ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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今回、化け物が大量に出てきます。


Life.58 魔獣再臨。

「どっちがいいって……そんな殺る気満々で何を言ってんだ。それとも、言えば味方してくれるのか?」

 

 警戒を解かずに投げかけた言葉に、マラコーダははっきりと答える。

 

「勿論。私は自他ともに認める気まぐれな嘘つきだし、数千年の付き合いの仲間との約束も気に入らなければ平気で破るけど……イッセーに対してだけは、誠実でありたいと思っている」

 

 電磁波、呼吸音、脈拍、心拍、臭い、筋肉の反応、いずれも不自然な様子は見られない。何より……マラコーダの眼は、決して嘘をついていない。

 

「ただ……さっき言ったよね? イッセーの質問に答える代わりに、私の望みも聞いてもらうって。あの連中を片付けたら――」

 

 ズババン!!

 

 みなまで言う前に、俺はとある一点へフォークを飛ばし、刹那の遅れでマラコーダの魔力弾が追撃する。一泊おいて姿を表したのは、ダンテと名乗ったあの魔法使いだった。

 

 ギリギリで障壁を張ったようだが、ドレスはあちこちがボロボロになっていて、フォークに貫かれた腹部からは血が流れている。

 

 傷口を抑えながらも、その表情は痛みより混乱に歪んでいた。それはすなわち、この女がそれだけ自分の術に自信を抱いていた事にほかならない。

 

「なぜ……私が居ることに気づいたの? 姿はおろか、臭いも音も、完全に遮断していた筈なのに……」

「達人の勘ってものを、舐めてもらっちゃ困る。加えて、俺の五感もな。それでも微かな違和感程度しか感じなかったんだ。超一流は名乗れるレベルだぜ」

「私はイッセーの攻撃に乗っかっただけさ。……人の恋路を邪魔した挙句、大事な場面に水を差しておいて、まさかこの程度で終わるとは思ってないよね?」

「ちょっと落ち着け。流石にここまでやった首謀者の一人を、何の話も聞かずに死なせる訳にはいかないだろ」

 

 両手の骨をバキバキと鳴らす俺に、マラコーダは抑えきれない怒りを凶悪な笑みとして剥きだしながら、両手と尻尾、そして背に展開した十二枚の翼を刃のごとく変化させる。 

 

「わかってるよ。……死なない程度に殺せばいいんでしょ?」

「それでいい」

 

 動の気を解放しながら身構える俺達に、ダンテは不敵な笑いを見せる。

 

 次の瞬間、俺達へ向けて飛んできた巨大な光の槍へ向けて、俺は音の爆弾を吐きつけた。

 

「ボイスミサイル!!」

 

 ゴオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!

 

 音のミサイルが光の槍を爆砕した直後、上から振るわれる光の剣の内側にねじりきった右腕を差し込み、受け流すと同時に拳をつきだした。

 

「白刃流し!」

「チッ!」

 

 黒い衣服を纏った男は眼前に迫った拳に対して舌打ちしながら首を動かし、僅かにかすった一撃の衝撃を利用して距離を取り、十枚の黒い翼を羽ばたかせながらダンテの前まで飛び退いた。

 

 挨拶代わりに猛烈な気当たりを交わす俺たちの間に割り込んだのは、さらに水を差される格好となったマラコーダだった。

 

「あ~もう、最悪だよ。また邪魔が入った上に、数百年ぶりに見たくもない顔を見る羽目になるだなんて……相も変わらず嫌なタイミングで出てきてくれるね――コカビエル」

 

 対面する、原初の悪魔と堕天使。俺の曽祖父が生まれるはるか昔から血で血を洗ってきた宿敵とも言える存在から名を呼ばれたコカビエルは、嬉しそうに笑いながら俺とマラコーダを交互に見比べた。

 

 こいつ……まさか!

