ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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 新章開幕です。

 今回、結構エロい感じで進みますので、ご注意ください。あと、新キャラも結構でまくります。


旧日登校のリベンジャーズ
Life.86 腹、減ってます。


「ここ、ですかね?」

 

 眼鏡を直しながら、微かな疑惑を込めて呟くアーサーに俺は肩をすくめる。確かに、視覚的には周りに生い茂る樹木と比べても何の変哲もない、単なる木だからな。こんな冥界の端も端へ来るまでに費やした時間や苦労を思えば、その疑問も仕方がない。

 

「そうは見えないが、間違いないさ。ここへ来るまでにいくつも視覚や感覚を惑わせる仕掛けがあっただろ? この手の物品を求める輩が、大抵魔力や魔法による妨害を前提に考えている事を想定してのやり口……如何にもアザゼルが考えそうなことだ」

 

 育ての親の名を口にするが、今頃アザゼルはどうしているだろうな……他の神話に殺されたりという話は聞いていないが……いや、よそう。育ての恩を仇で返した俺が、今更心配をするだなんておこがましいだけだ。なんて、俺らしくはないかな。兵藤一誠の熱気に当てられたか?

 

 ……それでも別に不思議はないか。それくらいあの男は熱く燃え盛り、同時にその奥には固く凝り固まった鋼の塊の様なものが見えた。ああも自分に真っ直ぐ生きられたら、さぞや心地がいいだろう。

 

 ――頭を振って、余計な考えを振り払う。今はただ、目的を遂げることが最優先。考え事はその後でいくらでも出来る。

 

Vanishing(バニシング) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!!!!!』

 

 白い鎧を身に纏い、木に両手を当てて意識を集中させる。

 

 想定していたペンドラゴン家の魔法と魔王サーゼクスの魔力だけでなく、光力による封印まで施されている……この術式はアザゼルか!? しかも、それらに相等する光力がもう一つ……熾天使の中でも間違いなくトップクラスのこの力は、よもやミカエル?

 

 つい最近、ようやく和平を結んだばかりの三大勢力のトップが力を結集した封印……いよいよ持って間違いない!!

 

『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!』

 

 ギギギギギ!

 

「チィィッ!!」

 

 半減の力によって効力を弱めながらもなお強固な封印によって守られる木の幹に両手を付き込み、全力で押し広げる。微かな裂け目から光り輝く剣が覗けた所で、背後の聖剣使いの名を叫ぶ。

 

「アーサーッ!!」

 

 キン――。

 

『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!』

 

 閃光の如き太刀筋で聖王剣コールブランドが幹の上部を切断し、封印が弱まった一瞬の間に更にその力を半減させ、持てる全ての腕力で木を引き裂いた。

 

「おおおおおおおおおお!!」

 

 バキィィィィィィ!!

 

 飛び散る木片がパラパラとマスクに当たる中、俺の視線は顕になった聖剣、その光り輝く刀身に奪われる。鎧を解除して後ずさる俺と入れ替えに前に出てきたアーサーは柄を握り、一息に抜き放った。

 

「……成る程。確かにこれで間違いないようです。七本目、最後のエクスカリバー、支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)……まさかこんな辺境にここまで厳重に封印されていようとは。我が家の伝承とヴァーリの情報が無ければ、発見は不可能でしたね。それにしてもヴァーリ、一体どこであんな情報を?」

「ふぅ……少し、な」

 

 手早く布で剣を覆いながら鞘を作る当てを考えているであろうアーサーの言葉に、ため息と共に茶を濁す。

 

 痣の上にガーゼが当てられた頬を撫でれば、手合わせを願った俺の一撃を平然と避け、カウンターの拳とともにその情報を叩きつけたあの男の顔が思い起こされる。

 

 俺が短期決戦狙いでペース配分無視の全力だった事、奇襲同然だった事や、奴自身が酷く消耗していた事を差し引いても、あの学園の時とは段違いの実力だった。

 

 噂には聞いていたが、アレほどとは想像も出来なかったな。あれがかつての大戦末期、単身で無数の悪魔の軍勢を突破し、旧四大魔王を己の武と引き換えに討ってみせた超人級の堕天使。

 

