夕焼けの明かり差し込む部室にて、正座の姿勢で頭を垂れる姿には、我ながら威厳も違和感もさっぱりだ。俺って本当に重要人物なんだっけ?
「まったく、どうしてイッセーはそうエッチなのかしら……」
プールでの一件からここへ至るまでの過程を総評し、椅子に座る部長から厳しい指摘をいただくが、なんとも言いがたい。切っ掛けはどうあれ、エロにひた走る姿勢自体は昔っからだし……。
「部長、それは誤解だ。ただイッセーは私と子作りを……」
「お前は少し黙っててくれ」
呆れながらもボヤく俺を本当に不思議そうに見つめるゼノヴィアは、更にもましてバカにしか思えない。なんでこの短い期間でここまで脳みその働きを止めるかな、このおバカさん。そういうたちなのか。
「ずいぶんと賑やかだね。何かのイベントかい?」
背後からの気さくな声に振り向けば、そこには赤髪の男性と銀髪のメイド女性が、今まさに魔方陣からの転送を終えていた。
「お、お兄さま!?」
妹の呼び声に気を良くしたのか、サーゼクス・ルシファー様の笑顔が一層喜色を強くする。隣に控えるグレイフィアさんは、相も変わらず瀟洒な雰囲気だった。
即座に礼を取る朱乃さん、木場、小猫ちゃんに対して、部長は困惑、アーシアは少し嬉しそうで、ゼノヴィアは無表情ながらに驚いている。俺はといえば、ふてぶてしくも見えるほどの態度で平然と身構えていた。色々な事情を考えれば、下手に礼でも取ったほうが問題だろう。
「アーシア・アルジェントだね? 先日は挨拶もろくにできず、失礼したね。改めて、リアスが世話になっている。優秀な
「は、はい!」
「楽にしてくれたまえ。今日はプライベートで来たんだ」
「プライベート?」
慌てて皆に習って礼を取ろうとするアーシアや、現在進行形で礼を取る皆へそう言うと、部長が疑問の声を漏らす中、ゼノヴィアが一歩前へ出た。
「あなたが魔王か。はじめまして、ゼノヴィアと言うものだ」
「ごきげんよう、ゼノヴィア。君にも挨拶が出来ずじまいだったからね。デュランダルの使い手がわが妹の眷属になるとは、最初に聞いた時には耳を疑ったよ」
「私も悪魔になるとは、我ながら大胆なことをしたと、今でも偶に後悔している……うん、そうだ。何故私は悪魔になったんだ? やけくそ? いや、だがあの時は正直、どうでもよくて……あれ? えーと」
予想をはるかに上回って……バカだな、こいつ。後悔していないというのはあの時だけだったらしい。というか、その場限りでも後悔の欠片も感じさせなかったのは大分凄い脳みそしてる。
サーゼクス様も、愉快そうに笑っている。
「ハッハッハ、妹の眷属は楽しい者が多くていい。リアスの眷属として、グレモリーを支えて欲しい。よろしく頼むよ」
「伝説の魔王ルシファーにそこまで言われては、私もあとに引けないな。やれるところまでやらせてもらおう」
「ありがとう。それと……マラコーダ殿は御健勝かね、兵藤一誠君」
ブン。トス
ワームホールからフレイヤの血液パックを出して、ストローを突き刺しながら応える。
「ええ、今は自分の眷属を探すって、どっかほっつき歩いてますよ」
ジュズルルルルルル。
アフロディーテに近くも、甘みに極僅かな違いのある血液に舌鼓を打ちながらの返答に、サーゼクス様はふふっと笑いを漏らす。
「そうか。それは楽しみだ。ところで、君自身の眷属はどうかね?」
「今はあんまり。けれど経験から言って……もう少し経てば生きのいいのがカチ込んでくると思いますよ。厄介事と一緒にね」
ゴジュルルルル。
興奮の余りパックを握りつぶしながら、口角を僅かに持ち上げ血を一気に飲み干す。想像するだけで肌がひりつくような熱気が体からオーラとなって立ち上り、万華鏡写輪眼まで出てしまう。なんか自分でも不思議なくらいハイテンションだけど、サーゼクス様に少し当てられたのか?
