ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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Life.81 四天龍、見参!

「無限を妬み、夢幻を想う――」

『RideRideRideRideRideRideRideRideRideRideRideRideRideRide!』

 

 再開される覇の呪文に対抗するように、宝玉が音声を上げて力を高める。全身に漲る熱と力に意識が遥か彼方へ飛びそうなほどの興奮を覚えてしまう。

 

 よし、これならイメージ通りにイケるぜ……いざ!!

 

「時よ――止まれ!!」」

Hyper(ハイパー) Acceleration(アクセラレーション)!!』

 

 ドン!

 

 ――瞬間、俺の全てが加速する。ヴァーリはおろか、レクナやサーゼクスを始めとするトップ陣、更には遠巻きにこの戦いを見届けている神々でさえ停まって感じる独自の世界にて、俺は唯一人動き出す。

 

 ドガシャアアアア!!

 

 ヴァーリへ肉薄し、全力の豪拳蹴撃による連打を浴びせて、全身を覆う鎧を各所の宝玉を残して破壊し尽くす。宙に舞う破片を蹴散らして宝玉を集めて錬成した風呂敷に包んだ所で、限界が近いことを感じ取る。……通常時間にして十秒か。まあ、中々だな。

 

 ドゴォォォ!

 

 行き掛けの駄賃とばかりにヴァーリの鳩尾へ蹴りを打ち込んだ後、俺は世界へ宣告する。

 

「――そして時は動き出す」

 

 ドゴォォォォォォォォン!

 

 正常な流れの世界へ戻った瞬間、ヴァーリが多量の血反吐を吐き出しながら吹き飛び、校舎へぶち当たった。

 

 傍から見れば、俺が瞬間移動でヴァーリをぶっ飛ばしたとしか思えないだろうが、唯一人、アザゼルだけは苦笑いでボヤく。

 

「ありえねぇ……幾ら速くたって、俺すらその痕跡も見いだせないなんて事は……待てよ? 時よ止まれって……まさか光速を遥かに超えて加速した結果、相対的な時間停止を引き起こしたってのか!? ありかよそんなの!?」

 

 ありもなしもそれこそ無い。結果として、今ここに俺が雷龍帝の鎧(ライディング・ギア・スケイルメイル)を纏っている。それが答えだ。

 

 究極の加速による唯一人の世界。涅槃寂静すら超えた無間の時を動く速さの極み。

 

 ただ、当たり前だけど消耗も馬鹿馬鹿しいくらい激しいな……制御装置を無理に利用したってことを差し引いても、ごっそり体力を持って行かれちまった。まあ、そんなものはいつものことなんだけど。

 

 それより、覇龍の呪文が一時中断されている今が絶好の機会だ。

 

 クリア、頼んだぞ。ドライグ、覚悟はいいな。バオウもガオウもサポートよろしく!

 

『ああ』

『是』

『イツデモイイゾ』

『我は力の塊と称された赤き龍の帝王! 汝はそれに敵う拳と称されし神を超えた帝皇! お互い、生きて超えてみせるぞ、兵藤一誠ッッ!』

「応ッ!」

「ガフッ……何をするつもりだ?」

 

 血を吐きながら立ち上がったヴァーリが、鎧を再生させながら興味深そうに見ている。

 

白龍皇(バニシング・ドラゴン)! アルビオン! ヴァーリ! 貰うぜ、お前らの力!!」

 

 バッ!

 

 風呂敷を解くと同時に宝玉を宙へと放り投げ、横一線に並んだ青い宝玉へ、赤龍帝の篭手に変化させた右手を甲の宝玉を叩きつける形で振った!

 

 音もなく、右の篭手の中へ吸い込まれる白龍皇の宝玉。それらが生み出す青い光が右手の甲から発せられ、対抗するように本来の宝玉の色たる緑の光が輝きを増す。

 

 ドクン。

 

 相乗、反発して強まる二色の光に、瞬時に全身に形容しがたい激痛が広がっていく!!

 

 グッ……。だが、決して耐えられない範囲じゃない! 騒いで皆の邪魔するよりも、俺自身の精神を落ち着かせるんだ! そうすれば、多少なりとも負担は減る!

