ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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 今回もイッセーがやりたい放題です。


Life.89 戦闘、アルカード。

「さて……そんじゃあ定例会を始めますか」

 

 つい先日までは敵陣とされていた堕天使の施設に足を運んだ熾天使の長と魔王にかけた堕天使総督の言葉に、円卓についたミカエルとサーゼクスは真摯な態度で頷いた。

 

 やれやれ……和平を結んだ事で禍の団(カオス・ブリゲード)対策に専念できると思った矢先に三騎士が復活とは。幸先悪いと言うべきか、むしろ協力関係が結びやすくなった直後だったのが不幸中の幸いと見るべきか。まあ良い方に取っておくか。

 

「わざわざ堕天使領まで呼びつけたのは他でもない。このデータを見てくれ」

 

 手元のパネルを操作してテーブル中央に表示されたのは、数百年前に掛けられつい先日破られたばかりの封印の術式。強固に練り上げられた魔力と光力を重ねあわせ、支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)を楔とすることでかの三騎士を封じ込めていた代物だ。

 

 しかし、二人が眼の色を変えたのは、その隣にある方のデータだった。

 

「これは……アザゼル、何があったんだ」

 

 サーゼクスの詰問に、頭を掻いて答える。

 

「何があったどころか、何もなかったんだよな。封印が解かれたってのに、俺らにその報せが伝わる術以外、非常時の術式が何にも発動していなかった」

 

 今回のヴァーリの様に支配の聖剣を狙う者だけでなく、禍の団の様に現政権に不満を抱いたりした者が三騎士を利用しようと封印に手を伸ばす事は想定していた。そこで封印を守るのは勿論、封印が解かれた際に起動する幾つかの非常用の術式を仕組んでいたんだが……ほとんどが発動前に破壊されてやがった。俺らへ非常事態を伝える以外のもので唯一まともに起動したのが地脈の力を利用してギリギリで封印術を持たせるというものだったが、それも数十分程度の足止めにしかならなかったようだ。

 

「まさか……ヴァーリ・ルシファーが? 彼の目的は支配の聖剣だけでなく、三騎士まで範疇であったと? だとすれば、禍の団は黙示録の四騎士を迎え入れるつもりなのでは!?」

 

 席を立つ勢いで身を乗り出して焦るミカエルに、俺は手をかざして首を横にふる。

 

「いや、術式の大半は内側から破壊されていたし、ヴァーリはともかく旧魔王派の首魁共にそこまで思い切った決断が取れるとも考えにくい。仮にそうだとしても……三騎士が青き死(ブルー・デス)以外に従う事も、青き死が使命以外に従う事もあり得ない。そうだろ?」

 

 過去を反芻するかのようにゆっくりと頷く二人の顔に、俺の記憶の奥底から終焉の奏者(トランペッター)の称号と力を与えられたあの女の姿が浮かび上がる。

 

 怒りと絶望に突き動かされるがままに暴乱の限りを尽くし、神によって『引き裂かれた』上で封印された聖書の神の被造物において最強の存在。神の死の後に一度だけ解放され、滅びをもたらそうとした結果、歴代最強の赤龍帝によって封じられた死を司る者。

 

 ――奴は誰にも従わない。ただ『役割』に沿って滅びと死を齎すのみ。それが奴の結論だ。

 

「……それにしても、幾ら要となる支配の聖剣を失くしたとはいえ数百年の封印が解かれたほぼ直後の状態で術式をほとんど破壊するとは。何か、三騎士を活性化させる他の要因があったのか?」

 

 顎に手をやって考えこむサーゼクスの呟きに、俺は腕を組んで頭を動かす。

 

「ん~。可能性として一番高いのは、青き死が何らかの原因で活性化して、その影響が奴らにも及んだって所だろうが……」

 

 あの封印式の強力さは、主導で術式を組んだ俺がよく知っている。あの中にいるにも関わらず何かしらの干渉を受けると、よほどの繋がりがなければまず出来ることじゃない。ぱっと考えた限りじゃ、『大本』である青き死に何かが起こったから、と考えるのが一番無理がない。

