ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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かなり怒涛の展開です。


Life.79 元カノ、別れます。

 ドガァ!

 

 一足先に落ちたアザゼルのすぐ近くへ落下し、背中から地面へ叩きつけられた鎧は、各所から聖なる炎に焼かれた証である煙を上げる。痛みを脇にどかして周囲を探れば、どうやら紫炎の十字架は結界内のあちこちを襲ったらしく、勝利ムードで油断気味だった多くの戦闘員を容赦なく焦がしている様だった。

 

 ごろりと体を半回転させて上半身を起こし、膝立ちの姿勢で起き上がると、上空を睨む俺の視線の先へ、二人の女が滑りこむ。

 

 片方は、あのダンテだ。黄緑色のドレスを着こなし、同じ色合いの扇子で顔を仰いでいる。やっぱり生きてたのか、腐れ魔女め。

 

 もう一人は紫色のゴスロリ服にゴシック調の紫の傘をクルクルと回す、人形のような女だ。年頃は二十代前半。怪しい魅力を持った美女であると同時に、一目見ただけで分かるほど悪意に塗れている。

 

 深く深く息を吐いてダメージの度合いを確認する俺に、二人が愉快げな声で挨拶してくる。

 

「先日はどうも、兵藤一誠。渾沌からの呪詛のプレゼントは如何かしら? まったく、魂だけであんな強烈なものを組み上げるだなんて、本当に大した怪物よね、四凶というのは」

「ごきげんよう。赤龍拳帝(せきりゅうけんてい)さんに、三大勢力の皆々様。わたくし、『魔女の夜(ヘクセン・ナハト)』の幹部をしているヴァルブルガと申しますのん。私の紫炎はお口に合いましたかしらん? 以後、お見知り置きを♪」

「……紫炎のヴァルブルガ。紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)の所有者か!」

 

 前に一度だけ刃狗(スラッシュ・ドッグ)から聞いたことがある。

 

 この女が、聖十字架使い。よりにもよって聖遺物(レリック)がこんな巫山戯た魔法使いに!

 

 ザッ!

 

「……紫炎だろうが聖遺物だろうが、イッセーに仇なす者は全て私が打ち据える」

 

 俺の前にレクナが立ちはだかり、尾を伸ばして牽制するが、ヴァルブルガはなおも笑い続ける。

 

「ダンテお姉さまに手を引かれ、貴方達を燃え萌えにしにきましたわん。全盛期では大陽の炎すら耐え切ったと謳われる真っ赤なドラゴンちゃまの初燃えですので、超強めの紫炎をお送りしたのですけれども……まだ生きてるだなんて、やっぱりとーっても燃やしがいがありますわ♪ ぜひ心ゆくまで私の紫炎を味わって、見事に灰になってくださいねん♪」

 

 巫山戯た物言いだが、聖なる紫炎を操るこいつの力量はこの場においてとても侮れるものじゃない。あの紫炎は、魔王級の悪魔でさえ直撃を食らうのは痛手だ。並みの上級クラスでは恐らく防御ごと消滅してしまう。

 

「やれやれ、俺も焼きが回ったもんだぜ。この状況で裏切ってくれるか、ヴァーリ」

 

 そう言ってパタパタと服についた土埃を払うアザゼルは、レクナの前へ出て行くとヴァルブルガ達の隣へ飛んできたヴァーリへ、さも分かっていたかのように問いかけた。

 

「悪いな、アザゼル。こちらのほうが面白そうなんでね。ハーフヴァンパイアを利用する案や、彼の禁手の影響が三大勢力だけに向くよう術式を組んだもの俺さ」

「……なあ、ヴァーリ。一つ聞かせてくれ。うちの副総督のシェムハザが、三大勢力の危険分子や、その他ヤバイ連中を集めている集団の存在を察知していてな。――禍の団(カオス・ブリゲード)と言ったか?」

 

