曰く、そこには遺物を求める者がいると言う。
曰く、そこにはオーパーツを求める者がいると言う。
オーパーツや遺物等の品、未だ解明には至らぬ品、そういった物を売買する者からしてみれば彼の者は残骸の一部ともつかないガラクタから状態の良い物まで、ありとあらゆるオーパーツを値段に渋らず買ってくれる『上客』であった。
その"黒"が足を運ぶとき、ブラックマーケットの一角でオーパーツがすっかり売り切れ、影も形もないと言われている。そんな彼の者には謎が多く存在する。どこからオーパーツを買い占めるような金銭を得ているのか? その目的は? 何故誰もその印象的な黒色以外の全体像を記憶できないのか?等など。その手の者たちの間ではしばしば噂に挙がるちょっとしたビッグネームである。
──しかしながら『上客』の正体を誰も知らない。
◐
阿慈谷ヒフミの件から早三ヶ月が経った。
ここ三ヶ月は、少しずつ増えていく依頼を解決し、時間があればこの世界を調査した。そんな日々の繰り返しであった。それらの時間をともに過ごしリフラフが慣れたのか、いつの間にか我輩への畏怖の感情を感じなくなった。
時折襲ってくる不良共を蹴散らし、ブラックマーケットを練り歩く。これだけでも悪感情を感じられ、それが悪魔である我輩には実に心地よい。我輩は今、この闇市にある骨董品店を網羅し終わったところだ。何故今になって骨董品もといガラクタに用があるのかと言われれば、気になる事が出来たのだ。
あの超人が着けていた未知の力を感じる眼鏡型の品。そう、その眼鏡である。あれは一体全体何だったのか見通そうにも依然としてこの世界の知識に乏しい我輩は帰った後にその事を尋ねるとリフラフは得意気に話した。周囲と自身の認識を歪め同化させ、着用者のことを例外なく認識出来なくなる、隠れん坊に最適な道具だ、と。
これを聞いてなんとなくあの小僧も使っていた潜伏スキルを思い出した。まぁ、潜伏スキルは気配を消すだけ、姿が消えることは無いので直接見られたら普通にバレる。
一応隠密に特化したスキルなのだが、話を聞く限りその眼鏡はスキルをも超えた力を持つ品ということになる。潜伏スキルに立つ瀬無し。
リフラフが言うにはそういった力を持つ品はオーパーツと呼ばれ技術の乖離、オーバーテクノロジーとして他にも存在してるようだ。恐らくこれこそが神秘の力の一端なのだろう。我輩はその神秘の力に可能性を見いだした。それはそのオーパーツとやらを集めていけば元の世界に帰る手掛かりを掴めるではないか、という希望的観測に過ぎない。しかし、我輩をこの世界に転送したあの迷惑な魔道具は、明らかに現代の魔法技術を凌駕していた、ならばそれも一種のオーパーツと言っても良いだろう。これは根拠になる訳では無いが確かあの時ウィズが意気揚々と話してした。
『これは凄いものなんですよ!古代の遺物で今も原理が解明出来てないんです!』
古代の遺物とオーパーツをどちらも太古の超技術と称すなら、それらは細かな違いはあれど同等の物と捉えられる。この世界へ我輩を飛ばすことができたのだ、その逆も然り。我輩を元の世界へ飛ばすことも出来るのではなかろうか。あながち否定できる話でもない。
今後の方針は固まった。しかし、ここで問題が発生する。ああ、心配せずともお金の問題では無い。資金は闇市のカジノからほぼ無限に回収できる。敢えてこの稼ぎ方の欠点を挙げるなら、一度にまとまった金が手に入る代わりに短期間に何度も使えない点、つまり安定的な収入源に成り得ない点だがこれに関して今は放っていても良いだろう。
問題はそこではなく、保管しておく為の場所だ。
流石にリフラフの狭い事務所では増え続けるであろうオーパーツを全て管理することなどできないだろう。
そこで我輩は広ければ広いほどいいという考えの元、丁度いい機会なので本拠地となる館を建てることになった。思い立ったが吉日、バニル人形という無尽蔵の労働力を駆使してなんとか
良くも悪くもアクセルの街を賑わせて、もれなく全員が奇人変人と呼べるであろうパーティーが暮らしていたあの屋敷と比べてもかなり大きく仕上がったのではなかろうか。
少々張り切りすぎたか?ちなみに屋敷を作る過程で、以前依頼を受けたロボ建築の者たちに協力を受けられた。彼らの資材が無ければここまで立派な館は建てられなかっただろう。ロボ建築は今となってはあの自称平凡な少女に並び、お得意様の一角である。また今度、依頼とは関係なしに手伝いに行ってやろうか。
閑話休題
買い集めた品を照らすシャンデリアの光。
