生来の友であるアジュカを除けば、恐らく最も付き合いの長い友人であろう榊神は、飄々としていて滅多なことでは怒らない。気に入らない事があれば、極めて自然かつ当然の如く相手を物理的に地獄に落とすが、常に超然としていて何事にも達観的であり、ある種の超自然とも思える人物だ。
そんな彼がつい数ヶ月前、半径百メートルの氷水が一瞬で蒸発する勢いの怒りを赤いオーラとして纏いながら冥界の最高会議に現れ、私の胸ぐらを掴んで光速で揺らしながら自分の弟子が悪魔にされたと語った時は、真剣に冥界の滅びと自分の死が頭を席巻した。
ああいった場合、彼が欲するのは心の底からの誠意と理解していた私は、彼の弟子が不自由を覚えた場合の便宜を約束することでなんとか命は繋げたが、神は私の胸ぐらから手を話すやいなや、呆れた表情でこういった。
『まあ、俺はそれでいいんだが……魔王サーゼクス、一応、友人として言っておく。今にお前は絶対に思い知る事になるぞ。兵藤一誠の存在は、単なる下級悪魔にしておくには極限的に絶大過ぎるってな』
……神。あの時、身にしみた君の忠告が言い過ぎでも何でもない単なる事実だという現実を、私は今になって思い知っているよ。
夢幻、真龍、
映像越しでも目を離せない魅力を放つ醤油を嚥下した巨龍は、何をするでもなくただジッと兵藤一誠君のアクションを待っている。緊迫すべき場面のはずなのに、一周回ってシュールにも思えてきた。
ゴッッッ!!!
――――ッッ!
撒き散らされた殺気と気当たりによって場の空気が一瞬で引き締まり、四人全員が魔力を高めて身構える。数多くの達人を相対してきた私でも、数える程度しか経験のないクラスの気を纏いながら、クロウ・クルワッハは星空を見上げる子供のような純粋な眼に、奈落の底の更に底を思わせるドス黒い闘志の炎を燃やしていた。
「ずいぶんと待たされたが、これでようやくお膳立ては済んだわけだ。さて……」
ボッ。
ここへ姿を表した時から見せびらかすように掌で弄んでいたスイッチを消滅させると、クロウ・クルワッハは圧倒的なオーラを纏い、左腕に黒を金色で彩り、緑色の宝玉が嵌めこまれた篭手を顕現させた。
「こいつの試運転ついでに、ウォーミングアップもしておくか……付き合ってもらうぞ、四大魔王」
宝玉が昏い輝きを放った途端、クロウ・クルワッハの圧力が倍にも増す。
身構える邪龍の姿に己の死をも覚悟しつつ、我々は冥界の敵を排除しようと動き出した。
首尾よく
『LordLordLordLordLordLordLordLordLordLordLordLordLordLord!』
ギュオオオオオオオオオオオオ!!!!
吸収した力を纏めて肉体の硬化へ回すと、筋肉がメキメキと音を立てて全盛期の強さへと近づいていく。だが、まだ足りない。更に吸収力を高める俺の視界に、Eシールドをドリルのように回転させながら地中から飛び出た赤い獅子が映り込む。
ガオオオオオオオオオオオオオ!!
