と重なって見えていた。

 

『俺は……そこにいる兵藤一誠がずーーーっと見ないふりをしていた存在さ。あって当然の要素をこいつは切り離して、奥の奥に仕舞い込みやがった。そして、俺は意志を持った。這い出ようともしたが、俺はあくまでもこいつの一部だ。まったく身動きも取れず、ただただこの心の奥底の暗い牢獄に押し込められる毎日。我ながらよく消えなかったもんだね』

「そして……お前がそこから出た代わりに、イッセーが閉じ込められたわけだ」

 

 サイラオーグさんの剣呑な声を聞いて、影は呆気に取られたように数秒立ち尽くし、腹を抱えて盛大に笑い出しました。

 

『ハハハハハハハハハハ!! アッハハハハハハハハハハハハ!! アーッハハハハハハハハ! ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』

 

 無邪気な子供を思わせる勢いで笑う影に、誰もがどう反応していいのか困惑する中、影は突然笑いを止めて、地の底から響くような重い声で言いました。

 

『普通はそう考えるよな? でも、少し違う。今言った通り、俺は所詮兵藤一誠の一部だ。本人格にとって代われる訳が無いし、そんな事をする気もない。じゃあ、答えは簡単だ』

 

 一拍置いて、影ははっきりと……信じられない事を告げました。

 

『――俺が出たからコイツが入ったんじゃない。コイツがここに入ったから、俺が出たんだ』

 

 ……。

 

 ……?

 

 それは、どういう……?

 

 だって、この影はイッセー先輩が閉じ込めてきた一部分で……ここは、それを閉じ込め続けてきた場所で……そこに、自分から入るだなんて……。

 

 なんの、為に?

 

『あの時……ソウルエッジと消滅の力、そして共鳴して騒ぎ出したソウルキャリバーを力づくで捻じ伏せたあの時だ。ほんの僅かな綻びが、心の内に出来た。いいや、正確に言うなら、ソウルキャリバーと融合した時。更に言うなら、ガオウの神器が目覚めた時。もっと遡るなら、リアス・グレモリーの眷属になった時から……歪みは蓄積され、亀裂となって遂に俺の声が本心に届いた』

「じゃあ……イッセー君が、部長を殺そうとしたのは……」

 

 朱乃さんが水を向けると、影はあの時と同じ……燃えるような怒りと殺意を吹き出しました。

 

『……本来なら身体を動かす真似なんて俺にはできっこない。でも……俺の声を聞いたこいつが、この最下層にまでいきなり潜り込んだ衝撃で、俺は表層に無理やり叩き出された。だから、あんな真似が出来たのさ。まあ、リアス・グレモリーを殺したショックで正気を取り戻したこいつによって、また最下層にまで引きずり込まれたけどな』

「……なら、やはりお前は……」

 

 そう言って、影を見る神さんに、影は今度こそ、自分の正体を明かします。

 

『ああ、そうだ。俺は兵藤一誠の……自信、自覚、自慢、自負、自尊心、誇り、プライド。それら全ての集合体の様な存在だ。いっそ傲慢さと言ってもいい。努力と経験によって培われた、己に対する揺るぎない信用と信頼。それをこいつは…………長年無いもののように扱って、弱者気取りで気楽に人生謳歌してたわけさ!!』

 

 ゴォォォォ。

 

 熱風の様に吹き荒れる怒気を纏い、私達に背を向けた影は、鉄格子を掴んで、イッセー先輩に叫びだしました。

 

『無能だぁ? 無力だぁ? 能無しだぁ? 寝ぼけたこと言ってんじゃあねえ!!! ただの無能なガキが神を殴り飛ばせる道理がどこにある!? 無力な人間が星を壊せる理屈がどこにある!? 能無しの弱者が世界から求められる必然性がどこにある!? いいや、むしろ俺はそれを自らの手で作り出してきた! 俺の力で!』

 

 そこまで言わせた所で、再びイッセー先輩の万華鏡が輝き、骨の腕が影を掴みました。

 

「そんなもん……神さんや皆のお陰だ。皆が居たから、俺みたいな凡人でもここまで辿り着いたに過ぎない!」

 

 吐き捨てるイッセー先輩には勢いも迫力もなく、外野でしか無い私から見ても……言い訳がましいとしか思えません。

 