 

「マラコーダ……そして赤龍帝。どちらも以前より桁違いのオーラを纏っているな。ふはは、いいぞ……それでこそ死合うに相応しい」

 

 そう言ってコカビエルは剣を消して光のオーラを全身から発し、濃密かつ堅固に凝縮させながら構えをとった。その所作は以前の戦いでは見られなかった無手の達人特有の空気があり、確実に前回を上回る凄みを俺に見せつけていた。

 

 苛立ちに任せてに舌打ちすると、マラコーダは言った。

 

「人の話を聞かないところまでそのままか……。それにしても、一体何をした? 確かお前は旧四大魔王を殺した時に相打ち同然の致命傷を受けて以来、まともに戦えなくなっていた筈じゃあなかったっけ?」

 

 マラコーダの指摘に警戒を強める俺を尻目に、コカビエルは卑屈に笑いながらに語り始める。

 

「ああ、そうさ。だから代わりに武器の分野に手を出したが、俺には向いていないと痛感するばかりだった。やはりアザゼルのようにはいかないな。あいつやシェムハザ、バラキエルは天才、そして俺は凡人に過ぎん事を思い知らされたよ。……だから、あんな連中とまで手を組んだ。今更新たな生きがいを見つけられるほど、俺は賢くないのさ」

 

 くつくつと自嘲気味に笑うコカビエルに、俺は自分自身でも不可解なほど強い感情を抱いてしまう。

 

 それは共感。

 

 安い同情でもなければ、一方的な理解でもない。ただ純粋に沸き上がってくる説明のしようがない一体感にも似たそれは、恐らく向こうも感じているだろうという妙な確信があった。

 

 そんなコカビエルの視線が、俺を射抜いた。最大値まで跳ね上がって突き抜ける想いは、逆に俺に安心をもたらしてくれる。

 

「……やっぱり、お前が連中とレイナーレを繋いだんだな」

「ほう、その推理の根拠は?」

「あいつは、俺の神器が危険だから上に調査を命じられたように言っていた。恐らく、それはお前が出した命令だろう? 奴らがレイナーレと接触する為の切っ掛けと、最悪の場合、あくまで俺を殺したのは一中級堕天使の暴走だと言い張るために。お前だって、まさか堕天使陣営だけで全神話勢力を相手にできるとは思ってないだろうからな」

 

 俺の指摘に、コカビエルは笑みを崩さずに言った。

 

「だが、お前の影響力は俺の予想を遥かに上回っていた。まさかほぼ全ての神話勢力が即座に重い腰を上げかけるほど怒り狂うとは思っても見なかったぞ。アザゼルにもずいぶんと釘を刺されたが、思えばあの時既に、あいつは俺が止まらないと悟っていたんだろう。だからエクスカリバーの一件でも、あそこまで対応が早かったんだろうさ。もう少しでコキュートス行きだった」

「それなりに厳重に拘束されてた筈なのに、よくもまああっさり抜けだしたもんだ。やっぱり誰かの手引があったんだな? それとも……グルメ細胞が目を覚ましたお陰か?」

 

 その単語を聞いた瞬間、コカビエルは感情が一気に弾けたように笑い出した。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハ! わかるのか! 流石は世界三位の実力者だ! このグルメ細胞という代物はとんでもない。なにせ、ただ美味いものを食うだけで、ほぼ力を取り戻せたのだからな!! あの時、連中から話を持ちかけられた時は疑わしかったが、そんな疑念などあの誘い文句には吹き飛んだとも!!」

「『かつての、全盛期の力を取り戻せるかも知れない』。彼がそう言ったら、あなたってば子供みたいに眼を輝かせていたものね」

 

 ダンテの言葉に、コカビエルは笑い声を収めて、気を爆散させた。

 

 ビリビリビリビリッッッッ!!!!

 

 天地に轟く気当たりは神さん、グル、グルッカル、美鈴さん、そして……俺に匹敵する。

 

 それは達人の頂点の頂点。特A級すら寄せ付けない別次元の存在……『超人』と呼ばれる存在だった。

 

「……かつての過ちを、もう繰り返すまい。俺は、この武と共に生きよう」

 

 既にマラコーダも一切の余裕も油断も捨てて、コカビエルに集中している。俺はコカビエルとダンテの両者に気を払い、コカビエルは俺達二人に壮絶な気当たりを放っている。一方、ダンテは……浅くない傷を気にもかけず、焦るように上を見上げている。

 

 そんな状態が一分ほど続き……。

 

 ドン!!!!!!!!

 

 ――凄まじい黒の気が、冥界全体を覆い尽くした。

 

 傍目には何も変わっていない。だが、確実に存在してる。強制的に全ての感覚器官を通じて、ひとつの概念が意識を染め上げる。黒、黒、黒、黒、黒、とにかく黒だ。

 

 全てを飲み込むガオウにも似た質だが、この黒は余りに空虚。何もかも塗りつぶす黒でありながら透明と言えるほど透き通って軽い。まるで空気だ。感じる大きさに反したその軽さが不気味で仕方ない。

 

 無垢で純粋、そして強大極まる黒。これを、俺は以前にも味わったことがある。

 

 だが何故……。

 

 !!

