旧校舎への転移に成功した俺はすぐさま、大勢のいる場所を突き止め、そこへ目掛けて部長とともに、神器を展開させて殴りこむ!
「オラァァァァァ!」
ドゴグシャァァァァ!
気合の一声も猛々しく、ギャスパーの部屋に入って即、最初に目についた奴を死なない程度に殴り飛ばす! 女だろうがこの場合は知ったことじゃねえ!
「グアァ!!」
「赤龍帝だ! 馬鹿な、何故この場所へ!?」
「動くな、化け物め! これを見ろ!」
陳腐な悪役台詞に耳を貸してやれば、目の文様が目立つフードをかぶった女達が、魔方陣で磔にされたギャスパーへと短剣を突きつけていた。その隣には、同じように魔方陣で拘束されている小猫ちゃんもいるが、何故かこっちは逆位置だった。
「……部長、すみません」
「いいのよ。貴方達が無事だっただけで」
ギャスパーの謝罪に部長が安堵しながら声をかけるが、無視されたととったのか、魔術師たちは苛立たしげに言う。
「どんな手品を使ったのかは知らないけれど、少しでも動いたら……」
そういう連中だが……視覚、聴覚、嗅覚からの情報から総合して、こいつらは特に体術に秀でているわけでも、肉体強化や加速系の魔法に優れているわけでもない。いくらナイフがつきつけられているとはいえ、俺なら奴らの脳が判断を下すよりも早く片付けられる。しかし……俺は敢えて静観を選んだ。
すると、ギャスパーは涙声で言った。
「部長……僕を殺してください。僕なんか、死んだほうがいいんです……臆病者で、役立たずで……それどころか、こんな力のせいでまた……迷惑を……ッ!」
「馬鹿なことを言わないで。貴方を眷属にした時に、言ったはずよ。私のために生きなさい。同時に、自分が満足できる生き方も見つけなさい――と。貴方は私の下僕で、眷属。私は決して、貴方を見捨てないわ」
「リアス……部長」
強い信頼にボロボロと涙をこぼすギャスパーへ、魔女たちが短剣をこれみよがしに近づける。
その内の一人が、口元を醜く歪めて厭味ったらしい嘲りを吐く。
「旧魔王派の言う通りねぇ。グレモリー一族は情愛に深くて力にあふれている割に、頭が悪いって。こんな危なかっしいもの、さっさと洗脳して道具として扱えば、もっと評価も得られたものを。それを仲良しこよしで下僕としてあつかうなど」
「お生憎様。私は私の下僕を大切にするの」
「――ッ! 生意気な口ね! 悪魔のくせに、美しいのも気に入らないわ!」
嫉妬に逸る一人の魔術師が部長を狙って放った魔法波を、前に出た俺は右腕でつかみ、そのまま握りつぶす。万華鏡写輪眼でもって睨みつけると、それだけで攻撃を仕掛けた魔術師は及び腰になる。……相手が無抵抗でなきゃ、喧嘩もろくに出来ない腰抜けが。
部長は俺の後ろから出ると、ギャスパーに優しく語りかける。
「ギャスパー。私にいっぱい迷惑をかけてちょうだい。私は何度も何度も、貴方を叱ってあげる。慰めてあげる――決して、貴方を離さないわ」
「ぶ、部長……僕は……僕は……」
今度は嬉しさから泣き出すギャスパー。ああ、そうだろうさ。本当にいい主に仕えたよな、俺達は!
これがライザーみたいに典型的なクソムカつくお貴族様的上級悪魔の眷属だったら、俺も悪魔を滅ぼすまではいかなくても貴族制の欠片も残らないくらいには暴れてたかもな、実際問題! そうなると、部長は正に冥界の救いの女神ってか。
まあ、そんな仮定はどうでもいい。それよりギャスパー……最後の一押しのプレゼントだ! ド派手に行こうぜ!!
「ギャスパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!」
部屋中を通り越して学園中、どころか結界を突き破って街中に轟けとばかりの大声を、全力で張り上げる! 多少建物がきしみあげようが知ったことか!! 俺の想い、しかと魂で受け止めろ、後輩!
「逃げるなッッ! 恐れるなッッ! 泣き出すなッッ! 俺も、部長も、朱乃さんも、アーシアも、木場も小猫ちゃんもゼノヴィアも! 皆、仲間だ! 絶対に、お前を見捨てないッッ!」
思い切り右手を握りしめ、爪で皮膚を突き破る。流れでた血液を親指へと垂らし、指弾の勢いで弾いて、ギャスパーの口へ!
