ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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 ギャスパー登場。そして当然、イッセーの魔の手が迫ります。


Life.73 後輩、出来ました。

 翌日の放課後、オカルト研究部全員が、旧校舎の開かずの間の前に集合していた。

 

 俺とアーシア、そしてゼノヴィア以外の皆が知っているという、もう一人の僧侶(ビショップ)。フェニックス戦はおろか、あのコカビエルの一大事でも現れなかったのは、そいつが『封印』されていたからという。

 

 サーゼクス曰く、余りある能力ゆえに部長では扱いきれないと判断され、自分の指示でこの旧校舎の一室に封じたらしい。

 

 しかし、ライザーとのゲーム、コカビエルとの一戦が高く評価され、今ならば大丈夫だろうと解禁の許しが出たという。それ以上にぶっ飛んだ俺を眷属にしたのもあると言ってたが……一応危険物の自覚はあるので黙ってた。

 

 『KEEP OUT』のテープが幾重にも張られた上に、かなり厳重な刻印までされている。この方式……相当強力な神器(セイクリッド・ギア)の持ち主か? 五感に関わるタイプなら、一定以上のレベルを超えれば抑えきれずに発動してしまう事がよくあるので、こういった感じの扱いをされることも少なくはない。

 

 ドアの隙間から微かに流れ出る電磁波、臭い、音から判断して、内部にいるのは……マジかよ、おい。

 

「一日中、ここに住んでいるの。一応、深夜には術が解けて、旧校舎内だけなら出歩いてもいいのだけれど、中にいる子自身が、それを拒否してるの」

 

 トス。

 

「要は引きこもりですか」

 

 取り出したアテナの濃厚でいて爽やかな血液を飲みつつ、身も蓋もない意見をぶちまける。

 

 ジュズルルルルル。

 

「でもこの子は、一番の稼ぎ頭でもあるんですよ?」

「え!?」

 

 朱乃さんの言葉に、思わず大きく反応する。外に出られないのに……FXや株取引じゃないよな?

 

「パソコンを介して、特殊な契約を取るやり方でね。その方法での取引率は、新鋭悪魔の眷属のなかで上位に入るほどだよ」

 

 はぁ~。悪魔とパソコンで契約ですか。でもやっぱり悪魔だし、直接会いたくないって人もやっぱ少なくはないだろうしね。

 

 一番の稼ぎ頭か……できればなにかしらコツを伺いたいところだが、俺だとそっちでも妙なのを引っ張りかねないし、やめておくか。

 

 パリィィィン!

 

 部長が手をかざし魔法陣が浮かぶと、ガラスが砕けるような音とともに刻印が解呪され、封鎖していたテープも赤い光となって消え去った。

 

「――開けるわよ」

 

 そう言って、部長が扉を開いた……。

 

「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 

 途端、室内からくぐもりつつもかなりの絶叫が発せられた。しかし、新顔三人以外の皆はため息をつくと、構わず中に入っていく。慌てて後を追うと、カーテンが締め切られつつも可愛らしく整えられた内装の一室に、違和感バリバリの棺桶がひとつ鎮座していた。

 

「ごきげんよう。元気そうでよかったわ」

「な、何事ですかぁぁぁぁぁぁ」

 

 部長の挨拶にも狼狽気味に騒ぎ出す引きこもりの声が棺桶から聞こえる。これだけ煩いんだから、元気なのは間違いない。

 

「あらあら、封印が解けたのですよ? さあ、私達と一緒に――」

 

 朱乃さんが棺桶の蓋を外して横に置くと……中には金髪の小柄な人影がうつ伏せでしゃくりを上げつつ泣きわめいていた。

 

「やですぅぅぅぅぅぅぅぅ! ここがいいんですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! お外怖いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

 バッとこちらを振り向いた、赤い双眸に人形のように端正な顔立ち。女生徒の服を見事に着こなしつつ、しなしなとした仕草も、震える佇まいも、実に女性的で可愛らしい。

 

 ……性別が伴っていれば、な。

 

 部長がそっと近づいて、抱きしめながら頭を撫でると、ようやくそいつは泣き止んだ。

 

「この子はギャスパー・ヴラディ。私の眷属、もう一人の僧侶(ビショップ)よ。一応、駒王学園の一年生。転生前は、人間と吸血鬼(ヴァンパイア)のハーフなの」

「……やっぱ、そうなのか」

 

