ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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Life.8 友達、出来ました!

 無力が憎い。となれば決まってる。特訓しかない。

 

 ちょうど、神父にやられた傷が思いのほか治りが悪く、部長に今日は休むよう言われた。痛む体に鞭を打って、家の庭で腕立て、腹筋した後、町内を走りまわって、公園の鉄棒で懸垂する。

 

 地味な特訓だけど、今の俺に一番足りない物は単純な体力。それを補うためには、ひたすら鍛える以外に道は無い。

 

 ……正直、半分ぐらいはごまかしが入っている。家でじっとしていると、どうしても頭に浮かんできてしまう事があるからだ。

 

 アーシア……俺みたいな悪魔にも手を差し伸べてくれた、心優しいシスター。彼女が、あんなイカレたクソ神父と同じ所にいる。そう考えると、居ても立っても居られなくなっちまう。

 

 とてつもなくもどかしい……でも、耐えなきゃいけないのは分かってる。そう思うと、どうしても体を動かさずにはいられないんだ。こうしてる間にも、アーシアは……

 

「イッセーさん?」

 

 …………え?

 

「アーシア!?」

 

 

 

 

 

「………」

 

 予期せぬ再会だったが、とりあえず、公園で立ちつくして顔を合わせてるのもあれだったので、繁華街のハンバーガーチェーン店に行く事にした。俺も腹が減ってたし。

 

 しかし、アーシアは、注文する段階で少し躓いてしまった。フォローしようと思ったが意外と意地っ張りなアーシアは固辞したが、結局俺が代わりに注文した。アーシアは落ち込んでいたけど、日本語出来ない上に、この手の店が初めてじゃキツイって。まずは日本語になれる所から始めようぜ?

 

 そうして色々あって、席に着いた今、またしてもアーシアが困惑している。今度はハンバーガーの食べ方が分からないらしい。

 

 まったく、かわいらしいなあ、もう!

 

「こうするんですよ、姫君!」

 

 空腹からくる勢いで包み紙からハンバーガーを出して齧り付くと、アーシアは目を輝かせた。

 

「すごいです! そんな食べ方があるなんて」

 

 そう言って、同じようにハンバーガーを取り出して、小さく一口。

 

「美味しい!」

 

 はち切れんばかりの笑顔。本当に素直な子だ。思わず、俺まで笑顔を浮かべてしまう。

 

「そういえば、どうして公園に?」

「……その、休み時間だったので、町のお散歩でもと……」

「……」

 

 僅かに目をそらしたアーシアをじっと見る。

 

「それで、イッセーさんをお見かけして……その……」

 

 間違いなく嘘だ。今の反応もそうだけど、さっき公園で会ってから、ここへ来るまでも、何かに怯えている様子だった。

 

 多分、堕天使の所から逃げてきたんだろう。無理もない。優しいアーシアじゃ、平気でああも惨たらしく人を殺せるような連中の所にはとどまれないだろう。

 

 でも、それを指摘したからって、どうなるものでもない。それこそ、アーシアの事だ。俺を巻き込むまいという思いから、言った途端に逃げてもおかしくない。

 

 本当に、自分の力の無さが嫌になる。それでも、アーシアから助けを求められたら、それには応じる気でいる。いや、最後まで話してくれないようであれば、それこそ俺の方から切り出そう。

 

 それまでは……

 

「アーシア!」

「はい?」

「今日は、思いっきり遊ぼうか!」

「ふぇ!? ……はい!!」

 

 

 

 

 

 手始めに、アーシアとゲーセンを巡った。初めてのレーシングゲームに大慌てしたり、相性診断ゲームで最高評価を受けたり、ダンスゲームに熱中したり、プリクラを撮ったりした。

 

 しばらくして、クレーンゲームのコーナーを回った時に、突然アーシアが一つのクレーンゲームの前に張り付いた。

 

 中を覗くと、黄色と黒のシマシマのネズミキャラ、ラッチューくんのぬいぐるみが大量におかれていた。そうかそうか、ラッチューくんが好きなのか。なら、やる事は一つ!

