ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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Life.6 俺、兵士です。

 ――はぐれ悪魔。

 

 上級悪魔の下僕が、主の元を逃走、または主を殺して自由になる事件が極稀に起こる。

 強大な力を、自分の為だけに使いたくなる連中が、主の元から去って好き勝手に暴れまわる。

 

 俺はドーナシークにこれと間違われた。いやな言い方をしてしまえば、野良犬だ。

 

 見つけ次第、悪魔ははぐれを消滅させる事に成っている。

 これは他の存在でも危険視されて、天使、堕天使も、はぐれは見つけ次第殺す事にしている。

 

 俺も神さんに戦わされたことがある。

 ライオンみたいなでかい獣とか、タコとウニが混ざった様な怪物とか。

 

 強さはそいつ次第で大分変わるけど、何でも主の所から逃げ出した悪魔は、力を制御できずに外見も力も醜悪になるケースがあるらしい。あの二体も、元々は普通の人間型だったと聞く。

 

 現在、俺を含めたオカルト研究部のメンバーは、町はずれの廃屋近くまで来ていた。

 

「報告によれば、この先の廃屋で誘き寄せた人間を食べているそうで、それを討伐するのが、今夜のお仕事ですわ」

 

 人間を喰らう……。それが、制御を外れた悪魔の邪悪さ。

 今の今まで、何度となく遭遇した事はあったけど、最初に見た時の衝撃は未だに忘れていない。

 戦ってる最中は気が張っていたから平気だったけど、悪魔を倒して、頭の血が抜けた途端、胃の中身を全部ぶちまけてしまった。

 

 時間は深夜、周囲を高い草木で囲われた、そこそこ立派な大きさの建物が見える。

 不穏な空気……それぐらいしか言えない程度の曖昧さだけど、確実に嫌な気配が漂っている。

 

「……血の臭い」

 

 小猫ちゃんはそう呟くと、嫌そうに鼻を袖で覆った。小猫ちゃんなりに、この空気を感じているのか、それとも、本当に血の臭いがするのか。まさか、小猫ちゃんの嗅覚は、文字通り猫並みか?

 

 暗い夜道を進んでいくにつれて、不穏な程度だった空気はどんどん悪くなっていく。だいぶ前から、明確な敵意と殺意が感じられるようになった。

 鬼が出ようが蛇が出ようが、部長は守る!

 

「イッセー。あなた、チェスは分かる?」

 

 前を歩く部長が、いきなりそんな事を言う。

 

「はい、一応、基本的な事は……」

 

 下手クソで一、二回しか勝った事ないけどね。神さん、何でもかんでも強すぎるんだよ。

 

「主である私が(キング)で、女王(クイーン)騎士(ナイト)戦車(ルーク)僧侶(ビショップ)兵士(ポーン)。爵位をもつ悪魔は、下僕たる悪魔にそれぞれの駒の特性を与えているの。

 先の大戦で、他の陣営同様、悪魔も大きな打撃を受けて、以前の様な軍勢を率いるほどの兵力は無くなってしまったわ。その為、少数精鋭の制度を取るようにしたの。それが、『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』」

「悪魔の駒……」

 

 反芻するように呟く。確か、どっかで聞いたことがある様な……。

 

「この制度ができたのはここ数百年の事なのだけれど、これが意外にも上級悪魔には好評だったわ」

「好評って……チェスのルールが、ですか?」

「お互いの駒――つまり眷属の強さを、競うようになったのよ。その結果、チェスの様な実際のゲームを、下僕を使って上級悪魔同士で行うようになったわ。これを私達は『レーティング・ゲーム』と呼んでいるけれど、このゲームが悪魔たちの間で大流行。今では大会も行われ、駒やゲームの強さが悪魔の地位、爵位に影響するほどになったわ」

 

 なるほど。

 そのゲームに強ければ、悪魔としての名誉が得られるってわけですか。

 その内、俺もゲームに参加する事になるんだろうか。

 

「フフ、安心なさい。私はまだ正式にゲームに参加する資格を持たないから、当分はレーティング・ゲームをする事は無いわ」

 

 部長が軽く笑ってそう言った。もしかして、少しビビってると思われたのかな。まあ、怖くないと言えば嘘になるけど。

 それよりも気になる事がある。

 

 俺はなんの『駒』か、だ。

 

「部長――」

 

 言いかけて、俺は後に続く言葉を飲み込んだ。

 

 全身を、不快な感覚が駆け巡る。

 

 淀んだ空気が激しく動き、濃密な敵意と殺気を届けてくる。

 

 何かが来る。そう認識すると、思わず反射的にブーステッド・ギアを発動させていた。

 

「不味そうな臭いがするわ? でも美味そうな臭いもするわ? 甘いのかしら? 苦いのかしら?」

 

 不気味な声色が響き、柱の陰から姿が見え……。

 

「おっぱい!」

 

 思わず叫んでしまった。だって見えたんだもん。

 

 暗がりから見えるのは、彼女の上半身。その身には何も纏っていなかった。

 

 かなりの美人だ。そして何より、おっぱいがまるみえ! それだけで最高と言える!

