ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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Life.75 色々、三すくみです。

「お茶ですわ」

「どうも。それにしても、俺に渡すならわざわざ朱乃さんの神社に持ち込んでまで仕様変更なんかしなくたっていいのに。どうせ後で思い切り鍛え直すんだし」

 

 熾天使(セラフ)達が帰った後、朱乃さんが住む境内の家に上がらせてもらった俺は、朱乃さんが出してくれた熱いお茶を目の前に、そんな事を口走る。すると、朱乃さんは口元を袖で覆って上品に笑う。

 

「うふふ……そこは渡す側の体裁というものですわ」

「阿呆らしいと言いたいところですけど、そこかしこが煩いんじゃあ仕方ないですね」

 

 まったくどいつもこいつも、四六時中ご苦労様だ。俺だけでなく三大勢力の動きにも注視してるんだから。とは言え、お陰でどこも気を引き締めているだろうし、暴発して俺を襲撃するような面倒な奴がこないのは助かる。

 

 ……朱乃さんと、二人きりか。龍の気を吸ってもらう時を除けば、殆ど無いよな。

 

 訊いてみるか。聖剣の事件の時に、コカビエルが口走ったことを。

 

「朱乃さん。一つ、訊いてもいいですか?」

「はい、なんでしょう」

「……エクスカリバーの一件で、コカビエルが言ってた事です。あいつの言うとおりなら、朱乃さんは、堕天使の幹部の……」

 

 笑みを落として表情を曇らせる朱乃さんに、途中で言いよどんでしまう。

 

「……そうよ。私は、堕天使の幹部バラキエルと、人間との間に生まれた者です」

 

 ……やっぱ、そうだったんだ。

 

 朱乃さんは、俯きがちに続ける。

 

「母は、とある神社の娘でした。ある日、傷つき倒れていた堕天使の幹部であるバラキエルを助け、その時の縁で私を宿したと聞きます」

 

 ということは、姫島、というのは母方の苗字ってことになる。姫島の姓で神社の娘……やっぱり朱乃さんは五大宗家の血縁だったのか。

 

 日本にて古くから異形を狩り続け、四神と黄龍の名と力を継承する一族達。その中の一つである姫島は、八百万の力を借りる関係上、新参の神である俺も紹介された事がある。

 

 古い血筋は歴史を背負い、それは誇りやそれゆえの態度の硬直など、様々なものを齎す。結果、そう言った一門は大抵の場合、外の力を嫌悪する。それは神器であったり、異種族含む外部の血であったりと様々だ。後者に関しては上級悪魔や吸血鬼がいい例だろう。

 

 普通の一般家庭出身、しかも神滅具(ロンギヌス)を持った俺も、あちらさんからは最初随分な眼で見られた。

 

 で、その高慢ちきな態度が少し鼻についたんで、とりあえず嫌味に感じたのを片っ端から半殺しにした。やっぱ神様として、荒御魂(あらみたま)も示しておかないとね。

 

 ともあれ……父の事に触れられた際の激昂、無人となっていた神社に一人で暮らしている事、部長の眷属である事。それにこの出生と来れば……幾ら俺でも察せられる。

 

 つくづく……普通としか言いようのない家庭で、極普通に両親の愛情を受けた自分が、どれほど恵まれたものかを痛感させられる。

 

 徐ろに立ち上がった朱乃さんは、後ろを向いて着物を下ろし、背中を露出させる。

 

 バサ!

 

 ――その背から生えた羽は、いつもの悪魔の両翼ではなく、悪魔と堕天使の黒い翼が片方ずつで広がった。

 

「悪魔の翼と、堕天使の翼。私はその両方を持っています。この汚れた翼が嫌で、私はリアスと出会い、彼女の女王として悪魔になったの。――その結果生まれたのは、堕天使の翼と悪魔の翼を併せ持つ、おぞましい生き物。……ふふふ、この身に穢れた血を宿す私にはお似合いかもしれません」

 

 自嘲する朱乃さんの笑い方は、とても悲しい響きだった。

 

