ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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 何とお気に入りが千の大台に……嬉しい限りです。読んでもらえる喜びを噛み締めつつ、この先を描いていこうと頑張ります!


Life.85 俺、イカれてますか?

 氷美神とアーシアとゼノヴィアを伴って朝のホームルーム前の教室へ到着するなり、松田が急接近する。

 

「イッセ――」

「遅い」

 

 右拳を振りかぶろうとした松田の左側の肋骨の一番上を手刀で軽く叩くと、ハゲは脇腹を抑えてうずくまった。それを見て、すかさず元浜が駆け寄り、肩を貸す。

 

「くぅぅぅぅ……ちくしょう! こんな腹黒モテモテ野郎に、一矢報いることすら出来ないだなんて、俺は……自分が情けない!」

「松田ぁぁぁぁぁぁ!! 恥じる必要はないっ! 悪いのはイッセーだ! 諸悪の根源はあの変態鬼畜……敵わないと理解しつつも立ち向かったお前を、俺は心から尊敬する!! ほら、お前が見たがってた最新号のエロ雑誌だ! これで涙を希望に変えろ!」

「元浜ッ!! 友よ!」

「友よ!」

「……それで、今回はどうしたんだよ」

 

 呆れつつも一応は訊いてやると、二人は顔を詰め寄らせてくる。

 

「イッセー……今度はお前、この間五人ぐらいの美人なお姉さま方と集団デートしてたと聞いたぞ!!」

「トボけたって無駄だ! 見たってやつが学園中にゴロゴロいるんだからなぁ!」

 

 ああ、それはあれだ。決闘の次の日、美剛が街を見てまわりたいと言い出して、マーマデュークとミルドレッドもそれに乗っかって、更に女の勘が働いたとか言って現れたレクナと妲己も混ぜて、計六人で街中歩きまわった時のことだ。

 

 まあ、ゲーセンにショッピングにカラオケに行きつけのレストランと、割りとデートの王道を回ってたけど……あと、最後に全員揃って血を吸った。レクナと妲己はせがまれて最高レベルで吸った結果、物凄い蕩けたアヘ顔になったりして……うん、楽しかったですよ?

 

「おいこらてめぇ! 今絶対目を逸らしただろう! しかもエロいこと考えてた顔だったぞ!」

 

 掴みかかってくる松田へ曖昧に笑いながら、どうにかお茶を濁そうとする。

 

「いや、えーとうん。単にエロ本の内容を思い出しただけだよ、そう」

「お前というやつは……中学の頃から異様に美人と一緒にいる話は耳にしていたが、やはり裏では酒池肉林に溺れてたんだな!? そんでもって、腹の底じゃ俺たちの事を笑ってやがったんだな!?」

 

 元浜が血涙を流さんばかりの勢いで詰め寄るが、その物言いには流石に反論する。つうか少しは友達を信じろよ!

 

「見損なうな! 笑うなら正面切って盛大に笑ってやるわ!」

「「ふざけんな!」」

本気(マジ)だ馬鹿野郎共が!」

 

 組付こうとする二人の頭を両脇にかかえて拘束しつつ、懲りない連中にため息をつく。

 

 だけどまあ、こうして悪友と騒ぐのも、平和ならではだよな。

 

「そういやイッセー。今年の夏休みはどうするんだ? また何処かへ住み込みでバイトしにいくのか?」

 

 肘をタップした二人を放してやると、松田がそう言う。

 

 夏休みか……去年と一昨年は冥界のアガレス領でシーグ専属の執事をやってたけど……一応、来年もどうかとは誘われてるんだよな。

 

 けどまあ、今年はかなり新しい力も得たことだし、神さんの手で何処かの死地へ放り込まれる可能性も十分ある。

 

「うーん……色々と予定が入る可能性がかなり高いし、まだ未定かな」

「そっか。じゃあ、何もなかったら声かけろよ。海やプールへナンパしに行こうぜ!」

「そうとも……今年こそ小粋な彼女を作って、夏をエロエロ体験!! そして童貞脱出だぁぁぁぁぁ!」

「「「おーーーッッッ!!!」」」

 

 とは言うものの、俺の場合童貞脱出どころか今現在は貞操を死守せねばならない現実……少なくとも、充実した学生生活を送りたければ大学進学くらいはなさねばならない。

 

