ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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Life.9 友達、救います!

 パンッ。

 

 部室内に、乾いた音が響く。目の前の部長はとても険しい顔で立っている。木場と小猫ちゃんも、目を丸くしてこっちを見ている。

 

 部長に平手打ちされた頬は痛むが、それ以上に胸が痛い。命を救ってもらって、期待してくれている部長に対して、俺は恩を仇で返してばかりだ……それでも、これだけは譲れない!

 

「何度言えば分かるの? 駄目なものはだめよ。あのシスターの救出は認められない。彼女の事は忘れなさい」

 

 あの後、一度家によって着替えた俺は、すぐに部室へ赴き、事の次第を部長に伝え、アーシアを助けたいと願ったが、却下された。

 

 そりゃそうだ。俺にとっては友達でも、悪魔にとっては敵であるシスターを助けるなんて、正気の沙汰じゃない。しかも、その為に教会に突っ込めば、大問題になる事は目に見えている。メリットはなくて、デメリットばかりが大きい。

 

 立場のある部長では、到底やれるわけがない。でも、俺は所詮、転生したての下級悪魔に過ぎない。だから……。

 

「じゃあ、俺を眷属から外して下さい。そうすりゃ、俺一人で……!」

「できる筈ないでしょう……」

 

 溜息と共に部長の口から出たその言葉から、さっき俺が説明の中で言った『堕天使を倒した』ことが嘘だと思われていることがうかがえる。

 

 けれど、それも仕方がない。魔力は子供以下、契約は取れない、堕天使やエクソシストに二度も殺されかけて、主や仲間の手を焼かせる。幾ら神滅具(ロンギヌス)の持ち主とは言え、こんなんじゃ、到底強いとは思えないだろう……。

 

 でも、引くわけにはいかない。それだけは受け入れられない。

 

「俺ってチェスの兵士(ポーン)なんでしょ? 兵士の一つくらい捨てたって……!」

 

 感情のままに叫びそうになる俺を、部長が強く睨みつける。

 

「お黙りなさい!!」

 

 初めて聞く、部長の本気の怒鳴り声。あまりの迫力と剣幕に、気圧されてしまった俺は、続く言葉を飲み込んだ。部長は一瞬俯くと、冷静さを取り戻した顔で語り始める。

 

「イッセー。あなたは兵士を、一番弱い駒だと思っているのね。そうでしょう?」

 

 問われて、俺は静かに頷く。

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は実際の駒と同じ特徴を持つ。そして、兵士の特徴は――プロモーション」

 

 プロモーション……って、確か……。

 

「敵陣地の最深部に到達したとき、兵士は王(キング)以外の他の駒に昇格できるのよ」

「俺が、騎士(ナイト)戦車(ルーク)女王(クイーン)にもなれるってことですか……」

「主である私が、そこを敵陣地と認めればね。もしくは、私が許可を出せば……」

 

 部長は、引き締めていた表情を和らげて、蕾が綻ぶように笑うと、俺の頬に手を当てた。綺麗な笑みに、強張っていた身体と心が和らいでいく……。

 

「あなたは、私の大切な兵士よ……捨てたりなんてしないわ。あなたは絶対に強くなれる。きっと期待に応えてくれると、そう信じているもの」

 

 部長……!! そこまで期待されるなんて……下僕冥利に尽きます!

 

 部長がすっと身を引くと、いつの間にか室内にいた朱乃さんが、部長に何かを耳打ちする。すると、部長は小さく頷いて……

 

「急用ができたわ。私と朱乃は少し出ます」

 

 朱乃さんと共に歩いていく。

 

「部長! まだ話は……」

「いいこと? プロモーションを使ったとしても、駒一つで勝てるほど、堕天使は甘くは無いわよ」

 

 それを最後に、二人は魔方陣でどこかへ飛んだ。

 ……とりあえず、強引に引きとめられなかっただけマシだな。それじゃ、行くか!