 手で乳房を隠しながら、上半身も露わに朱乃さんが振り向くが、俺の視線は彼女の怯えきった瞳から外されることはなかった。

 

「……それを知って、イッセー君はどう感じます? 貴方とアーシアちゃんの身も心も傷つけて、貴方が生まれ育った大切な故郷を破壊しようとした堕天使に……いい思いを持てる筈は無いわよね」

 

 思い浮かんだ答えを、俺は率直に口に出す。

 

「はい。今のところ、俺は堕天使に余りいい印象は持ってません」

 

 その返答に、朱乃さんは諦めるように目蓋を下ろすが、俺は構わず続けた。

 

「でも、朱乃さんは好きですよ」

「――っ」

 

 目を見開いた朱乃さんは、あらゆる感情が入り混じり混乱しているようだった。

 

 そんな朱乃さんに、俺は座った状態で頭を下げる。

 

「……無神経な事訊いて、すいません。俺、昔からいつもこうやって、人の痛いところに平気で触れる所があるんで」

「そうではなくて……私は、堕天使の血を引いているのよ? あなたに嫌われまいと、必要以上に親しくしようと迫ったかも知れないのに……いいえ、きっとそう。私は、最低の女だわ……」

 

 ガタ。

 

 思わず立ち上がった俺は、朱乃さんの両肩に手を置いて、目と目を合わせながら言う。

 

「――例え朱乃さんが自分をどう思っても、俺にとっての朱乃さんはいつだって優しい先輩です。朱乃さんは朱乃さんで、オカルト研究部の副部長、グレモリー眷属の女王(クイーン)で、俺の弟子って事は変わらないし、変われませんよ。堕天使と人間のハーフって聞いても、俺は、朱乃さんが大好きですから。それでいいじゃないですか」

 

 言いたいだけ言い切った俺を前に、朱乃さんの目端からポロリと涙がこぼれ落ちた。

 

 翼をしまい涙を拭った朱乃さんは、いつもの笑顔よりも儚く微笑む。

 

「……殺し文句、言われちゃいましたわね。そんな事言われたら……本当の本当に本気になっちゃうじゃない」

 

 そうつぶやいた朱乃さんは、俺に全体重を預ける形で寄りかかって、強く強く抱きついてくる。抱きとめる俺は朱乃さんの胸の感触を記憶しつつ、反応を待つ。

 

 そして、色香を纏わせながらも決意を込めた声色が、鼓膜を通じて心へと突き刺さった。

 

「決めましたわ。私、決めました。ねえ、イッセー君……私、三番目を狙いますわ」

「さ、三番!?」

 

 どういう意味だか理解できないことも無いけど……なんだって三番目!? 

 

「リアスも氷美神ちゃんもマラコーダさんも我が強いですから、きっと皆、一番に目がいって大乱戦になるでしょうし……三番目が割と良いポジションだと思いますわ。何より、浮気って感じで燃えます。……ねえ、イッセー君? もっともっと私に甘えてくれてもよろしいんですよ? 部長の代わりに膝枕もしてあげますわ」

 

 こ、このむっちりとした肉付きのいい太ももで……そんな事になったら俺は、俺は……静まれ俺の中の獣よぉぉぉぉぉぉ!

 

 動揺する俺に、朱乃さんは更に攻勢をかけてくる。

 

「ねえ、イッセー君。これからは修行の時だけでなく、二人きりの時も朱乃って呼んで?」

「うぇ!? そ、それは……」

「……お願い」

 

 う、潤んだ瞳が懇願の色で万華鏡を貫いてくる! 太陽光なんか目じゃないほど効果抜群だ!

 

「わ、分かった。……朱乃」

「嬉しい! イッセー!」

 

 ぎゅっと抱き着く朱乃はもう凛とした学園二大お姉さまではなく、一人の恋する少女だった。

 

「……ねえ、私の血が欲しくない? ううん、お願いだから吸って? 私に、イッセーの物だって事を焼き付けて」

 

 甘える声が告げてくる、甘い誘惑。そんな事を言われたら、興奮からかほんのり赤くなっている白い首筋から目が離せなくなってしまう。

 

 修行を初めて、早数週間。ここまでの進歩と成長を鑑みれば……最低レベルであればイケる。

 

 ……よし、行こう。

 

「――この世の全ての食材に感謝を込めて、いただきます」

 

 ガブゥ!