 

「俺の力を、取り込むつもりか?」

 

 鎧をほぼ修復させ、今度は仙術の一撃で乱された気を元に戻そうとするヴァーリは驚いた様子を見せる。

 

「相反する二つの融合……研究テーマとしては散々扱ってきた! この間の木場の聖魔剣を参考に、古今東西の聖魔神霊の武具の統合もできたんだ! なら、赤と白の融合だって!!」

『愚かしい、無謀に過ぎるな。我らは相反する存在。それは自殺、自滅でしかない。ドライグ、それにバオウ、ガオウ、クリアとやら……お前たちは、こんなことで消滅するつもりなのか?』

 

 淡々と話すアルビオンに、ドライグは魂への激痛の中、笑ってみせる。

 

『アルビオン! お前は相変わらず頭が固いな! 我らは長きに亘り、人に宿り、争い続けてきた! 毎回毎回、同じことの繰り返しだったな!』

『それが我らの運命だ。お互いの宿主が多少違っても、戦い方だけは大体同じ。お前が力を上げ、私が力を奪う。そして神器(セイクリッド・ギア)を上手く使いこなしたほうがトドメを刺して、その場は終わり。また宿主を変えて、その繰り返しだ。今までも、これからも』

 

 諦観したようなアルビオンの言葉に、ドライグは不敵な笑いを含ませる。

 

『俺はこの宿主――兵藤一誠に出会い、付き合って……一つだけ、確かなことを学んだ。――馬鹿を貫き通せば、不可能は無いとな!』

「ハハハハハハハハハハ!!! 馬鹿で結構!! どうせ才能で勝てないんなら、馬鹿を通して突き抜ける! いつだってそうやって来た! だろうが、お前らぁ!」

『応 !』

『我等ハ天龍! 馬鹿ノ付キ合イ程度、成シテミセヨウ!』

『僕も君に付いて行こう。新たな名前と力を持って!!』

 

 それでこそだ……俺たち五人に、越えられない壁なんかありゃしねえ!!

 

「俺の想いに応えやがれぇぇぇぇぇぇ! 赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)ァァァァァァァ!」

Vanishing(バニシング) Dragon (ドラゴン) Power(パワー) is(イズ) Taken(テイクン)!!』

 

 光が青一色へと定まると、急激に輝きが収まり、右の篭手が白いオーラに包まれる。オーラが完全に篭手に収まると、右の篭手は白く染まりきっていた。

 

「……ヘッ! クリア、白龍皇の力の具合はどうだ?」

 

 青い宝玉へ目を凝らせば、そこには以前資料で見たことがある、生前のアルビオンに似た姿のドラゴンの顔が見て取れた。これが新しいクリア、か。これでお前も、立派に天龍だ。

 

『実にいい。だけど、流石に白龍皇を名乗るのは本物に悪いよね?』

 

 遠慮がちにそう言うクリアに、一息ついたドライグが応える。

 

『……なら、こういうのはどうだ? 透龍皇(とうりゅうこう)……透龍皇(ホロウ・ドラゴン)クリアと言うのは』

「ならこいつは……透龍皇の篭手(ホロウ・ディバイディング・ギア)って所かな」

Hollow(ホロウ) Dragon(ドラゴン) The() Birth(バース)!』

 

 おお、らしい声上げるじゃねえか、クリア。

 

『消滅の力よりは、立派な名乗りが出来るね』

『あり得ん! こんな事はあり得ない! 私の力をドライグの神器に取り込んだ上、それを持って新たな天龍を生み出すなど……』

 

 驚愕の声を上げるアルビオンだが……お生憎様、そんな反応はもう飽きてるんだ。

 

「聖書の神がいない為に、あちこちにエラーやバグが出ているらしい。それは神器プログラムだって例外じゃない。賭けには変わりなかったが……結果はこの通りだ」

『不備をついたというのか……しかし、こんなことは……思いついたとしても、実際に行うなど正気の沙汰ではない。相反する力の融合、それもドラゴンに関わるものだぞ? 死ぬかもしれないどころか、死んだほうが自然だ!!』

 

 本当に頭固いな、アルビオン。まあ、そんな反応も慣れてるけど。

 

 対して、ドライグは嘆息する。

 

『だが、寿命は幾らか縮んだかも知れんぞ。元々、桁違いに長生きできることぐらいしか分からないお前だがな』

「そんなに生きるつもりはないさ。まだまだやりたいことは山ほどあるけどな。それじゃあ……行くぜ、ヴァーリ!!」

 

 ドゴォォォォ!

