ハイスクールD×D 四天龍の王   作:DECADE

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Life.90 死闘、アルカード。

 炎と氷。この二つの属性を得意とする輩は古今東西問わず多いが、そういうのが正面からぶつかると大抵パワー勝負になる。

 

 勿論テクニックに長けた使い手だって大勢いるのは確かだが、結局のところ熱が+と-どっちに転がるかという話なので、最終的に物を言うのは出力という事になりやすい。

 

 だからと言って……限度ってもんがあるだろうが、あの馬鹿野郎!!!

 

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!

 

 大急ぎで現場に赴いた俺たちを待ち構えていたのは、結界を隔てて目の前に広がる火の海と氷河。業火に晒された雪が溶け、吹雪に揺らめく炎が消え、その境目が一進一退にせめぎあう。その遥か前方へ目を凝らせば、この地獄絵図でも収まりきらない光景を創りだしてやがる二人の馬鹿が超光速でどつき合ってやがる!!

 

 何なんだ、あの狼女!? イッセーとタメを張る力量や冷気はこの際置いておくとしても、神格なのは確かにも関わらずマラコーダと同じ気配……イッセーの眷属のオーラを纏ってやがるぞ! 可能性はあると思ってたし、アジュカも一応は認めていたが、あいつの駒はマジで神も仏もお構い無しか!! まあ、元々最高位の神と同格の神として扱われてた奴だし、それでなくたって異常現象を連発させる理不尽だ。もうこれに関してはデータが増える程度に考えておこう。

 

 にしてもイッセーの奴……一体何がありやがった!? 龍と悪魔の翼はまだ分かる。この際炎と血の翼も良いとしても、あの金色に光り輝いてるのは熾天使の翼じゃねえかよ! しかも堕天使の翼も一緒ってなんだそれ!? あの赤い光輪は神の要素か? 外見だけでなく、天使と堕天使の光力も備えてるようだし……ああくそ、わけわかんなさすぎて慌てることも出来ねえぞ!!

 

 とにかく、確かなことは……悪魔、天使、堕天使、神の何れにしても、イッセーは最高位以上の属性を手に入れたってことか。――あいつは本当に何なんだ!? もはやカオスで片付けられるレベルを越えてんぞ!!

 

 しかもこのタイミングで雷龍帝の禁手化(バランス・ブレイク)に至りやがるとは……赤龍帝や透龍皇じゃないのは、あの狼女のスピードが何かしらの琴線に触れたからか?

 

 これに関してはむしろ、極限のパワータイプである赤龍帝の鎧や消滅の力を扱う透龍皇でなくて一安心と言った所だ。つうか、これでもまだバオウとガオウを取り込む前に届いてないとか、冗談の方がまだマシだぞ?

 

「……何があったのかはともかく、止めなくて良いのでしょうか?」

 

 異常気温のせいか冷や汗かは分からないが、ダラダラと汗を掻くミカエルの言葉に、同じ様子のサーゼクスは額を拭いながら答える。

 

「ここは市街からも離れているし、何よりイッセー君の私有地だ。実害が外に及んでいない以上、何をしようが止める権利は無い。強いて言えば近隣の住人として騒音を咎めるのが精々だろうが、どうするアザゼル?」

 

 そこで俺に聞いてくれるのは、ここが一応堕天使領だからだろう。ぶっちゃけこういう状況を想定して譲渡した無人の荒廃地帯でもあるが、いきなりでここまでやらかしやがるとは思っても見なかった。

 

 取り敢えずはそうだな……堕天使(近隣の住人)を代表して注意を促すべく、拡声器を取り出し思い切り息を吸った。

 

 

 

 

 

「無限、真覇、連衝拳ッ!」

 

 ドオオオオオオオオン!!

 

 吹っ飛ぶアルカードが体勢を立て直した直後、聞き覚えのある声が飛んでくる。

 

「おいコラ、そこの馬鹿二匹!!! お前らいい加減はしゃぎ過ぎだぞ!! もっと上空でやれ上空で!!」

 

 突然の横槍に横を見ると、遠方に拡声器を構えたアザゼル先生が。サーゼクスとミカエルさんもいるし。

 

 冥界だからいてもおかしくはないんだけれど、何か仰々しい三人組だな。護衛やお付きもいないみたいだし、トップが揃って密談でもやってたのか?

