ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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Life.65 知り合い、来すぎです。

「ん……」

「イッセー!」

 

 意識が戻るなり、横たわった身体を起こして豪華な室内を見渡すと、オカルト研究部と生徒会の皆が嬉しそうに駆け寄ってくるのが目に入った。

 

 ……あれ、なんで生徒会メンバーまで?

 

 俺はのそのそと掛毛布から身体を出してベッドに座りながら、体内時計を確認する。

 

 今は……ざっと午後九時か。マラコーダと戦ってから、数時間も寝てたんだな。亜波洲があるってのに、随分眠りこけたもんだ。

 

「部長、ここは?」

「ここはお兄様の居城の一つよ。それより、身体は問題ない? 痛いところは?」

 

 心配する部長の言葉に、全身に意識を巡らせてみるが、ある意味で重大な問題が発覚した。

 

 ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!

 バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!

 ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!

 

 自覚した途端激しく自己主張を始める胃袋の雄叫びに、全員が呆れを通り越して驚いている。

 

「……腹、減りました」

 

 まあ、むしろあれだけ暴れておいてたったこれだけなんだよな……。我ながら阿呆らしい身体してるぜ。取り敢えずうるさいので胃袋を鳴り止ませると、アーシアが意を決した表情で前に出てきた。

 

「イ、イッセーさん。あの……一つだけ、どうしてもお聞きしたい事があるんです!!」

「は、はい」

 

 あまりの気迫に若干押され気味に返事を返すと、アーシアは深呼吸を数回繰り返した。何故か、部長たちまで身を硬くして、固唾を呑んでいる。

 

「先ほど、寝てるイッセーさんをお連れした、イッセーさんのお師匠様方とお会いしたんです。そこで、その……風見幽香さんから、ちょっと気になるお話を聞いて……」

「幽香さんから……ッ?」

 

 その時点でなんかもうやばい臭いがぷんぷんする。あのUSCが関わる以上、そこには何かしらの思惑が絡んでいるに違いない。いや、もうほくそ笑んでるゆうかりんが目に浮かぶよ、ホント……。

 

「……っ。聖、白蓮さんの事なんですけれど」

「ぅ、えぇッ!?」

 

 聖さん!? 

 

 思いも寄らない単語に、自分でも落ち着けと言いたくなるほど盛大にキョドってしまう。アーシアはもう一度深呼吸をして、部長がぐっと顔を強張らせ、朱乃さんが口を両手で覆って涙目になり、ゼノヴィアが目元をピクッと動かした。

 

 木場と小猫ちゃんと会長はなんか頬から一筋の冷や汗を垂らしてるし、匙は口を空けて固まってるし、生徒会メンバーは慌てふためくばかりだし! あの、何がどうなってんの!? 本当に何をどんな風に言いやがったんだあの子供好きのサド!?

 

「あの人が――イッセーさんの初恋の人って、本当ですか!?」

 

 ……。

 

 ゆっくりと首を上下に動かし、肯定の意を示して頷く。

 

「――うん、そうなんだ」

 

 偽りなき真実をつきつけられ、秒針が数十歩進む程の間、時が凍りついた。

 

 動き出した時間の中で最初に動きを見せたのは、意外と言う他ない男だった。

 

「テメェこのヤロォォォォォォ!!!」

 

 パシ。

 

 涙を流し、絶叫しながら駆け寄ってくる匙は、思い切り右手を振りかぶってから、渾身と思われるケンカパンチを繰り出した。ベッドから腰を浮かしながら軽く掌で受け止めると、匙は血涙を流さんばかりの恨めしそうな目で俺を睨んでくる。

 

「おいおい、いきなりなんだ。てか、今の話のどこにお前がキレる要素があったんだよ?」

「うるせぇこのボケェッ!! お前って奴はぁぁぁぁ! 何がハーレム王に成りたいだ! なりたきゃ勝手に今すぐなればいいじゃねえか馬鹿野郎!」

 

 ……なに言ってんの、この馬鹿。

 

「いや、マジで話がぜんぜん見えないんだけど」

「ふざけんじゃねえ!? なんだよあの超々ド級に美人なお姉さま方は!! 特に聖さん! あれってもう完全にお前の事……」

「イッセェェェェェェェェェェェッ♥!!!」

 

 ドンッッ!!!

