願いの物語シリーズ【夢咲里菜】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
陽菜を失った日から私は、ただひたすらに仕事に没頭し続け、全てを守れる強さを求めて働き続けた。
こんな私でも母と慕ってくれる陽菜の為に、稼いだ金は殆ど朝陽に送金し、ギリギリの生活の中で、誰にも負けない名声を求める。
しかし、そんな私の努力など無意味だと言わんばかりにジョージは破竹の勢いで誰よりも有名な役者へとなっていたのだ。
ジョージが有名になればなるほど、その時彼が受けるダメージは大きい。
少なくとも、ジョージよりも私の方が有名にならなければ、ジョージや陽菜への誹謗中傷を抑えるのは難しいだろう。
でも、戦い続ける私よりも、ジョージの方が。
そして、アイドルとしてデビューした陽菜の方が有名になっていった。
まるで初めからそう決まっていたかの様に。
私は二人の足手まといでしかなかった。
それでも、それでもと抗い続けて、頂点を求めて走って、あともう少しだと手を伸ばした時に、事件は起きた。
そう。陽菜が事故に遭い、意識不明の重体となって病院に運ばれたと聞いたのだ。
私はすぐさま全ての予定をキャンセルして、陽菜の元へ向かった。
しかし、私が病院に着いた時には、既に陽菜は目覚めていて、朝陽やその家族と楽しそうに話をしていたのだ。
ここに私の居場所は無かった。
知っていた。分かっていた。
当然の話だ。
私は陽菜を捨てたのだから。
今更どんな顔をして会いに来たと言うつもりだ。バカバカしい。
楽しそうな陽菜の顔を歪めるのが嫌で、私はお見舞いに持ってきたお菓子だけ近くの椅子に置いて、その場を去った。
一応夢咲陽菜様へと書いておいたし、大丈夫だろうと思っていたのだが、その件で翌日朝陽から電話ごしに怒鳴りつけられる事になった。
『なんで陽菜ちゃんに会わなかったんです』
「……」
『里菜!?』
「別に、忙しかったからね。仕事が入っちゃったし、しょうがないじゃない」
『しょうがないって、自分の娘の事ですよ!?』
「分かってるよ。でもさ。稼がなきゃ生きていけないでしょ?」
『陽菜ちゃんは』
「……?」
『陽菜ちゃんはずっと寂しがってます』
「いや、寂しいって朝陽が」
『陽菜ちゃんにとって、家族は貴女だけなんですよ!! 里奈!!』
「っ」
『私たちは陽菜ちゃんとの繋がりが無い。同じ家に住んでいたって他人なんです。いつかその縁も切れてしまうかもしれない。それを陽菜ちゃんはずっと怖がっているんですよ!!』
「……」
『ねぇ、里菜。陽菜ちゃんの傍に居てあげる事は出来ませんか?』
「それは、出来ない」
『出来ない。という事は何か理由があるんですね?』
「ない!! 理由なんて何も!」
『ねぇ、里菜。貴女の中に、何が居るんですか?』
その言葉は、電話越しとは思えないほどに重く、息苦しさを覚える様な物だった。
いつかの時、朝陽が普通になる直前に感じたあの悪寒に似た寒さを感じる。
「な、なんの、こと」
『私は正直、そこまでハッキリとは見えません。ですが! お母さん達の最期を見た幸太郎さんが!! 貴女の姿を見た綾が、間違いなく貴女の中に巣食っている何かを見ているんです!! 里菜! 私は』
【お前の中にある呪いに気づけば、みんな死ぬ】
私は無意識のうちに電話を切っていた。
頭の中に響いた声に、その内容に、私は身を震わせた。
それからは朝陽からの電話をひたすらに無視して、日々を過ごしていた。
それで全て大丈夫だと思っていた。
でも、そうはならなかったのだ。
「もしもし? どなたですか?」
『僕だ。ジョージ・ウィルソンだ』
「っ! ジョージ!? なんで」
『朝陽に番号を聞いた』
「朝陽に会ったの!?」
『あぁ。陽菜にもな』
「そっ、そう。それで? 今更何の用?」
そう、それは実に十数年ぶりのジョージとの会話だった。
そして、彼は今陽菜の傍に居るという。
何とか自分を保ちながら話を続けるが、気を抜けば吐いてしまいそうな苦しさを私は感じていた。
だって、二人はよく似ているのだ。その放つ雰囲気が。纏う空気が。
親子だと気づかれてしまうかもしれない。
そうすれば、陽菜は、ジョージは!!
