ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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Life.88 三騎士、襲来です。

 アルカードと前に戦った時は、何もかもが唐突だった。

 

 あれは野暮用で行った海外の魔女の谷から帰る途中の、人里離れた山道でのこと。

 

『分かるぞ……貴様、相当な化け物だな? ならば少し遊んでやろう』

 

 こんな台詞を吐きながら、突如として殺意に恍惚とした笑顔で襲ってきたあいつを幾度と無く叩き殺し、トドメを刺しそこねてからはや二年。

 

 それ以来、会うことは無かった筈なんだけど……。

 

 ズバァァァァン!

 

「拉げてッ、潰れてッ、微塵に砕けろ吸血鬼(ヴァンパイア)ァァァァァァァッッ!!」

 

 ドォォォォン!

 

「煩いなぁ、ぶち殺すぞ原初の悪魔(オリジナル・デーモン)ッッ!!」

 

 どうしてこうなった。

 

 いや、現実逃避は止めよう。

 

 発端は、宣戦布告は終わったとかで帰ろうとしたアルカードを、レクナがキレた笑顔で呼び止めたことだった。

 

『……待て、真っ白しろすけ。人の恋路を邪魔しておいて、まさか無傷で帰ろうとでも? 人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえっていうのを知らないのか覗き魔が』

 

 対するアルカードも、イカれた笑顔で振り向いて、負けじと罵倒に罵倒を重ねる。

 

『ははは。随分微温い事をぬかすな。人の恋路を邪魔してでも、自分の恋路を優先するのが女という生き物だろう? そんな事も分からんか。第一、キスと吸血だけで漏らし過ぎだぞ。頭もゆるけりゃ股もゆるいか、マグロ女』

 

 どうにか周囲に一切の被害を及ぼさずホテルの敷地内に備え付けられたトレーニングルームに二人を抱えて飛び込んだ途端、始まりかけるは両者殺気を全開にしての時間無制限デスマッチ。

 

 ぶっちゃけ、この死闘が繰り広げられる前に二人を強引にでもここへ連れてこれたのは勿論、その後も全力でぶつかる余波だけでここら一帯を地獄絵図にしかねなかった二人に素手のみでの肉弾戦を約束させたのは我ながら自分を褒めてやりたい。

 

 当然、他の利用客や従業員の皆様には謝罪と熱弁をもって避難いただいた。その時に賠償の約束は取り付けたし、いける所までいかせておこう。

 

 だからまあ……死闘の二次災害だけで既に学校一つ分以上はある建物が半壊しているのは仕方ない事だと思う。達人にはよくあることだし、ましてやあいつら揃って達人級、動の特A級ときてる。実力もほぼ伯仲しているし、被害を度外視すれば見れて良かったと思える戦いだ。

 

 単純な身体能力と気においてもアルカードが勝るけど、基礎能力が自分より上の相手と戦う事に長けている事も含めて、技巧はレクナに軍配があがる。

 

 以前、レクナの晩酌に付き合った際に聞かされた話だが、元々レクナ――マラコーダは、七十二柱と四大魔王、そして番外の悪魔(エキストラ・デーモン)と言った全ての原初の悪魔(オリジナル・デーモン)の中でも、下から数えたほうが早いと言った程度の実力しか無かったそうだ。

 

 『反抗』の魔力は確かに強力だが、当たればそれで消し飛ぶバアルの『破滅』や魔王の絶大な魔力からすれば、どうしても単体では決定打に欠けてしまう。加えて、マレブランケ達は原初の悪魔の中では身体能力、魔力共に最弱と言っていいレベルで、大半の悪魔にとっては嘲笑の的となっていたらしい。

 

 そんなマラコーダが力をつけ、大半が滅んだ原初の悪魔の中で生き残れた理由は……ひたすらな実戦。それに尽きるという。

 

 既に貴族社会の規範ができつつあった悪魔の中において、マレブランケは最低辺と言っていい部分に位置し、結果として三大勢力の戦争のほとんどを最前線で戦うことになった。

 