 そんな空気をおくびにも出さず、チャイムに合わせて席に着くと同時に、小さなため息を吐いた。

 

 

 

 

 

「……なんて呑気にかまえていられたあの頃が懐かしい」

 

 左手に龍一文字を携えて、神さん手製の空間模型(モデル・ルーム)内の暗い洞窟を歩く中、ほんの数時間前を振り返って最近とんと回数を増やしたため息をつく俺でした。

 

 つうか、今回の神さんはやけに強引かつアグレッシヴだったな……放課後直後に超光速で捕らえに来たもんな。上中下、前後左右、三百六十度は躱せた筈だったのに、まさか空間ごと投げ飛ばされるだなんて。まだまだ師匠には敵わないな。

 

 ボウ。

 

 開けた場所へ辿り着いた途端、周囲の蝋燭に自然と火が灯る。洞窟の最奥に辿り着いた俺を待ちわびていたのは、着物姿に紅い眼を輝かせる長髪の男性――椎名狂だ。

 

「……ようやく来やがったか。神にしては連れてくるのが遅かったな」

「一応、最速だったとは思うんですけどね。要点と理由だけ伝えられて詳しい事情は直接聞けと即座に送り出されましたし」

 

 壁に背を預け、キセルの煙とともに吐き出す文句へ返事を返すと、俺も歩く最中ずっと気になっていた事を訊いてみる。

 

「にしても、狂さんがわざわざ自分から俺に修行をつけようだなんて、どうしたんですか?」

 

 すると、キセルを仕舞いこんだ狂さんは傍に立てかけていた五尺の大太刀――村正を手に取り、一層輝きを強めた紅い眼で俺を睨みながら、近づいてきた。かつては鬼眼と評された、鮮烈ながらも優しさを秘めた紅い眼に呼応するかのように、俺も万華鏡写輪眼を発現させる。

 

「イッセー……お前、その写輪眼……赤じゃない、紅い眼は出せるか?」

「紅い眼……? それって、狂さんみたいな眼ってことですか?」

「いいからやってみろ。俺の考えが正しけりゃ、出来るはずだ」

 

 言われるがまま……一度目蓋を閉じて写輪眼を解き、狂さんの眼をイメージする。一つとなった龍一文字をゆっくりと引き抜き、横に構えた刀身に映しだされた瞳の色は……鮮血のような紅。勾玉を備えていない、目の前の侍と全く同じ紅い瞳だ。……そういえば、ホムンクルスの工場で見たライリの眼もこんな色を……。

 

「――無明神風流、みずち」

 

 ブワァァァァァァァァァ!

 

 !!!

 

 突如炸裂した剣気に刀を構えると、刀を振るった狂さんから心地いい風が吹き出され、大気となって俺の全身を飲み込む。そして――。

 

 ズシャアアアアアアアアアアアアア!!

 

「ぐぁッ!!」

 

 致命傷こそ避けたが、全身の至る所が切り刻まれ、一歩後ずさる。紅い眼を維持したまま前を見ると、既に狂さんは全力の姿……眼球全体が紅く染まった、本人曰く真の紅い眼を晒していた。

 

 桁違いの殺気と気当たりが洞窟全体に吹き荒れ、全身にビリビリと衝撃が響き渡る。

 

「――イッセー。こんな感じで、お前に無明神風流の全ての技を叩き込み、心技体に真の無明神風流を焼き付ける。そしたら、今度はテメエが俺様に対して無明神風流をぶちかませ。んで、完全に習得できるまでそれを繰り返す。どうだ、馬鹿のお前でも理解できるほどすげえ単純だろ?」

 

 ――成る程、確かに単純明快だ。要は出来なきゃ死ねってことですね。わかります。

 

 ……俺が知るかぎり、恐らくこの人に剣で拮抗できる存在は片手程もいない。紛れも無い剣士の頂点たる超人級にして、真の壬生一族最後の生き残り。そんな桁違いの存在の必殺剣をたらふく喰らって、なおも完全な無明神風流が出来なければ再度必殺の連発を喰らって、また再現の繰り返し。

 

 心技体を極め尽くした先に手にできるという、無明神風流。最強の侍が放つ最高の奥義をこの身に受けられて、その全てを物に出来る機会が、今ここに……ははは。

 

「ははははは……はははははははははははっ」

 

 やべぇ……なんて……怖くてピンチな、嬉し楽しい大チャンスだ!!!