咆哮と同時にシールドを消した獅子型ゾイド、カイゼルライガーが二枚の翼を広げながら宙を駆けてグレートレッドの前に走り寄ると、コックピットが開き、ライリが満面の笑みとともに俺へ向けて親指を立てた。
「イッセー、準備完了!」
「よし、オルトォォ!!」
大空へ声を響かせると、ちょうど良くギルドラゴンが俺の頭上まで飛んでくる。明が瞬間移動で姿を消し、コックピットを閉じたライリがライガーを駆ってギルドラゴンの内部へ入ると、二人が転移させた無数の武具がグレートレッドの周りへ突き立てられた。そこへ、俺が以前創りだしたエクスカリバーと天叢雲の合体剣も放り込む。
それ以外にも、古今東西の聖剣魔剣妖刀霊刀、ありとあらゆる武具の数々。ほぼ全て俺が創りだした、オリジナルに匹敵するレプリカだ。それ以外にも、フェンリルの牙やテュポーンの骨で作られた武器や、狂戦士の鎧もある。
そして、それらを統合する要の役割を与えられた二つの武器が、それぞれ真逆の外周に突き立てられた。
ロキがニヴルヘイムの門でルーンを唱えて作りあげ、その後レーギャルンの箱に入れられ、九つの鍵を掛けた上でスルトの妻シンモラに預けられた、害をなす魔法の杖。俺が手にした瞬間、スルトの炎の剣を象ったヴィゾフニルを唯一殺せる神魔剣。正真正銘、本物のレーヴァテイン。
対するは、神仏の御業を備え、因業を断ち切ることもできる奇跡の神剣。天上天下に存在するあらゆる神剣を凌駕し、千子村正の執念すら断ち切った究極の刀。朧流を体得する以前から、俺にくっついて来た最強の日本刀。
パン。
両手を打つとともに目を瞑りながら、周囲に存在する全ての武具に思いを馳せ、頭のなかに一つの工房を創り上げた。創造の理念を鑑定し、基本となる骨子を想定し、構成された材質を複製し、製作に及ぶ技術を模倣し、成長に至る経験に共感し、蓄積された年月を再現する。俺がやって来た事の再確認だ。
頭の中で幾度と無く槌が鋼を打ち、火が燃え盛り、水が冷やす。一つの武具が完成するなり、それを実物の武具へと重ね、幾度と無くそれを繰り返す。
全ての武具がイメージと重なった瞬間、頭のなかの工房を飛び出た俺は、万華鏡に現実を映し出すと同時に、グレートレッドの背中に両手を押し付けた。
ヴァゴオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!!
一つとっても計り知れない力を持った伝説の武具が次々に分解されていき、力の奔流となって要の二本へと送られていく。全ての武具が姿を消すと、最後はレーヴァテインと朧村正が分解され、陣を伝ってグレートレッドを介し……俺へと注ぎ込まれる。
我ながら緊張感の欠片も無いが、胸が踊るのを止められない。これから生まれるのは散々皆に子供の発想と笑われながらも貫き通した、俺の研究の集大成の一つ。理論と事前準備の段取りだけは前々からやってたけど、まさかこんな突貫工事のぶっつけ本番でやるとはな。まあ、この方が俺らしい!
そして、同時にソウルキャリバーとソウルエッジを錬成に交えれば、残るは消滅の力のみ。単体なら押し黙らせるのは簡単だ。
これで、『本気』で『全力』が出せる。そうでもしなきゃ、クロウ・クルワッハには対抗できない。
雑多な思考を断ち切って、いよいよグレートレッドから分解された武具が全て体内に入ってきた事を確認し、立ち上がった瞬間……。
ズババッ!!
「おっ……?」
胸からは酸化した血液のように赤黒い邪悪な波動を放つソウルエッジ。
腹からは冷酷なまでに美しい青白い光を放つソウルキャリバー。
二本の剣が、長大な日本刀の形状を晒しながら俺の血を滴らせる。
ズドバザガジュグバガガジュバザギシュドドスパゾグベギザザ!!!!!
