ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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Life.84 喧嘩、買います!!

「実際、生身の兵藤って会長よりも強いんですかね?」

 

 休日に皆で雑務を片付ける生徒会室にて、大体の仕事を終えてのんびりしている中、俺はそう言った。

 

 会長は一口飲んだ紅茶を受け皿において眼鏡をなおすと、こっちへ鋭い視線を向けた。

 

「サジ、突然どうしたんですか?」

「いや、あいつって赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)とか、強力な神器(セイクリッド・ギア)は色々持ってるし扱いも上手いけど、魔力は俺と同じで得意じゃないらしいし、神器無しで会長に勝てるのかなって……」

 

 使い魔の森、聖剣を持ったはぐれエクソシスト、そしてこの間の冥界であいつが戦っている所はみたが、大体は神器を使ってたからな。そりゃ本人も強くなきゃあんな真似が出来ないってのはよくわかってるけど、凄まじすぎてよく分かんないっていうか……クロウ・クルワッハとかいう邪龍との殴り合いも、速すぎて気づいたら決着してたって感じだったし。正直、別次元過ぎて理解できなかった。

 

 当然、卑怯だとかは考えてない。俺だってあいつに比べたら全然だけど、龍王の神器を持ってる身だし。だけど、兵藤は生身でも無茶苦茶強いって話を聞いた。

 

 そこで思ったんだけど……俺、あいつが神器なしで戦ってるとこ見たことなかった。一撃でのされた事はあるけど、ほとんど素人の俺相手と比べてもな。そんでもって、俺が知ってる身近で強い人、つまり会長の全力を思い浮かべて、会長なら勝てるのかという疑問が浮かんだっつーわけだ。

 

 大量の水でライオンやドラゴンを象って操る、会長の強力な魔力……あれに生身で勝てるというのがどうしても想像できない。武術の達人ってのは聞いてるんだけど、正直素手でそこまで出来るのかな?

 

 しかし、ため息をついて額を抑える会長の返答は想像を遥かに上回るものだった。

 

「サジ。言っておきますが、仮に兵藤くんが神器を含めて一切の特殊能力を禁じたとしても――私では瞬殺されるのは間違いありません。仮に椿や貴方、そして眷属の全員で当たったとしても……十秒持つか怪しいでしょう」

 

 ガタッ。

 

 あまりの驚きに、思わず立ち上がってしまった。会長の言葉は真剣そのものだし、そもそも会長はこういうことで冗談をいう人じゃないってのはよくわかってる。

 

 それでも、そこまで言うとは考えてもいなかった。

 

「か……会長が瞬殺とか、全員で十秒って……あいつそんなに強いんですか!?」

「強いですよ。理不尽過ぎる程に。俗にいう全盛期では、生身でお姉さまと優勢に戦ったという話ですから」

「セ、セラフォルー様ッ、魔王様と……」

 

 兵藤が世界中の色んな神様と戦ったとかって話も、一応聞いたことはある。けれど、自分が知るかぎりで一、ニを争うくらい強い存在である魔王さまと優勢に戦ったというのは、聞きかじりの知識でしか知らない神との戦歴よりも段違いに衝撃的だった。

 

「和平会談の後で、お姉さま自身の口から聞いた話です。数分戦った後、赤龍帝の鎧を身につけた兵藤くんに一撃で殺されかけたとも言っていました。まあ、そんなお姉様を助けたのも兵藤くんらしいですが……あのブローチにそんないわくが付いていたとは」

「あのブローチ?」

 

 首を傾げた俺に対し、会長は手元に出した魔方陣から手のひらサイズの箱を取り出すと、皆の方へ向けて蓋を開いて見せる。

 

 中に収まった『それ』が目に入った瞬間、思わず息を呑んだ。

 

 手のひらに乗るくらいの大きさの、青みがかった水晶のような材質で出来た雪の結晶を思わせる六枚の花弁。宝石のようにキラキラと輝く光沢にもかかわらず、生きてるんじゃないかと思わせられる躍動感を花弁一枚一枚から感じてしまう。

