ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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 実は、氷美神は非常時以外は割りとヘタレだったりします。イッセーが絡むとガンガンいきますが。


Life.72 公開授業、始まりました。

「イッセー、アーシアちゃん。後でお父さんと一緒にいくからね」

「はい! お母様!」

 

 満面の笑みで返事をするアーシアに、母さんも嬉しくってたまらないようだ。

 

 今日は公開授業。シスコン魔王共の脅威によって、部長と会長を揃って憂鬱に叩きこむ一日だ。

 

 まあ、家の両親も楽しみで仕方ないのは同じだけど。父さんこの日のために有給まで取ったくらいだもんな。主に娘のごとく可愛がるアーシアの為に。

 

 アーシアの方も、初めて出来た『家族』が見に来てくれることが嬉しくてたまらないらしく、この日をずっと心待ちにしていた。

 

 駒王学園高等部の公開授業は親御さんは勿論のこと、中等部、およびその保護者まで見学可能というフリーダムさだ。ひとによっては緊張を強いられることだろう。変態の悪評がこれでもかと広まってる俺にはなんでもないけどな!

 

「……気乗りしないわね」

 

 石長姫の血液にストローを差し込みながら横目で見ると、部長は深くため息をついている。そりゃあ、教室に紅髪の男性が二人もくれば絶対目立つだろうし、関係者と目されるであろう部長は気が重いだろう。心中は察するけど、俺にできることと言ったら精々が特訓後の食事に部長の好きな虹の実を出してあげるくらいだった。

 

 ジュズルルルルル。

 

 石長姫の血が齎すしっかりとしつつもまろやかな味わいに舌鼓を打ちつつ重たい、軽い、普通の足取りと三者三様の歩き方で通学路を通っていると、学園間近でギャリギャリ君を齧る氷美神と遭遇した。恐らく、朝食後のデザードだろう。

 

 こっちに気づくなり、一瞬表情を強張らせて足を急がせようとする氷美神に、揃って少し大きめに挨拶を飛ばす。

 

「おはよう氷美神」

「ごきげんよう、氷美神さん」

「お早うございます」

「……お早う」

 

 伏目がちながら振り返って挨拶を返す氷美神に、アーシアと部長が両脇を固める様に並んで歩き出した。

 

「今日もアイスですか? 本当にお好きなんですね」

「まあな……」

「随分気乗りしない様子だけど、もしかして貴方もお義兄さんが?」

「ああ……今日も俺のホテルに嬉しそうに顔を出して、見に行くからなと告げてきた」

 

 神さんは氷美神には例外的に甘いからな……サーゼクス様程過剰ではないけれど、十二分にシスコンといえる。

 

「そう。お互い、苦労するわね……お兄様ったら、こういう行事はいっつも目ざといんだから」

「まったくだ。しかも終わった後もビデオにとって、ここがどうだとかあれがどうしたとか……兄さんはいつもいつも……」

「「ハァ……」」

「で、でも、それだけお二人が可愛くて仕方ないという事だと思いますし、偶にはいいんじゃないでしょうか」

「分かってるわ。けれど、もう少しだけ自重してくれないかしら……」

「本当にな……頼むから、大勢の前でこれでもかと自慢するのは勘弁して欲しい……」

 

 兄の気恥ずかしい行為を思い出して、大きくため息をつく二人に、アーシアが眉を下げつつも笑顔でフォローを入れ、同意しつつも更に愚痴る。

 

 ここ数日、積極的に打ち解けようと会話を繰り返した結果か、オカルト研究部の皆、特に部長とアーシアは氷美神とだいぶ親しくなってきた。

 

 傍から見ればそうは思えないかもしれないけれど、付き合いの長い俺には氷美神が二人に慣れている事が察せられる。ある意味一番恥ずかしいシスコン師匠の事を触れられて速攻で逃げ出さないのが良い証拠だ。

 

「それで話は変わるんだけど、そろそろオカルト研究部に入ってくれる気になったかしら?」

「……もう少し保留で頼む」

 

 余りにらしい返事に少し笑うと、背中越しにハズレのアイス棒が俺の顔に投げつけられたので、一旦歯で受け止めてからの微かな火遁で瞬時に焼失させる。

 

 間接キスに誰にも気づかれていない事に胸を撫で下ろしつつ、俺達は校門をくぐった。

 

 

 

 

 

 授業開始の時刻、続々と後ろの扉から親御さんが入ってくると、やる気満々の英語教諭が袋に包まれた紙粘土を配った。首を傾げる俺たちを余所に、配布を終えた先生は意気揚々と教壇に立った。