 

「兵藤くん」

 

 部屋から出て行こうとすると、木場に呼び止められた。

 

「行くのかい?」

「行く。当たり前だ。アーシアとは今日、友達になった。友達を助けないなんて選択肢、俺にはない」

「殺されるよ? 相手はエクソシストの集団と、堕天使だ。幾ら強力な神器を持っていたとしても、一人で全てを相手にはできない」

「かもな」

 

 良くてもボロボロか、瀕死だろう。

 死ぬ気なんざ毛頭ねえ。けど、死ぬことも大いにありえる。でも、それがなんだ。

 

「それでも行く。何がどうなろうが、アーシアだけは逃がして見せる」

「無謀だね」

「分かってるさ。友達として、死んだらせめて笑ってやってくれ」

「それは無理だね――僕も行くから」

「なっ……」

 

 おどけてそのまま行こうとするが、木場がとんでもない事を言いやがったから、思わず振り返っちまった。

 何言ってんだコイツ、と思ったけど、木場は既に剣を携えて、戦闘準備完了といった感じだ。

 

「部長は君に、プロモーションを使っても駒一つでは勝てない、といっただろう? つまり、部長は教会を、敵陣地と認めたって事さ。同時に、僕らで君を手助けしろってことでもある」

 

 そう言う事か! 部長……本当に、何から何まで……!! このご恩は、今後の働きで絶対に返して見せます!

 

「私も行きます」

 

 それまで無言でおやつを食べていた小猫ちゃんが、指を舐めながら前に出てくる。

 

「小猫ちゃん……」

「二人だけでは不安ですから」

 

 小猫ちゃぁぁぁぁぁん! 絶対に俺、嫌われてるだけだと思っていたのに! それと、指を舐めるしぐさが滅茶苦茶可愛いです! ごちそうさま!!

 

「ありがとう、小猫ちゃん! 俺……俺、猛烈に感動してるよ!」

「あ、あれ? 僕も一緒に行くんだけど……」

 

 俺が感無量になって叫ぶと、木場が困った感じでひきつった笑みをぶら下げていた。

 わかってるって、木場。お前にも感謝してるさ。

 よし……それじゃ、今度こそ行くか!

 

 

 

 俺たちは、例の教会まで移動してきた。

 辺りはとっくに夜の帳が落ちていて、いまは少し離れた茂みから入口の様子を窺ってるけど……。

 

「かなりの殺気だな。気配も多い」

 

 自分で言って、全身から嫌な汗が浮き出してしまう。手ごわい感じのは精々二つくらい。多分、あのイカレ神父と、ゆ……堕天使レイナーレだろう。

 

「本当に恩にきるぜ、二人とも」

 

 流石にこの数相手に暴れまわるのは、長続きしないからな……今の俺って、体力とか諸々の事情で、あんまり長く戦えないし。

 俺が礼を言うと、木場はまたしても爽やかなスマイルを向けてきた。小猫ちゃんは、一心不乱に教会の扉を睨んでいる。

 

「だって、仲間じゃないか。僕はアーシアさんをよく知らないけれど、キミは僕の仲間だ。それに、教会や神父は個人的にも好きじゃないんだ。憎いほどにね……」

 

 地面に視線を落とす木場の目は、かなりの憎悪に染まっていた。いっそ、危険といっても良いほどだ。殺気の量だけなら、あの変態神父にも匹敵する。

 

 ……こいつもこいつで、背負ってるものがあるんだろうな。木場は俺を仲間と呼んでくれたけど、仲間なら、その内その中身を知ることができるだろうか。出来れば、この借りはその負担を減らす事で返してやりたい。それが、仲間だろ。

 

 木場は目を閉じると、ふぅっと息を吐いて、気持ちを落ち着かせる。次に目を開いた時、その瞳からあのドス黒い感情は消えていた。

 

「さて、それはともかく、これが教会の見取り図だけど……」

 