 

 ともすれば安直にも思えるようなデザインなのに、目を惹く圧倒的な存在感がそんな感想を根こそぎ吹き飛ばしてしまう。芸術とかはさっぱりな俺でも、これが桁違いにすごいものだというのはよくわかる。

 

 目を奪われる俺や生徒会の皆だったが、会長は蓋を閉じるとすぐに箱を魔方陣へと仕舞いこんでしまう。

 

「このブローチは、その時にお姉様が私への誕生日プレゼントにしようとした花を模して作られた品で、戦闘中に事情を聞かされた兵藤くんが用意したものだと聞きましたが……いっそ恐ろしいほどの多芸ぶりですね」

 

 思案顔の会長に、頬を掻きながら苦笑して言う。

 

「けど、一撃でのされた俺が言うのもなんですけど、あいつって全然凄くも強くも見えないですよね」

 

 これは嘘偽り無い、正直な感想だ。一応、俺だって会長に付き従ってはぐれ悪魔の討伐で実戦経験もあるし、多少なら強そうな雰囲気とかも分かる。木場なんかは特に分かりやすい。他にも会長やリアス先輩みたいな上に立つ人は無言で凄いと察してしまう威厳を纏ってるし、魔王さま方になるとそれがより顕著だ。

 

 けど、兵藤からはそういう空気を一切感じない。それどころか、校内で偶々見かけても目の前で挨拶されてようやくいた事に気づいたこともあるくらいだ。別に特別目立たないって事も影が薄いって事もない筈なのに、異様に存在が気づきにくいんだよな、あいつ。

 

 会長と副会長を除いた皆も、口々に肯定する。

 

「変態とか鬼畜外道とか(けだもの)とか言われてる割に、妙に気を引かないというか……そういう所は本当に獣じみてる感じだよね」

「普段は怖いくらい隙だらけなんだけど、あれってわざとなのかな」

「世界最強の達人の噂は私も聞いたことはあるけれど……正直半信半疑というか、ねえ」

「強さも全然計れないし、偶に私でも勝てるんじゃないかって思う時があるわ」

「うん。強いんだか弱いんだかわけわかんないよね」

 

 姦しく言い合う生徒会メンバーにやれやれといった感じで苦笑する会長と副会長が紅茶を飲み干すと、コンコンとノックする音のすぐ後に、扉の向こうから声がする。

 

「榊だが、今いいだろうか」

 

 榊――榊氷美神さん。つい最近転校してきたクールビューティーと謳われる美少女にして、あの兵藤の幼馴染。そして既に断絶した上級悪魔の家、ヴァレフォール家の血を引いた、部長や会長以上の実力を持つという天才少女だ。

 

 声を聞いた俺は、席を立ってドアを開けた。悠然と中に入る榊さんに会長や皆も立ち上がる。

 

「生徒会のメンバーも全員いるか。ちょうどよかったな。今から少し、大丈夫か」

「特に予定はありませんが……一体、どうしたんですか? 様子を見るに、厄介事のたぐいではないようですが」

 

 眼鏡を直しながらそう言う会長に、榊さんは腕を組んで微笑んだ。

 

「イッセーとミルドレッド達の決闘が始まるぞ。リアス達はまだ修行中だから、俺が案内に来た」

 

 修行……そう言えば、兵藤はオカ研メンバーの師匠やってるんだっけ。ていうか、確かこの間……

 

『多分でもダメなの! せめてハリセン……いえ、貴方だとそれでも殺しかねないから素手でツッコんで……いや駄目よそれが一番危険なの!! お願い止めて! 殴られすぎてもう痛いって感覚も……なんなのその薬はぁぁぁぁ!!』