『ふん。悪くはないが、俺には足りんな。赤龍帝の拳は一発一発に全霊の気迫を篭めた、それはそれは凄まじいものだったぞ? そういえば、何やらあれこれと詮索していたな。その中の一つ、最後のエクスカリバーだったか? ここを去るついでだ。置き土産に教えてやる』

「……コカビエル」

 

 悠然と禍の団(カオス・ブリゲード)のアジトを立ち去ったあの背中が、未だに瞼の裏に焼き付いてはなれない。不覚にもあの時俺は……確かな敗北感と、憧憬を抱いてしまった。

 

 兵藤一誠、そしてコカビエル。嬉しいぞ、この短期間で、二人も倒したい存在が出来るなど……。

 

 そうだとも、最強という俺の目標からすれば、最高位の達人など絶好の的じゃあないか。敗北感などに躓いている暇はない。もっと、誰よりも強くなる。俺の思い描く、白の頂点――真なる白龍神皇へ辿り着くために。

 

「ふっ、それじゃあ……ラーメンでも食って帰るか」

 

 その為にも……まずは腹ごしらえと行こうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

「とーちゃぁく」

 

 起き抜け早々、甘い声と共に俺にしなだれかかってくる朱乃さんが首筋にキスすると、更に耳元でささやいてくれる。

 

「うふふ。おはよう、イッセー君。どう? 私の身体は……」

「そりゃあ勿論、最高です!」

「そう。それは嬉しいわ。でもイッセー君には、もっともっと私の事を知ってもらいたいの」

 

 私の事を知って……なんて素晴らしく美しい日本語があったのか。

 

「まあ、なんにせよとりあえず……腹ごしらえいいですか」

 

 牙を伸ばしてみせる俺に、朱乃さんが首筋を口元へ寄せて……。

 

「朱乃。何をしているのかしら。いつこの部屋にはいったの?」

 

 …………。

 

 ゆっくりと視線を右手側にずらすと、美しくも輝かしい裸体を惜しげも無く晒した部長が、ゆっくりと身を起こしている真っ最中。その向こう側にはこれまた白い肌が目に眩しい姿の氷美神。俺に馬乗りの状態で座り込んだ朱乃さんは、その鋭い殺気と気当たりを難なく受け流して、独特の威圧感で対抗している。

 

「もちろん、私のイッセー君との朝のスキンシップですわ」

「私の? いつから貴女がイッセーの主になったのかしら?」

「先輩として、後輩を可愛がるのも務めですわ」

「先輩。そう、そう来るわけね」

 

 ベッドの上にて立ち上がって相対する二人には、中々に壮絶なものが渦巻いている。女の戦いに当てられたのか、俺の左側でアーシアが目をこすりながら寝ぼけた声を出す。

 

「うにゅぅ……もう朝ですかぁ……?」

「あー、アーシア。もう少し、寝てていいからね」

 

 柔らかい金髪を撫でると、アーシアは俺に精一杯の腕力で抱きついてくる。

 

「イッセーしゃん……それじゃあお言葉に甘えて、イッセーしゃんにだっこしてねましゅぅ……」

 

 ああ、可愛らしいアーシアちゃんだけど、生憎状況はこの平和な寝顔に見とれていて好転するほど生易しくないんだよね。

 

 バフッ!

 

 柔らかい衝撃音の方を見やれば、朱乃さんのお顔を枕が覆っている! 枕をぶん投げたであろう部長は、お胸を揺らしながら啖呵を切った!

 

「すぐに私の大事なものに触れようとして……朱乃のそういうところが嫌なのよ!」

「……ちょっとくらいいいじゃないの。本当にリアスったら、昔からケチだわ!」

 

 ボフンッ!

 

 落ちた枕を両手に持った朱乃さんはカッ、と目を見開くと、Sっ気よりも怒気が勝った迫力の笑顔で、仕返しとばかりに部長の顔に枕をぶち当てた! すかさずそれを右手で剥いだ部長は涙目で再び投擲する! だが、朱乃さんは今度はしっかりキャッチすると、またまた投げ返す。部長も負けじと受け止めて見せ、キャッチアンドリリースと共に舌戦が巻き起こる!