 木場が懐から見取り図を出そうとするが、俺はそれを手で制止すると、まっすぐに教会の扉の前へ歩く。

 

「こういう時、堕天使やはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)がやる事なんて決まってる。聖堂の地下の、祭壇だか空間だかで、怪しい儀式をするって、相場が決まってんだよな!」

 

 左手に赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)を顕現させて、湧きあがる戦意のままに起動させる。

 

『Boost!』

 

 宝玉が緑の光を発して叫ぶと、二人も慌てた様に出てくる。

 

「でもって、敵もとっくに俺たちが来る事になんて気がついてんだろ。なら……小細工はいらねぇぇぇっ!!」

『Boost!』

 

 二度目の強化と共に、覇気を込めた左ストレートで、扉をぶっ壊す!

 

 バガァァァン!

 

 砕け散った扉の木片を踏みつけて中へ進む俺の後ろから、二人の呆れ声が聞こえてくるようだ。

 

「やれやれ……状況判断としては正しいんだろうけど、随分派手だね」

「……ストレス発散?」

 

 後ろを振り向いて、右手でぐっと親指を立てる。小猫ちゃん、大正解だ!

 すると、小猫ちゃんは同じように親指をぐっと立てる。表情が乏しい割に案外ノリが良いよな、この子。

 

 中を見回してみると、長椅子と祭壇。内部を照らす灯りと、案外まともな感じだ。……俺がぶっ壊した扉と、十字架、聖人の石像といったものが、軒並み打ち壊されていることを除けば、な。

 

 パチパチパチパチ。

 

 不気味な聖堂内に響く、軽い拍手の音。そして、俺達の前に姿を現したのは……

 

「やあやあやあ。再会だね~感動的ですね~」

 

 あのクソ神父! 名前は確か……

 

「フリード!!」

 

 ヤロウは、まるで一般的な神父が説法をする時の様に両手を広げる。

 

「俺としては二度会う悪魔はいないって思ってたんスよぉ。ほら俺、めちゃくちゃ強いんでぇ……一度会ったら即これよ……でしたからねぇ!」

 

 首に手刀を当ててスッと引く仕草。んなもん知るか!

 

「……だからさ、むかつくわけよ。俺に恥かかせたテメエらクソ悪魔のクズどもがよぉぉ!!」

 

 フリードは銃を舌でなめると、憎悪をむき出しにしてきた。

 

「アーシアはどこだ!!」

「あぁ~あ。悪魔に魅入られたクソシスターなら、この祭壇から通じてる地下の祭儀場におりますですぅ。ま、行けたらだけどね!」

 

 俺は構えをとって、木場も剣を抜く。そして小猫ちゃんは……て、マジですか!

 

 ゴゴゴ……。

 

 自分の何倍もの大きさの長椅子を、持ち上げていた……。相変わらず、見た目に合わないパワフルっぷりで!

 

「潰れて……」

 

 ブゥン!

 

 小猫ちゃんは椅子を神父目がけて投げつける。

 が、フリードは光の剣を縦に振ると、それを難なく両断する。

 

「しゃらくせぇんだよ、チビ!」

「……チビ?」

 

 小猫ちゃんは眉を僅かに動かすと、更に椅子をバンバン投げる。いやいやいや、もう少し冷静になろう!

 向こうも向こうで、それを難なくよけながら、銃を撃ってくる。そんな中、木場が大きく飛んで、神父に斬りかかる。

 

 ギィン! ギィン! ギィィン!!

 

「めんどくせぇ、邪魔くせぇ、しゃらくせぇっての!」

 

 激しく剣を打ち鳴らしあい、遂にはつばぜり合いになる。やっぱりこいつ、強い! 俺が見てきたはぐれエクソシストの中でも、最強かもしれない!

 

「なかなかやるね、君」

「アンタもサイコー! 本気でぶっ殺したくなるよ……」

 

 至近距離から、祓魔弾が放たれる。が、木場はバック宙で後ろへ引くと、剣を構えた。

 まったく、イケメンは腕っ節もあるってか!