 

 それはいいとしても、確かにいい加減やり過ぎかなとは少し思い始めてきたところだ。苦情も受けたし、言われたとおり上空に場を移すか。

 

 すんなりアルカードが聞いてくれればいいんだけど、もし却下されり問答無用で続行となったら少し面倒だな……ん?

 

 何かアルカードの奴が無言で空を指差してるけれど……まさか、あいつから場所を変えようってのか?

 

 ドッッ!

 

 返事を待たずに地を蹴り、ロケットを遥かに超える速度で上昇するアルカードを追って、俺も同様に空へ跳ぶ。

 

 一秒足らずで上空五百kmという宇宙空間同然の地点まで到達した俺は、眼前にて首を回す神狼へ空間そのものを振動させることで問いかける。

 

「ずいぶん高く跳んだじゃないか。お前のイカレ具合からして俺の方から言ってもあのまま続行しそうなもんなのに、自分から場所替えを提案するだなんて、どういう風の吹き回しだ?」

「ふ……イカれているのはお互い様だ。私も自分の男の為なら、多少は気も回すさ。そう、これからする事はイッセーの為にも、余り衆目の耳にさせるべきではないと踏んだまでのこと。何せこれは……恐らく悪魔の世界においては、禁忌に等しい所業だろうからな」

 

 チャキ。

 

 ここへ来て銃を取り出し、ゆっくりと照準を合わせるアルカードに思わず前羽の構えをとる。

 

 何をどうするのかは知らないが、あらゆる意味で桁違いにヤバイのは分かる。でなきゃこのネジの外れた馬鹿狼が、周囲の状況を考えられるほど『躊躇』なんかするわけない。

 

 嫌な予感が期待を孕んで膨れ上がる最中、アルカードは柔らかい微笑みを浮かべる。

 

「貴様に侍る上で必要になるかと考え、悪魔や冥界の情報を色々と頭に叩き込んでな。その中には当然レーティングゲームや、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の事も含まれていた。ゴシップネタや都市伝説の類まで手当たり次第に収集していた中、耳に挟んだ一つの駒の噂……フフ、まさかこの身で実感する事になるとは考えもしなかったぞ。

 恐らくはマラコーダもこの力に辿り着いているんだろうが……生憎私は堪えるつもりは無いし、堪えさせるのも論外でな。こういうものは、手に入れた直後に試してこそだろう」

 

 長々と語り尽くしたかと思えば今日一番のキレた笑顔を浮かべる神狼の兵士は、さっきと同じ特性の名の後にあり得ない名称を口走る。

 

「プロモーション――(キング)

 

 ゴゥ!!!!!!

 

 その名に違わないレベルで爆発的に増大したパワーに圧され、発散された冷気が俺の纏う超高温のオーラを吹き抜けると、その冷たさに身震いしてしまう。

 

 日光を照り返す一面の銀世界を思わせる幻想的な美しさと、腹を空かせた野獣の獰猛さを兼ね備えた狼から、俺は二重の意味で目が離せなかった。

 

 だがそれは王へのプロモーションだとか、出鱈目なパワーアップなんてのは全く関係がない。そんな事はあいつを倒してから考えればいいことだ。

 

 闘争本能と殺意に満ち溢れた眩しく恐ろしい獣が眼前にいるというのに、眼を背けるなどと喰ってくれと言うも同然。

 

 何よりあれは、俺の女だ。

 

 この暗黒世界を照らしだす白銀の狼を、最初に披露してくれた晴れ姿をしかと焼き付ける以外に何の選択肢がある。

 

 出来ることならいつまでも見ていたいと思わせられる肢体が動き……同時に俺は、相棒たちへと問いかける。

 

 雷も、重力も、消滅も、この瞬間は一切全て炎の糧とする! 異論は無いよな!!

 

『是 !』

『応!』

『ああ!』

『いけ、相棒!』

 

 両手で銃を構えるアルカードへ向けて、四天龍の総意の元、左手に全ての力を籠める! 圧縮され、密度を増す炎があらゆる力を燃料として燃え盛り、桁違いの温度へ届く。

 

 ボッ!!!!!