 

 チャキ!

 

 沸き立つ心身を押さえつけるように刀を正眼に構える俺を見て、狂さんもまた愉快げに口元を歪めた。

 

「ふん。早速やる気満々だな。やっぱりお前は根っからの侍。命のやりとりに心底燃えちまうどうしようもねえ馬鹿野郎だな。それじゃあ――」

「ええ、いざ尋常に――」

「「掛かって来いやぁ!!!」」

 

 

 

 

 

 ガチャ。

 

 夜を迎え、部室に入ると、既に僕とイッセー君を除いて、アザゼル先生も含めた皆が揃っていた。デスクで書類を整理していた部長が、僕を見て微笑みかけてくれる。

 

「あら、祐斗。貴方が最後だなんて珍しいわね」

「え。最後って、イッセー君は?」

「最後の授業が終わった途端、目にも留まらぬ速さで兄さんに拉致られてったから、恐らく修行だろ」

「「……主よ。どうか彼を修行からお守りください」」

 

 ソファに座ってカップアイスを楽しむ氷美神さんは事も無げに言うが、両隣でアーシアさんとゼノヴィアは必死に祈っていた。

 

 ……早速祈りをささげてるのはいいとしても、内容は何だか随分……でもないか。

 

 何故なら、僕らは散々イッセー君の手で断崖絶壁から飛び降りるより遥かに危険で恐ろしい修行を受けている身で、氷美神さんの義兄である榊神さんは、そのイッセー君を鍛え上げた僕らにとっての大師匠だ。神さんが課する修行の内容は知れずとも、想像を絶する苦行だというのは目に見えている。

 

 それを思うと、既に信仰を手放した僕でさえ今だけは祈りたい気持ちになった。とりあえず、四大魔王様に祈っておこうか。

 

 イッセー君。どうかせめて原型は留めて帰ってきてくれ。

 

 独白もそこそこに、僕はソファに座って、鞄から取り出したイッセー君おすすめのドラグ・ソボールを読み始める。単純明快ながら深いこのバトル漫画、最初はイッセー君に借りたんだけど、気がつけば自分で衝動買いしてしまったくらいだ。

 

「にしても、今月のイッセーは凄いわね……」

 

 感心と呆れがないまぜになった部長の言葉に、アザゼル先生が部長のデスクに近づき、手元に置かれた書類を覗きこんだ。

 

「ほお、グレモリー眷属の悪魔契約か? どれどれ……うわっ。確かにスゲェな。ほぼブッチギリじゃねえか」

「成立した内容はほとんど決闘だけどね。相当な対価が必要だというのに、挑戦者が後を絶たないのが驚きだわ」

「まあ、どんな大金や希少な品だろうと、世界最強の達人と戦えるってんなら、武芸者にとっちゃ惜しくもないだろう。しかも超神帝皇の無礼者や無法者への容赦の無さは、最早伝説だからな。最低限の命と心の保証があるなら、誰だってそっちを選ぶわな」

 

 そういえば……一度だけ、一人で登校してたイッセー君と通学路でばったりあった時に、無数の襲撃者が襲ってきたんだけど……一瞬イッセー君が掻き消えたかと思えば、次の瞬間には全員見るも無残な姿になってたっけ。その後、茂みに全員を引っ張りこんでこの世のものとは思えない音が巻き起こった後、一人で出てきたイッセー君は両手に付着した大量の血液を錬金術で分解しながら晴れ晴れとした笑顔で……。

 

『なんだ、待ってたのか。ならもう少し手短に殺ったのに、悪かったな』

 

 思わず天を仰ぎそうになった僕は、たった一つのシンプルな言葉を胸に浮かべて安堵に胸をなでおろす。

 

 ――彼が敵にならなくて、心底良かった。畏怖と言うのも生温い程、純粋にそう思えた。

 