厳選したオーパーツの輝き。悠久の時を経てなお、神秘を宿し続ける金属片、奇妙な紋様が刻まれた、薄灰色の結晶体、館の大広間に置かれた重厚なテーブルに並んでいる。
どれもこれもこの目利きに定評がある我輩が吟味した品であり、あの眼鏡ほどではない弱々しい神秘の力が感じられる。
「ぐぬぬぬぬ⋯⋯⋯これ以上は時間の無駄か」
使い込まれた様子が妙に様になっている古びて色褪せた椅子に軋む音を響かせながら腰掛け、溜息をつく。並べたオーパーツを一つ一つ掴み取り、それぞれ上下左右と向きを変え観察しながら見通す力も使っているのだが如何せん得られる情報が少な過ぎる。まぁ全く得られなかった訳では無いが。
罅割れたレンズの様なオーパーツに魔力をゆっくりゆっくりと流し包み込んだとき、魔力とレンズの間に緩やかで不安定に揺らめく薄い"空間"が現れる。恐らくこの"空間"を構成している成分が『神秘』なのだろう。そして我輩はこの感覚を憶えている。この世界で初めて目覚めたあの日に感じた違和感そのものだ。あの時は、バニル人形や我輩の体にも魔力を馴染ませることが出来ずに不具合が生じた。
アビドス砂漠以外でバニル人形を作る際に手間取る事は無かったが⋯⋯あの地は神秘に富んだ環境だったのか?どちらにせよ還手の掛かりを掴めぬままである。風化しきったオーパーツでは限界がある、当たりを得られるまで待つしか無いのか?いや、もういっそのこと我輩自ら遺跡や廃墟で探した方が早いか?
prrrr prrrr prrrr
まさにその時、携帯から着信音が響いた。連絡頻度の高さから、どうせ阿慈谷ヒフミだろうと思い画面を見れば⋯⋯「ほう」
まあなんとも珍しいことに着信元はリフラフからであった。着信音が響き続けるが取り敢えず一旦無視する。随分焦っているようで、もう一度掛かって来たので満を持して通話に出る。
『おい、クソご主人様?最初無視したろ』
おお、電話越しにも焦りと怒りが伝わってくる。
「フッ、そんなに焦ってどうした?情報屋は冷静さが大切などと思っておきながらも余裕一つない哀れなロボットよ。招かれざる客でもやって来たか?」
『⋯⋯⋯!そうだ⋯その⋯⋯誰だよあいつ。仕事が一段落ついてパッて見たらいつの間にかソファに座ってて!クックックッって笑うし、お前と話がしたいって言うし!』
ふむ我輩と?どれどれ⋯⋯⋯⋯⋯確かになんか全体的に黒く顔がヒビ割れた奴がリフラフの事務所にある何時ぞやのソファに腕も足も組んで座っているのが視える。
何の予兆もなく現れたと言うので、もしやあの権力者かと危惧していたのだが違うらしい。あの娘が『クックックッ』と笑うのもそれはそれで面白いが。
『いいから早く来てくれ、そして帰らせろ!俺は見張っておくからな⋯!』
リフラフはそう言って一方的に電話を切った。
◐
「良かったな。あともう少しで来るそうだ」
「ええ、そうですか。わざわざ電話して頂きありがとうございます」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
何だよこれどういう状況だ。今日は一日中バニルが居らず邪魔もないのでのびのびと仕事をしていたはずだ。夜のエネルギー補給も終わって今から、仕事を再開しようとしたのだが、 コイツ誰だよ、不法侵入だ、不法侵入だな。よし今すぐヴァルキューレに⋯⋯てかコイツ良く俺が電話する事を良しとしたな。フッ、貴様の敗因はその慢心だ!
そのからの行動は速かった俺はすぐさま再び携帯を取り出して電源を⋯⋯⋯⋯つかなかった。
電 源 が つ か な か っ た
どうしてだよ!さっきまで使えてたじゃん。
なんで!?なんで!電池切れ!?今!?
ゆっくりと店の奥へ引っ込んでいくリフラフ。
想定外の事態に戸惑い狼狽える様は最早クールとはかけ離れた姿であった。故に。
「クックックックッ」
表情筋どころか頭部にカメラレンズ一つという見た目にも関わらずその感情がありありと伝わってくる、先程の電話の内容が丸聞こえであったことも相まって目の前の真っ黒スーツはその滑稽さに嗤いをこぼした。
《黒スーツさん》
なんでしょうかこのロボット少し携帯の電源落しただけでこんなに動揺するなんて私はコントでも見ているのでしょうか?
《リフラフ》
この黒スーツなんか嫌だ。バニルはよ来い(切実な思い)
《バニル》
このガラクタたち情報スカスカだなんて。ほぼすべての店を周って、力があるやつだけ厳選したのに効率悪すぎ。ほう?ゲマトリア?神秘の研究?興味深いな。