 三大勢力の危険分子を集める……言葉にしてみりゃ単純だが、実際はそう簡単にいくわけもない。なにせ種の滅亡を避けるために和平を選んだ現状における危険分子とは、要するに主戦派という事になる。そんな連中を、一時的な形だけにせよ、束ねるだけの力。そして、あのカテレアの纏っていた覚えのある黒いオーラ。

 

 ……ここまで来れば、嫌でも分かる。俺は、アザゼルの告げる名へ意識を集中させる。

 

「その纏め役は……無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィス。間違いないよな」

 

 夢幻の力を借りてシヴァと渡り合えたかつての力を再現した俺を、何の感慨も無く吹き飛ばした、神々すら恐れる『無限』。俺がいずれ超えると決めた、最強の存在。

 

「ふっ……確かに、俺はあいつと組んだ。だが俺もあいつも、覇権だの世界だのには興味がなくてね。力を利用しようとした連中が、勝手に群がってきただけのことだ」

「確かに、直接力を借りたクロウ・クルワッハだけでなく、私やデスザウラーもその存在があったから合流したようなものだしね。結局、その御蔭であんな派手な真似をする事になったけど」

 

 ……それは、あの事か。

 

「この間の冥界への襲撃……あれは禍の団からの要望だったってわけか」

 

 アザゼルの指摘に、ダンテは扇子を閉じてほくそ笑む。

 

「私はともかく、デスザウラーや四罪はノリノリだったけどね。クロウ・クルワッハは少し渋ったけれど、間接的にでも自分が関わった騒動で多数の犠牲者が出る事になれば、赤龍拳帝は間違いなく動くと説得したわ。旧魔王派は騒ぎに乗じて現魔王の関係者を誘拐しようという腹づもりだったようだけど、その程度を警戒されていないわけはないのにね」

 

 まるで人事のような口ぶりだ……外道がッ。

 

 怒りを噛みしめる俺を余所に、アザゼルは話を進める。

 

「俺はてっきり、カテレア辺りと仲良くつるんでるとばかり思ってたぜ。魔王の座を奪われた者同士でな」

「……なんだって?」

 

 まさか……いや、今までずっと白龍皇のオーラに混じっていたこれは……!!

 

 マスク越しに目を見開く俺を上から見下ろすヴァーリは、腹の底から誇らしげに告げる

 

「俺の真の名は――ヴァーリ・ルシファー。かつての大戦で死んだ先代魔王、真のルシファーの血を引く者。前魔王の孫である父と、人間の母の間に生まれたハーフなんだ」

「嘘よ……そんな……」

 

 部長の呆然としたつぶやきが耳に入る中、アザゼルは言う。

 

「真の魔王の血縁でありながら、半分人間であるがゆえに白龍皇(バニシング・ドラゴン)を宿すことが出来た……まったく、冗談みたいな存在だよな。過去現在、恐らくは未来永劫においても最強の白龍皇になるだろうさ、お前は」

「運命や奇跡。そんな言葉は、俺のためにあるのかもな」

 

 背に八枚の悪魔の翼、白龍皇の翼と合わせて、十の羽を背負ったヴァーリは、全身から魔力のオーラを放ち始めた。

 

 ……この肌に感じる魔力の波動は、確実に魔王の域。オーフィスの力が無ければそこには手が届かないカテレアとは違いすぎるな。

 

「兵藤一誠。運命とは残酷なものだとは思わないか? 俺は魔王の血を引きながら伝説のドラゴンの力を得た最強の存在。なのに君は普通の中流家庭の、先祖代々筋金入りの一般人。赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)以外何もなかった。最初にそれを知った時は、つまらなすぎて笑いが出たよ」

 

 嘲笑う声の後、ヴァーリの雰囲気が一変する。

 

「だが……音に聞こえた君の評判。そして先日の一件で垣間見た君の全盛期は……今までにないほど震えたさ。宇宙の法則すら己の力として振るう君が俺のライバルだと理解した時など、これ以上ない感動を覚えた。生まれた時点で、俺と君には天と地以上の差があった筈なのに、それを努力で埋めてみせた。まさに偉業だ」