 格闘術、魔力の運用法、戦術、逃走のタイミング、不意のうち方。それらを実戦を通して学び、心技体は多くの戦乱の時の流れで練磨され、魔力は少しずつ質と量を増し、経験は蓄積される。そうして魔王さえも脅かしうる実力を備えたマラコーダは、いつしか最強の番外の悪魔と呼ばれるようになっていた。

 

 やがて神と四大魔王の死を切っ掛けに大戦が終結した際、種の存続よりも戦争継続を唱える旧魔王派に長年積もり積もった感情からも嫌気が差していたマラコーダは、マレブランケの全員を引き連れてサーゼクス率いる反魔王に合流し、旧魔王派を追いやったらしい。

 

 その後、地位や権力にほとんど興味の無かったマラコーダと他のマレブランケは、次元の狭間を渡る際に偶然グルメ界に迷い込み、以来そこで数百年の時を過ごしたらしい。

 

 で、ある日珍しい食材を抱え込んでた俺とサイラオーグさん達に眼をつけて、適当に脅かして食材を奪おうとしたら予想以上の実力に興が乗って危うく殺しかけたとの事だ。一応、他の三人の手前巫山戯んなと言っておいた。

 

 最終的には十二人中十一人が俺に喰われたわけだけど……。

 

 ズドガァァァァ!!!

 

 ……あ。考え事してたら、なんかえらいことに! 建物はほぼ瓦礫の山と化し、二人は再生が間に合わない速度で殺し合いを続けている。

 

 見目麗しい白い肌は夥しい傷とそこから溢れる血に塗れ、なお全く衰えることのない怒りと殺意を剥き出しにする二人の美女の殺し合いは、見る者の心身に凄まじい衝撃を炸裂させる。

 

 だいぶ前に何事かと見に来たホテルの従業員や警備員も、当てられて気絶したし。巻き添え食うといけないから影分身にホテル本館まで連れて行かせた。

 

 ズシャァ!

 

 互いの手刀が交差し胸を貫き心臓を潰し合うと、更に唸りを上げて至近距離からの放たれたハイキックが二人の頭部を同時に吹き飛ばした。

 

 およそ生物において要である二箇所を失ってもなお二人の身体は動き、残った片手が鳩尾に叩き込んだボディーブローの衝撃で二人の身体は大きく吹き飛び、胸に突き刺さっていた腕が抜ける。

 

 ズザッ!

 

 土埃を上げて着地した瞬間、二人の欠損部位から同時に白と赤が噴き上がる。

 

 アルカードは氷、レクナは炎。氷炎はほぼ同じ速度で欠損した部分を埋めて原形を象り、刹那の早さで無傷の姿を取り戻してみせた。

 

 改めて見ても凄い再生速度だな。しかも心身共に大して疲労もしていない。不死性だけならフェニックスどころか鳳凰様も越えてるんじゃないのか。悪魔と吸血鬼に今更って感じだけど、化け物過ぎるというか……。なんて、俺が言えることじゃないか。

 

 さて、そろそろ言いつけ通りにやってるのも限界だろう。いい加減全力出しかねないし、ボチボチ止めるか。

 

 ギィン!

 

「水遁・爆水衝波!」

 

 ドドドドドッ!

 

 口から吐き出された大量の水は津波となって二人へ襲いかかるが、当人たちは当然の如く飛び上がると同時に空中でやりあいだす始末。

 

 ま、こっちも当然読んでたけどな!

 

「からのぉ、水遁・水陣柱! 加えて、水遁・水飴拿原ッッ!!!」

 

 ドバァァァァァ!

 

「わ!」

「な!」

 

 辺り一面を覆う水が巨大な水柱となって持ち上がり、今度こそ二人を飲み込んだ。更にダメ押しとばかりに大量のチャクラを練り込む事によって粘度を増した水は、二人の動きを大きく制限した。下手すりゃ溺死か窒息死だが、あの二人なら大丈夫だろう。

 

 チャクラの制御を離れた水柱は上から下へと流れが変わり、水中の二人諸共地面に落ちていく。

 

 ベチャァ!