「だけどな、ギャスパー……自分から立たなくちゃ始まらないんだぜ!? てめぇタマついてんだろうが!! 男見せてみろぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
ピチャ。
叫ぶ間に、血は見事ギャスパーの口へ入る。その瞬間……俺とギャスパー以外の全員が動きを止め、ギャスパーは魔方陣を振り払うと、小猫ちゃんを解放し、部長へ委ねた! なんだよ、引きこもりやってたのが信じらんないくらい素早い動きじゃねえか! これは鍛えがいがあるぜ!
更にギャスパーが無数のコウモリへと変じた時、皆の時間が正常に動く。
チチチチチ。
しかし、ギャスパーは動き続ける! 赤い瞳のコウモリの群れが、状況の掴めない魔術師たちへと一斉に襲いかかる!
「クッ! 变化したのか、吸血鬼め!」
毒づきながら魔法使いたちもコウモリへと魔法の閃光を放つが、すかさず自分たちの影から伸びる大量の腕に掴まれ拘束され、動きを封じられる。何度影へ魔法の攻撃を加えても、影は霧散しては直り、また拘束の繰り返しだ。
その間にも、コウモリは女達の体へ噛み付き、血と魔法力を吸い上げる!
「血を吸うつもり!?
「血だけじゃない、力まで……!」
……すげぇ、これが、本物の
「イッセー、あれがギャスパーの秘めていた力の一部よ。貴方の血を飲んだことで、開放されたのね」
部長の説明に、血が垂れる右手を見れば、俺の血をギャスパーに与える発想を最初に授けてくれた、あの堕天使の顔が浮かび上がる。……どこまでこの結果を予測していたのかはわからない。けれど確かなのは、あの男の発想がこの状況を生み出したってことだ。
「ひ、ヒィィ!」
唯一ギャスパーの魔の手から逃れられている魔術師が、扉へ向けて走りだす。
部長から離れた小猫ちゃんが、そいつの頭上へ飛び上がって両手で背筋の中央を抑え、そのまま体重ごと下へと押し付けた!
「……
ドォン!
「――ぁがッ!」
強く床へ胸を叩きつけた魔術師は肺の空気を全て吐きだして、そのまま動きを止める。
本来なら首へ体重を載せてへし折る技なんだけど良いアレンジの仕方だぜ、小猫ちゃん! 伊達にあれで何度か死にかけてるわけじゃないな!
「くっ、ならば!」
ドン!
魔術師の一人が苦し紛れに部長を狙うが、俺が弾く前に魔法弾は空中で停止する。
これは……ギャスパー、お前か!
「魔術だけを停止させっ!?」
『無駄ですよ。貴方達の動きは、全て僕が見ていますから」
室内に響き渡る声とともに、コウモリたちの赤い瞳が一斉に輝き出す! すると、未だに抵抗を続けていた魔術師たちが停止された!
『イッセー先輩、トドメを!』
「よし、任せろ!」
一瞬で魔術師達の体へタッチし、篭手の左手の指をパチンと弾く!
「
バババッ!
停止状態の魔女たちの衣装がものの見事に弾け飛び、眼前には露わな裸体が! もう見放題の触り放題!
「ギャスパー、やっぱ俺たちが組めば無敵だな!」
『はい!』
両手をわきわきさせて魔術師たちへ近づく俺の桃色脳味噌に、部長の拳骨が叩き落とされた。
「そうじゃないでしょう」
あー、ですよね、はい。すぐに拘束しますです。
手早く魔女たちを一纏めに縛り上げた後、元の姿へ戻ったギャスパーへ腕輪をはめてやる。既に広がっている停止能力はすぐには解除されないだろうけど、これでギャスパーからの供給は止められるからいずれ消えるはず。
……にしても、さっきから感じてるこのオーラ。皆のところか? ……どうやら、テロはテロでも随分面倒な事になっているらしいな。
「じゃあ皆、戻るわよ!」
部長が魔術師達を冥界の役所へ転送させ終わると、部室からでて旧校舎の玄関口へと足を急がせる。ちなみに、何故かギャスパーは小猫ちゃんに肩車されています。こいつのこういう引っ込み思案な辺りは、おいおい直していかないとな……。
そう決意を新たに、玄関口から新校舎の方へとたどり着くと、跡形もなく新校舎は消し飛んでいた。会議室があった辺りには、俺が時間停止対策の結界を張った中へ更に防御用結界を作り出して魔術師達の攻撃を防ぐ皆の姿が。
木場を始めとしたグレモリー眷属の戦闘メンバーとイリナ、そしてマラコーダ達は外で敵を迎撃しているようだった。更に、氷美神とジェリーさんの姿もある。急ぎ足で結界内へと入り込むと、俺達はギャスパーをサーゼクス様たちへと預け渡し、ガブリエルさんと妲己で転送魔方陣の解析を進めている事を聞かされた。
「なら、俺達も時間稼ぎに参戦します」
「お兄様、ギャスパーをお願い致します」
「ぼ、僕は……」
震えるギャスパーへ、俺は肩に手を置いてやる。
「ギャスパー。お前は十分過ぎるくらいやってくれた。今はそれでいいんだよ。命がけの無茶や無謀は、俺みたいな凡人で十分。天才は天才らしく、マイペースにぶっちぎってくもんだぜ」
「け、けど……僕も、イッセー先輩みたいな強い男になりたい。僕を拾ってくれた、リアス部長の期待に応えたい。だ、だから……」
ギャスパーの手が、自分の二の腕に嵌められた腕輪へと伸びていく。それを見た部長は、結界を出る寸前で踵を返し、駆け寄ろうとした。
「ダメよ! イッセー、止めて!」
「僕も、仲間のために戦います! 僕だって……男なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
パキン!