 

「ガハッ!」

 

 雷龍帝の超速で体当たりをするようにぶつかって、透龍皇の篭手でヴァーリの頭を鷲掴みにする! そして制御装置の力を右手へ譲渡!

 

Hollow(ホロウ) Dragon(ドラゴン) Over(オーバー) Divider(ディバイダー)!!!!』

 

 白く透き通ったオーラが全身を包み、鎧が変形する。赤龍帝の鎧と白龍皇の鎧の中間の様な姿になった俺は、たった今移植し、透龍皇のものとなったばかりの半減の力を全開に行使する!

 

『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!』

「オン・ナガラジャテュハン・イセイ・ソワカ!!」

 

 音声にともなって、ヴァーリを覆う危険なオーラが一気に激減する。そこを見計らって、俺の真言を唱えながらヴァーリへ魂を清め静める法術を叩き込む。

 

 効能こそ一時的だが、これで歴代白龍皇の残留思念、そして覇龍は止められた!

 

「うっ……ぐ……」

『ヴァーリ! 馬鹿な……こんな馬鹿な事があっていいのか!?』

 

 馬鹿馬鹿うるせぇぞこの野郎。狼狽えるアルビオンへ言ってやる。

 

「あるもなしもねぇ……今ここにある事実が全てだ!」

「……ぬぅぅ、おおおおおおおおおおおおッ!!」

『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!』

 

 負けじと闘志を滾らせて、自分の頭部を掴む俺の手を両手で掴み返したヴァーリは、本家の半減の力を発動させた。すかさず俺は白龍皇の鎧の、光の翼の付け根へとあいた左手を伸ばす!

 

 ガシッ!

 

「確かオーバーフローを避けるために、余剰の力は翼から吐き出すんだよな……だったら、吸収と放出を同時に高めてやる! 処理しきれない程になぁ!!」

Transfer(トランスファー)!』

 

 ビィィィィィンッッ!!

 

 白龍皇の鎧の各所の宝玉がでたらめに点滅を繰り返し、過剰な吸収と放出によってヴァーリの力が更に激減する。けど、度重なる無茶でこっちもかなりヤバイ。もうここで決めるっきゃ無い!

 

Welsh(ウェルシュ) Dragon(ドラゴン) Over(オーバー) Booster(ブースター)!!!!』

 

 やっぱ、威力ならこれだ。赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)となった俺は、更に力を増強する。

 

「ディゴウ・グラビルク!」

 

 重力によって身体能力を増し、全身に静動の相反する気を充満させ、覇気と魔力を高め、それらを更に倍加させる。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 高まる力に校舎がほぼ消し飛ぶが、もう気にしてられん! あとでいくらでも働いて返してやらぁ!!

 

「――終わりだ、ヴァーリ・ルシファーッ! 真拳・天地開闢ッッ!!!!!」

 

 意、心、技、体、覇、欲、色、和の八つの拳撃がヴァーリの急所へ叩きこまれ……奴は校舎を粉砕しながら、鎧の破片共々吹き飛んだ。

 

 ドォォォォォォォォォォォォォン!!

 

 校舎を超えて裏庭あたりにまで飛んでいったヴァーリを追ってみると、奴は仰向けに倒れ伏して、最早立つことは出来ないようだ。……よし、俺はまだ動ける。今のうちに、拘束を!

 

 バリィィィィィィィィィィン!

 

 ヴァーリと、ヤツへ近づこうとした俺の間に、一人の青年が上から飛び込んできた。……根を手にした爽やかそうな顔つきの、中華風の軽鎧を纏った男性。

 

 んな、馬鹿な……なんでお前がこんな登場の仕方しやがるんだ!

 

「……美猴か。何をしに来た?」

「いやいや、どう見ても死に体でよくそんな口がたたけんな? ていうかお前、本気でイッセーとやりあってたのかよ!? 生きてるだけで奇跡だぜ、まったく。北のアース神族と一戦交えるから帰って来いってよ。一足先に逃げてきた二人から聞いたけど、カテレアも死んだんだろ? ならとっとと帰ろうぜ。黒猫の手を借りたとは言え、結界破るのに俺っちも疲れちまったよ」

「そうか、もう時間か……だが、正直助かったよ。もう少しで捕まるところだった」

 

 何を勝手な事をほざいてやがる。

 

