願いの物語シリーズ【夢咲里菜】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第6話『私は何も話す事なんてない!!』

幸せな夢を見ていた様な気がする。

 

でも、夢は夢だからいつか覚めてしまうものなのだ。

 

私はそれを思い知る事になる。

 

中学二年の時、私は調理実習で作ったお弁当を、ジョージに渡したのだけれど、素直になれなくて、押し付ける様な形になってしまった。

 

それを後悔しつつ、朝陽に相談していたのだが、朝陽はならもう一度行って来れば良いと買ったばかりの飲み物を私に押し付けて、背中を押したのだった。

 

私は、飲み物を持ちながら深呼吸を繰り返し、頭の中で言葉を並べる。

 

(お弁当だけじゃ、喉が詰まっちゃうから、飲み物もあげるね。お弁当どうだった? ジョージの事を想って……いやいやいや。言えるか! そんな事!)

 

(ジョージがお弁当無くて可哀想だからめぐんで……って! だから、素直になるんでしょ!!)

 

「う、うぅ……なんて言えば、良いんだろう」

 

私はトボトボと歩きながらジョージがいつも食べている空き教室の前に来た時、何やら中から声が聞こえてきている事に気づいた。

 

それは、ジョージといつも一緒にいる男の子たちの声だった。

 

「でさ。チラっと見たけど、ひでぇの何のって」

 

「まぁ夢咲って可愛いけど、料理とか全然駄目だもんな」

 

「ありゃ料理なんて言わねぇよ。ゴミだぜ。ゴミ」

 

私の名前に足が止まる。

 

放たれた言葉に、呼吸が出来なくなる。

 

「でも不器用なのが可愛いんじゃねぇの?」

 

「いやいや。あの性格だぜ? どうせ付き合ったら我儘ばっかりでロクなモンじゃねぇって」

 

「って事は、やっぱ藤堂が一番だな。性格も良いし。料理も上手いし。運動神経だって良いしな。勉強はちょっとアレだけど」

 

「それこそちょっと抜けてる方が良いってモンだろ」

 

「まぁ、そうだな」

 

「あー? 何だお前ら全員藤堂狙いか?」

 

「お。なんだ。そういうお前は夢咲が良いのか? ゴミ食わされるぞ。ゴミ」

 

「そんなモン。見えてない所で適当に捨てちまえば良いんだよ」

 

「あぁ? じゃあ夢咲と付き合って、どうすんだよ」

 

「馬鹿だねぇー。お前らは。夢咲と付き合えたらあの体、全部自由に出来るんだぜ? そしたらやりたい放題だろうが」

 

「天才か!」

 

「ま。それでも、結婚するんなら藤堂だろうけどな!」

 

「ワッハッハ。お前も同じじゃねぇか!」

 

「そりゃそうだろ。男ならわざわざ夢咲なんて選ばねぇよ。でも、まぁ遊ぶくらいなら良いんじゃねぇの?」

 

「そんな事ばっか言ってると知らねぇぞ? 先輩がよ。ヤリ過ぎて子供出来ちまったって話してたからな。子供出来たら結婚しねぇと」

 

「そんなモン。捨てちまえば良いだろ。夢咲との子供なんて欲しかねぇからな! ワハハ」

 

教室の中から聞こえてくる笑い声は、私の心に深く突き刺さり、ジクジクと痛みを発していた。

 

いつかの時、お婆ちゃんが言っていた言葉が頭の中に蘇る。

 

男は、いつだって女を騙そうとしているんだと、言っていた言葉が。

 

だって、この中から聞こえてくる男の子たちはいつもクラスでは優しくしてくれているのだ。

 

でも、私の居ない所ではこんな話をしている。

 

男の子は、そうなんだ。

 

なら、ジョージは?

 

ジョージも、男の子だ。

 

「里菜?」

 

不意に後ろから肩を叩かれ、振り返ると、困ったような顔のジョージが立っていた。

 

でも、すぐに表情が変わり、動揺し、焦ったような表情に変わってゆく。

 

「里菜。泣いてるじゃないか! 何があったんだ」

 

なんで焦っているんだろう。

 

私に気づかれたから?

 

本性を知られそうになったから?

 

なんで、どうしてなの?