 

「いいですかー、今渡した紙粘土で、好きなものを作ってみてください。動物でも、人でも、家でもいい。自分が今思い描いたありのままの表現を形作ってください。そういう英語もある」

 

 ……大分変わった先生だとは思っていたけれど、今回は特級だ。ありませんよ、そんな英語。

 

「む、難しいです」

 

 わあ、後ろの席のアーシアはもう取り掛かってるよ。順応早いね。

 

「アーシアちゃん、ファイトよ!」

「アーシアちゃん、かわいいぞぉ!」

「氷美神、自分のセンスを信じきれ!」

 

 後ろの両親も神さんもエールを送りつつビデオカメラを回しているし! ちなみに両親はとうの昔に神さんや氷美神、ジェリーさんとは既知の仲です。

 

 ていうか、生徒も親御さんも誰一人として異論や疑問の声を上げないのが不思議でしょうがないんだけど!? どころか、俺以外もう全員作成にかかってるし! 混乱してる俺が例外かよ!

 

 仕方ない、こうなれば俺も……でも、何をつくろうか? ドライグ、バオウ、ガオウ、この辺りが候補としてはいいところだけど、あいつらの像はこないだリハビリがてらに散々石でも金属でも作ったからなぁ……つーか、確か小学校の頃の図工の授業で紙粘土のドライグは作成済みだし。

 

 思い当たる女神も大体請われるがままに宝石の像作ったし、うーん……。

 

 唸りつつ、粘土に手をやりながら目を閉じて、瞼の裏に浮かんだものは……

 

『イッセー♪』

 

 リアス・グレモリー。俺の主、俺のお姉さま、俺の王。

 

 美しい裸体を惜しげも無く晒しながら甘い声で俺の名前を呼ぶあの人が、俺の脳内に鮮明に浮かび上がった。

 

 おっぱいもくびれた腰も安産型のお尻もバッチリの太さの太ももも、何もかもが詳細に再生される。

 

 スベスベで柔らかく、張りと弾力も持ち合わせた肌に日々突きと蹴りを叩き込み、その肢体を構成する筋肉と骨、細胞を俺の手で破壊し、創り変えているという事実を再確認しつつ、美しさを増していく部長の姿に興奮が湧き上がる。

 

 出会ったその日から、脳内フォルダに厳重保存された部長の姿は、俺の夜の心強い味方だ!

 

「ひょ、兵藤くん」

「へ?」

 

 机の前で目を見開く先生の視線を追って、手元の紙粘土を見れば……そこにはとんでもない出来栄えの部長の像があった!! うわすご!? 最高傑作の一つに位置づけでも何もおかしくないぞこれ!? 思わず両手を打って超合金製に錬成しそうになった! だって永久保存が必要だもん!!

 

「す、素晴らしい……! 兵藤くん、君にこんな才能があっただなんて……やはり、この授業は正解だった。また一人、生徒の隠された能力を私は引き出せたのです……」

「い、いや、無意識に手が動いただけで……」

「フッフッフッ……なるほど、無意識に手が覚えてるほど触りまくってると……」

 

 桐生が眼鏡を光らせながら余計な事を抜かす。止せ、氷美神が紙粘土で作った赤龍帝の鎧姿の俺を握りつぶすべきか逡巡してる! あれで潰したら後悔するのは氷美神なんだぞ!?

 

「クソォ! やっぱりイッセーの奴……」

「夜な夜なリアス先輩と……」

 

 埴輪を抱えた松田と土偶片手の元浜がいつものごとく妄想……かどうかは微妙なラインの文句を口に出す。

 

「嘘よ!」

「リアスお姉さまが野獣とそんな……」

「なあ、イッセー! 俺の芸術と交換してやってもいいぜ!?」

 

 片瀬と村山の悲鳴じみた声を余所に、松田が身を乗り出しつつ、埴輪を差し出してきた。

 

 う~ん……残念ながら釣り合わん!!

 

「そんなゴミより、俺は五千円出すぞ!!」

「私は七千円出すわ!」

「リアスお姉さまは渡さない!」

 

 元浜の声に、片瀬、村山コンビが対抗し、更に他の連中もガンガン値を吊り上げる。おいこら、売るとか一言も言ってねえぞ!

 

「あなた、うちのイッセーが!」

「性欲だけが取り柄のダメ息子とばかり思っていたが、こりゃ将来金になるアーティストになるかもしれんぞ!」

 

 他の親御さんが微妙な顔してるのに、うちの両親は大喜びだし! あとお父さん、一応俺の作った中で一番高い指輪はざっと国家予算位いきました!!