 部屋に入る前からの感覚情報で、それはわかっていた。わかっていたけれど……もう一つの事実は知りたくなかった。そうすれば、短い間でも夢を見れただろうに……。

 

「あの、なんで――男なのにそんな格好を?」

「女装趣味があるんですわ」

 

 ああ、成る程。それならまあいい。割とよくあることだ。

 

 うん、それはいい。だけど……だけどよぉ……。

 

「……似合いすぎだろうがこの野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ヒィィィィィィィィィィッッ! ゴメンなさいゴメンなさぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」

 

 やり場のない感情が起こさせた魂のシャウトに、部長が離れたギャスパーは縮み上がって震えている。大人げないとは思うさ。けれどしゃーないだろう!? なんだってこんな残酷なことが起こりうる!?

 

 こいつの染色体にYはいらなかっただろどう考えても!! ちょっと生まれる前の生命的設計図をよこせ、YをXに塗りつぶす!!

 

「男の子……けど、似合ってますね」

 

 アーシアの率直な物言いが、更に俺の激情を掻き立てる!

 

「似合ってるから余計ショックがでかいんだ! ていうか、引きこもりなのに女装趣味って、誰にみせんだよ!」

「だ、だ、だ、だって……この服のほうが可愛いもん」

「もんとか言うな! 部屋に入る前に察しちまったのが残念でならねえよ! 前情報なしでいれば、一瞬でもアーシアとお前とでダブル金髪美少女の僧侶を夢見れていたのに……!」

「……人の夢と書いて儚い」

「小猫ちゃぁぁぁぁん! それシャレになってないから!」

「ヒィィ……と、ところで、この方達は誰ですか?」

 

 騒ぐ俺に怯えながらも、ギャスパーは俺たち三人を指さしながら部長へ疑問をぶつけた。

 

「貴方がここにいる間に増えた眷属よ。兵士(ポーン)の兵藤一誠に、貴方と同じ僧侶(ビショップ)のアーシア・アルジェント。そして騎士(ナイト)のゼノヴィアよ」

 

 部長の紹介に、慌てて息を整える。

 

「フゥ……まあ、よろしくな、ギャスパー」

「よろしくお願いします」

「よろしく」

「ヒィィィィ、人がいっぱい増えてるぅぅぅぅ!」

 

 またしても悲鳴を上げるギャスパーに対し、部長がもう一度ギャスパーへと近づいた。

 

「ねえ、ギャスパー。お願いだから外へ出ましょう? あなたはもう封印されている必要はないの」

「嫌ですぅぅぅぅぅ!」

「ハァ……引きこもってばっかじゃ、吸血鬼でも健康に悪いぞ」

 

 興奮のあまり、アテナの血を一気に飲み干したので、ワームホールを出してパックを中へ放りつつ新しくアルテミスの血を取り出すと、ギャスパーが目を見開いて小さく悲鳴を出した。

 

「そ、それ……血……」

「ああそうだよ。成り立てだけど、俺も一応吸血鬼だから」

「――ヒィィィィィィィィィ!!」

 

 スッ。

 

 直観に従ってギャスパーの背後を取ると、皆がまったく元の姿勢のままで固まっている。俺は両手に精神を落ち着かせる文様を書き込んだ布を錬成し、それで後ろからギャスパーの眼を覆ってやると、耳元でつぶやき出す。

 

「――いいか。呼吸をゆっくりするんだ。吸って、吐いて、吸って、吐いて……そうだ。少し落ち着いたろ? 眼を閉じてみろ」

 

 布を外した直後、皆がハッと元の流れに立ち戻り、アーシアとゼノヴィアが驚いていた。

 

「おかしいです。何か今一瞬……」

「……何かされたのは確かだな」

 

 やれやれといった様子の皆を前に、ギャスパーは頭を抱えて震えている。

 

「怒らないで! 怒らないで! ぶたないでくださぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」

「怒らないし打たないから落ち着けって。ほら、呼吸をゆっくりしろ」

 

 言われたとおりにする後輩へ、俺は取り敢えず、頭を撫でてやる。

 

 

 

 

 

 ジュズルルルルル。

 

 ゆっくりと啜るアルテミスの血液のほのかな味わいを楽しみつつ、移動した部室にて一人立たされるギャスパーを見やる。席を譲るから座れと言っても、怖いの一点張りでこんなかんじになっちまった。

 

停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)……視界に映った全ての物体の時間を、一定時間停止させる神器。話に聞いたことはあるけれど、実際に所有者を見るのは初めてですね」