 

「この家だって改築したばかりだし、朱乃の好きにはさせないんだから!」

「サーゼクス様は皆仲良く暮らせとおっしゃてたわよね!?」

「ここは私とイッセーの部屋なの! ただでさえ皆手強いのに、お兄さまも朱乃も、イッセーと私の間を邪魔するんだもの! もういや!」

「いいから、私にもイッセー君の隣を貸しなさいってば!」

「ダメなの! 絶対ダメだもん!」

「貸してって言ってるのにそれ!? もう……リアスの馬鹿!」

「馬鹿っていうほうが馬鹿なのよ! 朱乃の馬鹿!」

 

 ……何ともまあ、年頃の娘らしい言い合いだけど、二人共素の部分全開だなぁ……可愛らしいけど、朝からそう騒ぐと近所迷惑になるからそろそろ止め……改築?

 

 つーかちょっと待て。明らかに寝る前と比べてベッドが広い。五人も寝てるのに余裕どころの騒ぎじゃないというか、二十人くらいは楽に寝られるくらい馬鹿広い。天蓋までついてる。比例するかのように、部屋も滅茶苦茶だだっ広い!

 

 テレビもめちゃくちゃでかい大型液晶になってるし、横には立派過ぎるスピーカー!

 

 逸る気持ちもそのままに廊下へ出ると、これまた広い! 階段が上下有る!

 

 思わず窓から飛び出て壁に足で掴まりながら駆け上ると……六階建てと化した我が家から四方に広がる敷地を見渡し……全力で叫んだ!!

 

「なんじゃこりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 この時に広げた反響マップから察するに、上は六階、地下は三階建てで、内部の空間も神さん式のやり方でかなり弄られてました。取り敢えず……朝の修行を済ませるか。

 

 

 

 

 

「いやー、リアスさんのお父さんが、建築関係の仕事をしているらしくてな。モデルハウスの一環で、うちをリフォームしてくださったんだ。まさか、一晩で済むとはな」

 

 朝食の席、当たり前の様に広くなった食卓で、父さんが日常通りに新聞を読みながらそう言った。

 

 キッチンからお茶を運んでくる母さんも、実に嬉しそうだ。

 

「神さんも協力したらしいんだけど……あの人、本当に手広く色々やってるわね」

 

 ……本当にまさしく俺の親だ。なんという驚異的な適応力。悪魔どころの騒ぎじゃねえ。

 

「そういえば、隣近所の家がほとんど引っ越したそうだ。なんでも急に好条件の物件が見つかったとかで」

 

 ちらりと隣に座る部長を見やれば、菩薩の如き柔らかく優しい笑顔と化した。

 

「大丈夫よ。皆幸せになったんだもの」

 

 ……きっと、随分前から交渉は進んでいたんだろうな。多分、全ての家の引越し準備が整い次第、即決行だったはず。

 

 大丈夫かな、この家。いや、住み心地とか安全性は無類だとは信じているんだけど……神さんが手を加えたとなると、一体どんな恐るべき要素が隠されているのか非常に疑わしくなってくる。頼むからあったとしても平和的な存在であってくれ……。一応、研究所への転移装置は場所を移されて地下にあると確認したけどね。

 

 空中庭園で家庭菜園の話をしている父さんを眺めつつ、俺は白米をかきこむ。

 

「母さん、おかわりちょうだい」

「あらイッセー、今日はまたやけに大食いね。はい、もうこれでご飯終わりよ」

 

 本日五杯目のおかわりを受け取るが、すぐに茶碗が空になる。

 

 ……早朝の修行時にあれだけ食ったのに、幾らなんでも腹の減りが早過ぎる。二度寝もせずにわざわざグルメ界まで行って二千メートル級のリーガルマンモスを平らげたんだぞ?

 

 いや、腹が減ってると言うよりは――渇いてる?

 

 

 

 

 

 ジュズルルルルルルル。

 

「んっ。……いよいよみたいだね」

 

 学校へは影分身を向かわせて研究所に飛んだ俺が真っ先にライリの部屋に押しかけると、パジャマで寝っ転がってベッドの上でゲームをしながらポテチ食ってたライリは一瞬呆気に取られたかと思うと、次の瞬間には無邪気な歓喜と色気が混じりあった笑みを浮かべて、首筋を晒してきた。発作的に押し倒して血を吸う間も、ライリはとても嬉しそうだった

 

 ……じんわりと渇き、飢えた細胞に血が染みこむこの感覚。今までの吸血とは明らかに感じが違う。桁違いの充実感に心を震わせながら吸血を終えて唾液を塗布して上半身を起こすと、にこにこと笑い続けるライリに尋ねる。