 

「アーシア。ちょっとどいて。俺が取ってやるよ!」

「え! で、でも」

「いいから」

 

 アーシアの肩を引いてコインを取り出し、投入口に装填!

 

 よし! 元帰宅部にして、現オカルト研究部の悪魔をなめんなよおおっ!

 

 クレーンが、取りやすい位置のラッチューくんの上まで来た。よし、ここからが勝負!

 下がっていくクレーンが、上手く……挟んだ!

 

 そして、獲物をゲットしたクレーンが、元の位置に戻っていく。最後に、取りだし口から黒と黄色のネズミが出てきた。

 

「ラッチューくん、ゲットしたぜ! ほら、アーシア」

 

 ぬいぐるみを受け取ると、アーシアは両腕でその胸に抱きしめる。本当に好きなんだな。

 

「あ、ありがとうございます! 一生大事にします!」

 

 輝かんばかりの笑顔で礼を言ってくれるアーシア。本当に、慎ましい子だな……。

 

「それじゃ、次はどこへ行こうか」

 

 

 

 ゲーセンの後も色々な所へ行くたびに、アーシアは様々な反応を見せてくれた。

 俺もそれが楽しくて、気づけば三時を回っていた。今はアーシアと二人、公園のベンチに座っている。

 

 まさか、夕麻ちゃんとのデートに備えて準備した知識が、こんな所で役に立つなんて……。

 

「イッセーさん。ありがとうございます。こんなに楽しかったのは、生まれて初めてです!」

「ははは……アーシアって、いちいち大げさ……ってて」

 

 軽く腕を回そうとしたら、そこから痛みが走る。ああ、そう言えば今日は怪我で休んでたんだった……。

 アーシアは、痛みに顔をしかめる俺の背後に無言で回ると、背中に手を翳して、手から緑色の光を発した。

 

「……先日の怪我、ですね……」

「いや、あの……」

 

 やっちまった……あの程度の痛みなんて、慣れてる筈なのに。肩越しから見るアーシアの顔は、かなり悲しげだ。

 しかし可愛いよなぁ。こんな女の子と一日遊べるなんて、けがをしたのも悪くない……かな?

 

「確か、足も……」

 

 そう言って、顔を上げたアーシアと目が合った。思わず、目をそらしてしまう。

 いや、やましい事考えてたわけじゃないから別にいいんだろうけど、なんか恥ずかしくて。

 

「ん、ああ……」

 

 生返事で返すと、アーシアは再び無言で移動し、足にも緑色の光を当てた。

 とても心地いい温かさを感じる……これが、アーシアの優しさか。

 

「……これで、どうでしょうか?」

 

 アーシアが光を止めて、聞いてきた。俺は立ちあがって肩を回したり、その場で小走りしてみたが、なんともない。

 すげぇ! 神さん並みの回復力だ!

 

「なんともない! すげぇよ、アーシア!」

 

 手放しに絶賛する俺に、アーシアはまた、あの魅力的な笑顔を見せてくれた。そして、少し寂しげに表情を曇らせて、つぶやく。

 

「イッセーさん。少し……昔話に付き合ってもらえますか?」

 

 

 

 私、生まれてすぐ親に捨てられたんです。ヨーロッパの小さな田舎町の教会、その前で泣いていたそうです。私はそこで育ちました……。

 

 八つの時です。怪我をして瀕死になった子犬が、教会に迷い込んできました。私は一人で必死に祈りました。すると、奇跡が起きたんです。子犬の怪我は、緑色の光でたちまち治っていました。

 

 それからすぐ、私は大きな教会に連れて行かれ、世界中から訪ねてくる信者の病や、怪我を直すよう言いつかりました。

 私は、自分の力が人々のお役になれることが、とても嬉しかった!