 

 ……ん? ちょっと待てよ? なんか今、頭の片隅で何かが引っかかったぞ。

 

 『歴代最強』だった『赤龍帝』の『覇龍』による封印。そして、それを使って封印された青き死。そして、封印の中でも影響を及ぼす『強い繋がり』。

 

 …………………………。

 

「アザゼル? ど、どうしました、その青い顔と滝のような汗は?」

「……なあ、二人共。俺は今、思いついたこの答えが原因である可能性は既存の観点からすればかなり低いと見ている。だがもし……あの理不尽の権化みたいなおっぱい馬鹿なら、有り得そうな話ではあると思うんだ」

 

 理不尽の権化という表現か、それともやはりおっぱいという単語か。どちらが決め手にしろ、二人が俺と同じ人物に思い至ったのはその苦虫を噛み潰したような顔から察せられる。真っ先に頭に浮かんでしまった俺に関しては、もうあの馬鹿一択だ。

 

 かき集めた情報がガンガンと裏付けを築き上げる中、データ収拾と解析を手伝ってもらった神からのありがたいお言葉が脳内を駆け巡る。

 

『こういう意味も原因も分からんような現象に関わっている節が見られるのであれば、イッセーはほぼ間違いなく大なり小なり関わりがあると思ったほうがいい。だってあいつ、馬鹿だもん』

 

 ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!

 

 思考に埋没していた意識が、衝撃と轟音に引き戻される。妙に覚えのある力の波動を感じると同時に、部下の堕天使から緊急通信が入ってきた。手元のスイッチを押すなり、背後の混乱と共に焦りを多分に含んだ声が室内に響く。

 

『緊急事態です、アザゼル総督!!! この施設から数百キロ離れた私有地にて、赤龍拳帝が突如として出現し、何者かと戦闘を繰り広げています! 周囲はマラコーダと妲己による結界が張ってありますが、明らかに余波による影響は防ぎきれておりません!!

 それどころか規模がどんどん……ッぅう、うわあああああああッ! て、て、天変地異だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

「たく、慌てんのは構わないから仕事しろ! とりあえずドンパチやってる馬鹿の映像をこっちに回せ!」

 

 絶叫の続く通信を切り、指示通りにこちらへ回ってきたリアルタイムの映像を円卓上に映し出す。

 

 そしてそれは、どんな奇跡だったのやら。

 

 ざっと目測で高さ数百メートルにも及ぶ溶岩の大津波が、同等の規模の大雪崩と正面からぶち当たる直前という決定的瞬間の直後、再び爆音と衝撃が轟いた。

 

 

 

 

 

「ニューボルツ・シン・グラビレイ!」

 

 ズアアアアアアア!!!!

 

 溶岩津波が雪崩に呑み込まれる直前、ワームホールで距離を詰めた俺は目の前のアルカードへ最上級の呪文をぶちかます。ブラックホールにも近い引力を持った重力球にアルカードの動きが止まるが、恐らくは持って十数秒。その隙に!

 

「木遁・樹縛総栄葬(じゅばくそうえいそう)!!」

 

 地面からアルカードへめがけて無数の大木が生い茂ると同時に術の核である重力球が凍りつき、握りつぶされた。

 

 だが、それも予測済み! 左篭手の宝玉から鎖付きの楔の形状に変化させた龍一文字を放ち、それは逃げる間もなくアルカードの全身を雁字搦めに拘束した。

 

 調整が上手く行っているようで何よりだ! 咄嗟の加減こそまだ難があるが、事前に出力設定や能力選択を済ませておけば問題はない。

 

「オン・ナガラジャテュハン・イセイ・ソワカ!」

 

 ヴゥン。

 

 鎖の表面に浮かび上がるルーン文字、梵字、その他様々な言語や紋様がアルカードの力を封じ込め、それを更に大木が覆っていく。

 

 ドドドドドドドドドドドド!!!

