ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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 毎度の閲覧、誠にありがとうございます。

 まず、シトリー戦についてですが……イッセーの撃破はなしとしました。

 これは皆様の感想に揺さぶられたことは事実なんですが、同時にシトリーの『倒し方』にも私自身かなり迷ってるところがありました。
 原作通りの方法では無理、かといって火力では不可能となると……ほぼ禁じ手といって過言ではない、危険極まりない手段を使うしか無く、それを使うと最悪シトリーどころか悪魔全体が揺らぎかねないレベルでした。

 流石にそれは不味いだろうという事で、方法は提示されますがソーナはそれを受け取りません。結果、イッセーは攻略不可と相成ります。

 次にイッセーの参戦ですが……実際問題、制限はかけられますが、さすがに不参加となると例の新技の出しどころが難しくなる上に、ここが見せ場の匙が相当な割りを食うので、出すには出します。ただし積極的には動きません。

 また実際の場面になったら変更点が出るかもしれませんが、おおまかなあたりはこれで行きますので、お楽しみください。


停止教室のヴァンパイア
Life.68 日々、騒動です。


 我が家の地下に広がる、日本の心臓闇ヶ谷をモチーフに作成された広大かつ自然豊かな豊かな異空間。皆を弟子に取った事を祝してくれた神さんからの贈り物だ。

 

 ここは本当に素晴らしい。あらゆる自然を利用した修行が可能だし、フィトンチッドに富んだ濃い空気は精神集中にもうってつけだし、何より……悲鳴が外に漏れることがない。

 

「練度が足りねえ起きろリアスァァァァ! 起きねえならいっそ死ねぇぇぇぇぇ!!」

「ヒゥゥッ!!?」

「避ける一辺倒じゃなく防御も頭に入れろって何べん言わせんだ木場ァァァァ!!」

「ぅぅわあああああ!」

「魔力に頼りすぎるな朱乃ォォォ! もっと必死で身体を動かせ!!」

「あぁ!! ……ちょっといいかも」

「ゼノヴィアァァァァァ!! ただ当てりゃいいってもんじゃねえんだ、当て方を感覚で覚えろぉぉ!」

「グアアァ!! ま、まだまだぁぁぁ!」

「小猫ちゃぁん! 防御魔方陣頼みでボヤボヤしてると死ぬっつーか殺すぞォラァァァァ」

「……じぇ、じぇろにも!!」

 

 影分身と組手を行う皆の上げる叫びはあまりに悲痛すぎて、知らない人が聞いたら拷問でもされてるんじゃないかと誤解すること請け合いだろう。あえて否定はしないけど。

 

 ちなみにアーシアは未だ基礎体力が足りないので、本体の俺付き添いの元修行を続けている。

 

「――ェゥ……」

 

 当のアーシアは軽重岩の術で体重を操作した俺が乗っかるタイヤ一個を引っ張りながらのランニングで虫の息になっていて、もうこの微かな痛みとそこそこの衝撃によって気力を搾り出させる特製の鞭でツボを叩いても速度の維持が限度になってる。これだって、半分で倒れてた初日に比べれば驚くべき進歩だ。薬と針やマッサージによる内功改造が出来ている証拠だろう。

 

 ゴールである皆が戦う広場に着いた所で、タイヤから飛び降りた俺は着地と同時に、魔法で衣服を道着からTシャツとジーンズにバンダナのラフな格好に変えた。

 

「じゃあ、早朝の分はこれにて終了。飯作ってくるから休憩しててくれ」

 

 ドサ!

 

 全員返事もできずに倒れこみ、時々痙攣するようにピクピクと動くだけになる。もう一体影分身を出してアーシアの元へ向かわせ、他の分身もそれぞれの担当していた弟子へ歩み寄ると、個々に合わせたマッサージを行う。とりあえず、飯作る間に起き上がれる程度には回復させないといけないからな。

 

 近場に用意した簡易調理場で修行開始前に仕込んでおいた米やだし汁を前に、包丁や調理器具を取り出して料理を始めながら、弟子入りして一週間の皆の頑張りに感嘆する。

 

 俺の時は一日通して平均十数回は心停止か脳停止してたってのに、一番多い小猫ちゃんでも精々五回前後倒れた程度だもんな。俺と同じ肉体が主な武器の彼女にはどうしても他より強めになってしまうのが原因だけど。