 

「これが……吸血鬼へ変化する過程の最終段階って事なのか?」

「そう。今、イッセーが感じている餓えと渇き……それはイッセーの身体が完全な変異を遂げるために必要なものを求めているのさ。それは即ち――血だよ。それもそんじょそこらの有象無象じゃ駄目だ。イッセーの欲を満たすに相応しい質を持った血が大量にいる!」

「けれど……ここへ来る前にも、あらゆる種族の血を大量に飲んだんだぞ? オーディンやゼウス達、最高位の神々の血だって……」

 

 送られてきたのは何も女神の血だけじゃない。オーディンにトール、ゼウスにポセイドンにハーデスの様な最高位の神の血だってある。しかしそれでも俺の餓えを満たすことは出来なかった。その事を全て告げるよりも先に……。

 

 チュ。

 

 身体を起こし、触れ合う程度の軽いキスを交わしたライリは愛おしげに俺の顔を撫で回しながら膝立ちの姿勢で、紅い眼で俺を見下ろした。

 

「あははは、イッセー……抑えちゃダメだよ。分からないわけがないだろう? 女の血は君にとっての適合食材だ。そしてそれには……最も相応しい食べ方があるじゃないか。それを思うがままに実践しな。君が相手なら喜んで受け入れる女は幾らでもいるだろう? ――片っ端から貪れよ、お前は血を吸う鬼なんだから」

 

 ブチ。

 

 小さな音を口内に立てて、ライリは扇情的に舌を伸ばし、その先端から唾液とともに血液を垂らす。

 

「ほらぁ、景気付けに……たぁーんとお飲み」

 

 タラー……。

 

 顎に添えられたライリの指に引かれる形で半開きになった口に透明と赤の混合液が注がれ舌に触れた瞬間――。

 

 頭の中で何かが弾けた。

 

 ガバァ!!

 

「! ぐむ……ぉぶっ!?」

 

 炸裂した衝動のまま、再びライリを押し倒し、唇を奪い舌で舌を絡めとった直後――ライリの舌へ牙を突き立て血を吸い上げた。

 

「ぉぶッッんお!!? フッ、ぅぅッふぇ……あふ……かは……アアァ……」

 

 ジュズルルルルルルル……。

 

 柔らかい舌を牙で貫くと同時に、その舌を自分の舌で慰める様に舐め回す感触。

 

 血と唾液の味。

 

 微かに漏れ出る艶やかな嬌声。

 

 そして至近距離で香る匂いと、快感と痛みに蕩ける顔。

 

 五感を通じて味わうライリが俺を満たすこの感覚……素晴らしい。

 

 ジュル。

 

「べぇぁ……ふぅ」

 

 ドサ。

 

 牙を外し、舌を軽く一舐めして離れると、ライリはそのままベッドに崩れ落ちた。

 

 ……やべぇ。どう考えてもやり過ぎた。あんなディープキスよりドギツい真似した上に、ついテンション上がって全開で吸っちまった。

 

「ラ、ライリ? おい……生きてるよな? おーい」

「……ふぇ……ぁぁあん」

 

 ――なにこれエロい。パジャマ姿がいつの間にか乱れてるし、赤らんだ顔で涎たらしてるのもたまんない。そんな状態でにへら、と柔らかいを通り越して崩れた笑みを浮かべたライリは……パジャマのボタンを全て外そうと……!!

 

 ガバ!

 

 前に集中していた俺を、慣れ親しんだ感触が襲う。それが明だとわかった瞬間、俺は後ろを向いて、躊躇なく唇に舌を差し込んだ。そしてライリと同じく、舌から最高レベルの吸血を始める。

 

「んむぅぅ!!?」

 

 ズジュルルルルルルル。

 

「ぉぉぉんッぉふ……ぁぅん……るッ……れぁ……ハァァ……」

 

 ……流石は長年の喧嘩相手と言うべきか、同等レベルにエロい事になった明をライリの隣に寝かせつつ、二回連続の指パッチンでオルトを呼ぶ。一秒とかからず室内に現れた元宇宙生物のメイドロボは、恭しく頭を下げた。

 

「お呼びでしょうか、イッセー様」

「ああ。二人を風呂にでも入れてやってくれ。汗は勿論、その他の分泌液で酷い事になってるだろうから」

 

