ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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十九巻……なんとも謎の多いラストでしたね。次が気になって仕方ないです。

今回、かなりエロいです。危険なら改訂しますので、ご意見下さい。


Life.67 師匠、始めます

 トスッ。

 

 ジュズルルルルルル。

 

 雄大な森の開けた場所で、フィトンチッドに富んだ美味い空気を肺に満たしながら、月読と印字された輸血パックにストローを突き刺し、吸い上げながらその赤い液体に舌鼓を打つ。

 

 流石は最高位の神。濃厚なコクと上品な滑らかさは正に密やかに輝く夜空の月が如し。とても美味い。

 

 けどやっぱり、直接飲むよりは劣るか。別に味自体はそう変わらないんだけど、なんていうかこう……牙を突き立て啜ったほうが、吸血鬼として『喰った』感覚がするんだよな。

 

「「あぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 しかしそこは、この耳に届く体中に重りをつけられ腰に巻きつけたロープで繋がるタイヤに胡座をかいて座る俺の影分身に鞭で叩かれながらランニングするリアスと朱乃の必死な叫びが埋めてくれる。

 

「う~ん……なんでこう必死な声をBGMに飲む血はこうも美味いんだろうなぁ。不思議でしょうがない。お前もそう思わないか、木場」

「知らないよ! このドS吸血鬼ぃぃぃぃ!!」

 

 俺の背後で回し車型走力強化マシーン、発電鼠(はつでんちゅう)マグナボルトNEOを走行し続ける木場は普段の冷静さや爽やかさをかなぐり捨てた叫びを上げるが、蓋が閉じている為に逃げることも俺に飛びかかることもかなわない。どちらも無駄な抵抗にすぎないけれど。

 

「オオオオオオオオオオ!」

 

 一方、木遁で作った高めの鉄棒の様な木の中心に脚を括りつけられ、下から自動焚火装置『焦熱(しょうねつ)捌号』の絶妙な火加減による火傷を避ける為、腹と背中を必死で入れ替え向け続けるゼノヴィアは、気合の雄叫び以外を一向にあげようとしない。これはこれで中々いい。やっぱり脳筋はこういうことに向いてるよな。

 

「えぅぅぅぅぅ……イ、イッセーさん……もう、ちょっ……限、か……い」

 

 突き出した両手に水の入った小鉢を持って、腰を落とした馬歩の体勢で、アーシアが蚊が鳴くようなか細い嘆きを上げる。身体のあちこちがプルプル震え始めているが、背後に回って筋肉の緊張を維持するツボを軽く突くと、ひぇ、という声と共に震えが止まる。

 

「大丈夫大丈夫。もう少し頑張ろう」

「で、でも……もう……それっ、三回くらい聞いてますぅぅぅ」

 

 涙ぐむアーシアへ晴れやかな笑顔を見せる。

 

「いいかい、アーシア……限界は常に超えるためにこそあるんだよ」

「ぴぃぃ……」

 

 可愛らしい声を上げて、俺に何を言っても無駄だと悟ってくれたアーシアから離れ、ボロボロの姿で地に仰向けに寝転がる小猫ちゃんの元へ歩み寄り、しゃがみこんで顔を軽く叩く。

 

「……ぅ」

 

 微かに呻くだけで、小猫ちゃんは起きる様子はない。やれやれ……こうも早く三本目とは。まあ、その方が体内の改造も早く進むからいいけれど。

 

 ジュズルルルルル。

 

 飲み干したパックをワームホールへ放り込み、首のツボを押して食道を広げると、何処からとも無く取り出した秘伝の漢方薬を一気に口へ流し込む。

 

「……ゴハァッ!!」

 

 普段絶対に上げないであろう声を上げて上体を跳ね起こした小猫ちゃんは、夢の世界から現実へと帰還を果たし、がたがたと震えながらこっちを振り向いた。

 

 漢方薬の瓶をワームホールへ放り込みながら立ち上がるまでの間に、小猫ちゃんは新体操の様な動きで距離をとり、構えをとった。

 

「おお、中々の動きだ。やっぱり小猫ちゃんはシラット向きの筋肉とバネの持ち主だな」

 

 褒め称えるも、子猫ちゃんはプルプル震えながら涙目で訴える。

 

「……先輩、もう許してください! 真っ赤な花が咲き誇る、広い河原が見えたんです……鎌をもった人達が、人魂を案内していたんです!!」

 