「よお、美猴……てめぇ、孫悟空の血を引く妖怪が禍の団(カオス・ブリゲード)に参加たぁ、闘戦勝仏の爺さんが聞いたらただじゃ済まねえぞ。今なら口利きくらいしてやるから、二人揃って大人しく捕まりやがれ」

「冗談。俺っちは初代と違って自由気ままに生きるのさ。大体、お前さんに捕まる時点でただじゃすまないってのは目に見えてるっつーの。まあ、改めてよろしくな、赤龍拳帝」

 

 美猴は根をくるくると回し、地面に突き立てた。地面に黒い闇が広がり、二人がズブズブと呑み込まれていく。

 

「逃すかぁっ!」

 

 膝立ちの姿勢で地面に手を当て、転移封じを――発動しようとした所で鎧が解除され、全身に疲労がのしかかる! 幾らなんでもタイムリミットが早過ぎるだろ! 流石に規格外の真似をし過ぎたせいか!? けど、こんなタイミングで……!

 

 いいや、逃さねえ! せめて転移封じだけでもっ!

 

 篭手を出そうとした俺の肩に手を置いて、左手にそっと手を添える者がいた。

 

 ……妲己だ。

 

「イッセー様は無理をしすぎました。あれほどの使い手の術を封じるなど、その疲弊した御身には荷が勝ち過ぎまする。そもこれ以上は本当に取り返しがつかなくなってしまいます。どうか自重下さいまし」

「んなこと言ってられっか! 俺は……」

「――貴方の命は、世界の平穏を担う重要な支柱です。御身を守ることが世界を守ること。周りを思うならご自愛なさい。……兵藤一誠、貴方はもう貴方一人の命では在れないのです」

 

 ……!!

 

 ――そうだ。俺がこんな所で死ねば、三大勢力は勿論、部長たちだってどうなるか……。

 

 歯噛みする俺に、ヴァーリは言い残す。

 

「兵藤一誠。潔く認めよう。今回は俺の負けだ。君に挑むには、何もかもが足りなかったよ。次に戦うときは、もっと激しくやろう。お互いに、もっと強く――」

 

 最後まで言い切らず、ヴァーリは闇の中へと消えていった。

 

 周囲の脅威が全て去ったと自覚した途端、更に全身の倦怠感が強く感じられ、写輪眼も超神化も解除する。引き締まった細胞は一気に緩み、胃袋が栄養をよこせと全力で主張しだす。

 

 ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!

 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!

 バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!

 ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!

 

 周辺一帯の住民が怪しむんじゃないかと変な逃避をしたくなるほど激しい空腹に襲われる中、耳元へ囁く甘い声が欲望を貫いた。

 

「私でよければ……どうぞ?」

 

 それが妲己だと理解するよりも速く、細胞が血を求めて動き出した。

 

「――この世の全ての食材に感謝を込めて、いただきます」

 

 ガブゥ!

 

 お決まりの台詞を言った直後、襲いかかる勢いで妲己の首筋へ噛み付き、必死で血をすすり始める。芳醇にして濃厚な豪盛極まる風味を堪能しながらも、嬌声を必死で抑えこんで俺を抱きしめる傾国の美女の姿を目で楽しむ。

 

「ふッ……っ」

 

 余裕気な顔が少しあれなので、一瞬快楽を全開にしてみようかとも思ったが、止めておく。

 

 だって俺の真後ろにいるレクナがスゲェ見てくるんだもん。下手な真似したら肉骨粉にされかねない。

 

 とりあえず、致死量ギリギリまで血を吸い上げたので牙を外し、首筋を舐めておく。

 

「あぁん……」

「わざとらしく喘ぐなよ、この婆狐」

「あら、純粋にイッセー様からいただける快楽を堪能した結果ですわよ? 婆悪魔様?」

 

 ピキ。そんな音と共に魔力を纏おうとするレクナへと立ち上がりながら向き直り、肩に手を置く。

 

「レクナ……まだ腹が減ってしょうがない。飲むぞ、いいな」

「――はい、主様」

 

 ガブッ!