「……それで?」

 

 拍手でもしそうなヴァーリへ、続きを促すように一言向けてやると、奴は急に哀れむような視線を向けてきた。

 

「しかし……残念なことに君は零落した。如何に新たな力を取り込むためとはいえ、結果として今の君は、大幅にその力を落としてしまった。色々と頑張ったようだが、未だにあの赤金の窮覇龍(ゲヘナ・ジャガーノート・オーバードライブ)には程遠い。現在でもいい勝負はできるだろうが――俺が焦がれた君とは雲泥の差だ」

「……だから?」

 

 適当に聞き返しながら、俺はヴァーリの腹の底が少しだけ見えた。要するにこいつは……頭が良くて戦い好き、超弩級に天才で、我儘放題なクソガキだ。言いたいことはあるっちゃあるが、それをぶちまけるのは話を全てきいてからでもいい。

 

 そして、弾むように言ったヴァーリの言葉が、俺の脳に突き刺さる。

 

「だからせめて、俺もこの宿命の対決を少しでも面白くしようと考えた。こういう設定はどうだろう? 君は復讐者になるんだ! ――俺が、君の両親を殺そう。そうすれば、グレートレッドを呼ぶほど本気になってくれるだろう? 親を俺のような希少で貴重な存在に殺されれば、少しは重厚な運命に身を委ねられる。どうせ、君の両親は今後も普通に暮らし、老いて死んでいく。そんな下らなくてつまらない人生よりも、魔王の末裔たる俺に殺されたほうがよっぽど劇的だし、華やかだ。うん、そうしようじゃないか!」

 

 …………………………。

 

 声の調子から分かる。こいつにとっては半分冗談、半分本気の提案だ。それで俺が怒ると信じた上で、そう言っている。分かりやす過ぎる挑発だ。

 

 バキ。

 

 それでも爆発する激情は限界以上の噛み締めを行わせ、奥歯が数本砕けて口内に自分の血の味が染みわたる。

 

「あはははは! 可愛らしい呆け顔だこと。赤龍拳帝ちゃまはさぞお父さんお母さんが大好きなのねん♪ 孝行息子で立派だわん」

 

 目を見開く俺を嘲笑しながら、紫炎の魔女がステップを踏むと、上空に無数の巨大魔方陣が描かれていく。あれは、転移系の術式。

 

 そこから出てきたのは、三桁にもとどく大量のバイオゾイド。本来陸上恐竜型であるはずのものですら背に翼を生やして、まるでドラゴンのようだ。

 

「あの戦いで回収した残りのバイオゾイドに、デスザウラーが手を加えたのよ。コアだけでここまでできるだなんて、流石は新たな邪龍といった所ね。さあ、三勢力の皆さん? 第二ラウンドと行きましょう」

 

 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!

 

 扇子を振り上げるダンテに呼応し雄叫びを上げる、冥界にて暴れ狂った脅威も記憶に新しいバイオゾイドに、三大勢力の警護役達が及び腰になる。

 

「更になんとなんと、今日は特別ゲストを連れてきてるのん。きっと赤龍拳帝ちゃま大喜び間違いなしよん♪」

 

 そう言うとヴァルブルガは哄笑しながら両腕を広げ、背後に紫炎の十字架を浮かべる。

 

禁手化(バランス・ブレイク)!」

 

 楽しげなヴァルブルガの呟きを合図に十字架が一回りほど大きくなり、その前に滾る紫炎が人の形に固まり、やがて完全にその姿を形成する。

 

 ――アアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!