 

「アーシア、私は勘違いしていたよ。公開授業とは……こうして大騒ぎする余興だったんだね」

「ち、違うと思います……」

 

 

 

 

 

「よく出来てるわね」

 

 昼休みに氷美神、アーシアと教室で弁当を完食した後、三人で自販機にお茶を買いに行った際に遭遇した部長が、俺の作った自分の像を見た感想だ。

 

「あらあら、さすがは毎日部長のお体を見て触っているイッセー君ですね」

「いやいや、毎日とかそんな……貴重な機会に、脳内に焼き付けるんです!」

「……」

 

 無言で太ももを膝で蹴る氷美神だが、これで少しでも気が晴れるのなら甘んじて受け入れよう。そんな空気を察したのか、二、三発で止めてそっぽを向く横顔も可愛いので保存しておく。

 

「今度私も作ってくださらないかしら? も・ち・ろ・ん……お触りありのヌードデッサンを……」

「マジですか!!」

「ダメよ!」

「ダメです!」

「ダメだ!」

 

 妄想の暇も無く否定される我が煩悩。うん、ダメですよね、やっぱ。

 

 涙とともにお茶を一気飲みすると、体育館へと続く通路を爆走する悪友二人と、大勢の男子生徒が目の端に映る。

 

「魔女っ子の撮影会だとぉぉぉぉぉ!」

「それは元写真部として、何としてもファインダーに収めねばぁぁぁぁ!」

 

 ……嫌な予感から、それぞれのゴミ箱めがけてペットボトルとキャップを放り投げると、俺達は体育館へ足を向けた。

 

 

 

 

 

「ポーズお願いしまーす!」

「こちらに目線くださーい!」

 

 カメコと化したわが校の男子生徒に要求されるがまま体育館の壇上にて魅惑的なポーズをとるのは、『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』の衣装に身を包んだ、アイドル系美少女様。

 

 ……まあね。そりゃそうだと思いましたよ。だって、あんな極寒地獄なんて言葉も凍りつく場所でヘソ出し衣装してやがったくらいだもの。あれがさぞお気に入りの衣装だってのは理解していたさ。けどさ……一般的な観点からの正装して来いよ! いや、むしろ可愛い妹のためだからこそ本気を形にしてみせたのか!? ありそうだなぁ、あの馬鹿なら!!

 

「……部長。あれ、ふん縛って旧校舎にでも転がしときますか? 会長の視界に入る前に処理した方がいいでしょう」

「落ち着いて、イッセー。魔王様を相手に、流石にそれは……」

「魔王……と言うと、あれがセラフォルー・レヴィアタン。魔法少女マジカル☆レヴィアたんか……サインもらえないかなぁ……」

 

 特撮、アニメが大好物な氷美神の呟きもそこそこにセラを万華鏡にて観察するが、相変わらず浮かれているようで隙がない。実際に殺るとなれば大分面倒くさいから、捕縛はあくまで最終手段か。

 

「オラオラ! 学園でなにやってんだ! ほら、解散解散!!」

 

 と、壇上に上がった匙がセラの前に立って手をパタパタと振ると、男子たちから文句の嵐が巻き起こる。

 

「横暴だぞ、生徒会!」

「撮影会くらいいいだろう!」

『そーだそーだ!!』

 

 美少女のコスプレを前に性欲滾る男子高校生の剣幕に一歩も劣ること無く、匙は腕をばっと振り払った。

 

「公開授業の日にいらん騒ぎをするな! いいから解散しろ!」

 

 力強い指示に、生徒たちが渋々散っていく。へぇ、あいつがちゃんと仕事してるところなんて初めて見たけれど、結構真剣に生徒会やってるんだな。

 

 次に匙は、この騒ぎの元凶たる魔法少女へ声をかけた。

 

「あの、セラフォルー様? そういう格好で学校に来られると、流石に困るんですけど……」

「え~? だってぇ、これが私の正装だもん☆ ミルミルミルミルスパイラルー☆」

 

 ステッキを振り回してポーズを取る阿呆に匙がどうしていいのかとタジタジだが……あれを相手にするには匙では荷が重いので、近寄って声をかけてやる。

 