 

 開けっ放しになっていた扉から侵入してきた超弩級の美人なお姉さんは、十二枚の翼で超高速飛行しながら背後から抱きついて、背中にしっかりと形状を維持しながらも柔らかい巨峰を押し付けてくる。

 

 取り敢えず、素敵なおっぱいをありがとう! 剛体法で首固めて無かったら折れてたけどね!

 

「ああ、お前もちょうど起きたのか。とりあえずおっぱいはありがとう」

「どういたしまして。それでさ……魔王級の実力を持ちながら、君が負かした私に対して、なんかほら、こう、無いの? ねえ♪」

 

 ねえ、と言われても……。てか、皆の前でいきなり派手な登場するなよ! ただでさえ混乱気味だったのが、更にわけわかんなくなってるじゃねえか!

 

 小猫ちゃんを除いたうちの女子達はなんか一塊になってどうするべきかとか呟いてるし、木場と子猫ちゃんはやれやれと言った感じで肩をすくめてるし、シトリー眷属の皆さんはあっけにとられて固まってるし、匙は……。

 

「う……うおおおぉぉ……おおぉぉぉ~~ッッ!!」

 

 四つん這いになって号泣してるし……まあ、今度は意味もわかるし仕方ないとは思うけど。けどまあ……俺だって随分大変な思いをしたから、役得だと考えて欲しい。再生できるからって、痛いもんは痛いんだぜ?

 

「お取り込み中、失礼するよ」

「お兄さま!?」

 

 混迷を極める部屋に入ってきたのは、体中にドクターアロエの包帯を巻いた魔王、サーゼクス・ルシファー様だった。静かながらも存在感のあるオーラに、号泣していた匙すらサーゼクス様に気づいて、鼻水と涙を拭って立ち上がる。

 

 サーゼクス様に対して、慌てて礼を取ろうとする皆に対して、こちらへ歩きながらサーゼクス様は柔らかい笑みで言った。

 

「構わないよ。楽にしていたまえ」

 

 足早に俺の前に歩いてきたサーゼクス様は、気持ちを落ち着かせるように深呼吸をしてから、話を始めた。

 

「さて、兵藤一誠くん。まずは魔王として、リアスの兵士(ポーン)である君に、事態の収拾、及び冥界への外敵を退けてくれたことに関して、これ以上ない賞賛を贈ろう。本当に、よくやってくれた」

「……勿体無いお言葉ですけど、俺にそれを受ける資格はありません。だって……事の起こりは、そもそも俺が」

 

 皆まで言う前に、サーゼクス様は右手をつきだして止めさせた。

 

「大体の事情や経緯、そして敵方の情報も神から聞いている。確かに今回の事件は君にも大きく関わりがあったのだろうが、それで全てを君に背負わせるというのは少々無理がある。そもそも彼らの目的の一つとして冥界が狙われていた以上、どう転んでも同じ危険は存在していた。むしろ君が居なければ、四凶とあの邪龍達によって、悪魔や堕天使の歴史は冥界ごと閉ざされていたとしてもなんら不思議はない」

 

 ……それは確かに、そうかも知れない。四凶とデスザウラーは、まだ四大魔王様や最上級悪魔の軍勢であれば戦えたかもしれないけれど、神器を得たクロウ・クルワッハの力は、確実に世界でも五指に入るものだった。赤金の窮覇龍(ゲヘナ・ジャガーノート・オーバードライブ)を使った俺やシヴァ、そしてオーフィスとグレートレッド以外では、確実に退けることは不可能だったはずだ。

 

 万が一に勝てたとしても、悪魔側の損害は甚大なんてものじゃない。そうなれば、今度こそ悪魔は滅亡の一途を辿っていただろう。

 

「いずれにせよ、君は紛れも無く冥界の英雄だ。細やかながら、祝宴の用意がしてある。神を含めた君の師匠の方々に依頼して、グルメ界の食材をふんだんに使った料理を大量に用意してもらっているから、心ゆくまで堪能して欲しい」

 

 ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!

 バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!

 ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!

 

 もう、飯があるって聞いた時点で腹の虫がうるさいのなんの。サーゼクス様は微笑ましそうにニコニコしてるし。俺ってどうしてこう締まらないのかなあ。

 

『ソレガオ前ノ兵藤一誠タル由縁ダカラダロウ』

 

 やかましいわこの野郎。

 

「久し振りだね、サーゼクス君。随分貫禄ついたじゃないか」

 

 背中越しに軽い挨拶を飛ばすマラコーダに、俺以外の全員の視線が集中する。現魔王を君付けとか、流石は原初の悪魔といったところか。そんな相手にタメ口聞く俺も大概だけど。

 

「お久しぶりです。魔王派との内乱以来ですね、マラコーダ殿。先ほどの一戦も見させていただきましたが、ご健勝で何よりです」

「まあね、ここ数百年は美食以外にろくな刺激も無くて、少し退屈してたけど……恋愛は女を変えるよ、本当に。それで? 操られていたとはいえあの連中に手を貸してしまった私の処遇はどうなるのかな?」

 

 背中越しにサーゼクス様と向き合うマラコーダは、挑発的な言葉を発しながら蠱惑的な美貌に獰猛さを滲ませた笑みを浮かべている。

 

 サーゼクス様はマラコーダを咎めるどころか、恭しく頭を軽く下げた上で、言葉を紡ぎだした。

 

「マラコーダ殿の身に何が起こっていたのかも、友人からは聞き及んでいます。冥界においてはっきりとした敵対行為が無い事も加えると、貴方の罪科を問うことは難しいのが現状です。その上で、個人の見解を言わせてもらえるのであれば……今回の一件で悪魔が受けた人的損失は、決して小さなものではありません。だからこそ、数少ない原初の悪魔(オリジナル・デーモン)の生き残りであり、最強の番外の悪魔(エキストラ・デーモン)たるマラコーダ殿に、冥界の発展と維持に手を貸してもらいたいと考えます」

 

 マラコーダは少し毒気がぬかれた様子で、表情を緩ませた。

 

「まったく……事件の恐怖と衝撃を和らげるために私を利用しようとする強かさは認めるけど、それ以上にアマちゃんだね。これが旧ルシファーなら、疑わしきは罰せよで即座に殺しに掛かってるよ? ……ずいぶん高く買ってもらってるみたいだけど、所詮私は快楽主義の自由人だ。操られてた間の責任なんて知ったことじゃないし、冥界がどうなろうと大した興味も無い。ただ……」

 

 ムギュウウウウゥゥッ。

 

 おおおおおおおおおおお!! ヤバい、真面目な話なんでせっかく表情引き締めてたのに、軽くニヤケちまう! 部長たちの視線が少し痛いけど、このおっぱいの前に抵抗なんかしたくねえ!!

 

「……私の愛しの主様は平和がお好きだからね。ならそれに合わせるのがいい女というものだ。その為なら、アマちゃんの口車にも乗ってやろうじゃないか」

「それは、快諾と取っていいのですか?」

「ああ……ただ、政府や魔王諸君に服従するなんて考えないでくれよ? 私はイッセーのために冥界にも仕方なく忠誠を誓ってやるだけだ。容認出来ない命令には逆らうかもしれないし、噛み付いてくる輩は昔通りに叩き伏せる。そして……イッセーと冥界なら、私は迷いなくイッセーを選ぶ。それだけは忘れないように、ね」

 

 ドロリと濃密でありながら、濁りなく透き通った水飴のような愛情と狂信を見せつけるマラコーダは、凛々しい威厳と妖しい魅力を兼ね備えていて……改めて、どれ程の女を抱え込んだのかを再確認させられた。

 

 いや、まあでも……こいつとこのおっぱいを手放す気は欠片もないけどね。

 

 全部背負うと決めた俺だ。最初のハーレム要員は、これくらい重たい方がちょうどいいってもんだぜ。

 

「……ならば私は、貴方の主に全霊の誠意を持って相対しましょう。妹のために左腕を差し出し、世界最強の武力を守るために使える彼は、それを無碍に出来る者ではないと確信していますから」

 

 そう言って微笑んだサーゼクス様に、マラコーダも包容力に満ちた微笑みを向けて、再び俺に抱きつく両の手に力を込めた。

 

 ぬあああああああああ! またしてもおっぱいがああああああ!!!