 

 ……十字架に磔られる中、広がる翼を虚しく羽ばたかせ炎による肢体を晒す女性。そこから逃れようとしているのか、長髪を火の粉と共に揺らしながら苦悶に満ちた叫び声を響かせる。

 

 その顔は、俺にとって忘れられないものだった。

 

「レイナーレ……」

 

 呆気にとられるような俺の声色が面白いのか、ダンテが楽しそうに話す。

 

「ねえ……疑問に思わなかった? 幾ら力を封印されているとはいえ、貴方ほどの人物が一介の中級堕天使の変装に気づかなかったのか。彼女に演じる才能があったから? そうね、それもあるでしょう。けれど実は……そこには私とヴァルブルガが一枚噛んでいたのよ」

「なに?」

 

 話をふられたヴァルブルガは、両手を大きく広げて種明かしをする。

 

「じ、つ、は……レイナーレちゃんがダンテお姉さまのお話を受けた後、本人にも内緒でこっそり私達で色々と魔法によるメイクアップを行いましてぇ、その御蔭で完璧にその力を隠せちゃったのでしたーっ! しかも演技に際する違和感も消せるよう努力したわよん♪ 結果、お気に召してくれたようで幸いでしたわん」

 

 パシン。

 

 閉じた扇子で掌を打つダンテが、自慢げに語る。

 

「けど、あんな盛大かつ緻密な魔法は苦労したわ。おまけに今はもう通用しないでしょうね。それだけの事をしたとはいえ、貴方を騙しきったレイナーレは賞の一つもあげたいくらいだわ。あれは本当に演技の天才よ」

「なのでなので、奮闘虚しくグレモリーのお姫様に吹き飛ばされちゃった可哀想な彼女の魂を、せめて活かしてあげようと思ったのん。磔にした魂のモデルによってその特性と能力を変える私の最終審判者による(インシネレート・アンティフォナ・)覇焔の裁き(カルヴァリオ)……ダンテお姉さまが確保したレイナーレちゃんの魂の影響で、非常に殺傷能力を跳ね上げるという素敵仕様になりましたわん♪」

 

 ふう、と。レクナが鉛のような重たいため息をついて、怒りに冷えきった言葉を浴びせる。

 

「発端が自分の意志である以上、その性悪堕天使に同情の余地はないけれど……よくもまあ、そこまでエグい真似ができる」

「……三大勢力を揃って滅亡の危機に陥れてくれた大罪人の堕天使を、聖十字架に磔か。皮肉きかせてくれるぜ、まったくよ」

 

 呆れた様子で頭をかくアザゼルの声に、レイナーレへの感情は一切含まれていない。大乱を望まないアザゼルにとって、目先の出世を求めて俺に最悪の形で害を与えた結果、言葉の通り三大勢力を滅亡の淵にまで追いやりかけたレイナーレは悪因以外のなんでもない筈で、それは当たり前としか言えなかった。

 

 だけど……十字架から逃れようと藻掻く女から、俺は目が離せなかった。

 

「まぁ、兵藤一誠に叩きのめされたり、リアス・グレモリーの破滅の魔力を受けたりしたせいなのか、それとも私の確保が遅かったのか……彼女の魂も摩耗しちゃってて、ろくに記憶も人格も残っていないけどね」

「もしかしたら、所詮中級堕天使に過ぎないレイナーレちゃんじゃ私の聖十字架の磔がきつかったせいかもねん。この禁手もいつまでもつかなぁ。だけどしょうがありませんので、このまま頑張って有終の美を飾ってもらっちゃおうかしらん♪」

 

 アアアアアアアアアアアアア!

 

 レイナーレが叫び声と共に身を仰け反らせると、十字架から紫炎が燃え盛り、周囲に幾つもの炎の槍を象る。

 

 ドドドドドドドドド!

