判断は、冷静に。
集中力が高まっている状態なら頭の中も素早く回るって、マイスターも言っていた。
焦る必要は無い。
ゴーレムの性能はコッチが上。
パイロットの能力もオレが上。
油断しないこと。
慢心しないこと。
このザクには緊急離脱装置がちゃんと組み込まれているし、ユリアンの整備も疑っていない。
だけど、弾き出されたあとに拾ってくれる仲間がいないのだから負ければ死ぬことに変わりはない。
確実に、数を減らす……ッ!
《う、うぉぉぉぉッ!!》
「突っ込んできた、か。単純だね」
通信が繋がってなくてもわかる。恐怖を誤魔化すため、拡張空間の中で無駄に大声で叫びながら殴りかかってこようとしてるって。
鉄骨に、コンクリート。あとは雑に金属片を鎖で巻き付けただけのお粗末な棍棒。当たったところでザクの装甲に少しかすり傷ができるぐらいの威力。
もちろんバカ正直に受け止めるようなことはしない。ザクが無事でも衝撃は伝わってくるし、それでオレが気絶でもしたらそこで終わっちゃうからね。
軽く、後ろに跳ぶ。
肩から背中の真ん中らへんまでの筋肉を動かすイメージで、炎と熱風を吐き出すことで姿勢を保つ。
完璧な姿勢制御。
ユリアン、いい仕事するね。
《アイツ、動きがいいぞ?!》
《なんで……どっかの企業の飼い犬なのか?》
《クソ、どこが楽な相手なんだよッ!!》
「……あは。急に動きが鈍るじゃん。困惑も強まってるし。いいよ、助かる助かる。弾薬はなるべく節約しないと、魔力切れって頭痛がしんどいから────さッ!」
《ひ、ひぃぃぃぃッ?!》
マシンガンはもったいない。
バズーカ砲はなおさら。
なので、高熱と重さで叩き斬ることにしよう。
強さを数字にすると、盗賊たちが乗り回してるポーン系のゴーレムは防御力が8ぐらいしかないらしい。
対するオレのザクは、攻撃力が14。そこに、これまでの成長したぶんの強化で19ぐらいになってるって言ってたかな?
コッチの数字は単純に与えたり受けたりするダメージの大きさに関わっているのだとか。
つまりは、まぁ。慌てて腕を上げて防御しようとしたところで、どうにもならないってコトなんだよね。
「運が、無かったね?」
《や、やめ──ー》
腕、胴体、余裕の一撃。
ヒートホークつえー。
それにしても、いくらなんでも脆すぎるような気がするけど……あー、なるほど。破損したゴーレムと中途半端にパイロットが
こりゃダメだ。機能停止したゴーレムなら資源として持ち帰ってもよかったけど、ナマモノ混ざりはどうにもならない。
奪える魔力も少ないし、今回の盗賊たちは本当に美味しくないな? 弾薬が魔力で生成されるといったって、それも拡張空間に変換されるぶんのスクラップを溜め込んでなきゃ意味がないっていうのに。
《う、撃てッ! 撃てぇぇッ!!》
《やってやる、やってやるぞッ!》
《し、死にたくねぇ……死んでたまるか……ッ!》
耳の後ろがザワザワする。
恐怖、かな。これは。
そして整備はしてないクセに、一丁前にクロスボウガンなんて持ってるのか。
だけど狙いが甘い。
「連射のきくニードルガンならともかく。単発のクロスボウガン程度じゃあ、ね……ッ!」
当たったところで痛くない、という心の余裕があるおかげで回避も簡単だ。きっとエネルギーライフルとか持ち出されたら、こんなふうに巧く避けられる自信はない。
あのときは……相手がマヌケじゃなければオレが死んでいた可能性もあったんじゃないかな。肩のシールド、完全に抉られたし。魔力欠乏で勝手に気絶してくれなきゃどうなっていたか。
あの感覚。危険な攻撃に狙われているって感覚が今回は無い。それも空間なんちゃら能力ってヤツの恩恵だ。それが反応しないってことは、つまりその程度ってコト。
避ける。
避ける。
避けて。
避けて。
前に。
さぁ、好きなだけ祈ればいいと思うよ。
運が良ければ、整備不良でも離脱装置が作動してくれるんじゃない?