 

 とはいえ、やはり皆センスが有るというか、技の吸収力が俺とは桁違いだ。少しの練習で十分形になってしまう。だからこそ一つ一つの練度そのものが少し心配になるが、そこは師である俺が気をつけるべきところだろう。

 

 それに型や技を覚えるのが速いから、その分基礎練習もみっちり行えるし。お陰でこの短い期間で、皆も随分と体力が付いた。やっぱり何をするにしても体力は大事だからね。

 

 にしても初日の……リアスと朱乃の剣幕は凄いものがあった。思わず俺が後ずさったくらいだもんな。

 

『じゃあ、部長と朱乃さんはまず……』

『待って、イッセー!!!』

『え?』

『その……わ、私達は弟子なんだし』

『……修行中は、私達も呼び捨てるくらいで丁度いいのではないでしょうか?』

『いや、そんなの別に気にしないでも……』

『修行に気の緩みは以ての外でしょう!? ならやっぱり、形から入るのも大事だと思うの!!』

『武を身につける上で、不安は一切取り除いておくべきです!!』

『え、あ……その、はい……。じゃあ――リアスと朱乃はまず、軽く走ってもらいます』

『『――はい!!』』

 

 あの時の煌かんばかりの笑顔ときたら……まあ、その後の修行で一気に苦悶で塗りつぶされたけど。

 

 ていうか俺って……自覚してみると、本当に美味しい位置にいるんだよな。その気になれば実際、女体の海で酒池肉林とか思うがままだろうし……いやいや!! ついこないだ高校卒業くらいまで耐えるって決めたのは俺だろうが!

 

 ああクソ! 最近上手く解消できてないせいで溜まってんのか!? 静まれ俺の煩悩よ! 後二年足らず、断じて女人に手を出すべからずだ!!

 

 女といえば、レクナはあの後眷属を作ると言って何処かへ向かっていったよな。自分はデスクワークが大の苦手だからいいサポート役探すとか言ってたけれど……。

 

『イッセーのハーレム要員増やすから、期待しててね~♥』

 

 ……マジで二年も耐えられないかもしれない。そうなったら、素直に明へ言いに行くか。きっとああしてこうして……。

 

 イカンイカンイカン!!! どうもこう、朝は悶々としちまう! ていうか、もう飯出来る!

 

 味噌汁を小皿にとって一啜り……うん、我ながら絶品だ。

 

 マッサージを終えた影分身を集合させて料理を運ばせる間に、開けた場所にシートを錬成して鍋と釜、食器を置かせて分身を消す。

 

「皆ー、飯出来たぞー!」

 

 声をかけられ、ゾンビのごとく緩慢な動きで起き上がった皆が来るのを待ちつつ、それぞれの茶碗や汁椀に米と味噌汁を盛る。靴を脱いでシートに上がってきた皆がそれぞれの定位置に移動したのを見計らって、全員が座ったタイミングで両手を打つ。

 

 パン。

 

「この世の全ての食材に感謝を込めて、いただきます」

『いただきます』

 

 俺に倣う形で合掌した皆が定番のセリフを口に出した途端、全員が一斉に箸を手に持ち、中央に置かれた多種多様な食材へと殺到し、熾烈な争いを繰り広げる。一番穏やかであろうアーシアでさえ、飢えた獣の眼で確保に成功したストライプサーモンの切り身を極楽米と共に口にかきこんでいる。

 

 学園中が憧れる美男美女の集いたるオカルト研究部が、揃いも揃って食欲丸出しで俺の作った料理をがっつく。……なんともシュールながら、どこか感慨深いものがある。ぶっちゃけ、毎回毎回美味そうに喰ってくれてとても嬉しい。料理人、師匠冥利に尽きるってものだ。

 

 地獄の底すら突き抜ける修業によって徹底的に肉体を酷使させた後は、栄養満点のグルメ食材をふんだんに使った料理による体作り。一週間繰り返されたこの行いによって、皆のフィジカルは大幅に強化されてきている。

 