腕輪を外して叫ぶギャスパーの両目が輝き、その光に反比例するかのように、周囲に感じる停止の力が弱まっていく。遂には結界内を停止させていた力が完全に消え去り、神々に守られていた三勢力の兵士たちが、正常に動き出した。
「自力で暴走した停止状態を解除したのか!? すげぇぞギャスパー!!」
「よ、よかった……です」
「イッセー様! こちらも転移魔方陣の停止、完了いたしました!
よろけて気を失うギャスパーをアーシアに預けた俺は、妲己の報告へ頷くと、結界の外へと出てフレイやヘルメスの方を見る。
「……流石に、これ以上の手出しはな。イッセー、済まないが後は頼んだぞ」
「イッセーちゃん。死なない程度に気張ってね!」
そう言い残した神々が即座に姿を消すと、状況を掴めない兵士たちへトップの声が飛んだ。
「魔王ルシファーの名において命ずる。総員務めを果たせ! 敵を迎撃せよ!」
「皆の者、襲い来る不埒な輩たちへ、天の罰を与えなさい」
「おい、堕天使諸君! 天使や悪魔に負けてる場合じゃねえぞ! 好き勝手やってくれた連中に、とっととやり返せ!」
『ハッ!!』
結果、魔力や光が飛び交う更なる激戦と化した中において、結界の外へ出た俺は
「
『
さあ、お前らの力を呑ませろ、魔法使い共!
『LordLordLordLordLordLordLordLordLordLordLordLordLordLord!』
ゴギュオオオオオオオ!
くっ、俺も日々修行してるけど、やっぱりこの乱戦状態で敵だけを選んで吸収するってのは相当神経使う! 出来るだけ生かして捕まえた方がいいとは言え、これだけで多人数を戦闘不能にするのはまだかなり時間がかかる。けど、泣き事ばかりも言ってらんねえ……ここは素手で行くか!!
ズズ。
ワームホールを通って、押され気味の敵が密集する位置のど真ん中へ侵入した俺は、雨あられと降り注ぐ魔法の隙間を縫うように覇気の足場を蹴って、気当たりで十体に分身しながら手頃な敵を数十人ほどロックオンする。
「奥義!
ゴベギガドゲグシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!
『――――――――――』
俺が通りすぎた後、おおよそ人体で出るとは到底考えられないであろう破壊音を全身から立てて血反吐を吐き、四肢を在らぬ方向にねじ曲げられ、悲鳴を上げる間も無くボトボトと落ちていく数十人の魔法使いの姿に、敵は愚か味方まで目をむいて止まっている。……なんだか誤解されてそうだから、一応皆に聞こえるように技の説明をしておこうか。
「……今のは、俺の活人拳の奥義の一つの複数版。投げ、当て身、関節技の三つを同時に決める繊細な技であり、生命活動に必要な最低かつ最小限の機能だけを残して敵を完全に破壊する。しかし、この技の何より優れた所は……あそこまでやっても受け手が死んでいないということだ!」
カッ!
つい気合が入りすぎて目から気当たりの光が漏れでてしまうが、これで分かってもらえた……と思う。
魔法使いたちはふるふると震えると、一斉に俺目掛けて魔法を撃ってきた! うわ、なんだよいきなり!
「赤龍拳帝だけは何としてでも落とせぇぇぇぇぇぇ! あいつを近づけさせるなぁぁぁぁぁぁぁぁ! 物理的に地獄へ落とされるぞぉぉぉぉぉぉぉ!」
「死ぬぅぅぅぅぅぅぅ! 来るな悪魔ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
どいつもこいつも必死の形相で攻撃を加えてくるが、弾幕ごっこに比べれば軽いものだ。
つーか、俺の懇切丁寧な解説を聞いてなかったのかこのチンピラ魔法使い共が!!