 

「じゃあ、僕も少しだけ本気を出そうかな」

 

 木場がそう言うと、構えられた剣の刀身が、黒く染まっていく! いや、アレは闇! 剣が闇に包まれてる! いいや、剣そのものが闇と化しているんだ!

 再び鍔迫り合いになる二人。しかし、フリードの光の剣は木場の闇の剣に浸食され、どんどん消えていく。

 

「な、なんだよ、こりゃ!」

「『光喰剣(ホーリー・イレイザー)』、光を喰らう闇の剣さ」

「て、てめぇも神器持ちか!?」

 

 木場も神器(セイクリッド-・ギア)を!? ただでさえイケメンで性格抜群だってのに、剣の腕が立って、剣の神器持ちって! あいつはどこまで恵まれてるんだ!!

 刀身が消滅する寸前、追撃する木場の一閃をかわし、後ろへ飛ぶ神父。今だ!

 

『Boost!』

 

 三度目の強化と共に、クソ神父目がけてかけ出すが、向こうも当然気がつく!

 

「だから、しゃらくせぇっつの!!」

 

 光の弾丸が撃ちだされた瞬間、俺は叫ぶ。

 

「プロモーション!! 戦車!!」

 

 その特性は、有り得ない防御力と!

 

 目の前に発生する魔方陣によって、光の弾丸が全て弾かれる。その光景に、狂気を伴った笑みを浮かべていた神父は、一瞬真顔になって……。

 

「マジですか?」

 

 と呟いた。

 

 本気(マジ)ですとも!!

 

「馬鹿げた攻撃力ぅ!!」

『Burst!!』

 

 ひたすらに、力を込めた左の拳で、野郎の顔面を捉える! だが、同時に硬い感触も感じられる。銃か柄を盾にしやがったのか!?

 だが、かまわねぇぇぇぇ! そのまま、全力で拳を振り抜く!!

 大きく吹っ飛んだ奴は、一回床でバウンドして、そのまま壁に叩きつけられた。

 

「アーシアに酷ぇことしやがって! 少しすっきりしたぜ!」

 

 しかし、神父はよろよろと立ち上がると、ボロボロになった柄と銃を捨てる。あの一瞬で、両方とも盾にしたのか……。やっぱり、言うだけはあるな。

 そして、懐から二つの柄を取り出して、二刀流になった。

 

「ざっけんな……ざけんなよ、クソがぁぁぁぁぁ!! ――痛~い!」

 

 飛びあがる神父だが、再び小猫ちゃんが投げた長椅子に、今度こそぶち当たった。

 倒れる神父に止めを刺そうと木場が詰め寄るが、やつはあっさりとかわして、後方に飛んだ。

 

「俺的に! 悪魔に殺されんのだけは勘弁なのよねぇ!! てなわけで――はい、チャラバ!」

 

 なんて台詞と共に、フリードが懐から取り出した何かを床にたたきつけると、視界が真っ白に染まる。

 目が元に戻った時には、とっくに神父の姿は無かった。

 

「逃げやがったか!」

 

 最後の最後まで、ふざけ通した野郎だ! ……でも、さっきの攻防といい、退くタイミングといい、間違いなく強敵だった。これ以上時間を浪費するよりは、むしろよかったのかもしれない。

 

 今はそんなことよりも、アーシアだ!

 見れば、既に小猫ちゃんが祭壇を吹っ飛ばして、隠し階段を見つけている。俺たちは、階段へと駆け込み、勢いのままに駆け下りていく。

 

 地下まで下りると、奥へと続く一本道が現れた。途中に幾つかの扉があるけど、ここからは何の気配も感じない。

 俺が先頭に立って、三人で一本道をひたすら走る。そして、奥に見えた大きな扉がひとりでに開き、飛びこむようにして中に入る。

 

「いらっしゃい。悪魔のみなさん。遅かったわね」

 

 堕天使――レイナーレが、奥の階段の上の十字架の傍で佇んでいる。その下には、大勢のエクソシストが群がっている。そして、奥の十字架に、アーシアが磔にされている!