 

 バロールかぁ……既に滅んだケルトの魔神を冠する神器とは、ある意味皮肉だな。それは名付け親にこそ言うべきかもしれないけれど。

 

「しかも、その子は類稀な才能の持ち主で、無意識のうちに神器の力がドンドン高まっていくようなの。話では、禁手(バランス・ブレイカー)に至る可能性もあるという話よ。興奮すると能力が勝手に発動してしまって制御できないから、魔王であるお兄様の命によって封印されていた、というわけ」

「なるほど。重龍皇の闇瞳(ヴォイド・ローディング)の時の俺と似たような感じってことですか」

 

 とはいえ、俺の場合はガオウのお節介が原因だからな。才能だけで自然になれるとは、そりゃまたおっかなくも羨ましい限りだ。

 

「うぅぅ……僕の話なんかしてほしくないのに。目立ちたくないのにぃぃぃ……」

 

 ふと気がつけば、ギャスパーは部屋の隅にて、何処からとも無く取り出したダンボールに入り込んでしまった。なんだこの女装吸血鬼。

 

「またこんな所に隠れやがって……お前、俺と違って生来の吸血鬼だろ? ほら、奢ってやるから飲めよ」

 

 近づいてダンボールの蓋の上に一般人の血液パックを数個ドサドサと投げ置いてやるが、反応はある意味想定通りだった。

 

「血、嫌いですぅぅぅぅぅ! 生臭いのもダメェェェェェ! レバーも嫌いですぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「その子はハーフだから、十日に一度パックの血を補給すれば問題ないの。もともと血を飲むのは苦手みたいだしね」

 

 部長の説明に、俺は深々とため息をついて血を飲む。

 

 人間上がりの俺の方が平気で血を飲めるって、どうなのよ? 俺が真っ当な人生送ってきたとは言いがたいのは認めるけどさ。

 

「十日に一度って……よく我慢効くな。俺なんか、今じゃ一日十パックは当たり前だぞ?」

 

 内容も覚えてない妙な夢を見てから、一気に量が倍にも増えてしまった。何かの前触れなのかね。

 

「せせせせせ先輩の方が吸血鬼らしいじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 僕の需要ゼロですよぉぉぉぉぉ!」

「あのな、言っとくけど俺は吸血以外は吸血鬼らしいことなんか碌に出来ないんだ。精々が素粒子レベルで吹っ飛んでも一瞬で再生出来る程度だぞ、手本を見せてみろよ天才くん」

「いや、それは十分だと思うけど」

 

 生憎、再生ならグルメ細胞を活性化させれば前から出来る。俺はもっとこう、霧を出したり、自在に姿を変える吸血鬼らしいことを言っているんだ。……元々、忍術で出来るけど。

 

「つぅかこいつ、ハーフでも吸血鬼でしょ? 日光当たる屋外に出して大丈夫なんですか」

「彼はデイウォーカーと呼ばれる日中活動出来る特殊な吸血鬼の血を引いているから、問題ないわ。苦手ではあるでしょうけど」

「……そもそも、イッセー先輩だって全然余裕じゃないですか」

 

 そりゃあ、ライリの眷属だから。少なくとも、俺は吸血鬼に変わったからって弱点なんか増えちゃいない。むしろ、聖なる力や聖水なんかに耐性ができた。試しに神さんから超聖水をもらって手にかけてみたら、肌の表面が荒れた程度で済んでしまった。……俺は本当に吸血鬼になったんだろうか? もうなにか別種の存在と化してないか?

 

「日の光嫌いですぅぅぅぅぅ! 大陽なんて無くなっちゃえばいいんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「なら倒せ。あの恒星を打ち砕いてみせろ」

「あらあら、イッセー君が言うと、まったく冗談になりませんわね」

 

 朱乃さんのツッコミに納得しつつも、ダンボールに蹴りを入れると、ギャスパーがわんわん泣き喚く。

 

「うぇぇぇぇぇん! 僕はこの箱の中で十分ですぅぅぅ! 箱入り息子ってことで許してくださぁぁぁぁぁい!」

 

 筋金入りの引きこもりだな。ここまで突き抜けるといっそ感心したくなる。

 

「私と朱乃は、いまからトップ会談の打ち合わせに行かなければならないの。祐斗、お兄様が貴方の禁手(バランス・ブレイカー)について詳しく知りたいそうだから、一緒に来てちょうだい」