「兄さんの弟子を長年やっていれば、誰だってそのくらいは壊れるさ。むしろあれ程度で済んでる時点で、イッセーは十分イカレてるぞ。弟子入りの時だってあんな目にあってまで、本当によくもまあ……」

 

 アイスを食べながらも、氷美神さんは薄っすらと涙すら浮かべている。僕らの師匠は、一体どんな地獄を歩んできたんだろうか。

 

 そんな彼女へアーシアさんはハンカチを差し出しながら背中をなでつつ、恐る恐る聞いた。

 

「あんな目って……主にどんな事があったんですか?」

「……聞きたいのか?」

 

 受け取ったハンカチで目元を拭った氷美神さんの言葉に、部室のほぼ全員が頷いた。本人がいない所で聞くと後ろめたい感じはするけれど、イッセー君は基本的に自分の武勇伝とかを話されるのを恥ずかしいのか嫌がる所があるから……悪評や罵声、罵倒にはあれだけ耐性があるのに、本当に変な所でアンバランスなんだよね。

 

 しかし、ハンカチを片手にする氷美神さんは、テーブルに置かれたカップアイスの残りを一気に頬張って、やたらと重い忠告を齎す。

 

「……ほぼ間違いなくひくけどいいな?」

 

 ……元々目つきの鋭い氷美神さんが物凄い真剣な顔でそう言うと流石に怖くなってくるけど、僕らは頷いた。

 

 ため息を付きながらからになったカップを置くと、氷美神さんは腕を組んで話を始めた。

 

「二人が最初に知り合ったのは、小一の頃に俺とイッセーが初めて出会った時、イッセーが俺をはぐれ悪魔から守ってくれた後日の事だ。兄さんはイッセーを自宅に招いた上で、俺の素性や悪魔の事、そして赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)の事などを説明した後、イッセーを占った。その結果が――」

『――太極とでも言ったところか。良いことも悪いこともこれでもかと起きまくる、波瀾万丈の究極だ。うん、順当に行けば数ヶ月で死ぬな。むしろここで死んだほうがかなり幸せだろうけど……イッセー。お前、生きたいか?』

「――そこで頷いたイッセーに、兄さんは夏休みは気をつけろ、とだけ言った。そして夏休みの初日、両親と共に山へキャンプに行ったイッセーは……その日の内に遭難した。地滑りに巻き込まれ、崖から転げ落ちたらしい。しかもその山は獣避けに念入りな対策が張られた表側と、野犬の群れや熊が彷徨く裏側に分かれていて、イッセーがどっちに落ちたのかは言うまでもないだろう。

 当たり前だが警察、消防も動いて、当時は相当なニュースにもなっていた。そして一週間後……山道で倒れていたイッセーが発見された。全身のあちこちに噛み傷や引っかき傷ができていた上に、大きな傷は自分で焼いて塞いでいたという有り様だ。だが……あいつはたったの三週間と少し、夏休み明けの二日前に退院した。兄さんの処置があったとはいえ、トラウマどころか大した精神的後遺症もなく、平然と退院して……その日の夜、入院中に終わらなかった分の夏休みの宿題を写させて欲しいと俺の所へやってきた」

 

 ……何も言えなかったけど、一つだけ当時のイッセー君へ言いたいことがある。

 

 小学1年生がたった一人で山へ遭難し、野犬や熊に襲われるなか、一週間のサバイバルを果たして生還する。ドキュメンタリー番組の特番が組める内容をこなしたにも関わらず……どうして宿題なんか気にできるんだい、君は。律儀どころの騒ぎじゃないだろう。

 

「更に後で分かった話だが、イッセーが遭難した時、本当は兄さんがイッセーの様子を逐一把握していたらしい。限界を見て助けるつもりだったらしいが、イッセーが自力で表の山道まで這い出てきたので、必要なかったと笑っていたよ。それをイッセーは……ぅッ……釣られて笑っていやがった」

 

 ………………うん。なるほど。

 

 確かにひく。これはひくよ、イッセー君。

 

 色々言いたい事はあるけれど、とりあえず……なんでよりにもよって、そこで笑うんだい。氷美神さん、絶対大泣きしただろう。今だってだいぶ泣いてるし。というかこの子も結構アップダウンが激しいというか、感情と気質のメリハリが大きいよね。特に、慣れてる人の前だと場合によっては酷く涙脆くなる節がある。