 何だこれ。俺が今まで戦ってきた怪物は何だったんだ。

 

「はぐれ悪魔バイサー。貴方を消滅しに来たわ」

 

 そんな俺を尻目に、部長は胸を張って言った。

 

「主の元を逃げ、己の欲求を満たす為だけに暴れまわる不逞の輩。グレモリー公爵の名において、貴方を消し飛ばしてあげる!」

「こざかしい小娘だこと。その紅い髪の様に、あなたの身を鮮血で染めてあげましょうかぁ!!」

 

 バイサーは、自分の胸を揉みし抱く。うおおあああぁぁ! ヤバい、これだけで俺、卒倒しそうだ!

 しかし、部長は冷静に鼻で笑って見せた。

 

「雑魚ほど洒落の効いた台詞を吐くものね」

 

 俺は未だに、あのおっぱいに夢中だった。

 

「バイサー……ただの見せたがりのお姉さんにしかみえねぇ!!」

 

 だらしない顔をしている自覚はある。でもしょうがないだろ。目の前におっぱいがあって、その持ち主自らおっぱいを揉んでいるんだぞ! 興奮しなけりゃ男じゃねえ!!

 

 なんて、スケベ根性を丸出しにしていると、暗がりからバイサーが一歩進み出てきた。

 

 ズンッ。

 

 巨大な足音が、廃屋を揺らす。化け物としか形容できない、巨大な四足歩行の下半身。尾は蛇で、独立して動いている。大体五mくらいの大きさだ。

 

 驚くべきなんだろうが、今まで見てきたはぐれ悪魔の中では比較的ましな外見だ。そしてなにより、あんないいおっぱいがある! すなわち、希望があるということだろう!!

 

 ひたすらバイサーが揉みし抱いている胸を凝視していると、魔方陣が浮かんでいる事に気がついた。

 

 皆がとっくに回避行動を取る中、俺は一足遅れて部長と同じ方向に飛び退いた。

 

 ドオオオン!

 

 魔力の一撃を受けた壁が、解けて貫通していた。

 

「うわっ。やっぱ化け物だ」

「油断しちゃ駄目よ、イッセー。祐斗!」

「はい!」

 

 部長の命を受けて、木場が飛びだした。速い。凄い速さだ。目で追うのがやっとだった。

 

「イッセー、さっきの続きをレクチャーするわ」

 

 部長は悠然と立って言う。

 悪魔の駒の特性の事か。

 

「祐斗の役割は騎士、特性はスピード。そして、祐斗の最大の武器は剣」

 

 確かに、木場の速さは凄い。あっという間にバイサーの懐に入ると、剣を二閃、振るった。次の瞬間、二本の巨大な腕が落ちると共に、悲鳴がこだまする。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁああああああ!」

 

 悲鳴を上げるバイサーに、小柄な人影が近づいていく。小猫ちゃんだ!

 

「おのれぇぇぇえええ!!」

 

 バイサーは顔を醜く変形させ、胴体が縦に裂けて、牙が生えた大きな口が現れた。その姿は、俺が戦ったはぐれ悪魔に負けず劣らず、醜悪な姿だった。

 そのまま倒れ込むように小猫ちゃんに襲いかかり、なんと小猫ちゃんはそのまま巨大な口に飲み込まれてしまった。

 

「小猫ちゃん!!」

 

 叫び、突撃しようとする俺を、部長が手で制止する。

 

「大丈夫よ」

 

 確信に満ちた答えに、俺はバイサーの方を見る。すると、巨大な口をあの細腕で力づくでこじ開ける、小猫ちゃんの姿が見えた。

 ていうか、服が所々破けてる……。っていかんいかん!

 

「小猫は戦車。特性は至ってシンプル。馬鹿げた力と防御力。あの程度じゃびくともしないわ」

「……吹っ飛べ」

 

 小猫ちゃんはそのまま、体を捻るように口から出ると、強烈な右フックで牙を砕きながら、バイサーを吹っ飛ばした。

 

 ドドンッ!

 

 巨大な体が、柱に叩きつけられ、柱をへし折って向こう側で落ちた。

 なんてパワーだ! そういや森沢さんが、小猫ちゃんは怪力、なんて言ってたっけ。

 怪力なんてレベルじゃねーぞ! 森沢さん、アンタ凄いよ。よりにもよってこんな所に惚れるだなんて、俺には真似できない。

 

「最後は、朱乃」

「はい、部長。あらあら、どうしようかしら」

 

 朱乃さんがいつも通りの笑顔を浮かべながら、ゆっくりと歩いていく。その時、部長の後方で、さっき木場が斬り落としたバイサーの両腕の片方が、ぴくり、と動いた。

 そして、跳ねるように飛んで部長へと襲いかかる。

 

「部長!」

 

 突然呼びかけた俺の方を向いた為、部長はバイサーの腕とは正反対の方を向いてしまっている。何してんだ、俺は!