無理もないぜ。なにせ目の前の男は――旧ルシファーを超えた悪魔。最初に対面した時から、闘争本能が餓えに叫んでいたのは事実なんだから。
しかし当の
「……すいません、つい」
やっぱまだまだ敵わないなぁ。けど分かってるとも。
何万年もの時間を体感したと言っても、それはあくまで修行でしかない。『生きた』時間という意味では、俺はこの人の前には塵芥に等しいだろう。
だからこそ、焦る必要なんか無い。
――ゆっくり超えていこう。神も魔王も。
「……ふふふ。なに、私としてはむしろ安心したさ。そういう血気盛んな面を見ると、君も相応に若いのだと言う事が再確認できる。それにしても、抵抗なく血液を口にできる辺り、君の順応力はかなりのものだね」
「吸血鬼になって最初の内は抵抗がある奴が多いらしいですけど、別にグルメ界の食材を食ってればね……血液なんかむしろありふれた食材ですよ。味覚の変化ってやつに慣れるとむしろ血じゃなければ満たせない部分なんかもあるし、それぞれの血液の風味やコクの違いもあって、割りと飲んでて楽しいというか……許されるなら、その内セラやグレイフィアさんの血液も飲んでみたいですね」
パチン!
軽口というには余りに不遜な内容に皆が息を呑むも、サーゼクス様は満面の笑みで指を打ち鳴らした。
「グレイフィア。赤龍拳帝殿はこうおっしゃられているが、どうかね?」
「はい。私でよろしいのでしたら」
そう言って、俺の目の前まで歩み出たグレイフィアさんは、銀糸よりも鮮やかな銀髪を揺らすように微かに横を向くと、襟を抑えて白い首筋を晒してみせた。
「あ、あの……どうしました?」
「飲みたいのだろう? 遠慮することはないよ。ガブっといきたまえ」
「え!? で、でも俺に血を吸われたら……」
二度の吸血を経て、俺に血を吸われた女性の様子がおかしいことは気づいてた。
そこで思い出したのが、吸血鬼の中には吸血に性的快感を伴うものがいるという事。聞けば最高位の純血種でも精々が軽い興奮状態で済むらしいけど、どう考えても俺のはそんなレベルじゃない。
ライリと明に協力してもらって吸血時の快感数値を取ってみたが、それは伝え聞く並みの吸血鬼のケースとは比較にならないものだった。
例えるなら、神経細胞に直接落雷を叩き込むに等しいという規格外の快感。常人なら良くて長期間の後遺症、最悪ショックによる心停止も十分あり得る。その上、これはあくまで俺が無自覚だったゆえの最低限の快感で、試しにと明へ行ってみた最高レベルは……もう、なんか、駄目だった。駄目すぎた。明であんな色々と噴き出すのなら、大半の女は死ぬ。
唯一の救いは依存性はないという事だが、血を吸われた本人が快感に癖を覚えてしまう可能性は否定出来ないという辺り、やっぱり救いはなかった。最早エロを通り越して単なる殺戮能力に近い。
そして偶々研究所に来ていたサイラオーグさんに頼んでの男への吸血実験では……幸い、単なるマヒ効果で話が済んだ。とは言え、あのサイラオーグさんですら目に見えて動きが鈍る位だから、これもこれで十分洒落になってないんだけど。ちなみに味は……一言で言うなら、漢だった。女性とはまた違った味わいはそこそこイケたけど、やっぱり女の血のほうが俺の好みにはあっているとも再確認した。
ライリには、古今東西の吸血鬼でもここまで凶悪な快楽を与えるのは一人もいないと断言され、明には『今すぐしよう』といつになく色っぽく迫られて、キレたライリに俺が血祭りに上げられた。ああいう時、下手に抵抗すると長引くから棒立ちしてたら……いつもの五倍はグロい結果になりました。再生能力を得るって、良い事ばっかじゃないんだよな。
これなんてエロゲ能力だよ? こんなの実際に得たらただ厄介なだけだし、吸血に伴う副作用だから止めることも不可能ときた。お陰で部長たちからは直接吸血できない。
そういやこないだ……マラコーダはともかく、レイヴェル・フェニックスからも血を吸ったんだよな。あの後、フェニックスからは何の連絡も無いから生きているとは思うけど……無事を祈る他にないか。
「ああ、知っているさ。大丈夫、うちのグレイフィアはそんなにやわじゃないよ」
「お好きな様になさってください。そもあなたの要望を断れる立場に、今の冥界はありませんから」
ッッ……本当に、俺は阿呆だ。
けれど、興味があるのも本心だし……やるしかないか。
「この世の全ての食材に感謝を込めて、いただきます」
グレイフィアさんの両肩に手を置いて、首筋の皮膚を牙でもって突き破った。
ガブッ!