「ん……。ねえ、イッセー。貴方の言ってた通りだと、そろそろグルメ細胞は私達にも結合するのよね?」

「はい。氷美神の開発した新技術による接触注入は適合の確率と速度を大幅に高めて、その上で魔力や魔法力に優れた者への容易な定着を可能としています。その分、非常に高価ですけれど……」

 

 大きく分けて二つあるグルメ細胞の移植方法の内、細胞を食べ続けて適合を待つ接触注入は安全だが時間がかかり、適合の可能性も割りと低い。

 

 もう一つの直接注入は結果が出るまでが圧倒的に速いが、失敗すれば死のリスクが存在する上に、生き残っても化け物の様な姿になることがある危険な方法だ。

 

 しかし、氷美神が考案、開発に成功した新技術によるグルメ細胞は、接触注入にも関わらずかなりの速さと確率で適合し、なおかつグルメ細胞と相性の悪い魔力や魔法力の高い人物との親和性も格段に上がっている。なにより、安全性も極めて高い。

 

 当然、優れた技術の常として莫大な資金が必要となるんだが、俺が話を持ちかけた時、あいつは……

 

『いいぜ。いや、むしろ金はいらん。悪魔らしく取引と行こうじゃないか。俺の欲する対価は……分かるだろう。日時と場所はこっちから伝える。精々首を洗って待っていろ』

 

 ああ、分かってるとも。

 

 要はもう、『氷美神ちゃん』は飽き飽きってことだろう?

 

 今度という今度こそ向き合うために……俺は『氷美神(あいつ)』をぶん殴る。

 

 覚悟を決めて食事を開始する俺に対するは、必死で己の取り分を守ろうとする弟子たちだった。

 

 

 

 

 

「えー、彼女は中等部の頃に長期留学していましたが、今日付けで復学しこのクラスに転入となった氷美神さんです。では、自己紹介を」

「榊氷美神。趣味は料理だ。よろしく頼む」

 

 うおおおおおお!!

 

 これで三度目となる美少女の来訪に、湧きに湧く呑気な学生たち。松田と元浜の盛り上がり具合が凄え煩い。

 

「ぬおおおおお! 抜群に引き締まった肢体といい共通点は幾つかあれど、ゼノヴィアちゃんとは似て非なる冷たく鋭い雰囲気!! いい、ものすごくいいぞ!!」

「クール美少女サイコー! ああ、あの瞳で睨まれたいぃぃ!」

 

 何時もの馬鹿二匹は放っとくとして、当の氷美神はスタスタと指定された席へ移動して、こっちには一瞥もくれなかった。

 

 時は流れて昼休み、女子からの質問攻めをそつなくこなす氷美神をなんとなく眺めつつ、オカ研部室へ行こうと席を立ち上がると、アーシアが袖を引っ張ってきた。

 

「イッセーさん……氷美神さんとお話しないでいいんですか?」

「え? なにそれ、どういう意味?」

 

 首を突っ込もうとする桐生を余所に心配そうに耳打ちするアーシアに、軽く微笑みかける。

 

「いや、俺とあいつは前からこんな感じだし、大丈夫だよ」

 

 昔っから、一緒の部屋で何時間も別々に漫画を読んだりゲームをしたりで問題なく過ごしてたし。なんていうか……お互いの存在に慣れきってるんだよな、俺達。

 

「ぬぁにぃぃぃ!? また転入美少女がイッセーの関係者だというのかぁぁ!」

「チクショウ! なんだってお前ばっかりぃぃぃぃぃ!!」

 

 割り込んでくる馬鹿二人の大声に教室中の視線が集中する中、もう一人の渦中の人物はあっさりと点火済みの爆弾を放り投げた。

 

「関係者どころか、そこの馬鹿は俺の幼なじみだ。ファーストキスもくれてやったぞ」

 

 ピシ。

 

 空気とともに固まったクラスメイトが、油の切れたロボットのように俺へと一斉に視線を集中させた! アーシアに至っては表情を凍らせつつも、逃走を防ぐ為か手首を掴んでくるし! よりにもよってなんて事をぶちまけやがる!!

 

「最後に一緒に風呂に入ったのは確か……三ね」

「あーーーっと!! 窓の外に七色のUFOが一個中隊で直列繋ぎに飛んでいるぅぅぅぅぅ!!」

 

 ドン!!