「よぉ、匙。ちゃんと仕事してんじゃん」

「からかうな、兵藤」

「まあまあ。それよりセラ……お前は一々騒ぎを起こさないと死ぬ病気にでもかかってんのかよ? いっぺん名医に掛かってみるか?」

「そんな事言ってぇ。どうせイッセー君がお医者さんごっこで、私のナイスバディであ~んな事とかそ~んな事をしたいだけでしょ☆ いやん、エッチ☆」

 

 自らを掻き抱く魔法少女のパンチラ、変形するたわわな胸を脳内保存しつつ、盛大にため息をつく。

 

 俺がきちんとした医学、薬学の教えを受けたと知っての言葉かこのドアホ。そもそも、出会い頭の一戦で胴体泣き別れしたお前を誰が治してやったと思ってやがる。

 

 そりゃ、まったく興味が無いって言えば嘘になるけどさ、ムフフフ……。

 

「サジ、何事ですか?」

 

 バン、と派手に扉を開けた会長に、セラが眼を輝かせる。

 

「ソーナちゃん!! 見っけ☆」

 

 ガバっと抱き着く姉に対して、会長は普段の冷静な表情を崩して狼狽える。

 

「ソーナちゃん、どうしたの? お顔が真っ赤ですよ? せっかくのお姉ちゃんとの再開なんだから、もっと喜んで『お姉さま!』『ソーたん!』って抱き合いながら百合百合な展開でもいいと思うのよ、お姉さまは!」

 

 ……やべえ、凄いツッコミたい。今すぐあの後頭部にハリセンか金棒か鞘に収めた龍一文字を思い切りフルスイングで叩き込みたい。ていうか、いつの間にか金棒を錬成して構えてみたり。

 

 ガシ。

 

「イッセー。待ってお願い。それを消して。怖いから」

 

 肩をしっかりと掴む部長に、これ以上ないってくらいのいい笑顔を見せてあげる。

 

「大丈夫ですよ。これくらいで死ぬ魔王なんか……多分いません」

「多分でもダメなの! せめてハリセン……いえ、貴方だとそれでも殺しかねないから素手でツッコんで……いや駄目よそれが一番危険なの!! お願い止めて! 殴られすぎてもう痛いって感覚も……なんなのその薬はぁぁぁぁ!!」

「耐えてください、イッセーくん! 関節はそんな方向には……あああ、捻らないでぇぇぇぇぇ!!」

「イッセーさんイッセーさんイッセーさん! 筋肉が、骨が軋んで……切れましたし折れましたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 三人揃って俺に抱きつきながら、連日の修行で刻まれ続ける恐怖の記憶に錯乱しながら泣き叫ぶ。それでも拘束は全力かつ無駄が少ない辺り、修業の成果が出ていてなによりだ。

 

「兄さんの影響がこんな所にも……哀れな」

「……兵藤さん? 貴方、一体学園一の美少女様方になにをしたんです?」

 

 あまりというにも余りな様相に、氷美神は手を合わせて拝み、匙は顔をひきつらせて怯えていた。なにって……達人の世界へ落としている真っ最中。ていうか、お前に敬語使われるとかなりキショいな、やっぱ。

 

「もう、ひどいんだから。ソーナちゃんってば、どうして今日のこと黙ってちゃうの? お姉ちゃんショックで……天界に攻め込もうとしたんだから!」

 

 随分物騒なことを冗談半分に抜かす。つまり、半分本気だ。

 

「お姉さま! 私はこの学園の生徒会長を任されているのです! いくら身内とは言え、そのような行動や格好は容認できません!」

「そんなソーナちゃん! ソーナちゃんにそんな事言われたら、お姉ちゃん悲しい! お姉ちゃんが魔法少女に憧れてるって、ソーナちゃんは知ってるじゃない!」

 

 ミルたんと考えてることまったく一緒だな。案外気が合うかも。

 

「煌くステッキで、天使堕天使をまとめて抹殺なんだから☆」

「お姉さま、ご自重ください。お姉さまが煌めかれたら、小国が数分で滅びます」

「でもでも燃え上がったら刹那で星が吹き飛ぶイッセーくんよりはマシだと思うの☆」

 

 俺を引き合いに出すな魔王少女。……うん、今後はこれで行こう、魔王少女。即興の割に良いネーミングが思いついたぜ。

 

 にしてもコカビエルの時にサーゼクス様を呼んでこいつを呼ばなかった理由って……まあ間違いなしに正解だよな。支取会長の学園に手出しなんて話になったら、即堕天使に戦争しかけかねない。そして流れに乗るように他の神話がそこに加わって、殲滅後は冥界や天界にも累が及ぶ可能性も……なんというハルマゲドン。まあ、半分以上の原因は俺なんだけど。