「フゥッ! ……んぅぅ、ん……」
舌から脳まで鮮烈に駆け抜ける非常に濃厚な味わいを堪能し、赤面して身悶えるグレイフィアさんに興奮しつつも容態に気を配る。興味津々なサーゼクス様の視線が逆に怖いし、背後の部長達の視線もめちゃくちゃ痛い。けど、血は旨すぎるくらい旨い。軽はずみな発言が原因で、こんな天獄を味わうことになろうとは……。
ジュズルルルルルル。
たっぷりと、けれど障りない程度の血液を吸い上げると、牙を外して首筋を一舐めし、一歩距離をおいて合掌する。
「ご馳走様でした」
「……お粗末様でした」
ほんのりと上気した顔で衣服を直したグレイフィアさんが下がると、部長が恨めしげな殺気を背中越しにぶつけながら、サーゼクス様へ迫る。
「……それでお兄さま。どうしてここへ? まさかグレイフィアの血を吸わせるために来たわけではないでしょう?」
「当然じゃないか。そろそろ公開授業が近いのだろう?」
その単語と共に懐から取り出した一枚のプリント用紙に、部長は殺気を霧散させて狼狽える。
「ま、まさか!?」
「是非とも妹が勉学に励む姿を間近で見たいものだとね」
あ~……そういえばそうだった。父さんもアーシアの授業姿を見たいがために、有給とったんだっけ。女家族ってのがさぞ可愛いんだろうな。何かある度、両親共にお祭り騒ぎだ。
「グ、グレイフィアね!? お兄様に伝えたのは!」
「安心しなさい。父上もちゃんとお越しになられる」
部長のお父さんもか。そういや、婚約クラッシュの時にはかなりの無礼をぶちまけたけど……俺、手打ちされたりしないよな?