 

 盛大な粘着音と共に地面に広がる水の中、全力でもがいた二人は四肢にまとわりつく大量の水飴と引き換えに顔を出し、不格好な形で地面に不時着した。

 

「ぷはっ! はーっ、はー……」

 

 大きく息をするレクナの横で、アルカードは心底楽しそうに笑っている。

 

「く。ふふふふ、中々変わった決着を用意してくれるなぁ、イッセー」

 

 ゆっくりと近づきながら、全身が濡れまくったことでスーツやコートが肌にぴっちりと貼り付き、艶かしいボディラインを強調する二人のお姿を万華鏡で捉え続ける。

 

 しかもチャクラによって文字通り水飴とばかりに粘度の高くなった水は、二人の動きを封じるばかりでなくテカテカとその肢体に魅力的な光沢を加える役割まで果たしてくれて……脳内保存脳内保存!

 

「イッセー……ねえ、ちょっと。スケベな顔するのはいいけれど、その気になれば幾らでも実物を好き放題に出来るんだよ?」

「そうだ、な。何なら私が受け入れてやらんでもないぞ?」

 

 そう言って水飴を力づくで引き伸ばしながら、グラビアの様に扇情的なポーズを取るレクナは、ちろりと舌を出しながら妖しく微笑んだ。対向するようにアルカードも舌なめずりをしながら首元のリボンをゆるめ、水飴に濡れる谷間を晒しながら、後ろ手で白い長髪をかきあげる。

 

「「――これでも獣欲滾らない?」」

 

 誤魔化す理由もないので、鼻息荒く素直な胸の内を吐き出した。

 

「もち滾ってるもう真っ盛り!! けれどその、さっきお前が魅せてくれた(勝負姿)が最高潮過ぎて、もうなんか一種の達観の境地にあるって感じで……」

 

 思い起こせばそれだけで五感全てがあの時感じたものをリプレイできると言い切れる程に鮮烈な、空前絶後のインパクトの後じゃあね。さすがの俺も少しは落ち着くというものだ。

 

「つまりは賢者タイムというやつか。……触れもせずに出したのか?」

「んなわけねえだろ。てか下ネタやめろ」

 

 想像以上に口が悪い白吸血鬼に思わず素のトーンでツッコミを淹れると、アルカードは一瞬白い炎を纏う事で自分に付着する水分の一切を蒸発させ、悠然と立ち上がった。

 

「さて。私はそろそろ帰るとしようか。兵藤一誠、闘争についてはまた後日」

 

 ――ヴン。

 

 空間が揺れる重たい音と共に、上空に三つの影が出現する。三人の中で誰よりも早くそれを視認した俺は、左眼の万華鏡を発動させ、口に炎を滾らせた。

 

「火遁・灰燼隠れの術!」

 

 ボウ!!

 

 高熱の炎を地面に吹きかけながらレクナへ視線で意図を伝えると、それを瞬時に解したレクナは魔力で状態を整えた。

 

 ブワァ!

 

 直後、炎によって地面が燃焼され、巻き上がる灰と塵が俺たちの姿を覆い隠している。その間に俺とレクナ、そしてなぜかついてくる気満々のアルカードは全力であさっての方向へ飛んだ。

 

 覇気の足場を踏みしめ、空中を疾走する俺の横で、十二枚の悪魔の翼で飛行しながらレクナが訊いてくる。

 

「あの連中、知ってるの?」

「知らないけど、標的は俺だってのは分かる」

「根拠は?」

「直観。長年物騒で強い連中に狙われ続けてきた俺の本能が最大警報鳴らしてるんだよ」

 

 走馬灯も含めて脳内を駆け巡る過去の経験に裏付けられた言葉に、その一例でもあるレクナは当然頷く。

 