それを合図に無数の武器が、俺の内部で元の形状を取り戻すと同時に、骨と筋肉を引き裂き、皮膚を突き破って外へと飛び出る。
意識を集中させてそれらを分解し直すが、次から次へ矢継ぎ早に全身を痛めつける武具はその身に秘められた力を余すこと無く発揮し、俺の身体へ祝福と呪いを痛みとして刻んでいく。吸血鬼、そして今しがた取り込んだばかりの、フェニックスの再生力を全力で行使するが、いくら直したところで、単なるイタチごっこにしか成り得ない。
「おぁ……お…………オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!」
リバウンド……いや、そんな生易しいもんじゃない。痛みという痛みに慣れた俺でさえ、個人に集中する災害も同然の激痛と衝撃と衝動と感情のままに叫び声を上げている。
けど、大丈夫。これは元々こうなると踏んでいた結果だ。
伝説級の武具を全て一つに統合するなんて真似が安々とできるだなんて、俺はこれっぽっちも思っちゃいない。どう足掻いたところで俺は所詮十七歳の馬鹿な凡人のクソガキで、限界という非情な現実は確かに存在する。
だからこそ、独りでできなければ、誰かの力を借りればいい。この場合は……素材となる数多の武器そのものの力を。
とはいえ、エネルギーや構築式、その辺りは皆に手伝ってもらったから、最初から問題はないと確信している。問題となるのは……俺自身の技術。
ただでさえ、錬金術は才能が必須。それを馬鹿そのものの努力と反則みたいな師匠で無理やりねじ伏せたって、壁はどこまでもそびえ立っている。増して俺がやろうとしているのは、一つの神滅具を作るに等しい所業。エネルギーや理論が揃ったって、何か一つ要素がかければ失敗もするだろう。
だったらどうする? 無理だからと諦めるのは論外だ。失敗覚悟で一か八か、なんて言うにも危なっかしすぎるし、機会が限られている。じゃあ、答えは一つだ。
失敗なんか出来ないようにすればいい。それが俺の結論だ。
一度理解、分解した武器を、グレートレッドを通して再構築することで、夢幻を司るグレートレッドの力を借りて、俺の精神と魂に武具の全てを
これを言った途端、皆ものすごく怒ったっけ。今にして思えば当然だよな。
例えようもない痛みと激情の嵐は、既に何度と無く俺の意識を遠いところに飛ばしかけてる。自慢じゃないが、俺でなけりゃとっくに精神崩壊して、跡形残さず切り刻まれてるだろう。
複製の際に投影した武具の歴史、完全に模倣した威力、本物と寸分たがわない能力、その全てを精神と魂に直接叩きこむんだから、もう容量だの才能なんて問題じゃない。
間違いなく、これは本来外法とされるべき所業。正しい知識があって、まともな神経が一本でも残ってるんなら、実行するなんて頭の片隅にも浮かばないやり方だ。
……つーことは、だ。うん、まあ、散々言われてたし、今更だよな。
どんなお題目を並べても、結局は……。
――俺も十分イカれてるってことだッッッ!!!!
ズドバザガジュグバガガジュバザギシュドドスパゾグベギゴギャメギバキグジュジリゴリザザ!!!!!
今更すぎるよなぁ……改めて実感してるぜ。こんな奴、まともじゃないに決まってんだろ! 想像を絶する痛みを受けて、破裂しそうな精神に恐怖してなお!
その痛みを与えてくる武器に、称賛の念が止まらない!! その先に生まれる最強の武器に想いを馳せている!!
この地獄すら生温いと感じる痛苦の中でさえ、自分の死が想像できない! 生き残る己以外が頭をよぎりもしない!
どっから湧いてくるんだこの自信!? 狂ってるにも程があんだろ!!?
だけどよ、仕方ないだろ。それが俺だ! この芯からイカれた馬鹿野郎こそ、紛れも無い兵藤一誠そのものだ!!!