『耐えてください、イッセーくん! 関節はそんな方向には……あああ、捻らないでぇぇぇぇぇ!!』

『イッセーさんイッセーさんイッセーさん! 筋肉が、骨が軋んで……切れましたし折れましたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 ……つって、号泣しながら金棒持った兵藤を抑えこもうとしてたっけ。……あいつ、本当にトップクラスの美少女達になにしてやがるんだ? そう言えば榊さん、兄さんの影響がどうとか言ってたけど……。

 

「そうですか。では、お願いします。皆もいいですね」

『はい、会長』

「じゃあ、行くぞ」

 

 榊さんに付いて学園を出た俺たちが向かった先は……表札に兵藤とある、一軒家だった。口を挟む間も無く庭へ移動した榊さんは、塀の一部分を押し込んだ。

 

 ゴゴゴゴゴ!

 

 途端、塀の角から二畳くらいの範囲で地面が蓋のごとく持ち上がり、でかい階段が現れた。

 

 ……いやいやいや、なんだよこれ!? どこの秘密基地だって! これまさか兵藤の趣味?

 

「サジ、行きますよ」

 

 しかし、狼狽する俺を余所に、皆は既に榊さんとともに階段を降り始めているのだった! ていうか会長も皆も何か言う事ないんですか! 驚いてる俺が変なの!?

 

 ツッコミも忙しく、皆の後を追った俺の背後で扉が閉まる。すたすたと階段を下り続けると、一分もしない内に明かり差し込む出口が見えた。

 

 恐る恐る外に出た俺の目に入り込んだのは、緑鮮やかな大木が視界を遮る程にそびえ立つ森。上を見上げれば、ところどころに雲が見える立派な青空と、燦々と陽光で地を照らす大陽……。

 

 えっと……マジでなにこれ? 流石に皆もこれには驚きを隠せない様子で、会長が榊さんへ問いただす。

 

「これほどの空間を形成、維持するだなんて……これも兵藤くんが?」

「いや、これはイッセーの師匠、榊神……俺の義兄の手によるものだ。イッセーの家の地下にこの空間……正確にはこの空間への入り口を作って、次元の狭間の一角に出来たここへ繋げている。まあ、イッセーも同じことをしようと思えば出来るけど、完成度を同じくらいにしようとすれば圧倒的に時間がかかるからな」

 

 開いた口が塞がらない、とはこの事か。信じがたい事実に圧されつつも、必死で口を動かす。

 

「兵藤は、あんまり魔力とか扱えないんじゃ……」

「魔力はな。魔法は魔導書を介すれば、もう規格外そのものさ。ただ……魔導書で演算した過程と結果を、瞬時に自分の頭に出力するイッセー式のやり方は、俺にも真似できないね。少し体験しただけでもそれが思い知らされた。……頭のなかで洪水が起きると言った感じかな。イッセー曰く、あれでも魔導書に記された魔法の中では簡単な方だと言う……本当に、イッセーならではだ」

「――ハハハ」

 

 ……話の内容の半分くらいしか理解できない俺とは違い、きちんと理解できているであろう会長は――顔中に汗、多分冷や汗を流して無理に持ち上げた口角をひくつかせながら空笑いしてた。会長がそんな表情になるだなんて……一体、どれだけヤバイ事やってるんだあいつは。

 

 榊さんも見るに見かねたのか、話をそらそうと前方を指さした。

 

「とにかく、ここから少し歩いた先に開けた場所がある。連中とは、そこで――」

 

 バキバキバキ! ドサ!

 

 突如周囲に異音が走ったかと思えば、身構える間もなく誰かが近くの茂みに着地する。全員が目を向けた先には……アーシアさん!? しかも胴着姿! 新鮮でいいけど、なんでまた?

 

 ビュッ。

 

 視界の端に何かが映り込み、再び全員が注視する。音もなく木々をすり抜けて、高速でアーシアさんに接近するのは……これまた胴着姿の、兵藤!?