 

「まさか……冥界で事を起こした理由はこれか!?」

 

 コカビエルは、微かに口の端しを持ち上げて語りだす。

 

「天中殺。日本の六十干支で天が味方しない時期を指す言葉だが、これにはもうひとつの呼び名がある。そして、人間を含めあらゆる存在が恐れ、払い、時には奉った存在こそが闇だ。その二つが組み合わさり、ある妖怪が生まれた。それは運気を落とした地に生まれる指向性を持たない闇の力の塊であり、さながらその外見は黒い太陽。その名は――空亡(そらなき)

 

 ブワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!

 

 冥界全土から、黒の気が空の一点、成層圏近くのはるか上空へと集中していく。透明な黒は積み重なって厚みと重みを増し、それはどんどん大きく成長していく。

 

 一分足らずで生誕したそれは――まさに、黒い太陽だった。

 

 ざっと見ただけでも、確実に数千メートル以上の大きさの黒い太陽は徐々に、徐々に少しずつ動き……遂には、日食のように本物の太陽を覆い隠した。

 

 マスク越しに顔を向ける俺の心境を察したのか、コカビエルは勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

「コカビエル……今の冥界が空亡が生まれかねない状態だと、どうやって把握した!?」

「アザゼルはさぞ俺に新たな生きがいを見つけてほしかったらしくてな。俺に様々な研究、調査を勧めて、努めさせてきた。そして、俺は元々は星と星座を司る天使。それらと密接に関係した占術の分野は相性が良かった。元はバラキエルの専門だが、今ではアイツ以上の精度と研究成果だと自負している。こいつらの計画に空亡が必要だと言われてすぐ、今の時期の冥界が相応の、最悪の運気だと判明した瞬間、笑いが止まらなかったぞ!」

 

 チクショウ! だけど、相当な切っ掛けが無い限りこいつが出てくることは無いはずだ! どうして……。

 

 !!!

 

「そのための……賢者の石か?」

 

 反吐が出そうになる予想を何とか吐き出した俺に、ダンテは悪意に染まりきった色気を纏わせ、笑いかけた。

 

「ええ、そうよ。あらゆる種族の魂が凝り固まったエネルギー体は、ただバイオゾイドが動くだけで消耗され、それによって解放の喜びと苦痛の悲哀を叫んでいる。加えて、四罪の邪気、そして悪魔の魔力、堕天使の光力、おまけに今の悪魔は転生者が大勢いるから、さぞ混沌とした力の奔流になっているはずよ。それこそ、こうも簡単に空亡が生まれるほどに。これで、準備は整ったわ。

 ――いまこそ始めましょう。四つの(わざわい)の復活祭と、『死』を名に冠した滅びの魔獣の生まれ変わりを祝う生誕祭。二つを束ねた凄惨たる宴を」

「まずは……こいつらの出番ということだな」

 

 そう言ってコカビエルが取り出したのは、四つの宝玉。

 

 紫、赤、黒、白。四色の球体はそれだけなら美術品と言ってもいい美しさにもかかわらず、内部で靄のような不気味で恐ろしい『何か』が蠢いている。見ただけで常人なら命も魂も食われてしまいそうな、途方も無い邪気と力を持った『何か』。

 

 見間違えようもなく、それはかつての赤龍帝の鎧の宝玉。あの四体の悪神を封じ込めた物だった。

 

「馬鹿な……闘戦勝仏が管理していた筈のそれを、どうしてお前が!?」

「如何に初代孫悟空とて、全てに手が回り切るわけでもない。それに……どこにでも、騒動を望むものはいるということだ」

 

 コカビエルが宝玉を纏めて宙へ放り投げると……宝玉は眼下の森へと突っ込んでいった。

 

 直後、森から飛び出した四つの影が、それぞれ四方へ飛んで行く。目を凝らして判明したその姿は、宝玉に胸を貫かれて絶命寸前の四罪だった。

 

 恐らく、この光景は計画通りの絵面なんだろう。四罪ははじめから、四凶の肉体のバックアップ……生贄だったんだ。そこへ空亡の闇の妖力を注ぎ込んで、四凶を復活させるつもりか!