流石に部長のお父さんを返り討ちにするのは忍びないけれど……まあ向かってきたらしょうがないよね。死なない程度に死んでもらおう。もちろん何事もないのが一番なんだけど。
「お兄様は魔王なのですよ! ただでさえ冥界が大変なときに、仕事をほっぽり出してまで……」
「いやいや、これは仕事でもあるんだよ。三大勢力のトップ会談を、この駒王学園で執り行うための下見でね」
「――っ! こ、この駒王学園で!?」
部長を皮切りに皆が目を見開くが、俺は特に反応しない。お偉いさんの突然の提案に一々驚いてたら面倒くさいだけだ。黙って流すかボコって黙らせるのが一番手っ取り早い。
「この学園には何かしらの縁があるのだろう。我が妹であるお前を始めとして、聖魔剣使い、デュランダル使い、セラフォルーの妹が所属し、コカビエルと白龍皇が襲来してきた。これは偶然では片付けられない事象だ。なにより様々な力が入り混じり、うねりの中心として君臨するのが――赤龍拳帝殿だと思うのだが」
「さあね。まあどうであれ、振りかかる火の粉は大陽だろうが払い砕くだけですよ」
嘆息する俺を面白そうに見つめる魔王様の胸中は、子供のようなワクワク感でいっぱいのようだった。……この人って、本当にグレイフィアさんとそうなんだよな。
……器が違うなぁ、ホント。
「なるほど、妹がご迷惑をお掛けしていなくて、安心しました」
「そんなお兄さん! リアスさんはとってもいい子ですわよ」
「ええ、リアスさんはイッセーには勿体無いくらい、素敵なお嬢さんです」
ソファーに座るサーゼクス様の隣で、ビールで乾杯する父さんと、料理を運ぶ母さん。その向かい側に、部長とアーシアが座っていた。俺は厨房で酒のあてづくりです。
「もう、イッセーったら、なんで寄りにも寄って自宅を紹介するのよ」
小声でボヤく部長へ、一人だけに聞こえるよう調節した音弾を飛ばす。俺だって、師匠業の中でも日々研鑽を積んでいるんです。
「明日にはホテルを探すって言うし、一日くらいいじゃないですか。ほら、うちの両親も楽しそうだし?」
「決まり悪いったらないわ……」
そう言ってそっぽを向く部長の珍しい表情は、とても愛らしかった。
「そ、そんな!! イッセーと寝ては駄目なのですか!?」
俺の部屋の中、部長はネグリジェ姿で悲鳴に近い声を上げた。パジャマ姿のサーゼクス様は、両手を広げて説得に掛かる。
「今夜は彼と少し話しながら床につきたいんだ。今夜だけ、兵藤一誠くんを貸しておくれ」
ていうか、俺達が一緒に寝ていることはいいんですか……マジで器がでかいぜ、魔王様。
ガッ!
ぬお! 部長が抱きついてきた! おっぱいありがとうございます!
「イッセー、一人で眠れる? 私が隣にいなくて平気? 私は平気じゃないわ、あなたと寝ないと死んじゃう病にかかっているんですもの!!」
なんですか、そのグルメ界でもお目にかかれないかもしれない病は!? 個人的には嬉しいですけど!
「お嬢様、ご自分の部屋に戻りましょう。私もそちらへご厄介になりますからね。サーゼクス様、一誠様、おやすみなさいませ」
「おやすみなさい……イッセー、お兄さま」
グレイフィアさんに腕を引かれた部長は最期まで名残惜しそうにするばかりだった。
「お、おやすみなさい、部長」
「イッセーさん……私も残念ですが、今夜は自室に……おやすみなさいっ」
「お、おやすみアーシア」
まるで少女漫画のように金髪を揺らしながら去っていくアーシアに、妙な胸の痛みを覚える。
「じゃあ、我々も寝るとしようか」
「は、はい」
電気を消して、俺はベッドに、サーゼクス様は床に敷かれた来客用の布団に横になる。サーゼクス様は直ぐに目を閉じられたが、起きているのは簡単に察せられる。
