時間が時間がない⋯⋯⋯!
深夜。
世界は黒い幕に覆われ、時たまに生ぬるい風が吹き抜ける。アスファルトは熱を失い、電灯が淡く照らす。今宵は雲が出ているのだろう、天に浮かぶ光輪はおぼろげに光っている。あと少しすれば向いにあるネオン看板が消灯する。良い子は既に夢の中。
そんな夜にプレハブ小屋ほどの店がある。最近になって情報屋だけでなく、よろず屋も手掛け始めたその店で怪しげな二名が小さな机を挟むようにソファに腰掛けていた。
「このような時間に申し訳ありません。しかしどうか許していただきたい。何せ、今回は隙があまりありませんから。それに⋯⋯⋯⋯⋯⋯クックックッ、失礼しました。私はそこに居るオートマタと同様、あまり姿を晒したくありませんので。」
一瞬目が合い、リフラフの肩がビクつく。ヒビ割れた真っ黒の皮膚に黒のスーツを着て、頭部から黒い靄を立ち昇らせる者は笑みを浮かべながら、対して、男は右側が白 左側が黒、額には『Ⅱ』のマークのある仮面で鼻から上を隠しながら対話に応じる。どちらも本心が読めない。
バニルが来る以前、リフラフが一人で取り繕っていた頃とはまるで質の違う緊張感が、店を静かに支配していた。この圧迫感はバニルと黒い方どちらのものなのか、リフラフには分かろうはずもなく、ただ俯き、空気となる事に徹していた。
「ふむ、なるほど隙をついてか、想定外に対応しきれないとは超人の名が聞いて呆れる。」
「いえ、通常こうはいきません。しかし、今回はあなたの"館"の方に関心が向いてるようでしたから。」
それを聞いたバニルは少し考えるような仕草を取ると立ち上がり、店の奥からボトルとワイングラス二つを手にして戻ってきた。『一緒に飲もう』ということなのだろう。
しかし、相手は残念そうに首を振った。
「せっかくの気遣いを無下にするようで申し訳ありませんが私は遠慮しておきます。この後少々精密な作業を行う予定ですので。」
「おっと、そうであったか。親睦を深めるつもりであったのだが⋯⋯⋯そうだ、このワインをやろう。我輩からのささやかなプレゼントとしてもらいたい。」
いつの間にかバニルの持っているボトルはギフト用のラッピング付きで箱詰めされていた。もはや誰が見ても購入直後のような状態でワインは手渡された。
バニルはワイングラスを一つ棚に戻したかと思うと、再びボトルを1本取り出す。 それはそれとして飲むつもりらしい。ワイングラスにトクトクと深みのある暗い赤が注がれる。バニルはそれを一口飲むとサイドテーブルに置き、静かに口角を上げる。
「⋯⋯⋯⋯まず手短に自己紹介から、お初にお目にかかります。あなたとはぜひ早くに会いたかったのですよ。私は『ゲマトリア』に所属する探求者であり研究者。今は『黒服』と名乗っています。先に断っておきますが私は敵対するつもりはありません、寧ろ友好的な関係を望んでいますので以後、よろしくお願いします。」
「これはこれはご丁寧に挨拶をどうもありがとう。では、我輩も自己紹介を、この『よろず屋バニル』のトップにして、このブラックマーケット内にてそこそこの知名度を持つ『バニル』である。こちらこそよろしく頼む。さぁ早速本題を聞こうではないか!小さな少女を追い続け勢い余って勧誘などしてしまったちょっとアレな趣味を持つ男よ!」
「⋯⋯⋯その誤解を解きたい所ですが。ええ、本題に入りましょう。」
「フワハハハ!悪感情ゴチである。」
黒服は一つのファイルを取り出し、バニルに向けテーブルの上を滑らせた。印刷された文字を見るに契約書のようだ。バニルはそれを手に取り、目を通す。
「ぜひ、あなたと契約を結びたいと思いましてね。」
◐
その瞬間、沈黙。
その静寂の中リフラフは何事かと顔を上げ、目をぱちくりと瞬きした。
バニルに少しずつ動きが見え体が妙に震え出す。
「フハハ!この地獄の公爵たる我輩に『ゲマトリアへ加入しろ。』と?何故このような契約を希求するというのか。残念ながら我輩の事を何も知らない無知無知黒豆が相手ではこの契約は結べんなぁ。フワーハッハッハッハッハッハッハッ!」
「はい?無知無知⋯?は???」
バニルが発した答えはNO。
本来ならば聞くはずのなかった、想定していなかった言葉だった。私が契約を持ちかけ、バニルがそれにサインする。その一連の流れを持ってスムーズに終えるはずだった。契約の内容に間違いはない。
「うむ。内容は、な。」
『よろず屋バニル』の店主バニルはあの日記録上、『梔子ユメ』が
「いや、フツーに強いとは思ったぞ。」
最後の最後に少しの焦りを見せましたが、それもビナーに対してではなく別の何かに対しての恐らく梔子ユメに対しての焦りでしょう。その気になれば単独でのビナー討伐も可能でしょう。
「まあ、当然だな。」