 

「……もう、耐えられません!!」

 

 遂に限界を超えた会長が、涙を煌めかせながら走り去っていく。

 

「待って! ソーナちゃん!」

「来ないでくださいっ!」

「お姉ちゃんを置いてどこに行くの!? 見捨てないでぇぇぇぇぇっ! ソーたぁぁぁぁぁぁん!」

「『たん』はおやめになってくださいと、アレほど言ったじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 姉妹の追いかけっこを見送ると、手元の金棒を分解する。ようやく皆が離れてくれた後、匙が声をかけてきた。

 

「じゃあ俺、会長のフォローしてくるわ」

「ああ、がんばれよ」

 

 走り去る匙へエールを送ると、平静を取り戻した部長が深く深くため息をつく。

 

「ハァァァ……言いたくはなかったのだけれど、現魔王様方はどなたもあんな感じでね。プライベート時が軽いのよ」

 

 確かに、二人に比べたらまともそうなアジュカ様も、結構ノリの良さそうな面は見えてたからな……。もう一人、アスモデウス様もあんな感じなのか。

 

 ……とりあえず、声をかけるタイミングが無くてへこんでしまった氷美神の頭を撫でてやりながら、ひと声かけてやる。

 

「サインは今度もらってきてやるよ。何なら機会を見てアポ取りつけるから。な?」

「……うん」

 

 ガチで沈む氷美神を全員で励ましつつ、校舎の正面広間へ移動する。

 

「おぉ、イッセーに氷美神ちゃん!」

「あれ、父さん」

 

 父さんの声に反応して視線を動かすと、そこには俺の両親と、神さんに加わってもう一人、見覚えのある紅髪のナイスミドルが佇んでいた。グレモリー卿、部長のお父さんだ。

 

「リアス、こんな所にいたのか」

「お父様!」

 

 揃って近寄ると、グレモリー卿は微笑みながらも軽く頭を下げた。

 

「はじめまして、兵藤一誠くん、榊氷美神さん。リアスの父です。娘が世話になっているね」

「どうも。それで、どうして揃ってこんなところに?」

「神さんと一緒に、偶然廊下ですれ違ってな。ここで長話もなんですし、狭いですが我が家でお越しください」

「おお、それは願ってもない!」

「じゃあ、俺も久しぶりにおじゃまさせてもらいます」

「「「えええええ!?」」」

 

 異口同音に驚嘆の声を上げる俺と部長と氷美神を余所に、大人たちは身を翻す。

 

「じゃあ、皆。父さんたち、先に帰ってるよ。グレモリーさん、いける口ですか?」

「ははは、いやあ、そこそこは」

「……ふむ、今夜は父上に神も交えて、宴会ということかな」

 

 開いた口が塞がらない俺たちの前に姿を現したサーゼクス様に、部長が再び、深い溜息をついた。

 

 ……もしかして、俺のくそ度胸って父さん譲りなのかな?

 

 

 

 

 

「アーシアちゃん、よく撮れてるわぁ」

「は、恥ずかしいです……」

 

 母さんと並んで台所で洗い物をするアーシアは、テレビに映し出された録画映像の自分の姿を褒めちぎられて恥じらっている。俺は部長の向かい、氷美神の隣の位置でテーブルに肘を付いてピザに齧り付きながら、次いで映った自分の驚き顔と、続いて神さんが撮った氷美神の作業風景を鑑賞する。

 

「イッセーは落ち着きがなくていかんなぁ」

「氷美神ももう少し堂々と作業してもいいだろうに……あんな隠れるようにしなくたって」

 

 酒が入って既に酔い始めている保護者達の感想に言葉もなく、隣に座る氷美神が縋るように裾を掴んできた手を握り返してやる。多分顔は真っ赤で涙目だろうし、これくらいはしなきゃ逃げ出しちゃうから。その証拠に手がやたら汗ばんでいる。

 

「次はリアスのも見てみましょう」

「おお、やはり撮っていましたか!」

 

 手早く神さんが映像を切り替えると、撮影に気がついた部長が振り返り、慌てて録画を止めるよう訴えるが、機械は無情にも映像を流す。

 

「ハハハハ! やはり娘の晴れ姿を視聴するのは、親の務めです!」

 

 酒が入って随分陽気になったグレモリー卿は、うちに負けず劣らずの親バカっぷりを見せていた。いやもう、本当に父さんとも神さんとも打ち解けまくって、恥ずいったらありゃしねえ! 氷美神どころか、部長も顔を真赤にして俯いてるし!

