ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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 ずっと機会を探していたんですが、ようやく重龍皇の鎧の2つ目の能力が明かせます。


Life.57 俺は、俺でした。

「ん……ふぁ~~っ」

 

 ドギャァァァァ!

 

 軽く欠伸をしつつ、拳をそのまま前に突き出すと、ラプトル型のバイオゾイドが丁度コアの辺りに風穴を開けて吹っ飛んだ。

 

 眼を開けると、バイオゾイドは半分程度にまで減っている。思った通り、五分で目が覚めたみたいだな。チャクラもしっかり元に戻ってるし、そろそろ本番か。

 

「真旋風残雲蹬脚!!」

 

 ひたすらに突っ込んでくる無数の巨獣を大技で迎え撃ちつつ周囲に気を配ると、思った通り、魂の根までドス黒く染まった妖怪の臭いが四つ。

 

 隙を伺って不意打ちとは、常套手段だが舐めてくれる。

 

 ……いや、これは……なるほど。どちらにせよ、このままあっさり策にハマるのも腹が立つしな。

 

 少し威嚇(おど)してやる。

 

 すぅぅぅ……。

 

 ゆっくりと息を吸いながら、自分の細胞に漲る感覚に身を委ね、己に染み付いた知識、身体運用法を活用し、その中から最も適した部品を掻き集め、形とする。

 

 何度も何度も繰り返して築いた器用さ。それを持って……今、新たな力をモノにしよう。

 

 これが、その『第一声』だ!

 

「サウンド――バズーカァァァァァァァァァァァァアアアアアアア!!!!!!」

 

 ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!

 

 声の振動は衝撃となって大地を砕き、空気を震わせ、雲を吹き飛ばす。

 

 残存するバイオゾイドも当然この音の爆発に巻き込まれ、流体金属の装甲を伝って内部に浸透する音のダメージによって回路が破壊されているだろう。現にバイオゾイドは一体、また一体と次々に倒れていき、最後の一機が倒れた。

 

「ふぅ」

 

 軽くため息を付いて、俺は未だにコソコソと蠢く連中の元へ、声を飛ばす。

 

「いい加減出てきたらどうだ? 下級悪魔一人にビビって隠れんぼとか、仮にも四神、四霊、四凶と並んで大陸に名を馳せた四罪の名が泣くぜ」

 

 挑発に乗せられた体を装って、四人が揃って俺の眼前上空に姿を表した。いずれも表情は狂った悦楽に浸りきっていて、これから俺をどう嬲り殺すかで頭は一杯だ。

 

 様相こそ四人の中で最も落ち着いているが、その実最も期待に旨を流行らせている驩兜が最初に口を出した。

 

「――今の馬鹿でかい声、確かダンテ達が改造した象熊とかいう化け物のヤツだろ。食ったものの中で、自分に適合した能力を取り込むとかいう噂はマジだったみたいだねえ。おっかない」

「しかもあれだけ無茶苦茶に暴れておいて、自分をさも弱者と言いたげに語れるとは、一周回って大した胆力さね」

 

 愉快げな共工につづいて、鯀が歪んだ笑みのまま、率直に殺意を伝えてきた。

 

「……赤い龍。潰して、壊して、砕いて、殺す」

「独り占めしないでよ鯀。あたしもこいつの悲鳴とか焼けた臭いとか焼死体とか、色々楽しみなんだからね! こんな上等な玩具滅多に見つからないんだもん。皆で仲良く遊ばなきゃ! キャハハハハハハハハハハハ!!」

 

 一見快活な美少女の外見、そしてピクニックの相談でもしているかのように弾む声が、三苗の台詞に含まれた濃密な邪気を一層際立たせる。

 

 俺は神器を出現させ、禁手化(バランスブレイク)するとともに闘気を体中に巡らせる。

 

Grave(グレイブ) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!!!!!』

「御託は終わったろ。じゃあ、始めるか」

『LordLordLordLordLordLordLordLordLordLordLordLordLordLord!』

 

 力を奪われながらも、驩兜がついに抑えきれなくなったドス黒い喜びを露わにした顔で、印を組んだ。同時に、他の三人もそれぞれ別々の印を結ぶと、周辺が一気に邪気で充たされ、俺に向かって集中する。

 

「「「「――四罪妖術・腐壊五獄感(ふかいごごくかん)!!!!!!」」」」

 

 ガキン!!