 ここまでガチで泣きが入った小猫ちゃんは初めて見る。というか、このシチューエーションは松田、元浜がほざいてたのと少し被るのでは無いだろうか。まあ、どうでもいいけど。

 

「うん、それ間違いなく彼岸と三途の川だね。俺も見たことがあるけど大丈夫。俺は閻魔大王に判決を言い渡されかけるところまでで戻ってこれたから。そんな訳で……まだまだ行くぞぉぉ!!」

「――」

 

 声にならない叫びを上げる小猫ちゃんは、嘆願虚しく俺の拳によって今日八回目となる大回転空中散歩を堪能した。

 

 なんで全員道着姿で揃いも揃ってこんな事になっているのかというと、それは皆の決断の結果だったりする。

 

 

 

 

 

 騒ぎに騒いだ土曜を終えて、日曜を迎えた俺は研究所で御神刀を作成。少し顔も見たくなったし、月まで行って刀を月読へ手渡した。

 

 はしゃぎまくって大袈裟に宴会しようという月読を宥めていると、なぜだか突如遊びに来た天照がいつものようにひっそりと寄り添ってきた。そんな可愛らしくも美しい女神姉妹に挟まれ酌をされ、あれよあれよという間に夕方まで居座ってしまい、何故か本人達からの要望で血を吸った。

 

「イッセー、お願いがあるの。私達を、貴方の手で鍛えてくれないかしら」

 

 土産に貰った輸血パックの血を吸いながら研究所に帰ってきた俺に、決意を湛えた面持ちで待っていた部長は思いも寄らない事を提案してきた。

 

「今回の事件で、今の私達では貴方の助けになるどころか、自分の身を守ることすら出来ないと痛感したわ。だからお願い。達人として、私達を弟子にして欲しいの」

 

 パックを最後の一滴まで吸いだした俺は、その強い眼差しにたじろいだ。最初はなんだかんだと理由をつけて断ろうと思ったが、長年の師は一瞬返事につまった俺の本音を見透かしていた。

 

「自信がないから嫌かい?」

 

 身も蓋もない明の指摘は、正にそのとおりだった。

 

 ちょっとした技や動きの指南程度ならともかく、本格的に鍛え、技を教えるとなると、俺はまったくの初心者だ。

 

 俺はやった事ならできる。やり尽くせば極めることも出来る。だが、やったことのないことはほぼ出来ない。きちんと弟子を育てるとなると、はっきり言って無理難題としか思えない。

 

 それでも選択肢がないのなら腹もくくるが、俺のような凡人を世界最強の達人にまで仕上げてくれた十数人もの最高の師という宛がある以上、俺が出張る必然性は薄く感じる。増して、皆は俺とは違って類まれな才能がある。ならばそれを磨き、活かすことが出来る師にこそつくべきだと考えたが……。

 

「甘ったれんな馬鹿野郎」

 

 ドバァンッ!

 

 猛烈な突きと共に怒りをぶちまける真紅の瞳を輝かせた吸血鬼は、突きを受け流した俺をその両目で持って強烈に睨め上げる。

 

「自信がないだ? そんな馬鹿馬鹿しい理由で弟子を拒否るようなアホに育てた覚えはねえぞ、あぁ!?」

 

 相当頭に来たのか、動の気を開放した証拠の荒い口調で詰め寄るライリに、明がため息をつきつつ頷いた。

 

「イッセー……君はもう、我々師の大半を受け継いだ正真正銘の達人なんだ。ならば今度はイッセーが弟子にそれを継承させていくのが道理というもの。気持ちは察するし、君なりに彼らを慮ったゆえの判断なんだろうが……無駄に甘えられても困る。上手く出来ないのなら、今までどおり一から経験を積めばいい。それに私達は、壊すことしか能のない怪物を育てたつもりはないよ」

 

 優しいながらも突き放すような明の指摘に、俺は自分の不明を恥じた。

 

 俺が師匠たちから受け継がれた流派の技と力、そして心。それを今度は、俺が伝える番になったという歴然たる事実。そして自分の力不足を受け入れた部長の決断は、俺に命を預けるに等しいという事。どちらも余りに重いけど、それでも背負わなくちゃならないものだ。

 

 こういう時に立ち向かえる為に、俺は戦う術以外も習ってきたんじゃねえか。

 

 バシン!