 

「グス……それからも……人斬りに腕を切断されて……ヒック……今後の為とか言って兄さんに切り取られたり切り裂かれたりを繰り返して自力で縫合したり……うぇ……毒を盛られて……えぅ……耐性をつけるために散々毒を飲み込んだり……うっ……そんな無茶ばかりやってたくせに、あいつ……えぐ……あいつ、俺には平気な顔ばかり見せてて……ひっ……最近だって……ずっとぉ……ずっとそんなんばっかりでぇ……」

「……その気持ち、分かります。それがイッセーさんなりの気遣いだとは分かってますけど……少しは頼って欲しいですよね」

 

 仕切りにしゃくり上げる氷美神さんに寄り添うアーシアさんが、あやすように背中をとんとんと叩きながら肩を抱く。他の女性陣も、釣られて鎮痛な表情を取るばかりだ。

 

 ……イッセー君。確かに四凶やクロウ・クルワッハなんていう化け物に狙われる君にとって、力をつけることは急務なのかもしれないし、何か一つ欠けていたら君は部長達や僕に出会う前に死んでいたのかもしれない。だけど取り敢えず、君はもう少し自分を労るべきだよ。イッセー君は勿論、周りの皆の為にも。

 

 憎悪と復讐に任せて、身を滅ぼそうとした僕を引き止めてくれた君が、それを理解できないだなんて言わせないよ……。

 

 ガチャ。

 

「只今戻りましたぁ~」

 

 ああ、噂をすれば影ってことかな。慣れ親しんだ声に扉へ目を向けて……僕らは皆絶句した。

 

 刀を携え、バツが悪そうな表情で部室に入ってきたイッセー君の第一印象は……はっきり言って、死に体だった。

 

 錬金術で修繕したのであろう制服は身体のあちこちからの出血で凄惨な斑模様へと染め上げられ、半袖から覗ける二の腕から先もこれでもかとドクターアロエの包帯が巻きつけられ、それでも滲み出る血が緑の包帯に鮮烈なアクセントを加えてしまっている。どんなヤブだろうが素人だろうが、ひと目で絶対安静と判断できる姿で、イッセー君は気まずそうにはにかんでいる。

 

 あの、ちょっと、タイミング云々はこの際しょうが無いにしても、そこはせめて少しくらいは辛そうというか、痛そうな色を出すべきじゃないかな!? その致命的重傷でその反応は逆に怖すぎるんだけど!?

 

「いやあの、これはですね。ダメージが絶大過ぎる上に傷が深すぎて再生もかなり滞ってるだけで、最強の侍に散々奥義を食らわされた結果というか、名誉の負傷というか、勲章というべきか……けどまあ、俺も新しい技を覚えてきたわけで、あの……心配かけたみたいで、ごめんなさい」

 

 ――。

 

 イッセー君が頭を下げて一瞬、全ての音が部室から持ち去られた。そう思わされるほど大きく息を吸いこんだ氷美神さんは、冷静な美貌を大きく皺くちゃに歪めて……

 

「――ッぅッう、うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーんッッ! うぇ、うええええええええええええええええええええええええええええええええぇーーーーーーーーーーーッ!!」

 

 ……その後、朱乃さんとゼノヴィアが泣き喚く氷美神さんを一旦別室に連れ出し、その間に部長がイッセー君へ下した判決は必然有罪。背筋が寒くなる怒気と威圧感を放つアーシアさんに全身の傷を癒やされた後、イッセー君は恐る恐る僕に聞いてきた。

 

「あの、木場。俺、あそこでどう言えばよかったんだ?」

 

 どこまでも純粋に皆を気遣うばかりの彼に、僕はきっぱりと言う。

 

「まずは、傷の手当を頼むべきだったと思うよ」

 

 

 

 

 

「氷美神……あのさ」

「…………」

 

 木場の説明と部長の裁定に伴い、今夜は氷美神に付きっきりになることを決めた俺は、何度も言葉を探しては無言の怒りに口を噤んでしまっている。

 