 

「……ん?」

 

 奴らが術を完成させると同時に、まず違和感を感じた。

 

 視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚。五感が感じる全てが、あまりに不自然な齟齬を生んでいる。

 

「うっ、ぐ!!?」

 

 違和感はすぐに不快感となり、凄まじい不和を生みながら俺の意識を暴れ狂った。

 

 脳に入るあらゆる情報、あらゆる現象が清らしく悍ましく楽しく恐ろしい物となっている。

 

 微かに触覚に触れる風ですら、痒く遅く痛く涼しく暑く寒く熱く早く速く煩く鈍く重く軽く、出鱈目で訳が分からない。

 

 感覚に起こった異変の張本人達の声が、俺の耳に無数の蝿と蚊が飛び込んできたような不快感と共に届く。

 

「ハハハハ! どうだい、オレ達の術は!? 五感を狂わせ、あらゆる感覚から入る全ての情報をグチャグチャにかき乱す、この腐壊五獄感! 見るも聞くもたまんねえだろ! 気に入ってもらえてるみたいで嬉しいぜ!」

「少し警戒して周囲から力を吸収したようだけど、生憎この術は私達四人が揃っていれば一切下準備が要らないのさね!! 

「……壊れろ」

「キャハハハハ!! 並みの達人レベルならもう狂い死にしてるのに、まだ生きてる! やっぱりいい玩具! キャハハ!!」

 

 苦しく面白く鼓膜を振動させる音の羅列を何とか頭の中で理解しながら……空を仰ぎ、気当たりによる分身を出しながら飛び上がった。

 

「真地念源流、跳梁観空蹂躙!!」

 

 分身と共に同時に全方位からの連打を仕掛け、わずかに出来た隙を逃さず奴らのほぼ中央近くに滑り込み、更に大技を繋げる。

 

「無天拳独流、陣掃慈恩烈波!!」

 

 突きと蹴りの乱打を何発も喰らいながら、吹っ飛びざまに後退した四罪は、心底信じられないといった眼で俺を見ている。説得力無いかもしれないけど、正直、その気持ちは分からないでもない。

 

 実際に食らってる身としては、こいつらの術がどれだけ凄まじいのか痛感してる最中だし。

 

 警戒を高めながら、驩兜が四人を代表するようにつぶやいた。

 

「ありえねぇ……今の動きは、さっきまでの戦いと何の変わりもない冴えだ。腐壊五獄感を食らった状態で、何故そこまで動ける? 解呪や無効化どころか、軽減してるわけでもない。一体、どうやってこの術を掻い潜ってる?」

 

 実に冷静かつ的確な分析に、俺は昔からよく繰り返した、頭の悪い返答を返した。

 

「別に何もしてないさ。普通に食らってるよ。今この会話も、結構一杯一杯なんだぜ。 本当に大した術だ。ただ、まあ……俺が、素で耐えてるだけだ。ぶっちゃけやせ我慢だよ」

 

 ……。

 

 若干痛い沈黙が俺たちの間を流れる中、誰が言ったのか、一言の疑問が全てをぶち壊した。

 

「――は?」

 

 途端、連中は体を揺らし、一斉に笑い声を上げた。

 

「ギャハハハハハハハハハ!!」

「アハハハハハハハハハハ!!」

「……クハハハハハハハハハ!!」

「キャハハハハハハハハハ!!」

 