 

 両者共にこちらへは目もくれず、一直線に突っ込む兵藤の襟元を掴んだアーシアさんが両足で飛び上がって後ろへ回転し、空中で兵藤を投げ飛ばした!

 

 ドガァ! ボフン!

 

 見事に受け身をとったアーシアさんとは逆に、投げられた先の木に背中からぶつかった兵藤が煙を上げて消えると、森のなかにその兵藤の声が響き渡る。

 

「よし、それまで! アーシア、戻ってこい」

「はい! ……あ、氷美神さん。生徒会の皆さんも」

 

 起き上がりながらどこからともなく聞こえた声に大きく返事をした後、アーシアさんがこちらに近づいてきた。

 

「見事な空中巴投げだったな、アーシア。受け身もイッセーが太鼓判を押すだけはあるぞ」

「いえ、まだまだです。せめて、皆さんにご迷惑をおかけしないで済むくらいにはならないと……」

 

 襟元を正すアーシアさんは随分な汗をかいていて、体中あちこちに付いた土汚れや打ち傷が特訓の激しさを物語っていた。

 

「グレモリー眷属の皆さんが兵藤くんの指導を受けているというのは聞きましたが……よもやアーシアさんまで参加しているとは思いませんでした」

 

 会長の感想に、俺も内心で頷く。あまり運動が得意でないアーシアさんまであんな激しい特訓を積んでいただなんて、正直実際に目にしなければ信じられなかった。そもそもアーシアさんは優れた回復能力の持ち主で、おまけに僧侶(ビショップ)の名に相応しく、魔力においては優れた素質を示していると聞く。俺や兵藤みたいにそこら辺がてんで駄目ならともかく、なんだって……。

 

 アーシアさんは自分の掌に視線を落としながら言う。

 

「自分でも、似合わないというのは分かっています。だけど……少し前に思い知らされたんです。イッセーさんの傍にいて、支えて、頼られたいのなら――どんな形でも、もっと強くならなければいけないんだって……その為にイッセーさんが道を示してくれるのなら、どんな辛い修行だってやり遂げるって、決めたんです!」

 

 普段よく見られるような朗らかな笑顔とは大きく異なる力強い笑顔に、俺たちは目を剥いた。心の底から本気だと知らしめるに十分な想いを湛えた表情に、会長は眼鏡を直しながら微笑み返す。

 

「成る程……だからこその、あの猛特訓というわけですね。一方的なイメージでものを言って、申し訳ありませんでした。立派な決意だと思います」

「い、いえ、そんな! 私なんかまだ全然……全然、楽な方ですから」

 

 頭を横に振って否定したと思いきや、アーシアさんは遠い目をして少し上を向いた。……なんですか、その反応。あいつ、本当に何をさせてんだ?

 

「アーシア。皆ももうノルマは終わってるのか?」

「はい。美剛(メイガン)さん達も準備を終えて、後は生徒会の皆さんが来れば始めるそうです」

「分かったわ。じゃあ、行こう」

 

 足早に歩き出す榊さんとアーシアさんに付いていくと、五分もしない内に森を抜けて、だだっ広い広場へと辿り着く。榊さんが周囲を見回した後、木陰でくつろぐ数人を見つけて近づいていく。

 

 最初にこっちを向いたのは、空を仰いでいたリアス先輩だった。

 

「ソーナ。それに生徒会の皆まで」

「ごきげんよう」

「やあ、こんにちわ」

「……どうも」

「こんにちわ」

「どうもですぅぅぅ……」

 

 タオルを畳む朱乃先輩、タオルで汗を拭く木場、水筒を傾けていた塔城小猫ちゃん、木に背でもたれかかるゼノヴィアさん、そして段ボールに収まっているギャスパーくんから、次々と挨拶が飛ぶ。全員、疲労困憊だってのが見て取れるな……兵藤って、結構スパルタでやってるんだな。

 

 会長と共に頭を下げて挨拶すると、会長も周囲をキョロキョロと見回した。

 