果てしない自己肯定の果てに当たり前の答えを見つけ、最後の武器が魂を貫いた直後、俺は真理の前へと消え去った。
夢心地で垣間見たのは、つい二年前の俺。俺と全く同じ容姿をしていながら、遥かに圧倒的なエネルギーに満ち満ちたそいつは、目の前に現れた胡座をかいたのっぺらぼうと巨大な門へ好奇心に彩られた眼差しを向けながら、面白そうに語りだした。
「これが、真理の扉……そして、こいつが真理……。じゃあ、やっぱり、俺の理論は正しかったんだな!!」
『まあ、そうなるかもな。しっかし、また盛大な馬鹿やらかしたもんだぜ。極超新星爆発の瞬間を狙って、爆発のエネルギーを利用して縮退星を賢者の石に錬成する? はっ、正気の沙汰じゃねえな。可能不可能とか、耐えるとか耐えられないとかじゃなくて、思いつく時点でどうかしてるぜ』
「うわー……神さんの言うとおりムカつく奴だな」
ある意味、誰よりも自分を理解している存在に対して、俺が示した態度はあからさまな不信と拒絶。己の全てをさらけ出す者へ、そいつが次に口を開くよりも早く、持論を述べた。
「そんなことよりも……人体錬成と同じく、星を錬成することでも真理へ辿りつけた……つまり! これは星そのものが一個の巨大な生命体だという紛れも無い証だ!! そうだろ!? ハハハ、やっぱり俺の仮説が正しかったんだ! だったら、珪素生命体も存在しうる! ORTは間違いなく生命体なんだ!!」
『……で? それがわかって、お前はどうしたいんだ。本でも書くのか? それとも論文? それで地位や名声でも欲しいのか』
浮かれ燥ぐ俺に冷静に意義を問う真理へ、俺は持ち上がったテンションに任せたまま、素直な想いをぶつけた。
「ハハハハハ! 地位? 名誉? なんだそれ、美味いのか? 俺はただ知りたかっただけだよ。賢者の石も作ってみたかったし、丁度、あれの強度も試してみたかった。だからやった、それだけのことだ。真理そのものも大した問題じゃない。とはいえ体の一部を持っていかれるのは御免だからな。そのために極超新星爆発を起こした瞬間の縮退星を赤龍帝の篭手に取り込んで、賢者の石に作り変えたんだ。これで対価には十分だろ?」
『……』
今までに無いほど強烈な輝きを放つ篭手の宝玉を見せつけると、俺はそのまま明後日の方向へ歩き出した。
『おい、どこへ行くんだよ。まだメインイベントが残ってるぜ』
「――真理を見ろってか? ハッ」
足を止め、振り向いた俺は面倒を前面に押し出しながら両手を広げた。
「お断りだね。手合わせ錬成はたしかに便利そうだけど、莫大な情報を脳みそに叩き込まれるんだろ? そんなん要らないっての。通行料だってあるんだから、さっさと帰」
『駄目だ』
チリ。
字数にして、わずか三文字の発声。立ち上がる、輪郭すらもあやふやな存在が発した音に籠められた冷徹さと厳格さに、俺は全身が総毛立ち、無意識に身構えていた。
『真理を見るのは優れたものの権利とか褒美じゃない。禁忌を踏み越えたものの義務であり、罰だ。星は一つの生命体がお前の持論。なら……お前は他の命の有り様を自分のエゴで創り替えたわけだ。人で言い換えれば、死に間際の老人を解体して、オブジェにするようなもの。お前は、好奇心の為に、一つの命を弄んだんだ。それが罪でなくて、なんだって言うんだ』
「……違う」
蚊が鳴くような否定の声も聞こえているだろうに、真理はなんの容赦も足音もなく、俺へ向けて歩を進めながら話を進める。
『おまけに、狡猾な事にちゃんと対価まで用意したんだ。なら、こっちもそれ相応の物をお前に渡す必要がある。それとも何か? 釣りはいらないってカッコつけるのか? 馬鹿かお前。一方的に払っておいて受け取らないっていうのは、殴っておいて殴られるのが嫌だっていうのも同じだ。そうは問屋が卸さないってな』
「やめろ」
俺とまったく同じ背丈の真理から感じられる、あの巨大な恒星ですらちっぽけに感じる存在感は、全力で逃げ出したい俺の肉体、精神、魂の全てを圧し潰さんばかりにのしかかり、震えすら怒らないほど徹底的に俺を押さえつけていた。
『やめるわけがねえよ。だって、そうだろ? オレは、おまえ達が世界と呼ぶ存在。あるいは宇宙、あるいは神、あるいは真理、あるいは全、あるいは一、そして……オレはおまえだ』
「嫌だ」
かすれた拒絶など、何の意味もないと告げるかのごとく、真理は俺の手を取って、無貌の顔に口を浮かべて、ニンマリと笑いながら……選択の結果を突きつけた。
『――払った分は受け取れよ。等価交換だろ? 『錬金術師』?』
――――――――――ガシャアアアン!!