 

 達人級特有の強靭かつ靭やかな筋肉が醸し出す脂肪とのバランスが絶妙な弾力と感触をもたらし、更にそこへ細かな個人差が加わることでなんとも言い難い個々の魅力が生まれる!

 

 要はおっぱいが気持ちいい!!

 

「そ、れ、で……今言った通り、私はイッセーにしか従うつもりはないんだ。だからさ……ごちゃごちゃ煩い有象無象共を黙らせるために、もっと強固な関係を結んでおくべきじゃないかな」

 

 も、もっと……強固な関係?

 

 それってよもや……セセセセセッ、セ――

 

 ――い、いや待て待て待て待て! 希望的観測は危険だと臨死体験と共に何度も教えられたじゃないか! まずは相手の言い分を聞くべきだ!

 

 大体、マラコーダがガチでそういう考えなら、こんな人がいる状況で吹聴するような真似はまずしない。寝静まった頃合いを狙いすまして、布団に忍び込んでからじっくり誘惑するだろう。そうなったらまず俺に抵抗の余地はあらゆる意味でない。

 

 となると……そこはかとなく、いいとも悪いともつかない妙な予感が……。

 

「――吸血鬼でなく悪魔として、私をイッセーの眷属にしてよ。それで誰も文句は言わない……ていうか言わせないしさ」

 

 ……やっぱり、そういう話か。

 

「俺は勿論そのつもりだ……けど、それは上級悪魔になってから……」

「心配いらないよ。ね? サーゼクス君?」

「ええ。兵藤一誠君、これを受け取ってくれたまえ」

 

 意味深な笑みを向けられたサーゼクス様は、指を弾いて魔力を使い、小さめのアタッシュケースを出すと、それを俺へと差し出された。

 

 まさか……いや、この話の流れだと、そうとしか考えられないよな?

 

 恐る恐るケースを開くと、水晶かクリスタルの様に透明に透き通った、(キング)を除いた十五個のチェスの駒が収められていた。

 

「これって!」

「そう、君の悪魔の駒(イーヴィル・ピース)だよ」

 

 え、えええええええええええええええええ?

 

 どどどどど、どういうことですか!?

 

「今回の君の功績は、上級相当の昇格を決定づけるに余りある程だ。しかし、昇格のシステム上、飛び級というのも中々難しいところでね。よって異例中の異例だが、四大魔王の名の下、昇格の先取りとして君に悪魔の駒を与える事にしたんだよ」

 

 慌てふためく俺に懇切丁寧な説明をするサーゼクス様を、マラコーダは一笑に付せた。

 

「要はご機嫌取りでしょ? ここまで早いってことは、さては榊神辺りが他の上層部の連中にもあの戦いの映像を見せたんだね? 流石のお貴族様方も、冥界どころか銀河も簡単に滅ぼせる相手には、血統だの歴史だの言ってられないと理解できたわけだ」

 

 いやいや、簡単じゃねえよ? あれは赤金の窮覇龍(ゲヘナ・ジャガーノート・オーバードライブ)だからできたんだ。今の俺じゃあ、地球の十分の一を吹き飛ばすのが精々だっての。

 

 まあ、本当に制御も何も考えず、一切の邪魔もなければ……太陽系ぐらいならギリいけるけど。

 

「賢明というには稚拙で浅ましいけれど、血迷ってイッセーに手を出そうとしない辺りは褒めてやるよ。まあ、今後もそんな害虫が湧いて出たら……塵になるまで砕くだけだ」

 

 尻尾を出して壮絶な殺気をまき散らすマラコーダの手をさすって落ち着かせる。皆にトラウマが残るって……。

 

「そん時はそん時だ。出来れば無いほうがいいとは願いたいけど、な」

 

 サーゼクス様は苦笑して、万華鏡の視線を受け止められた。

 

 グゴゴゴゴ……。

 

 重厚極まりない、どっかで眠りにつく大魔王のいびきみたいな腹の音が、背中越しに聞こえてくる。

 

 ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!

 バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!

 ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!

 

 それがマラコーダのものだと理解した瞬間、俺の腹も再三飯を要求しだした。

 

 ああ、本当に……俺達ってしまらないなぁ。

 

 

 

 

 

 スクッ……。

 

 抵抗なくナイフを受け入れた宝石の肉(ジュエルミート)のステーキをフォークで突き刺し、一片を口に入れて数回噛みしめると、濃厚極まる旨味がさっと口の中で解けて広がり、若干の噛みごたえを残して食道へ飲み込まれた。

 

 宝石の肉を食べ終わり、近くに置かれたゴールドシュリンプを頭から口に放り込んで殻ごと噛み砕いて飲み込むと、傍らに置かれた二十本目のブランデーの栓を親指で弾いて開き、一気に飲み干した。

 

 マラコーダもラーメンを完食した後、テキーラを瓶でイッキした。

 

「ふぅ……ジンとカリラを追加で。あとチェイサーにビールもください」

「あ、私はスコッチとスピキュール」

「か、かしこまりました」

 

 ウェイターに注文を申し付けた直後、再び食事を再開する。猛烈なスピードでだだっ広いテーブルを埋め尽くす料理を食い続ける俺を余所に、額に汗を浮かべながら大勢のウェイターやメイドが空いた皿を厨房へと戻しては、新しい料理を運んでくる。

 

 丁寧かつ素早い動作をハイペースで繰り返すのはかなりの重労働だというのは俺も身に沁みて知っている。苦労は察するが、だからと言って食事のペースを抑えられはしない。俺も俺で死ぬほど腹が減っているのだから。

 

 そんな俺達を同じテーブルにつくサーゼクス様や部長、他の皆は常識的な量の食事を進めながら、呆れつつも笑っていた。

 

 カツッ。

 

 ツチノコエビのハムフィッシュ乗せを飲み込んだ直後、聞き覚えのある足音を二つと、知らないが妙に気になる足音を一つ耳にした俺は、膝元のナプキンで口を拭ってから、水晶コーラを堪能するサーゼクス様へ質問する。

 

「あの……サーゼクス様。俺がここで歓迎を受けてるってこと、どれくらいの人が知ってますか?」

「うん? そうだねぇ……特に秘密にしてはいないが宣伝したわけでもないから、誰が知っても知らなくても不思議はないよ」

 

 覚えのあるうち、一つは出遅れたと言いたげな焦燥と再会に対する喜びからの急ぎ足、もう一つは久々の再会に胸を踊らせながらの小走り。最後の知らない一つは、何かに対する強い好奇心からの大股歩きという様相で、三つの足音がここへ迫ってくる。

 

 最初の急ぎ足がたどり着くのと、俺が最後の料理を食べ終わって両手を合わせるのは、ほぼ同時だった。

 

「ご馳走様でした……。よ、久しぶりだなシーグ」

 

 入り口から入ってきた冷たく厳し気なオーラを身にまとった少女へ、右手を上げて再会の挨拶を飛ばすと、少女――シーグヴァイラ・アガレスは、一瞬喜色に綻びそうになった表情を鋼の意思でクールな無表情に保ち、俺はナプキンを見苦しくない程度に置きながら次期アガレス当主へ歩み寄っていく。

 

「去年の夏休み以来だから……十ヶ月振りくらいかな?」

 

 直前の目配せで察してくれたサーゼクス様がシーグへ向けて首を上下させると、シーグは氷柱のごとく冷たく鋭利な声色で喋り始めた。

 

「ええ、そうね……。にしても……冥界を尋ねたというのに、今の今まで私への挨拶も無いだなんて……バイトとはいえ、それでも私の執事なの?」

「それはまあ……俺も色々とあってさ! 今まで疲れきってて寝てたけど、ちゃんと合間ができたら挨拶に行こうと思ってたっていうか……!」

 