「成る程。で、迎え撃つの?」

「ああ。単なる目眩ましだけだったから、順調に追ってきてる。下手にバカスカ撃ってこない辺り、多分向こうもそれを察してるみたいだな」

 

 そしてそれは、追いついた上で目的を達成できる自信があるということでもある。その証拠に、あらゆる感覚から感じ取れる限り、三者共に色んな意味でかなりヤバイ。単純に俺の命が目当てなのか他に思惑があるのかはまだ未知数だが、少なくとも楽勝とは行かない相手だ。

 

「流石だな。それで、どこを戦場にする?」

「その前にだ、アルカード。首突っ込む気なのはいいとして、この場は敵じゃないと考えていんだよな? そこだけハッキリさせておきたいんだけど」

「無論だ。天使だろうが堕天使だろうが悪魔だろうが、獲物の横取りを許すほど私は惰弱ではない」

 

 冷たい殺気に彩られた鋭利な微笑みでそう宣うも、俺に対する殺意と闘争心も思い切りぶちまけている辺り、最高に信頼できるが最低に信用出来ない。

 

 戦闘狂の見本のようなこいつが戦闘中につまらない真似をするとは思わないが……戦闘後は分からない。いや、この予感は多分当たるな。

 

 まあいいや。それもいつものことだ。とにかく今は目前の敵に集中しよう。ペースを早める俺に二人と三人が追走し、やがて不毛の荒野が見えてくる。

 

 ドガァァン!

 

 ついこの間譲り受けたばかりのフェニックス領の荒れ地に勢い良く着地し、素早く振り向く。視界に映る三色の敵に狙いを定め、両手を前に突き出した。

 

「木遁・金剛剣樹!!」

 

 ドドドドドドドドドドドド!!!

 

 地鳴りとともに大地から突き出た無数の巨木が敵へと向かって伸び続け、無数に枝分かれする鋭利な先端が高速で敵へと迫る。あわや串刺しという寸前、敵はそれぞれの得物を構え、一人は薙ぎ、一人は放ち、一人は撃った。

 

 ズバァァァァァァン!

 

 呆気無く粉々にされた木々に思い馳せる間も無く、赤い鎧姿の敵の一人が身の丈を超える大剣の切っ先を俺に向け、憤怒を滾らせた声で言い放った。

 

「赤龍帝ドライグ――我らが(あるじ)はどこにおられる?」

 

 ここへ来てようやくはっきりと観察した相手の姿は――荘厳にして異形。全身鎧に身を包んだ上半身と、同じ色の装甲で覆われた馬の首から下の下半身を持つ存在。鎧の形状と色、そして武器こそ異なるが、大まかな姿形は全員大分似通っている。赤い鎧は大剣を、黒い鎧は天秤を模した杖を、白い鎧は弓を、それぞれ携えている。更に……。

 

 バサァ。

 

 背中に生えるは金色に輝く天使の翼と、漆黒よりも深い堕天使の翼、淡い緑色の悪魔の翼の三対六枚の翼。その威容にたる質と量の光力と魔力を備えた存在は、矛盾の塊にも関わらず自然が齎した芸術の様な完成度を誇っている。

 

 全てを総合して、異形と言う他にない存在に対する本能的な恐怖と警戒心から、自然と俺は前羽の構えを取っていた。

 

 力の大小なら、確かに奴らが上だろう。だが、単純な力だけならそれほど大きな差はないし、そもそもこの感覚はそう言った類のものじゃない。どちらかといえば、竜殺し(ドラゴン・スレイヤー)や聖剣、十字架に対するそれに酷似した忌避感と危機感。

 

 

 転生とはいえ、俺にも確かに備わっている悪魔としての本能が告げている。アレは悪魔、天使、堕天使の全てを兼ね備え、同時にそれら全てを否定する存在だと。

 

 それに該当しうる存在を、俺は一つだけ思い起こした。

 

「まさかあれは……黙示録のっ!?」

 

 呆然と呟いた単語を拾い上げたアルカードは、意味深に笑って肯定の意を口にする。

 