「わかりました」

 

 聖魔が交わる剣を生み出すという、特異な禁手。神の不在を証明する一因とも言える木場の聖魔剣は、やはり今回の会談でも大きな意味を持つってことか。魔方陣を展開しながら、部長はギャスパーと、傍にいる俺の方を見やる。

 

「その間だけでも、貴方達でギャスパーの教育係をお願いできるかしら」

「わかりました。適度に扱いておきます」

「イッセー……くれぐれも、手加減を心がけてあげてね」

「はっはっは。やだな、段階踏ませて無茶させるのが俺のやり方って、皆骨身にしみてるでしょ?」

 

 シーン。

 

 通夜のような空気を醸し出す部員一同は、一斉にギャスパーつまるダンボールへと同情と無事を祈る願い……そして修行地獄の道連れへの歓迎という複雑な想いが絡み合う生暖かい視線を送り、何かを察したのか、ギャスパーがガタガタを箱のまま震えだす。

 

「さぁ、ギャスパー……楽しく逝こうか」

 

 

 

 

 

「じゃあまずは、俺を停めてみろ」

 

 夕焼け照らす旧校舎前へギャスパーを伴って出た俺達は、人払いの結界を張りつつギャスパーの特訓を開始した。

 

 そして、いきなりの無茶ぶりに、両手を広げる俺の前に立たされたギャスパーは一瞬キョトンと立ちすくみ、すぐに涙を浮かべて首を横へ振った。

 

「ふぇぇぇぇぇ! 無理無理無理ですよぉぉぉぉぉ!」

「制御できないってのは、感情が高ぶると勝手に発動する点だろ? なら、発動自体は比較的うまくいく筈だ。まずは意識して発動だけでもうまく行かせなきゃ。ほら、やってみろ」

「駄目ですぅぅぅぅぅぅ! 先輩にそんな事できませぇぇぇぇぇん!」

 

 ゴッ!

 

 俺を見ながら震えるギャスパーへ向けて、俺は軽い殺気と共に気当たりをぶつけた。

 

 ギャスパーが息を呑むと同時に、停止世界の邪眼の力が俺の時を止めようと襲いかかる。

 

 自分の周囲の空気が固まるような感覚に若干動きを鈍らせながらも、俺は腕組をして頷いた。

 

「……うん。まったくの無防備とはいえ、俺の動きを鈍らせるか。成る程、こりゃあ正真正銘の天才だ」

 

 鎧かオーラを纏っていれば弾けるだろうけど、逆に言えば俺でも身構えなければ多少は影響を受ける。赤龍帝にして超人、仮にも神の端くれであり、最高位の吸血鬼の眷属であるこの俺がだ。

 

「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

 

 しかし肝心のギャスパーはと言えば、唐突に気当たりをぶつけられたショックでまた泣きだした。皆も心配そうに見ているが、一応は色々と理由あっての真似だったので、強引であっても必要なことだ。

 

 とにかくこいつに今必要なのは……精神的な余裕だな。

 

「ギャスパー。いきなり脅かしたのは謝る。すまん」

「うぅぅぅ……僕、僕怖くって……けど、だからって先輩に力を使うなんて……」

 

 やっぱり、泣いてた理由はそれが大か。

 

「やれっつったのは俺だ。お前が気に病む必要は何処にもないって。それより、お前本当に凄いな。俺があの手の能力に掛かるって相当だぞ?」

 

 実際、避けたり防いだりしようとすれば手なんかいくらでもあるけれど、そもそも生半可な時間、空間系の能力は俺自体には効かない事を考えれば、素直に称賛に値する。俺も伊達に規格外共の弟子なんてやっちゃいない。

 

 重龍皇の胸甲(ローディング・ギア)を出して右手に大量の紙風船が詰まった袋を錬成すると、それを離れたほうで見ていた小猫ちゃん達の方へと投げ渡した。

 

「その調子で練習開始だ。今から紙風船を投げるから、それを神器で停めるんだ。余分な力は俺の神器で吸収すれば、そこそこうまく行くはずだから。俺は力を吸収する役に集中するから、ゼノヴィアと小猫ちゃんは紙風船を投げてくれ」

「……はい」

「了解だ」

 

 おろおろするギャスパーへ、俺は人気も悪魔気も神気も無い方向を指さした。

 

「じゃあギャスパー。向こうを向け。あっちなら誰もいないから、取り敢えず視界に入った紙風船を停めることだけに専念するんだ」

「は、はいぃぃぃ」

「おー、やってるねオカ研」

 