 

「あっ、あぁ、あっ……」

 

 艶っぽい声に煽られつつも力強い旨みを味わいながら、こちらもギリギリまで吸った所で首筋を舐めて終わりにする。

 

「ふぁ……」

「ふふ。少女のような声を挙げられて、可愛らしいですわね、マラコーダ様は」

「……黙ってろ雌狐」

「喧嘩はいいから皆のところへ戻るぞ。いや頼むからほんと……」

 

 俺の言葉に素直に従ってくれた二人に寄り添われて皆の所へ戻る最中、上空に多数の気配を感じたかと思えば、結界の外を張っていた兵隊達や警護の者達も交えて、三大勢力が共同で学園中を直し始めた。

 

 これで和平が成立した、か……前途は多難だけど、それでも意味のある一歩なんだと信じたい。

 

「イッセー!!」

 

 皆の元へたどり着くなり、部長を皮切りにオカ研メンバーに会長、副会長、そしてレクナの眷属が近づいてきて、比較的元気そうな俺を見て安堵の表情となる。まあ、今回も結構無茶しっぱなしだったしな。

 

 部下への指示を終えたサーゼクス達トップ陣も俺に近づいて、無事を労う。

 

「イッセー君、今回も良くやってくれた。無事で何よりだ。……アザゼル。カテレアの一件は、悪魔側に問題があった。本当に申し訳ない」

 

 サーゼクスの謝罪に、アザゼルは残った右手をパタパタと振った。

 

「いや、こっちもヴァーリが迷惑かけたな。未然に防げなかったのは俺の過失だ」

「……三大勢力が平和の道を共に歩み始め、その不穏分子もまた一塊となった。全てはこれから、ですね」

 

 頷くミカエルさんに、俺は声をかける。

 

「――ミカエルさん。一つだけ、お願いがあります」

「なんでしょうか。私に出来る事であれば」

「……アーシアとゼノヴィアが祈りを捧げる事でダメージを受けるのは、システムの影響ですよね? そこを何とか、二人が祈りを捧げることを許してもらえませんか」

 

 信仰とともに生きて、信仰とともに人の生を終えた二人だ。ならばせめて、祈りを捧げ続ける事はさせてあげたい。悪魔であっても、信じるものは自由でいいと思うから。

 

「――っ。……確かに、悪魔が祈りを捧げることでダメージを受けるのは、システムの一環です。しかし、二人分くらいであればなんとかなるかも知れません。アーシア、ゼノヴィア。神は不在ですよ。それでも、祈りを捧げますか?」

 

 天使長の問いかけに、二人は迷うこと無く首を縦に振った。

 

「はい。主がおられなくとも、私は祈りを捧げたいです」

「同じく。主への感謝と、ミカエル様への感謝を込めて」

「……私からも、お願いします」

 

 そう言ってゼノヴィアの隣に歩いてきたのは、イリナだった。意外な助け舟にアーシアとゼノヴィアが目を剥く。

 

「ゼノヴィア……私、貴方が裏切っただなんて、勝手に勘違いをしてごめん。アーシアさんも、あんな酷いことを言ってしまって、ごめんなさい」

 

 両手をそっと合わせて伏目がちに謝るイリナへ、ゼノヴィアとアーシアが微笑む。

 

「いいんだ、イリナ。キミが謝ることじゃない」

「私も……もう気にしてませんから」

 

 その言葉を受けて、イリナの表情がほころぶ。笑い合う三人を、セラが興味深そうに見る。

 

「悪魔と信徒の友情かぁ……いいわね!」

「ミカエル……彼女たちは、今回の和平を象徴している。そうは思いませんか」

「ええ……祈りを捧げても、ダメージを受けない悪魔が二人くらいいてもいいでしょう」

 

 サーゼクスの感想に同意したミカエルさんは、そう言って天使の微笑を浮かべる。

 

「さてと……それじゃあそろそろ、赤龍拳帝の要求ってやつをお聞かせ願おうか」

 

 いい感じの空気をぶち壊すアザゼルの指摘に、俺はため息をつく。

 

「面倒くせぇな……もう今のでいいじゃねえか」

「まったく足りないね。お前らも同意見だろ? サーゼクス、ミカエル」

「確かに……他勢力が納得するかといえば、正直首を横に振らざるをえないな」

「その願いは受け入れましたが……今一度、別の案をお願いします。赤龍拳帝殿」

 

 ……別の案、ねぇ。

 

 まあ、一つだけあるっちゃあるんだけど……いいや、言うだけ言っちまえ。

 

「それじゃあ……三大勢力の誰とでも喧嘩ができる権利ってのは?」

「ほぉ、喧嘩と来たか。具体的には?」

 