「そうだとも。奴らこそ、黙示録に記された滅びの導き手。聖書の神によって生み出された最強の生物兵器。天使にして悪魔にして堕天使という矛盾に満ちた存在であり、その全てを終わらせる役目を持たされし者。黙示録の四騎士の、赤き闘争(レッド・ウォー)白き支配(ホワイト・ルール)黒き飢饉(ブラック・フェイミン)だ」

 

 ――ッ! 黙示録の四騎士だって!? なんだってそんな連中がこんな所に! ていうか、あんな連中に名指しで物を尋ねられるって、どういうことだよドライグ!? 主ってまさか……。

 

『いや、違う。奴らが求めている主とは聖書の神ではなく、あそこにいない最後の一人。そして連中が俺に聞きに来るのも無理は無い。黙示録の四騎士のリーダーたる、『青き死(ブルー・デス)』は……かつて、男性の中で最強の赤龍帝だった男、ベルザードの手で封印されたのだから』

 

 ――ッ。

 

 あまりにぶっ飛んだ展開が続いたおかげで、逆に冷静になってきたぜ。

 

 要するにだ――いつもどおりヤバイ連中が来たから拳で歓迎しろってことだよな!

 

 既に相手は臨戦態勢、話し合う余地も欠片も見いだせない、そもそもがヤバイと分かる出自。どう考えたって荒事にしかなり得ない以上、まずは殴り倒してから考える! つうかあっちも似たような考えだし。

 

Grave(グレイブ) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!!!!!』

 

 重龍皇の鎧(ローディング・ギア・スケイルメイル)を装着しながら十字の印を結び、高密度の魔力を帯びた三体の影分身を正面から突っ込ませる。

 

 まず一人は一気呵成に赤い騎士へ殴りかかり正面から切り裂かれ、二人目は無数の手裏剣を白い騎士へ投擲して手裏剣と弓矢に貫かれ、三人目はドラゴンショットを黒い騎士へ放つも霧散しかけた魔力弾ごと砲撃に飲み込まれた。

 

 ボボボン。

 

 影分身が消えると同時に、その経験が俺に反映され、一つ頷く。

 

 ……成る程。そこは伝説通りってわけだ。それなら、こっちもやりやすい。

 

 前方への警戒を怠らないまま首を動かし、レクナから白騎士、アルカードから黒騎士へと視線を巡らせ、直後に正面から突っ込む!

 

『Jet!』

 

 ゴオオオオオオオオ!

 

 ブースターを噴かせる俺を前に騎士たちは身構えるが、そこへ二人の女が割って入る。

 

 ズガァァァァァン!

 

 レクナは白、アルカードは黒へと、それぞれが莫大なオーラを圧縮させた渾身の蹴りをぶちかます。防御障壁をあっさり破壊して本体に直撃した結果、俺の前から四人の影が一瞬にして消え失せた。

 

 吹き飛ばされる仲間にもそれを追撃しようと追う二人にも一切の揺らぎも見せない赤が俺に戦意を向けた瞬間、俺の中で爆発が起きる。

 

 精神を根こそぎ焼き尽くさんとばかりに燃え上がる闘争心と破壊衝動。素人はおろか熟練の戦士でさえも何の対策も無しにこれを受ければ、我が身がどうなろうと目につく全てを殲滅せんとする邪龍にも似た狂戦士と化すだろうと確信させられる。

 

 これが地上を争いで満たすと言われる、赤き闘争の力。対する赤騎士は過剰な闘争本能の励起に我を忘れかけているように見える俺を隙ありと見たのか、頭上に構えた大剣に壮絶なまでのオーラを凝縮させ、一直線に振り下ろしてくる。

 

 普通ならば、例え特A級の達人だろうとこの一太刀は避けられない。速さや技量以前に、闘争心に滾る心は目の前に存在するものを倒すことしか頭にないのだから、それも当然と言える。

 