 それは初めて連中から聞いた邪悪さを含まない声であり、狂った感覚でもその笑い声は決して悍ましくは聞こえなかった。

 

「やべぇ、すっげぇイカれてるコイツ!! 斜め上なんてもんじゃねえや! 考えつかねえよ、こんな化け物がいるなんて!」

「私達の秘術を耐えている事実を、やせ我慢で済ませる!? ホント、馬鹿じゃないのさね!」

「……面白い!」

「キャハハハハ!! キャハハハハハハハハハハハハキャハハハハハハハハ!!!」

 

 ひと通り笑い尽くした後、再び笑みを被った連中は、更に濃密な邪気を纏いながら印を組んだ。途端、五感にかかる感覚の負荷が一気に増した。

 

「じゃあどんだけ耐えられるか、見せてくれよ! 正真正銘最大出力! これでもまだやせ我慢が効くってか!?」

 

 五感以外、痛覚や体性感覚、平衡感覚すら滅茶苦茶にかき回される中、俺に向かって放たれる真空の刃、水の弾丸、巨大な岩石、炎の渦、全ての不快感を押しのけて、俺は本能の赴くままに腕を動かし、何億何兆と繰り返した全ての防御の基本たる円の動きを行う。

 

「総廻し受け!!」

 

 ゴォ!

 

 三百六十度、背後まで奔らせた受け手が全ての攻撃を流すと同時に、驩兜はこれ以上ないというくらい笑みを邪悪に歪ませた。

 

「ギャハハハハハハハハ! もうやべぇってこれ! 化け物どころの騒ぎじゃねえや!! 最ッッ高だぜこの野郎!! なら、俺達の奥義はどうだ!?」

「さあ、どうだろうね!?」

「……知った事か!」

「キャハハハハ! どうなっても知らないもんね!」

 

 四人が手を上にかざすと、頭上に目視できる程濃くなった邪気が集まり、暗雲のような姿をとる。

 

「「「「四罪猛邪穿槍(しざいもうじゃせんそう)!!!!」」」」

 

 ビュゴオオオオオオオォォォォォオオオオオオオッ!!

 

 暗雲が渦を巻きながら火、水、土、風へ変化すると、音を置き去りにする速度で俺に迫る。ダイヤモンド級の密度で結集した妖力の先端は針とまでに鋭く束ねられており、並の防御など紙同然に貫き通し、邪気によって肉ごと魂を腐らせ、塵へ返すだろう。文句なく、四罪の奥義と呼べる術だ。

 

 対して、俺はあえてその攻撃を防御もせずにまともに受ける。胸甲に包まれた心の臓を狙って迫る邪気の塊は、俺のオーラを貫き、鎧の装甲と衝突し……敢え無く砕け散った。

 

 そのエネルギーを吸収して、鎧は更に頑強さを増す(・・・・・・・・・・)。直後に消えた五感の狂いが、四罪に残された全ての力を込めた一撃だった事実を示唆している。

 

 呆気無く消え去った自分達の奥の手を見て、四罪は……盛大に笑い出した。

 驩兜が一際大きな哄笑を上げる。それは世界全てをあざ笑うかのような尊大さと共に、背筋が寒くなるほどの空虚を思わせるものだった。

 

「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! もう駄目だなぁ……全部通じねえ! お手上げだ! たった十七歳のガキにだぜ!? 千年近くを生きた俺が、手も足もでねえや!! 最低に最高で最低が最高だ!! すっげぇ惨め! でも笑えるからいっか! ギャハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 続いて、同じように最大の技が通じなかった共工が、悲壮な蠱惑さを含ませて笑う。

 

「アハハハハハ……まったく、散々人妖問わず命を弄んできた私が、こんなザマとはね……情けないけど、とてもゾクゾクする!! 命ってのは、握るのも握られるのもたまらないものさね!! アハハハハハハハハ!!」

 