 

 頬を両手で打った俺は、深く息を吸って吐いて、部長や皆を強く見据える。

 

「……俺は、正式に弟子をとったことは一度もありません。手加減も何もあったもんじゃないし、最悪修行で死ぬかもしれない。皆が師事しようとしているのはそんな男だ。考えなおすなら、これが最後の機会です」

 

 我ながら何時になく真剣な雰囲気に気圧される皆へ最終警告を飛ばすが、皆の眼差しはいくら待っても強い輝きを失うことはなかった。

 

 はぁ……まったく。俺の方こそ、幾ら力を得てもまだまだ未熟と痛感させられるぜ。所詮俺は十七歳のガキなんだってな。

 

 けど、それも変わる。変わらなくちゃいけないんだ。

 

 皆の、周りの、俺自身の為に。

 

「皆の覚悟は受け取りました。なら俺も、覚悟を決めます――この時をもって、皆を俺の弟子とする。そして俺の弟子になる以上、中途半端は存在しない。何が何でも皆を……達人の域へと届かせてやる。全てを持って、付いて来い」

 

 軽い笑みを浮かべた俺に、皆は一瞬呆けてから……力強い笑顔を見せた。

 

『はい、師匠!!』

 

 ……師匠、か。自分がそう呼ばれるだなんて、想像もしてなかったな。達人になるって信じて息巻いてた癖して、超人の域に届いてからもまったく頭の片隅にも置いてなかったもんな。本当にどんな精神構造してたんだろうか、昨日の俺。頭かっさばいて脳ミソ見てみたい。割りとマジで。

 

 まあ、そんなことは置いといて、だ。

 

「うん、じゃあ……」

 

 ギィン!!

 

 万華鏡写輪眼で皆を髪の毛の先から親指の爪の先端までしっかり観察。嗅覚、聴覚も使って全情報を把握し、その上で頭のなかで組み上がった特訓メニューを手元に錬成したHB鉛筆とノートで文字として書き込んでいく。この間、ざっと三秒。

 

 約一分かけて全ページ一杯に書き込んだノートを片手に、呆気にとられる皆から数歩後ずさってみる。

 

「明、ライリ、特訓メニューをざっと考えてみたから、確認してくれるか?」

「ん、OKOK。そういうのならむしろ大歓迎さ」

「それじゃあ、ちょっと拝見」

 

 嬉しそうに寄ってきた二人に見せるようにパラパラとノートをめくり、ほんの十秒で読破した二人は、若干思案顔をした。

 

「う~ん……やっぱり覚えが悪い子は教える立場に立つと中々だね。かなりの出来だけど……ここはちょっと不味くない? 木場君、耐久力は少し低めだから、このままやると多分千切れるよ? 後、朱乃ちゃんのフィジカルはリアスちゃんと比べると少し低めだから、このくらいは差をつけて……」

 

 そう言って文房具を取り出した明は、魔法でめくったとあるページの一点を指さして、消しゴムと鉛筆で少し修正を加えた。

 

「けど、小猫はもう少し行けそうだね。リアスも割りとゴージャスにしていいだろうし、アーシアは意外と根性あるからこれくらいは問題なし」

「それじゃあ、これとこれは削ってもいいかな。代わりにここをもうちょいデンジャーに……」

 

 更にライリも修正合戦に加わり、負けじと俺も内容に手を加え始める。

 

 端々に漏れ出る物騒な文言に、部長たちが分かりやすく不安がり始めた。

 

 イカン、目の前でやるのは皆の精神衛生上不適切だ。実際に同じことがあった俺が言うんだから間違いない。

 

「え~っと……オルト。俺達はしばらくメニュー作成に熱中するから、皆へ夕飯を振る舞っておいてくれ」

「畏まりました。こちらへどうぞ」

 

 それまで一言も喋らずに控えていたオルトの案内へ皆の視線がズレた隙に、俺達は瞬時に研究所内を駆け抜けて、大図書館へとたどり着いた。

 

 大机へと陣取り、参考書とノートを積み上げる俺、ホログラムを起動させて計算式を表示させる明、白紙の設計図を広げるライリ。三者三様に、真新しい新弟子達を達人の世界へ叩き落とす絵図面を描き始めた。

 

「それじゃあ、ある程度までの特訓メニューを決めておくから、明は詳細な計算、ライリは必要な機材をとことん追求、開発してくれ。頼りにしてるぜ、二人共!」

「勿論! 使えるものは神でも使いな、愛弟子の為に」

「ちょうどいいからイッセーに使ったマシンを手直ししつつ、万人向けに改良するか。よし! 久々に燃えてきたぁぁ!!」

 

 バババババババババ!!