 特訓を始めようというところへ、匙が姿を現した。

 

「どうした、匙」

「いやぁ、解禁された引きこもり眷属がいるって聞いてさ……って、金髪美少女ぉぉぉ!?」

「ヒィィィ!」

 

 匙のギラついた視線におそれをなしたギャスパーが、木の陰に隠れてしまった。話が進まないのでとっとと現実を突きつけてやる。

 

「残念ながら、あれは女装野郎だ」

「――嘘だ。こんな残酷なことがあっていいものか」

「生憎、真実ってのは残酷な事のほうが多いぞ。それより……いい加減出てきてくれないか? 気になって仕方ないんだよ」

 

 四つん這いになって激しく落胆する匙に経験談を語ってやると、さっきからウロチョロしてる堕天使様へ音弾を飛ばす。切っ掛けを伺っていたのか、浴衣姿のワル系ハンサムは木陰からあっさりと姿を現した。

 

「魔王眷属の悪魔さん方は、ここで集まってお遊戯してるってわけかい?」

「引きこもりの教育だ。茶化すだけなら帰ってくれ」

「まあそう邪険にしてくれるな、赤龍拳帝君」

 

 突然の部外者登場についていけない皆が困惑する中、俺の傍へ寄ったアーシアが不思議そうに聞いてくる。

 

「お知り合いですか?」

「アザゼル。堕天使の総督様だよ。けど、皆は身構える必要はない。とっくに神様方が警戒してるから、何かあれば連中が微塵も残さずぶっ殺すさ」

 

 唐突なカミングアウトに神器や聖剣を出して動き出そうとする皆を制すると、周囲に厳しい警戒を向けられるアザゼルは両手を上へとつきだした。

 

「そういう事だ。それに俺は神の手で、赤龍拳帝に一切の危害が加えられない様にされている。ここで下手な真似はしないし出来ないさ。今日は散歩がてら見学だ。聖魔剣使いはいるかい?」

「生憎不在だ。……あいつに何かするってんなら、俺も黙っちゃいねえぞ」

 

 ギィン!

 

 万華鏡に睨まれるアザゼルは、興味深そうな視線を向けつつも両手を上げて嘆息する。

 

「言っただろ、下手な真似はしないって。ただ見てみたかっただけだよ。それと頼むから物騒な言い方はよしてくれ。お前さんに敵対認定されたら、今度という今度こそ堕天使は終わりなんだ」

「なら妙な行動は謹んでくれよ。少なくとも、戦争なんかゴメンっていう点じゃあ俺とあんたは一致してるって信じてるんだ」

 

 これはここ最近の付き合いで見て取れた、心の底からの本音だ。それをわかってるのか、アザゼルは胡散臭くも柔らかい笑みを浮かべた。

 

「そりゃあ、全力で応えないとだな。時に、そこのヴァンパイア。停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)……五感から発動するタイプの神器は、持ち主のキャパシティが足りないと、勝手に発動したりと危険極まりない。そこのは黒い龍脈(アブソープション・ライン)だな? 訓練なら、そいつをヴァンパイア君に接続して、余分な力を吸い取りつつ発動させれば、暴走も少なくて済むだろう」

 

 アザゼルに指摘されて、匙は自分の腕に張り付いたトカゲの頭の様な神器をまじまじと見ていた。

 

「力を……吸い取る? 俺の神器が……」

 

 え? こいつ知らなかったの? てっきりフリードの時は最低限の援護だから拘束だけに留めたんだと思ってたんだけど……。

 

 ……また俺の悪い癖だ。力の探求と鍛錬が、誰にとっても当たり前だと思い込んでいた。

 

「なんだ、知らなかったのか? そいつは五大龍王の一角、黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)ヴリトラの力を宿している。物体に接触し、その力を散らせる能力がある。短時間なら、持ち主側のラインを離して他のものに接続させることも可能だ」

「こいつに、そんな力が……」

「ああ、そうだ。もっと手っ取り早い方法があるぞ。赤龍帝の血を飲むことだ。ヴァンパイアには血でも飲ませておけば力がつくさ。ま、あとは自分たちでやってみろ」

 

 そう言って去ろうとする背中へ、俺は疑問を投げかける。

 