 風呂で髪を洗う時も、夜食を食べさせてもらう時も、こうしてベッドに並んで横になっている時も、どうしてもまず謝罪を口に出そうとして、その度に氷美神の怒りを買ってしまう。背中越しにリスの如く頬をふくらませる可愛らしいジェスチャーだが、実際怒りが深い時のサインなんだ。

 

 ……よくよく考えたら、俺って昔から何かを言おうとしては氷美神を泣かせたり怒らせたりしてばっかりなんだよな。今回みたいに心配丸無視してまず気遣おうとした結果大誤爆とか、確か小四でもやらかした。

 

 あの時は確か……あ、そうだ。

 

 けれどまあ、今回は……いや、結局こうするのが一番か。

 

「氷美神――血を貰うぞ」

「……え、あ!」

 

 何かを言おうとする前に、幼馴染の肢体を後ろから抱きすくめて、乳白色の首筋を牙で突き破る。

 

「ひっく……むぅ、うぅぅぅ……」

 

 掛け毛布で口を拭って声を抑えようとする氷美神に興奮を強めながらも、気安さから来る安心感に任せて血を吸い続ける。

 

「きゃっ」

 

 牙を外して傷口を舐め回すと、氷美神の怒りは若干和らいだようだ。耳元へ口を寄せて、礼を言っておく。

 

「ごちそうさま。美味かったよ」

「……スケベ」

 

 お、ようやく口を開いてくれた。

 

「変態、野獣、鬼畜、外道、色情狂、色魔、女たらし、偏執狂、悪食、戦闘狂、阿呆、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿! この大馬鹿野郎!!」

 

 ……甘んじて受け入れざるを得まい。散々文句を言って気が晴れたのか、氷美神がごろりと身体を半回転させて、思い切り抱きついてくる。

 

 むおおお……おっぱいがフカフカのクッションとかして……最高級品質の羽毛すら足元にも及ばないナイスな感触がっ!

 

「……小四の頃、クラスで一人だけ胸が膨らみ始めてた娘がいた時……水泳の授業で、イッセーはずっとその娘ばっかり見てたよな。……俺がクロールで一位取った時も、四位だったあの娘の方を見てて……」

「うっ……いや、その節は本当にご無礼を……」

「しかも、帰り道でその事を指摘した時……お前、俺になんて言った?」

「え~……小さくたって、氷美神のおっぱいは氷美神のおっぱいだからいいんだって……」

 

 うん、その後盛大に大泣きした氷美神に全力のビンタを喰らって、買い物帰りに傍から見てた神さんに指差されて爆笑されたのは最早色んな意味で思い出になっている。

 

「あの後、ずっと胸を大きくする方法を色々試したんだ。胸を大きくして……イッセーが自分から土下座して触らせてくださいと言わせて見せるために」

 

 それはまた……俺としては嬉しい限りだな。

 

「……リアスにアーシアに朱乃にゼノヴィア、あと小猫もか? ジェリーも恐らく混ざる気満々だし、レクナと妲己は言わずもがな。マーマデューク達も怪しいと来てる……この女たらし」

「返す言葉もございません……」

 

 ふん、と鼻を鳴らした氷美神は、俺の胸に顔をうずめてくる。もう一度その身体を抱きしめると、氷美神は喜ぶように身体を揺らした。

 

「けれど、どう転んだって俺はお前から離れる気はないぞ。だからお前も、俺を絶対離すなよ?」

「……当たり前だ、バーカ」

 

 少し強めに抱きすくめる幼馴染の感触を堪能しながら、俺は眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

「おかえり。どうだった? イッセーは」

「ああ……もう随分と進んでやがる。真の覚醒もそろそろだろうな」

「そう……やっぱり彼女が?」

「間違いねえ。あの輝きは十中八九あいつだ」

「イッセーは……どれだけわかってるのかしら」

「さあな。ただひとつ言えるのは……あいつを救ってやれるのは、イッセーだけってことだけだ」




 三期のアニメは原作との変更点が多いですが、面白いと思うので色々と反映できたらと思います。

 ちなみに、イッセーは剣術の基礎を習う辺りで何度か無明神風流をぶちかまされて、ある程度は経験済みです。そこも活きた形ですね。

 実際原作においても、あんなでかいドラゴンに炎を吐き出しながら追いかけられてなお性欲を高められるイッセーの精神耐久力は計り知れません。
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