 

 アルカードを中心に次々と樹木が絡み合い、大きさを増していく大樹へめがけて練りに練った炎を吹きかける。

 

「火遁・豪火滅失!!」

 

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーッッ!!!

 

 根本から天辺まで一気に燃え広がり、灰も残さず焼け落ちようとしている大木から、俺は一気に距離を取った。

 

 パキィィィィンッ。

 

 高層ビルよりも巨大な大木を、燃え盛る炎ごと凍らせるという狂った偉業には余りに不釣り合いな程小さな音。胸がすくような響きに心が揺れるよりも速く、端正な美貌に狂気の笑みを浮かべた化け物は正面から襲いかかってきた。

 

 ズババババババババババババッッッ!!!

 

 紙一重で返ってきた龍一文字を篭手にしまい、一瞬で数千手に及ぶ攻防を繰り広げた末、弾かれるように距離を置いて片手同士で対面する。

 

 だが、向こうはいとも容易く損傷部位を回復させるのに対して、こっちは凍りついた傷口を溶かして再生させるのに一秒もかかっている。一瞬が生死を分かつ戦いにおいて、これは致命的なアドバンテージだ。

 

 攻撃力と速さは向こうが上だが、防御力と技術なら俺が上。術主体ならともかく、近接戦においては互角と言っていい筈なのに、明らかにこっちが圧されている。その原因は……決定的な熱量の差。

 

 アルカードの冷気がセラや氷美神より強烈だってのは知っている。だけど、俺自身が未だ全盛期に届かない事や、俺の眷属になって力が底上げされたって事を考えても、こうも容易く俺とドライグの炎が凍らされるだなんて……ッッ。

 

 何より……。

 

「――ハァッ」

 

 最初はこれ以上ないと思えるくらい興が乗っていた所からどんどん熱を失っていった、眼球全体が真紅に染まったアルカードの視線。体から発せられる絶対零度を下回る冷気との温度差で白く色付くため息は、持ちこたえるだけで精一杯になっている俺に対してつまらない、白けたとばかりに心から排気される熱気に思える。

 

 過度なまでの落差は演出地味たものを感じさせ、それが一層俺に苛立ちを与えてくる。

 

 あんなものはいつもの事だ。俺が今まで散々向けられた、蔑視や嘲笑と何ら変わらない。付け入る隙以外の何でもない。だってのに……この、腸が煮えくりかえる怒りはなんだ? アルカードに対してじゃない……奴に卑下される自分自身へのこの怒りはッ!

 

 怒りに歯噛みする俺を見かねた様に、アルカードは俺を睨みつけた。

 

 冷たく純粋な殺気に芯から凍り付きそうな体を震わせながら、俺は万華鏡写輪眼でその視線に対抗する。

 

「イッセー……随分と利口になったなぁ。私が初めて眼にした時の貴様は、もっと素敵に馬鹿だったというのに」

 

 悲しむような口振りに、微かな違和感を覚える。初対面じゃなく、眼にした時って……こいつ、あの魔女の谷帰りの山道が俺との初対面じゃなかったのか?

 

 マスク越しでも、瞳の微かな揺らめきでこっちの機微を察したのだろうか、アルカードは嬉しそうに口元をつり上げ、語り出す。

 

「あれはそう……灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)が開いたメフィストフェレス主催のパーティーでの出来事だ。あれに私も呼ばれていたのさ。最初は一般出身という事で物笑いの種にしかならず、イッセーもそれを慣れたものという体で甘んじて受け入れて、料理を楽しむだけだった。だが……身の程を知らない阿呆が一人、そこへちょっかいを掛けた。

 最初は適当に聞き流すだけだったが、相手の話題が先祖自慢から両親への嘲笑に移った瞬間、イッセーは表情を一変させた。そこで止めておけばいいものを、まさは手は出すまいと高をくくった根性なしは、四度目の侮辱で全ての歯を顔面ごと粉砕された」

 