「もしもし? ゴードン、終わったよ」
『おう、お疲れ! すぐに回収に戻るぜ! ところで、そこそこの数がいたけどスクラップのほうは』
「ダメ。せんぶ混ざり物になっちゃった」
『あちゃー。襲われ損かよ、つまんねぇな。 でもマイスターだって命以上に価値のあるお宝は無いって言ってたし、レオンが無事なら儲けたようなもんだな!』
「いやバズーカの砲弾と表面装甲の自己修復のぶん資材は減るから。楽勝でもメンテしないとダメだしユリアンだって疲れるでしょ」
『心配すんな、あんまりアレなら俺のぶんのコーヒー渡しておくから。んじゃ、なるはやで引き返すから待っとけよ!』
「いやもうトラック見えて」
プツン、と通信が切れる。
「……さて、この混ざり物。どうしようかな? 下手に放置しても蟲が集まってきちゃうのが面倒だけど……ま、いいか。助ける理由も無いし、オレたちの基地からも遠いし」
迎えに来たトラックに乗り込み、拡張空間から降りて毛布を敷いて横になる。
ザコ相手でも魔力は消費するから、疲れを感じていなくても小まめな休息は大事だ。
いざというとき戦えなくて後悔する、なんてのはゴメンだからね。
「遠慮しないで寝とけよ。基地についたら起こしてやるから。
「助かるけど少しキモいね」
「コイツは、ゼロから錬金術師が召喚した純正のゴーレムってヤツは、パイロットと一緒に成長するんだろう? だったらコイツも生きてるみたいなモンじゃん。なら、俺たちの仲間だよ。ヘッヘッヘ、泥水なんかじゃねぇぞ? ちゃんとお湯で拭いてやるぞ〜い」
「……まぁ、ユリアンが楽しんでるなら別に、好きにすればいいと思うよ」
砂と、岩と、荒れ果て朽ちた金属の森と、周囲から見下ろしてくる巨大な渓谷。
その先にある巨大な鉄の板。少しだけ丸みがあるそれは、山の上まで立て掛けられたようでもある。
その斜面に人々が生活をしている。
上層は金持ちが。
下層は貧乏人が。
どんなに金を持っていたところで、下から水を汲み上げなけりゃ……あんなもの、ただの紙屑でしかないクセに。
だけど。
本当なら、ああいう場所の近くのほうが生きるのは簡単なのだろう。オレたちみたいに廃工場を隠れ家にして、子どもだけで生きているよりは何倍も。
何人ぐらい死んだかな。病気で、ケガで、盗賊の襲撃、権力者の娯楽、そして────企業のマンハント。墓の数なんて適当だし、仲間とはいえ消えたヤツらのことを気にし過ぎちゃ自分が危ない。
「なんだよレオン、結局寝てない────またタワー見てたのか。今度はどうした?」
「マイスターは」
「うん」
「マイスターは、なんでタワーを選ばなかったんだろうね? 錬金術師なんて、それこそゴーレム召喚なんて……仮に、大したことできなくたって、錬金術師ならタワーの上層に住めるのに」
「さぁ……? でも、早寝早起きを他人から押し付けられるような生活なんてゴメンだって部分は俺にもわかるぞ。命の保証はないけど自由だけはある。実力があるからこそ、俺たちみたいなタワー下層にもいられないガキのこと気にしてくれてんだろ。知らんけど」
「力があるから、逆に……ね。いかにも“持ってるヤツ”の考え方って感じ」
「なら、突っ返すか? ザクも、ほかのゴーレムも。どっからか用意してくれる水や食い物、毛布や包帯なんかも全部、さ」
「まさか。羨ましいとは思うけど、感謝を忘れるほどじゃないよ。それに、オレひとりのせいで皆が困るのは面白くない。誰かに余計なことされて、いまの生活が崩れたらオレなら怒るかな」
「……ブルとマックスあたりのこと言ってんのか?」
「ほかに誰かいるの?」
なにか
自分たちがゴーレムのパイロットになれば、もっと沢山スクラップを集めたり……とにかく儲けてみせるといつも言ってる。
だけどマイスターが彼らにゴーレムを託すことはなかった。
純粋に能力が低いから。
ケンカの強さとパイロットとしての能力は別なんだとか。
それに加えて、単純に信用がないってこともあるかもね。
パイロットやるなら体力も必要だからって、マイスターに言われてオレやほかの仲間はトレーニングをしてる。