 

 左手に灯る炎の揺らめきを見つめるアルカードが引き金を引き絞るのに息を合わせて、雷龍帝の能力を載せて左手の炎を解き放った――。

 

Chase(チェイス)!』

「ドライグ・イグルガァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!」

絶零弾(アブソリュート・ゼロ・ブリット)!!!!!!」

 

 赤炎となって顕現する龍帝は超光速の加速を得て、狼の頭部を模した冷気の弾丸を迎え撃つ。上級悪魔なら余波だけで消し飛びかねない程に激しく食い合い、削り合う+と-のエネルギーの塊だが、明らかにこっちが圧されている。

 

 触れた存在に俺と同レベルの加速を齎す雷龍帝の先導(ライディング・ギア・リード)……それも禁手の加速をそのまま付与した最大呪文でこのザマかよ!! 女王への昇格でもあれだけ強くなってたってのに、それすら比べ物にならない程に強くなってやがるぞ!

 

 女王は騎士、戦車、僧侶の特性を兼ね備えた統合的な強化だったが、王の場合は単純に地力をひたすら強化するのか! 見た感じ、通常時の十倍以上は間違いないだろう。

 

 ……ああ、そうだ。一つの神話で最強と呼ばれた神狼が、十倍以上にその力を跳ね上げているんだ。四凶並の圧倒的な力に、何故未だ全盛期には及ばない俺が持ちこたえられているのか。

 

 真の紅き眼と万華鏡写輪眼が合わさった俺の眼に映るアルカードの姿が、その答えを物語っている。さっきまで疲労の欠片も見られなかった筈のアルカードが、肩で息をしながら膨大な冷気が漂う全身から大粒の汗を垂らしている。

 

 更に身を包むオーラは安定を欠き、今にも爆発しかねない不安定な揺らめきを見せている。

 

 もしかして……王の駒を制御しきれていない? いや、どちらかと言えば制御しきれるラインに力を留めておけなくなっていると言った方が正しいか? しかも、一歩間違えれば自滅しかねないリスクを背負っている様にも見える。

 

 これほどの出力にも関わらず安定を最優先させている様子からして、恐らくその考えは正しい。だが、それにしても少し得心がいかない。アルカードの性格からして、ここまで追い詰めたなら自滅覚悟で出力を上げそうなものだ。

 

 じゃあ何でと言えば……俺を誘ってやがるんだよな?

 

 詳細は分からないが要点だけをまとめると、俺の眷属の兵士は王へのプロモーションが出来る。だとすれば、俺の兵士の駒も恐らくは……。

 

 ハハ、初使用の王への昇格でこれだけ危険性を示したってのに、俺がそこへ踏み込む事を信じているのか? 俺がそこまで馬鹿だとでも?

 

 まったくもって……ご明察だ馬鹿野郎!!

 

「プロモーション――(キング)ッ!!!」

 

 ゴゥ!!!!!!

 

 駒が変化した瞬間、左腕の炎が一瞬途切れる。その一瞬で赤龍帝の炎を消し去り、牙をむきだして向かってくる氷狼を、俺は軽々と握りつぶし……爆ぜる力と衝動に雄叫びを上げた。

 

「ゥッウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 止めどもなく溢れる力の奔流は細胞の一片、粒子の一つに至るまで余すことなく行き渡り、そのまま意識を押し流さんばかりに勢いを増してなお収まる様子を見せない。凄まじい力に比例する負荷が魂が引き裂かれそうな程の心身への激痛となってのしかかる中、俺の状態を把握した相棒達の声が響く。

 

『お前ら!』

『是 無 問』

『エネルギーヲ安定サセ……』

『余剰エネルギーを受け止めて、僕らで吐き出す!』

 

 クリアの言葉の通り、雷龍帝の鎧の各所からそれぞれの属性に変換されたエネルギーが排出され、痛みが和らいでいく。多少楽にはなったけど、いくらなんでもこれはヤバ過ぎるな。

 

 全盛期の覇龍にも匹敵する強化具合だけど、消耗が酷すぎる上にこの激痛は本気でキツイ。持って三十秒程度……速攻終わらせる!