 ああ、あったな。あの時は一応、周囲に釘は刺されてたんだけど、その一方で神さんとかからは『我慢ならなくなったら我慢せずにとことん殺れ』って言われてたから、もう徹底的に殺った。

 

「ほんの数秒で生きている以外は肉塊同然にされた跡継ぎの事を詰め寄った父親が同様に血筋のことを侮辱した瞬間、息子と並べて仲良く血達磨。更に一族連中が煩いものだから、遂には巨大ロボを持ちだし、その場にいた一族のほぼ全員を再起不能になるまで叩きのめして、たった数分で世界有数の魔法使いの一族をほぼ壊滅状態に追いやった」

 

 ふう、とため息をついて、アルカードは話を進める。

 

「……まあ、これは閑話休題と言ったところだな。迂闊に龍の逆鱗に触れた愚か者共などどうでもいいが、貴様に関しては看過できん。イッセー……さっきから一体、何を躊躇している? 貴様の衝動は既にはち切れんばかり。腹の底に熱が溜まり過ぎて、この冷気の中でもあてられそうなくらいだというのに。楽しく遊びたいんだろう? さっさと火薬庫(おもちゃばこ)をひっくり返せ」

 

 闘気と共にぶつけられる挑発を前に、俺は思わず眼球と背中へ力を込める。

 

 ドグンッッッッ!!!!!

 

「ッ!!」

 

 混ぜ合わさり、馴染み、一体となって躍動するエネルギーを反射的に抑えこむ俺の抵抗は、多分ヒビだらけの鶏卵にも似ているだろう。要するに……孵化寸前って感覚だ。

 

 ――この一線を超えれば、アルカードにも十分対抗できる。だが、あと一歩。殻を破る最後の段階が踏み出せない。

 

 同時に、そんな煮え切らない自分が酷く腹立たしいッ……。こんな事で人間名乗れなくなるようなら、端から意地なんか張ってない筈なのに……!!!

 

 ググ……ッ。

 

 例えようのない混沌とした内心に力むあまり、拳を握りしめて震える俺を見て、アルカードは突如殺意を和らげて、雪解けの様に柔らかい笑みを浮かべた。

 

「あぁ……少しずつだが良くなってきたじゃないか。それでいいんだよ」

 

 艶めかしく顔を赤らめ興奮に舌なめずりをすると、アルカードは俺を指差しながら言い放つ。

 

「貴様は紛れも無い化け物だ。だが同時に人間以外の何者でもない。

 ――自分が人間である事に拘るような存在が、人間でなくて何だという。重要なのは肉体や力の質ではなく、どうあるか、そして何を為すかだ。下らない定義に惑うな。悩むな。

 でなければ私がいい加減……辛抱たまらなくなるだろうっ」

 

 ダラァ。

 

 自らの身体を両手で掻き抱いたアルカードは、身震いと同時に愉悦と狂喜と期待に歪む口から大量に涎が溢れ出させる。扇情的に潤む眼球は再び真紅に輝き、神域の圧力で自らの高揚を俺に知らしめてくる。更に追い打ちをかけるがごとく、その力の質は俺に近い形で高まっていく。

 

 おいおい。可能性としては俺も考えちゃいたけれど……マジかよ。こいつ。

 

「あぁぁっもう、本当に堪らないぞイッセー。

 今だから白状するが、私がお前にここまで拘る理由には、人間だ化け物だなど、さして関わりはないんだよ。なぜなら、イッセーはイッセー以外の何者でもないのだから」

 

 暴力的な勢いで昂ぶる覇気に身構える俺に対して、もう完全にイッちゃてる系の笑顔のままアルカードはなにやら妙な告白を始めている。気にはなるが気にしている余裕はあんまりない。

 

「私がお前に拘る理由。それは……単なる一目惚れだ」

 

 ――。

 

 ハイ? ヒトメボレ? なにそれおいしいの?

 

 え、え? ちょっと待て、ひとめぼれって一目惚れでいいんだよね? それが俺に拘る理由って……えっ。

 

 ええええええええええええええええええええェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッッ!?