 楽しそうに顎鬚を擦るアザゼルに、言ってやる。

 

「もっと物騒な言い方をするなら、決闘の権限だな。俺は悪いと思った奴は基本的に殴り飛ばして生きてきた。お偉いさんを殴って面倒事に発展したことも一度や二度じゃない。だからそう……最初からそれを許される権限があればいいんじゃないかなと。

 で、具体的には俺に決闘、まあ喧嘩でもいいんだけど、とにかくそう言う荒事の類を申し込まれた相手は基本的にどんな立場のどんなやつだろうが自分からは拒絶不可。俺が決闘を撤回することは可能っていう形で。無論決闘は基本一対一のルール無用、俺を殺しても罪には問われないし、逆に俺が相手を殺しても咎は受けない。まあ、細かいルールはそこまでこだわらないけれど……とにかく、ムカついたやつを盛大に殴り飛ばせる理由付けがほしい。これが俺の要求だ」

 

 言うだけ言って、三人の顔を見れば……にやけヅラのアザゼル以外、なんとも見事な呆け顔で。

 

 まあ、自分でもよくこんな頭悪い事思いついたとか思ったけどさ。だけど経験則から言って、貴族やら上流階級ってやつは基本的にプライドの塊だからな。これくらいは物騒なものをちらつかせないと一々突っかかってきてウザイことこの上ない。

 

 それにこうは言うけれど、正直こっちだって無駄な恨みは買いたくないかならそこまで頻繁にやらかすつもりはない。殺るなら一網打尽に出来る形を整えてから徹底的に殺って殺る。

 

 果たして、最初に口を開いたのはミカエルさんだった。

 

「……流石に、即断とはいきません。上役達とも話さねば、これほどの条件は……」

「いいじゃねえか。若者らしく血気盛んで! 堕天使は、総督たる俺の名の下に快諾するぜ。言って聞かなきゃそれしかねえだろ」

 

 言葉を濁すミカエルさんに対して、アザゼルは心底楽しそうに笑いながら受け入れる。

 

「反発は必至だが……切羽詰まっている状況を鑑みれば、恐らくは受け入れられるだろう。少々条件をいじる可能性はあるが、よろしいかね?」

「それはまあ……」

 

 ……あれ? なんか想像してたよりもあっさり行く流れ? いやいや、こんなもん多少威嚇になってくれればそれで上等って感じなんだけど……ええええ。これがまさかこのまま受け入れられやしないよな?

 

 俺の内心の動揺も知らず、アザゼルが右手の指で俺を指す。

 

「おいおい、ミカエル。考えても見ろよ。こいつが散々デタラメやったの見ただろ? 俺たちすら止めちまう時間停止に、白龍皇の能力を奪い取ってそれで新たなドラゴンまで生み出しちまうむちゃくちゃぶりだぞ? 赤龍帝、雷龍帝、重龍皇、それに確か、透龍皇だっけか? 四体の天龍……四天龍とでも言ったところか。そんなもんを体に収めた奴が、地位と権力だけはある嫌味な連中にチクチクいびられて爆発してみろ。それこそ三大勢力はおしまいだ」

 

 人を危険物のように……いや、実際危険物だけどさ。

 

 けど……四天龍か。なんだかいい響きだ。

 

「それでなくたって、世界中の名だたる存在がご執心のVIP様だぞ? こっちも相応の態度ってのは見せなきゃならないし、馬鹿やらかしかねない連中への牽制にもなる。それにこいつは、鬼灯お墨付きの責任感の持ち主だ。特権持ったからってそれを盾に横暴やらかすような事はないさ」

「……」

 

 アザゼルの言葉に、ミカエルさんは考えこんでいる。

 

「この馬鹿を信じてみようぜ? それが年寄りってもんだろ」

「……分かりました。上役達は私が責任を持って説得します」

「ではここに……三大勢力のトップの名の下に、赤龍拳帝殿の要求に応じることを誓おう」

 

 マジで通っちまった……。いやけど、実際これぐらいじゃないと結構煩いだろうしな……。

 

 ポン。

 

「俺は暫く、こっちに滞在する予定だ。言っただろ? 俺にしか出来ない方法で満足させてやるってな」

 

 すれ違いざまに俺の肩に手を置いたアザゼルは、そう言って去っていく。

 

 最後に、とてつもなく重い一言を残して。

 

「――信じてるぜ。四天龍の宿主よ」

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