 

「んんっ!! あ、あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!」

 

 ジュズルルルルル。

 

 初めて味わう、人間の血であり堕天使の血。さらさらとしていて癖がなく、奥にしっかりとしたコクとしびれるような刺激を含んだ味わいは、実に旨い。

 

「あ……あぅっ! ……ひゃ……あぁん……」

 

 ジュズルルルルル。

 

 抱き合う彼女の艶に富んだ喘ぎ声にドギマギしつつも、吸血を終えて首筋を舐める。

 

「ひぅん」

「……ごちそうさまでした」

 

 可愛すぎる悲鳴に脳味噌が沸き立つのを感じながら、崩れ落ちそうになる朱乃さんの体を支えて座らせると、朱乃さんの手が俺の側頭部に置かれ、そのまま膝へと導かれた。

 

 うおおおおお……柔らかい! 部長や聖さんとまた違った感触がうれしくってたまらない! ナデナデしてくれる手も最高だ!

 

「うふふ……なんだかいけないことをしている気分……イッセー君、気持ちいい?」

「はい! 寝心地最高です! こんな場面、氷美神は勿論、部長にだって見せられな」

「部長にだって……何かしら? ねえ、イッセー?」

 

 …………。

 

 一瞬脈動が滞った。ゆっくりと朱乃さんの膝から頭を上げて、夕日の光が差し込む入り口へと振り向くと……紅色の破滅の魔力をオーラの様に身にまとった、紅い悪魔が仁王立ちしてました。

 

 ……俺が教えた暗黒魔闘術、もうそこまでものにしたんですね。流石は紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)

 

 ――ヤバイヤバイヤバイヤバイ本気(マジ)ヤバイ!!!

 

「ぶ、ぶ、ぶぶぶぶぶ、部長ッ! こ、これはあのその……」

「油断も隙もないわ……。吸血の上に、膝枕だなんて……」

 

 ズゥン。ズゥン。

 

 怒りの余り、畳に足あとをつける勢いで歩みを進める部長が近づいてくる! つーか一体どこから見てたんですか!? あと、朱乃!? 割りと呑気に楽しそうだけど、本当は早くに気づいてたな!?

 

 殺気か荒事であれば、俺が気づかないわけはない……しかし、どうして俺はこういった日常的な危機には疎いのかなぁ!! 

 

 むんず。

 

 頬を思い切り引っ張った部長は、鋼のような怒りに沈んだ迫力ある声で訊く。

 

「剣は?」

「もらいまひた!」

「ミカエルとガブリエルは?」

「帰りまひた!」

「ガブリエルと朱乃の血は?」

「吸いまひ……たぁぁぁぁ!!」

 

 一際きつく抓られてから開放された俺は、無様に畳に横顔を打ちつける。

 

「なら、ここにはもう用はないわね。帰るわよ」

「は、はい。じゃあ朱乃さん、失礼します」

 

 踵を返して去ろうとする部長に従おうと立ち上がりつつ、朱乃さんへ頭を下げると、朱乃さんは笑顔で手を振りつつ、呟いた。

 

「一番を狙えるリアスが、羨ましい限りですわ」

 

 いつもの調子の声に戻っていた言葉になんとも言えず、俺は部長の後を追った。

 

 

 

 

 

 怒りに満ちた足取りで石段を降りる部長へ、俺は数歩後を無言で付いていく。

 

 いや、マジでさっきのは不味かった。人によっては肉片引き裂け、血しぶき飛び散る地獄絵図と化したかもしれない。無論俺のだが。

 

 ……一番下まで辿り着いた所で、部長が足を止めて、背中越しに問いただしてきた。

 

「ねえ、イッセー。……私も、貴方の吸血に耐えられる位には、強くなれたのかしら」

「え? それは……はい。師として把握している皆の心身の強さは、最低レベルの快楽なら、余裕で耐えるレベルだと思います」

「……そうなの。じゃあ……私の血も飲みたい?」

「……はい。けど、輸血した血を貰える位でも十分ですし、そもそも嫌なのに無理に血を欲しがったりしませんよ」

 