「だから死んだ方がマシなだけで死なねぇっつってんだろ! 揃いも揃って耳クソ詰まってんのか!!」
光や魔力にやられて塵になるのと、死ぬより痛い俺の拳で殴られて痛みと衝撃による気絶と覚醒を繰り返すのどっちがマシだと思ってやがる!!
ブン!
とりあえず近くにいた魔法使いを二、三人捕まえて人手裏剣にして放り投げた後、大きく息を吸い込んで、全力で音の衝撃波を周囲にぶちかます。まだ音量の調整が慣れてないけど、多めに手加減すりゃあ死にはしないだろ!
「サウンド――バズーカァァァァァァァァァァァァアアアアアアア!!!!!!」
ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!
大声量の咆哮が鼓膜を突き抜けて脳を直接攻撃し、魔術師が何十人も気絶して校庭へと落ちていく。よしよし、全員生きてるな。特に近くにいた何人かが耳から血を流してる気がするけど、脈拍音と心拍音は聞こえるからまあ気にしない! 生きてるだけでめっけもんさ。
さぁて……今ので俺の近くのは大半片付いちまったな。どうやら今ので残った連中もほとんどびびっちまったみたいだし……そろそろ、真打ちが来るか?
警戒しながら周囲をキョロキョロ見回していると、上でアザゼルがあの妙な気配の元である、黒いオーラを纏った相手とぶつかり合ってるのに気がつく。割りかし綺麗でナイスバディな、悪魔のお姉ちゃんだ。
けど……如何にも血統とかを鼻にかけた雰囲気だな。そのくせ、本来の力とは明らかに異なる膨大な力を振りまくその姿は、どう見ても降って湧いた力に溺れる小悪党。そんなのが長年堕天使のトップとして神や魔王と渡り合ってきたアザゼルと互角に戦えるとは、流石は欠片でも無限と言ったところか。
ドォォォォォォォォォォォン!
二人が魔方陣から発した大質量の波動がぶつかり合い、その余波はここまで届いた。距離を取って睨み合う形になった所で、俺も動く。
ズズ。
ワームホールを潜ってアザゼルの背後へ出ると、悪魔の女は杖を突き出し、ドス黒いオーラをより一層濃く纏って身構える。しかし、表情は侮蔑から来る余裕を持って厚化粧が施され、せっかくの美貌を大きく曇らせる嫌らしい笑みへと装飾されている。低く見られるのはいつものことだし、その方がこっちは戦いやすいからいいんだけど。
「ふ、何かと思えば、貴方が赤龍拳帝とやらですか。人間上がりの転生悪魔風情が、由緒正しき真の魔王レヴィアタンであるこの私に目通りなど……色香に弱いとはいえ、身の程はわきまえて欲しいものですね」
レヴィアタン……そう言えば、そんな声がチラチラと耳に入っては来てたけど……てことは、カテレアってのはこいつの名前か。……これが、旧魔王の末裔。
頭の天辺からつま先、臭い、電磁波、呼吸、脈拍、纏っているオーラ、瞳の奥。全てを総合して……駄目だな、こいつ。
「アザゼル……本当にこの三下が旧魔王の血族なのかよ? 影武者とかじゃなくて?」
「三しッ!?」
言いかけて絶句するカテレアを余所に、アザゼルは心底可笑しそうに笑う。
「ハハハハハッ! 馬鹿正直に言うなあ、おい。ああ、保証するよ。俺も何度かツラは見たことあるし、魔力の質も間違いなく、旧レヴィアタンのものだ。こいつが正真正銘本物の、カテレア・レヴィアタンだ」
「マジかよ……そりゃあレヴィアタンはセラになるよな」
「――ッッッ!!!」
ドオオオオオオオオン!