 鯀が、凄惨な喜びを露わにして笑う。

 

「……クハハ! 死ぬ、死ぬ、殺される! 潰して壊して殺される! 殺して殺して殺してきた俺が、殺して殺して殺される! クハハハハハハハハハハ!!」

 

 三苗が、悦楽に浸りながらひたすら笑う。

 

「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」 

 

 目の前に現れた自己の破滅でさえ、こいつらにとっては今まで行ってきた破壊と殺戮と変わらない。区別なく、そこから得られる快楽を味わい尽くす。

 

 余りと評するにも余りの姿に、星の数ほど壊れた輩を見てきた俺ですら言葉が見つからなかった。

 

 他人ばかりか自分達すらも快楽のための『玩具』としか捉えられない感性は、善悪や貴賎を語る以前に根本から破綻している。破壊と殺戮を好むという概念が形を成した悪鬼は、自分の敗北や滅びすら黒い快楽としか取ることが出来ない。慈悲も残虐もかける余地すら無い妖怪に対して、俺は一方的な形であっても、こいつらの実力に敬意を評する事にした。

 

「……敢闘賞に教えてやる。この重龍皇の鎧(ローディング・ギア・スケイルメイル)、そして重龍皇の胸甲(ローディング・ギア)の能力は二つ。一つは吸収。あらゆるエネルギーを、俺のものにする単純明快な能力。そしてもう一つが――硬化。吸収したエネルギーを使って、鎧を、そして俺の強度を上昇させる」

 

 とは言え、硬化の能力に目覚めたのはついさっきだ。

 それは禁手に至った瞬間。

 

 俺が、自分自身の強さから逃げ出したあの瞬間だ。

 

 おそらく、この能力自体はとっくの昔に使えるようになっていたはずだ。俺が無意識に、それをオミットさせていたんだ。その封印を俺の自信は解き放ち、吸収と硬化を持って……部長を殺した。

 

 重龍皇の鎧自体も赤龍帝の鎧の様に俺のパワーを増大させるが、倍加の能力を持ったパワー重視の赤龍帝の鎧には及ばない。

 

 なのに、全盛期の三分の一の力しか持たない俺が、サイラオーグさんや氷美神、ジェリーさんを正面から倒せたのは、この圧倒的な防御力があればこそだ。無論、実力も伴ったからだけど。

 

 けど……もう逃げない。この力を持って、俺は生き抜く。俺を許してくれた部長の為に。俺に助けられたアーシアの為に。俺を自慢と言ってくれた師匠たちの為に。俺を目標と言ってくれた氷美神の為に。

 

 帝皇の誇りと自負を抱え、いつか……ハーレム王に、俺はなる!!!

 

 心の底から誓いを立てる俺を尻目に、そう久しくない殺気が高速で接近すると同時に、四罪が巻き込まれることもお構いなしに広範囲に魔力弾をぶちかましてきた。笑みを止めた四罪が回避行動をとるが、よけきれずに命中し落ちていく中、無数の魔力弾へ左手をかざし、呪文を唱える。

 

「クエア・スプリフォ」 

 

 ボッ!

 

 四角い消滅の盾に触れた魔力弾が消滅する中、背後から殺気のままに突き出された大剣の様な尾を半身振り返りながら右手で掴む。視界に入った女の表情は工場の時より狂気の色こそ薄れているが、内面の錯綜っぷりはより酷くなっているのは、焦燥に染まった眼から理解できる。

 

「おいおい、折角俺から背後を取ったっていうのに、そのまま単純に不意打ちとか舐め過ぎだろ。ゲームじゃねえんだぞ。それどころか、魔力の量も質も低すぎる……マラコーダはどうした」

 

 俺がつぶやいた名前に、明らかにマラコーダの皮を被ったマレブランケの誰かが狼狽する。呻くような声一つ絞りだすことでさえ、今の奴らにとっては重労働のようだ。

 

「……う、ウルセッ……グゥゥ……」

 

 ここへ来る前にライリから聞いた限り、恐らく肉体の本来の持ち主、言わばマレブランケの中心とも言えるマラコーダが、俺を殺そうとする過半数を抑えこんでいるんだろう。

 

 だが何の為に? 最初の時点でマラコーダも俺を殺そうとしていたんじゃないのか?