 

「アーシアァ!!」

 

 反射的に叫ぶと、アーシアは顔を上げて、目を開いた。

 

「イッセーさん……?」

 

 声は弱ってるが、確かに俺の名前を呼んでくれる。

 よかった……まだ、無事だったんだ……。

 

「感動の対面だけど、残念ね。もう儀式は終わる所なの」

 

 ……なに!?

 

「……あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 十字架が不気味な緑の光を発し、アーシアが苦しみに叫ぶ! あれは……まさか!?

 

「神器を奪うつもりか!?」

 

 神さんから聞かされたことがある。他人の神器を持ち主から離して、別の奴に移植する術があると。

 

 でも、無事に神器を引きはがせるのは、あくまで本人の同意と協力があって、極めて周到に準備した場合だけとも言われた。強引に奪ったりすれば、それこそ持ち主が……!

 

「アーシア!!」

 

 駆けだそうとする俺の手を、誰かが引っ張る。木場だ。

 

「兵藤君!」

 

 ほぼ同時に、俺達の目の前で光の槍が弾ける。俺たちは後ろに吹っ飛ばされると、岩壁に背中を強打する。

 

「ふふ、もう遅いわよ。あと少しなのだから、おとなしくしててちょうだい」 

 

 直後、十字架の光が止まり、アーシアの身体から、回復の波動に似た緑色の光が飛び出す。

 遠くから見えるその瞳からは、ほんの少しの涙が流れ、光が、失われる。

 

聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)……遂に私の手に!! これこそ私が長年求め続けた力! これさえあれば私は愛を……戴ける!」

 

 堕天使は狂喜に満ちた様子でその光を手に取り、抱きしめた。次の瞬間、地下の広い空間が緑色の光に照らされる。そして、光が止むと、堕天使は緑色の光を纏っていた。

 

「アハハハハ! 遂に、至高の力を手に入れた! これで私は至高の堕天使になれる! 私を馬鹿にしてきた者達を見返す事が出来るわ!」

 

 高笑いする堕天使の言葉に、一気に感情が沸点を超えた俺は、気がつけば走りだしていた。

 

 至高の堕天使? 馬鹿にしてきた奴らを見返す? そんな下らねぇ事の為に、アーシアを!!

 

「悪魔め!」

「滅してくれる!」

 

 敵意に満ちた言葉を吐きながら、エクソシストが光の剣を手に群がってくる。

 

「邪魔くせぇ!」

『Boost!』

 

 正面から斬りかかってくる奴を殴り飛ばして、左右から同時に来る二人を肘と蹴りで撃退する。そして、背後から襲ってきた奴に回し蹴りを当てようとしたが、突然木場が間に割って入り、神父の剣を受け止め、闇の剣が光を喰らう。

 

 その隙に、神父の背後に回った小猫ちゃんが、片手で大の男を掴み上げると、軽く放り投げた。

 

 二人はそのままエクソシストの集団に突っ込み、次々と相手を倒していくと、祭壇へ向かう階段への道が開けた。

 

「木場、小猫ちゃん……サンキュー!!」

 

 仲間に感謝して、俺は二人が開けてくれた道を走り抜ける

 

「アーシアァ!」

 

 階段を駆け上り、シスターの元へ駆け寄ると、その体を縛る鎖を錬成してバラバラにして、アーシアを解放する。

 

「あらあら、またその魔術ね。中々便利じゃない。神器よりもそっちのほうが使えるんじゃない?」

 

 嘲る堕天使の言葉も聞かず、ぐったりとしたアーシアを抱きかかえる。

 

「アーシア……」

「……イッセー、さん」

「迎えに来たよ」

「は……い……」

 

 目を開けて、返事をしてくれるアーシア。でも、その声はとてもか細く、抱きとめる体も温かさが感じられず、今にも消えてしまいそうだ。

 

「ここまで来たご褒美よ。その子はあなたにあげるわ」

 

 レイナーレは冷たい笑みを浮かべながら、そう言う。この……!