 怖がるようなトーンを察してそう答えるが、俯いた部長は悔やむように呟いた。

 

「――何が、一番を狙えるよ。そんな事が出来たら……私は……」

 

 エレガントで気品にあふれた真の貴族たる子女。そんな普段の部長とはかけ離れて、その声音は極普通の女の子だった。

 

 

 

 

 

「んぅぅぅぅぅ……」

 

 深夜の旧校舎前にて、ギャスパーは俺に見守られながら停止世界の邪眼(フォービゥン・バロール・ビュー)の訓練に励んでいた。

 

「よし!」

 

 ぶん投げたバレーボールを空中にて制止させるギャスパーへ声を掛けると、ボールは地面を数回バウンドして転がり、ギャスパーは手を落としてため息を吐く。

 

「二十回に一回は成功するようになったな。大した進歩だよ」

 

 籠からバレーボールを取りつつ言ってやるが、実際ろくに制御できなかった最初に比べれば十分な進歩だ。というか、俺を少しでも停めかける神器の制御を、この短期間でこれだけこなすようになったのは結構凄い。才能のなせる技ではあるだろうが、それでもコイツ自身の努力がなければこうはいかなかった。継続は力なりってね。

 

「次!」

 

 掛け声にギャスパーが身構え、そこへボールを軽く投げる。

 

 バン!

 

「ファア!?」

 

 しかし停止の力は働かず、ギャスパーは顔面にボールを食らってひっくり返った。

 

「イッセー先輩~~。疲れましたよぉぉぉぉ~~」

「弱音を吐くな! 俺達には、叶えなきゃいけない夢があるだろうが! 夢をかなえるため、俺に付いて来い!」

「……イッセー先輩!」

 

 そもそも、ギャスパーは限界には程遠い。精神的にも肉体的にもそれ以外も余裕だ。ただ、引きこもりゆえの気弱さが出ているだけで、こいつはやれば出来る。

 

 そう、早く時間停止を自在に操れるようになって……停止した可愛い女の子を触りまくりたいんだよぉぉぉぉぉぉ!

 

 気持ちが逸り手が勝手にうごめくが、停止の特訓はギャスパーのためでもある。

 

 能力を自分のものに出来たという自信は、力に怯えるこいつにとって必要なものだ。だからこそ、半端な真似は出来やしない。

 

「俺を恨んでもいい、憎んでもいい! だがそれでも、可愛い後輩の為、仲間の為! 俺は心を鬼にする!」

「――はい! 僕、頑張ります!」

 

 左手でボールを宙に放り投げるが、それを叩いて飛ばそうとした右手のほうが動きを鈍らせた。

 

 ……熱が入ったのが逆効果になって、タイミングがずれたな。まあ、こういう制御を覚える修行でもあるし。

 

 常に平常心を保つなんて難易度の高い事を求めるより、感情と共に高ぶった力の制御に慣れたほうが建設的だ。

 

「ふぇぇ! また失敗してしまいました、ごめんなさいぃぃぃ!」

 

 頭を抱えて屈みこんだギャスパーへ、笑いながら言う。

 

「修行中なんだから気にすんな。失敗回数も減ってきてるんだ。むしろ今までは全身だったのが、右腕だけに集中してんだから、これだって立派に進歩してる証拠だよ」

 

 しかし、頭を上げたギャスパーは複雑そうな顔を見せた。

 

「ぼ、僕は……悪魔としても吸血鬼としても半端者だから、皆に迷惑ばかり……」

 

 泣き出しそうなギャスパーへ、俺は腹の底から叫ぶ。

 

「ギャスパー! 余計なことを考えるな! くよくよする前に、どーんとぶつかってこい! 俺もそっちの方が分かりやすい! 人間で悪魔で吸血鬼、同じオカ研部員で、リアス部長を支える眷属同士のお前が、俺は好きだ!」

 

 堂々と言ってやると、ギャスパーは不安の晴れた明るい表情になって立ち上がる。

 