 

 一斉に放たれた槍が次々と俺たちへ襲いかかり、アザゼルとマラコーダが俺たちの前に防御魔方陣を張る。この場でも屈指の実力者である二人の防壁に衝突した槍は凝縮された聖なる炎を炸裂させ、魔方陣と二人に阻まれた俺の体へ響くほどの衝撃を轟かせた。

 

 サーゼクスやミカエルさんを始めとする強者も強固な防御結界を形成するが、咄嗟に反応できずに貫かれた何人もの警護役が、紫炎によって消失する。

 

 アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 新たな紫炎の槍を作りながらも、レイナーレは絶叫し続けている。俺の眼には……紫炎がレイナーレの魂を燃焼させ、焦がしているのが見て取れた。ヴァルブルガの言うとおり、レイナーレの魂は紫炎祭主による磔台の力に耐え切れていない。力でも精神でも、神滅具(ロンギヌス)の計り知れない性能を受ける器じゃないんだ。

 

 ゆえに、魂とそこに宿る精神を聖なる紫炎で焼かれ続けている。肉体という器を失った剥き出しの魂と精神ほど脆いものは無いはずなのに、未だ燃え尽きる様子もない。恐らくは、ヴァルブルガの禁手の特性によるものか。

 

 俺も何度か経験したが、魂その物への直接的なダメージというのは想像を絶するものだ。自分の存在が根底から揺らいでしまいそうな程に。まさしく、地獄以上の地獄だろう。

 

 ……レイナーレは自分の地位の為に俺とアーシアから人間の命を奪い、アーシアの神器を奪い、その因果によって死んだ。幾ら利用されたとはいえ、同情や哀れみを挟む余地は俺にはない。

 

 しかし……その結果が、これか。敬愛する存在からは半ば無視され、上に上り詰めようとした堕天使組織への攻撃に利用され、今再び俺達の前に、敵の道具として立っている。

 

 ……死して尚も救い難い。なら、俺のやることは決まっている。

 

「イッセー?」

 

 立ち上がった俺に訝しげな声を上げるレクナへ、俺は端的に告げた。

 

「ちょっと、元カノと話つけてくるわ」

 

 ズ。

 

 ワームホールで俺が向かった先は――ヴァルブルガの禁手、すなわちレイナーレの目の前だ。

 

 アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!

 

「あんた何やってんの!? そんなに死にたいなら喜んでころころしてあげるわん!!」

 

 狂喜の笑みで嘲笑うヴァルブルガの宣言通り、紫炎の槍が殺到し、俺の全身へと突き刺さろうとする。

 

 ……が、それは無理な話だった。

 

「……はぁッ?」

 

 紫炎の槍は、刺さらない。鎧の表面で弾け、紫炎の熱と聖なる力をぶちまけるが、それも十分、耐えられる範囲のダメージだった。

 

「……ッ!?!?!?」

 

 色めきだって魔方陣を展開し、多様な属性によるフルバーストを撃ちこんでくるヴァルブルガだが、その程度で俺が揺らぐわけもなく、俺はレイナーレへと口を開く。

 

「レイナーレ。……いや、天野夕麻ちゃん。ずっと言いたかった事があるんだ。――俺と、別れてください」

 

 ――――――――――。

 

 既に生前の全てが崩壊している筈にもかかわらず、俺は彼女が頷いたように見えた。

 

 私はとっくに別れたつもりだったわよ、か。

 

 幻聴か、妄想か、それとも亜種の神滅具による特異現象の一種なのか。そのどれでもいいが、俺にはレイナーレがそう言ったように思えてならない。

 

 とりあえず、これで俺の用事はすんだ。それじゃあ……救いようのないこいつを、救うとしよう。

 

 ガブッ!

 

 紫炎で形成されるレイナーレの首筋へ、牙を突き立て吸い上げる。体内に浸入する紫炎を無視して、レイナーレの魂を探し出し、飲み込んだ後、レイナーレの姿が消えて、十字架だけが残された紫炎から離れる。

 

 口から吐き出した球状の魂を掴み、真言を唱える。

 

「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ」

 

 薬師如来の加護によって、魂の根源的な傷は癒やされた。だが……失われた記憶や人格は、もう戻らないだろう。既にこの魂は、レイナーレとは呼べないまっさらなものになってしまった。

 

 だから大人しく、往生しとけ。

 

 フッ。

 

