英雄に殺された俺が聖女として転生したら、討伐対象が自分でした   作:TSメス堕ちいいよね…

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4.魔の森

 森の中は鬱蒼と茂っていて、斧の入った跡もない。木こりが最近は足を踏み入れていないことが察せられた。

 

 パキリと、枯れ枝を踏む。静寂が広がる森に、不気味なほど響き渡った。

 

「……リシェル様、俺の後ろに」

「…………はい」

 

 やや躊躇した後、頷く。

 アルフレッドを先頭に、案内役の少年が続き、私が最後尾となる。

 

 森は静かだった。いっそ不自然なほど、動物たちの息遣いが聞こえてこない。

 

「この森は、いつも()()なのですか?」

「昔、遊んだ頃は、こんなんじゃありませんでした」

 

 異常は少年にも――いや、古くから住む少年だからこそ感じられるのだろう。この森は、静かすぎる。

 

(おそらく、潜んでいるな。大方野生化した魔物だろうが)

 

 人間界には人間界の生態系があるように。魔界にも魔界の生態系が存在する。魔界に棲む動植物たちを、人間は魔物と呼ぶ。

 人間界には魔族が軍事目的で連れ出し、野生化した魔物が一定数存在する。それらは元の目的が目的故に、凶暴で、人間をよく襲うという。今は一足先に、人間界の動物たちが脅威にさらされている事だろう。

 

(……情けない。魔物一匹満足に始末できんのか、この世界の獣たちは)

 

 だが、それを顔に出すわけにはいかない。

 私は聖女リシェル。慈悲と祈りの象徴。魔を憎み、民を守る存在でなければならないのだから。

 

 少年の手をぎゅっと握る。元気づけるように聖女の仮面を張り付けながら。

 

「――――!」

 

 少年の耳が真っ赤に染まる。

 年頃の少年だ。怯えているのがバレたのが恥ずかしいのだろう。リシェルはそう考え、内心でミスを恥じた。

 

 

 ところで。

 リシェルは男というものを知らない。彼女はほとんどの時間を男子禁制の地で過ごしてきたからだ。そして彼女が産まれる前、魔族時代は男だったものだから、自分が女として、他人からどう思われているのか理解していなかった。

 

 ここに断言しよう。聖女リシェルはとんでもない美人で。この少年のように、笑顔で手を握られたりしたら、それはもう惚れるなというのが無理な話である。

 

 

 閑話休題。

 三人は森を進み続ける。リシェルはこの森に違和感を感じ始めていた。木に絡まる蔦に触れる。それは触れると同時に崩れ落ちた。

 

(これは、瘴気を含んでいる?)

 

 瘴気は魔界の空気だ。それがこんな場所にある筈はないのだが……。

 

「おかしい」

 

 勇者が立ち止まった。

 

()()()()()。これは動物たちが怯えて潜んでいるのではなく、存在自体していないように思えます」

 

 勇者は別角度から異常に気が付いたようだ。最初、森が静かなのは、魔物の脅威に動物たちが怯え潜んでいるからだと考えた。だが勇者の言葉が確かなら、動物そのものが消え去ったという異常事態。

 

(瘴気は、まだ生息不可な領域までは達していない。何か別の事情があるな)

 

 何にせよ、面倒事に首を突っ込んでしまったようだ。

 

「一度戻りましょう。少なくとも、少年は家に帰すべきです」

「……そうですね。あの村在住の兵を――」

 

 案内として連れてくるべき――という言葉は遮られた。甲高い、犬種が出すような雄叫びによって。

 

「魔物!?」

 

 勇者が素早く剣を抜き放ち、声の方向に構える。ざっざっ、という。獣が落ち葉を踏む音が響く。

 

「ふ――!」

 

 勇者が剣を振り抜く。会合は一瞬だった。獣が血を噴き出しなら通り過ぎる。首を半ばまで切り裂いている。あれなら人間界の動物たちと比べてタフな魔物でも、十分致命傷だ。

 

 魔物が勢いのまま地面をこすり、落ち葉を巻き上げる。次いで、チャリン、という。鈴の音のような、この場に不釣り合いな音が響いた。

 

 それは――

 

「――――首輪?」

「――――――――コーダ!!!」

 

 それに気を取られた一瞬、少年が私の手を離し駆けだす。向かう先は、絶命した――

 

「――――!? 離れて!!!」

 

 勇者が叫ぶ。

 私は――――少年を追わず、つい咄嗟に構えた。

 

 魔物は死に体でありながら、まだ生きていた。

 少年は目と鼻の先。あれは、もう、間に合わない。

 

「――――――?」

「コーダ! コーダぁ......!!!」

 

 未来予想図は裏切られた。魔物は少年を襲うことなく、あろうことか、少年に寄り添おうとしている。おそらく、最期の力を振り絞って。

 

 それは異様な光景だった。死に体でありながら、魔物が家族に寄り添うように、少年の頬を伝う大粒の涙を舐め……あれは、慰めている?

 

(少年は、魔物をコーダと呼んでいる? コーダが魔物だという話は聞いていないが)

 

 当然、違うだろう。あの少年が奇跡的に魔物を懐柔する天才だとしても、周りが放っておかないのは間違いない。

 だとすれば、少年が魔物を愛犬と誤認しているか――――

 

(――――――まさか)

 

 少年は、既に息絶えた魔物を抱きしめた。

 そして――ゆっくりと、その首元に噛みついた。

 

「な、なにを――!?」

「勇者様! 離れてください!」

 

 駆け寄ろうとする勇者の首根っこを掴み、強引に押し倒す。

 

 触れてはいけないのだ、特に、あの血には。

 

 あの血に触れた者は――――

 

「あれは、あの少年はもう人間ではありません!」

 

 ――――怪物になってしまうのだから。

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