 

「おま、お前、じゃああの谷で襲いかかってきたのは!?」

「最初はもっとまともな形で面識を持ちたかったんだが、いざ面と向き合うと気恥ずかしいやら嬉しいやらで、ついはしゃいでしまった」

 

 はしゃいで人を殺そうとするんじゃねえよ!! しかもお前が周囲を凍りづけにしまくった挙句に逃げ出すもんだから、後始末全部俺がやったんだぞ! それを今更、一目惚れって……。

 

「つうか、なんで? 俺の何に一目惚れしたってんだよ!?」

「そんな事は些細な事だ。人を好きになるのに理由はいらん。私は貴様が好きだし惚れているし愛している。それが全てだ。だから……もう我慢の限界だ」

 

 きっぱりと言ってのけるアルカードの全身を、氷が覆っていく。絶大な覇気がその氷の中で凝り固まり、形を成していくのが肌で実感できる。

 

 ほんの一秒で完成した、白く硬い結晶。その中から音も無く、いや音を置き去りにして鋭い爪を突き出した、毛むくじゃらの腕。そこから氷の結晶にヒビが広がっていき……腕が横に動いた瞬間、数瞬遅れで砕けちった。

 

 バギャアアアアアアアアン!!!

 

 中から現れたアルカードの姿は、神々しい。その一言に尽きた。

 

 両腕の肘から先と両足の太ももから下は狼の体毛に覆われ、二十本の爪は刀剣の様に鋭利に研ぎ澄まされている。頭部からは耳が生え、背後からも一本の尾がゆらゆらと現れている。手足と同様の体毛が乳房等の部位を申し訳程度に覆っているが、そこに淫靡さや卑猥さを感じる余地もないほど、荘厳な迫力を纏っている。

 

 その全身の体毛は、毛髪も含めて――大陽に照らしだされる銀世界のように、白銀に輝いていた。

 

 深く呼吸をしながら、俺はゆっくりと尋ねる。

 

「なあ、アルカード……それは神化の結果か? それとも、それがお前の本来の姿なのか?」

 

 あえて超神化とは言わなかったのは、アルカードの状態故。変貌を遂げた奴が、確かな神格を有していたからだ。

 

 本来、覇気を極めたものが通常行き着く先は神化――文字通り、神格を得て神となる事。神さんいわく、覇気とは人が神へ到達する事を目的として外世界の概念や技術を元に神さんが編み出したものであり、今の今までそこに例外はいないとの事だった。しかし、俺が到達した超神化は、通常の神化とは大きく異る側面を多分に孕んでいた。

 

 超神化は神格を齎さず、同時に神となった結果である不老長寿も得られない。代わりとばかりに、覇気自体の向上や身体能力の強化は神化を大きく上回った。神さんに言わせれば、それは神ではなくただ純粋に最強を目指した俺が見出した、もう一つの境地との事。

 

 俺の眷属と化した事で俺の影響を強く受け、その結果覇気を得たものが神化や超神化に足る程に覇気を高めた者がどちらに至るかは、興味はあるが分からない。今の所、レクナや妲己はどちらも至っていないが。

 

 そんな俺の内心を知ってか知らずか、アルカードはあっさりと訂正を口にする。

 

「一つ言っておくが……これは恐らく超神化だ。何せ、私は元々神だからな。錆つき、しまい込まれていた神性が、超神化の影響で活気づいただけだろう。

 私のかつての名は――ホロケウカムイ。北海道、古くはアイヌモシリと呼ばれた地にて、狼の神と奉られし者。これが私の本来の姿さ。髪や毛が輝いているのは超神化による変化だがな」

 

 ホロケウカムイ……カムイモシリに赴いた際に、噂だけは聞いたことがある。守神オキクルミや英雄ポイヤウンペに並ぶ、アイヌ神話最強の一角。ある時忽然と姿を消したとは聞いていたけれど……こいつがそうだったとは。だからあれだけの冷気を操れるのか。

 

「それがなんで、アルカードなんてあからさまな名前で吸血鬼に……ッ」

 

 アルカードの瞳、狂さんと同じ真の紅い眼の視線が俺を射抜いた瞬間、俺がその前段階である紅い眼になれるという事実が頭の中で繋がり、眼球への疼きを伴ってその推論を肯定する。

 

 答えに困惑する姿に今度こそ感極まったのか、アルカードは柔らかく微笑むと同時に一気にオーラを増大させて、呟いた。

 

「プロモーション女王(クイーン)

 

 ゴォッッッ!!!!