「ごきげんよう、皆さん。ところで、兵藤くんは……」

「ここから少し歩いた原っぱで待ってるわ。それじゃあ、ご一緒しましょうか」

「ええ。もちろん」

「弟子として、師匠の戦いは見届けないとね」

「……達人同士の戦いなんて、そうそう見られませんしね」

「これからはいやというほど見せつけられるだろうけどな」

「こ、怖いですけど……最後までちゃんと見なきゃ!」

 

 立ち上がるオカ研メンバーを伴って、更に足を進めていくと、明らかに周囲の空気が変わる。

 

 チリチリと肌が焼け付けるような感覚に加えて、刺すような鋭い殺気に、息苦しさを覚えるほどの圧迫感。目的地に近づいている証左だというのは、緊張に引き締められていくリアス先輩達の表情からも察せられる。

 

 一歩一歩を踏み出すのにも苦労しそうな中、躓きかけた花戒を支えてやったりしつつ、俺たちはついに原っぱへ出て、この空気をもたらす大本を視界に入れる。

 

 ――ッ!!

 

 強烈な闘気に足が崩れかける。

 

 原っぱに立っているのは、三人の人影。カンフー映画とかで見るような胴着姿に、虎の耳や尻尾を生やした大柄な女。ビキニアーマー姿に矢束を背負い、弓を手にするゴーグルの女性の足元には、無数の矢が突き立てられている。最後の長柄の斧と盾を持った奴は全身に鎧を纏っていて、性別すらも分からない。

 

 そして、明らかにヤバイと思い知らされる三人の前に座禅の格好で座り込んでいるのが、ほかならぬ兵藤だった。赤いコートに黒いズボンをはいたあいつは、普段とまったく代わり映えしない雰囲気で、何喰わぬ顔でそこにいる。

 

 ある程度近づいた所で先頭を歩いていた榊さんが立ち止まり、全員がそれに従う。すると、まずは弓を持った女性が、怒りに身を震わせながら口角を釣り上げる。

 

「兵藤一誠。この時をどれほど待ったか……あの時はよくも私達を身包み剥いで砂漠のど真ん中に生き埋めにしてくれたわね!?」

「――フンッ。何を抜かすかと思えば……一緒にやってた仕事が済んだ途端、不意打ちしてきたのはそっちだろうが。俺に牙を向いて五体満足で済んだだけ、ありがたいと思え」

 

 女性の言葉に、兵藤がクツクツと笑う。普段とはかけ離れた獰猛な笑顔で口を動かすあいつが、なぜだか普段とあまり乖離しているようには見えなかった。

 

「そうだよなぁ……私なんか身体中の関節を外されたり、バキバキにへし折られたんだぞ? 荷物まで適当な所に保管されといた上での放置なんか、全然優しいほうだろうが、ミルドレッド」

「美剛、煩いわよ。マーマデュークも、こういう時くらいは何か言ってやったら?」

 

 メイガンと呼ばれた女が鋭い爪が生えた指で頬を掻く中、ミルドレッドは鎧姿の人物へ顔を向ける。つまり、マーマデュークがあいつの名前らしい。

 

 水を向けられた当人は、無言で盾と前に、斧を後ろにする格好で身構える。それに追うかの如くミルドレッドが弓へ矢を番えて引き絞り、メイガンが開いた両手を前で交差させる。

 

 緊張から息を呑む俺たちを余所に、三人から発せられる圧力はどんどんその量を増し、既に俺にとっては正確な力量を推し量る事もできない領域に達している。

 

 だけど、対峙する兵藤は全くの平常状態で、ただただ獰猛な笑顔で座り込むだけだった。

 

 最初は余裕とか油断ぶっこんてんのかと思ったが、次第にそれがどれほど異常な事なのかが分かってきた。

 

 榊さんもリアス先輩も会長も、俺でもつられて緊張を強いられる場なのに、、臨戦態勢どころか警戒も緊張もせずにくつろいでみせるというのは、素人の俺にも……いや、素人の俺だからこそおかしいと理解できる。

 

 詰まる所……あいつが俺どころか、会長や先輩さえ超越した存在だというこれ以上ない証左なんだ。

 

 スッ。

 

 拳を握った左手を顔の下へ、手刀の形で掌を外へ向けた右手を顔の上へ動かした兵藤が言う。

 

「それじゃあ――始めるか」

 

 ブワァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!