 日本式の転移魔方陣を展開し、そこへ放るように手放すと、レイナーレだった魂は閻魔大王の元へ向けて消え去った。たぶん、あれじゃあ天国へも地獄へも行けないだろうから、恐らくは転生だろうな。……来世はまともに生きてくれよ。

 

 ――今度こそ……さようなら、夕麻ちゃん。

 

 感傷に浸っている間はないので、篭手から魔人経典の一ページを取り出し、頭上へ掲げてキーワードを口に出す。

 

 前は済まなかったよ。魔導書を手にした時点でほぼクライマックス近くだったし、お前じゃ四凶とデスザウラーには対抗できなかったからな。

 

 けど、今回は違う。存分に戦え、俺の最高傑作の逸品よ。

 

解凍(ディコンプレッサー)――ヴェリタス・イラァァァァァァァァァッ!!!!」

 

 ヴン――。

 

 質量を圧縮させたページが一瞬で本来の姿を顕現させ、現れ出たのは鋼鉄の巨人。明から学んだ魔法と、ライリから得た科学で作られた、俺の作り上げた一つの集大成、鬼械神(デウス・マキナ)の模造品へ、俺は端的な命令を告げる。それだけでこいつの電子頭脳は俺の欲する最善を察して、一人で戦ってくれる。

 

 刻まれた俺の武の記憶と分け与えた覇気とチャクラを頼りにその動きと威力を再現するその力量は、俺に伴って力を落とした今でも神の名を冠するに相応しいと自負している。

 

「上の恐竜共を殲滅しろ。下りようとしたやつから優先的に潰せ」

 

 ドガァァァァン!!

 

 間髪入れず命令の実行に移ったヴェリタス・イラが巨体から振るう拳と蹴りによってバイオゾイドを蹴散らす中、俺は眼下のヴァルブルガへ言ってやる。

 

「さて、紫炎使い。――ご自慢の炎は散々味わったけど、見事に灰にはいつなれるんだ?」

「ッ!!」

 

 驚愕と屈辱と恐怖に引きつる妖しい美貌を引き締めて、紫炎の魔女は言葉を紡いだ。

 

「……幾ら防御に長けた禁手でも、神でも、悪魔で吸血鬼でしょ!? それが禁手化した聖遺物の聖なる炎をっ! 至近距離でっ! 何発もっ! 体内にまで食らったのよ!? なんで無事なのんッ!!」

「別に無事ってわけじゃねえよ。一応、ダメージは受けてるさ。ただなんて言うか……炎は元々ほとんど効かないんだけれど、なんか想像以上に聖なる力に耐性が出来てるんだよな。……最近、血を吸うごとに神格が増していくような気はしてたんだけど、ここまでとはな」

 

 戦慄。今のヴァルブルガの心境を表すのに、それ以上の言葉は要らないだろう。

 

 その隣で頬に冷や汗を掻きながら、ダンテが訊いてくる。

 

「……上の巨大ロボ。あれが鬼械神なのかしら? 灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)に属する、有数の家柄と実力の魔法使いを一族ごと再起不能になるまで叩き潰したという噂は聞いたけど……本当、噂は当てにならないわね。そんな生易しい代物じゃないでしょうが。むしろ、どうやってあんなものを持ちだして殺さずに済ませたのよ」

「んなもん……直接俺が乗って、細心の力加減で思い切り殴り飛ばしただけに決まってる。てか、まるで一族郎党全滅させたみたいに言うのはやめてくれよ。喧嘩売ったバカと他にムカついたのを数人、全殺しの二ミリ手前で済ませただけだ。他は精々全治二、三ヶ月に留めたっての。第一……悪いのは俺の親を馬鹿にした向こうの方だ。そう思うだろ――ヴァーリ・ルシファー」

 

 バキン。

 

 思い起こすだけで噴き上げる怒りが顎に入る力を増やし、せっかく治った奥歯がまた砕ける。体内で乱れ狂う莫大な怒りを凝縮する過程で湧き上がる、解放に対するカタルシスが、昏い笑い声となって口に出る。

 