マラコーダをして、旧ルシファーに勝って当然とまで謳われた、冥界最強の悪魔、サーゼクス・ルシファー。静かながらに濃密な魔力は、しかし更に奥底に眠らせている膨大な滅びを抑える蓋でしかないように感じられる。正直、通常ならともかく、全力を出されると勝ち目は薄いか……いや、魔力のテクニックを考えれば今のサーゼクス様にだって容易く有効打は……。
「……私と、戦いたいのかい?」
静かに横を向いて目を開けたサーゼクス様は、彼我の戦力を推し量ろうとする俺の心中を見透かしたようにそう言った。
「!! い、いえ、そんな……少しは………はい」
一旦眼を閉じたサーゼクス様は、神妙な面持ちで深呼吸をする。
「済まないが、勘弁してもらえると助かる。君ほどの実力者相手だと私も手加減はできかねる。全力でぶつかれば、恐らくかなりの確率でどちらかは死ぬだろう。それは悪魔という種族にとっては致命傷であり、冥界を統べる魔王として最も避けなければならない事象だ。意見できるような立場にないという事を頭においた上で、なおお願いする。どうか別の対価でもって、我らの非礼を清算させてもらえないだろうか、赤龍拳帝殿」
「……はい。俺の方こそすいません。軽はずみな行動ばかりでご迷惑をお掛けした上に……グレイフィアさんまで」
「おぉっ! 私と彼女が夫婦だと気づいていたのかい?」
眼を見開いて驚かれるサーゼクス様へ苦笑いで返す。
「だって二人の間の空気、熟練夫婦以外のなんでもないですよ。……部室では、本当に失礼しました。誰が見てるかも分からないって、それこそ分かってたのに」
ここ最近、周囲を何かが嗅ぎまわっているのは把握している。それはオリュンポスの伝令の神であり、須弥山の武神であり、ヴェーダの軍神であり……どいつもこいつも、興味津々に俺たちを見ていることだろう。その中には、三大勢力を滅ぼす口実としてのアラを探す奴もいるはずだ。あんな些細な軽口でさえ、どういうふうに取られるかわかったもんじゃない。
とっとと三枚に畳んで箱詰めして送り返してやりたいところなのに、早々見つからない手練の実力者ばっかり送ってきやがって……! 気づいた時点であちこちに文句言ってやったが、まだ何人かいるのは明らか。そんな状況であんな軽口叩くとか、本当に阿呆だ俺は……。
「気にする必要はない……いや、むしろ気にしてもらったほうが困るよ。君は謝罪を受ける立場で、私達は揃って平伏し許しを請う立場だ。思うがままに要求を言ってくれたほうが、私としても動きやすい」
「けど……」
口に出しかけて、言い淀む。今更血を吸っておいて、どの口で文句をほざくんだ。
そんな阿呆に、サーゼクス様はあくまでにこやかだった。
「言いたいことはわかる。だが、私は彼女の夫で、彼女は私の妻だ。信じているし愛しているから、何があろうと平気だよ。ましてや、そこまで気に病んでくれる君が相手だ。何を心配することがあるんだね」
――ッ。
……カッコいいなぁもう。
「俺には多分無理ですね。きっと……そうなる前に死んでも守ります」
「愛の形は人それぞれさ。優劣など無いよ。ただ当人同士が噛み合うかだ。私はグレイフィアだけだったが、君は大勢の女性とそうなれるというだけだよ。……ハーレム王になるんだろう? なら他人と自分を比べて気に病むよりも、一人でも多くの女性に愛を注ぐことを考えたほうがいい」
――ッッ。
カッコ良すぎんだろ、魔王様。女ならコロッと落ちてるぞ。
「リアスのあんな楽しそうな顔は、冥界でもそうは見られなかった。間違いなく、君のおかげだろう。兵藤一誠くん。妹を、リアスを頼むよ」
部長に対する深く確かな愛情を前に、俺は力強く笑みを浮かべた。
「はい。俺は――リアス・グレモリーの
「ありがとう。――そうだ。私も、イッセーくんと呼ばせてもらっていいだろうか」
「勿論ですよ。魔王様に名前で呼んでもらって、光栄です」
「そうか。ではイッセー君、私のことも名前で呼んでもらえないかな。お義兄さんでもいいのだからね」
「ああはいはい。わかりましたサーゼクス」
速攻で名前呼びを選んだ俺に、サーゼクスは残念そうに笑う。