 反対に、軋む音など気にもとめず、影は叫び続けます。

 

『でも、辿り着いたのは俺だ! 他の誰でもない、兵藤一誠だ!! 痛みに、恐怖に、苦しみに耐えぬいて、赤龍帝……いいや、それ以上の力を受け止める器を作り、強さを得たのは、俺なんだ!』

「違う……全部……皆がいたから……」

『皆? ああ、そうだな。神さん、美鈴さん、聖さん、幽香さん、ライリ、明、師匠(グル)、クルー・ソムバット、マダラさん、小悪魔、神綺様、師匠(グルッカル)。主な師匠だけ並べてもこれだけの数だ。ライバルも、氷美神にジェリーさん、サイラオーグさんやデュリオ、刃狗(スラッシュドッグ)と選り取りみどりだ。誰もが得難い存在で、一人でも欠けてたらどうなってたかわかりゃしねえ』

「そうだ……俺は……」

『でも――俺自身が居なけりゃ、俺は何一つ始まってない』

「――」

『努力したのは俺だ。戦ったのは俺だ。刻んできたのは俺だ。――人間である、兵藤一誠がやってきたんだぜ。それを……この女は……』

 

 ゆっくりと後ろを振り向いた影は、今までと比べても桁違いの濃度で、部長へ感情の矛先を向けました。

 

『人間の身で神を超えた俺を! 人でありながら龍の理を超越した俺を!! 人のままあらゆる地獄を生き抜いた俺を!!! 人で在り続けたこの俺を!!!! 悪魔にッ、変えやがった!!!!!』

 

 ヴワァァァァァァァ!!

 

 叫び声と気迫だけで、足が竦む。それは、このイッセー先輩の誇りを語る存在の抱える憤りの激しさを物語ると同時に……この存在が、私達が目の当たりにした力に相応する強固で気高いものである証明だった。

 

「……だから、部長を殺した」

『ああ、お前ももう理解できてるみたいだな。……つまり、俺が戻りつつあるってことだ。完全に俺が元に戻れば、この怒りも俺の怒りになる。でも、何の問題もない。歴代赤龍帝の残留思念すら抑えこみ、無視できる俺にとって、自分自身の怒りを抑える事なんて朝飯前だ』

 

 もう、影はイッセー先輩と自分を区別していません。追い打ちをかけるように影は見る間に薄くなっていき、ほとんど輪郭が確認出来るだけになってしまいました。

 

『どう転ぶかは知らねえけど、俺は俺を信じるぜ。なんてったって、俺なんだからな』

 

 それを最期に……影は音も光も無く、そっと消えました。

 

 ズ。

 

 腕が消え、妙な静寂が場を満たす中、イッセー先輩が、まるで懺悔するように呟き始めました。

 

「――最初は、ただ生き抜く力が欲しかった。なりふり構わず努力して、危険な賭けにも出て、必死で力を付けた。そうしていく内に、努力の意味も変わっていった。知らない事を知るのが楽しくて、出来ない事が出来たのが嬉しくて、無理を努力で押し通すのが面白くってたまらなかった」

 

 それは……多分、私達が初めて聞く、イッセー先輩の心からの弱音でした。

 

「頑張って、頑張って頑張って頑張って……ある日、最上級悪魔と名乗った女をあっさり倒した時に、気がついたんだ。……俺が、一体どれ程の力を手に入れたのか」

 

 視線を落とし、自分の両手を見つめるイッセー先輩は、目に見えて震えていました。

 

「ドライグも赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)覇龍(ジャガーノート・ドライブ)も、おっかなびっくりに向き合ってきたつもりだったのに……今度は、それを平然と使いこなす自分が怖くなってた」

 

 涙まで浮かべて、イッセー先輩は更に続けます。

 

「じゃあ、赤龍帝の篭手無しの自分は? グルメ細胞、チャクラ式忍術、門式錬金術、武術、何もかもが俺の身に染みついていて……認めるしかなかった。俺は……努力の果てに、どうしようもない『化け物』になったんだって」

 

 歯がガチガチと音を立てて、それでも弱音は続きます。

 