「――クックククククク……フフフフフハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ…………普通に暮らし、老いて死んでいくのが下らなくてつまらない一生か……」

 

 蠢く感情のうねりがカタカタと体を震わせる中、俺はひたすら口を動かす。最後まで言い切らないといけない。この怒りが何のためのものなのかを、俺にもあいつにも確認させるために。

 

「ああ、そうかもな。俺の父さんはお前の自慢の父親みたいに、優れた力も偉大な血筋もありゃしない。家族のために朝から晩まで働く、極普通のサラリーマンだ。俺の母さんはお前に大層な才能を与えて産んでくれた誇らしい母親とは違って、俺を平凡な息子として産んでくれた。朝昼晩と、俺達家族のために旨い飯を作ってくれる普通の主婦だ。……例え他人からはどう見えても、俺にとっては、俺をここまで育ててくれた、最高の親だ」

 

 それを、こいつはなんて言った。ああ、そうだ――。

 

「――――――――俺の両親を殺すだと? 俺の父さんと母さんを? ……なんで、テメェなんぞの都合に合わせて殺されなくちゃいけないんだよ。グレートレッドを呼ぶ、貴重な存在、重厚な運命、劇的、華やか……ハハ」

 

 思わず漏れでた笑いを最後に――緒を緩めた堪忍袋から、怒りがゆっくりと漏れ出てくる。

 

 ほんの一部と言っていいその燃料が一定量に達した所で、持てる全ての殺気と気当たりと共に、殺意を言葉にして伝える。

 

「殺すぞお前」

 

 ブワァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!

 

 巻き起こる憤怒の嵐が空気を揺らし、校庭にぶち当たって盛大な砂埃を立てている。

 

 ……ドライグ、バオウ、ガオウ、そして――クリア。今から、全力で行く。あいつの全てを覇壊するぞ。

 

『ああ、やってやれ。今のお前が零落したなどと妄想にふけるお坊ちゃまに、思い切りかましてやるといい』

『我 唯 力 出』

『愚カトイウ他ナイナ。我ガ力ヲモッテ、ソノ代償ヲシカト払ワセテヤルガイイ』

『クリア……ああ、僕の名前か。クリア……何だか懐かしく思える響きだ。もしかしたら、僕は以前そう呼ばれていたのかもね』

 

 俺なりに歩み寄り方として考えてたんだけど、こんな状況で伝えた上に安直で済まない。気に入らないか?

 

『いや、むしろとても気に入ったよ。ありがとう。礼と言える程かはわからないけれど、僕も君の無茶に付き合ってみよう。大切なものの為に怒れる君のね』

 

 そうか……俺は、本当に恵まれてる。

 

 さて……ヴェリタス・イラも殲滅を終えて戻ってきたし、いってみようか。

 

 ゴオ!!!

 

 今、重龍皇の鎧の力を全開にする。外見上の差異は左腕が赤龍帝の篭手ではなく、右腕と同じ重龍皇の鎧になっていることだが、これでさっき以上にこの鎧の力を存分に振るうことができる。そして、ヴェリタス・イラに分離していた分の力も、今こいつをページに再圧縮して戻し、回収した。

 

 そいつだけは許せない。ヴァーリ・ルシファー。

 

 覚悟しろ。お前はこの俺の……赤龍拳帝の逆鱗に触れた!!!

 

「テメェなんぞに――俺の親を殺されてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!!!」




ちなみに、ヴェリタス・イラはイッセー抜きでも破壊力だけなら最上級悪魔クラスです。ただしイッセーがいないと手加減はほぼ出来ないので、基本的に殺してもいい相手じゃないと自律行動は使えません。

更に言えば、現時点で須佐能乎完成体とヴェリタス・イラ搭乗時を比べると、総合力で須佐能乎の方が上です。実はヴェリタス・イラはイッセーをトレースさせるのにナノ秒のタイムラグが生じるからです。
ちなみに、ヴェリタス・イラの名の由来は、真理の怒りをまんまラテン語に置き換えました。
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