 

 考えを巡らせる俺に対して、一瞬、マラコーダから力が抜け、頭は力なく下を向いた。ゆっくりと面を上げた時……その瞳には、確かな理性と今にも弾けそうな熱情が共存していた。口角をそっと上げて唇を動かすまでの一連の仕草は見惚れそうな程の魅力に溢れていて、耳に入る声色が更にそれを後押ししながら、俺に自分の意志を告げた。

 

「――やあ、久しぶりだね、イッセー。弱くなったとか聞いていたけれど、少なくとも私と初めて出会った頃よりは強くなってるじゃないか。やっぱり、君こそが私の運命そのものだ」

 

 単なる業物など歯牙にもかけず砕くであろうマラコーダの白い指が、彼女の青黒い長髪をかきあげる。そんな無駄としか思えない動作だというのに、俺の万華鏡と嗅覚、聴覚でもまったく隙は伺えず、それはこの女が真の達人級(マスタークラス)の住人だという証拠だった。

 

「――ああ、久しぶりだな、マラコーダ。とりあえず質問に答えてくれると嬉しいんだが」

「うん、私の答えられる範囲でなら。その代わり、イッセーにも私の頼みを聞いてもらうからね」

 

 ゆっくりと尾から手を離し、その尾が元の大きさとなってマラコーダの背部に戻るまでの間に一呼吸し言った。

 

「まず、あの連中は何者だ」

「悪いけど、ほとんど知らない。私があの連中と合流したのは、つい最近だからね。グルメ界で他のマレブランケの連中を何とか押さえ込んだ私に術をかけて、ルビカンテ達に主導権を握らせる形で扱われてただけさ」

「……次に、お前以外のマレブランケの仇である俺を、どうして殺すまいとした」

「そんなの簡単だよ。イッセーに死んでほしくないからさ。それと、私は別に他のマレブランケの事は恨んではいないよ。一応仲間意識くらいはあったけれど、複数で掛かっておいて返り討ちにされた事を恨んだりするほど、プライドは無くしてないつもりさ。今も過半数の契約を守れって煩いけれど、知ったことじゃないね。私はやりたいようにやるだけだ」

 

 極めて自分勝手な台詞だが、そこには断じて『己』を譲らないという強い意思が伺える。

 

 にしても、一般人相手の契約ですら散々苦労してる身としては、ちょっと複雑になるな……。

 

「上級悪魔同士の契約を知ったことじゃないって、原初の悪魔がそんな調子でいいのか?」

 

 思わずそう言うが、上級同士の婚約をぶち壊しておいて我ながらどの口がって感じだ。

 

 自問自答する俺に、マラコーダは澄み切った青空を思わせる爽やかな笑顔を浮かべて言った。

 

「やだなぁ、そんなの……それこそ知ったことじゃない」

 

 視線を落とし、未だに騒動が続く冥界を見下ろしながら続けられる言葉には、温かさと冷たさがないまぜになっていた。

 

「昔っから、悪魔は邪悪でなければだの、上級悪魔の貴族社会がどうのって抜かす奴はいたけれど、私からすれば、一切総じて――好きにすればいい。聖書で悪役だから? 悪で魔だから? それがどうしたのさ、馬鹿馬鹿しい。なんで神や世界なんかが貼ったレッテルや決めつけた役割に沿って生きる必要があるんだい。それこそ……悪魔らしくないじゃないか!」

 

 今度は紫色の空を仰ぎ、宣言するように両手を広げながら叫んだ。

 