 

 猛烈な勢いで作業を開始しつつ、俺は忙しさに紛れそうになった疑問を二人へ投げかけた。

 

「そういえばさ……さっきの部長たちへの呼び方、やけにフレンドリーだったけど、昨日俺が寝てる間になんか話でもしたのか?」

「ああ、少しね。ついでに言うとあの場にいた面子はだいたい自己紹介を済ませたよ。皆けっこうグレモリー眷属を気に入ってたみたいだ」

「まあ、覚悟を決めて土俵に登ってきた以上、皆平等に競争相手ってわけだ!! よし、設計図完成! じゃあちょっと研究室で作ってくる!」

 

 脅威の早業で姿を消したライリに負けない様、俺もノートを全て埋めては新しいノートを取り出し、埋めていく。

 

 その最中、人が背後に立った事に気がついたのは、明が俺を後ろから抱きしめるのとほぼ同時だった。

 

「ねえ、イッセー……」

 

 慎ましやかながらもしっかりと形を主張する胸に意識を集中させて堪能していると、耳元に寄せられた唇から紡がれる甘い声が、激しく心を揺さぶった。

 

「君がまたひとつ壁を乗り越えて強く成長してくれたことが、たまらないほど嬉しいんだ。初めて出会ったあの日からずっと、痛みも苦しみも糧と飲み込んでしまう君に私は惚れている。その事を再確認できる瞬間は、何者にも代えがたい至宝だよ」

 

 キツすぎず、緩すぎず、けれどしっかりと抱きつく腕には、燃え上がるような情念が籠められていた。 

 

「だけど……今、イッセーの中で淀んでいる泥は、ただ君を苦しめる毒でしかない。あの……レイナーレが残した傷跡はね」

 

 ドグンッッッ。

 

 名前と共に浮かび上がった黒い羽の美少女の姿が、記憶の中で鮮烈にフラッシュバックする。

 

 コカビエルの指令に乗じたホムンクルスとの取引で俺を殺し、引き換えに手に入れた情報を持って聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)を得ようと暗躍し、アーシアを一度殺した堕天使。

 

 俺の醜態を嘲り、アーシアの優しさを侮辱し、全てを踏み台に名誉を欲した悪党。

 

 状況的にも心情的にも、あいつが死ぬのは自業自得だった。それでしか、無かったんだ。

 

 けれど、あいつは……あの女は……。

 

「――初めての、彼女だったんだ」

 

 一生懸命考えたデートを詰まらないと吐き捨てられたことも、慌てふためく様子を嘲笑されていたことも、本気で好きになった女の子に腹の底では見下されたも、全部辛いのは本当だ。けれど、遥かに激しい侮蔑と嘲笑の嵐を受けた経験もある俺にとっては、あくまで耐え切れる範疇にある。

 

 俺だって数えきれない程の人とも知り合ってきたし、アレが女の標準だなんて考えはしない。見方によっては、アフロディーテやフレイヤよりもマシとさえ言える。

 

『お願い、助けて! あんなことを言ったけど……堕天使としての役目を果たすために仕方がなかったの!!』

 

 それでもあいつは……

 

『どうしても、捨てられなかったの……だって、あなたを……愛してるの!』

 

 俺が初めて付き合った女性だった。

 

『あなたなら、悪魔になんて負けないわ! 私を助けて、イッセー君!』

 

 必死の懇願も、結局は演技に過ぎない。けれどあれは確かに俺が好きになった人で……

 

「なのに俺……見捨てちまったんだ。初めて出来た女が助けを求めてたのを、見限って、見殺しにして……死なせちまったんだ」

 

 レイナーレが死んだことは極当然だ。自分の欲と出世の為に散々他人を利用し、使いすてた挙句心すらも踏み躙ったあいつを助ける余地はない。それは厳然たる事実だ。

 

 同時に、俺が初めて出来た女を見捨ててしまったのも――確固たる事実なんだ。

 