 ……ん? 今、顔を上げたオルトの虹彩の明るさが若干暗くなったような……いや、まあ気のせいだよね。うん。

 

「じゃあ、俺はちょっと……食べ歩きでもしてくるから! 後はよろしく!」

「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」

 

 足早に部屋を去って転送装置へ急ぐ中、後方の荒々しい音が平和的なものであることを祈るばかりだった。

 

 

 

 

 

 ズズ……。

 

 ワームホールを抜けた途端、眼を焼かんばかりにその輝きを見せつけてくる綺羅びやかな神殿内。大きめの玉座に腰掛ける桃色の長髪の女神へ何人ものニュンペーが世話を焼く中、当の本人は怠惰に欠伸をかいているにも関わらず、目がさめるような美貌と色気を振りまいていた。

 

 退屈をそのまま貼り付けたような女の顔は、闇から抜けだした俺をその宝石よりも輝かしい眼に映した途端、驚愕に見開かれ、どんな花も満開になるような美しい笑顔を見せた。

 

 ゆっくりと自分のもとへ歩を進める俺を待ちきれないと言わんばかりに、オリュンポスの美の女神、アフロディーテは玉座から立ち上がり、走る勢いそのままに俺に抱きついた。俺より背の高い関係上、顔の近くに胸が押し付けられる格好になるので、この点だけはこいつと会う時の楽しみだったりする。

 

「イッセー!! どうしたの急に? 事前に連絡してくれたら歓迎の準備ができたのに」

「そんなん要らないって。お前にしか用はないからな」

 

 大きいながらも美乳と呼ぶに相応しいおっぱいを押し付けるアフロディーテの豊満にしてバランスの取れた肢体の腰へと腕を回し、首の後ろを鷲掴みにする形で抱きしめ、反射的に紅くなった眼で美の女神の宝石を覗きこむ。呆気に取られて呆けているアフロディーテに、精一杯の口説き文句を垂れ始める。

 

「――お前が欲しくて仕方ない。……血も、嬌声も、朱に染まる顔も、全てを味わいたくてたまらないんだ。だから……俺に喰われてくれるか? アフロディーテ」

 

 本能の底から沸き上がる衝動のまま、獰猛さを隠さない笑みを見せつけたアフロディーテは、たまらないと言うように自分からキスをして、舌を絡めてきた。その舌へ牙を突き立てるも、特に驚きも見せないアフロディーテは舌の動きを止めると、ひたすら強く抱きついてくる。

 

 ジュズルルルルルルル。

 

「んぁあん……ぇぷん……んふぇッあん、んんぁん……」

 

 吸血によって得られる血と、それに伴い与える快楽に悶える姿。その両方を存分に味わい心と身体で呑み干す中で巻き起こる満足感に、餓えと渇きが満たされていく。

 

 だけど、まだまだ……全然足りない。

 

 もっともっともっともっと――欲しい。飲みたい。貪りたい。

 

 限界のアフロディーテから牙を外してニュンペーに預けると、アフロディーテの赤らんだ頬を軽くなでてから、まずは近場のオリュンポスの女神達の所へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 ズズ……。

 

 アースガルズの一角。辺鄙とも言えるような場所に立てられた神殿の一室にて、その女は読書に勤しんでいた。北欧の神々を詠った詩集を手に椅子に腰掛け、時折目の前の机に置かれたハーブティーに手を伸ばして口元へ運んだ辺りで、女は俺に気がついた。

 

 突如として現れ、自分に近づく俺に対して、カップを置き本を閉じて向き直る白い長髪の女神は悪戯な微笑みを浮かべた。

 

「久しぶりだね、イッセー。私の送った血はのんでくれた?」

「ああ。お前らしいひねくれた血だったけど、美味かったぜ――ロキ」

 

 ロキ。そう、ロキだ。オーディン、トールに並ぶアースガルズの筆頭に立つ神の一人であり、北欧神話のトリックスター。本来は男神に分類される……はずだった。

 

「そうかそうか。好みにあったようでなによりだ。それだけ私も女性の性別に馴染んできたということかな。ここ千年はずっと男でいたからね」

 