私は何とかジョージを追い返そうとした。
しかし、ジョージは頑なに陽菜の傍を離れないと訴えていて、その言葉に私は嬉しさを感じると同時に、やはり強い恐怖を感じていた。
だから、仕事をしつつ、二人の動向を監視して、何かあればすぐに対応出来る様にコッソリと後をつけていた。
そして、私はジョージ達が車を出した事に気づいて、バレない様に車で付いていく。
幸い彼らが向かった場所は有名なキャンプ場であった事もあり、私は気づかれる事なく、現地までついていく事が出来た。
そして、飲み物を飲みながら、遠くで川遊びをする二人を見る。
本当の親子の様に、陽菜とジョージは楽しそうに釣りをしていた。
それを見ていると、自分が間違っていたのではないかという気持ちになってきた。
本当は、ジョージにちゃんと話をすれば良かったんじゃないか。
もっと朝陽とちゃんと話をすれば良かったんじゃないか。
後悔ばかりが胸を刺す。
でも、もう今更だ。
全部。私は全部捨ててしまったから。
いや、違う。
まだある。私にも出来る事が、まだある。
私は車に戻って、ここまで持ってきていたパソコンを開き、呟きアプリを開いて、数千万人の人間が見ている場所に向かって一つの事実を打ち込む事にした。
多くの文章と、ここまで残してきた沢山の写真。
それらを交えながら、ただ淡々と事実を書き連ねてゆく。
私がジョージと幼馴染であること。
ジョージに迫り、陽菜を授かったこと。
彼が有名になり始めたばかりの頃であった為、この事は公表せずに隠してきたこと。
勘のいいジョージに気づかれてしまい、陽菜とジョージが出会ってしまったこと。
もう隠しきる事は出来ないから、全てを明かすということ。
そして、私はさらに事実を書き連ねてゆく。
二人が有名人になったから、私はもっと注目を集める事が出来ると、喜びを示し。
どれだけ二人には利用価値があるかとさらに続けてゆく。
ジョージも陽菜も被害者であると、誰でもわかる様に、丁寧に悪意を文章に込めた。
遠くない未来に二人の関係がバレてしまうなら、憎しみの対象を作る事で、二人を守る事が出来る。
こんな酷い母親に利用された陽菜も、ジョージも可哀想だと。
朝陽はそんな陽菜を育て上げた理想の母親であると。
世界中が分かるように。
【ふふ。いいぞ。これで収束する。狂っていた運命も、全て、夢咲陽菜に集約される】
私は全てを打ち終えて、一気に投稿した。
反応を見るつもりはない。
どの道、私の未来は変わらないのだ。
このまま表舞台から消えて、民衆の憎しみを引きつれて闇の中に消える。
それで陽菜が救われるのなら……。
「……? 電話?」
パソコンを助手席に投げて、席に体を預けながら泣いていた私は、耳に入ってくる聞きなれた音に首を左右に振った。
しかし、妙だ。携帯電話の着信音は切っているハズなのに、なんで音がするのだろう?
疑問に思いながらも、懐から携帯電話を取り出して、誰からの電話か確認したのだが、そこには何の文字も表示されていなかった。
あり得ない。
だって、電話が掛かってきているのなら、誰かしらの電話番号か、非通知が表示されるはずだ。
何も無いなんて、おかしい。
おかしいが、出ないという選択肢は私の中にはなかった。
「……もし、もし?」
『うふふ。わたし、メリーさん。今貴女の車の近くにいるの』
「メリーさん……?」
『すぐに行くわ。だから、覚悟してね? 全部。終わらせてあげる』
それは背筋が凍り付く様な冷たい声を私に届けるとブツッと切れてしまった。
何の電話なのだろうと、震えながら考えていた私だったが、その不安をさらに煽る様に空からは雨が降り始めていた。