 

 眉尻を下げ、口角を上げて心底堪らない表情のアルカードの腹部に、炎水静動轟一を発動させた起点となる正拳突きを叩き込む。

 

九極一拳(きゅうきょくいっけん)!!!!!!」

 

 ドンッッッッッッ!!!!!!!

 

 続けざまに八連撃を浴びせかけ、最後に繰り出される全霊の一撃が幻想的な美貌にぶち当たり、甚大なダメージを負った不死の狼が冥界の大地へ飛んで行く。

 

 ワームホールを通って地上へ先回りし、アルカードが上空数千メートルまで迫ってきた辺りで大きく息を吸う。この過剰にも程があるパワーアップのまっただ中での最強呪文じゃ、幾らアルカードが相手でも殺しかねない。となれば、仙術でいい塩梅のをぶちかますっきゃない!

 

 両手で輪を作ってアルカードへ狙いを定め、その輪へ吹きかける格好で最強の火遁を吹きかける!!

 

「仙法・火遁天之火星(あまのひのほし)!!!」

 

 ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!

 

 ッ!

 

 地上から撃ち上げられる半径一キロは下らない赤炎の塊にアルカードが衝突し、爆音を伴う衝撃が辺り一面に降り注ぐ。

 

 土埃が舞う中、プロモーションを解除した俺はマスクを収納し、大量の血反吐を地面にぶちまける。

 

 ドボォッ。

 

 クソ、たった十秒でこの反動か。三十秒までいってたら虫の息もいいところだった。アルカードの様子からして、あいつの受けていた反動はここまでじゃなかった筈だが。

 

 推測するに、この差は駒の数から来るんだろう。アルカードの兵士(ポーン)が一つに対して、俺は八つ。その全てが王にプロモーションしたんなら、過剰過ぎるパワーアップも反動も納得がいく。

 

 しかも力の上昇具合が急すぎて、コントロールが著しく難しくなる。今の火遁だって、本来ならあの半分程度に抑えるつもりだったのに。まさか、本気で死んでないよな? 一応、臭いは感じるが……。

 

 一抹の不安に駆られて未だ爆煙に覆われた上空を見上げると、丁度煙を纏った何かが落ちてくる。

 

『RideRideRideRideRideRideRideRideRideRideRideRideRideRide!』

 

 空気抵抗によって煙が晴れ、覗けた頭が荒野に叩きつけられる寸前、姿勢を整えて四つん這いに着地した狼は、衝撃で肘を突きながら数メートル離れた俺を見て、笑いながら咳き込み血を吐く。

 

「ふ、ふふ、げふっ、がふぅ、ぶ……フハハハハハ。何だ、やればちゃんと出来るじゃないか。それでこそ私の惚れた男だ!」

 

 気恥ずかしくも嬉しい事を言ってくれる。こっちこそ、流石と言わせてもらおう。

 

 四つん這いの姿勢のまま地に爪を突き立てて戦闘態勢となるアルカードだが、身を包むオーラは大幅に減っている。火傷や負傷を治す速度も明らかに遅く、既に限界なのは明らか。九極一拳を食らったにしても消耗具合が大き過ぎるのは、俺ほどではないにしろ、王へのプロモーションが相当負担だった証左だろう。

 

 俺も俺で似たり寄ったりな状態だが、比較すればまだマシと言える。だというのに……この馬鹿狼、やる気満々でいやがんの。

 

 まあ――それは俺も同じだけどさ。

 

「時よ止まれ!」

Hyper(ハイパー) Acceleration(アクセラレーション)!!』

 

 ドン!

 

 事前に備えておいた力を使い、極限の加速を開始する。戦闘継続中である以上、卑怯とは言わないよな? 動かないアルカードの顔面を蹴りあげて、宙に浮いた所で徹底的にボコり尽くす。

 

 比較的マシなだけで、余裕が無いのはお互い様。そうとくれば先手必勝っきゃないだろう!!

 

 加速が解ける間際まで連打を続け、最後の右ストレートで心臓をぶち抜きながら呟く。

 

「――そして時は動き出すッ!」

 

 時間が正常な流れを取り戻し、運動エネルギーもまた正しく働くようになった途端、停止中に散々殴られ蹴られたアルカードは大きく吹っ飛んだ。

 

 追い打ちを加えようとした途端、右腕の感覚が消失する。見れば右腕から右足に掛けて、体の三分の一程度が凍りついていた。アルカードの奴、心臓を粉砕されるのを読んで落下中にありったけの冷気を蓄えてやがったのか!?