 我ながらもう少しマシな言い草は無かったのかと思うような言い訳を聞いて、シーグはメガネをキラリと光らせ……今度こそ表情を綻ばせて、歳相応の可愛い笑顔を浮かべてみせた。

 

「フフ……冗談よ。一年近くも間が開いたというのに、イッセーが随分と冷静だから意地悪したくなっただけ。私がそんな思慮の足りない、我儘な台詞を言うと思って?」

「いや、実際に言ったじゃんか」

「だから、ただの意地悪だと言ってるでしょう。そういうところはまったく変わってないのね」

 

 うん……そっちこそ、妙な茶目っ気利かせる辺りはまったく変わってないな。

 

 なんて言うとまた意固地になりかねないから言わないけどさ。

 

 部長が席を立とうとしたその時、次いでこの場に知らない足音の主が現れた。

 

「サーゼクス、赤龍拳帝殿はまだいるかな?」

 

 妖し気な雰囲気を纏う妖艶な顔立ちの美青年は、その容姿に相応しくはない程の弾む心をさらけ出して、一直線にサーゼクス様へ声をかけた。

 

 というか、サーゼクス様を普通に呼び捨て……ってことは、まさかこの方は……。

 

「ああ、アジュカ。そちらの彼が赤龍拳帝、兵藤一誠だよ」

「そうか、君が……戦鋼(せんこう)の錬金術士や外天識者(アウト・レコーダー)と謳われた、あの兵藤一誠君か。お会いできて光栄だよ」

「は、はあ……」

 

 にこやかに両手を握ってくる美青年に、曖昧な返事しか出せない。何せ……その身から感じられる魔力はサーゼクス様と同レベル。登場するなり皆の顔があからさまに引きつった。そんでもって、サーゼクス様を呼び捨て。どう考えてもこれに当てはまる存在は一例しかない。

 

「少し落ち着きたまえよ、アジュカ。自己紹介もしないうちにそう興奮されては、イッセー君も困るだろう」

「ああ、そうだ。これは失礼した。俺はアジュカ・ベルゼブブ。四大魔王の一人で、冥界の技術開発の最高顧問を務めている」

 

 うん、やっぱりそうなんだ。なんというか、見るからに……技術屋な人だな~。俺達が抱えてるであろう未知の技術や独自の研究への関心と好奇心で、眼が輝きまくってるよ。俺も通じる物があるから分からなくもないけれど。

 

「君だけでなく、日青明殿にライリ・アスカムライン殿、そして君ら三人の研究所の噂は常々聞いているよ。昨今までは冥界との接点も薄く、交流や取引もほとんどなかったが、この機会に是非浅からぬ付き合いをと考えるんだが、どうかな」

「い、いや~、商業や交渉は明を通してもらわないと、ちょっと……」

 

 幾らシュンとされても、ダメなものはダメなんです。ここで下手に言質なんか与えたら、後で俺がフクロにされる。

 

 と、アジュカ様が俺の手を放した辺りで、最後の足音がたどり着いた。豪猪にして活動的な衣服を身にまとった美少女が満面の笑みで歩いてくると、俺もそいつへ歩み寄り、両手をパンっと打ち合わせた。

 

「セラじゃねえか、久しぶり! 相変わらずバカで元気みたいで安心したぜ」

「バカみたいに元気じゃなくて、まんまバカ扱いされた!? 相変わらずキッツいわね☆ イッセー君こそバカ以前の強さで、見応えあったわ☆」

 

 バカ以前ってどういう意味だ、おい。こいつもこのノリの軽さはまったく変わってないな。

 

「ん? 二人は知り合いなのか?」

「あ、そういえばアジュカちゃんには話したことなかったっけ? うーんと、話せば長くなるんだけど……」

「要約すると、俺が再生させてた花を奪おうとしたこいつを半殺しにしたんです」

 