 

「――ッッッ!!!!」

 

 ――一瞬、意識が飛びかけるも、ギリギリで自分を保つ。

 

 目を疑い、何度も目を擦ったり瞬きを繰り返すが、そこにいるのは確かに兵藤だった。

 

 そこそこの距離でただ無作為に放射される闘気だけで、炎を直接浴びせられたかのようなこの感じ。莫大な熱気が全身から汗を吹き出させる。

 

 学園一の変態で、オカ研女子を蹂躙する鬼畜外道とされている、使い魔もゲットできない落ちこぼれ悪魔。そんな俺が知っている兵藤はそこにはいなかった。

 

 何もかもを焼きつくすような熱気と闘志が弾けんばかりに満ち満ちた、獰猛極まる笑みを浮かべる怪物とも化け物とも言えない何か。それだけだ。

 

 ズザッ!

 

 気がつけば、ミルドレッド達を前左右から覆うような形で、十二人の兵藤が様々な武術の型を取っている。

 

 脳の理解を置いてけぼりに、十五人が動き出す。

 

 ズババババババババババ!!

 

 斧が振るわれ、弓が放たれ、獣が跳ぶ。何が起こっているのかほとんど見えない俺でも、一つだけわかることがある。

 

 ……あの三人が圧されてる! 完全に防戦一方だ!

 

「カカカカカ! そうら!」

 

 ドゴァ!!

 

「ぐっ!!」

 

 盾で兵藤の膝蹴りを受けたマーマデュークだが、その衝撃で息を詰まらせている。兵藤の方は特に痛がる様子がない……どころか、盾が少しへこんでる! 何で出来てんだ、あいつの身体は!?

 

重瞳弓技(ダブルピューピル・ボウ)十字架の刑場(クロススカフォールド)!!」

 

 ババババババババ!

 

 ミルドレッドが大量の矢を上へ放ち、更に通常の矢も合わせて放つ。しかも、矢は正確に味方を避けるように、兵藤だけに降り注いでる。

 

 だけど……あいつ、これっぽちも気にしてねえ! あれだけの弓に加えて、マーマデュークと美剛の同時攻撃も難なく捌いて、逆に自分の攻撃を叩き込んでやがる!

 

 嘘だろ……兵藤ってここまで強いのかよ!? てか出鱈目すぎだろ!

 

 ――いや、幾らなんでもこれで生身なんてあり得るのか? そんな疑問にまかせて、俺は榊さんへ声をかける。

 

「あ、あのさ、榊さん……今、兵藤って、どんな魔力を扱ってるの? 分身は分かるんだけど……身体強化とか、そんなの?」

「魔力なんぞ使っていない」

「じゃあ、魔法? そういや、魔導書があれば……」

「魔法も使っていない。あの分身は残像と気当たりによる、極めて高度な武術の技だ。覇気もチャクラも火事場のクソ力も――およそ異能と呼べる類の力は一切用いていない。鍛え上げた力と技、気の運用。そして規格外の心の強さ。それだけだ」

 

 ……ッ。

 

 マジか……しかも、これで昔より弱くなってる!? 化け物どころの騒ぎじゃねえ!!