 

 あり得ない宣言に一瞬全員の意識が窓にそれた最中、アーシアの掌を優しく振りほどくと、生身で出来る最高速度で人集りに囲まれた氷美神を確保し、全速力で校内を駆け抜けて人気のない裏庭まで逃げ去った。

 

「ふー……おいコラ手前ぇレイーヌさぁぁぁぁん!? 何を思っていきなり初日で小五の夏休みの花火大会での甘酸っぱい思い出カミングアウトしちゃいましたか!? この後どんな顔して教室戻りゃいいんだよ! ていうかマジ止めてくれよ、最近色々あったりして乱気流に飲み込まれた紙飛行機みてぇな俺の評判がもっとわけわかんないことになるだろうがぁぁぁ!!」

 

 大きく息を吐いた後、眉を吊り上げ詰め寄る俺を、氷美神は昔ながらの可愛い無表情に映える紅い瞳で眺めた後、口元を抑えて吹き出した。

 

「いや、笑い事じゃねえ!? せめてどういうつもりかくらい……」

 

 チュム。

 

 急に顔を覗きこまれ口を噤んだ隙に、唇と唇が重なった。直後に見せつけられた笑顔に、何も言え無くなってしまう。

 

「こういうつもりだよ。文句あるか?」

 

 得意げな幼馴染は、更に俺の首に両手を回してきた。

 

「あの事件から少し変わったな……何というか、落ち着きと余裕が出来ている」

「随分と、自信満々に断言するな」

「イッセーと一番付き合いの長い俺だぞ。それともなにか、伊達や酔狂で十年もお前みたいな馬鹿に連れ添ったとでも思うのか」

 

 思うわけがあるかっての。悔しいから口には出さないけどな。

 

「氷美神こそ……なおさら綺麗になったじゃないか」

 

 全部わかってると言わんばかりの挑発的な視線に、つい別の本音が口をついて出た。それを聞いて、氷美神はますます喜色を強めた笑顔を浮かべる。

 

「ああ、そうだろうとも。色々と美容や成長にも気を使ったんだぞ? 全部お前のためだ。お前が無闇矢鱈に色々と身に付け名を上げるから、俺も負けじと付いていくのに必死だとも。……昔から、ずっと必死だったんだ。なのにお前にとっての俺は……ずっと『氷美神ちゃん』だった」

 

 抱き着く幼馴染の身体を抱き返しながら、静かに肩を濡らす涙に思いを馳せる。

 

『イッセー。ちょっと手合わせしよう』

『また私の勝ち! けどイッセーも強くなってるよ……多分』

『……なあ、本気でやってるか? いや、そうに決まってるよな! 悪い、変なこと言って』

『どうしてだ? どうしてイッセーは殴りも蹴りもしない!? なんで俺だけ……』

『お前は……いい加減にしろぉぉぉぉぉぉっ!!』

『――うるさい、煩い、五月蝿い!!! 俺に寄るな、とっとと失せろ!!』

『このッ……卑怯者が!!』

 

 手合わせでも何でも、氷美神だけは殴れなかった。殴らなかった。殴りたくなかったんだ。

 

「……子供同士の追いかけっこで強く突き飛ばしてしまい、膝をすりむかせる。よくある事だろ。万全の状態だって、五歳児が化け物相手に逃げきれるわけがない」

「それでも……俺はお前を守るって決めたんだ」

「その想いは嬉しい。けれど、蝶よ花よと庇護するだけがそれじゃない筈だ。そんな事も分からないお前じゃなかった筈だ。それが身勝手だと思わないお前じゃない筈だ」

 

 全くもって、信頼がこそばゆくも嬉しいぜ。

 

 何度も何度も考えたけど、結局俺に出来たのはいつもと同じ、氷美神に対する手加減だけだった。

 

 それは俺に憧憬を抱き、傍に居たいと自分を磨く氷美神にとっては、耐え難い事でしかなかっただろう。

 

 神さんの言うとおり、食義と氷美神の問題は同じことだった。自分に自信を持たなかったから俺は、自分に感謝せず、氷美神からどう見られているかも考えようともしなかった。

 

 ――うだうだと考えすぎるのが、最近の俺の悪い癖だな。まとめてしまえば、結局俺は。

 