「は、はい! イッセー先輩、僕、もっともっと頑張ります! ……それじゃあ、これをかぶってパワーアップを……」

 

 そう言って何処からとも無く例の紙袋を取り出すと、頭に装着。恐怖の紙袋吸血鬼(ヴァンパイア)へと変貌を遂げた。

 

「……あー、うん。少しそれでやってみようか」

 

 すると驚くべきことに、成功率が三割もアップした。……いや、精神的に補強になるという意味ではまちがってはいないんだけど、あんな姿で本当にパワーアップになるってどんだけだ。

 

 けれど、こうしていると改めて思うんだけど、俺、武術や物づくりはともかく、神器の方面には明るくないんだよな……。

 

 神さんだって、基本は俺自身を鍛えあげるのが主だったし、赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)の強化や機能拡張も、ドライグとの協力あってのことだ。他の神器には門外漢も良いところ。

 

 出来れば、もっとちゃんと神器に精通した師匠がいればな。

 

 ふと、頭のなかに十二枚の黒翼の男がよぎる。……交渉次第では可能だろうか。一応、考えるには値する。

 

「……そう言えばイッセー先輩。皆さんは確か、イッセー先輩の家の地下で修行してるんですよね?」

「ああ。基本的には、早朝と夜でな。あっちの方は木分身が行ってるから問題ない。その内、お前もそこで修行できるよう頑張ろうな!」

「はい!!」

 

 にぱっと笑うギャスパーへ、腹の底で歓迎の意を示す。

 

 チャクラを共鳴させることで、木分身を消すこと無く本体と分身で認識した情報をやりとりする。最近ようやくできるようになったこれでもってギャスパーの意思を伝えると、嬉し半分心配半分の表情になったリアスが、正拳突きを顔面にくらって、鼻血を噴きながら吹っ飛んだ。

 

 新たな弟子入り候補よ。かの修行場(地獄)を目指して、精進するべし。

 

 

 

 

 

 ジュズルルルルル。

 

 薄すぎず濃すぎず、絶妙にはっきりとした旨みのエオスの血液を飲みながら、ベッドで横たわる自分の体へ感覚を巡らせる。修行が終わって眠る深夜は、これが日課になった。

 

 ……吸血鬼になってから、早一月近く。明らかに細胞のレベルが大きく上がっている。女神の血液が俺の細胞に適合しているだけでなく、恐らくは吸血鬼としての完全体に近づいているからだろう。

 

 ライリから聞いた話では、吸血鬼になるというのは個体によって方法や過程がだいぶ異なるらしく、ライリは段階を置いて劇的な変貌を遂げるタイプで、中でも俺のはゆっくりと変化しているらしい。

 

 その時を楽しみにすらしている俺は、やはりおかしいんだろう。

 

 朱乃さんも、ギャスパーも、受け継いだ血によって辛いものを抱えているってのに。

 

 昔、純粋な人間だった頃の俺は、誰になんと言われても人間を捨てなかった。例外的に八百万の誘いを受けたのは、決定的に変化するのが人として死んだ後だったからだ。

 

 自覚していなかっただけで、俺も人間であることに誇りを持っていた。だから俺は……

 

『……ほらね。私の言った通り。貴方は強いじゃない』

 

 ……幾ら時間が経ってもあの時の事を思い起こせば、左手の感覚がはっきりと蘇る。

 

 拳が触れた柔肌。突き抜いた筋肉。へし折った骨。吹き飛ばした心臓。

 

 そして……リアスが告げた、許しと愛。

 

 俺はあの優しい人に、どう償えばいいんだろう。あの強い愛に、どう応えればいいんだろう。

 

 答えは未だに見つからないけど、これだけはきっと間違ってはいない。

 

 ――俺もリアスを愛してる。

 

 ……なんて、口に出せれば一番なんだけどな。本当に、どうしてこうも変な所で度胸がないのか。

 

 コンコン。

 

 突然、ノックが聞こえた。

 

 ドアの向こうにいるのは、部長と……ん? あれ、なんでこの人が!?