それほどの存在が裏の世界へ入り込んだとなれば黙って見ているわけにはいかなくなる。明日は我が身とあるように我々も狙われて無事でいるとは限らない。だからといって出過ぎた杭を叩こうとしてもこちらが無傷では済まないことはバニルの持つ強大で異質とも言える力から予想できる。最悪の場合、ゲマトリアをこの店の様に掌握されかねない。
「可能だが。我輩、むやみにそんなことはせんぞ?」
正面から叩き潰せる圧倒的な戦闘力を持ちながら、相手の思考を覗き見る非常に希少な神秘を持つ。
兎にも角にも、敵対することだけは避けなければならない存在であった。だからこそ、いち早く行動に出た。運の良い事にバニルの欲しているオーパーツもそれ以上の物もこちらは提供することが出来る。
しかし、何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
ゲマトリアの保有する様々な秘技の数々を手に入れられるこのチャンスをどうして捨て置くことができるものか、いや出来ないはずです。貴方なら一切の虚偽も無いことは一目見て分かるはず。なのに何故、見通す悪魔バニル、貴方は何故この契約を退けた。
目の前に座るバニルを見ても不敵な笑みを浮かべるばかり、その真意を測れない。
「ようやく、思考の海から浮上したか。貴様の言葉を疑っている訳では無い。ただ、物事には順序があるという話だ。」
ワインを片手にバニルは言った。バニルの言葉を咀嚼するようにしばらく沈黙が流れたあと黒服はふっとソファにもたれかかった。
「順序ですか。貴方はあくまでもそれを重視すると仰るのですか?我々と手を組むことがどれほどの利益となるのかを理解しておきながら。」
焦燥が感じ取れる声にバニルは動揺を見せず寧ろ面白がるように黒服を見つめていた。ワイングラスを傾け、香りを楽しむような優雅な仕草と共に。
「まぁ落ち着くがいい。貴様の考えが分からんこともない。突然現れた我輩を危険視するのは当然であろう。」
バニルはふっと鼻で笑うと、机の上に置かれた契約書を軽く指先で叩いた。
「まあ、貴様の場合は少々性急が過ぎるように思われるがな。警戒するあまりろくに素性を調べず懐に入れようとするなど、本末転倒ではないか!フハハハハハハ!」
黒服は浅く息をつき顔を下げた。ゆっくりと立ち上がり契約書を懐にしまい込んだ。その声には張り詰めた空気はもうなかった。テーブルの端に置かれたワインボトルを見て少し口元を緩める。
「ある程度考えは理解しました。ひとまず一度出直します。この御厚意はありがたく頂いておきます。では、またの機会に。」
「まぁまて、そんな不景気な顔をするな。」
ドアへ一歩踏み出す前に呼びとめられ振り返る。バニルの手元に半透明で紫色の粒子らしき何かが集まり結晶を形作る。
「我輩の魔力でできている。神秘を研究しているのなら、ちょうどいいと思ってな。」
「ぜひ頂きます。では、またいつか会いましょう。」
「ああ、次はより大人らしいやり方を期待しているぞ。」
紫の結晶体は黒のハンカチに包まれ、黒服の胸元に収まった。そのまま、黒服は外へ出ていった。
「おい、バニル、なんでもいいけど俺を面倒事に巻き込むなよ。こっちにもやることがあるんだ。」
「心配御無用!安心して
「いちいち嫌な言い方するな。って今、客人と?」
◐
ドゴォォォォン!!
火の粉が舞い上がり黒煙が立ちこめる、かと思えば風が吹き視界が晴れる。突然の出来事に目を凝らせばドアがなくなっていた。いや、ドアだけでない壁ごと破壊され消滅していたのだ。本来見えないはずのお向かいの店の看板がよく見える。それはそれはよく見える。
あっ、お星さまもよく見える。綺麗だな〜。なんてリフラフの現実逃避も意味がなかった。
「ンナ━━━ッ!なぜだ!なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだァッ!何故!どうして俺ばかり!ぬあ〜〜〜〜〜〜!」
「フハハハハハハ!我輩の館でなくて良かったわ!おっと、その悪感情もまた美味である!フワハハハハハハハハハ!」
バニルの笑い声とリフラフの叫びが響く中、一人の少女が姿を現す。スケバンの様な格好でもなくヘルメットもしていない少女は、ギラギラと鋭い目でただリフラフを見据えていた。
・バニル
悪役ロールプレイは楽しいけどそういう集団と契約を結ぶと後々面倒なんだよな〜〜。(契約を断りつつ黒服を通してゲマトリアの情報をほとんど頂いた悪魔。連邦生徒会長に会いたくない。)
・リフラフ
この二人余所でやれよ!⇒俺の店がぁ〜〜!(一番可哀想なロボット。もっと可哀想になる予定。 )
・黒服
おお!これは!なんでしょうか!?魔力!?素晴らしいです!本来は目に見えず感じ取ることもできない神秘と同様のものと思っていましたが、今!まさに私の手のなかに!!⋯⋯⋯⋯これ生徒にTerrorと一緒に混ぜたらどうなるんだ?(魔力の結晶貰って内心テンションMAXなゲマトリア。憧れは止まらない。)
・最後に出てきた生徒
???(モブ生徒基準で鬼つぅよぉい。企業所属。)