 

 でも、少しさびしかったです。教会の人々はよくしてはくれましたけど、みなさん、私を『聖女』と呼ぶんです。私を名前で呼んでくれる人は、誰もいませんでした。

 怪我を治療した人も、みんな私を『聖女様』と崇めるだけです。私には、友人なんて一人もいませんでした。

 

 そんなある日、怪我をして倒れている男の人に出会いました。けど、その人は悪魔だったんです。それでも、私は放っておくことはできません。そして……

 

「悪魔を治療する力だと!?」

「魔女め!」

 

 悪魔を治療するような力を持つ者は、魔女だと……。

 

 異教徒の烙印を押された私は、教会を追放されました。

 勿論、それは辛かったですけど、一番辛かったのは……

 

 私を庇ってくれる人が、一人もいなかった事なんです。

 

 そこで、ようやく私は気がつきました。

 

 信者を癒す者は『聖女』。悪魔を癒す者は『魔女』。

 

 『アーシア・アルジェント』は、誰の目にも映っていなかったんだと……。

 

 でも、ずっと信仰と共に歩んできた私は、教会以外の生き方を知りませんでした。

 

 

 

「それで、行き場を失ったアーシアは、堕天使に拾われた、か……」

 

 アーシアと二人、公園の石のベンチに座って、アーシアの身の上を聞いて、俺の胸に去来する、同情心というには激しすぎる胸の痛み。そして、激しい憤り。

 

「でも、私は神の祈りを……感謝を忘れた事はありません!」

 

 おい、神様。どういう事だよ。

 

「まして、あの方たちがみんな、あんなひどい事をしているだなんて……」

 

 こんな、優しい女の子が……なんでこんな理不尽な目に会ってんだよ……。

 

「でも、きっとこれも、主の試練なんです!」

 

 周りの都合でひっぱりまわされて! 傷つけられて! あげく捨てられて! それでもアンタへの感謝と祈りを持ち続けた少女が!! どうしてこんな目にあってるんだ!!

 

「お友達も、いつかたくさんできると思います。私、夢があるんです。お友達と一緒に、お花を買ったり、本を買ったり、おしゃべりしたり……いつか……きっと……」

 

 アーシアは、溢れ出る涙を止められなかった。胸にぬいぐるみを掻き抱き、涙は頬まで伝う。

 

 ……神様! なんでだ! なんでこの子を救ってやらない!

 

 俺は悪魔だ! しかも、大昔にアンタや天使、堕天使、悪魔の全部に喧嘩売った二天龍の赤い龍までくっついてる!

 そんな俺でも、声をかけるくらいはできるんだぞ!

 

 何のためにアーシアに神器(セイクリッド・ギア)なんて持たせたんだ! 彼女から奪う為か? それが、神の愛とでも言うのかよ!!

 ああ、わかったよ! あんたがなにもしないんなら、俺がしてやる!

 

「俺がアーシアの友達になってやる。ていうか、もう俺達友達だろ。違うか?」

 

 俺の言葉に、アーシアは顔を上げる。

 

「だってさ、今日一日、一緒に遊んだしさ……駄目かな」

 

 アーシアは、泣きながらだけど、それでも、嬉しそうに笑ってくれた。

 

「いいえ……いいえ、いいえ。いいえ! でも、イッセーさんにご迷惑が……」

「そんなの気にするな! それが友達だ!」

「……私。……私、嬉しいです!」

 

 今度こそ、ほぼ完全に流れる涙を止めて、アーシアは笑ってくれた。

 別にいいじゃないか、悪魔とシスターが友達でも。世の中、もっと凄い組み合わせだっていくらでもあるぜ?

 

 アーシアを、これ以上辛い目には合わせない。俺が守って見せる!

 が、次の瞬間。背後の公園の水場。水滴が落ちるような静かな音が、そっと広がった。

 

「それは無理よ」

 

 振り返れば、そこには黒い翼を広げ、まるで水面に立っているかのように浮遊する女性がいた。以前の落ち着いたファッションとはちがう、露出の多い色気のある服装だが、それ以上に、俺は彼女自身に目を奪われる。

 

「……夕麻ちゃん」

「レイナーレ様……」

「やっぱり、堕天使だったんだ」

「ふっ。悪魔に成り下がって、無様に生きているって聞いたけれど、本当の様ね。アーシア、逃げても無駄よ」

 

 その声は、夕麻ちゃんの可愛らしい声とは違う、大人っぽい妖艶な声だった。でも、その裏には、隠しきれない冷徹さがある。

 

「嫌です! 人を殺める所へは戻りたくありません! ……イッセーさんごめんなさい。本当は私、にげて……」

「わかってたさ」

 