 

「は、はい。どうぞ」

 

 ガチャ。

 

 部長がそっと室内に入ると、その後ろに付いて入ったのは……上だけ襦袢を着た朱乃さん。

 

 狼狽える俺にクスリと笑うと、部長が訳を説明する。

 

「さっき、緊急の会談の打ち合わせがあってね。帰りが遅くなったから、今夜だけうちに泊まることになったの」

「ええ。うふふ……」

 

 顔を見合わせる二人はとても楽しげで、夕方の事など微塵も感じさせなかった。

 

「それで、朱乃がイッセーにお詫びがしたいと言ってね」

「お詫び?」

 

 部長の言葉に首を傾げる。……詫びられるような事なんてあったっけ?

 

「今日は突然驚かせてしまって、大変申し訳ありませんでした」

「……聞いたわ。朱乃が貴方に何を話して、貴方が何と答えたのか」

 

 ということは……堕天使の事か。

 

「いや、気にしないで下さい。むしろ、俺の方こそ本当にとんでもない事聞いて、申し訳ないっていうか……」

 

 ボスン。

 

 答えに詰まる俺の両隣へ、部長と朱乃さんが腰を下ろす。両側を抑えた二人は、更に腕を組み付かせてきた。

 

「……イッセー君は、私が誰であっても、私を好きだって言ってくれました」

「それが私は嬉しいし、誇らしいの。それでこそ、私のイッセーだわ」

 

 ほ、褒められるのは俺も嬉しいですが、俺としては至極素直な事を言っただけで……。

 

 グイ!

 

「あら、これからは私のイッセー君でもありますわ」

 

 部長から離すように俺の腕を引っ張った朱乃さんは、強く腕に胸を押し付けられる! おおおお、たまんねえ! なんだこの深夜のご褒美タイムは!

 

 グイ!

 

「……ちょっと朱乃? いくら親友でも遠慮ってものがあるんじゃないかしら?」

 

 今度は部長が体を俺に押し付けながら朱乃さんに詰め寄る! 本当に最近の俺の女運はどうなってやがるんだ! 内蔵が雑巾みたいに捻れたり骨が砂のように砕けたり筋肉が紙のごとく千切れたりした反動だとでも言うのか!! ……改めて思い出すとすげぇ痛々しい。どうして平然としているんだ俺は。

 

 ムニュゥ。

 

「あら、真剣勝負に遠慮は不要ですわ。(キング)ともあろうものが何を腑抜けたことを!」

 

 更に身を乗り出し、二人が顔を突き合わせた結果、挟まれた俺はお二人のお乳様にサンドされたぁぁぁぁぁ! もう嬉しすぎる!

 

 バフ!

 

「そこまで言うなら、私だって決して負ける訳にはいかないわ!」

 

 そう言って、俺の頭を思い切り胸に抱き込む部長!! 柔けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!

 

 バフ!

 

「うふふ……そう来ますか!」

 

 しかし、朱乃さんも負けず劣らず、奪いとった俺を自分の乳房へ導いて……ああ、これぞ俺の求めた楽園(ぱらいそ)の絶頂か……。

 

 ガチャ。

 

「うぅぅぅ……お二人共ズルいですぅ!!」

 

 物音に起きたのか、乱入するアーシア。やっぱりオチがついた。

 

 翌朝、目を覚ませば全裸の三人がベッドの上にところ狭しと寝転ぶ光景に、俺はこみ上げる熱い何かを抑えながら、ハーレムへの道の険しさを再確認した。

 

 

 

 

 

「……不用意に会いに来るな。神々や三大勢力の眼は赤龍拳帝に集中しているとはいえ、怪しまれれば終わりだぞ」

「大丈夫よ。もとから襲撃が予想されているのは計画の内……それでも構わないというのが彼らの意見ですもの」

「ふふふーん。白龍皇ちゃまは割りと心配症なのねぇ。ああ、私は早くあの赤いドラゴンちゃんを燃え萌えして差し上げたいわん!」

「無理だね。あれは正真正銘の規格外だ。そう……対となる俺だけが、あの化け物を倒しうるのさ」

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