「善も悪も大いに結構! 正義、法、欲望、信念、強者、愛、何に従うも己の意思次第だ! 自らの命と責任の元、自由に生きればいい! それでこそ悪魔だろう!? 好き勝手やるというのが自由なら、好きにやらぬもやらせぬもまた自由! 悪魔とは何か、だって? 私に言わせれば単純明快だ。上中下も、純血も混血も転生も、種族でさえ関係ない。――己を悪魔と認め、その自負を抱えて生きるものは一人残らず悪魔だ。だけど……」

 

 正面に向けられた瞳が遥か遠くを見つめながら、死んだ魚のような濁りを表面に映しだした。

 

「ルシファー、ベルゼブブ、アスモデウス、レヴィアタン――旧四大魔王は、どいつもこいつもつまらなかった。神に与えられた玉座と力に酔いしれるばかりで、定義されたとおりの悪を行うだけ。張子の虎と理解する気もないまま、プライドという脂肪に振り回された無自覚な傀儡っぷりは、傍から見てて滑稽どころか哀れだったよ」

 

 嫌悪と憐憫の泥を吐き出すと、今度は目を閉じて口元を綻ばせ、温かい空気を醸し出す。

 

「それに比べてサーゼクス達は凄く面白かったけど……刺激が足りない。奥地に逃げ出した旧魔王派がどれだけ自覚してるかは知らないけれど、あの争いはより進化した新世代が勝って当然だった。生存競争、まして同じ種族が正面からぶつかれば、より優れている者が勝つのは当然の理。だから新たな魔王が生まれた。……そう、彼らは才能に溢れ優秀だったけど、それだけなんだ」

 

 物語を語る老婆を思わせる雰囲気を脱ぎ捨てて、惜しむように嘆息するマラコーダは、我儘な子供にしか見えなかった。

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)、転生悪魔といった新しい試みは興味もあったけど、それも彼らの才能と度量の深さがあればこそ。正直意外なほどに、天才というのはつまらなかった。鋏が紙を切って、糊がくっ付けると言った感覚かな。出来る者がやっただけで、何も驚く要素がない。

 いや、普通なら出来上がった物を評価するべきなんだろうけど、あいにく私は視点も望みもズレてるんだ。似たようなひねくれ者はどこにでもいるだろうが、自覚がある分、自分はマシだと思っておきたいね」

 

 もう一度、深々と溜息をついたマラコーダは、官能的な笑みで指を舐めながら、今度こそ俺に視線を向ける。

 

 ゾクッ。

 

 旧魔王、現魔王のいずれに向けられた感傷、感情の一切は既に無く、その全てを焼きつくして到底衰えない圧倒的な熱が瞳に宿っていた。向けられた俺自身さえ、体の芯が日がついたように熱く感じる程の熱量はどんどん勢いを増し、比例して、俺の心も燃え上がる。

 

「でもね、ようやく私は、私を満足させてくれる存在を見つけたんだ。イッセー……君だよ。君は、赤龍帝の篭手を除けば、ただの平均以下の人間だった。正直グルメ界で見た時は眼を疑ったよ。あの三人に混じっているのが不思議としか思えないくらい、君は弱そうだった。食材目当てで襲いかかった時は、予想以上の力に少し驚かされたけど、結局は私達に及ぶものではなかった」

 

 更に熱は高まり続け、俺の頬を一筋の汗が伝う。右手の指全てに舌を這わせたマラコーダは、今度は左手の指を舐めながら続きを話す。

 

「だというのに、君は敗北を悟っても諦めずに仲間を逃してみせた。挙句の果てに、私以外は全滅だ。眼を疑ったよ。私の見積もりが甘かったのか? 君に何か私の知らない要素が? そう思って、他の十一人が静かな時にイッセーの事を調べたら……逆に驚いたよ。先祖代々、父母共に特別な血統は何も無し。天使、悪魔、妖怪、神の何れと関わった事も無い。いっそモデルケースにしたいくらい、君は普通の人間だった」