「つれないねぇ、最強の達人にお義兄さんと呼ばれたかったのだが……」
「まあその内……下手すりゃ近いうちにそうなるかもしれませんから、少し待っててください。最長でも二年足らずですから」
「そうかい。それは楽しみだ……ところで、イッセー君。アザゼルに会ったそうだが……」
「はい。わざわざ神さんに呪印まで付けられて……多分、自分で
「彼の神器への強い関心は、アジュカの研究熱といい勝負だからね」
渡されたデータにひと通り目を通しても、それはよく理解できた。神器そのものの研究は勿論、人工神器、そして擬似的な禁手……俺とはまったく別の角度からの、むしろ俺よりはるかに真っ当な神器の強化プロセスなどもあって、非常に面白い内容だった。
「しかし、彼はコカビエルの様な戦好きではない。何せ過去の大戦で一番最初に手を引いたのは堕天使だったくらいだ」
確かに……むしろ、そう言った騒乱を嫌っている節も見えたな。
「ところで話は変わるが……君は女性の大きなお乳が大層お好みのようだね」
「は、はい!! 大好きです!!!」
「リアスの胸は、兄の私から見ても豊かなものだと思う」
「はい! 部長の、リアスの胸は最高です!!」
「これは可能性の話なんだが……君の
「――」
一瞬、思考が真っ白としか思えない位に加速する。どことも知れない次元へ到達する直前で、それは魂の奥底で倒れる赤い龍の姿によって阻まれた。
『――』
『意 確 ! !』
『シッカリシロ! 乳デ死ヌナ!』
哀れなドライグを想いつつも、俺の脳はフルスペックでその情景を想像したが……決して答えにはたどり着けなかった。大きさが増すのか? ハリやツヤが上昇? ……駄目だ、分からない!
馬鹿な……性欲の権化、塊、魔神とまで謳われたこの俺が妄想出来ないだと!? なんて問を投げかけるんだ、現ルシファー!!
「まあ、戯言だ。気にしないでくれたまえ。じゃあ、お休み」
乳に対する答えを探そうと眼が冴えてしまった俺を尻目に、すぐさま魔王は就寝した。
「ふわぁ~~~」
一人、欠伸をしながら通学路を歩く俺は、未だに乳への答えが出せずに悩んでいた。
部長はサーゼクス様達を案内する為に遅刻するし、アーシアはゼノヴィアを迎えに行って途中で別れた。
そういや一人で登校するのって、何気に久々だよな……俺も出世したもんだぜ。
眠気覚ましに取り出したヘラの血液へストローをさし、上品な味わいの中に潜む熟成された旨味に陶酔しつつ、ひたすらに赤い甘露を吸い上げる。ちなみにパックには魔法をかけてあるので、他者からは決して血だとはわからない。マナーというやつですよ。
ズジュルルルルルル。
ただただ血を味わいながら無言で歩むと、道中左腕が微かに熱くなる。
……学園、校門前ってところか。一応、隠す気はあったらしいが、それでも俺がここまで気付かされないとはな。
湧き上がる戦意を沈めつつ、視界に入った対象の姿を念入りに観察する。
暗い色合いの銀髪。透き通った蒼眼。総じて、壮絶なまでの美少年。しかし、通学のために門をくぐる生徒たちは、誰一人として不敵な笑みを浮かべるその人物を気にかけることはない。魔術の類ではなく、ただただ、静かに身を潜めているだけだ。それだけであそこまでの隠密性を見せる辺りに、やつの実力が窺い知れる。
生徒が全員学園に入るまでに歩幅を調整しつつ、ようやくといった感じで学園前の小さな橋に到着した俺を前に、少年は背を預けていた門から離れ、俺の前まで歩いてきた。
「ここで会うのは、二度目だな」
「ああ。だがそんなことより――名乗れよ。話はそれからだ」
不敵な笑みを崩さずに、少年が肩をすくめた。
「これは失礼。俺はヴァーリ――白龍皇、
ワームホールへ血液パックを捨てた俺は、抑えこんでいた万華鏡写輪眼を開放する。
その眼を見た奴の顔は……一見涼し気な笑みだが、俺が相手してきたどの戦闘狂にも負けないくらい、激しい熱を秘めていた。