記憶の回廊を抜けて覚醒した意識が目の前の門を認識すると、後ろからあいつの声が放られてきた。
『つくづく馬鹿だな。三回もここへ来る奴なんてそう居ねえぞ?』
最も過ぎる指摘だけど、やっぱり他にもそういう奴がいたんだ。
しかし考えてみると、ここでの会話は全部盛大かつ壮大な独り言ってことなんだよな。
「だろうな。けど……今回は決定的に違う」
我武者羅で向こう見ずな好奇心ではなく、確かな覚悟を持って、俺はここへやって来た。
ゆっくりと、ゆっくりと開く扉を見上げながら、緊張に固くなる心身を解し、掌を見つめる。
『んな気合入れる必要がどこにあんだよ。最初の時点でどれだけ莫大な情報量を飲み込んだのか、分かってないのか? 今更限界を怖がってどうするんだ』
「仕方ないだろ。それが俺なんだ。いつだって怖くて怖くて仕方なくって、勇気とかノリとか勢いとか経験とか、色んなもんで補強してようやく立ち向かえるんだ。人間ってのは、怖がりだから人間なんだよ」
『ハハハ! 人間、ねぇ……。じゃあ、いいこと教えてやろうか。ここまで膨大な真理を見た奴は、お前ぐらいなんだぜ? そして今、更に奥の領域へ足を踏み入れようとしている。もう、等価交換の方式なんか当てはまる存在じゃない。ノーモーションで錬成とか出来るんじゃねえか?』
「へぇ……それは便利そうだな」
『グルメ細胞、チャクラ、覇気、賢者の石、神滅具、武術、こんだけ力という力を備えて、まだ足りないのか? 行き過ぎた欲は身を滅ぼすぞ』
「じゃあ、どこからどこまでが行き過ぎなのかそうじゃないのか
『その果てにあるのが地獄かもしれないのにか? そうして全てを備えて、人間から全知全能の神にでも成り上がるつもりか?』
……こいつは世界で、真理で、全で、宇宙で、神で……俺の言葉。だったら……俺の返答だってわかってる筈だ。なのにこんな事いうなんざ、どこまでも性格の悪いやつだぜ、本当に。
精一杯の意趣返しとして、振り向きざまに舌を出しながら言ってやった。
「全知全能? ハッ――誰がそんなもんに成り下がるか馬鹿野郎。どんな勝って当然、出来て当然、モテて当然、つまらない事この上ないな。どれだけ強大な力があっても、勝てるとは限らないからこそ楽しいんじゃねえか。その上で自分が勝つ可能性を一切疑わないからこそ、俺は凄えんだよ。神だって? そんなもんは種族としての分類で十分。全知全能なんてものは妄想に過ぎないし、揺るぎ無い力なんて存在できない。もしあるとすればそれは……全てが滅んだ虚空の彼方だけだ」
『だから、どれだけ力を得ても満足出来ないってか? そうやって命あるかぎり、力を追い求め続けるつもりか』
「ああ、だけど勘違いするな。力は所詮力、手段に過ぎない。大事なのは、それを御する心だ。――心無き力はただの暴力。俺が最も尊敬する異世界の達人が教えてくれた事だ」
『あーあーありがたいご高説どうも。それで? その心とやらで、お前は何をやるつもりなんだよ』
……フッ。つくづくわかりきったことばかり聞いてきやがって。まさに、俺の真理だな。
「差し当たってまずはやっぱり、自分の都合で他人を泣かせる連中を〆る事と……俺の、俺による、俺のためのハーレム建設!!!!!! 美乳、巨乳、爆乳の美女美少女を揃えまくって!!! ハーレム王として俺がその中心に君臨する!!!! そんでもってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
『そんでもって?』
煩悩に塗れた脳みそをサラッと切り替え、奥底から沸き上がるままの願いを告げた。
「――出来るだけ、大勢の人を幸せにする。……ついさっきまではさ、辛いことを全部俺が引き受ければ、それで実現できるって信じこんでたんだ。でも、俺が苦しむことで心が悲鳴を上げる人達がいる。俺は……分かってた筈なのに、その事実を無視してたんだ。