 

 そんな状況にかかわらず奴らは……笑っていた。

 

 当然、ただ手をこまねいてる理由はない!

 

「フェイ・ガンズ・ビレルゴ!!」

 

 ズババババババババ!!

 

 両手から発射される魚にも似た大量の高速消滅波が、それぞれ分かれた四罪を追おうとした瞬間。

 

 ババババババババン!!

 

 全ての消滅波が、高密度の光の槍によって相殺された。

 

 俺が睨むと、コカビエルは武の狂気にとりつかれたものが見せる、昏い闘志に満ちた笑顔を返してくる。

 

「貴様の空間操作は随分と便利だが、やはり呪文と同時使用は出来ないようだな」

 

 この野郎、たった二回の対戦で、完璧に俺の能力の欠点を見切ってやがる!

 

 俺の空間操作はガオウの重力を応用したワームホール……展開中は、力の源が同じである呪文は使用できない。かといって、倍加を用いない魔力弾や気弾じゃあの宝玉は破壊できない。

 

 即座に次を放とうとした俺に、コカビエルが動いた。極限まで圧縮させた光を纏った突きと蹴りの乱打を十人の分身と共に放ってくる。そばに寄ったマラコーダと共に、こっちも同じ数に分身して応戦するが、コカビエルはまったく余裕の様相で俺達二人の攻撃を迎撃してみせる。

 

「ははは、なんだ。貴様ら揃いも揃って、随分不調じゃないか。相当中の連中が煩いらしいな」

 

 くそッ、わかってんなら退きやがれ!

 

 てめえらも五月蝿えんだよ! 後で相手してやるっつっただろ!

 

 ソウルエッジ、ソウルキャリバー、そして消滅の力。こいつら、さっきから時が経つごとにざわついてこっちの意識の邪魔をしてきやがる! 影響自体は微々たるものだが、これほどの強敵相手だとそれがひどく足を引っ張る!

 

 マラコーダも、明らかに本調子じゃない。なんだかんだ言っても、やはり契約に沿わない形では他のマレブランケの魂が相当邪魔をしてくるんだろう。これじゃあ、二人がかりでもコカビエルを突破できない! いや、それ以前に一歩間違えばやられちまう!

 

 拳を交えて改めて確信する。こいつは本物の化け物だ。

 

 攻撃、防御、気の運用、身のこなしまで……何一つ、派手さはない。どこまでも基本に沿った、いっそ面白みがないとまで言える素朴なものだ。

 

 だが……拳の握り、腕の動かし方、重心の移動、それらを含めたあらゆる基本中の基本が奥の奥、細部の細部まで超高密度で鍛えあげられた一撃は、すべての攻撃を絶対的な奥義にまで引き上げている。

 

 しつこい程に基礎を重視し、磨きあげてきたと自他共に認める俺でさえ霞んでしまいそうなくらい……コカビエルは基礎を極めていた。そこに俺は……胸の奥から自然に湧き上がる畏敬の念を抱くことを止められなかった。

 

 もどかしくも紙一重の戦いを繰り広げている間に四罪は空中の一点で停止し……コカビエルが大きく距離を取った。

 

「そろそろか。義理もこれで十分果たしただろう。兵藤一誠、縁があれば、また近いうちに」

 

 勝手な事を言い残し、魔法陣の展開と共に一瞬で消えるコカビエル。

 

 コカビエルから意識を切り替えた俺が眼を向けると、ダンテが東洋系の術式を展開し、発動させていた。

 

 そして……。

 

 ズオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!

 

 空亡から放たれた莫大な闇が四罪へと降り注ぎ、一瞬にして巨大な黒い球体となる。

 

 ドグン! ドグン!! ドグン!!! ドグン!!!!

 

 まるで小さな空亡とも思える闇は幾度かの脈動の後、ガラスのように砕け散った……。

 

 ギャリアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

 四体の凶獣が外気にさらされると同時に、ゆっくりと目を開き……途端、思い思いにゆっくりと動き出した。

 

 いずれも山と見紛うばかりの巨体を有し、どう見てもニ百メートルは優に超えている。

 

 赤い虎の容姿に青い大きな翼が生えた窮奇(きゅうき)は、思い切り前足を伸ばしている。

 

 白毛の猿のような体に曲がった角を生やした翁の能面にも似た顔の饕餮(とうてつ)は、虎の牙を晒して大欠伸をかいた。

 