「裏切ったのはあいつの方でしょう? 何事も自分の都合のいい道具としか考えられないような救いようのない(ゴミ)に、気を割くだけ無意味だよ」

「ああそうさ。こんなのは、我儘でさえ無い自虐なんだって分かってる……。あそこで助けたって、あいつはまた似たようなことを繰り返してただけだ。それでなくたって堕天使内で処罰されてたかもしれない。あの女はどう転んだってどうしようもない、最低の下衆だった。けど、そんなあいつでも……俺の意思で選んで、俺の意思で殺した女に違いはないんだよ……」

「……あれは私並みの演技の天才だね。女優としてなら稀代の傑物になれたよ。中身の方は、どうしようもなかったけどね」

 

 いつの間にか、眼から涙が溢れていた。

 

 分かってるよ、皆が俺をどう想ってくれているのかは。けど……

 

『――さよなら、夕麻ちゃん』

 

 最初に付き合った女を殺してしまった俺が、皆を幸せにできるのか?

 

 そんな疑問が心の底で渦巻いて、どうしても素直に好意を受け止めるどころか、向き合うことすら出来ないでいる。言い訳を重ねて、そんなはずがないと思い込んで、喜びながらも遠ざけようと躍起になってる。

 

 口ではハーレム王だのなんだのと言っておいて、結局の所この有り様だ。情けない……だけど、どうしても踏ん切りがつかないんだ。

 

 だって、皆には……幸せになって欲しい。

 

 笑って欲しい。

 

 辛い思いをさせたくない。

 

 涙を見たく、ないんだよ……。

 

 ジュルッ。

 

 みっともなくボロボロボロボロ涙を漏らす俺の顎を掴んで横を向かせた明は、扇情的に赤らんだ顔で瞳を潤ませて……口付けをすると、開いた口の隙間から舌を俺の口腔内にねじ込んだ。

 

 そのまま舐め回すように口の中を舐り、互いの唾液を全て入れ替える気かと思わされる程に激しく体液を啜っては流し込み、一分以上もかけてようやく、唾液の糸を伸ばし離れた。あの初夏の公園で交わされた、ファーストキスと同じように。

 

 そして、今度は横から頭を抱える形で抱きしめられて、優しく頭を撫で始める。いつの間にか、涙も止まっていた。

 

「本当に、イッセーは優しいね。自分の都合の様に思えて、人の事ばかり気にしてる。でも、それならマラコーダ――レクナはどうしてだい?」

 

 レクナ……それはマラコーダに俺が付けた名前だ。姓だけだと子供が出来た時に困るってな……。

 

「……さっきの戦いで、レクナの(なかみ)が覗けた時……あいつは心の底から、俺を何より望んでいた。決して小さくない他の願望や感情がちっぽけにしか思えないくらい大きく広く、俺への想いが渦巻いてた。数千年以上の歴史を持った悪魔が、たかが十七歳のガキにそこまで入れ込んでるんだぜ? 逃げ出そうにも、逃げらんねえよ」

「そうなんだ……じゃあイッセーは、私やライリやオルト、リアスちゃんにアーシアちゃん、朱乃ちゃんとゼノヴィアちゃんの気持ちが、レクナに劣っているって思うのかい?」

「そんな、つもりは……」

「無いよね。なら、全部向き合ってみなよ。少なくとも私は、イッセー抜きの幸福なんて考えられない。他の皆だって、多少の違いはあっても同じはずさ」

 

 チュ。

 

 そっと離れて、今度は軽く唇を触れ合わせる程度でキスした明は、額に額をこつんと当てて、白い瞳で俺の眼を覗きこんだ。

 

「――その程度じゃあ、まだまだ足りない。もっと自分に自信を持ちなさい。君は最高の女達が愛する、最高の男なんだから」

 

 明の瞳に惹かれる様に、俺はそっと、自分から口付けを交わしてみせた。

 

「ん……舌は入れないの? ていうか、いい加減童貞捨てないかい? 出会ったあの時からずっと、私はイッセー抱かれたいのに」

「……気持ちは本当に嬉しいんだけど、俺はまだ高校生なんだ。だから……きちんと責任取れる様になるまで、待っててくれよ、な?」

 

 抱きつく明の身体の柔らかさに喜びつつ、魅力的にも程がある願いを必死で固辞する。

 

 これは絶対の不文律だ。でなきゃ、父さん母さんに面と向かって孫の顔をみせらんないだろ。

 