 どんな強固な障壁や防護策を施しても、こいつの影響は完全には防ぎきれないだろう。常人を遥かに超えた相当な精神力の持ち主でも、大なり小なりの影響は受ける。それほどまでに、今この身に受けている四騎士の能力というのは強力無比だ。

 

 すぐ近くで争う二人の騎士もまた、白は魔力や魔獣などあらゆる存在を支配する力を持ち、黒は他者の力を吸収して自らや他の騎士の糧とする力を持つ。

 

 更に影分身から還元された経験を思い起こすと、出力の差以上に魔力自体が連中の攻撃に対して脆い感触だった。そこから鑑みるにこいつらは魔力と悪魔――だけでなく、恐らくは三大勢力の全てに絶対的な相性を持っている。

 

 そして当然、パワーやスピードといった基本的な戦闘能力も極めて高い。魔王級の実力者でさ、え正面からでは危うすぎると断言してもいいだろう。

 

 だけど――この場に関しては相手が悪過ぎた。

 

「真覇連衝拳!!」

 

 ズドォォォォォォォォン!

 

 刃の軌跡から反射的に身をかわし、全力の拳を叩きこんだ。赤騎士が胸部に大きな空洞を開けて仰け反ると、何が起きたのかを把握されるまえに篭手の内部から直接手元へ出した龍一文字を掴み、居合いでもって兜の天辺から真っ二つに切り裂いた。

 

 覗けた内部にはやはり中身が無い。一見すると鎧等の物品に魂が宿ったデュラハンやリビングアーマー、付喪神に類似する様にもおもえるだろうが、実際は逆だ。

 

 本来、肉体を始めとする容れ物に入っていない剥き出しの魂というのは酷く脆い。幾つかの例外を除けば、それ単独では基本的に大した事はできない。そして、強大な力を持つ黙示録の四騎士の魂は例外中の例外だ。

 

 こいつらにとって、鎧の身体は戦闘を行う為の武器にすぎない。何度鎧を破壊しようが原形であり本体となる魂が無事な限り、幾らでも鎧を再生させて戦い続けるだろう。

 

 だからこそ俺たちならば戦える。

 

 殴りたいものを殴る程度の能力を持つ俺と、精神や魂といった実体を持たないものにも接触できる反抗の魔力を持ったレクナは勿論、アルカードもまた魂や霊体に直接ダメージを叩き込む力を持っている。

 

 覇気やチャクラを有し、通常の悪魔とは力の性質はおろか存在的に大きく異なってる俺とレクナ、そして吸血鬼と呼べるのかも疑わしいアルカードには、黙示録の四騎士だろうと一撃で決定的な痛手とまでは至らない。戦力で対抗できるなら、後は相性のいい相手とぶつかるだけだ。

 

 他を支配する白騎士には反抗の魔力を有し近距離戦に長けたレクナ。他者の力を奪う黒騎士には自分の力を凝縮して『凍らせる』事ができるアルカード。闘争心を限界以上に煽る赤騎士には、どんな精神的状況でも自我を維持できる俺があたり、更にはチームプレイを警戒して連中を引き離しそれぞれが一対一で戦う事を徹底する。

 

 上手くその状況に持ち込めた甲斐もあって、優勢に戦えてはいるが……その事が逆に胸に湧いた違和感を大きくしている。

 

「無明神風流・みずち!」

 

 ブワァァァァァァ!

 

 刀と共に振り下ろされた剣気が柔らかく暖かな大気と化して赤騎士を飲み込み、一瞬の後にその装甲を粉々に切り裂く。鎧が治るまでの一瞬の間に万華鏡写輪眼に捉えた奴の魂は確実に消耗しているが、そんなことが吹き飛びかねないような『異常』が、俺の眼には映り込んだ。

 

 励起される闘争心に慣れたためか、魂を直視したからかは分からないが、それは些細な、だけど信じがたい異常だった。

 