 

「これは……かつてないほどの地獄だわ……」

「見てください! うちのリーアたんが、先生にさされて答えているのです!!」

「――もう耐えられないわ! お兄様のおたんこなす!」

 

 ハイテンションなルシファーの解説がトドメになったのか、部長は席を立って出て行ってしまった。

 

「部長!」

 

 頭と手を一撫でしてから氷美神から離れた俺は、部長を追って二階に上がった。

 

 扉が開け放たれた自室の中、電気もつけずに俺のベッドに横たわり枕に顔を埋める部長に近づいて、ベッドの端に腰掛けながら、彼女の象徴とも言える紅い髪を一房手に取り、感触を確かめるように軽く手で梳かす。

 

「……盛り上がりが激しいのはともかく、うちの両親と部長の家族が仲良くなったのは良かったと思います」

「……わかっているわ。私も、父とイッセーのお父様が楽しそうに話していて、嬉しいわよ」

 

 けど、恥ずかしいもんはしょうがないからなぁ……。

 

「ねえ、イッセー」

「はい」

「……イッセーは、私と出会えてよかった?」

 

 ――。

 

「私はね、イッセーと出会えて幸せ。もう、貴方抜きの生き方は無理なくらい。私の心は、結構あなたに占められてるのよ? ……だからね。気にしたってしょうがないって言われても、気にばかりなってしまうの。私が貴方を悪魔にしたから、イッセーは再び戦いの渦中に巻き込まれたんじゃないかって。私が余計な事をしなければ、貴方はまだしばらく、普通に暮らせていたんじゃないかって――」

 

 グイッ!

 

 うつ伏せの部長の肩を引いて、やや強引に後ろを向かせると、唇で唇を塞いだ。

 

 暗い気持ちに突き動かされて余計な事を言ってしまう口は、こうやって塞ぐに限る。これまでの人生で学んだ経験則だ。

 

 柔らかく官能的な感触も名残惜しくキスを終えて、驚きに目を見開かせる部長へ柔らかく笑いかけた。

 

「俺も、リアスと出会えて幸せです。どうせ平穏無事も期間限定ってのはわかってましたし、悪魔になって失った物もあるかもしれないけれど、得たものもありました。つうか、そもそも神になった……いや、達人になった時点で半分以上人間止めるようなもんっつーか、赤龍帝の時点でもうアウトっつーか……とにかく、リアスが気に病む事はひとつもありませんよ。そんな事気にして沈むくらいだったら、笑顔の一つでも浮かべてください。そのほうが俺も、よっぽど嬉しいですから」

 

 ニカッと満面の笑みをみせつけると、頬が赤らんだリアスが再び顔を寄せてキスを行い、舌と舌が触れ合う。

 

 ガシッ。

 

 が、接触もそこそこに俺の襟元が何者かに引っ張られ、思わず背後を振り向いた俺に、二人分の非難の視線が突き刺さった。

 

「……うぅ」

「……」

 

 涙目で唸るアーシアに、無言で瞳を紅く輝かせて地味にキレる氷美神。襟を掴む二人の手は秒ごとに握力を増し、強化された制服でなければ今頃濡れた半紙の如く引き裂いているだろう。げに恐るべきは女の情念か……これを嬉しいと思う俺は心底バカなんだろう。

 

「……リアス。一つだけ言っておく。幼馴染を舐めるなよ」

「……部長さんばっかりズルいです!!」

「先手必勝。朱乃との争いで学んだことよ」

「だったら私は後手必勝です!」

 

 ガシ!

 

 首に両手を回したアーシアに続いて、氷美神が左手を抱きしめる。

 

「アーシア。それを言うなら後の先を取る、だ。どっちにしろ、俺が取るがな」

 

 ベッドの上で、俺を中心に視線をぶつけあう美少女三人! 止めどころを伺う俺!

 

 混迷を極める室内に、紅髪の魔王が介入する。

 

「おやおや、喧嘩はよくないよ? ……リアス、ちょっと思いついたことがあるんだが」

「なんでしょう?」

 

 立ち上がって対面する妹へ、サーゼクスは思いも寄らない事を言った。

 

「そろそろ、もう一人の僧侶(ビショップ)を解放してもいいんじゃないか?」

「ッ!」

 

 息を呑む部長に、俺はあの開かずの間の、得体のしれない電磁波を脳裏に思い浮かべた。




イッセーのたらしっぷりが止まりません。どの口でモテないとか言ってたんだか。
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