 

 最大値と思われた所から更に跳ね上がったオーラは、前に戦ったレクナを大きく上回っていた。

 

 進化を遂げた俺の駒とリンクした事で俺の眷属の悪魔の駒(イーヴィル・ピース)にも多大な変化が生じている可能性があるとアジュカ様は言っていたけど、大本である俺と同じ駒である兵士は、特にその傾向が強い。

 

 主である俺の許可も無しで昇格出来る上に、明らかに通常のプロモーションを大きく超えたパワーアップが生じるという、俺の兵士(ポーン)の異常性。その恐ろしさを今正に我が身で実感するばかりだ。

 

 こちらも前羽の構えで対抗しようと腕を上げた正にその時、アルカードは動き出した。

 

 ヴァグン。

 

 狼の牙を備えた美獣は、一噛みで俺の左腕を肘から食い千切ってみせた。断面から血が噴き出るよりも速く腕を咀嚼し飲み込んだ白銀の狼は、次の一口を得ようと、血と涎の混合液を垂らしながら飛びついてくる。

 

 正面からこちらに近づくアルカードを前に、俺はただ見ている以外の行動が出来ず、今度は左腕が肩口から持って行かれた。理由は単純明快に、それだけ奴が速過ぎる。万華鏡写輪眼で動きを認識することは出来ても、体が速度について行けない。

 

 呪文を唱えようとすればその前に喉を喰われ、移動先を読んで攻撃しようとすれば振るった手足を引き裂かれ、龍一文字を投げつけようとすれば槍状に変化させた所で槍を残して右腕が食いつくされた。

 

 鎧をいくら硬化させても、全てを凍てつかせる冷気によって凍りついた装甲はいとも容易く打ち破られ、肉体ともども貪られる。理屈もクソもないただただ純粋な冷気と速さを前に、俺に取れる選択肢は再生に力を注ぐことだけだった。

 

 俺の眷属となってグルメ細胞を宿したアルカードにとって、俺の血肉は適合食材となるのだろう。体を喰われ始めてから、どんどん速度も力も上がっている。俺への恋慕、力を振るう快感、嗜虐心、食欲。全てが綯い交ぜになりつつも膨れ上がる衝動を抑える気がない事は、潤む瞳やほんのりと赤らむ白い肌からも明らか。

 

 そして今の状態の俺ではアルカードに勝てないのも、歴然たる事実だ。

 

 速さが足りない。力も熱も及ばない。

 

 手の届く力に手を伸ばさない自分への苛立ちと、圧倒的な速さへの羨望。そしてそれを魅せてくれる白銀の狼への情欲が入り混じり、爆発寸前と思われるラインを大幅に割って膨れ上がる最中、俺の体のほぼ全てを食いつくしたアルカードが、扇情的に笑って右腕に冷気を集中させる。

 

「全力を出さないというのならばそれも一興。凍らせて邪魔の入らない所へ移動してから、ゆっくりと蕩けさせてやる。私の肌で、な」

 

 ――ブチッ。

 

 限界を超えさせたのは、ふつふつと煮えたぎる複数の感情でも、眼球と背中の疼きでもない。

 

 子供っぽいというか単純というか、いっそちんけと言われても否定しようのない程、つまらないもの。

 

 要するに……ものにしたい女に負けてられるかって男の意地だよ畜生がッ!!!

 

 ギィン!!!