 警戒心から刀を戻して距離を取ると、鎧を修復する赤の下へ同じく満身創痍の白と黒が合流する。それぞれ別方向から自分の相手を追ってきたレクナとアルカードに俺も合わせて、三方から敵を囲む格好となった。

 

 それぞれの敵へ向き合い、背中合わせの状態で武器を構えながら、赤騎士は眼光を細めて俺を――正確には、俺の左腕の篭手を睨みつけると、わなわなと身を震わせ始める。

 

「……おのれドライグ!! 肉体が滅びてなお、どこまで主を、我らを苛む……ッ!!」

 

 臓腑の全てを絞り出すかのような怒りと怨嗟に、俺は異常の事を脇にどけて構えを取った。今にも襲いかからんとする赤き闘争へ、背中越しに白き支配が声をかける。

 

「アドム、ここは退くべきだ。我らの目的はあくまでも……」

「分かっている。シャホル!」

 

 黒き飢饉が杖を構えると、強烈な光が辺り一帯を覆い尽くす。その中でもはっきりと転移魔法陣に包まれる奴らの姿を捉えながらも、俺はあえて静観を選ぶ。

 

 姿を完全に消す最後の一瞬まで……三騎士は一様に、神器に宿るドライグへ怒りをぶちまけていた。

 

 

 

 

 

 襲撃者の姿が消えた後、即座に出戻ったホテルの敷地を直し終わった頃には、冥界の紫色の空も少し明るくなっていた。ホテルの経営者や支配人と話をしているレクナを横目に、俺は赤龍帝の篭手に意識を向けた

 

 ドライグ。何がどうなってんのか、ちゃんと説明してくれよな。

 

『ああ、分かっているとも。だが、この話は俺たちの間だけにとどめておいていい話じゃない。少なくとも、三大勢力のトップには伝えておく義務があるだろう。特に俺にはな』

 

 そうか。まあ、黙示録の四騎士なんて怪物が相手だしな。

 

 黙示録の四騎士の主、封印された『青き死』か……。あいつらもその封印の場所は把握してないみたいだけれど、ドライグはどこまで知ってるんだ?

 

『俺にも正確な位置は分からん。何せ青き死が封じられた空間は、今でも次元の狭間を漂っているだろうからな。そこへ辿り着くためには、四つの鍵がいる』

「それがこれだろう?」

 

 すっと、目の前に滑りこんできたのは……赤龍帝の篭手に嵌めこまれているものと寸分違わない、緑色の宝珠。それを掌に乗せた白い吸血鬼は、思わず顔を上げた俺に底冷えしそうな熱気を伴う、恍惚の表情で舌なめずりをする。

 

「かつての歴代最強の赤龍帝ベルザードが、自らの命と覇竜(ジャガーノート・ドライブ)の力を楔として青い騎士を封じ込めた際に、万が一の時の鍵として彼が遺した、当時の赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)の宝珠……これを四つ揃えることで、次元の狭間を漂う封印の空間へ辿り着くことができる。だろう、ドライグ?」

『貴様ッ……一体なぜそれを!?』

「女の情念、かな? それで、当然イッセーはこれを求めるよな」

 

 周りくどい言い回しに嘆息すると共に、その先を予想して、若干心がざわついてくる。

 

 こみ上げる衝動に口角を吊り上げながら、俺は問いただす。

 

「……契約の対価、って事か?」

 

 そう言った途端、心底堪らないと言った笑みで宝珠を魔法陣へしまったアルカードは、至近距離に顔を寄せながら、冷たい吐息と共に言う。

 

「――要求は三つ。一つは、私を吸血鬼として兵藤一誠の眷属にすること。二つ目に、悪魔としての眷属とすること。最後は……私とたっぷり殺し(愛し)合え」

 

 ジュル。

 

 唇がふれあい、口腔内に挿し込まれる舌を一通り絡ませてから、その舌に牙を突き立てた。

 

 柔らかい感触を存分に味わい、この後の愉しみに想いを馳せながら、俺はアルカードの舌へ、俺とアルカードの血を混ぜた混合液を流し込んだ。

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