呆れて嘆息する俺と未だに笑い続けるアザゼルへ、カテレアが魔方陣から再び黒い波動を放ってくるが、そんな感情任せの大技に当ってやるほどお人好しではないので、アザゼルの後ろに着くように揃って少し上に逃れるだけで回避に成功する。
眼鏡越しに充血しまくった目で俺たちを親の仇のように睨みつけてくる、歯ぎしりも喧しく怒髪天の勢いでキレる三下へ、感想の理由を述べてやる。
「政治だなんだってのは俺には遠い話だが……本当に魔王の血統そのものが誇らしいんだったら、それこそ位なんてものに執着する必要はない筈だ。真の尊さとは、血肉ではなく己の存在そのものにこそ宿るものと俺は学んできた。
それを無限に尻尾を振って得た力を己の強さだと錯覚しての子供じみた立ち回りとは笑わせてくれる。いっそ感情任せにセラへ決闘でも挑んだほうがまだ潔いってもんだ。真っ当なプライドが一片でも残ってるんならお縄を頂戴しとけ、三下が」
「……身の程知らずのクソガキがっ! 下級悪魔の分際で!」
とか言うわりに、その下級悪魔の言動で頭に血を上らせてるのはどこの誰だよ。だから三下だって言ってんだ。
「さぁて……敵さんももう残り少ないみたいだし、そろそろこっちもお開きにしようかね。離れときな、兵藤一誠」
その言葉に周囲へ気を張り巡らせると、確かにもう抵抗を続けているのは数える程度。他は倒されるか捕縛されたらしい。
下へ下がって距離を取ると、アザゼルは懐から短剣らしきものを取り出す。いや、どちらかと言えば小さな槍か? この臭いは……ドラゴン!?
「それは!?」
怒気を脇にやって短槍へ注視するカテレアに対し、槍の柄頭に収まる紫色の宝玉を頭上に掲げながらアザゼルは言う。
「戦争なんぞよりよっぽどマシな、俺の趣味だ。こいつは
短槍が分解された光がアザゼルを包み込む中、俺の眼にはその一部始終がはっきり映る。光は装甲となって堕天使総督の体へと張り付き、鎧の姿を形作っていく。
全ての光が鎧となり、背の黒い翼が消えると、そこにいたのは、雷龍帝の脚甲より昏い黄金の鎧を身にまとったアザゼル! 巨大な二又の光の槍を握ると、カテレアへ向けて手招きをする。
「これが
なんて力強い、ドラゴンの波動……ドライグ達よりは少し落ちるが、それでも十分過ぎる! まさか龍王クラスのドラゴンを封じた人工神器なのか、あれは!?
「舐めるなッ!」
考えている間にも、最大級のオーラを纏ったカテレアが突進し、アザゼルが光の槍で迎え撃つ!
ザンッ!!
刹那、すれ違った二人の体が停止し、そして……カテレアの肌が斜めに裂け、大量の血が吹き出した。
カテレア自体の実力はともかく、オーラの出力は間違いなく今の俺の全力より上だった。それをああもあっさり切り裂いて本体へ届かせるとは……堕天使の研究も侮れないな。
「クッ!! ……新世界の創世。そこに貴方は必要ない!!」
致命傷を負ったカテレアは、両腕を触手のように変化させてアザゼルの左腕に巻きつかせ、癒着するかのように貼り付ける! そして全身に文様を浮かび上がらせた! あれは……自爆の術式に、繋いだ相手を呪う呪術式! アザゼルを道連れにするつもりか!? くそ、いやな根性見せやがって!
「三大勢力の一角を屠れるのならば……この身が滅びようとも意味がありましょう!」
「自爆か……ふんッ、御免被りたいね。取引としちゃあ安すぎる!」
ズバッ!
アザゼルは右手の光の槍で、左腕ごとカテレアの触手を切り離した。すかさず驚愕するカテレアの頭部めがけて、その槍を投げつけ貫いた!
「ああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
虚ろな断末魔だけを残して、カテレア・レヴィアタンは消滅した。幾らドーピングしたところで、光が猛毒であることは変わらなかったってことか。
「お前じゃあ、精々左腕一本がいいところだぜ」
鎧が解除されたアザゼルは、左腕の傷口へ魔方陣で止血を済ませると、手元に落ちてきた紫の宝玉へキスをした。……あれは、バースト状態による強制覚醒。一種の暴走状態か。けど、持続時間はあまり長くない上に使用後は人工神器も壊れるか。手間暇掛けてるのが見て取れたいい逸品だったのに、景気のいい使い捨てだ。
「まだ改良の余地があるな。もう少し俺に付き合ってもらうぜ、
ファーブニルって……少し前に俺が探してた五大龍王の一角じゃねえか! 見つかんなかったのはあんたのせいか!
文句の一つも言ってやろうと近づこうとしたその時だった。アザゼルの頭上を白い輝きが襲い、そのまま地上へとふっ飛ばす!
今のオーラは……クソ! 裏切ってたのはてめえかッ!!
バキィィィィィン!
「うっ!?」
身構え突撃しようとした俺の周囲に、見覚えのある呪詛文様が浮かび上がり、四肢の動きを一瞬封じ込める。
危機感に全身の細胞を引き締め、どんな攻撃にも耐えうる状態となった俺を襲ったのは……十字架を象る、紫色の聖なる炎だった。