 

 慌てて炎を纏って解凍しようとするが、氷が解けるよりも断然速くアルカードの爪が迫り、鎧ごと俺の体を大きく割く。

 

 そのまま両手で抱きつく格好で組み付いたアルカードの意図を理解するよりも先に、俺たちは互いの首筋に噛み付いた。

 

 愛情と食欲に任せ、全力で持って互いの血を啜る中、最大級の快楽の所為か食欲が満たされたためか、不意にアルカードの腕の力が弱くなる。その一瞬の隙に横腹から両手を奴の腹の中に突き込み、今出せるありったけの炎をたらふくぶちまける。

 

 反撃に牙から冷気を受けつつ、首の後を掴んでアルカードを俺の首筋の肉ごと引き剥がし、顔面に頭突きを食らわせた。

 

 更に反撃と言わんばかりにアルカードの膝蹴りが鳩尾を直撃し、近距離からの崩拳がアルカードの顔面を捉え、やつをぶっ飛ばす。

 

 短い距離を隔てて息も絶え絶えに対峙する俺たちは、ガス欠寸前に切り札を切った結果として再生力さえ限界に近づきつつあった。互いに傷口はもちろん、鼻と口から血を流してなお、アルカードの闘争心には微塵の衰えもありはしない。むしろ今のでピークに達した節も見受けられる。

 

「どうした? まだお互い、多少本気で死にかけた程度じゃないか。拳を握れ、肉を再構築しろ、鎧を直せ、さあ、お楽しみはこれからだ。早く(ハリー)! 早く(ハリー)早く(ハリー)!! 早く(ハリー)早く(ハリー)早く(ハリー)!!! 早く(ハリー)早く(ハリー)早く(ハリー)早く(ハリー)!!!!」

 

 興奮のままに喚き散らす獣だが、右腕の爪に最後の力を振り絞った冷気を集中させる辺り、本気で決着をつけるつもりらしい。

 

 対する俺も、残された一切合切を燃料として左腕に注ぎこみ、赤い炎を点火する。

 

「……日本生まれの癖して横文字連呼してんじゃねえよ、雌狼」

 

 憎まれ口を叩きながら拳を構え、最後の一撃に備える。

 

 ――それから、どれほどの時間が経ったのか。

 

 一分か、一時間か、それとも一秒か? どうでもいいがその間に、一つだけアルカードに言いたいことを思いついた。無論、決着の後でだが。

 

 殺気すら温度に変えてしまった俺たちの間は、真空のように鎮まりきっていた。火が揺らめき、冷気が漂う互いの腕を突き合わせるその場に、小石の落下音が響き渡る――。

 

 同時に動き、同時に突き出された互いの腕が、それぞれの形でぶつかり合う。

 

 炎の拳と、氷の手刀。正面から激突したそれは僅かに機動をずらして……互いの胸を貫いた。

 

 背中まで貫通した一撃は、どちらも常人にとっては致命傷。しかし、俺たちにとっては痛みは伴うが死ぬほどのダメージとは到底呼べない。これが、心臓を破壊していなければ。

 

 つぅ。

 

 口の端からこぼれ落ちた一筋の血液を舐め取りながら、そっと笑う。

 

「アルカード……ありがとう。お陰で思う存分暴れられた。愛しくって堪らないぜ、俺の可愛い雌犬よ」

「――そうか。それは何よりだ、主様」

 

 ごふっ。

 

 血を吹き出して気絶するアルカードの体から腕を抜き、そっと寝かせて立ち上がる。大きく息を吸って、吐いて、また吸って、吐いて。最後に溜め息を付きながら、仰向けに倒れた。

 

「――ホント、災い転じて福となすとか思ってないとやってられないかも知れないけれど……多くの人たちと関われるこの人生を、俺は心底楽しんでる」

 

 誰に向けたものでもない独白が空に飛ぶなり、俺もゆっくり目蓋を閉じた。

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