 そりゃそうだろ。だって……

 

「アーシアがこんな、ろくでもねぇ連中と一緒なわけねぇもんな! 堕天使が何の用だ!」

「汚らわしい下級悪魔の分際で、気軽に話しかけないでくれるかしら」

 

 俺が話しかけると、彼女は侮蔑に染まり切った目で俺を睨みつけた。……さっき語られた、アーシアの感じたものが良く理解できる。あの瞳には、『俺』が映っていない。

 

 アレは『悪魔という汚物』を映した目だ。

 

「アーシア。あなたの神器は私達の計画に必要なのよ。ずいぶん探したのよ。私と一緒に帰りましょう? あまり迷惑をかけないでちょうだい」

 

 近づいてくるレイナーレに対し、アーシアは俺の背中に隠れる。

 俺はアーシアを庇うように、前に出る。

 

「……ゆう、レイレーナさんよ。あんた、アーシアをどうするつもりだ」

「さっきの言葉が聞こえなかったのかしら? ……しかも、私の名前まで呼ばないでよ。名が汚れるわ。これは堕天使内の問題よ。さっさと尻尾を巻いて主の所へお逃げなさい。邪魔をするなら……」

 

 レイレーナが、手に光の槍を握った!

 ……相手は一度俺を殺した堕天使だ。どう考えても、このまま連れていかれたら、アーシアが無事で済む筈がない。

 

 俺は無言で赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)を顕現させる。すると、レイレーナは一瞬虚をつかれた顔になり、つづいて哄笑する。

 

「何かと思えば、ただの龍の手(トゥワイス・クリティカル)じゃないの。力を一定時間倍にする程度の能力しか持たない、ありふれた神器。下級悪魔にはお似合いの玩具ね」

 

 ……なるほど、こないだのドーナシークとかいう堕天使と同じように、俺の神器をただの龍の手と思ってるってわけか。そいつは重畳。

 

 ここは広い。それに、こんな時間に、人通りも決して少なくない街中の公園で襲ってくるってことは、結界も張ってあるんだろう。なら、こっちも思い切りやらせてもらう!

 

「あなたの神器は危険……そう上から聞かされたから、あんなつまらない真似までしたのに……「好きです! 付き合って下さい!」なーんてね! あの時あなたの鼻ののばしようったら! アッハハ!」

 

 !! こいつ……。

 レイナーレは、わざわざ夕麻ちゃんの表情まで作って、俺に嘲笑を浴びせる。

 

 俺は、怒るより先に悔しくなった。こんな女に、俺は一度でも惚れこんだのかよ……。

 

「うるせぇ、黙れ!」

 

 内心を誤魔化す様に、俺は大きく叫ぶ。

 

「そんなものでは、この私に敵いはしないわ! おとなしくアーシアを渡してこの場を立ち去りなさい」

「嫌だ! 友達くれぇ、守れないでどうすんだ!」

「! イッセーさん……」

『Boost!』

 

 一段階目の強化! 同時に、レイナーレの槍が投げられるが、横殴りでへし折る!

 

「へえ、多少はやるじゃない。でも、ね」

 

 ドシュッ!

 

「がっは!」

 

 俺の腹に、光の槍が突き刺さっていた。アーシアがぬいぐるみを取り落とし、悲鳴を上げる。

 

「イッセーさん!!」

 

 馬鹿な……レイナーレの槍は確かに……。

 よく見れば、槍は俺の横っ腹を貫いていた。ということは……

 

 思った通り、横の林から女の堕天使が飛び出てきた。あいつは……カラワーナとかいったか。

 もう一人、ミッテルトとかいうゴスロリ少女の堕天使も合流する。

 

 くそ……レイナーレに気を取られ過ぎて、後二人いた事に気がつかなかった!!