 そう、本来ロキは両性を持った神……男性と女性の二つの要素と姿を持つ。以前はそれこそ男性を基本としていたんだけど……ロキの提案でアースガルズの全戦力と俺一人がぶつかり合う事になった際、勝敗の代価としてアースガルズが提示したのが……ロキの男性と、その他諸々の権利だった。そして俺が勝った結果……ロキは男性を排除し、完全な女神と化した。

 

「しかし、今日はまたどうしたんだい? なにやら余裕のない顔をしているじゃないか。……実にいい。餓えた獣の顔をしてるよ」

 

 興味深そうに小首をかしげ、顔を上気させる中肉中背の美女に近づき、顎に手を当てて上を向かせる。

 

「分かってくれてるんなら……話は早いな。もう大分言った台詞だが……お前が欲しいんだ。飲ませてくれ」

「勿論、どうぞ」

 

 ガプ。

 

 躊躇なくロキの口内に舌を潜り込ませ、引っ張りだした舌に牙を突き立てる。

 

 ジュズルルルルルルル。

 

「むぁぉんッふ……んむぇ……れぁ……ひむ……ッッ」

 

 吸血を終えて顔と顔の距離を離すと、ロキは力なく俺の方へ倒れこんできた。脱力したロキをベッドに寝かせてから、次の場所を考えだす。

 

 食ったのは明にライリを始め、高天原含む日本各地の目ぼしい女神。大陸や須弥山の天女や仙女達、オリュンポス、アースガルズもほぼ制覇。それじゃあ次は……東の方へ行ってみるか。

 

 

 

 

 

 ズズ……。

 

 ズバァァァン!

 

 ワームホールから石造りの神殿内へ出てくるなり、背後から光速の回し蹴りが頭目掛けて飛んでくる。それをしゃがんで避けると、今度は左の肘が背骨狙いで来るので、しゃがんだ姿勢からバク宙の格好で背後に飛び上がり、褐色の女の背後を取った。

 

 ツヤのある黒い長髪を振り乱し、こっちを向いた長身の美女は闘争心を隠そうともしないでにっこりと笑ってきた。

 

「いい動きだ。前よか遅いけど、キレは良くなってるな! 会いたかったぜ、イッセー!!」

 

 そう言って抱きついてくると、頭一つ分以上身長が違う関係で思い切り胸が顔に当たる……ばかりか、体格もかなり向こうのほうが大きいので、もう埋まる格好だ。

 

 息が苦しいし汗臭い……が、それがいい!! うぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! なんというパラダイスシフト! もうこいつの中身が全然変わってねえこととか全部どうでもいいや、マジで!!

 

「おお、わりわり。いや、お前おっぱい好きだから別にいいか、なぁ。アハハハハハハ!」

 

 話が出来ない事に気づいたのか、すぐに離れてしまった女が快活に笑う中、俺も釣られて吹き出した。

 

「お前の方は随分変わったな。セト」

 

 エジプト神話の悪神、セト。嵐と戦争を司る戦神であり、実力はエジプト神話でもトップクラスの存在たる、男色家のイケメンマッチョ……だったはずなんだけどな。送ってきた血を飲んだ時から違和感には気づいてたけど、ロキにつづいてこいつまで……。

 

 セトもこっちの言いたいことに気づいたのか、自分の胸を片手で揉みしだきながら笑う。

 

「アハハ、なんだよ、やっぱこれが気になんのか? いや、ほら。昔お前と喧嘩した後、ホルスに斬られた足を直してもらった時に誘ったら、男と寝る気は毛頭ないって言ってたろ。そんでさ、俺良く考えたら足と一緒にホルスにタマも斬られたし、そもそも女じゃなくて男に興味があるんだから女になりゃいいかって考えたんだよ。そんで色んな奴に手伝わせたら、こうなってさ。これなら俺と寝たいか?」

 

 腰に両手を当ててどでかい胸を山と張るセトの姿は、確かにむしゃぶりつきたくなるような美人だ。しかも思考自体はほとんど変わってない分、サバサバし過ぎて健康的な色気が溢れんばかりと来てる。それにどことなく仕草が色っぽく、しなやかで扇情的な趣がある辺りは流石性欲の象徴として扱われた神というべきか。

 

 ……でも、エジプトの神々も、随分とまあ徹底的にやりやがったな。姿形に身体機能は勿論のこと、魂も完全に変質していて、最早元の男性の取り戻すことは絶対不可能と確信させられるくらいだ。ここまでやられたら普通、もう少し人格に影響が出てもおかしくはないんだけど……セトすげぇ。