 灰色の長毛に全身を覆った犬の様な体に爪のない熊の手足を備えた渾沌(こんとん)は、長い尻尾を前に回すと、牙の無い口を開いて咥え込んだ。

 

 最後、四凶最大の巨体を濃密な紫色の鱗で包んだ、翼のない四足歩行の龍である檮杌(とうこつ)は、 キョロキョロと辺りを見回す。

 

 ともすれば間抜けにも見える動作をしていた四体の悪神が……一斉に俺に眼を向けた。

 

 殺気も、邪気も、敵意すら感じない。ただただ巨大な眼から発射される視線が四方から向けられてくる。それだけで……俺は恐怖のあまり全身から流れ出る冷や汗を止められない。

 

 力や体躯の大小なんて関係ない。もっと単純、いっそ子供っぽいといわれてもおかしくないレベルで、俺はあいつらが怖い。理由のつけようも無いほど原理的に、ひたすら怖くて怖くて仕方ない。

 

 奴らはある意味、どんな妖怪よりも妖怪らしい。ただそこにいるだけで、このどうしようもない恐怖をまき散らす。今の気を抜いてる四凶ですら、常人では直視しただけでも恐怖心から死にかねない。

 

「「「「兵藤一誠……」」」」

 

 異口同音に俺の名を呼んだ、妖怪の一種の究極系とも言える化け物が――その『恐怖』を知らしめんと動き出す。

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッ!!!!!!!! 

 

 四つの凶獣が、天を仰ぎながら雄叫びを天地に轟かせる。俺でさえ極度の緊張状態に叩きこまれるこの呪わしい叫びは、心の弱い者ならこれだけでパニックに陥ってるだろう事は容易に想像がつく。

 

 加えて、雄叫びとともに放たれた四凶の邪気は一体ですら四罪全員を纏めたそれ以上に濃く、殺気、重圧と相まって、もはや致死性の猛毒に近い。

 

 瞬間、音も影も置き去りにして地を蹴った窮奇が、青い翼を羽ばたかせて刹那の暇もなく光以上の速度へ加速し飛翔すると、爪を振り上げて目の前に迫っていた。ギリギリでワームホールを通って回避すると、一瞬の遅れで切り落とされた右腕に意識を集中させ、吸血鬼の再生力を持って即座に再生させる。

 

 ライリの眷属になって貰い受けた吸血鬼の能力……再生能力以外はほぼ扱えないが、これがあるだけでもかなり助かる!

 

 移動元を振り返ると、爪を振り下ろした体勢で唸る窮奇の前方は、地割れのような切り口が大きく広がっていた。

 

 こちらへ殺意を伴った獰猛な目付きを寄越すなり、再び窮奇が迫り来る。重龍皇の闇瞳の残滓と万華鏡写輪眼への開眼で極限的に動体視力を上げた眼でさえようやく捉えられるスピードは、今の俺の肉体が反応するにはあまりに早すぎた。

 

 ズバババババババババ!!

 

 防御も回避も行う暇すら無く、甚振る為に俺の再生速度を超えない程度に留められた斬撃の嵐が身を切り裂いていく。

 

 苛烈な窮奇の猛攻が過ぎ去ると、息つく間もなく饕餮が一足飛びに襲いかかってきた。刻一刻と増大する食欲に突き動かされるままに右腕を振り上げ、筋肉を膨張させて一回り巨大化させると、己の全体重を乗せて力任せに拳を突き出そうとしている。

 

「やらせるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 寸前、俺の前に魔法陣を展開させてマラコーダが立ちはだかるが、饕餮はそんなことを気にもとめずに殴りつけた。

 

 ドゴォォォォォォ!!

 

 神々すら恐れる四凶の中でも随一の腕力を誇る巨躯の凶獣が振るう稚拙極まりない暴力は、マラコーダの魔法陣を砕き、今の俺ではあらゆる武術の極意を持ってしても防げない程の破壊力を叩き出し、規格外の衝撃と痛みを与えてきた。

 

 ゴミのように吹き飛ばされようとする俺の体が、突如浮かび上がった呪詛文様で磔にされる形で宙に固定される。

 

 怖気を感じてある一点を見れば、こちらへ向けてひたひたと歩を進める渾沌が目に映る。尾を咥えたまま口の端を不気味に持ち上げて笑顔を作るその表情は、目を背けたくなるような悪意と悦楽をこれでもかと叩き込んでくる。

 

 ブワァァァァァッ。

 

 渾沌が軽く口を開けると、瘴気の塊が空気砲のように俺に直撃した。

 

 息を止めても無意味だとぬかすかの如く、体中の細胞を呪いと妖力で練り上げられた毒素が侵食していく。その感覚は四罪の腐壊五獄感に酷似しながらも、それ以上に獰猛であり、こちらの全てを破壊しようと暴れまわる。

 

 ゴバッッッ!!