 グルメ界の『活かさずの監獄』と呼ばれる超極寒地帯で、青空のように透き通った宝石の花を咲かせる天涙華(てんるいか)を再生させた俺の目の前に現れたのが、最上級悪魔と名乗ったこのセラだった。

 

 勝手にまくしたてた内容から抜粋するに、どうやら妹へのプレゼントを考えていたところで、神さんからこの天涙華の話を聞いて、取るものも取らずやって来たらしい。

 

 再生させたばかりで、繁殖もろくに出来ていない天涙華を摘み取らせるわけにはいかず、そのことを説明しようとした所……コイツときたら問答無用で襲って来やがった。

 

 無論、賊としか言いようのない相手に遠慮する理由はなく、激闘の末、強化された俺の正拳突きで瀕死になったセラを治療してやった後、似せて錬成した宝石で作ったブローチとともに、迷惑料を含めた多額の請求書を叩きつけたのが縁の始まりで、その後も何度か会ったことがある。

 

「いやいや、半殺しどころかあれ十分の九は逝ってたわよ? ほんと今思い起こしても完敗だったわ……まさか一撃で胴体真っ二つにされるなんてね☆ しかもその後、軽く空母が買えそうな額を要求されちゃって、お金を用意するの大変だったんだから!」

「人の話もろくに聞かずに襲ってくるお前が悪い。それにあのブローチは結構な自信作だったんだぞ。なにより、金はあるやつから毟り取った方が速いだろ。最上級悪魔様?」

 

 ポンポンと頭を軽く叩きながらあの時の事を思い起こしても、こいつは無茶苦茶の一言だった。

 

 薄着のヘソ出し衣装で極寒の地に突撃してきた魔法少女風の美少女がろくに話も聞かずに襲いかかってくるという、傍から聞いてたらまったくわけがわからない状況で、その襲撃者を助けた俺はつくづく甘いと痛感する。

 

 まあ、俺も軽く終わらせる程度のつもりが、想像以上に強い相手にヒートアップしたっていう側面もあるんだけど。実際、危うく殺しかけたし。

 

 けど……あの戦いが、俺が自分の実力を自覚するしか無くなった切っ掛けでもあるんだよな。それぐらい、セラはわかりやすく強かった。

 

「イ、イッセー……貴方ってば……」

 

 部長が、なにか言いたそうに口をパクパクさせている。

 

「ん? 部長もセラと知り合いだったんですか?」

「いや、あの……それはそうなんだけれども……」

「あ! リアスちゃんに……ソーナちゃぁぁん!!! 無事でよかったぁぁぁぁ!」

 

 言い淀む部長の姿を確認したセラは、その横で目を白黒させていた会長の元へと飛び上がり、押し倒さんばかりの勢いで横から抱きついた。

 

 え? なにこれ? 二人と知り合いなのはいいとして、どうしていきなり会長に熱烈ハグしてんの? なんでそこから頬ずりしてんの? 百合ですか? 百合なんですかセラさん!?

 

 でも、口の中はザラッとこない。甘いというより温かみのある、家族への親愛の類だ。

 

「い、いい加減にしてください! お姉さま!! 他の魔王様方までいる前で、このような……」

「もうもう、ソーナちゃんてば☆ 恥ずかしがってる姿も可愛いんだから☆」

 

 ………。

 

 お姉、さま?

 

 それって、百合的なスールとか、じゃないですよね?

 

 てことは、セラは会長のお姉さんで、コカビエルの一件の発言から類推して、会長の姉は結構な地位と力の持ち主で……てか、他の魔王様って言い回し……。

 

 ……え、マジで?

 

「セラフォルー。アジュカに続いて二度目だが、まずは赤龍拳帝殿への挨拶が先だろう。妹をめでたい気持ちは多いに察するがね」

「あ、そーいえば! 私ったらうっかり☆」

 

 会長から離れたセラは、テヘペロ顔で頭を小突いてから俺の前に跳んで、ポーズを取りながら横ピースでチェキする。

 

「あの時、一応お忍びだったから、ちゃんと名乗らなかったけど……最上級悪魔、セラとは世を忍ぶ仮の名前! フルネームはセラフォルー・レヴィアタン☆ 外交を取り仕切る四大魔王の一人にして、冥界を守る『魔法少女マジカル☆レヴィアたん』なのよ☆」

 

 ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!??