 

 ピンク色に染まった自分の頬を唾液でヌラリと光る指で撫で上げながら、熱の高まりも最高潮に、マラコーダは言った。

 

「なのに、それなのに、だというのに……君は強かった。能力がじゃない。ただただ、心が、精神が、魂が強すぎる。どんな恐怖も、痛みも、絶望も叩き潰して、一つ一つは塵にも等しい努力を積み重ね……遂に人の身で、神も魔王も寄せ付けない力を手に入れた! 常人ならそんな段階になる前に、神器を手放して普通に暮らすか、心身が修復不可能に壊れて死んでいる。そうでなくたって、力に溺れて自分を失っている」

 

 そこまで言って、マラコーダは黒のコートに黒いボディスーツを身につけた黒ずくめの肢体を掻き抱き、興奮のあまり震えだした。

 

「だけど君は違った。君はどんなに強くなっても、どんな技能を身につけても、普通の人間である兵藤一誠であり続けられた。決して根幹からは変わらないからこそ、イッセーは誰よりも強く、誰よりも面白く――誰よりも狂ってる。君はまともじゃないくらいまとも過ぎる。そんな事は、自分自身で気づいてるだろう?」

「……ああ、そうだな」

 

 多分、多分だが……俺が自信を受け入れられなかったのは、それが一番の原因だろう。

 

 極普通の人間が、世界の運命をどうにでも出来る力を持てるわけがない。兵藤一誠(オレ)人間(オレ)でいる上で、決定的な矛盾を恐れていた。

 

 だから、その力の原因を他人に押し付けた。そうすることで、あくまで自分は『普通』だと言い張っていた。

 

 なんて馬鹿らしく、稚拙な考え。子供でもこんな無責任な責任転嫁はしやしない。

 

 ……でも、もう大丈夫だ。俺は、俺でしか無い。

 

 そう、俺は俺だ。

 

「なあ、マラコーダ」

「んぅ?」

「さっき、自分を悪魔だと思ってる奴は例外無く悪魔だって言っただろ? なら……どんなになっても、自分を人間だと思いきれる奴は何なんだ?」

「……ウフ♥ アハハハハ♥ そんなの決まってるじゃないか。生まれや種族がどうであっても、人間として生きたいと願い、人としての正道を歩む事を望む限り、そいつは確実に人間だよ。――そうとも、君は悪魔で、人間で、ドラゴンだ。それでいいじゃないか、混沌としていて実にそそる、うん♥」

 

 艶を増すマラコーダの声を聞いて、俺は感謝しか浮かばなかった。

 

 世界の、仲間への、敵への……自分への。

 

 俺の食没、そして食義に欠けていた物。それは自分自身への感謝と敬意。

 

 過去の努力した自分、現在の生きている自分、未来を歩いている自分。その全てを俺は無視し続けていた。だからこそ、そんな己の過去にもまた、感謝する。

 

 いつの間にか合掌していた事に気が付き、俺は大事な事を再確認させてくれた恩人へ、いよいよ本筋を問いただす。

 

「なあ、マラコーダ……最後に聞かせてくれ……お前は今、どっちの敵だ?」

 

 万華鏡写輪眼に映し出されるマラコーダの顔は、小悪魔的な可愛らしい笑顔。その表情を保ったまま、マラコーダは艶かしく唇を動かした。

 

「どっちがいい?」

 

 

 

 

 

『ハカイ……サツリク……』

『分かっている。もうすぐだ。もうすぐ、『黒い太陽』が舞い降りる。その時こそ、私達は力を取り戻す』

『タノ……シミダ』

『ああ、存分に期待してくれ、我が盟友にして新たな家族、『破滅の魔獣』よ』




 盛り上がってきました。もう少しオリジナルが続きますので、お付き合いのほどお願いします。
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