「だから、自信やそれに近い一切を奥に閉じ込める事で、自分がやったから力を得たっていう事実から眼を逸らして、全部神さんや、ドライグのお陰だって誤魔化したんだ」

 

 ボロボロと、幼児の様に涙を流して、嗚咽を混じえて続きます。

 

「挙句の果てに、俺は……その力を、無理やりバオウとガオウに押し付けたんだ」

「……バオウとガオウの封印式は、お前の生命力を楔としてあの二体に与え、親和性と安定性を高めるものだった。ほとんど上手くいったはずだったが、本来であれば三分の一はそのまま残るはずが、何故か一般人程度にまで落ち込んでしまった。お陰で、大半の能力を封じなければ命が危ういほどに弱体化したんだったよな。その理由が……」

 

 神さんが口を開くよりも先、イッセー先輩が、その意味を語りだしました。

 

「俺が、無意識にやったんです。ギリギリ生存に必要な量を残して、過剰に力を封印式に乗算させたんだ」

「……成る程。おそらくその分で、お前とあいつらの融合が進んだんだろうな。通りで発現が想定以上に速いわけだ」

 

 泣きじゃくる先輩に、私達は誰もがかける言葉を見つけられませんでした。

 

 先輩には、これといった才能が無い。多分、それは少し何かしらの分野に秀でた物がある人なら、だれでも分かることでしょう。現に、私もそうでした。

 

 私の先輩への第一印象は、エロくてヘボい人。それに尽きました。それから我武者羅に努力を重ねる姿を見て少しは見直しましたが、勘やセンスを頼りに独学の武術を磨いていた私には及ばないと、見下すような気持ちもありました。

 

 その事もあって、フェニックス戦前の特訓ではイッセー先輩が防御一辺倒で全然攻めてこなかったことにプライドを刺激されて、かなりムキになりましたが、私以上にタフで頑丈なイッセー先輩は私の攻撃なんかものともしていなくて……それが、すごく悔しかったです。

 

 挙句、実際のゲームでは私はまったく何も出来ずに終わる始末だったのに、イッセー先輩は新しい神器や技を覚えてドンドン強くなるばかりで、強い嫉妬を覚えました。

 

 そのせいで、イッセー先輩への態度は結構辛辣なものだったという自覚もあるんですが……ついさっき目の当たりにしたイッセー先輩の全力は、私のちっぽけな固定観念や負の感情を粉砕するには十分過ぎる破壊力がありました。

 

 何度か祐斗先輩の伝手で出会ったことがある、達人という存在。いつかは自分もなれると夢見ていた領域に、イッセー先輩は居ました。しかも、私が見た達人とは比較にもならない強さで。

 

 才能の欠片もないイッセー先輩がそこへ辿り着くまでに、一体どれほどの辛苦を重ねてきたのか。才能に頼った私には想像すら出来ません。

 

 そして……本人が、そんな自分を恐れている。その姿に、私は……僅かな親近感を覚えました。努力の果てに身につけた力と、生まれ持った力。違いはあっても、身に宿る力を恐れるという点では似通っているのだから。

 

「俺が自分の力を捨てたりしなければ……アーシアを死なせずに済んだかもしれない。部長を泣かせずに済んだかもしれない。助けられる力はあったっていうのに……結局、俺みたいな凡人じゃあ、所詮どんなに力を持ったって無意味なんだ。……ごめん、皆。俺は最低で、自分のことしか考えられない、無責任な卑怯者でしか無かったんだ」

「なら、どうする? ここに引きこもって、このまま自分で自分の息の根を止めるか?」

 

 神さんの指摘に、先輩は押し黙ることしか出来ません。そんな先輩へ、神さんは信じられない言葉を投げかけました。

 

「まあ、いいんじゃねえか? それもひとつの選択肢だ」

『!?』

 

 イッセー先輩以外の全員が注目する中、神さんは牢獄へ近づいて、先輩へ向き合う形で胡座をかいて座りました。

 