 

「お、お前……あの時最上級悪魔っつったのは!?」

「嘘じゃないわよ☆ 最上級悪魔から魔王になったから、古い肩書を名乗っただけだもん☆」

 

 だもんじゃねえええええ!! つーかお忍びだったらもっと忍べ! 結果的にとはいえ、ド派手に強盗なんか働いてんじゃねえよ!

 

「でも、イッセーくん。そもそもあの場で私が魔王だって知ったら、なにか変わった?」

 

 え? それは……

 

「間違いなく、変わらず殴ってたな」

「でしょ☆ じゃあいいじゃん☆」

「まあ……いいか」

 

 どっちみち、バカには変わらないし。

 

 しっかし……憧れてた女魔王がこいつとか……。いや、可愛いし綺麗だし超美少女なのは認めるよ? けどなんていうか……俺の妄想とかけ離れすぎてるというか……。

 

 靭やかかつ無駄のない動きはハツラツとした健康的な魅力に溢れてるし、天真爛漫を地で行く姿は中々に心を掴んでくる。その全てが自然体で行われているので、全くもって嫌味の欠片もない。例えるなら、アイドル系統の究極系だろう。

 

 でもさ……俺が期待してたのはモデル系というか……それこそ、マラコーダみたいな長身グラマー体型なんだよぉぉぉぉ!

 

 でもしかし……おっぱいは結構立派だからいいか。揉んだら程よい弾力を保ちながらも加えられる力によって自由自在に変形し、手を離せば瞬時に元の形状を取り戻しそうな元気なおっぱいは、打ち破られた妄想のイメージ分を補って余りある。

 

 そうさ……何はなくったって!

 

「おっぱいあるからそれでいい!!」

「入るなりいきなり何を抜かしてんだ」

 

 ゴォッ!

 

 背後から迫る金棒を半回転して左手に捉え、肩に乗せながらこちらへヒタヒタと近づく持ち主を見据えると、角の下の眼光鋭い三白眼が、容赦の無い目付きで俺を睨んでくる。熱風と吹雪が同時に襲ってきたような、問答無用で身構えてしまうオーラが吹き荒れる中、瞳の奥に隠れた微かな再会の喜色が見える。

 

「やれやれ……相変わらずどんな馬鹿をやっていても隙がないですね。少し安心しましたよ。これでまた大きな仕事を頼めますね」

「EU地獄……いや、冥界に顔を出すだなんて珍しいじゃないですか。どんな仕事ですか、鬼灯様」

 

 差し出した金棒を受け取ると、サーゼクス様の元まで歩いて行った閻魔大王の第一補佐官様は深々と頭を下げると、右手に持った風呂敷包みを突き出した。

 

「お久しぶりです、サーゼクス王。こちらが高天原、並び日本各所の抗議文章になります。妖術で圧縮かけられてますが、実際の所ざっと千通以上ありますので、面倒なら重要の印をつけた奴だけ読んで後は捨てちゃって構いません」

「鬼灯殿……また、随分と突然の訪問ですね。しかも、抗議文書を届けるためだけに貴方が出向くとは……またどういった趣で?」

「――ハァーーーーー……」

 

 阿鼻地獄の底から地上まで届きそうなくらい深く大きいため息をついた鬼灯様は、上を仰いだ。

 

「話せば少し長いですが……単刀直入に言って、事の重大性を知らしめるためです。というか、私以外だと何をしでかすか想像できなかった、が正しいですね。それともう一つは……」

 

 そう言うと、鬼灯様は懐に手を突っ込んで……分厚い書類束を取り出した!

 

「イッセーに必要な書類を書かせるためです! さあ、とっとと処理しろ勤労学生!!!」

「は、はいぃぃ!!」

 

 大慌てでボールペンを錬成して、テーブルに置かれた書類に向き合う俺を手で金棒を弄びながら見張る鬼灯様に、皆が恐怖で萎縮していた。

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