 

「里菜!」

 

「おいおい。何騒いで……って、ジョージ? っ!!!? 夢咲!!?」

 

「おい。なんでここで里菜が泣いてる」

 

「そ、それは」

 

私はもうここに居たくない気持ちで、飲み物をジョージに押し付けて、走り出した。

 

後ろからジョージの声が聞こえたけど、立ち止まる気持ちなんて少しも無かった。

 

ただ、私は何も信じたくなくて、誰も居ない場所を目指して走っていくのだった。

 

しかし、そんな私をジョージは容易く捕まえて、抱きしめる。

 

私は何とか抜け出そうとするが、どうやってもジョージから逃れる事は出来なかった。

 

「里菜! 逃げないで! 話をしよう!」

 

「私は何も話す事なんてない!!」

 

ジョージから逃れようともがく私は、無意識に手を振り回して、彼の頬を勢いよく叩いてしまった。

 

そしてその衝撃にジョージは私を離したが、呆然と私を見ているジョージに、私は逃げ出す事も出来ず立ち尽くしてしまった。

 

『こんな暴力的な女をジョージが好きになる訳が無い』

 

頭の中に不意に響いた声に、私はまるで心臓を鷲掴みにされた様な衝撃を受けた。

 

息が出来ない。

 

苦しい。

 

「里菜。落ち着いてくれ」

 

「わ、わたしは」

 

『お前も分かっているんだろう? ジョージ・ウィルソンに最も相応しいのは』

 

「里菜!!」

 

頭に響いていた声をかき消すように、背後から聞こえた声に、私は体を震わせた。

 

振り向かなくたって分かる。

 

ずっと、長い間一緒に居た声だ。

 

分からない訳が無い。

 

「里菜! 大丈夫? ジョージ。これはいったいどういう事!?」

 

「ぼ、僕も分からないんだよ。朝陽。気が付いたらここで里菜が泣いてて」

 

「何もなく里菜が泣くわけ無いでしょ。何があったか教えて」

 

「朝陽! ジョージ! 何でもないの。何も。何も無いの。ただ、ちょっと目に埃が入っちゃっただけで」

 

私は震える声を何とか絞り出して、何でもないのだと二人に告げた。

 

だって、ここで大事にすれば、見たくない物を見てしまうかもしれないから。

 

そう。例えば、本当のジョージの気持ちとか。

 

ずっと勘違いしてたけど、ジョージに相応しいのは私なんかじゃなくて、朝陽だとか。

 

そういう見たくもない現実を見てしまうかもしれないから。

 

だから、私は笑った。

 

何でもない事なのだと。

 

何も無かったと。

 

だって、そうすればまだ私は夢を見ている事が出来るから。

 

ジョージと私と朝陽。

 

三人で暮らす夢を見ている事が出来るから。

 

 

 

でも、本当は分かっているのだ。

 

朝陽に比べて何も持っていない。何も出来ない私がジョージに選ばれる訳が無いって。

 

だから、私は本当の気持ちを無視したまま、二人に相応しい人間にならなければいけないと考え始めた。

 

そうじゃなきゃ、私はいつか二人に捨てられてしまうから。

 

だから、勉強を頑張った。

 

とにかくいい大学に入って、良い所に就職して、お金を稼がないと。

 

お金を稼いでいる内は、きっと二人も私を家に置いておいてくれるから。

 

二人の幸せな生活を守る為に稼がないといけないと考え、とにかく勉強を頑張った。

 

それが結果的に朝陽との間に溝を作ってしまい、ジョージとの関係にヒビを入れてしまった。

 

そのせいだろうか。

 

朝陽はいつの頃からか良くない人たちと付き合う様になって。

 

ジョージは役者になると言って、私たちからさらに離れて行ってしまった。

 

三人の関係は歪になったまま、時が過ぎて、その関係はどんどん壊れていってしまった。

 

やがて、私たちは高校生になり、卒業する頃にはもうすっかり別々の道を歩み始めていた。

 

朝陽は近所のスーパーで働き始め、ジョージは海を渡り、海外で役者として活躍し始めた。

 

三人で居る為に頑張っていたのに。

 

どうしてこうなってしまったのか。分からない。

 

でも、まだチャンスはあるはずだった。

 

だって、私は高校生の時から先輩に誘われて始めていたデザイナーの仕事で評価され始めていたからだ。

 

もう少しで三人分の生活費が稼げるようになる。

 

そうなれば、ジョージは役者の夢を追えば良いし。朝陽は家でゆっくりとしててくれればいい。

 

もう少し。

 

もう少しなんだ……。

 

そんな風に考えながら、必死に自分を追い込んで頑張っていた私はある日、朝陽からこの世の終わりとでも言うような知らせを受ける事になる。

 

「里菜。私ね。今度結婚する事になったの」

 

「……え? いや、待って、待ってよ。だって、ジョージは」

 

「お腹の中にね。幸太郎さんの子供も居るんだ。だから、里菜も」

 

私はまだ話をしている途中の朝陽をその場に置き去りにして、走り出していた。

 

頭の中で繰り返されるのは、何もかもが思い通りにならないこの世界への呪詛だ。

 

そしてそれ以上に、朝陽やジョージへの恨み。

 

いや、違う。恨みなんかない。愛してるんだ。

 

私は二人の事をずっと愛している。だから、この気持ちは、恨みなんかじゃない。

 

愛なんだ。

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