 

「まあ、そのとおりなんだけど、俺にも色々あるからさ。せめて後二年近くは待ってくれよ。とりあえず今日の所は……ディープキスと一緒に血を吸うだけで勘弁してもらえないか?」

「え~……誰の為に女の身体になったって思ってるんだよ、ったく。しょうがねえな。あ~、今更だけどネフティスが俺のこと愚痴ってた気持ちがよく分かるわ。わがままな男に惚れると女は苦労するもんだ」

 

 いや、我侭以前にお前ソッチ系じゃん。前に一緒に飲んでた時、ネフティスとろくにナニするどころか構ってもいなかったっつってたろ。

 

「お前、本当になんでわざわざ結婚したの? 」

「ん? そりゃあれだよ。なんつーか……成り行き? あと、昔は主神になりたかったから箔付けにさ」

 

 ……ネフティスとの離婚はオシリスとの不義密通が原因とか聞いたけど、きっとネフティスの方は前から機会を探してたんだろうなぁ。というか、そんなこいつに我侭扱いされる俺って……。敢えて否定はしないけどさ。

 

「ま、過ぎたことは置いといて、だ。ほら、好きにしろよ。この体になってからはファーストキスなんだから、ありがたく思えよ」

 

 グイッ!

 

 腰に右腕を回して足元を崩しにかかるが、そこは向こうも戦神。容易くバランスを取って内心で勝ち誇った隙に、本命を行動に移す。左腕でセトの手を引いて顔をこっちに寄せると、そのまま一気に唇を奪って舌で舌を引き出し、牙を突き立てる。

 

 ジュズルルルルルルル。

 

「ぇぐんッッッ!!? るぇれッ……かぅッぁぶ……えッッ……ぷぇあ……ぁ……!」

 

 ジュズルルルルルルル。

 

「……ッ……ッッ…………!」

 

 チュル。

 

 性根が全く変わってないこいつがこれだけの快感を得たらどんな行動に出るのかはわかりきっているので、舌と最高レベルの快楽を持って完全に骨抜きにしたうえで、ベッドに寝かせて即ワームホールで飛んだ。

 

 我ながらまるで強姦魔のような所業だが、こちらもこちらで貞操……ひいてはそれに守られた最低限の生活があるので、どうか納得……してもらえないよなぁ。絶対家に押しかけようとしてくるよ。

 

 最初っから来なければいいような気もしてたけど、どのみち近々痺れを切らして同じ結果になりかねなかったんだし、それなら万が一にも少しくらいは大人しくなっている方向に賭けたかったんだ。予想通りに外れた……いや、予想すら超えてたけど。

 

 ただでさえ我慢なんて言葉と縁遠いセトだったが、どうも余計タガが外れた節がある。あれじゃ本当に家に来るのもそう遠くは無かっただろう。仕方ない……アメン、ラー、オシリス、ホルス、念のためアテンにも頼んで抑えこんでもらうか……食材取ってこなきゃ。

 

 

 

 

 

 ズズ……。

 

 改築したばかりの我が家の屋根に出た時には、既に夜も大分深まった頃合い。印を組んで残していった影分身を消すと、今日一日の経験が統合される。ふむ、何事も無かったみたいだな。

 

 ただ、本体(オレ)の方は……随分とやらかしたよなぁ。東西南北巡っては女の唇を奪い舌から血を抜いて、また別の女の所へ行ってはその繰り返し。傍から見れば学園の噂通り……いや、それ以上の鬼畜外道の女ったらし以外のなんでもない。とっ捕まって誘惑受けないように耐えられる限界ギリギリの快楽で吸血なんて真似もやったし……。

 

 ヤバイ。本気(マジ)で埋め合わせに贈り物の一つでもしておかないと……。

 

 ……ああくそ! つらつらと屋根の上で考えあぐねてても仕方ない! 細かいことは明日だ明日! 今日はもう風呂入って寝る! 