「道を示したのは俺達でも、選んだのも、努力したのも、苦しんだのも、辛い思いをしたのもお前だ。そんなお前が全てを重荷でしか無いと感じるんなら、好きにすればいい」

「……意外ですね。神さんなら、殴り飛ばして引きずりだそうとすると思ってた」

「ここはお前の世界。そして、お前の意志は誰よりも強い。お前の意にそぐわない真似なんか出来るわけがないだろ。それに……ずっと近くで、お前の生への執着と真摯な努力を見続けてきた俺だ。そんなお前が、自分の努力を否定して死を選ぶのなら、生半な気持ちじゃないという事もわかってる。けど……それがどういう結果を招くかも、理解してるんだな?」

 

 一拍開けて、神さんは再び信じられない事を告げました。

 

「お前が死んだら、確実に冥界は滅ぼされるぞ」

「!? な、なん……」

 

 困惑する先輩に、神さんはため息を一つついて続けます。

 

「なんでだって? 堕天使がお前を殺したのは勿論、リアスがお前を悪魔にしたことで、各神話がどれだけ混乱したのか分かってないのか? 特にお前に入れ込んでる女神連中は怒り心頭で、何人かは即日冥界に宣戦布告しようとしたくらいだぞ。そもそも、知っての通り三大勢力はかなりの怨みを買ってるからな。何かしらの理由つけて滅ぼしたい神々なんざゴマンといる。そんな連中にとっては、この一件は格好の戦端なんだよ」

 

 恐ろしい事実を事も無げに述べ立てる神さんに、私を含めたグレモリー眷属は呆気に取られるばかりです。そんな空気を平然と無視して、神さんは更に話を進めます。

 

「だというのに、なんで俺らの説得や食材の賄賂があったとはいえ踏みとどまったのか……。それは『お前自身が悪魔になった事自体を悪く感じていない』の一点に尽きる。そんなお前が、どんな理由であれ悪魔になって一年足らずで自殺してみろ。もう何があろうと戦争は止まらない。冥界に存在する悪魔、堕天使を一人残らず滅ぼすまで止まらない事は確実だ。その後は天界だな」

「天界!? なんで……」

「お前が殺されたあの日、護衛をしていたのはジュナザードだったんだが、あいつが熾天使(セラフ)の一人であるウリエルとやり合ってる間にお前が殺されたからだよ。どうやらクロウ・クルワッハがジュナザードの振りをしてウリエルを襲った後、ジュナザードに奴を押し付けたようだが、まあそれはいい。とにかく、結果として三大勢力がそろってお前を悪魔にした形になったわけだ」

 

 次々と叩きつけられるとんでもない事情に驚きながら、私は改めて、先輩の努力の結果がどれほどのものなのかを思い知らされました。

 

「もう一度言うぞ。俺は、お前の選択を絶対に間違っているとは思わない。お前の命はお前のものだし、所詮騒ぐのは周りの勝手だ。だが、それは同時に自分を切っ掛けに起きる一切を無視する事でもある。それでも、いいんだな」

「……ッ」

 

 目の前にさらされた事実に、先輩は……涙を止めて、何かを堪えるように震えています。

 

「ほらな? お前が本当に無責任なら、そんな所で悩んでるわけがない。まあ……無駄口もきかず、脇目もふらず前へ上へ進むお前に、俺も他の連中も、調子に乗ってたったの十数年で色々と詰め込み過ぎたってのは反省すべき点だな。けど、これでわかっただろ? お前の存在に、数えきれない存在が注目しているんだ。そして、お前はその全てを無視できるほど、無責任にも自分勝手にもなれやしない」

「……でも、俺は失敗した。……部長を……」

「イッセー」

 

 部長が近づくと、神さんがすかさずその場をどいて、イッセー先輩の前に、部長が膝立ちの姿勢で向き合いました。

 

「私の本心は、あの時伝えたとおりだわ。貴方が私を殺したのは、極めて正当な報復よ。むしろ、私こそ……殺される瞬間まで、貴方の怒りの理由を理解しなかった私の方こそ、貴方の誇りを軽んじていたんだわ」

「そんな……あれは……俺のせいで……」

「そうね、私が死んだのは貴方のせいであり、私のせいでもある。けれど、私はこうして生きているわ。アーシアだって生き返れた。婚約パーティーの時だって、最終的に助け出してくれた。何より、イッセーは出来る限りを尽くしたじゃない。私は、それで十分過ぎる。貴方の失敗は、まだやり直せるわ」

 