「待てよおっさん。なんだってこんなことをする? 講釈たれて、それでチャラにしろとでも言うつもりかよ」

「まさか。この位で償える程度なら、それこそこんな大事になってないだろ。これは単なる、俺の趣味だ。……っと、忘れかけてたが、神からフェニックス戦での映像を確認させてもらった上で、お前さんに一つだけ聞きたい事があったんだ。――マキシマムドライブに関してなんだが、いいかい?」

 

 振り向いたアザゼルに、一度ため息をついてから首を縦にふる。

 

「……講釈の礼としては妥当だな。いいぜ、答えてやる」

「感謝する。それじゃあいきなり核心に迫らせてもらうが、俺の予想が正しいければあれは……禁手(バランス・ブレイカー)覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の合わせ技……というより、覇龍の応用による一時かつ擬似的な禁手化の再現だと思うんだが、どうだ?」

「ほぼ正解だよ。覇龍は言ってしまえば潜在能力の全開放、それをドライグの協力と特訓で制御できるラインを定めて、赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)並みの能力を引き出せるよう一定の機能に制限したのが、あのマキシマムドライブだ。類似しても根本的には異なる能力だから禁手との同時利用も可能だけど、あれはあくまで封印状態の非常手段だ。もうやたらと使う事もないさ」

 

 マキシマムドライブのエネルギーは封印されていた覇気の大半に、同じく封印を受けていた莫大なチャクラや魔法力から捻出される関係上、それは封印の一時解除にも等しかった。

 

 二つ誤算だったのは、溢れだす力が俺に激しすぎる精神高揚をもたらし、一切の影響を無視させる事。

 

 そしてもう一つが……倍加が特異な形で覇龍の影響を受けた結果か、果てしなく限界を超えられるという特性を得てしまった事。

 

 ……もし、もしもだ。赤金の窮覇龍(ゲヘナ・ジャガーノート・オーバードライブ)を使用した上で、マキシマムドライブを使えたのなら――勝てる可能性があるかも知れない。破壊神(シヴァ)にも無限(オーフィス)にも夢幻(グレートレッド)にも。即ちこの俺が、真に最強の存在になれる可能性……。

 

 まあ、ほぼ百%暴走するだろうし、燃料切れでくたばるのが目に見えてるからまずやらないけどね。堅実に三体の天龍の力を極めたほうがよっぽど確実だし安全だ。そもそも赤金の窮覇龍の時点であれだけヤバイのに、更にそれを助長させるとか幾ら俺でもおっかない。

 

「そうか。そりゃあ安心したぜ。けど、あえて念を押しとくと――あれは出来れば、もう使わない方がいい。堕天使の長としての勘、それと研究者としての勘だが……あれは恐らく、お前が手にしてきた中で最も危険な力だぞ」

 

 それだけ言って、アザゼルは姿を消した。

 

「……取り敢えず、匙。能力の確認がてら、ちょっと特訓に付き合ってくれるか?」

「あ、ああ……」

 

 そうして特訓を再開したんだが、思った以上にうまくはいかない。

 

 どうやら紙風船では緊張感が足りないらしく、二十回やっても一度も成功しなかった。

 

 うーん……一度スイッチが入ればいけると思うんだけどな。

 

 そう考えて、日が落ちて学園から人がいなくなった夜に体育館でバレーボールをぶん投げてみたが、それはそれで恐怖心からか制御できず、ボールごと皆を停めてしまう。手加減して投げてんだし、別に当たっても死ぬわけじゃあるまいに。多分。

 

 ……それにしても、動きやすい服に着替えろと言って体操服にブルマを身につけてくる辺り、こいつは女装癖までとことん筋金入りだな。

 

「はぁ……なあ、ギャスパー。やっぱり、俺の血を飲んでみるか? 切っ掛けさえあれば、お前ならトントン拍子でいくはずだぜ?」

「血ぃ嫌ですぅぅぅぅぅぅ! 鉄臭いのらめぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「……ハァ。ヘタレ吸血鬼(ヴァンパイア)

 

 ため息とともに吐かれた小猫ちゃんのストレート過ぎる物言いに、ギャスパーがへたり込んで大泣きする。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁん、小猫ちゃんがいじめるぅぅぅぅぅぅぅぅ!! うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

 

 喚くギャスパーが部屋に帰って引きこもるのを、俺はどうしても止められなかった。

 

 ……特訓より先に、まずは(はらわた)を見せることから始めるか。精神的な意味で。




 ようやくマキシマムドライブの説明が出来ました。流石は総督。
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