 

 篭手を振り上げながら腕との距離を詰め、部長の横を通って、覇気を込めた拳を叩き込む。殴り飛ばされた腕は壁に激突し、跡形もなく消し飛んだ。

 

「あ、ありがとう……」

 

 尻もちをついた部長に、呆けたように礼を言われ、思わず少し照れてしまう。

 

「あ、いや、体が勝手に動いただけですから。ていうか、下僕の俺が、主を守るのは当然ですよ!」

 

 部長はすっと立ち上がると、朱乃さんへと命を下した。

 

「朱乃、やってしまいなさい」

「部長に手を掛けようなんてオイタをする子は、お仕置きですわね」

 

 朱乃さんは両手に雷を迸らせながら、バイサーに近づいていく。

 な、なんか、怖いですよ? 朱乃さん。

 

「朱乃は女王。全ての駒の力を兼ね備えた、無敵の副部長よ」

「ぐぅぅぅ……」

 

 弱りながらも、朱乃さんを睨みつける。朱乃さんはそれをみて、不敵な笑みを浮かべた。

 

「あらあら、まだ元気そうですわね。では、これはどうでしょう?」

 

 朱乃さんが天に向かって、手を翳す。

 

 カッ!

 

 刹那、屋内が強く照らされ、雷が落ちた。

 

「ガガアアアァァァァッ!!」

 

 凄まじい叫び声に比例するかのごとく、朱乃さんの頬がピンクに染まっている。心底楽しそうだ。

 

「朱乃は魔力を使った攻撃が得意なの。そして、彼女は、究極のSよ」

「あらあら、まだ元気そう……何処まで耐えられるかしらぁ!! うふふふふふ!」

 

 更に、電撃が加えられる。まだ終わらない。まだまだ終わらない。

 

「わ……笑っている……」

 

 とても楽しそうですが、それが非常に怖いです、朱乃さん。

 

「朱乃、そのくらいにしておきなさい」

 

 部長に言われて、ようやく朱乃さんは電撃を止める。そして、喜悦一色の笑顔を向けた。

 

「もうおしまいなんて……ちょっと残念ですわね。うふふ……」

 

 冗談に聞こえない。いや、冗談じゃないんだろうな、きっと。でも、笑顔は可愛いです。朱乃さん。

 電撃にやられて、ボロボロになったバイサーへ、部長が近づく。

 地面に突っ伏すはぐれに向かって手を翳すと、重い口調で話しかけた。

 

「最後に言い残す事は有るかしら?」

 

 部長が聞くが……。

 

「殺せ」

 

 出てきたのは、たった一言だった。

 

「そう、なら消し飛びなさい」

 

 ドンッ!

 

 部長の掌から、ドス黒い魔力の塊が撃ちだされ、バイサーの巨体以上の大きさの塊が、その体を覆う。

 

 魔力が宙へと消えた瞬間、バイサーの姿はそこにはなかった。

 部長が言った通り、消し飛んだようだ。

 

「終わりね。皆、帰りましょうか」

「「「はい、部長」」」

 

 部長が魅力的な笑顔を浮かべ、俺以外のみんなもにこやかに返事をする。張り詰めていた空気が霧散して、いつもの陽気な感じを取り戻していた。

 

 はぐれ悪魔。少し前まで、敵以上の認識はなかった。でも、悪魔となった以上、それ以上の物を感じられずにはいられない。

 

 好き勝手に暴れ、人を食い殺した怪物。死んだ事に同情の余地は無い。

 しかし、あいつもまた何かを思い、主の元を離れたんだろうか……。

 

 悪魔の戦いか……。みんな、俺が思っていたよりもずっと強い。

 

 今の俺じゃ、まともにやっても勝てるかどうか……少なくとも、ブーステッド・ギアなしじゃ、勝負にならないな。

 頑張って、追い付かないと……

 

 決意を新たにすると共に、俺の中に一つの疑問が生まれる。

 

「あの……部長」

「なあに?」

 

 かわいらしく返事をしてくれる部長。

 

「それで、俺の駒は? 俺の下僕としての役割って、何なんでしょう?」

 

 予想はしていた。ああ、そうさ。色々考えたけど、俺に似合いの駒なんて、一つしかなかった。

 

 次点で戦車。でも、希望としては戦車か騎士が良い。

 しかし、部長の答えは、そんな儚い思いを粉々に打ち砕いてくれた。

 

「ポーンよ」

 

 そう言って、部長は朱乃さんと歩きだす。

 

「ポーンって、あの……」

 

 俺の声に、すっと振り向いて、真正面から言ってくれた。

 

「そう。イッセー。あなたは兵士(ポーン)なの」

 

 頭の中に、ポーンのイメージが浮かぶ。

 

チェスの駒としては、大体特徴の無い形になって、一マスずつ前にしか進めない、駒の半数を占める程数が多い、最弱の駒。

 

 すなわち……。

 

 

「一番下っ端ぁぁぁぁあああーーーーーーっ!!」

 

 帰り道、木場がポンっと肩を叩いてきやがった。

 

 ……

 

 …………

 

 …………………

 

 死ね!! イケメン騎士ォォォォォォオオオオオオオーーーーーーーーーーッ!!!

 

 

 

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