 

「お前……あいつを誰だと思ってる? あの馬鹿は……才無き凡人にして努力を積み続け、遂には神を超えた最強の達人だ。特A級の達人だろうが、そうそう遅れを取るわけがないだろう」

 

 呆れたようにため息をついた榊さんは、未だ猛烈な勢いで攻め続ける兵藤へ、見惚れるような視線を向けた。だけど、それに嫉妬を覚えるような余裕は、俺にはなかった。

 

「ねじり貫手ぇ!!」

 

 ズギャァッッ!

 

 甲高い破壊音を立てて、マーマデュークの盾を兵藤の手刀が貫通する。しかしマーマデューク本人はギリギリで身をかわし、盾を捻り上げて貫通した右腕を絡めとる形で、兵藤の動きを封じる。戦いが始まってから初めて見せたと言っていい隙に兵藤も焦りの表情を見せ、すかさず他の二人がそこをついた。

 

重瞳弓技(ダブルピューピル・ボウ)リトゥンヘッジホッグ(ハリネズミののたうち)!!」

 

 ズシャァァァァァァ!

 

 無数の矢が兵藤の全身至る所を刺し貫き……。

 

猛虎龍却蹴拳絶(もうこりゅうきゃくしゅうけんぜつ)!!」

 

 ゴドガァァァァァァァァ!!

 

 複数に分身したメイガンの猛烈なラッシュが、追い打ちをかける。血反吐を吐いて圧力を微かに弱めた兵藤を、マーマデュークがトドメとばかりに斧の先端の槍でついて……。

 

 バギャァッ!

 

「!?」

 

 ――盾を引き裂いて自由を取り戻した右腕の人差し指と中指に挟まれた。

 

 獰猛な笑みを浮かべた兵藤は、とてつもなく楽しそうに笑いながら言った。

 

「――つーかまーえた」

 

 ズガァァァァァァ!!

 

 突風が襲ったかと思えば、一瞬にして三人が大きく吹き飛ばされている。

 

 最も早く体勢を立て直したミルドレッドは、自分へ向かって飛び上がった兵藤へ矢を放つが、その頭上に飛んだ兵藤は矢を巻き込むように手足を動かした。

 

渦を巻く落雷(プサラン・ハリリンタル)!」

 

 ドガゴシャァァァァァァ!!

 

 凄惨な音と共に竜巻のような攻撃を受けたミルドレッドが倒れ伏すと同時に、兵藤の背後からメイガンが、左手側からマーマデュークが襲いかかる。

 

 スルルッ。

 

 しかし、なぜだか兵藤はどちらへ向こうともせず、踊るように手を動かすだけ……だが、二人は急に後ろへ飛び退く。追うように兵藤がメイガンへ近づくと、今度はメイガンが地面へ飛び込むように背中から激突した。

 

「ガハッ!」

 

 そこへ、兵藤は鳩尾目掛けて体ごと手を振り回すように掌を叩きつける。

 

「烏龍盤打!」

 

 ドガァァァッッ!!

 

「――ゴブッ」

 

 大量の血を吐いて意識を失ったメイガンから離れると、兵藤は身体中に突き刺さった矢を引き抜きながら、盾を捨てて斧を両手で構えるマーマデュークへ近づいていく。

 

「随分コンビネーションを練ってきたじゃないか。お前が防御を一任し、他の二人が攻撃に専念して隙を作らず攻めきる戦法は中々だった。だが……わざと作った隙と、焦った演技に盾役のお前が攻めに転じたのは早計だったな。例え罠でも、反撃に出る前に潰せばいいと踏んだんだろうが……それは少し甘過ぎる」

 

 兵藤の指摘に一切答えず、マーマデュークは斧を構える。対する兵藤は片手を上に、もう片手を下にする格好した格好で、表情を引き締めた。

 

「多少身体が衰えようが、膨大な修行で磨き上げた技量と気、そして心がある限り……そうやすやすとは負けらんねぇんだよ。……とはいえ、お前たちは立派だった。その実力に敬意を表して、とっておきを一つ見せてやる」

 

 そう言った途端、兵藤の圧力が大きく下がる。いや、むしろ無くなったとさえ言っていいくらいの落差だ。

 

 だけど、次の瞬間……。

 

 ボッッッッッ!!!!