「また……俺のせいで氷美神を傷つけるのが怖かったんだ」

「本当に、お前ってやつは……馬鹿で阿呆でスケベなくせに、どうしてそう変に意気地がない」

「我ながらつくづく面倒くさい性格だと思うよ。けれど、そんな俺と幼馴染やってられるお前も大概だろ」

「はは、違いない。……さあ、飯にしようか」

 

 離れた氷美神は目元をゴシゴシと拭うと、魔力で足元にシートを広げ、片手にタワーみたいな重箱を出してみせた。

 

「お前まさか……俺が連れ去る事を計算してあんなことを?」

「別に正面から誘っても良かったんだが、イッセーのことだから皆で一緒という事になりそうだったんでな。久しぶりくらい二人きりでいたいだろうが。……駄目か?」

 

 クッ! 可愛い流し目してそんな事言いやがって、あざといんだよこのJK悪魔!!

 

「勿論……と言いたいところだけど、幼馴染の特権ってことで勘弁してやる」

「それでこそだ」

 

 テキパキと料理とお茶を広げる氷美神と共に腰を下ろして、マイ箸をとり出すとともに食事の礼を取る。

 

「この世の全ての食材に感謝を込めて、いただきます。……うん、美味い!!! 前より断然腕を上げてるじゃねえか、流石氷美神!」

 

 がっつく俺を嬉しそうに見つめる氷美神を見ると、この後訪れるであろう修羅場も苦に思えなくなってくる。

 

 

 

 

 

 カラン。

 

「……んで、それからどうしたんだい?」

 

 一口も口をつけていないグラスの氷が溶けだしているのも気に留めず、ハンサムさんは話の続きを切望する。

 

「放課後、部室に行った所……主を含めた三人の美少女から一斉にお弁当を差し出されました。笑顔の裏に凄絶な炎を滾らせて……俺、女の情念ってものを改めて思い知りました」

 

 素直に褒めたら嬉しそうに笑ってくれたけれど、それはそれでゼノヴィアが何だか凄い気合を放ってて恐ろしく不安だった。考えが透けて見えるから余計に。……早めに手を打っておくか。あのままじゃ食材を炭どころか産廃に錬成しかねん。弟子入り前のあいつの体臭、完全にコンビニ飯、インスタント、レトルトだったし……。

 

「ハハハハハハ!! モテる男は辛いねぇ。そんなに誰とも真剣なお付き合いしてりゃあ疲れるってもんだろう。俺なんか、お互い遊び前提だから割りと女性関係はさっぱりしてたもんだぜ?」

「そういう知り合いも何人かいますよ。けれど生憎欲が深いんで。一度惚れた女は放したくはないんです」

「カァーッ! 今時珍しいくらい熱いなおい! 若いってのはいいもんだ。それじゃ、そろそろ今回の依頼を果たしてもらおうか。この新作レースゲームで勝負といこう」

 

 そう言ったハンサムさんと一緒にテレビの前にてコントローラを握りしめ、ゲームが始まる。

 

 数レースは俺がぶっちぎりで制したが、時が立つにつれてドンドンハンサムさんとの差が縮まっていき、遂には接戦でギリという程詰め寄られる。

 

『Ready Go!』

 

「中々やるな、だが今度は行けそうだ」

「なんの! ……ところで、少し来ない間にずいぶんゲーム機が増えてますけれど、どうかしたんですか? ずいぶん古いのもありますけど」

「いや、なに。ただ単にあるだけのものは集めないと落ち着かない性分なだけさ。仲間内でもコレクター趣味が異常って、よく言われてるぜ」

「そうなんですか……だから、白だけでなく赤も欲しいってわけですか――総督さんよ?」

 

 最後の直線、わずかに操作がぶれた隙を見逃さず、一気に追い抜く。

 

『GOAL! NewRecord!』

 

「ふぅ。……いつから気づいてたんだ?」

「只者じゃないってのは最初から。実力をおおまかに把握できたのは三回目。正体がつかめたのは今回だよ。そっちの方は、俺の事をいつ知ったんだ?」

 

 コントローラーを床に置いて、ゆっくりと立ち上がるハンサム。

 

「時期的には、お前さんの主のお家騒動の少し前だ。流石の俺も頭を抱えたぜ。天地に勇名轟し赤龍拳帝に中級堕天使が言語道断の狼藉を働いた挙句、更にコカビエルの暴走だ。綱渡りの交渉で何とか謝罪と賠償の機会は与えられたが、未だに他勢力の目は厳しい。一歩間違えれば即断で殲滅戦が始まりかねなかったんでな。コカビエルに目を光らせ、お前さん自身の調査のために、こうして潜入したってわけさ」

 

 バサッッッ!!!

