ちょっと短く詰めすぎたかも
誤字報告ありがとうございます。
※2026/03/14情報屋リフラフに改名
この体では無理があったか。
機械仕掛けの蛇を仰け反らせ、装甲も破壊したが、一撃で仕留めることは叶わなかった。
どうやらここの砂は魔力の通りが悪いようで、バニル人形を作る際も魔力を込め過ぎたり、少な過ぎたりと不出来なものだった。
今の一撃にも上手く魔力が乗らなかった。
重力が効き始め、落ち始めたとき。
我輩に向けて奴の蛇尾が迫る、がそんなことはどうでもいい。
─────何故だ、何があった
なぜバニル人形の魔力を感じ取れない⋯⋯⋯!
その時、我輩はバニル人形から魔力を感じ取れなくなった。我輩とバニル人形の間にあった繋がりを何者かに遮断されたのだ。
我輩は砂埃を起こし、奴の視界を奪う。
砂地に叩きつけられ、ヒビ割れ限界だった肉体は砕け散る。だがその勢いのまま我輩は地面に潜る。目指すは最後にバニル人形の魔力を感じ取った場所だ。
こんな奴に構っている時間はない。
我輩に気配を感じさせないほどの奴がいたのか?
我輩は、のた打ち回り光線まで吐き出す蛇を背に、全速力で地中を移動した。
結論のみ端的に話そう、失敗した。
我輩の不注意と油断がこの結果を招いたのだ。
我輩はあの娘を捜し出す事はできなかった。
◐
「へい らっしゃい!」
雲一つないお昼時、
大将の声を聞き流し、我輩は、バックヤードで皿洗いをしている。今日も味に定評がある柴関ラーメンは繁盛しており、心の籠ったラーメンが次々に提供される。
我輩を雇ってくれた事には感謝だな。
水の流れる音、
食器同士が当たる音、
アルバイト初日を思い出す。
その日も今日の様に多くのお客様が来店していた。洗い物の量はそこそこのものだったが、我輩なら数秒かければ、指で擦ると音が鳴るくらい簡単に汚れを取り除ける。
閉店後も、片付けや店の掃除を手伝った。
そこまでしてくれる必要はない。と言われたが、こんな大将の店に似つかわしくない容姿の我輩を事情も聞かずに雇った事へのお礼だと答えれば、渋々甘んじて、受けてくれた。
そんな中、大将に一つ意見したことがある。
価格設定が甘すぎるのではないかと。
味は保証されているのだ、少し値段を上げても問題はないと。
『そうだな。たしかに、お客さんが減ることはないだろうな。自分で言うのもなんだがそれぐらいの自信はある。』
『でもな、俺は金儲けがしたいわけじゃないんだ。お客さんがうちのラーメンを食べて美味しいと言ってくれる。それが何より嬉しいんだ。お金じゃないんだよ。俺は柴関ラーメンをそういう店にしたいんだ。』
『心配してくれたんだろ?ありがとうな』
水道費、光熱費、原料費などを考えても、あまり利益は出ていないはずなんだがな。
この店の客足の絶えない訳は味も大切であるが、何より大将の人柄とそれに付随する温かみのある店の雰囲気によって成り立っているのだろう。
「たしか、明日からバイトを休むんだったよな?」
「あぁ、しばらくアルバイトは休業にさせてもらう。少し行ってみたい場所ができたのでな」
「そうか。で、どこに行く予定なんだ?」
「ブラックマーケットだ。」
「ブラックマーケット!?そんな場所になんの用が───いや、聞かないでおくよ。失礼な事言うが訳アリだっていうのはなんとなく分かってたからな。」
「そうしてもらえると助かる。そうだな。この見通す悪魔が宣言しよう、この恩はいつか必ず返すと。」
「恩なんて⋯⋯またここに顔を出しに来てくれれば十分だ。」
「そういうわけにはいかないのだがな⋯実に世話になった。」
「ああ、元気でな。」
短い間だったが、本当に大将には頭が上がらない。
この期間で得たものは多い。
しかし、未だ砂漠に居た娘を見つけることができない。
────────本当に、どこに消えたのだろうか。
◐
さて、ブラックマーケットへ向かう前に我輩は拳銃を手に入れた。
周りを見渡す限りこの場で銃器を持ち合わせていない者は見当たらない。建物の様子や服装から見て、この世界はサトウ・カズマのもと居た世界だと思ったのだが、その男の記憶では銃器を一般人が持つことは禁止されており、
唯一そんな物を持っているのは、警察やギャング、アニメや漫画の世界だけ。
それに頭の上に浮かぶ紋様もない。
