拗らせ童貞社畜の24時間働ける異世界迷宮   作:倉咲

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憲兵さん教えてよ

 夢であれ夢であれ夢であれ。

 まじでお願い、神様仏様お母さまーーー夢にしてくださーーーい。

 

 うすうす思ってたんだが俺は異世界転移とやらをしたらしい、だって寝ても覚めないもんこの夢、ちょっと現実感出てきたかも。

 ていうかさみーよ返せ俺のスーツを。

 突然聞こえた、がんっと鉄と鉄がぶち当たる音に飛び起きる。

 

「起きろ露出魔」

 

 さっきの音は憲兵が鉄靴で牢屋の鉄柵を蹴ったかららしい。

 顔がヘルムで隠れていてさえ苛立った様子が伝わってきた。

 

「あっなんでしょうか、憲兵様」

 

 手もみしながら近づいていく。

 イラついてる課長にゴマすりに行くのはなれたもの、この機嫌悪そうな憲兵も笑顔で返してやらー。

 嫌そうな目で見られたよ、そんな馬鹿な。俺のゴマすりが聞かないなんて何がいけないっていうんだ。憲兵の視線をたどっていきついた下半身をみて思った、そら汚いものぶらぶらさせている奴が近づいてきたら嫌だわ。

 

「ちっ着替えろ」

 

 鉄柵の隙間からしわくちゃにされたスーツが乱暴に投げ込まれる。

 

「はい、喜んで」

 

 スーツを着るのは慣れたもの。ネクタイまで着けても一瞬で着替えることができた。着慣れた俺のスーツに間違いないのにでもなぜかぶかぶかだ、痩せたかこの一晩で。

 ありうるあんな死にそうになるまで息を切らして逃げ続けたんだ10Kgやせてもおかしくないのか。

 あれ?てか俺あんな走る体力あったか?

 

「なに、ぼーっとしてやがる着替えたなら出ろ」

「はい、ただいま」

 

 いつの間にかあけ放たれた牢屋の扉を出て。無言で去っていく憲兵の後を追っていく。

 こんな薄暗い地下牢に置いて行かれるなんてたまったものではない。螺旋階段を昇っているうち無言の圧に俺はしびれを切らした。

 

「あの、憲兵様これから私はどうなるんでしょうか」

「釈放だ」

「えっ釈放ですか」

「何を驚いている、貴様ごとき子悪党に手を割くような暇はない」

 

 えっゆっる、異世界公然わいせつが牢屋に一晩いるだけでいいの?ラッキー!!!

 

「貴様がああも逃げ回らなければ殴りも蹴りもせんかった、余計な手間を増やしやがって」

「はい、申し訳ありません」

 

 うなだれて反省してるポーズ、大事だいたいこれしてたら説教終わるから。こういう時下手になんか言っちゃだめなんだよなー。

 階段の先から光が見えてきた。地上だーこれでこれでこの牢屋からおさらばできるぜ。

 

 地上に出るとこの建物の全容が知れた。これ交番だ。

 材質が石造りになって堅固さのました強化版交番である。間違いない。

 

「とっとと行け」

 

 建物を眺めていると憲兵に蹴りだされる。

 

「いってえもう二度とこんなところきてやるか」

「そうしろ露出魔」

 

 意気揚々と城下町に繰り出そうとして気づいた。

あれ?俺詰んでね?と仕事ないし、今からどうやって生きてくの?と。

 

「すいませーん、憲兵様」

「二度と来ないのではなかったか、露出魔」

「そんな、憲兵様と私の仲じゃありませんか」

「黙れ、切り捨てるぞ」

 

 憲兵は腰に差した剣の柄に手を置いて今にも切るぞと脅してくる。

 怖い、でもこの異世界で俺が知っている人はこの人だけ、このままじゃ野垂れ死にコース一直線である。

 今こそ磨き上げられたゴマすりスキルを使う時。

 

「ごへっ」

 

 ダメでした。切られはしなかったが殴られました。

 

「ちっ…でなんのようだ、その気持ちの悪い笑顔を引っ込めるなら聞いてやる」

「ありがとうございますありがとうございます」

「とっとと話せ、今度こそ切り捨てるぞ」

「はい、あの言いにくいのですがお金がなくて」

「たかるつもりか」

「いやそんな滅相もない。ただあのおしごとなど紹介してはいただけないかと」

「はあ」

 

 そんな蔑んだ目でこっちを見ながらため息つかなくても。

 

「なんのスキルを持っている」

「えっと、営業と24時間笑顔で働けるバイタリティーがあります」

「あほが、ジョブのスキルのことだ…まさか持っていないとは言うまいな」

「あの営業スキルが」

「もういい、しゃべるな。くそ田舎のガキが」

「ぐえっ」

 

 顔を掴まれてグイっと向きを変えられる。

 

「この向きに大通りを行けば西の神殿がある、そこで鑑定の儀を受けてこい」

「あの目印などは?」

「行けば分かる、とっとと行け」

 

 これ以上は話してくれそうにないので歩きだすことにした。

 いやーにしてもあの憲兵様いい人だったな。服も返してくれたし。

 

 指示通りに大通りを進んでいくとチョーでかい建物が見えてきた。無数の白い石柱に支えられたそれはギリシャの神殿に似ていた。憲兵様の言っていたのはこの建物に違いない。違いないが神殿にしては入っていく人々があまりにも物騒だ。

 薄汚れた革鎧を着たやつ。金属鎧で全身をがっちり固めた騎士みたいなやつ、全身を覆うローブを着た魔術師みたいなやつ。総じて武器をひけらかしながら歩く戦闘者の佇まいを持った奴ら、全員とは言わないが神殿に入っていくほとんどがそんな感じである。

 

 嫌だ、あんな荒くれ者共の巣窟に入っていくなんて、でもな金が明日の飯が寝床もないし、行くしかねぇ。

 頑張れ俺、できるぞ俺、そう思いながら神殿に踏み込んでいった。

 

 

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