 

 顔中から大量の血液を吹き出しながらも、俺は呪文を唱える。

 

「バ・スプリフォッ!」

 

 バシュゥゥゥ!

 

 消滅の力によって一瞬効力を弱めた拘束の術式を振りほどき、逃げ出すようにワームホールで距離を取ると……。

 

 ボオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!

 

 紫色の巨大な火球が目の前に迫り、咄嗟に呪文を唱える。

 

「アム・ドュ・スプリフォ!」

 

 目の前に出現した巨大な一対の手は、業火に削られながらも確かに炎を消し去った。……が。

 

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォッッ!!!

 

 紫色の太陽とでも形容できそうな、直前の炎とは比べ物にならない炎が、俺の体を包み込んだ。

 

「くっ……ぐあああああああああああああああああああああッッ!!!!」

 

 赤龍帝の炎を扱い、太陽の熱にも耐えた俺でさえ、悲鳴を抑えることは出来なかった。

 

 邪気、妖気、闘気から成り立つ黒に近い紫色の炎が熱、衝撃、圧力、あらゆる要素を持って与えてくる桁外れの痛みは、俺の肉体と精神に甚大なダメージを与えた。

 

「…………バ・スプリフォ!」

 

 バシュ!

 

 ある程度炎の勢いが弱まったところで消滅の呪文を口にすると、紫色の炎はわずかに抵抗しながらも消滅した。不時着同然に地に足をつけるなり、膝と手を付けた俺の前に、折れたであろう左腕を抑えながら、頭から大量に血を出血したマラコーダが着地する。

 

 そして、地響きを立てて、奴らは俺達の目の前にその巨体を晒した。

 

 殺気と悦楽に爛々と輝く八つの眼球、山と見紛う図体は、俺が封印した時から何も変わっていない。

 

「相変わらず活きが良い餓鬼だ。それでこそ切り刻みがいがある」

 

 光よりも速く天を飛翔し大地を駆け、ひたすらに全てを切り裂く最速の魔獣、窮奇。

 

「どうでもいいいいいいっ! 喰わせろォッ喰わせろォォォォォォォォ!!」

 

 あらゆる妖魔の頂点に君臨する怪力を持って、自分自身さえ喰いかねない食欲のままに全てを貪る狂気の餓獣、饕餮。

 

「ヒッヒッヒ……流石は赤い龍の坊やだ。全然無事じゃないか。さあもっともっと、この老骨と遊んでおくれ」

 

 飄々と笑いながら、果て無き妖力を持って呪いと瘴気をまき散らし、全てを腐らせる悪夢の妖獣、渾沌。

 

「赤龍拳帝……ようやく、ようやくだ。これで……殺し合いの続きができる」

 

 全身を覆う濃厚な紫は、あらゆる攻撃を弾く最硬の鱗。その体躯は饕餮の怪力と窮奇の速さに迫る力を持ち、渾沌に匹敵する妖力は万象を焼き散らす紫炎を生む。戦いが始まれば何がどうなろうと止まらない凶悪性ゆえに、邪龍に数えることすら忌避される最凶の狂龍にして、四凶の長、滅相の鏖龍(ハード・ヴァイオレンス・ドラゴン)、檮杌。

 

 人妖はおろか、神々からも恐れ慄かれた挙句、人間界に理由のない悪意をぶちまけようとした最悪の悪神が、冥界にて再び目を覚ましてしまった。

 

 戦慄する俺の目の前に、モーターの駆動音と共に、あの黒いGTロボが姿を表した。ロボが右手を突き出すと、その手のひらに乗せられたフラスコの中の黒い物体が、一つしか無い目と口を歪めて笑いながら俺に話しかけてきた。

 

『直接でははじめまして、だね。兵藤一誠君。名乗る名前もろくに無い身の上だが、とりあえずフラスコの中の小人……ホムンクルスとでも呼んでくれたまえ』

 