 

「一の力が二になった所で、大した違いは無いわ。まあ、弱めたとは言え、私の一撃を凌いだ事は褒めても良いけどね」

 

 く……光の槍自体は消えた。

 けど、悪魔に取って光は猛毒。しかも刺された場所がまずい。さっさと勝負をつけないと……。

 

 激痛が腹部から全身に広がるけど、徐々に収まっていく。

 緑色の光が、俺を照らしている。みれば、アーシアが俺の腹部を治療してくれていた。

 腹部の傷はあっという間になくなり、後には血のついたTシャツがあるだけだ。

 

「アーシア。おとなしく私と共に戻りなさい。あなたのその『聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリン)』は、そいつの神器とは比較にならないほど希少なのよ」

「やはりあなた方は、私の力が必要なだけだったのですね!」

「戻ってくるなら、その悪魔の命だけは取らないで上げるわよ」

 

 更に巨大な光の槍を精製しながら、堕天使が囁く。

 信用できるか! 殺す気満々じゃねぇか! 

 大体、アーシアを守るって決めた矢先なのに、俺がアーシアの足かせになってどうすんだよ!

 

「ふざけんな! 誰がお前なんかに……」

 

 そう叫んだ途端、レイナーレは俺のほぼ真上まで移動し、光の槍を掲げる。

 

「アーシア!!」

「きゃあ!」

 

 ドォォォン!

 

 反射的にアーシアを後ろに突き飛ばす。直後、俺の足元に、光の槍が投げ込まれ、炸裂した。

 大きく吹き飛ばされた俺は、背後にあるもう一つの水場に突っ込んだ。

 

「くっそ……いままでの槍とは……全然威力が……」

 

 ……中級クラスの堕天使か。おまけに数は三対一。やっぱ、速攻で終わらせるしかない!

 

「……わかりました」

 

 俺が仕掛けようとした瞬間。

 レイナーレの近くで座り込んでいるアーシアが、そう呟いた。

 

「な……アーシア?」

 

 アーシアはゆっくりと立ち上がって歩いていくと、近よるレイナーレに身を任せる。レイナーレはアーシアを抱きしめると、黒い羽根で包む。

 

「そう、いい子ね。アーシア。今夜の儀式が済めば、悩みも苦しみも全てから解放されるわ。じゃあねイッセーくん♪」

 

 レイナーレは俺の方へ、また夕麻ちゃんの声でそう言った。ふざけんな! 逃がすか!

 走りだそうとする俺の前に、二体の堕天使が滑り込むように現れる。

 

「ミッテルト、カラワーナ。その悪魔は殺してはだめよ! 適度に遊んだら、結界を解除してその辺に放り捨てておきなさい」

「ああ」

「はいは~い」

 

 待てよ、待ってくれ!

 

「ダメだ! アーシアアァァァ!!」

「さようなら……イッセーさん」

 

 涙を流して、寂しげに笑うアーシア。それを最後に、アーシアは俺の前から一瞬で姿を消した。

 伸ばされた手の先には、二体の堕天使がいるだけだ。

 

「さ~て。そんじゃ、ストレス解消タ~イム!」

「やりすぎるなよ、ミッテルト」

「はいはい。でも、こいつ結構丈夫気味だし、かなり手荒にやっても大丈夫っしょ」

「ふっ、それもそうか」

 

 堕天使二体は、手に光の槍を精製する。

 俺は……身構える事も出来ず、ただただ歯噛みする。

 

「ちょっと~。抵抗してくんないとマジ退屈なんですけど~」

「まあ、怯えているんだろう。それはそれで楽しみがいがある」

「こんな小物悪魔一人の為に命捨てるとか、馬鹿だよね~、あのシスターも」

「まったくだな。まあ、教会に追放されてなお、神への信仰を持ち続けるほどだからな。筋金入りの愚か者なのだろう」

 

 ピクッ。

 

 反射的に、体が動いてしまった。

 

 ――こいつら、なんて言った……?