 

 弾けた力はまず眼球へと注がれて、目玉が大陽にでもなったのかと思わせる程の熱を感じる。熱は全身へと波及していき、満遍なく行き渡った所で出口を求めるかのごとく、背中に収束していく。

 

「くっ、ぬ、うっっ。ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!」

 

 雄叫びを上げて熱を制御しようとする俺にアルカードも凶悪に笑いながら、冷気を爪に集中させて右腕を振るった。

 

 冷気の刃が直撃した途端、負けじと体が発熱し、冷気を容易にかき消した。それが切っ掛けとなったのか、突如背中に感じていた熱が楽になる。

 

 何事かと振り向いてみると……何か色々生えていた。髪が伸びて赤く輝いているのはいつものことだが、問題は背中の、六対の翼。

 

 一番上は普通の、赤い龍の翼だが、二枚目と三枚目はそれぞれが炎と血が龍の翼を象っていた。そこから黒い悪魔の翼に、少し趣の変わった黒の堕天使の翼、最後は金色の天使の翼と続いて、締めとばかりに背後に赤い光輪まで浮かんでいる。

 

 マスクを解除して自分の顔を掌に錬成した鏡に映してみると、眼球は想像通りに真の紅い眼と化している。けれど瞳の位置に万華鏡写輪眼の模様はそのままあるから、個人的にはあんまり代わり映えしてない。

 

 まあ、外見の変化はこの際どうでもいい。大事なのは中身であり、そしてその変貌っぷりは正直、想像をかなり超えている。

 

 最初に気を引いたのは、身に宿る神格……半神とも呼べない程度だった筈のそれが、完全なものになっている。しかも質が高すぎる……下手すると主神級以上じゃねえのか?

 

 体内に溢れる様々なエネルギーは一切の違和感なく溶け合い、相乗する力の奔流は淀みなく全身に行き渡る。

 

 何より、この心地いい安心感と高揚感。まるでこれこそが本来あるべき姿とでも錯覚しそうな……。

 

 いいや、違う。その通りだ。このどうあがいても人間とは名乗れない出で立ちこそ、まさしく俺なんだ。同時に、どこからどう見ても平凡な一般人という普段の姿も、俺の俺たる姿だ。

 

 ああ、そうさ。俺は兵藤一誠。父さんと母さんの息子で、人間で、悪魔で、ドラゴンで、吸血鬼で、神だ。肩書一つ増えるのに、どこまで身構えていたというのか。思わず、笑いがこみ上げる。

 

「フフ。フフハハハハハハハハ」

 

 ゴオオオオオオオッッッッ!!!!

 

「ハハハハハハハ! アーッハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 笑いながら開放感とテンションに任せて力を高めると、心の震えに感応したのか炎、雷、重力波、消滅の力が身体中から漏れ出す。

 

 そうだとも、まだ足りない。目の前の女をものにするためには、もっともっと速さがいる!!

 

 おい、バオウ。準備はいいか? いいな!? いいだろ!

 

『是 ! 我 揚 最 ! !』

 

 バリバリバリバリバリ!!!!!

 

 渇望に呼応する黄金の雷は、それ以外の力を糧に更に輝きを増していく! その眩さに俺の熱は高まり続け、更に四天龍の力を高める!!

 

 極大の雷に包まれる中、黒い鎧は解除され、脚部が金色の脚甲に包まれる。全ての雷と熱を赤い宝玉へ一気に集中させた瞬間――黄金の輝きが冥界の空を照らしだす。

 

Velocity(ヴェロシティー) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!!!!!』

 

 音声が完遂するよりも速く、ひたすらに速く装着された金色の鎧。

 

『RideRideRideRideRideRideRideRideRideRideRideRideRideRide!』

 

 至った熱も冷めやらぬ内に、俺はこの時を何より待ち望んだであろう狼女へ、今までとは次元が違う速さで正面から殴りかかった。

 

『Hyper Ignition!』




 何度も一線や限界を超えても、次のその時には踏みとどまってしまう。それがイッセーのイッセーたる所以です。
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