 すっと離れた明は、ため息をつきながらも笑顔を見せて、もう一度キスをしてくれた。

 

「しょうがないね。けれど、私の誘いに乗ったらそれはイッセーの責任だよ? 勿論、他の誰かで童貞捨てたら私も抱いてもらうからね」

「あ~、はい」

「ん、よろしい。それじゃあ、計算続けようか」

 

 

 

 

 

 その結果が皆へのこの特訓なんだけど……あーくそ、関係ない事まで思い出しちまった。

 

 けれど……救われたよな。明には本当に、何度だって救われてきた。ライリにも勿論世話になりっぱなしだけど、明には特に何度も心を救われてきた。自分じゃどうしようもない位のものを抱えた時、明の愛情は俺の心を癒してくれた。

 

 俺がここへ来るまでに、誰が欠けても駄目だったけど、明が欠ければもっと前に駄目になってたかもしれない。それくらい、明の事は不可欠なんだ。

 

 俺の初恋は聖さん。けれど明は俺の……初めて愛した(ひと)なんだ。

 

 正確に何がどう違うと聞かれるとなんとも言えないけれど、確かに俺が明に抱いている想いは、愛なんだって断言できる。

 

 けど身勝手かもしれないけれど、俺は他の皆も愛してる。それを明は、こう言って笑ってたっけ。

 

『男って生き物は、大別すれば二通りさ。どんな事があっても一人しか愛せない男と、どんな事があっても複数人を愛せる男。イッセーはただ後者だったってだけの話。まあ、それも今考えると幸いだけどね。だって席がひとつになれば、百%私はライリを殺してたもん。ん? ああ、そう。じゃあ、今ここで殺せるって証明しようか……』

 

 でもって、二人共血塗れで殺しあったっけな。俺と出会う前は顔を合わせたら殺し合ってたって言うけれど、あれを見たら納得したわ。お陰で輝夜と妹紅にも難なく慣れたけど。

 

 そういえば、前に一緒に飯を食いに行った鬼灯様も……

 

『貴方が今更一人だけ選ぶなんて事になったら、確実に世界滅びますよね』

 

 ……うん、まあ、かも知れない。どいつもこいつも諦めてくださいっつって諦めそうにないもん。思いつめそうなのも心当たり多いし、手足切り取られて監禁くらいやりかねない。延長線上で世界神話大戦とか、簡単に想像付くからおっかない。

 

 もしかして俺、結構ハーレム願望で生き延びてる面があるのか? ヤバい、思い当たる節が多すぎる。

 

 ドギャァ!!

 

 おっと、考え事してたら手加減少し間違えちまった。小猫ちゃんがきりもみ回転しながら飛んで行く。

 

 ゴシャァ!

 

 顔から落ちた時に少し危ない音がしたけれど、あの程度なら簡単に修理(なお)せるから問題なし。

 

 まあ、ハーレムもそうだけど、弟子の事もちゃんと考えないとな。

 

 全部向き合うと決めた俺だ! ハーレムも創り上げるし、皆を達人として育て上げよう!!

 

「さあ、今日のノルマはあと少し! 皆頑張って……死を超え力を手に入れろぉぉぉぉぉ!」

『じ、じぇろにもぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~ッッッ!!!』

 

 俺の道は、まだまだ全然これからだ!

 

 

 

 

 

「久々に喧嘩したいとかどうしたの。嫉妬?」

「そうだけど、それだけじゃない。私も私で思う所があるのさ」

「そう。けれどね、ライリ。私も君とは考えるのが億劫なほど長い付き合いだ。悩みも望みもそれなりに分かってるつもりでいる。その上で言うけれど……考え直せば?」

「嫌だね。少なくとも、お前に言われて変える気はない」

「やっぱりか……じゃあ、イッセーに期待するよ」

「ああ、俺も期待しているよ。どちらにしても、その時は決して遠くない」

「じゃあ、これは前哨戦?」

「馬鹿を言うなよ、化け物が。これは俺なりのケジメだよ」

「ああ、そうかい化け物め。それじゃあ遠慮せず……死なない程度に殺してやる」

「お互い様にな!!!」




マラコーダの名前の由来は、レコア・ロンド、クェス・パラヤ、ナナイ・ミゲルの頭文字を並べた形です。安直ですいません。
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