 

 大浴場でざぶっと湯に浸かった風呂あがり。濡れた身体を拭くのもそこそこに、脱衣所に備え付けられた大きな鏡を見ながら眼を紅く染め上げる。その輝きを覗きながら雑多な思考を一切削いで、胸の内にくすぶり続ける疑問と向き合う。

 

 ……渇きが癒えてから、今度はずっと妙な疼きを覚えている。そして、以前より遥かに自然体でこの紅い眼を出せているにも関わらず、鏡に写るその眼が未完成と感じてならない。……まさか、だけど、そんなことがあり得るのか? 一体何で?

 

 今日一日で――俺は何になったんだ?

 

 ……。

 

 答えは近くに転がっているのかも知れない。だけど、今は何も言うことはない。もし知るべき時があるとすればそれはまだ先なんだろう。

 

 もしその時が来たんなら、『あいつ』はきっと話してくれると俺はそう信じてる。

 

「……よし」

 

 自分に対して疑問への思考終了を宣言すると、素早く寝間着に着替え牛乳を一気飲みして部屋へと戻った。音もなくドアを開けて以前の数倍以上の面積となった自室へ入ると、予想通り部長とアーシアが寝息を立てていた。

 

 ゴクン。

 

 裸で眠る部長の匂いに、唾を飲み込んだ。まるで夜這いをかける心境で静かにベッドへ上がると、仰向けに眠る部長の肢体を細胞の一欠片まで確認する心持ちでつま先から頭の天辺に生えるくせ毛まで舐めるように観る。

 

 吸いたい、譲渡したいという欲望の矛先となっている豊満な胸を程よく眺めてから、俺は部長に覆いかぶさる格好で顔を突き合わせて、唇へ視線を集中させる。

 

 ……部長とは何度もキスした。触れ合う程度だが、舌も合わせたことがある。俺の見立てが間違っていなければ、部長は吸血される事を望んでいる節もある。だったら……呑んでしまってもいいんじゃないのか?

 

 牙を伸ばした状態で、体ごと顔を部長に近づけ――脳裏にフラッシュバックした吐血する部長が、目の前の寝顔と重なった。

 

『イッセー……愛してる』

 

 ――ッッッ。

 

 再び部長の全身を観るが、何度見回しても目立った傷はどこにもない。脈拍、呼吸、脳波、電磁波、全て正常だ。心臓だってちゃんとある。血なんか吐いちゃいない。俺の手は……部長の血に塗れてなんかいない。

 

 出来る限り静かに、部長とアーシアの間へ仰向けになって横たわる。反射的に縋りつくような形で握りしめた部長の手は……とても温かくて、柔らかかった。

 

 

 

 

 

「……ここではない。やはり冥界にはないのか」

「とはいえ、天界はありえない。神が死んだ以上、あそこに封印を置くなどという大それた真似は出来ないはず……一体、何処へ」

「やはり、あれに聞くのが最善という事か。……主よ。必ずや御身を開放してみせます。もうしばしの辛抱を」

 

 

 

 

 

「さて、集まっていただいたことを感謝する。ミカエル殿、アザゼル。議題については語るまでもないとは思うが、それを踏まえた上で――もし彼の者達が目覚めたとすれば……最悪、我らが打って出るべきだろう」

「御託はいい。それより、俺から話させてもらうが……『三騎士』の封印が解けたってのは、残念ながら事実だ。例の場所に行ってみたところ、支配の聖剣が何者かの手によって持ち去られていた。現場に残っていた諸々の痕跡から考えて、犯人は十中八九ヴァーリだ」

「その事ですが……コールブランドに選ばれたペンドラゴン家の長男が、禍の団に参加したとの情報が入っています。恐らくはその人物がペンドラゴン家に伝わる伝承を、ヴァーリ・ルシファーに伝えたのでしょう」

「とにかく、現状で確かなのは、『三騎士』が復活したということ。そして、その目的は……」

「……『青き死』の目覚め。そして『終焉の奏者』の再臨ですね」

「既に冥界各所にて連中が動いているのが分かっている。かなり隠密気味だ。見つけ出すのは少し手間取るかもしれねえ」

「急がねばなるまいさ。もし『終焉の奏者』が『笛』を吹けば……三大勢力は終わる」




 ロキとセトが女になったのは、男で強い神様はよくいるという事と、この二人が神話上女性化にあまり違和感がなかったからです。

 ロキは女に化けるエピソードが色々ありますし、両性具有の説もあるくらいですから。セトはホルスに去勢されちゃってますし、更にそっち系の逸話もありますから。
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