 

「ッ!!??」

 

 ――混乱のまま、意識が遠のくところだった。気がついて周りを見れば、生徒会のメンバーは何人か気を失っている。俺は偶々耐えられた様だった。

 

 もう一度兵藤を見れば……あいつの周りが、まるで陽炎のように歪んで見える。爆発の勢いのまま燃え盛る炎、とでも形容できそうな熱の塊と化した兵藤は、視線の先の相手へと語る。

 

猛炎征壊圏(もうえんせいかいけん)……本能と感情のリミッターを更に奥まで外す、動の気の到達点の一つ。気をつけろよ、こうなった俺の拳は、死んだほうが絶対マシなくらい痛いぞ」

 

 物騒どころじゃない宣言に、マーマデュークは……なんだか、鎧のあちこちをいじっている。すると……。

 

 ドガシャアアアアアアアン!

 

 轟音と共に、鎧の前面が剥がれ……ええええええええええええええええええええええええええ!?

 

「お、おっぱ……」

 

 見たままな感想が口から出そうになるが、慌てて口を塞ぐ。そりゃぁ驚くだろ。だって……鎧の下から出てきたのは、ボン、キュ、ボンの見本のような豊満ボディ!! 一見色気の無い下着はよく見ればところどころにファンタジー風味なエロスが垣間見えて……つーかちょっと待ておい!

 

 さっき兵藤、ミルドレッドとマーマデュークの二人を身包み剥いだとか言ってたよな!? てことは……うおおおおおおおおおおおおお、兵藤てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! お前は、お前ってやつはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 心中において嫉妬に叫ぶ間にも、マーマデュークは次々に鎧を脱いで……遂には兜まで放り捨てた。

 

 現れたのは、碧眼も凛々しい精悍な顔立ちと、結い上げた金髪が特徴的な美女。微かに口の端しを曲げた美女が、一直線に兵藤へ迫りながらそっと呟く。

 

「……心刃合練斬」

 

 キィィィィ。

 

 途端、まるで斧とマーマデュークが白い輝きに包まれ、一体化したように見える。対する兵藤も、拳を握りしめた。

 

「ナムサァァァァァァァァァァァァァァン!!」

 

 ズドァァァァァァァァァァァァァッ!!

 

 二人が交差した直後、マーマデュークが大きく吹き飛ばされ、数回バウンドしながら地面へ寝そべった。対する兵藤は頬に付いた一筋の傷――最後にマーマデュークがつけた爪痕から垂れる血を舐めとって、一切の闘気も圧力も消し去ると、気を抜いた顔で一言……。

 

「――本当に、達人ってのは楽じゃないな。それとマーマデューク……相変わらずのいいおっぱいをありがとう」

 

 …………今日は色々と思い知らされたけど、改めてはっきりしたこともある。

 

 兵藤は……理不尽なくらい強いけど、それ以上にスケベで馬鹿だ。

 

 

 

 

 

 その後、応急処置して叩き起こされたマーマデュークさん達と改めて自己紹介をしつつ皆で兵藤の飯を食ったんだけど、もう美味すぎるってくらい美味かった。いつかに食べた、あのバロバイソンとかいうやつの肉にも負けてない。

 

 しかもその後、軽い腹ごなしとか言ってオカ研メンバーをボコリだしたり……なんであんな楽しそうな笑顔ができるんだ。

 

 なんていうか……本当に兵藤は複雑だけど、一つだけ確信したことがある。

 

 修行の中でオカ研メンバーを褒める時や、自分が作った料理を美味そうに食べる皆を眺めてた時に浮かべてたあいつの笑顔は――とてもカッコ良かった。




 ちなみに、イッセーは再生能力のオンオフが自由にききます。今回の決闘はオフにしてました。
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