 次いで、アーシア先輩が部長の隣へ歩いていきます。

 

「イッセーさん……もし、イッセーさんに最初から私を助けられる力があったのなら、たしかに私は一度も死なず、人間のままだったのかもしれません。だけど、代わりにオカルト研究部の皆さんとは、出会って無かったかもしれません。桐生さんや、松田さん、元浜さんとも知り合えなかったかもしれません。嬉しい事も楽しいことも分からなかったかもしれません。……後悔なんてしないで下さい。貴方が居なければ、私は惨めに死んでいただけなんですから」

 

 次に、祐斗先輩が。

 

「僕は、君に何一つ偉そうな口を叩ける身じゃあない。そんな僕が言えることとしたら、たった一つだけだ。……全部一人で抱え込まず、他人に辛い思いを打ち明ける。それだけでも、大分胸が軽くなるよ? 君のお節介から白状させられた僕が言うんだから、間違いない」

 

 朱乃さんが。

 

「……私も祐斗くんと同じで、貴方に偉そうな事を言えるような身ではありませんわ。でも、これだけは覚えていて……。貴方が死んでしまったら、私はどうすればいいのか、わからなくなってしまうの。だから、お願い。生きてください」

 

 私も。

 

「……落ち込んだら落ち込みっぱなしなのは、先輩らしくないです。それに……先輩がいなくなると、ちょっと、寂しいです……」

 

 ゼノヴィア先輩も。

 

「出会って日が浅い私には、何も言えることが見つからないが……それでも、それだけの強さを築いた努力を根本から失敗だと断じるのは、絶対に間違ってる」

 

 明さんが。

 

「イッセーはさ……自分に厳しく、他人に優しいを地で行く完璧主義者だよね。こと自分に関しては、隙間もないくらいのさ。けど、だからって小さなミスや欠点を誇張して、それで全体を否定するのは違うでしょ?」

 

 ライリさんが。

 

「だから、イッセーは馬鹿なんだよ。けど、そんなところもイッセーらしいんだよね。そして、失敗や挫折からすぐに立ち上がれるのも、私達が見てきたイッセーらしさなんだよ」

 

 氷美神さんが。

 

「……とっとと出てこい、イッセー。ムカツくくらいに努力して、アホらしいくらいに強くなって、そんな強さ自体に躓いて……それでもなお、前に進む。そんなお前こそが……俺の、目標なんだ」

 

 ジェリーさんが。

 

「強さを弱さに変えるとは、また器用な真似をしますね。だけど、イッセー。こうして弱さをさらけ出した貴方は……美しくなる一歩手前ですよ」

 

 サイラオーグさんが。

 

「俺は夢にも見ているんだ。いつか、お前と本当に対等に殴り合える域にまで、己を高め、拳を交える時を。だから……不貞腐れてる暇なんか無いはずだ。行こう、戦友(とも)よ」

 

 美鈴さんが。

 

「私も、色々と叩き込んだ口ですからね。だけど、その時……何千回と練習して、私の技をものにした時の貴方は、本当に嬉しそうで、楽しそうでした。あれを全部間違いだなんて抜かすのは……あまりに悲しすぎますよ、馬鹿弟子」

 

 マダラさんが。

 

「俺も、色々と踊ったものだが……踊り尽くしたと思った果てに、この世界に流れ着いた。成功も失敗も繰り返したが、そんな俺でも、こうして呑気に寿司屋をやってられるんだ。たかが十七歳のガキの分際で、一度の失敗で人生を捨てきるのは、余りに阿呆らしいぞ」

 

 口々に投げかけられる言葉に……先輩は、肩を震わせて鉄格子に手を掛けました。

 

「……俺は、生きてていいんですか? まだ、やり直せるんですか? また……努力する資格はあるんですか?」

「さあ、それはお前が決めることだ。だが……」

 

 ふっと笑って、神さんは言いました。

 

「馬鹿でスケベでどうしようもない阿呆だが、誰よりも努力家で、必死で、強くなることに貪欲な兵藤一誠は……俺の、俺達の――自慢の弟子だ」

 

 ガギィィィィィィィィィィィィィン!!!!!

 

 先輩の両手が鉄格子を一気に押し広げて……私達の意識は一気にその場から飛び去りました。

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