 ホムンクルス……錬金術によって生み出された人工生命体の総称。俺も色々なホムンクルスは見てきたつもりだったが、こうも情けなく……恐ろしい存在は初めてお目にかかる。

 

「ご丁寧に、どうも。それで? なんでわざわざ俺の前に現れた? 四凶が蘇ったタイミングで、殺されに来たとかつまらねえ冗談言うんなら、そのフラスコ叩き割るぞ黒マリモ」

『ははははは。その死に体でこの威圧感とは、恐ろしいものだ。なに、ただ我々はお礼を言いに来ただけさ。君が創りだした賢者の石で、私達の願いは叶えられるのだから』

「……願い?」

『なに、ほんのささやかなものだよ。単純すぎて気が狂いそうな程取るに足らない。だからこそ、私はそれを渇望する』

 

 四凶が飛び去り、同時にGTロボを囲う形でどす黒いオーラが充満する。オーラに巻かれる前にマラコーダの手を取り斜め後ろの上空へ逃れると、上空から四凶がGTロボを中心に十字を描いているのが見えた。

 

 四凶によって妖力を注がれた大地から泥のような汚濁が湧き上がり、巨大な円を描いては更に地を奔り、紋様を冥界の地に刻んでいく。

 

 あれは……錬成陣!!

 

 太陽を飲み込む獅子、雌雄番いの龍と交わり雌雄同体になった龍と、神を表す文字……二つの太陽、二つの月、そしてそれに囲われた石の文字。そして何より……あの陣の基礎は……金属と龍!?

 

 更に、空亡に太陽を封じられたこの冥界の状況は、ある意味日蝕と言っても過言ではない。

 

 頭に詰め込んできた知識を総動員し、答えを出す直前。

 

 ガシャン!

 

 胸部を展開させ、心臓のように脈打つ……ゾイドコアらしき物体を露出させたGTロボが、どこからとも無く賢者の石を取り出し、ホムンクルスのフラスコと共に、上へ高々と抱え上げた。

 

 無垢にして強大な緑の光が眩しく輝く中、切ない程の必死な声と共に、小さく手を合わせる音が聞こえた。

 

『今度こそ、私は――(フラスコ)の外へ出る』

 

 パン!

 

 ズアアアアアアアアアアアアァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!

 

 何度も見てきた錬成反応の中でも、これほどまでに危険で邪悪だと確信させられる光は記憶に無い。

 

 最初に、GTロボとホムンクルスが無数の黒い腕によって分解され、消えた。

 

 恐らく『真理』へ跳ばされたんだろう。そして、通行料を持って行った以上、奴らは確実に戻ってくる。だが、あの錬成陣……あの錬成が正しく行われるのであれば、確実に元の姿では戻ってこない。

 

 数秒後、宙に現れたのは……酸化した血液の様に赤黒い、巨大なゾイドコア。直径十メートルの脈打つ金属体は禍々しいオーラを放ちながら、夥しい勢いで自らの身体を錬成し、生成していく。

 

 二百メートル以上の骨格が出来上がるまでに十秒もかからず、更に内部部品と流体金属で出来た筋肉が貼られ、そこへ分厚く黒い装甲が覆いかぶさった。

 

 完成と同時に、底知れない悪意と破壊衝動が凝縮された赤が目に灯り、巨龍は自らの新生に対し、歓喜の咆哮を上げる。

 

 ギュアオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!!

 

 四凶と比べても、全く遜色ない重圧と邪気を咆哮とともに拡散させながら、テレパシーの様に意識の中に声が叩き込まれた。それは大きく変化しながらも、あのホムンクルスの物だと確信させられた。

 

『アハハハハ! ハーッッハハハハハハハハハハハハハハハ!!! 遂に! 遂に私は、『命』を手に入れたぞ!! 何者にも縛られず、自由に、広い世界を……滅ぼし尽くそう!!! そうだ、私は――我等は破滅の魔獣。いや……新たな地にして、新たな生命を授かりし今こそ、この地に相応しい名を名乗ろう。我らは――デスザウラー。滅尽の殺機龍(ジェノサイド・ブラスト・ドラゴン)、デスザウラーッッ!!!』

 

 ギュアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!!

 

 今一度吼える新たな邪龍を前に、俺は恐怖に限度はないという事実を、改めて思い知らされた。




 補足としましては、四凶の中で檮杌だけはかなりオリジナルです。原型はほぼ見当たりません。
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