 

 俺に向き直しながら、背中から突き出る十二枚の黒い翼。それはあの白い鎧の龍が語っていたように、常闇のように純粋な黒を誇っていた。

 

「俺はアザゼル。神の子を見張る者(グリゴリ)の総督として、堕天使共の頭をやっている。コカビエルの一件では俺が直々に赴くのも色々拙かったんでな。白龍皇(バニシング・ドラゴン)に事態の収拾を願ったってわけだ。助太刀が遅かったみたいだが、あいつにしちゃあ素直に頼み事を聞いてくれたほうなんだぜ?」

「そうか……それじゃあ――部長の乳首を吸えなかったのは、あんたのせいか……あんたのせいかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 アザゼルは一瞬呆けた顔を見せると、すぐに破顔して笑い出した。

 

「ハッハッハ! そいつは悪かったな!」

「本当だ!! あのままいきゃあ、今頃……」

「勝てただろうな。けど、それは今の万全のお前の話だ。あの時の厳重な封印がされてたままじゃあ、最悪何人か死んでたかも、だろう?」

「……かもな。けれど、漁夫の利を狙った割に、あんたらは自分のケツも碌に拭けなかったわけだ」

 

 肝心のコカビエルは拘束後に逃げ出した挙句、古傷を癒やした事で……桁違いの力を取り戻した。多分、今の俺じゃあ勝てない程の。

 

「それを言われると非常に痛いんだがな……それも含めて、近々堕天使、天使、悪魔のトップで首脳会談が決まった。それと……そら」

「? これは?」

 

 アザゼルが懐から取り出すなり投げ渡してきたのは、一枚のSD。特殊なものらしく、魔法で様々な保護がなされている。

 

「俺の頭に入ってる、堕天使の全研究データだ。それと既にお前の研究所の日青明に接触して、堕天使が所有する土地の数%を譲り渡している。無論、それだけで全てが償えるとは思っちゃいないが、それで当座は勘弁してくれ」

「……俺を殺して、神器や武器や魔導書を全部奪うとか言ってくれたほうが、まだ信憑性持てるぜ?」

「やるつもりもないが、そりゃ絶対無理だ。これのお陰でな」

 

 アザゼルが口を開けると、舌に刺青のようなものが入っていた。

 

「呪印……それも神さんの……」

「潜入を神に明かした所、条件としてこれを付けられてな。お前に危害を加えようとした時点で、こいつが俺の動きを止め、一切の能力を封じる。お前こそその気になれば、この場で俺を嬲り殺しにだって出来るんだぜ?」

「挑発のつもりかよ、下らねえ。殺るなら全開状態で真正面からぶっ殺す」

「冗談に聞こえねえな。とりあえずよろしくな、兵藤一誠くん。それとも赤龍拳帝(せきりゅうけんてい)か? はたまた超神帝皇(ちょうじんていおう)か、戦鋼(せんこう)の錬金術士? でなきゃ外天識者(アウト・レコーダー)? どんな呼ばれ方がいい?」

「取り敢えず、兵藤一誠で」

「じゃあ兵藤一誠。取り敢えず……ゲームをキリの良い所まで進めとくか。6戦じゃあ中途半端だろ」

「OK。俺の10勝で終了だな」

 

 ゲーセンの嵐と呼ばれたこのレーサーに敵うものか。

 

「ほざけ若造。こっから俺が4連勝だ」

 

 その後の結果は……俺の9勝1敗、ただし最後の一戦での1敗だった。

 

 ……次は絶対全勝する!!!




実際問題、イッセーの立ち位置は傍から見たら幸せそうですけど、日常的に命の危険が大挙して美人で聡明だけど重たい女性を何人も囲うという、精神的にこれ程くる環境はそうないだろうという状況で幸福を謳歌しているんですよね、彼は。
まあ、この小説では更にそんなのが増えるんですが。
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