もっとも既にこの世界が我輩の居た世界だとは思っていない。我輩以外の魔力を感じないし、魔王軍や、勇者、王都なんて言葉は物語以外で出てこなかった。
そう簡単にあの世界には帰れないだろう。
あの魔道具さえあれば解析して、少しでも手掛かりを掴めるだろうが魔道具は転移しなかったようだ。
話が大きくズレたな。
そう、この世界に順応する為にも、我輩は拳銃を一度じっくりと視る必要があると判断した。
その肝心の拳銃は『エンジェル24』で購入した。
弾丸の飛ぶ仕組みは想像より単純で、銃身内部での爆発とそれに伴う圧力を利用していた。
これなら、バニル人形でも再現できるか?要検討だな。
次に、我輩は光を出す金属製の板『スマートフォン』なる物を入手することを目標とした。
契約や、商談などをしていれば分かるが、情報は力だ。
情報の有無が戦いにおいてもその勝敗を分けるほど。
聞けば、あんなに小さなものに多くの情報が詰まっており、常に最新のあらゆる物事について知ることができるという。
当初、バイト代はスマートフォンを買うために貯めていたのだが⋯⋯⋯⋯
『は?今、なんと⋯⋯⋯』
『ですから、何か御身分を証明できる物が無ければ当店でのスマホの契約は行えません。』
淡々と紡がれる言葉に我輩は呆然とした。
本人確認書類だと?
我輩はこの世界に転移してきたのだ。そんなもの持っているはずがない。
正規ルートでのスマホの入手は不可能。
つまり闇市、ブラックマーケットしかない。
こうして我輩はブラックマーケットに向かう事となった。
◐
闇市というものはどこの世界でも同じなのだろう。
欲望、焦燥、恐怖、諦観。
どこに居てもそんな感情が漂っている。
そんなブラックマーケットの端に位置するこぢんまりとした小汚い店。
この店が良さそうだ。
「失礼、スマホの契約を頼みたい」
「あ?なんだあんた、スマホの契約だと?そんなサービスうちには無いよ」
横長で金属製の顔をした、黒いコートを羽織ったロボットの店主が読んでいた雑誌から目を離さずに答える。
「そうか。ここなら丈夫でスペックの高い、スマホを買えると噂で聞いたのだがな。」
「へっ、そりゃガセネタ掴まされたな。分かったらとっとと帰りな。」
「───噂といえば、汝、カイザーの社内システムに侵入したそうではないか」
店主が顔を上げ我輩を見る、あまりに焦燥した顔に内心、笑いが止まらない。ロボットの店主は体を震わしながら口を開いた。
「な、なんでそれを、知って⋯⋯⋯⋯」
「フハハハハ!汝がカイザーに目を付けられていることも二日前にその情報を他の企業に売りつけたことも知っているぞ!さて、この情報、カイザーならそれはそれは高値で買ってくれるとは思わないか?」
すぐに絶望の悪感情へと変わった。
もう少し怒りや驚きを味わいたかったな。
「た、頼む!どうか、カイザーには話さないでくれ!出来心だったんだよ!魔が差したんだ!何でもする!スマホ、スマホだったよな!俺が何とかしよう、だからぁどうか!」
「では、契約だ」
我輩はこの日ついにスマホを手に入れた。
そしてついでに都合のいい下僕も手に納めた。
「なぁその本当に誰にも言わないんだよな?」
「ああ、このことは我輩と貴様の秘密にしよう。今後ともよろしく頼んだぞ店主?」
「はい、」
(誰がよろしくするか!クソッなんでバレたんだ。こいつが出ていったら暗殺でも依頼して────)
「そのときは、返り討ちにしてやる。先に言っておくが我輩に隠し事など通じないぞ?」
「───!」
スマートフォンとは便利なものだ。
わざわざ見通す力を使わなくても、この小さな板一枚で、街の地図も、物の売買も、他者との連絡する事も、ありとあらゆる情報も手に入る。
我輩の世界で言えば、魔道具と新聞と商人を一枚の板に詰め込んだようなものか。
下僕────もとい店主のリフラフに設定とやらを一通り教わり、我輩はソファに腰を下ろしてこのスマホを眺めていた。
「あんたこれからどうするつもりだ?」
「そうだな。これを大量に印刷してくれ」
翌日、ブラックマーケットで事件が起きた。
ブラックマーケット全域の至る所にびっしりと、色とりどりのビラが貼られていたのだ。
『護衛、配達、日雇い、何でもやります。』
『よろず屋バニル』