 

「お前ら……」

 

 気がつけば、激情のままに口を開いていた。

 

「はあ?」

「ん?」

「アーシアを……なんて言った?」

 

 俺の問いに、堕天使二人は顔を見合わせると、嘲笑いながらしながら言ってくる。

 

「なになに? 本気であのシスターに惚れてんの? キモ! 身の程知りなよ、アンタ!」

「男女の美醜の判断ぐらいは正常につくだろう! 自分に釣り合った女を探せ!」

 

 そんな罵倒なんか、どうでもいい。俺が知りたいのはアーシアの事だけだ。

 

「答えろ!!」

『Boost!』

 

 感情の高ぶりのまま、強化が再開される。

 

「へえ。怒ったら力が上がったよ、コイツ。ならもっかい言ってやるから、耳の穴かっぽじってよっく聞きな!」

「怒っただけでこれだけ強くなる奴も珍しい。面白い、ならせいぜい聞いて怒るといい」

 

 二人は一拍置いて、再び、口を開く。

 

「アンタみたいな小物悪魔の為に犠牲になるなんて、馬鹿っつったのよ!!」

 

「教会を追放されてなお、神への信仰を持ちつづけるなど、筋金入りの愚か者といったのだ!!」

 

 ブチッ。

 

 久々に、堪忍袋の緒が切れた。

 

 俺みたいな悪魔の為にも犠牲になろうとする、アーシアの優しさ……。

 

 異教徒と呼ばれ、魔女と呼ばれ、教会を追放されても信仰を捨てなかったアーシアの強さ……。

 

 その両方に、こいつらは唾を吐きかけ、踏み躙った。

 

 …………絶対に!!

 

「許さねぇぇぇーーーーー!!!」

Maximum(マキシマム) Drive(ドライブ)!!』

 

 ゴォォォ!!

 

 俺の全身から、可視化するほど濃くなった覇気が溢れ出る。赤い色は凶暴なうねりを見せていて、まるで逆鱗に触れられた龍の様だ。

 俺の突然の変貌に、二人の堕天使は焦り出した。

 

「なな、なにこいつ! これ……上級悪魔並みじゃん!?」

「この力、魔力ではない! もっと……凄まじい何か?」

 

 感情の赴くままに、俺は二人を睨みつける。それで何かを感じ取ったのか、二人は最大級に力をそそいだ槍を、一気に投げつけてきた。

 

 けれど、足りない。

 そんなもんじゃ……俺の怒りは収まらない!

 

 ドドン!

 

 覇気を纏った両拳を、同時に前に突き出し、戻す。たったそれだけの動作だ。それだけで、二人の渾身の攻撃であろう光の槍は、難なく打ち砕かれた。

 

 驚愕に顔を凍りつかせる二人のうち一人、ミッテルトの方に照準を合わせ、両腕に覇気を込め、龍として解き放つ!

 

「受けろ……機神、双獣拳!!」

 

 ガォン! ガォン!!

 

 両腕から放たれたのは、覇気で形成された獣。気づいた時にはもう遅く、二体の獣は、ミッテルトの体内に潜り込む。

 

「う、ぐっあぁ!!」

 

 そして今度は、体の中から双獣が出ようとする。そして……

 

「きゃああああああ!!」

 

 ドォォォォン!

 

 覇気による爆発と共に、堕天使は跡形もなく砕け散った。

 

「あ、あああぁ!!」

 

 もう一人、カラワーナは恐怖に体を震わせるが、逃亡を許すほど俺も間抜けじゃない。一瞬で相手の懐へ飛び込むと、左手に覇気をみなぎらせ、鳩尾へ叩き込む。

 

「覇皇連衝拳!!」

 

 ズドン!

 

 重い一撃が、見事に入った。後ろへ吹き飛ぶ堕天使だが、生憎それだけで終わりじゃない。

 

 ズドン!

 

 二撃目の衝撃が、更にカラワーナを吹き飛ばす。

 一瞬の間に同じ一点に連続で拳を叩き込み、より深く破壊力を突きさす。それが覇皇連衝拳。そして今の回数は……。

 

「三だ。消し飛べ!」

 

 ズドォォォォン!

 

 最後の衝撃と共に、カラワーナもまた爆発した。

 

 結界を形成していたのがどちらだったのか、あるいは両方なのかは知らないが、多分これで結界は解けただろう。

 

 マキシマムドライブを解除すると、アーシアが連れ去られた場所まで駆け足で寄る。そこには、俺がゲーセンで取ったラッチューくんが転がっていた。

 そっと拾い上げたそれを見て、俺は……自分の無力さを呪うしかなかった。

 

「ちくしょお……ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 

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