だけどブルとマックスは全然トレーニングに参加しようとしない。どうせ動くのはゴーレムなんだから、人間がバカ正直に身体を鍛えるなんてムダでしかないって。
本当にムダならマイスターだってトレーニングしろなんて言わないと思うけど。
そういうトコを想像できないからゴーレム使わせてもらえないんじゃないかって、オレは勝手に思ってる。
「レオンにぃ、おかえり!」
「クラー、ただいま。また旧時代の本を読んでたのかい?」
「うん! レオンにぃしってる? ラジアルからオーストグリッチまでの間には、タイヘイヨーっていうおっきな湖が昔はあったんだよ! そこにはゴーレムも丸ごと飲みこんじゃうぐらいおっきなおサカナがいたんだって!」
「へぇ……。クラーは物知りだね」
「いつかねぇ、クラーもゴーレムを動かせるようになったらねぇ、そのタイヘイヨーって湖が、セカイのどこかに残ってないか探しに行くの! クジラって言うんだって、そのおサカナ! みつけたらレオンにぃにも食べさせてあげるね!」
「うん、ありがとう。楽しみにしてるよ」
何回ぐらい聞かされたっけ、この話。
それだけ気に入ってるってことだろうし、いちいち指摘するつもりもないけど。
それに、わざわざ荷物を運び終わるまで待ってから話しかけてくるところを追い返すほど野暮じゃない。
「クラー! 野菜の皮剥きの用意、そろそろ始めるよ!」
「あ、ソニアねぇ!」
「ほら、本が汚れると大変だから、まずはお部屋に片付けておいで」
「うん! レオンにぃ、またね!」
「うん、またね。……ソニア、なにか用?」
「アンタ、ホントに察しが良くて助かるよ。実は、何人か……訓練用にってマイスターが召喚してくれた【ザニー】ってゴーレムあるだろ? そいつを勝手に動かそうとして、揉めたんだよ。アンタたちが帰ってくる1時間ぐらい前、かな。ちょっとね」
「ブルとマックス?」
「あと、オストロにテッドも」
「そりゃいいや。迷惑4人組が勢ぞろいでメデタイね」
「笑い事じゃないだろう? 訓練に参加してないヤツの流れ弾なんてドコ飛んでくかわかったもんじゃないんだから!」
「そりゃ、まぁ……。なぁ、ソニア」
「なにさ」
「マイスターがゴーレムを召喚してさ、オレたちにパイロットさせたこと」
「恨んでるのか? なんて言わないよねレオン。アタシはソレで手に入れたモノを使って生活してんだ、いまさら文句を言うのは卑怯だろう?」
「そっか。強いね、ソニアは」
「惚れたかい? なら花束のひとつでも用意するのが男の甲斐性ってヤツらしいよ」
「気が向いたら、ね」
「あぁ。期待しないで待ってるよ。……レオン」
「うん?」
「おかえり。今日もお疲れさま」
「……ただいま」
先のこと、なんて。正直どうなるのかわからないけど。
取り敢えず目の前にある幸運を手放さないよう頑張るしかない。
せめて、明日もいつも通りに目が覚めることを期待する。
その程度のことを願うぐらいの自由はあってもいいだろう。
そう思っていたのに────。
「レオンッ! 起きろッ! ザニーが勝手に動いてるッ! 4体、全部だッ!!」
「言われなくても起きてるよユリアン。あんな爆発音、うるさくて寝てらんないし。────アイツら、マイスターが出かけてるからってやりやがったな……ッ!!」
☆作者主観Gジェネ的モビルスーツ評価☆
【ザクⅡJ型】
安定した命中と与ダメのヒートホーク、痒いところに手が届くマシンガン、上振れを期待できる連装ロケット、敵に使われると鬱陶しいが滅多に事故らないので位置取りに使えるクラッカーと、かなりバランスの良い武装をしている。
地上Aにより命中・回避の補正はもちろん、地形効果を活かすために森などにも入り込みやすい。パイロットの育っていない序盤では下手な万能型よりも安心して戦える。火力の物足りなさも主戦力のモビルスーツのために経験値を譲るなら気にならない。
ゲームシステムの進化により自軍戦力にガンダム系を揃えるのが容易になったことでお助けユニットとしての価値は下がってしまったが、旧作から続くGジェネの心得のひとつである『ガンダム1機よりザク3機』の考え方はF型やJ型の活躍によるもの……かもしれない。