 

「ざけんな! アーシアの神器を返せ!」

「馬鹿を言わないでよ。私は上を欺いてまでこの計画を進めたのよ? 残念だけど、貴方達はその証拠になってしまう。でもいいでしょう? 一緒に死ねるんだから。まあ、あなたとの付き合いは、それなりに楽しかったわよ?」

 

 その言葉に、俺の中にまだ残っていた、夕麻ちゃんが顔を出した。

 

「……初めての、彼女だったんだ」

「ええ、見ていてとても初々しかったわ。女を知らない男の子は、からかいがいがあったわ」

 

 言うべきじゃない。結果は見えてる。でも、吐き出さずにはいられなかった。

 

「……大事にしようと、思ってたんだ」

「うふふ、ちょっと私が困った顔を見せると、即座に気をつかってくれたよねぇ。……でもあれ、全部私がわざとそういう風にしてたのよ? だって慌てふためくあなたの顔、とってもおかしいんですもの!!」

 

 レイナーレは夕麻ちゃんの時の声色で、心底楽しそうな笑顔を浮かべる。……嘲りと侮蔑の念を隠そうともせずに。

 

「俺……夕麻ちゃんが本当で好きで……絶対いいデートにしようと思って……初デートプラン、念入りに考えたよ……」

「アハハハ! そうね、とても王道なデートだったわ。――おかげでとってもつまらなかったけどね」

 

 頭に思い浮かぶ、デートの最中に笑ってくれた、夕麻ちゃんの笑顔。泡のように浮かんでは、石の様に砕け散っていく。

 

「……夕麻ちゃん」

「その名前はね、あなたを夕暮れに殺そうと思ったから、その名前をつけたの。素敵でしょう? なのに死にもせず、すぐにこんなブロンドの彼女作っちゃって……ひどいわひどいわ、イッセー君ったら~! またあのクソ面白くもないデートに誘ったのかしら~? あっ、でも田舎育ちの小娘には新鮮だったかもね! 『こんなたのしかったのは、うまれてはじめてです~』なんていったんじゃない!? アハハハハ!」

 

 怒り、悲しみ、憎しみ、失望、絶望。様々な感情が一気に湧き上がって、ごちゃまぜになる。そして――怒りが口を動かした。

 

「レイナーレェェェェェェェェェェッッッ!!!」

「腐った餓鬼が、その名前を気安く呼ぶんじゃないわよ!」

 

 表情を醜く変えて、レイナーレは槍を背中目がけて振るおうとする。感情を処理しきれず、俺はうっすらと涙を浮かべた。

 こんな外道に、俺は……なにが至高の堕天使だ。お前のほうがよっぽど悪魔じゃねぇか!

 

 俺はアーシアを抱きかかえたまま、前に飛びだし、祭壇から一気に飛び降りる。後ろで、堕天使の舌打ちが聞こえた気がしらが、そんなものはどうでもいい。

 神父達が襲いかかってくるが、すかさず木場と小猫ちゃんが間に入る。

 

「兵藤君、逃げろ! 僕と小猫ちゃんで、道を塞ぐ! 行くんだ!」

「……早く行ってください」

 

 ……木場、小猫ちゃん。

 

「木場、小猫ちゃん……帰ったら俺の事、イッセーって呼べよ! 絶対だからな!」

 

 俺は出口を前に振り返り、それだけを告げる。二人はそれに、口元を僅かに動かして微笑んだ。

 俺は全力で、階段を駆け上る。冷たくなる、アーシアを抱えながら……。

 

 

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