皆の心配や無力感を踏みにじりながら、果てしない痛みや辛さに耐え凌いで、こんな想いを皆にさせたくない。だから俺が守る。そんな想いが間違ってるはずがないって、独り善がりで暴れるばっかで……その癖、力を得た責任は余所へ押し付けだ。馬鹿すぎるだろ、幾らなんでも。……だからって、もう後戻りなんて出来ないんだ。力とそれに付随する影響を捨てるには、俺は余りに持ち過ぎた」
『……それで?』
「全部背負う。馬鹿も阿呆も力もエロも、
ガシャアアアン。
開ききった扉から巨大な眼が俺を捉えるとともに、無数の黒い手が俺の身体をあっさりと持ち上げた。
『それがお前の罪の証。果ても底も無い無限大の欲望を抱えながらも、誠実に生きる愚かな龍は絶大な真理の力と、比例する責任を負った。そして今、お前はさらなる証を受ける』
「フッ、フフフ……ハハハハハ……アーーーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! アハッッ! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
激情のままに笑い声を上げる俺を淡々と見つめる瞳へ、万華鏡写輪眼を展開させながら啖呵を切った。
「上等だ!! たかが世界の一部やそこいら、背負う程度の器量なくして何が帝皇だ! 俺が生きてる間は精々、便利に使わせてもらうさ! ドラゴンなめんじゃねえぞ、
ズアッッ!
内部へ連れ込まれた俺の脳内に、数多の情報が叩き込まれ、刻まれていく。数分とも数秒ともつかない嵐の果てに、人の輪郭が見えた。
「――ナムサァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッッ!!!!」
バキィィィィィィ!!
『!!!???』
全身の筋肉をフルに使い、空を蹴って
は、ハハハ。やってやったぞ、この野郎。
莫大な修行の結果、限界という限界を覇壊し、遂には覇竜すら超越した俺の身体は、とてつもない能力に目覚めていた。封印が解けたとはいえ、どうなってるのか不安だったから、上手くいってホッとした。
それは、幻想郷的に言うなら『殴りたいものを殴る程度の能力』。有形無形はおろか、どんな性質を持った存在だろうが、俺が殴ると決めれば絶対に殴る事が出来る。
火水土雷風の現象だろうが、消滅の力や破滅の魔力だろうが、霊体や魂、果ては時間、空間といった概念的な存在だろうが、殴ると決めたら絶対殴る。それが俺の生き様だ。
例え真理だろうが、あそこまで好き勝手言われて一発もかまさないと、男が廃るってもんだぜ。増してこいつは……俺なんだから!
「どうだ! だから言っただろ……ドラゴンなめんじゃねえってな!!」
軽くふっとばされた格好の真理は、殴られた顔面を気にすることもなく、ニンマリと歯を見せつけて笑いやがった。
『……上等だ、錬金術士。お前がどこまで
直後、分解が始まると同時に、意識が再び空白に包まれる中……挑発な視線ながらも、柔らかく笑う俺の顔を目に焼き付けた。
俺の身長より少し低い程度の長さの、龍が刻まれた丸鍔の日本刀。これこそが、俺が創りだした最強の武器だった。
左手に鞘を錬成して刀を収めると、身体を左へ捻りつつ腰を落とし、全身の力を大気というレベルまで脱ぎ捨てて、上空の空亡を見据える。そして――
刀を抜き、刀身の鞘走りをもって加速させ、斬りつけた後、再び納刀する。渾身の居合の手応えを感じながら、思わずため息が出た。
「……フゥ」
チンッ。
数瞬の遅れで追いついた鍔鳴りが、そっと周囲に響き渡ると……。
ズババッッッッッッッ!!!!!
空亡が中心から上下にズレて、更にそれぞれの部分が横にズレた。
……うん? ていうか、アレ? なんか、空間も十字に斬れてズレてる!?
思い出したように元に戻った空間に内心胸をなでおろしつつ、俺は鞘に収まった刀を頭上に掲げながら、
「見たか